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夢想家のショートストーリー集 第28話

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   第28話 あなたの【 未来 】占います

『あなたの【 未来 】占います』

 人通りの少ない路地の奥で、こんな看板をかけた占い師がいた。
 私に未来なんかあるのだろうか? 十年近く付き合っていた男に振られた。
 理由は来月結婚するから……気づかなかったけど、二股かけられていたみたいで相手の女性の方が若いから、そっちと婚約したのだ。――ああ、私の存在って何だったの?
 私、今年で三十二だよ。新しい彼氏を見つけるのも難しいかも……。
 不運はそれだけじゃない、実は仕事もクビになった。
 大学院から研究室でずっと助手をしてきたが、私がまとめた研究論文を教授に学会で発表された。何年もかかって、私が実験してきたデーターや論文を許可なく、教授が自分の手柄にした。
そのことで抗議したら、研究室から追い出されてしまった。
 今、研究中の『若返り細胞』の実験を続けることができなくなった。――研究者としての道は断たれた。 
 しかも、止めはこの原因不明の眩暈だ。……時々意識が朦朧となる。
 こんな絶望的状況の私に未来なんかあるの? 
 このまま野垂れ死にしそうなのに……そう思いつつも、足が自然と占い師の方に向っていた。

「いらっしゃい」
 黒子の頭巾を被った占い師、顔は見えないが若い女性の声だった。
「あなた悩み事がありますね?」
 悩みがあるから占って貰おうとしてるんでしょうが……。
「はい」
「最近失恋しましたね。でも大丈夫! その男は最低だから、もっと素敵な男性が未来に現れますよ」
 なんか調子のいいこと言って、ホントかしら?
「仕事クビになったでしょう? それと眩暈もありますね」
「なぜ知ってるんですか?」
「私の目は千里眼です。あなたの未来が見えます」
 不気味なくらい当たっている。
「一週間前に、実験中にマウスに指を噛まれたでしょう?」
 若返り細胞を体内に移植したマウスに指を噛まれた。もしかして眩暈の原因はそれなの!?
「じゃあ、未来へ行ってらっしゃい」
 突然、目の前が真っ暗になって意識を失った。

 ――いったいどのくらい眠っていたのだろうか?

 真っ白な部屋のカプセルみたいなベッドで目を覚ました。
 身体を起こしてキョロキョロしていたら、ロボットがやおら近づいてきて、私の体温や血圧を測定し始めた。
『異常なし』
「ここはどこですか?」
 ロボットに質問してみた。
『国家機密医療センター』
 無機質な機械音声が答える。
「なに国家機密って?」
「やあ! 未来へようこそ」
 白衣を着た医師のような男が部屋に入ってきた。二十代後半のイケメンだ。
「み、未来? 今は西暦何年ですか?」
「2116年だよ。君は百年間眠っていたんだ」
「百年? だったら私お婆さんになってる?」
 自分の手を見たが皺どころか、張りがあって瑞々しいではないか。
「これで確認してみたら」
 いたずらっぽく笑って、医師は手鏡を渡してくれた。
 恐る恐る受け取って、鏡に映った自分の顔を見て驚いた。――どう見ても十代の娘だった。
「これって……?」
「君の若返り細胞の実験は大成功だった! マウスに噛まれた時に、体内に細胞が入って培養されていた。そのせいで君は若返ったんだよ」
 若返り細胞は理論上の実験だったのに、まさか自分自身で実証するなんて……。
「君の体内の若返り細胞をマザーにして、未来人は不老長寿を手に入れたよ」
「本当に?」
「……どういう訳か、君の体内でしか若返り細胞が育たないんだ。他に移植して、その細胞を更に移植しても効果がない。直接、君の細胞を移植しないと若返らないのさ」
「……そうなんですか?」
「世界中の金持ちが血眼になって君を探しているんだ。だから君を国家機密医療センターで保護している」
「ここから出れないの?」
「君の若返り細胞は国家の財産だ。それを他国の要人やアラブの石油王に売って莫大な利益を得ている」

 私の若返り細胞で国家が商売していたなんて――。

「あのう、いったい誰が私をここに連れてきたんですか?」
「君自身だよ」
「えぇ―――!?」
「22世紀にタイムマシンが完成した。そして僕は未来の君と結婚したのだ」
「ウッソ―――!?」
 何これ? パラレルワールドですか?
「ハーイ! お目覚めですか」
 そこへ黒子の頭巾を被った女占い師が現れた。
「あの時の占い師さん?」
「そうよ。私は未来のあなた」
 頭巾を取ったら、その顔は私自身だった。
「私が二人いても仕方ないでしょう? 過去に帰してよ」
「ダメ! ドクターと結婚したんだもの、ここから出て自由に暮らしたいの。身代りに若返り細胞のマザーやっててよ」
「そのために連れてきたの?」
「そうです!」
 未来の私の身代り? これってドラえもんで、のび太が楽をするために過去の自分を連れてきて働かせる話みたいじゃないの。
「じゃあ、よろしく」
「えっ? えっ? ちょっと待ってよ!」
「バイバーイ♪」
 未来の私とイケメン医師は腕を組んで部屋から出て行った。
 
「私の未来は最悪だ―――!!」

 その叫び声にロボットが、『異常なし』と答えた。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2016-09-06 19:51 | 夢想家のショートストーリー集

by 泡沫恋歌