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カテゴリ:SF小説( 24 )

くうそう脳 ⑥

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未来は今、
あなたの頭の中を駆け巡る

    第三話 国際宇宙人会議 ②

 いよいよ、アメリカ中の公園に【 宇宙人の銅像 】を設置する運びとなった。
 ロズウェルの同胞たちの中で、主に技術面を担当しているジャパンのDr.ヤマダはロズウェルの宇宙人テクノロジーを駆使して〔物質変換機〕というものを開発した。
 これを簡単に説明すれば、ある物質Aを使って、他の物質Bに変換する装置なのだ。まあ、ドラえもんの道具にありそうだが……これぞ、まさに宇宙人のテクノロジーなのだ。(ここは突っ込まない!)
 その装置を使って公園の中にある噴水を【 宇宙人の銅像 】に変換する。
 よって、噴水 ⇒ 銅像 に変わるのです。
 ステルスUFOに乗って、アメリカの上空を飛行しながら、公園の噴水を見つけると、かたっぱしから〔物質変換機〕のビームを発射するのだ。

『これも我々宇宙人のため、誇りある任務だ!』

 Dr.ヤマダは黙々と任務を遂行していった。
 ボブも同乗する予定だったが、体重が重過ぎてUFOが傾くからと、代わりにコリアのキムが同乗することになった。
 自分の意見が通ったので(ゴリ押し)キムは得意満面でUFOに乗りこんできた。トンスル酒とキムチでひとりで盛り上がって、銅像ができる度に「マンセー! マンセー!!」と歓声を上げてはしゃいでいた。
 自分はなにもしないでいい気なもんだ、しかもUFOの中がキムチ臭くてかなわん……と内心、Dr.ヤマダはそう思っていたが、怒らせてファビョられると厄介なので黙っていた。
 今回設置される宇宙人像のデザインについては、ロズウェルの同胞たちから、ジャパンのDr.ヤマダに一任されていた――。

 いつものように特大ピザを食べながら、ボブがテレビでベースボールを観ていたら、ナンシーが部屋に駆け込んできた。
「ボブ! 全米中が大騒ぎになってるわよ!!」
 テレビのチャンネルを勝手に変えられた。そしてテレビの画面に大きく映し出されたものは……!?
 ウルトラマンの銅像だった!!
 全米の公園のあっちこっちにウルトラマンの銅像が建っている。子どもたちは大喜び、地球人の家族たちが銅像のそばで記念写真を撮っている。

〔犯人は不明ですが、一夜にして全米中の公園に日本のヒーローの銅像が建ちました。これは子供たちにとって嬉しいプレゼントです〕
 マイクを片手に楽しそうに、実況するアナウンサーの姿がそこにあった。

「ナンシー……よ、俺たちは祖先の宇宙人の顔を知らないが、本当に、こいつでいいのか?」
「みんな喜んでるみたいだし、フレンドリーな宇宙人ってことで高感度UPよ!」
 自分たちが建てた銅像が全米中の注目を浴びる、そのことがナンシーにとっては嬉しいようなのだ。

《――これが、果たして宇宙人による、“銅像テロ”だったということに地球人が気づいてくれたか、どうか、かなり疑問なんだが……》

 ウルトラマンの銅像で〔完全否定〕された宇宙人の存在を再確認して貰えただろうか? Dr.ヤマダに一任したことを、ちょっぴり後悔していたボブだったが……。

 さて、気を取り直して、ピザでも食べようとしたら……いつの間にか、ナンシーに食べられて、ひと切れも残っていなかった。
「Oh my God!!」
 憤怒にボブの腕がプルップルッと激しく震えた――。


   ※ キムが銅像の下に〔 ウルトラマンの起源は我々宇宙人〕
     意味不明の張り紙を貼っていったことを追記して置こう。


― おしまい ―



by utakatarennka | 2017-02-08 11:53 | SF小説

くうそう脳 ⑤

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未来は今、
あなたの頭の中を駆け巡る

    第三話 国際宇宙人会議 ①

 【 宇宙人は存在するか、否か? 】
 
 この疑問は昔からテレビや雑誌で数多く取り上げられてきましたが、未だかつて、その結論が出ていません。
 どうでもいいようで、実はとっても気になる疑問なのです。(作者・談)

                            *

 アメリカ、ニューメキシコ州に住む平凡な農夫、ボブ・オズワルドにはとんでもない秘密があった――。
 ボブはカルフォルニアキングサイズと呼ばれる、直径45センチの特大ピザを食べながら、ベースボールをテレビ観戦するのが楽しみだった。
 身長190㎝、体重180kの巨漢ボブは、働くよりも食べることが大好きな、ぐうたら中年オヤジだ。
「ボブ! ちょっと聴いて大事な話なの!!」
 女房のナンシーが大声で喚きながら部屋に入ってきた。
 ピザとテレビにしか興味のないボブは女房の方を見ようともしない。
「今日、NASAは大変な発表をしたのよ。偉い科学者が『結論から言おう、我々人類が、宇宙人、すなわち地球外知的生命体と接触した事実は無い!』って言ったらしいの。それでね、結論として宇宙人は存在していないと認定されちゃったみたい」
 一気に捲し立てる女房の話に、無心にピザを食べるボブの手が止まった。
「……じゃあ、俺たちの存在は何なんだ?」
「ホント! バカにしてるわよ。地球人が私たち宇宙人を無視するなんて!!」

 何を隠そう!(すでにカミングアウトしてますが……)
 一見、アメリカの小市民に見えるボブ&ナンシーの夫婦は60年前に地球に不時着したUFO(確認飛行物体)乗組員の子孫だった。――いわゆる在米宇宙人3世なのである。
 彼らの祖父たちは遥か遠い宇宙からやってきた地球外知的生命体だった。
 アメリカの砂漠地帯に不時着した時にUFOは破損して、そのまま砂漠の砂中に機体を隠していたのだ。グレーと呼ばれるサイボーグを乗せた偵察用UFOが、派手に爆発して墜落したので地球人に見つかってしまったが、お陰で母船のUFOは発見されずに済んだ。
 宇宙人の祖父たちは地球に着いたらスパイ活動するために、地球人と全く同じ容姿に身体を改造していたので、ボブは自分たちの本来の姿さえを知らないのだ――。
 当然、地球人と同じ身体なのでボブは肥満とコレステロールと高血圧に悩んでいたが食べることは止められなかった。
 宇宙人だといっても特別な能力がある訳でもない。
 不時着した時に機内の機械類は壊れて母国の星とも連絡が取れなくなってしまい、資料も失われてしまったので、どんな目的で地球に飛来したのかさえ、在米宇宙人3世のボブには分からないのだ。
 彼らは母星にも還れない、宇宙の孤児でしかなかった――。

 ごく普通に見えるアメリカ人の中年夫婦ボブ&ナンシーだが、辛うじて宇宙人としてのプライドだけは持っている。自分たちの存在をNASAが公式で〔完全否定〕した件には、さすがにカチンと頭にきた。
「ナンシー、この件をジャパンのヤマダやコリアのキムは知ってるのか?」
 宇宙人の仲間は全世界に散らばっており、約15名のロズウェルの同胞がいる。
「さっき、同胞たちから次々と通信があって、みんな困惑しているみたいよ。俺たちの存在を〔完全否定〕されたと怒ってるわ」
「分かった! 明日の夜、ここで会議をするので世界中にいるロズウェルの同胞たちに集合の通信を送っておいてくれ!!」
 そう言い放って、ボブはピザの最後のひと切れを食べようと手を伸ばした、その瞬間、女房のナンシーにピザを横取りされてしまった!
 悔しさに、ボブの巨体がブルッと震えた。

 翌日、世界中から宇宙人たちが自家用UFOでやってきた。
 彼ら全員地球生まれで、すっかり地球人として同化して生きている宇宙人たちなのだ。だが、今回の宇宙人をないがしろにしたNASAの〔完全否定〕発表にはたいへん不満だった。何とかして自分たちの存在を全地球に知らしめたいと思っていた。
 そして、砂漠に埋まった母船UFOの中で〔国際宇宙人会議〕が開催された。
「ロズウェルの同胞の諸君! 我々、地球在住の宇宙人としては今回のNASAの宇宙人〔完全否定〕発言は遺憾であります」
 アメリカ支部のボブが会議の議長を務める。
「ハイ、議長!」
「ドイツ代表アドルフ君どうぞ」
「NASAの調査によると、『無限に広がる宇宙で、生命が生まれ、同じ時系列上で、他の知的生命体とコンタクトを取れる程に進化する確率は0.000002%程である』それであの宇宙人〔完全否定〕という結論に至ったのであります」
「それは単に確率の問題だけじゃないか!」
 ロシアのイワンが不満そうに口を尖らせた。
「ところが我々はこうして昔から地球に住んでいるのだ。そのことに気づいていないのは愚かな地球人の奴らの方さ」
 イギリス人のブライアンはフフンと冷笑した。
「我々はNASAに謝罪と賠償を請求するニダ!」
 コリアのキムが気炎を吐いた。
「そもそも地球人たちに、存在を隠し続けた我々にも非があるんじゃないかなあ……」
 ジャパンのヤマダはいつも自責の念が強い。
「もう隠すのは止めて、我々は存在をアピールすべきでアル!」
 チャイナのリーが宇宙人の存在を、地球人にアピール宣言しようと言ったら、その意見にロシアとフランスとインドも同意した。
「先日、ロシアに落ちた隕石を撃ち落としたのは我々だ。地球のために我らは日夜働いているのだ。それなのに〔完全否定〕とは許せん! 宇宙人の存在を全世界に発信しよう!!」
「ちょっと待ってよ! 俺たちは地球人として暮らしているんだぜぇ。今さら素性がバレたらマズイよ。女房に俺が宇宙人だなんてしれたら……気持ち悪いって離婚されちゃうよ」
 イタリア人のフランコにとって、素性を明かすことは死活問題なのだ。
「会社もクビになるかも知れない。今の土地に住んでいらないぞ!」
 カナダとトルコとアルゼンチンがざわつき出した。
「損になることはお断りよ」
 スイス人の女性クララが計算機をたたきながら渋面でいう、彼女はお金にはシビアなのだ。
「う~ん。確かに『私たちは宇宙人です』とは世界中に発信できないわ。だって宇宙人だってことで弾圧されるかも……」
 ナンシーが不安そうに呟いた。
「……だよね、俺たちには今の生活や家族がいるんだから」
 カナダのジョンは大きな農園を経営している。
 しっかりと地球に根をはった彼らの暮らしぶりに、今さら宇宙人だとカミングアウトしても、マイナスの要素しかないのだ。

『宇宙人はいるんだけど、いないように見せかけて、やっぱりいた。表の裏はリバーシブルだったという事実』

 ――自分の思考にひとり悦に入っているボブだった。
 それにしても……昨夜、女房に食べられたピザの最後のひと切れは痛恨の思いだったと、ボブの肩がブルッと震えた。

「それじゃあ、地球にも宇宙人がいるんだという、何か証拠を見せるとか……」
 ヤマダが思案顔で語ると、いきなり横から。
「アメリカ中の公園に、我々の偉大な先祖の銅像を建てるニダ!」
 銅像好きのキムが叫んだ。
「えっ? 銅像!?」
「そうニダ! 我々の存在を銅像でメモリアルにするニダ!!」
「ええ――――!?」
「するニダ! するニダ!!」
 最後はキムのゴリ押しで銅像案が決定されてしまった――のだ。



by utakatarennka | 2017-02-07 11:38 | SF小説

くうそう脳 ④

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未来は今、
あなたの頭の中を駆け巡る

    第二話 星の船

 ――20XX年
 真っ暗な宇宙空間に浮かぶ銀色の宇宙船『アドベンチャーシップ号』火星移住者用の連絡船である。年に2回、地球と火星の往復をしている。
 この船の乗員たちは、もう二度と地球には帰らないことを覚悟して乗船してきた者たちである。火星移住計画は各国が協力し合って、約20年前から始まっていた。すでに火星には、立派な住居用コロニ―があり、その中では自給自足しながら、約10万人近い地球人がそこで暮らしている。
 レイラは黒い髪と瞳を持つアジアン系の娘である。今年20歳になったばかりの彼女は、たったひとりで火星移住船に乗っていた。
 火星移住船『アドベンチャーシップ号』に乗船するためには、必ず誓約書を書かされる。それには「二度と地球には戻れない」という条件付きだった。当然、レイラの両親と友人たちは泣いて、怒って、必死でレイラの火星移住を反対したが、彼女は頑として受けつけなかった。
 レイラには誰にも言えない。――秘密があったのだ。

 JAPAN・エリア38に住むレイラは、ごく普通の女子大生だった。
 勉強よりも親より大事なモノがある。それは年頃の女の子なら誰でも一番大事な存在であろう。そう、それは『恋人』の存在だった。
 同じ大学に通うケンタとは学部の研究チームで知り合った。彼も同じアジアン系でJAPONの血が濃い。ふたりは知りあって間もなく深く愛し合い、この人とは人生を共に歩む『運命の人』だと、そうお互いに思い合っていた。
 ――ふたりには夢があった。
 結婚したら、ふたりで火星移住すること。火星のコロニーで『遺伝子工学』の研究をしたいとケンタは希望していた。大学の研究チームでは、極秘に人類の遺伝子DNA操作の研究をしている。それは遺伝子DNAを細胞から取り出し人工的な操作を加え、それを利用して、遺伝子産物〔タンパク質〕を細胞につくらせる技術である。
 遺伝子組み換えなど、優秀な遺伝子DNAを選び出し、遺伝子操作を行い、体力・知力・免疫力・容姿など優れた人類を生みだすための研究なのだ。
 宇宙のいかなる環境に順応できる『新しい人類』を創ることがケンタの夢だった――。

 20XX年、地球は不穏な時代だった。
 世界の流れが大きく二つに分かれていた。ユーロを貨幣に統一されたヨーロッパ諸国とアメリカ、オーストラリア、日本とアジアの諸国が一つになり『地球統一国家』を創ろうという動きがあった。――しかしアジアの大国C国と北の強国R国だけが、イデオロギーの違いから反目して独自の路線を進んでいた。
 特にJAPONと隣接するC国は領土問題で小競り合いがあり、最近ではテロも多発していた。特に、C国のテロは同じアジア人種なのでカモフラージュも上手く、あらゆる公共施設内で度々テロを仕掛けてきていた。
 しかも意図的に若年層をターゲットにしているようで、学校や遊園地など子どもや若者が多く集まる場所に、時限爆弾を仕掛けるという卑劣ぶりである。
 その日も午前中の講義が終わり、いつものように、レイラとケンタは大学の食堂で仲良くランチを食べていた。他愛ない冗談で笑い合って、短い休憩時間を恋人と一緒に楽しんでいた。それはふたりにとってありふれた日常だったのに……。
 悲劇は突然起こった!
 いきなり閃光を放って、耳をつんざくような爆音が建物の中に轟いていった、ふたりはもの凄い爆風に飛ばされた。その瞬間、ケンタがレイラを庇うように強く抱きしめてくれたのだが……。

 気がついた時、レイラの身体の上にずっしりとした重みが覆い被っていた。
 それは血まみれの肉布団と化したケンタだった。大学の食堂内は瓦礫と死体に埋もれていた、やがて、火の手が上がった。建物のあっちこっちで赤い炎と白い煙が充満して、まさに地獄絵図のそのものだった。
 レイラに被さったケンタの上には、飛んできたコンクリートの壁が乗っていて、その重みで動けなかった、早く逃げないと煙に巻かれて焼け死んでしまう。

「ケンタ! ケンタ! ケンタ!」
 レイラは泣き叫んで呼んだが、ケンタには意識がなさそうである。
 大声で叫ぶレイラの声にレスキュー隊員が駆けつけて救助してくれたが、火の回りが早くて瀕死のケンタまで助けられなかった。
 レスキュー隊員によってレイラが外に運び出された。まさに数分後、大騒音と共に大学食堂の屋根が崩れ落ちた。その瞬間、取り残された人々全員の死亡が確定された。――ケンタもその内のひとりだった。
 最後に崩れ落ちていく……建物の中から、ケンタの声が聴こえたような気がした。
 運ばれた病院のベッドでレイラは泣いた。
 自分ひとり助かっても、ケンタがいないのなら、死んでしまった方がマシだったと……レイラは泣きじゃくった。
 病院のベッドで数日間、泣いたり、呆けたり、ケンタの後を追うことばかり考えていたレイラだったが、ケガが回復してくると次第に落ち着きを取り戻してきた。

 ――入院中、レイラは何度々もケンタの夢を見た。
 夢の中で、ケンタはなにか言いたげに、いつも自分の研究室のロッカーの前に立っている。『新しい人類』を創るのがケンタの夢だった、そのために日夜研究し続けていた彼は、志半ばで卑劣なテロに命を奪われたのだ。
 ケンタのその無念を思うと、このまま自分まで死んでしまってはいけないのだとレイラは考え始めていた。
 夢の中でケンタが自分にメッセージを送っているのだと思った。研究室のロッカーの中に、なにか秘密が隠されているのかもしれない。
「ケンタ、そこになにかあるのね?」
 あれだけの大惨事にも関わらず、レイラの傷は大したこともなく、二週間ほどで退院することになった。
 きっとケンタが守ってくれたお陰だわ、爆風で飛ばされた時、とっさにケンタが自分を抱きしめて、飛んでくる瓦礫からこの身を守ってくれたのだ。
 こうして生きていられるのはケンタの犠牲があったからこそ、だから自分の命を粗末にするようなことは決してしない。ケンタへの感謝の気持ちを、レイラは死ぬまで忘れないと心の中で誓った。
 退院した日、レイラはその足で大学の研究室へ向かった。
 どうしても気になる、ケンタのロッカーを開けてみたかったのだ。そこにいったいなにがあるのだろうか? 
 カードキーとパスワードは、ケンタから以前に預けられていたので分かっている。レイラは恐る恐る、カードキーを挿入して、パスワードを打ち込んだ。

 ロッカーの中には小型の冷凍保存瓶が入っていた。
 ――冷凍保存瓶には『実験サンプル・ケンタ』とラベルが貼ってある。
 その中には試験管に入った精子が冷凍保存されていた。これはケンタが実験していた遺伝子操作された、ケンタの精子に違いなかった。
 彼は非常に優れた研究者で独自の研究を展開させて、その最終段階として自分の精子に遺伝子操作を行い、後は、それをレイラの子宮で卵子に受精させて実験の成果を確認する段階まで出来上がっていたのだ。
「――この試験管の中には、ケンタの遺伝子と彼の実験成果が入っているんだわ」
 躊躇することなく、レイラは大学の研究室から冷凍保存瓶を盗んだ。
 覚悟を決めて! レイラのやることは決まっていた。その足で『火星移住センター』に行き、火星移民の手続きにおこなった。
たった、ひとりで移民を決意してやってきた若い娘に、移民センターの職員は驚き、思い止まるように諭されたが、火星にフィアンセが住んでいますからと、嘘をついて火星移民の手続きを完了させた。
 後は、火星移住船『アドベンチャーシップ号』の出港日を待つだけだった。
 ひとりで火星の旅立つレイラに両親と友人たちは、最後の最後まで引き留めようと説得し続けたが、レイラの決意はダイヤモンドよりも硬かった。

 ついに『アドベンチャーシップ号』の出港日――。
 娘の旅立ちに、悲観に暮れて泣く母の声を背に……レイラは凛として、宇宙船に乗り込んでいった。――もはや、彼女の意志を遮るものはなにもなかった。
 やがて発射台から飛び立った、宇宙船『アドベンチャーシップ号』は大気圏を抜けて、宇宙へと航海の旅が始まった。
 宇宙船の窓から、青い地球が眼下に見える。そして段々と小さくなっていく――。
 もう二度と戻れない、母なる地球にレイラは最後の挨拶をした。

「さよなら、地球……」

 そう呟いて、宇宙服の中の自分のお腹をさすってみる。
 出港の数週間前にレイラは極秘で体外受精の手術を受けてきた。ケンタの精子はレイラの子宮で卵子と結合して着床していた。まず、レイラの妊娠は確認できている。
 妊婦や病人は火星移民船に乗れないので、出港前の健康診断が済ませてから、体外受精の手術を受けたのである。――だからレイラの妊娠を誰も知らない。
「ひとりぼっちじゃないわ。あなたがいるから……」
 もう一度、愛おしげにお腹をさする、そこには新しい生命が宿っている。

「ふたりの赤ちゃんが火星で生まれるのよ」

 暗黒の宇宙を航海する、宇宙船『アドベンチャーシップ号』目指すは、赤い惑星マース。

「ケンタ、あなたの夢を火星で叶えてみせるから……」

 希望を抱いて、幸せそうにレイラは目を瞑った――。


― eternity ―

くうそう脳 ⑤ へ続く

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カクヨム 
泡沫恋歌 『くうそう脳』



by utakatarennka | 2017-02-06 20:14 | SF小説

くうそう脳 ③

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未来は今、
あなたの頭の中を駆け巡る!

    第一話 タイムマシン ③
 

 いくつかの時空の壁を越える衝撃で、いつの間にか気を失っていたようだ。

 ここはどこだ? 
 気が付いたら、俺たちはうっそうシダが茂るジャングルのようなところに着地していた。なんだかやけに静かだ、不思議なほど生き物の声が聴こえてこない。
 見たこともないようなヘンな草が生い茂っている。ここは浅い川か、沼地のようで足元に水が流れている。空気がどんよりと重く息苦しい、なんとも気味の悪い場所だった。
「おいっ、ここはどこだよ」
「今、調べていますが、重量オーバーでタイムマシンが誤作動したようです」
 携帯型タイムマシンをピッピピッと打ちながらG4が探っている。それにしても、こんな風景は世界中どのジャングルの風景にも見たことがない――。

「えっええぇぇぇ―――!」
 いきなり素っ頓狂な大声で叫んだ。
「どうしたんだ!?」
「こ、ここは3億6500万年前のデボン紀後期の地球です!」
「なんだ、そりゃあ?」
「まだ、地上に生物がいない頃の地球なのです。古生代の地上なんて、タイムマシンできた未来人はまだいませんよ!」
「それで俺たちは帰れるのか?」
「一応、SOSの救護通信は送りましたが……それよりもマズイことが……」
「なんだ?」
「古生代の空気の中には亜硫酸ガスが含まれていて人体に危険なのです」
「なんだとぉー!? このままでは死んでしまうじゃないか!」
「ええ、大変危険です」
「おい、俺にも毒ガスマスクをよこせー!」
「ダメです! ひとつしかありませんよ」
 その言葉をきいた途端、俺はG4が付けている毒ガスマスクを狙って襲いかかった。だが、G4は指先から青白い光線を出して抗戦してきた。――こっちには武器がない。
 普通に組み合ってケンカしたら、未来人のG4よりも俺の方が腕力は勝っているはずなのに、ちくしょうめ!
 武器を探して、見渡すと水辺からムツゴロウの親分みたいな50~60㎝くらいの魚が、ヨチヨチと陸に向かって這い上がってきている。
 よし、こいつだ! ムツゴロウの親分をむんずと掴んで、俺はG4に向かって投げつけた。間一髪でG4は光線で魚を焼き殺した。クッソー!
「止めなさい! こんな時代の生物を殺したら時空の流れが狂ってしまう」
「そんなこと知るか、毒ガスマスクを寄こさないとこいつら投げるぞー!」
 俺はもう一匹投げようと水辺を見渡したら、他のムツゴロウたちは水の中へ逃げかえった後だった。
「こ、これはアカンソステガではないですか!?」
 焼けた魚の残骸を見てG4が大声で叫んだ。
「ああ、大変なことをやってしまった! アカンソステガは、初めて水から地上に上がって両生類になった生物です。この後どんどん進化を辿り、哺乳類にまでなっていったのです。いわば人類の祖先のようなものです。そのアカンソステガをわたしは殺してしまった。――そのせいで、他の仲間が水の中にかえってしまった!」
 そういうとG4は頭を抱えて地面にうっぷした。

『人類の進化が大きく狂ってしまう!!』

 そういい残して、G4の姿がスッと消えてしまった。
「おい、どこへ行ったんだ?」
 キョロキョロ見回したが、たった今までそこにいたG4の影も形もない。
「俺に毒ガスマスクを……」
 そう言い終わらない内に、俺の姿もスーッと消えて無くなった――。

  古生代に、アカンソステガが地上に上がらなかったために、人類へと進化しなくなってしまった。

  ――かくして、未来の地球は恐竜たちの星となった。
 


― おわり ―

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カクヨム 
泡沫恋歌 『くうそう脳』



by utakatarennka | 2017-02-05 21:59 | SF小説

くうそう脳 ②

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未来は今、
あなたの頭の中を駆け巡る!

    第一話 タイムマシン ②
 

 ――そして話は戻る。

「今日、あなたロトシックス買ったでしょう?」
 いきなりG4が俺に訊ねた。
「ああ、買ったけど……それが?」
「困るなあー、そういう宝くじとか、一攫千金を狙うようなものを買われては……」
 迷惑そうな声でG4がいう。
「消去させて貰いますよ」
「ええーっ! なんでだよう?」
「それは当り券です」
「な、な、なんだって! それは本当かー!?」
 G4の言葉に耳を疑った。
 まさか6億円が当たっているなんて……やっと運が向いてきた。俺は億万長者だ! 一生遊んで暮らせるぞっ!!
 ――と、喜んだのも、つかの間。G4の指先から青白い光線が出て、机の上に置いてあったロトシックスの引換券が一瞬にして灰になってしまったのだ。――俺の6億円の夢が無残にも消え去った。

「ちくしょう! 何てことをするんだ。俺の6億円を返せぇー!!」
 白い灰になった6億円の紙切れを握って、俺は怒りの抗議をした。
「そんな大金を手に入れたら、あなたが目立ってしまうじゃないですか」
「なんで、こんなヒドイ目に合わされなくっちゃならないんだ。おまえ、さっき俺の生涯サポートって、言ったよなぁ? いったい俺のなにをサポートしてくれてるんだ!?」

「あなたが目立たないように、有名にならないように、幸せにならないように、しっかりとサポートしております」
「はあ……」
 G4のいった、その言葉に俺は絶句した。
「じゃあ、俺が受験に失敗したのも、仕事が窓際になったのも、出版ができなかったのも……全部おまえの仕業か!?」
「ハイ! しっかりサポートしました」
 誇らしげな声でG4が答えた。
「この野郎! ぶっ殺してやる!」
 俺はG4に殴りかかろうとしたが、ベルトに付けたスマートフォンのような器具を触るとG4の周りに丸い透明のシャボン玉のようなバリアーが一瞬にしてできた。
 ブチ切れた俺はシャボン玉バリアーを拳で殴ったり脚で蹴ったがまったくビクともしない。
「クッソー! みんなおまえのせいだったんだ。俺の大事なところが肝心な時にショボーンなのも、おまえの仕業だったのか?」
「――申し訳ありませんが、下半身に〔ショボーンブロック〕を、かけさせていただいております」
「やっぱり、そうか……うっうっうう……」
 情けなくて……、思わず泣き出した俺。
「おツライ気持ちは分かりますがね、勝手に死んだりしないでくださいよ。あなたに死なれるとわたしの仕事の評価が下がるんです。前にも38階のマンションの屋上から飛び降りたでしょう? 間一髪でキャッチできましたが、危ないところでしたよ」
「あのとき、おまえが助けたのか?」
「もちろん、そうです。生涯サポーターですからね」
「……俺は死ぬこともできないのか? どうして俺がこんな目に合わされるのか、理由を教えてくれ!」
「いやねぇ、あなたはハーフなんですよ」
「日本人じゃないのか?」
「いえいえ、そういうハーフじゃなくて、未来人と現在人のハーフだから……。本来、存在してはいけない人間です」
 とんでもないことをG4が言いだした。
 未来人と現在人のハーフってことは、本当にタイムマシンは発明されていたのだろうか? 時間旅行者との間に生まれた人間なのか? この俺は……。
 そしてG4から信じられない話を聞くことになった。

「わたしは25世紀からきました。その時代には誰でもタイムマシンで時間旅行ができるんですよ。あなたのお父さんの未来人は、タイムマシンの着地地点を間違えて道路の真ん中に降り立って、たちまちトラックに轢かれて病院に運ばれました。そのときタイムマシンは大破して、おまけに頭を打って彼は記憶喪失になってしまったのです。半年間、病院で暮らした彼はその病院の看護師と親しくなり、退院後、ふたりで一緒に暮らし始めたのです。――そのときに生まれたのがあなたですよ。本来、未来人と現在人は結婚できないし、ましてや、子どもを作るなんてトンデモナイ! そんなことをしたら、未来の歴史が変っちゃいますからね」

 俺の親父が未来人? 
 信じられないような話にどう応えていいのか分からない。ただ言えることは、ドジな親父のせいで、重い十字架を俺が背負わされる羽目になったということだ。
 ひと言、クソ親父に文句を言わないと俺の気が済まない!

「我々の発見が遅れて、生まれてしまったあなたは未来と現在がリンクしてできた〔時空の落とし児〕です。存在してはいけない存在なのですよ。以前は、生まれる前に命を抹消されました。しかし、それは残酷だと未来の人権団体に非難されてなくなりました。その次は生まれても〔時空の落とし児〕は、世間と接触させないために、一生、精神病院か、刑務所暮らしでした。――それも、人権団体にあまりに可哀相だと言われましてね。そこで、わたしのような生涯サポーターを、ひとり専属につけて〔時空の落とし児〕には、歴史を変えたりしないように、目立たない日陰者の人生を歩ませることになったのです」

 G4の長い説明を聞いて、俺のツイテナイ人生の理由がやっと分かった。……とは言え、こんな冴えない人生を死ぬまで生きなくてはいけないかと思うと、この先、暗澹たる気分だ。

「じゃあ、俺は一生飼い殺しか?」
「いいえ、生き殺しです。生きていても死んでいるのと変わりませんから――」
 クックックッとG4が鼻を鳴らして嗤った。
 人を小馬鹿にしたG4の態度に、こいつを殴ったろうかと思ったが、シャボン玉バリアーに阻まれて触れることもできない。こんちくしょうーめ!

「こんな風に〔時空の落とし児〕の規制が厳しくなったのは、タイムマシンを開発した23世紀の奴らのせいなのです。人類は23世紀末にタイムマシンを発明します。その頃の地球は資源を使い果たして空っぽ状態だった。遥か宇宙にまで資源を求めて宇宙船を飛ばしましたが、リスクばかり高くて、思うように資源開発もできない状態でした。――そこで考え出したのが過去の地球へ行って資源を採ってくることです。タイムマシンでジェラ紀まで行って、思う存分、資源を掘り起こし、森林を伐採し、ジェラシックパークまで作って、23世紀の奴らは恐竜をゲーム感覚で狩りまくったのです。そのせいで……」
 そこまで話してG4は、ハァーと大きく溜息を吐いた。

「どうなったんだ?」
「――地球上の恐竜が絶滅してしまったのだ」
「なにぃー? 地球に隕石が落下したのが原因だと言われているけど、それ違うのか?」
「違います! あれは23世紀の奴らが流したデマ説で、本当は恐竜の乱獲が原因なのです。それ以外にも、タイムマシンでいろんな時代に行き、神やら、魔法使いや預言者になった未来人もたくさんいます。ほら、あのノストラダムスもそのひとりですよ」
 知らなかった! まさか、未来人がそんな頻繁にタイムマシンで時空を行ったり来たりしていたとは……それは驚くべき事実だった。

「それで時空の流れが乱れちゃったので、タイムトラベラー社を発足して時間旅行者たちをきびしく取り締まるようになったのです。【 規則第一条、未来人はその時代の人間たちと接触してはいけない 】でした。誤って未来人と現在人との間に子どもができたら、未来の流れが狂ってしまうので、あなた方〔時空の落とし児〕は、目立ったり、有名になったり、もちろん家族を持ってもいけません。……だから天涯孤独に死んで逝ってください」

「俺は一生結婚しても、家族を持ってはいけないのか、それで恋人も消えたのか?」
「ハイ、彼女はあなたとの記憶を全て消去して、新しい町で暮らしていますよ」
 突然、彼女が消えたのはこいつの仕業だったのか。
「――そうか、それで彼女が幸せなら俺はいいんだ」
 頬に温かい雫が伝っていく。
 俺なんかに関わったせいで……彼女もそんな目にあっていたんだ。たぶん、俺のおふくろも同じように記憶を消されて、どこかで暮らしているんだろう。
「あなたの人生は誰ともリンクしてはいけないのです」
 ああ、なんて悲しい運命だろう。
「それじゃあ、何のために生まれてきたのか分からない……」
「生まれてきたこと自体が間違いでした」
 と、G4がこともなげにいう。
 この野郎、人の気も知らないで……このまま、生きていたって夢も希望もない俺の一生――。もう、こんな生活はイヤだ! 
 タイムマシンなんか発明した未来人が心底憎いと俺は思った。

「おやおや、すっかり話し込んでしまいました。わたしは多忙なのです。じゃあそろそろ、おいとましますね」
 そういうとG4は、腰に提げた携帯型タイムマシンのスイッチをピッピピッと押して操作をし始めた。
「タイムマシンが消えて、3分後にわたしとしゃべったことは、あなたの記憶からスッカリ消去されますから……では、ご機嫌よう!」
 ブゥーンと空気が波動する音がして、タイムマシンが動き出したようだ、その瞬間、シャボン玉バリアーが解除された。
 その隙を俺は見逃さなかった――。突進して、G4の身体に抱きついてやった。
「わわっ、何をするんですか? 離してください! タイムマシンが発進しますよ」
「俺も未来に連れていけ、こんなところはもう真っ平だぁー!」
 いきなり抱きつかれて、G4は目を剥いて泡喰っていた。
「ダメです、離れてくださーい!」
「イヤだ、イヤだー!」
 もがいてG4は引き離そうとするが、この俺は必死にしがみ付いて絶対に離れるものか! このままタイムマシンで未来まで一緒にいくんだ。
 きっと、未来の世界は薔薇色に違いない!

 ――そしてタイムマシンは、俺たちを乗せて時空の彼方へ旅立った。


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カクヨム 
泡沫恋歌 『くうそう脳』



by utakatarennka | 2017-02-04 21:47 | SF小説

くうそう脳 ①

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未来は今、
あなたの頭の中を駆け巡る!

    第一話 タイムマシン ①

 ガンガラガッチャーン!
 真夜中に俺の住む、1Kのアパートにものすごい騒音が鳴り響いた。
 びっくりした俺はベッドから転がり落ちて目を覚ました。なにが起きたのかとキョロキョロと部屋の中を見回せば「痛たたぁ……」と、腰をさすりながら、見知らぬ男がうずくまっている。
 その男は白い防護服のようなものを頭からスッポリと被り、口には毒ガス用のマスクまで付けている。
 いったいこいつは何者なんだ? 新手の空巣か? 呆気にとられて俺は言葉も出ない。

「いやぁー驚かせて、すみません。タイムマシンの調子が悪くて着地に失敗しました」
 そういうと、男はクックックッと機械音のような耳触りな声で笑った。
「タイムマシンだって……?」
 こいつはバカか? 電波君か? 
 いきなり意味不明なことをしゃべり出したこの男を怪訝な顔でみる。
「さぞ、この格好にも驚かれたでしょうね。21世紀の日本は、空気中に放射能やセシウムが含まれていて、かなり危険なんですよ。まったく仕事とはいえ、こんなところには来たくないですねぇー」
 得体のしれない男は、俺に親しげに話しかけてくるがもちろん初対面である。――そんなことは知るか、早く俺の部屋から出ていけ!
「申し遅れましたが、わたくしはタイムトラベラー社の委託で、あなたの生涯サポートを務めさせていただいております。――G4と申す者です」
 タイムトラベラー社って時間旅行社ってことか? そんな会社がある訳がないだろう。しかも俺の生涯サポートだと!?
 その言葉にムカッときた俺は、そいつを思いっきり睨みつけやった。

 ――俺はツイテナイ男だった。

 孤児に生まれついた俺は両親の顔すら知らない。
 物心ついてから、ずっと児童養護施設で育てられてきた。神童と呼ばれるほど、勉強が得意だった俺は一流大学を目指して勉強に励んだが、なぜか本番に弱く、受験に失敗して二浪してしまったのだ。それで仕方なく、大学の夢を諦めた。

 高卒だったが、辛うじて中小企業に就職ができた。
 営業部に配属された俺は人一倍仕事を頑張ってきたつもりだ。最初は営業成績をどんどん上げて、我が社の期待のホープとかみんなに言われていい気になっていたが――それがどういう訳か? 大口の契約が取れても、土壇場でいきなり先方からキャンセルされることが多くなった。
 先方に理由を訊きに行っても会っても貰えず、門前払いされた。そんな失敗が何度か続いて……社内での俺の信用はガタ落ちになった。
 無能の烙印を押された俺は、営業部から外されて、今度は資材部に回された。
 薄暗い工場の倉庫の中で物品の数をかぞえたり、不足した部材を発注するだけの仕事だから、一日中、誰とも口を利かないこともある。完全に窓際ポジションだった

 ――そんな孤独な俺は、趣味で小説を書き始めた。
 資材部の仕事は暇なのでアイデアを考えている時間はいくらでもあった。たぶん妄想の世界で自分自身を慰めようとしていたのかもしれない。
 毎日、毎日、パソコンに向かって小説を書き続けた。俺のホームページにはだんだんと読者ファンが増えて、小説を書くことが楽しくなった。
 ある日、ホームページの小説が一流出版社の編集長の目に留まった。
 俺の作品を読んで「素晴らしい芸術作品だ!」と絶賛してくれた。そして無料で本の出版させてくれると約束してくれたのだ。やっと才能が認められた! 俺は小躍りして喜んだ。――それなのに、その編集長からぜんぜん連絡がこない。
 焦れて「出版の件はどうなりましたか?」こちらから電話したら「はぁ? あんた誰? 出版なんか知らない」と軽くあしらわれた。
 あまりのショックに、俺はもう小説が書けなくなってしまった。
 書きかけの小説もホームページもずっと放置したまま、訪れる人がいなくなって、ついに創作を断念した俺は、自分のホームページを閉じてしまった。

 ――いくら頑張っても、俺の存在を誰も認めてはくれない!

 結局、なにをやっても上手くいかない、自暴自棄になった俺は深酒をするようになった。友だちのいない俺は、コンビニでアルコールを買ってくると、アパートの部屋でひとり飲んでいた。
 アルコールが切れると、すぐにコンビニに走り買ってくる。――そんな日々が続いたある日、コンビニで働く彼女が、俺の様子をみに訊ねてきてくれた。
 彼女は美人ではないが、心根の優しい女性である。
 俺が頻繁にアルコールを買いにくることを心配してくれていた。彼女と話している内に俺の心も癒されていき、だんだんと深酒もしなくなってきた。
 その内、彼女は俺のアパートに頻繁に通ってきて、食事を作ってくれたり、身の周りの世話を焼いてくれるようになった。
 そんな彼女のことが俺は好きになり、真剣に結婚を考え始めて、ついに彼女にプロポーズしたのだ。
 彼女は「嬉しいわ」と、俺の気持ちに素直に応えてくれた。俺は有頂天だった! 今度こそ、愛する女性と幸せになってみせると心に誓った。

 しかし……俺には誰にも言えない秘密があった、実は女性とセックスができないのだ。決して女性が嫌いな訳ではない、ゲイでもなんでもない。――なのに、肝心なときに俺の下半身はショボーンな状態なのだ。いくら興奮しても振るい起たないのだ。
 (´・ω・`) ショボーン

 もちろん、医者にも相談した「ストレスでしょう……」というばかりで、抜本的な治療法もない。このままの状態では結婚はできないし、子どもも作れない。
 ――男として、俺は不能だった。
 けれども、俺は勇気を出して――そのことを彼女に告白したら「子どもが作れなくてもいいの、あなたと暮らしたいから、それでも幸せなのよ」と、彼女が言ってくれた。そして将来どうしても子どもが欲しくなったら『試験管ベイビー』だって構わないわよ。……と、そういって彼女が優しく微笑んだ。
 まさしく女神のような女性だ! 俺は彼女だけは死んでも手放したくないと思っていた。

 そんな彼女が突然いなくなった――。
 勤めていたコンビニも急に辞めて、どこかへ姿をくらませてしまった。俺は捜した、どんな小さな心当たりでも全て捜した、彼女を必死で捜し続けたが……結局、見つけだすことはできなかった。
 サヨナラも言わないで、急に消えてしまった恋人の気持ちが分からず、俺は混乱して心底絶望した。――もう死んでしまいたいとそう思った。
 その夜、したたかお酒を飲んだ俺は38階建てのマンションの屋上からスカイダイビングした。遺書は書かなかったが覚悟の自殺だった、ツイテナイ人生に俺はサヨナラしたかったんだ。
 鳥のようにビルから急降下していく――。
 ……だが、気が付いた俺は……マンションの植え込みの中で眠っていた。かすり傷ひとつない、ピンピンしている。確かに38階の屋上から飛び降りたはずなのに……死んでいないなんて……? そんなバカな! あれは夢だったのかな?
 なんだか拍子抜けして、それですっかり死ぬ気が失せてしまった。

 あれから半年、やっと平静を取り戻した俺は、相変わらず倉庫の片隅で物品の数をかぞえる仕事をしているのだ。――死んでいるのか、生きているのか分からない、夢遊病者のような日常、なんの希望もない今の生活だった。
 今日、会社の帰りに通りかかった宝くじ売り場でロトシックスを買ってみた。
 会社の同僚たちが、キャリーオーバーでロトシックスが賞金6億円に跳ね上がっていると話していたからだ。どうせ、当たらないとは思うけど……何でもいい、小さな希望が今の俺には必要だった。
 マークシートに番号を選んで塗り潰していく、頭に浮かんだ数字は375642(皆殺しに)そんな番号をロトシックスに俺は選んだのだ。


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カクヨム 
泡沫恋歌 『くうそう脳』



by utakatarennka | 2017-02-03 21:58 | SF小説

Dr.Yamada World ⑬

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   Dr.Yamada file.13 【 スカポンタン☆ 】

 大和工科大学の地下、薬品倉庫の奥深く、『劇薬』『火気厳禁』『混ぜるな! 危険』と書かれたプレートより、さらに危険なラボがあった。
 そこには大学の疫病神と呼ばれるDr.山田とその助手の佐藤が、日夜、極秘(胡散臭い)研究に明け暮れていた。

「あれぇ? 僕のプリンがなぁ~い!」
 冷蔵庫に頭を突っ込んだまま、助手の佐藤が叫んだ。
「博士あんたか? また勝手に食べたのか!?」
「プリン二個あったから、てっきりわたしの分だと思って食べた」
 顕微鏡を覗きながら、Dr.山田が平然という。
「しかも二個とも食べるなんて……どういう神経してるんですか?」
「一個は僕の分で、もう一個は優しさだと思った」
「違う! 一個は今日の僕の分で、もう一個は明日の僕の分だ。博士の分は買ってない!」
「そうなの? 優しい助手をもって幸せだと思ったのは、わたしの思い過ごしだったとは残念だよ」
「黙れ! ぽんこつ博士」
 怒った助手の佐藤は自分のパソコンに向かった。

「佐藤くん、このデーターの分析を大至急やってほしい」
「イヤです!」
 助手の佐藤はパソコンの技術はハイレベルなのだが、いったん怒らせると一週間は研究の手伝いをやらない偏屈者だ。 
「もう、食べちゃったことだし水に流そうよ」
 機嫌を取りながら、Dr.山田がいうと、
「絶対にイヤだ! このことは日記に書いてずーっと忘れない」
「たかがプリン一個のことで、君も女々しい男だね」
 Dr.山田の言葉が、佐藤の怒りにガソリンを注いだ。
「このプリンはただのプリンじゃなぁ~い! 僕の大好きな声優のミカリンがボイスやってるんですっ!!」
 パソコンのモニターにアニメーションを流した。

『プルルン♪ プルルン♪ プルル~ン プリン♪ さあ、召し上がれ~♪』

 巨乳の萌えキャラが胸を揺らしながらプリンを食べる。そのアニメをロリ声のミカリンがやっている。
「ミカリンが宣伝してる、このプリンを買うため、あっちこっちのコンビニを駆けずりまわったんです。ご飯も食べずにプリンを探しまわった、この僕の苦労をなんだと思ってるんですかっ!」
 チンチンに焼けた薬缶のように頭から湯気を出して佐藤が怒鳴った。
「スマン! わたしが悪かった。このプリン買ってくるから」
「もういいです。家に帰ったら三つ箱買いしてます」
「プリンだらけ……」
 助手の狂信ぶりに絶句するDr.山田であった。
 佐藤はミカリン王国というファンクラブに所属していて、自分のことをミカリン姫の下僕だと思っている、熱狂的ファンなのだ。

「このデーターの分析を頼むよ」
 頃合いをみて、再び佐藤に仕事の依頼をする。
「しりません!」
「ねぇーねぇー頼む。佐藤くんだけが頼りなんだ」
 拝み倒してでもやって貰おうと、Dr.山田はプライドをかなぐり捨てた。
「だいたいさぁ~、ここの研究費ってどこから出てるんですか?」
 大学では厄介者扱い、その存在すら忘れられている山田ラボには、研究費の予算など計上されていない。
「そりゃあ、全世界百万人のDr.山田ファンからのカンパだよ」
「ファン? そんなのいるわけねーよ! 世間に見捨てられた山田ラボに、研究費くれるような物好きはいません!」
「まあ、研究費捻出のために、いろいろ副業もやってるし……」
「副業って? ニセ金つくってんじゃない?」
 ギクッ☆
「今、ギクッって肩動かなかった? 本当にニセ金つくってんの?」
「それも副業のひとつだけど……他にネットでいろいろ……」
「博士はネットで詐欺とかやってません? それって犯罪ですよ」
「バレなきゃあ、大丈夫」
 涼しい顔でDr.山田がいう。
「それに幾つかのパソコンを経由してるから、佐藤くんのも……」
「うわぁ~!! いつの間にか犯罪の片棒担がされたぁ~」
 慌てて、パソコンのIDを変更する佐藤である。
「佐藤くんほどの腕なら、ハッカーだってやれるだろう」
「こないだ、首相官邸のパソコンに侵入しましたよ」
「ええっ!?」
「ミカリンのためにお金稼いでます。いわば僕の副業」
 しれっとした顔で佐藤がいう、それも立派なネット犯罪だ。
「佐藤くんのハッキング技術なら刑務所に入ってもすぐに脱獄できるよ」
「刑務所でパソコン触らせて貰えると思う? 僕はパソコンがないと生きていけない」

 佐藤のスマホからミカリンの歌が聴こえた。どうやらメールが届いたようだ。
「ミカリンからメールが届いた!」

『下僕番号4390番 
シュガーちゃん、先日贈ってもらったゴディバのチョコ美味しかったよ。
今度は、京都辻利の京ラテとわらび餅が食べたいなぁ~♡』

 下僕の佐藤は、ミカリンの私書箱に貢物として毎月プレゼントを送っている。
「やったー、ゴディバのチョコ喜んでくれた♪」
「うむ。あれは美味かった」
「えっ、なんか言った?」
「な、なにも……」
 慌てて口を押さえるDr.山田である。なんか怪しいぞ。
「じゃあ博士、明日、新幹線で京都の辻利本店までいってきまーす♪」
 すっかり機嫌が直った助手は仕事を始めた。

 佐藤はアカウントを乗っ取られていることに、まだ気づいていない。
 Dr.山田はこんなペテン師まがいのやり方で、助手を喜ばせることが“優しさ”だと勘違いしているだけに始末が悪い。


― End ―


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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-22 12:34 | SF小説

Dr.Yamada World ⑫

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   Dr.Yamada file.12 【 タイムバンク 】

「ついにタイムマシンが完成したぞ!」

 H・G・ウェルズの古典的SF小説の時代から、言い続けられたそのベタな台詞を、今、口にする科学者がいる。
 彼は大和工科大学、工学部物理学研究室の室長、Dr.山田その人である。
 天才的頭脳をもつ科学者だといわれるが、いったいどんな研究をしているのか、その詳細は明らかではない――。
 Dr.山田研究室、このラボには博士と助手の佐藤しかいない。二人は大学に内緒でなにやら怪し気な研究をやっているらしい。

「佐藤君、完成したよ。これがタイムマシンだ」
「どこに?」
「ほらっ、目の前にあるだろう」
 テーブルの上でパッと見、電子レンジにしか見えない器械のことらしい。
「本当にこれがタイムマシンなんですか? ただの電子レンジにしか見えないけど……」
 助手の佐藤が疑わしい気に、Dr.山田に訊ねた。
「正真正銘のタイムマシンだ! 疑うんだったら、実験してみせよう」
 そういうとDr.山田は手にアボカドをひとつ持っている。
「佐藤君、このアボカドを触ってみたまえ」
 Dr.山田に渡されたアボカドを手に持って触ってみる。
「どうだい触った感じは?」
「硬くてまだ食べ頃じゃない」
 アボカドをタイムレンジに入れて、旧式のレバーを捻る。するとオレンジ色の光がチカチカ点滅して、小さな稲妻が走った。その後、器械の中のアボカドが消えてしまった。
「あ、あれ? アボカドどこにいったんですか」
「よし、もうそろそろ戻ってくる頃だ」
 Dr.山田の声と同時にタイムレンジがチンと鳴った。中には先ほどのアボカドが入っている。それを取り出して、再び佐藤に渡す。
「もう一度調べてくれたまえ」
 アボカドを触った瞬間、佐藤は叫んだ。「博士、柔らかくなってます。熟して食べ頃になってる」それは指で皮が剥けるほどだった。
「そのアボカドは五日後の世界にいって還ってきたんだ」
「まさか! それが本当だとしたら凄い」
「もっと他の物で実験してみようか」
 そういうとDr.山田は佐藤のデスクの上に飾っている、サボテンの鉢を手に取った。
「あっ! 何をする気ですか? それは僕の大事なステラだ」
「ステラ? 君はサボテンに名前を付けてるの」
「別にいいでしょう。僕のサボテンなんだから……」
「よく見ると小さな蕾がついてるね。これをタイムレンジに入れよう」
「やめてください!」
 佐藤の制止を振り切って、サボテンをタイムレンジの中に入れてDr.山田はレバーを捻った。
「今度は七日後の世界へ転送した」
 戻ってきたサボテンは一瞬にして蕾が開花していた。
「どうだい。きれいな花が咲いただろう」
「本当だ。ビックリしました博士、まさにミニ・タイムマシンですね」
「タイムレンジさえあれば、メロンも食べ頃だし、ぬか漬けだって即食べられる。まさに夢のマシンだよ」
「それしか使い道がないんですか?」
「実用化に向けてこのタイムレンジを量産したい。テレビでCM流したりして、キャッチコピーは『チンするだけで時間旅行が叶います!』佐藤君どうかね、素敵なコピーだと思わないか」
 と、上機嫌のDr.山田だった。
「……で、これ開発するのにいくらかかったんですか? 実用化したら値段とかどうすんの?」
「これ作るのに二十年かかったし、かなり研究費を注ぎこんだ。お値段は一台五千万円くらいでどうだろう」
 その金額を聞いて、助手の佐藤がズッコケた。
「あのね! 食べ頃アボカドのために、どこに一台五千万円も払う人がいますかっ!」

 テーブルの上の電子レンジを挟んで、Dr.山田と助手が対峙していた。
「役に立たない物しか発明できない。ぽんこつ博士!」
「佐藤君、いくら何でも言い過ぎだろう」
「違うんですか?」
「一部当ってるかも……」
「そんなことだから、Dr.山田研究室はみんなからゴミとか屑とか穀潰しとか言われるんです。助手の僕まで博士のせいで白い目で見られてます。ダメ科学者だとちゃんと自覚してますか」
 完膚なきまでのDr.山田への口撃だった。
「佐藤君、私の作ったタイムマシンがそれだけだと思ってるのかい?」
「はぁ? どういう意味ですか」
 ぶはははっと、Dr.山田がまるでゲームのラスボスのように笑った。
「実はこの研究室全体がタイムマシンになっているんだ」
「ええぇ―――!?」
「佐藤君、君は昨日の佐藤君なのだ」
 研究室のドアが開いて、今日の佐藤が現れた。そして机の抽斗から明日の佐藤が飛び出した。
「な、な、なんですか!?」
「昨日、今日、明日の佐藤君が揃った」
 三人の佐藤が顔を合わせて慌てふためいている。
「実は研究室型タイムマシンは昨日完成して、佐藤君で実験していたのだ」
「なんですってぇ~」
「これでわたしが天才科学者だと分かっただろう」
「僕たちを勝手に実験台に使っていたのか」
「モルモット三匹」
 その言葉に佐藤たちがブチ切れた。
「ぽんこつ博士めぇ、許さん!」
 Dr.山田は三人の佐藤から蹴りを入れられて、目から火花を飛ばしてタイムスリップしたという。


― End ―


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by utakatarennka | 2016-10-12 20:53 | SF小説

Dr.Yamada World ⑪

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   Dr.Yamada file.11 【 驟雨期 Ⅲ ― 海に還る日 ― 】

 核戦争の後、地球は巨大な水族館になってしまった――。

「教授なにを観てるんですか?」
「ああ、これかね」
 アクロポリス・ヤマトにある東大アカデミーのヤマダ教授の机の上のディスプレイには美しい映像が流れている。
「これは熱帯魚と呼ばれる観賞用の魚なんだ。21世紀くらいの南の海ではこんなきれいな魚が泳いでいたらしい」
「23世紀の海にはグロテスクな魚類しかいませんよ」
 海洋生物研究室の助手サトウは毎日海に潜って、水棲生物を観察している。
「昔は水族館という魚類を展示する施設があったらしい」
「水族館ですか? そこらじゅう海で今なら陸族館の方が必要だ」
 サトウが冷ややかにいう。
「小さな水槽に魚を閉じ込めるなんて残酷だと思わないかね? サトウ君」
 ヤマダ教授が熱帯魚を観ながらそういうと、「我々だって、雨に閉じ込められた空間で暮らしていますよ」とサトウが答えた。
 たしかに今は『驟雨期(しゅううき)』という雨が毎日降り続く天候なのだ。
「なにもかも地球の生態系が狂ってしまった。もう地上では太陽すら拝めない」
 サトウが机を叩いて叫んだ。
「あの愚かな戦争を人類がはじめたせいじゃないですか!」

 22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 資本主義と共産主義という二つのイデオロギーが真っ向からぶつかり合い、同盟国や隣国を巻き込んで、果ては宗教紛争にまで飛び火して地球全体が戦場となった。最終的には各国が放った『核のドッジボール』によって戦いの幕を閉じた。
 だが、100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によって10分の1の10億人にまで激減した。国家は崩壊し、生き残った人々だけで都市国家(アクロポリス)が建築されたが、彼らは放射能の被爆者、大地は汚染されて、安全な食品もなく、厳しい状況だった。
 ――そして地球全域に異常気象が起こっていた。
 まるで汚れた地球を洗い流すかのように、一日に何度も激しい雨が断続的に降り続くのだ。23世紀になった今も雨は百年近く降り続いている。この異常気象を人々は『驟雨期』と呼んだ。
 止まない雨のせいで、海は増水し地球の面積の3割だった陸地が2割にまで減少していった。……このままでは海に陸を奪われてしまう。しかも太陽光線が不足して植物が育たなくなり、それに伴い昆虫や動物も絶滅していって、もはや地上には命を繋ぐ食べ物がない。
 ついに地上を身捨てるが如く、陸の生物は水棲生物へと急激に進化をはじめたのだ。

「そうそう、海で象をみましたよ」
 ディスプレイを一緒に観ていたサトウが、ふいに口火をきった。
「象だって!?」
「大きな耳をヒレ替わりして、スイスイ海の中を泳ぎ回って、海藻を食べてました」
「地上には植物がないからね。その点、海は海藻が豊富だ。海に順応できないと生き残れない。陸上生物は 何万億年もかかった進化を一世代ごとに急激なスピードでおこなっている。人類だって最近生まれた赤ん坊は歩くよりも先に水中を自由に泳ぐという」
「僕たちの五本の指が水かきになってしまったら何も作れない。人類は英知という武器で、この小さな身体で野生動物たちと戦って生き延びてきたんだ。……なのに水中ではコトバや文字も伝えられない。脳は退化して人類は知的生物ではなく、海の中では大型魚類の鮫やシャチに捕食される、ただの餌でしかない」
「海という大きな水族館に人類も入れようとしている」
「そんなの絶対にイヤだ!」
 机を叩いてサトウが抗議する。
「あの核戦争で人類は地球を汚染した。その報いとして下等魚類へと進化させられるのかもしれない。二度と核兵器など作れないように……」
 陸地が減少して、すべての陸上生物は海に還るため進化がはじまっている。
「これが神の意思ですか? それとも地球の下した罰ですか?」
「サトウ君、あの戦争では人類以外たくさんの動植物が地上から絶滅した。もう我々は小鳥も花も見れない。一度消滅したものは二度ともどすことはできないのに……これは重大な罪だ。この地球は人類だけのものではないんだよ」
 今さらながら、人類が犯した罪の大きさを思う。23世紀の人類はその大罪を購っているのかもしれない――。

「人類はこの先どうすればいいんだろう?」
「海に還るか、宇宙に新天地を求めるか、だな」
「宇宙ですか!?」
 サトウの目が輝いた。
「うん。アクロポリスの指導者たちが集まってその計画を推進している」
「教授! 僕は宇宙にいきたい」
「サトウ君は宇宙移住計画に参加したいんだね」
「はい! このまま水棲生物に進化されるくらいなら、宇宙で新たな地球を見つけます」
「それもいいだろう。宇宙にいけばこの異常な進化も止められるかもしれない」
「教授は地球に残るんですか?」
「わたしは自説である『ヤマダ進化論』を実証するために残るよ」

『ヤマダ進化論』とは、いずれ地球の陸地が減少して“海の惑星”になると、地上の生物は全て海に還って、水棲生物になるという説だった。
 かつて鯨が海に還って水棲哺乳類になったように、人類もまた海の環境に順応できる生物に生まれ変わるという。すなわち、脚がなくなり、ヒレができて、急速なスピードでDNAが魚体化することを意味する。
 当初、この説はとんでもない奇説だと笑い草だった。ヤマダ教授は海洋生物学会の異端児として、皆から白眼視されていたのだった。

「地球を捨てても人類は滅亡しません」と助手。
「海に還る人類を最後まで見届ける」と教授。

 巨大な水族館と化した“海の惑星”地球で、魚体化した人類が海を泳ぎ回る日は近いことだろう――。


― End ―


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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2016-04-13 16:32 | SF小説

Dr.Yamada World ⑩

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   Dr.Yamada file.10 【 王家の墓 】

 大和大学エジプト考古学の山田教授とその助手佐藤は、ルクソールにある王家の谷で迷子になっていた。
「この辺りに未発掘の王家の墓があるはずなのだ」
「その地図に描かれている場所で本当にあってるんですか?」
 助手の佐藤がいささか不安な面持ちで訊ねた。
「ああ、間違いない! このパピルスにヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)で書かれているのだ」
 大事そうに手に持ったパピルスを睨んで、山田教授は首を捻っている。
「どれどれ……」
 教授からパピルスを奪うと佐藤は自分で解読を始めた。
「オウケノタニノマンナカアタリ」
 ブッと思わず吹いてしまった。
「教授、こんないい加減な説明じゃあ信用できません。第一、それどこで手に入れたんですか?」
「二十年前、わたしがピラミッド発掘隊に助手として同行した時に、カイロの土産物屋のオヤジから貰ったものだ」
「マジっすか? そんないい加減な手掛かりで我々は、エジプトくんだりまできたんですか」
 呆れ顔の佐藤に山田教授はにこやかに答えた。
「佐藤君が、俺はエジプト考古学専攻なのに一度もエジプトに行ったことないなんて恥かしいっす。て、いつもボヤクから連れてきてやったんじゃないか」
「ま、まあ……。大学から旅費が出てるんだし観光だと思えばいいか」
「いや、わたしの旅費は研究費で賄ったが、君の分は自分で出して貰ったよ」
「はあ? どういうことすっか?」
「君が寝ている時に、君の財布からカードを抜いてローンで借りた」
「ほわぁっ!!」
「ATMでカードを使った時に、君の暗証番号を後ろで見て知ってたから簡単だったよ。とりあえず五十万ほどリボ払いで借りた」
 悪びれる風もなく説明する山田教授の前には、阿修羅の形相の佐藤がいる。いきなり胸倉を掴むと、
「この糞オヤジ! よくも俺のカードを勝手に使いやがったなっ! アンタこれが犯罪だという認識があるのか!?」
「まあまあ落ち着きたまえ。これも研究のためじゃないか」
「ガサネタの地図とカード詐欺、こんな教授にはついていけない。俺は今すぐ日本に帰ります!」
 そういうと佐藤は踵を返して、どんどん歩きだした。
「待ってくれ佐藤君! わたしを置いて行かないで……」
 追いかける山田教授だが、突然、佐藤の姿が目の前から消えた。


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「おーい、佐藤君どこだ?」
 風のように消えてしまった助手を捜して、教授は右往左往していた。
「教授、こ、ここです」
 隠れて見えなかったが、岩と岩の間にぽっかり穴が開いている。そこから佐藤の声がした、どうやらこの穴に落ちたらしい。
「今、助けてやる! ロープを下ろすから這い上がってくるんだ」
 リュックの中からロープを取り出し穴の中におろし、手に持ったロープを体に巻きつけて足を踏ん張り持ち上げようと力む山田教授だった。だが、佐藤がロープを掴んで上がろうとした瞬間、ロープと一緒に山田教授が穴の中へ転がり落ちてきた。
身長165センチの痩せた男が、180センチ以上のガタイのでかい男を引っ張り上げようなんて、しょせん無理な話である。
「イテテ……教授、何やってるんすか」
 佐藤の上に見事にダイブした。
「日頃からダイエットしないから、大事な時に助けられないじゃないか」
「そんな問題じゃないでしょう。二人とも穴に落ちてどうやって助けてもらうんですか?」
「う~む。困った」
「あっ! スマホで助けを呼ぼう」
 ポケットからスマホを取り出したら、穴に落ちた時に圧し潰されていた。
「ダメだ! バキバキに壊れてる」
「佐藤君は日頃から食べ過ぎなんだ。だから体重でスマホまで粉々にしてしまった」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。この穴から出られなかったら、我々はカラカラに干乾びて……ミイラになってしまうんだ」
「いわゆる《ミイラ盗りがミイラになる》とことわざ通り」
 嬉しそうに喋る山田教授に、助手の佐藤はキレそうになる。
「じゃあ、教授の携帯で連絡してください」
「わたしの携帯は料金未納で今止められているんだよ」
「うわ~! 信じられない」
 頭を掻き毟り絶叫する佐藤であった。


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自分の名前をヒエログリフに変換できるサイト
「かな・ヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)変換」
http://uenosato.net:8080/~moji/php/kana_hrg.php


「出口を探して穴の中を探検しよう」
 リュックの中には探検用グッズが入っている。ライト付きのヘルメットを被り穴の中を歩く教授と助手。横穴のだが高さは立ったままでいける、約50メートルほど進むと石の扉があった。
古代エジプトの象形文字ヒエログリフが刻まれていた。
「なんて書いてあるんでしょう」
『ヨウコソ、ココガオウケノハカ』
「おおっ! まさしく我々が探していた王家の墓だ」
「教授、やりましたね! エジプト考古学史に山田研究班の名前が永遠に刻まれますよ」
「未発掘だから、中には王家の秘宝ががっぽりあるぞ!」
「黄金のデスマスクのミイラとか……」
 二人は手を取り合って喜んだ。
だが、問題はこの石の扉をどうやって開けるかだ。頑強な石の扉は押しても引いても叩いてもビクともしない。
「ひらけー、ゴマ」
「ひらけー、ポンキッキ」
「マハリクマハリタ……」
 てきとうな呪文を唱えてみるが開くはずもない。


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 こうなったら体当たりしかないと、二人で扉に向って突進しようとした瞬間、
「いらっしゃいませ。遺跡パブ『王家の墓』にようこそ」
 ミイラ男が扉を開けてくれた。
 扉の中はテーブルがずらりと並び思ったよりも広い。天井のミラーボールがきらきら輝き、クレオパトラの衣装を着た、美しい踊り子がスポットライトを浴びて踊っている。お酒を盆に乗せてミイラ男のボーイたちがテーブルの間をぬぐって忙しそうに給仕をしている。海外からの観光客だと思われる団体でここは大繁盛である。
「こ、ここは……!?」
意外な光景に、ただ茫然とする二人。
「うちは王家の墓を利用して作った遺跡パブでして、ツアーコースにも入っている名物店ですよ。まさか、裏口の石の扉からお客さんが入ってくるなんて珍しい」
「えっ? 裏口だったの」
「そこは非常口ですよ。普通はカイロから送迎バスが出ていて、王家の谷を観光した後で、うちの店で休憩してからホテルに帰るコースなんですよ」
 予想外の展開に言葉もでない二人だった。
「おや、お客さんの持ってるパピルスは二十年前、ここを開店する時にカイロの土産物屋に撒いたチラシだ。大事に取っててくれたなんて嬉しいね」
「これがチラシだったなんて……」
 がっくりと肩を落とす二人だった。
「チラシ持参なら特別料金15%OFFにしますよ。さあさあ、お席にどうぞ」
 商売上手の店長に促されるままにテーブルに着く、そこへミイラ男のボーイがオーダーを訊きにくる。
「お飲み物は?」
「カモミールティ」と教授。
「コーラLLカップ」と助手。
 そして大和大学エジプト考古学の山田教授と助手の佐藤は遺跡パブ『王家の墓』の客となった。灼熱の太陽の元、迷子だった二人は喉がカラカラで干乾びそうだった。地獄で仏、いや砂漠でパブとは命拾いをした。
 王家の秘宝よりもチラシのお陰で得したと、ほくそ笑む山田教授だった。


― End ―


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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2015-11-21 12:16 | SF小説