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女流詩人・新川和江

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フリー画像素材 Free Images 1.0 by:Chris g Collison 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


昔、実家では産経新聞を購読していました。
『朝の詩(うた)』という詩のコーナーがあって、その選者をしていたのが新川和江さんでした。

私が最初に詩というものに触れたのは、この『朝の詩(うた)』に掲載された詩だったと思うのです。
そういう意味で、新川和江さんは詩の恩師のような存在です。

新川和江さんの分りやすい言葉で書く、日常の感動、自我の世界に深く共感します。
たぶん、私が詩で目指したいのは新川和江さんのような世界だと思い始めました。


 『わたしを束ねないで』

わたしを束ねない
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂

わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
, や . いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩


 『ふゆのさくら』

おとことおんなが 
われなべとじぶたしきにむすばれて
つぎのひからはやぬかみそくさく
なっていくのはいやなのです
あなたがしゅろうのかねであるなら
わたくしはそのひびきでありたい
あなたがうたのひとふしであるなら
わたくしはそのついくでありたい
あなたがいっこのれもんであるなら
わたくしはかがみのなかのれもん
そのようにあなたとしずかにむかいあいたい
たましいのせかいでは
わたくしもあなたもえいえんのわらべで
そうしたおままごともゆるされてあるでしょう
しめったふとんのにおいのする
まぶたのようにおもたくひさしのたれさがる
ひとつやねのしたにすめないからといって
なにをかなしむひつようがありましょう
ごらんなさいだいりびなのように
わたしたちがならんですわったござのうえ
そこだけあかるくくれなずんで
たえまなくさくらのはなびらがちりかかる


   略歴

新川 和江(しんかわ かずえ、1929年4月22日 - )は、日本の詩人。
息子に作曲家・編曲家・キーボーディストの新川博がいる。

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ゆうき図書館『新川和江賞』より、写真をお借りしました。
http://lib-yuki.city.yuki.lg.jp/shinkawa/shinkawa_sakuhin.html


茨城県結城市出身。県立結城高等女学校(のちの茨城県立結城第二高等学校)卒業。
小学校のころより野口雨情などの童謡に親しみ、定型詩などを作る文学少女だった。
女学校在学中、近くに疎開してきた詩人の西條八十に詩の手ほどきを受けた。

卒業して17歳で新川淳と結婚後、上京し、詩の投稿を始める。
1953年、最初の詩集『睡り椅子』を刊行。
新鮮で自由な感覚で、母性愛や男女のさまざまな愛の姿をうたう。
巧みに使われる比喩表現が特徴。
1983年、吉原幸子と共に女性のための詩誌「現代詩ラ・メール」を創刊。
1993年の終刊まで女性詩人の活動を支援した。

産経新聞の『朝の詩(うた)』の選者としても知られている。
常連の投稿者の一人である柴田トヨを高く評価した。

                         ― ウィキペディアより抜粋 ―

    『生きる理由』

  数えつくせない
  この春ひらくつぼみの一りん一りんを
  若いうぐいすの胸毛のいっぽんいっぽんを
     だからわたしは 今日も生きている
     そうして明日も

  歌いつくせない 
  喜びの歌 悲しみの歌 そのひとふしひとふしを
  世界じゅうの子供たち ひとりひとりのための子守歌を
     だからわたしは 今日も生きている
     そうして明日も

  歩きつくせない
  人類未踏の秘境どころか いま住んでいる
  この小さな町のいくつかの路地裏さえも
     だからわたしは 今日も生きている
     そうして明日も
 
  汲みつくせない
  底のない桶をあてがわれているわけでもないのに
  他人の涙 私の涙 この世にあふれる水のすべてを
     だからわたしは 今日も生きている
     そうして明日も

  愛しつくせない
  昨日も愛した 一昨日も愛した けれどもまだ
  口いっぱいにはしてあげられない あのひとを
     だからわたしは 今日も生きている
     そうして明日も



  名づけられた葉  作詞 新川和江 作曲 加賀清孝





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by utakatarennka | 2013-12-03 08:10 | 創作自習室