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石田君と僕らの日常 ①

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モノクロ・セピア色の壁紙サイズ画像・写真集♪ 様よりお借りしました。http://matome.naver.jp/odai/2127553413698372401


   default.1 【 偏頭痛の石田君 】

 石田君は今日も機嫌が悪い。
 苦虫を噛み潰したように眉間に縦皺ができている。大声で話し掛けようものなら、険しい顔で睨みつけられる。
 石田君は偏頭痛持ちである。
 一週間の半分は頭痛に悩まされている。時に雨が降りそうな天気では気圧が下がるので、特に酷いという。あまりの激痛に嘔吐することもあるらしい。
「もう、俺に効く鎮痛剤はこれしかないんだ」
 薬剤師のいる薬局でしか買えない、ロキソニンという鎮痛剤を常備している。
「俺の人生は偏頭痛というカルマに浸食されている」
 他人事とはいえ、偏頭痛持ちはさぞ辛いだろうとお察しします。

 僕と石田君は高校時代からの友人である。
 彼は常に学年トップの成績だった。高三のある日、「おまえはどこを受験するんだ?」と石田君が訊くので、そこそこ有名な私立大学の名をあげたら。「じゃあ、俺もそこにするか」こともなげにいう。「よく考えろ! 石田の成績なら東大だっていけるだろう?」そういうと、「いいや、俺には偏頭痛があるから無理ができない」と世間を諦めたような物言いをした。
 僕は予備校に通い必死で勉強して、やっと志望大学に入れたが、石田君は毎日、音楽室でトランペットの練習ばかりしていた。それでも優秀な成績で合格したようだ。
 彼の偏頭痛の原因は優秀すぎる頭脳のせいかも知れない。小学校の五年生くらいから発症して、いろいろ検査を受けたが原因が分からず、ストレスだろうと言われたが、「俺はストレスになることはやらない主義だ」と本人がキッパリ否定した。
 石田君は非常に変わった奴だ。

「なあー、石田。明後日の天気はどうだろう?」
「俺の偏頭痛が明後日は雨だといってる」
 念のため、スマホで天気予報を見たら『晴れマーク』になっていたが、二日後の天気は大雨になった。石田君の偏頭痛の方がニュースの天気予報より確実だ。
 大学の学生食堂で、最近付き合い始めた彼女と僕が食事をしていたら、石田君がトレイにカレーうどんを乗せて、側を通り過ぎていった。僕らの方をチラッと見て知らんぷりしていってしまった。
 カレーうどんを食べ終えて、好物のワンカップ甘酒を満足そうに飲んでいた石田君の姿を見つけて、
「さっき、僕の彼女を見たかい? どう可愛いだろう?」
 恥かし気もなく自慢してみせた。
「ああ、あの女の子は……」
 と、言いかけて石田君は口をつぐんだ。別に興味がないという風に肩をすぼめてみせた。
「イケスカナイ態度だなぁー。さては僕に彼女ができて悔しいんだろ?」
「俺は偏頭痛持ちだからリア充はない!」
 すげなく答えた。そして甘酒を一気にあおった。
 石田君にとって、偏頭痛は背負わされた十字架をのようなものなんだ。お気の毒というしかない。アーメン!
 ――と調子こいてた、この僕が三日後には石田君の元で悔し涙を流していた。
「騙された、騙された―――!」
「落ち着け! 何があった?」
「付き合っていた彼女が二股かけてやがった! おまけにiTunesカード三万円分も騙し盗られた」
「……だから、あの時、俺の偏頭痛が良くないと反応したのか」
「なにそれ?」
「おまえの彼女の顔を見た途端に、俺の偏頭痛がズキッと痛んだ。こいつは悪い女だと直感したが、おまえが有頂天だったので何も言えなかった」
「だから、イケスカナイ態度だったのか。今度からは騙される前に教えてくれよ」
「そうしよう」
「何でもお見通し! 石田の偏頭痛は千里眼だ!」
「頭なのに千里眼って? あははっ」
「スッカリお見通り! あははっ」
 僕と石田君は乾いた声で笑い合った。

「それにしても石田の偏頭痛は予言もできる。驚異の能力だよ」
「俺は偏頭痛という死線を彷徨うほどの激痛と闘うことで、精神力が鍛えられて、五感が研ぎ澄まされてしまったのだ」
「すごい! 石田、君は偏頭痛で悟りを開いた男だ」
「偏頭痛は病気というより、俺に憑依した妖怪のようなものだ。だから飼い慣らしてやろうと思った。そして奴にトラップを仕掛けた」
「トラップって?」
「俺は頭が痛くなると、いつも『腹が痛い』と強く念じるようにした。すると、存在を否定されたせいで偏頭痛は消えたが、本当に腹が痛くなった。結局、痛みというのは思い込みでもあるようだ」
「そうか、偏頭痛は自分が腹痛だと錯覚を起こした」
 フフンと笑い、石田君は口元を緩ませ、さらに饒舌になる。
「しかし痛みというのは抑えつけてばかりではいけない、たまには解放してやるさ。そんな時は、ズキズキ痛む頭を抱えて、部屋の隅っこで三角座りして、ひたすら痛みに耐えているのだ。これは俺にとって修業である!」
「ツラそう……」
「あまりの激痛に胃液が逆流して、トイレの便器に跪いて嘔吐する俺は……まるで偏頭痛という女王様にかしずく下僕のようなものだ」
「悲惨すぎる!」
「いや、そうでもない。痛みは快感と似ている」
「はぁ~?」
 石田君は意味深な顔で、僕を見て頬笑んだ。それは悟りを開いた仙人みたいな穏やかな目だった。

 ――僕の友人である石田君は偏頭痛持ちで、実はドMだった!




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2015-07-12 23:54 | 現代小説

by 泡沫恋歌