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― Metamorphose ―

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饒舌なる死者 ⑩

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フリー画像素材 Free Images 1.0 by:bogenfreund 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/



「今すぐ、おまえを殺してもいいんだよ。だけど、簡単に殺すのは惜しいほど憎んでいるから、震えながら話を聴いて貰おうか」
 凄身のある声でゆっくりと珠美が喋る。銃口を向けられた俺は硬直して動けない。
「由利亜が電車に飛び込む、数分前、あたしに電話があったんだよ。それは死を臨んだ由利亜のダイイング・メッセージだった。最後に由利亜とあたしは大事な約束したんだ。――その約束がなかったら、おまえを殺して、あたしは由利亜の後を追っていただろう」
 約束って? 由利亜は珠美にいったい何を託したんだ。
「あたしは由利亜との約束を守るためにお金と自由が必要だった。そのために、まず、自分の父親を殺したのさ。吞んだくれのろくでもない奴だった。女房に家出されて、娘が成長したら性的関係を強要するような変態オヤジだった。泥酔状態で風呂に浸かっているところを湯船に沈めて溺死させてやった。日頃から、酒浸りだったので事故死ということで簡単に片付けられた。父親の保険金を持って、東京にいるおまえを追い掛けた」
 父親を殺したという珠美の告白に、俺は震えあがった。

「東京に行ってからは、おまえの大学やマンションの近くの喫茶店やコンビニで働きながら見張っていたんだよ。大学三年の時に同棲していただろう? あたしが居るコンビニへ女とよく買い物に来てたし、調べたら、おまえと結婚するとか女が言い触らしていたよ。――ウザイので片付けてやったよ」
 最後のひと言で、同棲していた彼女の死が事故死ではなく、珠美に殺されたのだと理解した。
 ずっと俺は珠美に見張られていたことに驚いたが、しかし、こんな美人のコンビニ店員が居たら、この俺が気づかない訳がない。たぶん、今の顔や容姿は美容整形などによって創り変えられたものだろう。
「おまえのババア相手の怪しいバイトも知ってるさ。中年の人妻とセックスして銭を稼いでいただろう。まあ、おまえの特技といえばそれだけだから……。由利亜とあたしは中学からレズだったんだ。彼女の家に泊りにいくといつも抱き合って一緒に寝ていた。――だから、あたしは男に抱かれても感じない。今でも、オナニーでないとオーガズムに達することができない。由利亜じゃないとダメなんだ!」
 珠美と由利亜はレズビアンだったとは!?
 そう言えば、処女だった由利亜の肉体が予想以上に早く開発されたのは、そういう下地があったからなのか……。元々、由利亜はセックスに依存するタイプだったのかも知れないと、俺は今わかった。
 珠美は不感症!? じゃあ、あの嬌態は演技だったというのか。

「企業に勤めたおまえがサンフランシスコに転勤になった時、あたしも付いて行ったよ。向うでは、テンダーロイン周辺の通りで夜の街に立っていたんだ。その内、ギャングの女になってさ、いろいろヤバイことにも手を染めたけれど……おまえを見張ることだけは止めなかった」
 そう言ってニンマリと笑った。
 俺はずっと珠美にロックオンされた状態だったのか!? 気づなかったとはいえ、考えてみれば……背筋が寒くなるほど怖ろしいことだった。
 しかも、ギャングの情婦だったとは……。
「サンフランシスコで、日系人の弁護士と知り合っただろう? 名前はナオミ・ミヤシタ、親は大金持ちだ。彼女は今日、日本に来る予定だったね。おまえの代わりにあたしが空港まで迎えに行ってやったよ」
 ちょっと待て! ナオミは来日が遅れるとメールで言ってきた筈だ!?
 俺は血の気が引くような……不安に襲われた。
「前にホテルで、おまえの携帯のメールアドレスを書き変えて、ナオミのメールが届かないようにして置いた。同時に、ナオミには携帯が故障したので新しいアドレスにメールを送るように指示したのさ。『急な仕事で来日予定が少し遅れます。忙しいので連絡しないでください』というナオミのメールはあたしが送ったんだ。そしておまえに成りすまして、ナオミとメールのやり取りをしていた」
 シャワー浴びている間に、俺の携帯にそんな細工をしていたとは……なんて狡猾な女だ。
「まさか、まさかナオミを……」
 うろたえる俺を見て、薄笑いを浮かべた珠美は、
「そろそろニュースになっている頃かも知れない」
 リモコンでテレビをつけた。

『八時のニュースをお伝えします。千葉県佐倉市にある印旛沼の遊歩道に停まっていた乗用車の中で若い女性が死んでいると歩行者からの通報がありました。女性は頭部を拳銃で撃たれて、すでに死亡しており、車は盗難車でした。警察では被害者の身元と目撃者を探しています』

 このニュースが流れた瞬間、俺の膝がガクガクと震えた。頭を撃ち抜かれたナオミのイメージが頭の中に広がっていく――。




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「石膏の天使の翼」からお借りしました。http://www.antiquestruffle.com/a&c/na1210.htm


   創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-12-17 07:34 | ミステリー小説

by 泡沫恋歌