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カテゴリ:現代小説( 48 )

かんどう脳 ⑪

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第五話 《 虐待 》悲しいオモチャ ③

 【 その三 虐待で喪われた命の詩 】

小さな命が
 神様に召されてしまった
まだ幼い 小さな女の子は
誰に看取られることなく
ベランダの隅っこで
その苦しい生涯を閉じてしまった

寒い 寒い 三月のことだった
 凍てついた月だけが 少女を見てた
もっと 生きていたかったのに……

小さな命が
虐待で奪われてしまった
少女は 毎日毎日……
 理由もなく親に殴られていた
食事も与えて貰えなかった
泣いても 許してくれない暴力!

助けて! 助けて! 助けて!
少女は叫び続けていたのに
みんな気づかない振りをしていた

ついに……
少女は力尽きてしまった
あの日 泣きながら死んでいった
誰に 助けを求めれば良かったの?
なぜ 誰も助けられなかったの?

ごめんね……
かわいそうな少女よ
その清らかな魂は天国に昇って
子どもが虐待されない社会がくるように
みんなを見守っていてね


         ― イジメや虐待のない社会を願って ―



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創作小説・詩
 
by utakatarennka | 2017-03-05 16:21 | 現代小説

かんどう脳 ⑩

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第五話 《 虐待 》悲しいオモチャ ②

 【 その二 虐待された子 】

場所:肌寒い三月のアパートのベランダ

お腹がすいたー。
もう……何日もご飯食べてない。
前は一日に一回はパンとジュースくれてたのに……。
母さんが……くれなくなった。
ここのまま、あたし死ぬのかなぁー。

まだ、三月だから……ベランダは寒いよ。
こんな毛布一枚じゃあ、凍えてしまう。
寒いよぉー寒いよぉー。

どうして、あたしだけ、お部屋の中に入れて貰えないの?
中からテレビの音や笑い声、食器がガチャガチャ……と、
みんなでご飯を食べてる音がするのに……。
あたしだけ中に入れて貰えない。
なんで……?

痛い、痛い!
新しいお父さんに殴られた、身体中が痛い!
なにも悪いことしてないのに、どうして、あたしばっかり殴るの?
あたしが母さんの『連れ子』だから、可愛くないから殴るの?
母さんも側で見てるくせに、どうしておとうさんを止めてくれないの?
もう……あたしのこと可愛くないから?

なんでこんなことになったんだろう?
去年、お父さんとお母さんが大ケンカして、
離婚しちゃったんだ。
お姉ちゃんはお父さんと家に残って、
あたしはお母さんに引き取られて家から出ていった。
四人家族がバラバラになって、もうお姉ちゃんとも会えなくなった。

ふたりで家を出て……。
お母さんは、すぐに今のお父さんと一緒に暮らし始めた。
新しいお父さんも最初だけは優しかったけど……。
お父さんの連れ子も一緒に暮らすようになってから、
あたしばっかり怒るようになった。

お母さんは、そんなお父さんを腫れものに触るように、
ビクビクしながら……見てるだけで何も言わない。
お父さんに命じられるまま、あたしにご飯も食べさせない。
連れ子の男の子には、お菓子やオモチャを買ってご機嫌取ってるくせに。
もう……あたしはお母さんの子どもと違うの?
ただの邪魔者なの?

本当のお父さんやお姉ちゃんは、
どうしてるんだろう?
ずっと前、家族旅行で東京ディズニーランドに、
行った時は楽しかったなぁー。
アトラクション観たり、乗り物にのったり、レストランで食事したり、
お土産いっぱい買ったり……。
みんなで楽しかったのに、あんなに楽しかったのに!
本当の家族だから……幸せだったんだ。

今は毎日毎日、新しいお父さんに殴られてる。
どんなに泣いて頼んでも許してくれない!
「屑」とか、「死ね!」とか怒鳴りながら、
棒で叩いたり、足で蹴ったりする。
痛くて気を失ったら……べランダに放り出される。
もう……限界だよ……あたし……。

……どうして、誰も助けてくれないの?
学校の先生にも言ったんだ「新しいお父さんに殴られた」って、
お友だちにも「お父さんが怖い!」って泣いたのに……。
みんな遠巻きに見ているだけで知らん顔してる。
誰も……誰も……助けてくれない!

逆に、お父さんに、
「殴られたって、言ってますが本当ですか?」
先生が訊きにきたから……お父さんを怒らせてしまって、
学校にも行かせて貰えなくなったし、
前より、もっともっと酷く殴られるようになった!

大人の言い分ばかり信じて……。
子どもの叫び声なんて、誰も聴いてないんだ。
大人たちは子どもを守ってくれないの?
あたし、誰に、誰に助けを求めたら良かったんだろう?

もうイヤだ! 楽になりたい!
毎日毎日、殴られるのはイヤだぁ―――!!

苦しいよぉー、苦しいよぉー。
身体中痛くて……苦しいよ……。
誰か助けにきてください。
お父さん、お姉ちゃん、先生、お友だち……。
誰か、誰か……お願いだから気づいてよ。

こんなところでひとりぼっちで死ぬのは、
……寂しいよ。
お母さん……お母さん……お母さん……。

……助けてよ。
あたし良い子になるから……。
お母さん、助けて………………よ。


………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………。


あぁ!あたしの身体から……魂が抜けていく――。
もう苦しくないよ!
お腹も空いてないし、身体中が痛くないもん。

ベランダで死んでいる。
痩せて、身体中が痣だらけのあたしが……。
悲しそうな顔であたしが死んでいる!

……お部屋の中ではお母さんたちが、
テレビ見ながら、おやつ食べてる。
あたしの存在なんか忘れちゃってるのかなぁー?

あぁー、お月さまがとってもきれいだ。
まだ、あたしがちっちゃい頃に、
お母さんに抱っこされて見た、
あの月さまにも手が届くかなぁー?

今度、生まれ変わったら……。
あたし、お花になりたい。

みんなに「きれいだね」って褒められて
そして枯れちゃうんだ。
短くてもいいから、ちゃんと愛されたい。


それでいいんだ。 それがいいんだ!


完。



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創作小説・詩
             
by utakatarennka | 2017-03-04 15:55 | 現代小説

かんどう脳 ⑨

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第五話 《 虐待 》悲しいオモチャ ①

場所:警察の取り調べ室、若い娘と初老の刑事

 【 その一 虐待した親 】

ええーっ! 刑事さん、いぢめてないよ。
虐待。なによ、それ? ネグレクト……意味わかんなーい。

ふぅーん、育児放棄って意味なん? ちゃんと食べさせてたよ。
モモカはポッキーチョコとプッチンプリンが好きだから毎日あげてた。
栄養? だってぇ~子どもは野菜とか好きくないじゃん。
無理やり食べさせたら可哀相だしぃー。

てっ、なんで? うちがこんなとこに連れてこられんとアカンのん!
刑事さん、あれは……うちのせいと違うし、うちとモモカは仲良し親子やった。
写メもいっぱい撮ったよ、見たい?
 ねぇー、刑事さん、うちのスマホ返してよ。
友達にLINE返されへんやん。 超ムカつくわ!

うちの歳? こないだ19になったんよ。
モモカは2歳で、うちが高二の時にできてん。父親……?
 さぁー誰か分からへん。
みんなでシンナーでラリっててやってできた子やもん。
最初はうち妊娠に気づかなくて……
生理止まっちゃうし、おっぱいが張ってくるし、
ヘンやなぁーって思ってたんよ。

なんで誰かに相談しなかったかって?
だってぇー、親にバレたら叱られるもん、ヤダヤダ―――!!
だけど段々お腹が大きくなってきて制服のスカートが入らないから、
安全ピンで留めたりしてたんよ。
ある日、お風呂に入ってるとき、着替え持ってきたママに見つかっちゃった。
そんときの驚いたママの顔ったらマジ笑える。
ぎゃはははっ

そんでもぉー、めっちゃ怒られて大騒ぎになったんよ!
あくる日、さっそく産婦人科に連れていかれて、検査したら七ヶ月過ぎてから、
もう堕せないから、産むしかないって言われた。
それ聞いて、ママ泣いちゃってさぁーおっかしいの!

パパ? うん……パパも世間体が悪いって怒ったけど……。
自分も浮気ばっかして、家に帰ってこないくせにー!
うちばっかり責めるんだよ、おかしくねぇー?
両親がバカ親だから、うちもこんなことになっちゃったんよ。
ねぇー、そう思うでしょう? 刑事さんも。

仕方ないから……高校は三年で辞めて、モモカ産んだの。
陣痛めっちゃ痛くてさぁー、「痛い、痛い!」って大泣きしたら……。
看護師さんに怒鳴られたんよ。
「そんなことでは立派な母親になれません!」って。
うっさいよ! だってぇー、マジ痛かったんだもん。
刑事さんは男だから分かんないでしょう?
赤ちゃんって玉子みたいにぷるんって産めたらイイのにねぇ~♪
あはははっ

ねぇーねぇー、刑事さん、お腹がすいたよぉー。
取り調べ中って、かつ丼食べさせてくれるって、ホント?
喉も渇いたし、コーラ飲みたいよぉー。
えぇーっ! 出ないの? マジ最悪……。
じゃあー『黙秘権』使っちゃうもんねぇー。

バンッ!!

「ふざけるなっ!」って、机叩かなくてもイイじゃん!
刑事さんの顔、マジ怖いよぉー。
「子どもに申し訳ないと思わないのか」って言われても……。
まさか、あんなことになると思わなかったし……。

なんでひとりで育てられないのに実家から連れ出したかって?
うーんと……ママがモモカが三歳になったら、養子にだすっていうの。
だってぇー、モモカはうちが産んだんよ。
うちのもんや! ママの勝手でよそにやるのイヤだったもん!
それで、モモカを連れて家出したんよ。
うん、三ヶ月前にね。

最初、ダチの家を点々としてたけど……。
子連れだと、泣いたりすると嫌われちゃうんだ。
それにお金もないし……困ってたら、ダチが「おっちゃん」を紹介してくれたんよ。
おっちゃんは建築会社の社長でお金持っていて、服とか買ってくれたしぃー。
モモカにもオモチャ買ってくれるし、イイ人やねん♪

おっちゃんの歳? うちのパパより3つくらい若いかなぁー?
奥さんいるんだけど、若い子が好きだって言ってたしぃー。
それでおっちゃんがアパート借りてくれて、三人で暮らし始めたんよ。

……うん、そうだけどお金もくれるし、奥さんいても関係ない。
だけど、モモカ人見知りがはげしくて……。
おっちゃんとHやりだすとピーピー泣いてうるさいんよ。
邪魔だし……おっちゃんも怒るから……口にガムテープして手足縛って、
押し入れに放り込んでいたの。
おっちゃんとHしてる間はずーっとね。

可哀相なのは分かってるけど……。
うちも楽しみたいもん。一日中子どもの世話なんかやってられないよ。
ダチはみんな遊びまくってるのに……うちだけ損や。
うちかて自由が欲しかっただけや!

何日放置してたかって?
おっちゃんが旅行にいこうって言ったから……子連れだと楽しくないしぃー。
おやつとジュースを入れて、モモカをトイレに閉じ込めた。
窓もないし……声が漏れないようにトイレのドアをガムテープで目張りした。
最初は1~2日で帰るつもりだったけど、ダチと会ってゲーセンに行ったり、
カラオケしたりして遊びまわってたら……
子どものことなんか忘れちゃったんだ。

えっ! モモカの身体にいっぱいアザがあったって?
う~ん……だってぇー、おしっこも教えないで漏らしちゃうし、食べるの遅いし、
ピーピー泣くし、「ママ、ママー」ってうっとうしいもん。
だからイライラして叩いちゃうこともあった。

虐待? ちゃうちゃう!
しつけやん! 親だからモモカにしつけで叩いただけやしぃー。
煙草の火傷?
……あれはおっちゃんが泣きやまないからってやったんや!
うちとちゃうもん! おっちゃんがやったんでぇー。

刑事さんは、しつけとちゃう、虐待や……ゆうの?
けど……うちかて子どものころは成績悪かったり、帰りが遅いからと、
しょっちゅう親にシバカレたもん。
布団タタキやホウキでバシバシ叩かれたんやから!
あんときヒステリー起こしてギャーギャー叫びながら、
ママはこれは『しつけ』や、って言ったでぇー!
パパが浮気して、そのストレスをうちにぶつけとっただけやんか!
親からされたこと、子どもにもしただけやしぃー。

うちかて……親の暴力にずっとガマンしてたんや!
高校に入ってからグレて、親の財布からお金ちょろまかしたり、夜遊びしたら、
うちの説教たれたから、ママに蹴り入れたったら、ビビって、
なにもうちに言われへんようになってん。
バカ親め、ざまぁーみろや!
あはははっ

子どもがおるから、母親らしいことしろって?
刑事さん、そやかて、うちはモモカ可愛がってたし。
可愛い服も着せてたし、ヘアースタイルもいつも可愛くしてたんよ。
ホンマやで、マネキュアやカラーリングまでして
スマホで写メをダチに送って自慢していたくらいやもん。

「子どもはオモチャと違う!」って、
そんなに大声で怒鳴らんでもええやん。
刑事さんも短気やなぁー。
だってぇー、可愛くしてあげるのが親の愛情ちゃうのん?

ん? 可愛がってるなら、なんで放置したかって?
うちかて……モモカ連れて家出した時には……
ひとりでも育てようって、強く思ってたんよ。
刑事さん、ホンマやで、ホンマにそう思ってたんやっ!

けど……けどなぁ……。
今までは、実家でママが手伝ってくれてた育児も
ひとりでやってみたら……すんごく大変やった。
四六時中、子どもに付きまとわれて……自由がないし。
誰も助けてくれへんし、どうしたらいいのか分からへん!

子育てが面倒臭くなった。
なんで実家に預けないかって?
だってぇー、ママやパパに見つかったら連れ戻されるし、
モモカを養子にだされちゃうもん。
うちが痛い思いして産んだのに……イヤや、イヤや。

子どもはオモチャでも所有物でもない……。
そらそうやけど、うちがモモカ抱えて困ってても、
誰も助けてくれへんやん!
モモカがうちの所有物やない言うなら……。
誰のもんやの? 代わりに誰かが面倒みてくれるんか?

世間なんか冷たいもんや!
悪いことしたら怒るくせに、困ってるときは知らんぷりしてる。
失敗は責めるくせに、間違いには目をつぶるのは、
なんでやの?

なんで刑事さん笑ってんの?
屁理屈が面白いって?
失礼な刑事さんやねぇー。
ムカつくわ!

……刑事さん。
うち、モモカに悪いことしたって反省してるしぃー。
これからは優しいママになるから、
モモカに謝りたい。
ごめんねっていっぱい言いたいねん。
もう絶対に叩いたり、つねったりせぇへんから……。
お願い……。

モモカ、どうなったか聞かせて欲しい。
うん、うん……うん……。
う…………ん。
そうやったん。

トイレにトイレットペーパー詰めて……。
水を流したから、水が溢れて、下の部屋まで漏れたから、
管理人さんがうちの部屋を見にきて発見されたんやね。
そっかぁー。
……モモカ死ななくて良かった。

一日遅れてたら死んでたかも?
瀕死やったけど……寸前で助かって、
今は病院にいるんやね。
えっ! うちの両親が病院にきてるの?
ママとパパが泣いてた?
そう、うちらを心配してたんや。

モモカ、ゴメンねぇー。
うっううう……涙が……。
うっううう……ヤバい、マスカラとれる。
目の周りクマさんや。

うち、なんで……。
あんなヒドイことをモモカにしたのかわからへん。
なにもかも面倒臭くなって逃げ出したかったんや!
いろんな責任や生活から逃げ出して……。
ひとりで楽になりたかったんやと思う。
ヤバイって分かってたけど……ね。
モモカ、放置してる最中はどうにでもなれって気分やった。

ねぇー、刑事さん。
うち刑務所に入れられるん?
モモカやママやパパとも会われへんの?
何年くらい、ムショ暮らし?

……そう。
裁判しないと分からんの?
うちはまだ未成年やし、少しは軽いかなぁー。
もちろん反省してるしぃー。
ホンマやし、今度は絶対に良いママになるから。



うっ!
気持ち悪い!
吐きそうや……。

……刑事さん!
つわりでメッチャ気持ち悪いねん。
取り調べ、もう勘弁してよぉー。

うん、お腹に赤ちゃんいる。
たぶん、おっちゃんの子。
今度は男の子がイイなぁー。
ヒーローみたいな強い子に育てるねん!
あはははっ


                    終わりかな……?



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-03 15:53 | 現代小説

かんどう脳 ⑧

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第四話 マニキュア ③

 朝方、枕もとに置いた携帯で起こされた。
 時計を見れば五時半……誰がこんな早い時間から、液晶画面には「紗江子」の名前が表示されている。
「もし……もし……」
 半分寝ぼけマナコで通話する。
「ああ……あ、あなた……あなた……」
 ひどく取り乱していて、なにを言っているのかよく分からない。
「どうしたんだ? 落ち着いて話せ……」
 紗江子の声の調子に只ならぬものを感じて、俺の眠気も一気に飛んだ。
「莉子が……莉子が倒れた……救急車で運ばれたけど……ううぅ……」 最後は泣き声に変わっていった。
 なんとか搬送先の病院を訊き出して、俺は急いで病院に向かった。通りで拾ったタクシーの中でどうしようもない悪い予感に指先がブルブルと震えた。莉子、莉子に、いったいなにが起こったんだ……?

 病院の受付で訊いて急いでいったら、莉子の病室にはだれもいなかった――。
 どうしたものかと病室の中で右往左往していたら、ベッドを片付けにきた看護師が、遺体を病理解剖するので手術室に運んだと告げられた。
「病理解剖だと!?」
 その言葉を聞いた、途端、我が耳を疑った。
 解剖ということは……死体? 莉子は亡なくなっている? まさか、嘘だ! そんなこと信じないぞ……昨日の夕方まで一緒に居たんだ。十ヶ月振りに娘といろいろ話をした、そして、もう一度、家族をやり直そうと俺は誓った。
 それなのに……それなのに、嘘だろう? こんなことが信じられるかっ!

 手術室の前の長椅子に、魂の抜けた人形みたいに紗江子が茫然と座っていた――。
 こんな早朝でだれも駆けつけてはくれないのだろう。元々、ひとり娘の紗江子には親戚は少ない。俺の方の親戚なんか付き合いもないし……。
 紗江子はショックが強過ぎて、泣くこともできない、事実を受け入れられない状態なのだろう。虚ろな眼で……泣き笑いみたいな表情だった。
「紗江子……」
 ピクリとも動かない。
「おい、紗江子……」
 肩に手をかけて、軽く揺らすと俺を見て、一瞬薄く笑った。
「あなた……」
 そう言うと、見る見る瞳に涙が溢れ出して、いきなり俺に縋って嗚咽を漏らすと、大声で赤子のように号泣した。そんな妻を抱きしめて、俺も心の中で号泣していた。
 まさか、まだ十六歳になったばかりの娘が親より先に逝くなんて……そんな理不尽をどうやって受け入れたらいいんだ。
 これはきっと悪夢なんだ! 俺はまだベッドで眠っている……。なあ、そうなんだろう? だれか夢だといってくれい!
 ひと気のない、早朝の病院の廊下で夫婦は抱き合って泣いた――。

 病名は「急性白血病」だと医師に告げられた。

 昨夜、十時半頃に紗江子が自宅に戻ったところ、リビングで莉子が大量の鼻血を流して意識不明で倒れていたという。一週間ほど前から、体調が悪いと訴えていたが、微熱があるし、たぶん風邪くらいだと思っていた。
 三日前から学校を休んでいたが、もう高校生なので、ひとりで病院に行って診察して貰うように言い置いて、紗江子はいつものように仕事に出掛けたという。七時頃に先輩の家に行くとメールがあったので、ああ、大したことなかったのだと安心していた。
 それが……帰ったら、真っ赤な血の海で莉子が倒れていたので、慌てて救急車を呼んだが、意識が戻ることなく、搬送先の病院でそのまま息を引き取った。
 病理解剖の結果、脳内出血を起こしていたらしい。

 俺は莉子の通夜も葬儀もなんだか他人事をみているような気分だった。
 ショックが強過ぎて、莉子の死をどうしても受け入れられない。――きっと、紗江子もそうだろう。ずっと放心したように……押し黙ったまま、俺に寄り添っている。
 だが、火葬場で白い骨になった莉子を見た瞬間、急に大声で「いやー、いやー!」と赤子のように駄々を捏ねて、人前で号泣した。骨になってしまった我が子の姿を受け入れられず、紗江子は泣き叫ぶ。とてもあの敏腕、女社長とは思えない取り乱し方だった。――俺だって、妻と一緒に泣き叫びたかった。
 あまり残酷な運命、親が子どもの骨を拾うなんて……そんなことを百分の一でも想像したならば、絶対に子どもなんて作らなかった! 莉子の未来は閉ざされて、俺たち夫婦の夢は挫かれた。

 ――俺は紗江子の元へ帰っていった。とても彼女をひとりにはできない。
 子どもを亡くした夫婦ふたりはもう食べていけるだけの収入さえあれば、それで充分だった。
 デザイン会社は父親の代から勤めている信頼できる社員に任せることにした。俺は会社からから依頼されたイラストや企画レイアウトを自宅でするだけの仕事になった。
 今までの罪滅ぼしに、出来るだけ紗江子の傍に居てやろうと思っている。

 紗江子はすっかり無口になって、なにもしゃべらなくなった。
 亡くなった日から、そのままの状態にしてある莉子の部屋に入っては、寝乱れたままのベッドや放り投げられている学生鞄、読みかけの雑誌、そのひとつひとつを手に触れて……静かに涙を流している。
「紗江子……」
「…………」
「泣くな、泣いても莉子は、この部屋には戻って来ない」
「――あたしのせいだわ。ちゃんと健康管理してやらなかったから……仕事に追われて、外食や買ってきた惣菜ばかり食べさせていたから……それで、あんな病気になったのよ」
 紗江子は莉子の死は自分のせいだと深い後悔と自責の念を持っていた。
「違うよ。――俺が悪いんだ。自分勝手なことばかりして、おまえに仕事の負担をかけたせいで、莉子のことをちゃんしてやれなかったんだ」
「たった十六で死なせてしまった……もっと生きて、花嫁衣装も着させてあげたかったのに……莉子、ママを許して……」
 泣きじゃくる紗江子を優しく抱きしめる。――初めて、俺は妻が愛おしいと思った。
 こんなことになったのは全部、この俺が悪いんだ。もっと人生を真面目に生きていたら……莉子は死ななくて済んだのかもしれない。
 俺たち夫婦の不仲が莉子にとって大きなストレスだったことは間違いない、それがほんの少しでも影響してるとしたら……莉子の死を親の責任だとして、俺たちは死ぬまで自分自身を責め続けるだろう。
「父親としても、夫としても……俺は最低の人間だった。許してくれ莉子、紗江子」
 そのとき、床に頭を擦りつけて、初めて妻に謝罪した。

「俺は頼りない夫かもしれないけれど、悲しみをふたりで分かち合うことくらいはできる。おまえの傍にいてもいいか?」
「あなた……」
 その言葉に紗江子の瞳から大粒の涙が零れた。
 たぶんこれは俺にとって初めてのプロポーズだ。我が子を亡くして血の絆はなくなったが、まだ夫婦の『絆』が残っていた。
 莉子が俺に取り戻して欲しいと願っていたのは、これだったのだろうか?
「ふたりで莉子に罪滅ぼししよう」
 この十字架を背負って、ふたりで寄り添って生きていこう。


 天国にいる莉子へ
皮肉なことに、莉子おまえを亡くして父さんは初めてママを本気で愛することができた。かけがいのない我が子を喪ったという、共通の苦しみが俺たちの心に深い絆を作った。

『ママを頼んだよ』

 おまえはダイイングメッセージとして、その言葉を俺に伝えるためにきたか。
 万引きまでして、俺に伝えたいことを言った、あの最後の日は、おまえと少しだけ本音で話ができたのが嬉しいよ。
 小さい時から莉子は勘の鋭い子どもだったから、自分の運命が見えていたんだろうか? それで大好きなママのことが心配で、俺に頼みにきたんだな。
 心配するな! ママを大事にするから、決してママの傍から離れない。

 ――天国にいる莉子に誓うよ。
 いつか、ママの笑顔が戻るまで……。
 マニキュアのように、ママの心の傷をコーティングしてやるさ!


― 完 ―



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-23 20:49 | 現代小説

かんどう脳 ⑦

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第四話 マニキュア ②

 ドラッグストアから駅に向かって親子で歩いていく。駅前は帰宅途中のサラリーマンたちの人の群れで賑わっていた。
 俺は万引きをした娘をどうやって叱ればいいのか考えていた。
 昔から人を責めたり、怒ったりするが苦手な人間だったから、そういう場面に出くわしたら、いつも曖昧な態度で逃げてきた。――だが、さすがに今回はそうはいかない。
 莉子はひと言もしゃべらない、なにがあってこんなことをしたのか分からないが……十ヶ月振りに見る娘は、蒼白い顔で俯いて歩いていた。
「なぜ、父さんを呼んだんだ?」
「…………」
「ママじゃなくて、俺を呼んだのは訳があるのか?」
「だって、ママは忙しいから……」
 紗江子はいつも遅くまで会社に残って仕事をしている。そうか、俺みたいな仕事をしない社員のせいで、社長はいつも残業ばかりだ。莉子の言葉に初めて少し反省した。
「――そうだな、家まで送ろうか?」
「ううん。お父さんの家に行きたい」
「えっ!」
「ダメなの?」
 探るような目で莉子が俺を見た。
「いいや、構わないけど……部屋汚いぞ、いいのか?」
「うん」
 たぶん、引っ越ししてから二、三度しか掃除をしたことがない。しかも掃除機がないので適当にホウキでパッパッと掃いておしまいという、いい加減さである。俺は女を部屋に連れ込むのが嫌いなので清潔にしておく必要もないのだ。

『クラブの先輩の家に行くから、帰り遅くなります』
 紗江子にメールを送ってから、莉子は俺の部屋に付いてきた。
 ちょうど玄関に唐揚げ弁当があったので、食べるかと訊くと「うん」と頷いた。冷めていたのでレンジで温めて、冷蔵庫の缶コーヒーと一緒に手渡した。
 ふと、いつも帰りが遅い紗江子だが、莉子の食事なんかどうしているのか気になった。俺が一緒に暮らしていた頃は、紗江子の帰りが遅い日には莉子とファミレスにいったり、ふたりで料理を作ったりしていた。
 マンションのダイニングキッチンで、ひとりぼっちの食事をしている莉子の姿を想像すると……やけに切なくなった。
 黙々とお弁当を食べている莉子の側で、俺は缶ビールを夕飯の替わりにする。
 やはり、なぜ万引きをしたのか理由を訊かなくてはならないだろう。叱るのは理由を訊いてからにしようと思い、ひと口ビールを呑んでから莉子に話しかけた。

「ママと何かあったのか?」
「別に……」
「学校でイジメられてるとか?」
「ないよ」
「じゃあ、どうして万引きなんかしたんだ」
 俺の問いに、莉子は箸を置いて食べるのを止めた。
「――父さんを怒らせたかったから」
「えっ?」
 莉子の言葉に驚いた。
「父さんって、昔から本気で莉子を叱ったり、怒ったりしたことがないよね? いつも物分かりが良いんだ。いつだってそう、傍観者の振りして見て見ぬ振りをしている。面倒なことや厄介なことになったら、素知らぬ振りして逃げてばかりだもん。お父さんって自分のことしか興味がないんだね? それってエゴイストだよ」
 無口な莉子が一気にしゃべった。
 俺はエゴイストか? たしかにそう言われればそうかもしれない。他人に腹を立てないのは、しょせん、どうでもいいと思っているからで、昔から他人とトラブルを起こすのが嫌いだった。だから相手が怒りだす前に、いつも適当に謝ってことを済ませてきた。
 エゴイストねぇー、自分ではそう思っていなかったが、莉子に言われると……なるほど、そうかもしれないと妙に納得した。
「父さんは生きるのがヘタな人間なんだ」
「だから、自分だけ楽になろうとする訳?」
「いいや、そうじゃないけど……」
「そんなの言い訳になってないわ!」
 今日は母娘で俺のことを責めやがる。
 十六歳の娘からこんな辛辣な人間批判されようとは思わなかった。――俺が家を出た後、十ヶ月の間になにがあったんだ?

「さっきドラッグストアの店長が、俺に奥さんをお大事にって言ったけど、あれはどういう意味なんだ?」
 話題をそれとなく変えた。
「あれは……ママが癌で入院しているって言ったから……」
「ええー? 紗江子は、今日も俺に会社で怒鳴っていたぞ」
「嘘よ。そう言って同情を引いたら、少しでも赦して貰えるかと思って……」
「そうか、さすが俺の娘だ。おまえも悪知恵がはたらくようになったなぁー、あははっ」
 俺が茶化すと、莉子がむきになっていい返した。
「父さんは何も分かってない! ママ身体は元気だけど、心はボロボロなんだよ」
「……なんで?」
「ママは仕事で遅くに帰ってきて、いつもキッチンのテーブルでため息つきながら、お酒飲んでいるんだよ。きっと寂しくて悲しいんだと思う。お父さんが出ていったから……」
「まさか? あいつは俺の顔を見るといつも憎々しげに嫌味ばかり言いやがる」
「ママは今でもお父さんが好きなんだよ。――実は離婚届けもまだ役所に持っていってないの」
「ホントに? 紗江子がどうして旧姓に戻らないのか不思議だったが、莉子の名字が変わると世間体が悪いからだと思っていた。そうか……まだ夫婦のまんまだったのか……」
 莉子の口から初めて紗江子の心情を聞いた。
 俺の前ではいつも突っ張っているが、こんなに傷ついていたとは想像もしていなかった。あいつは強い女だと思っていただけに……意外だった。

 元々、この結婚は紗江子が一方的に俺に惚れたところから始まった。
 当時父親の会社に入ったばかりの俺に、紗江子はなにかと親切にしてくれた。いつの間にか、お昼のお弁当まで作って持ってきてくれていた。
 だが俺は紗江子以外にも二人の女と付き合っていた。ひとりは美大時代からの女友だちで紗江子と付き合うまでは半同棲していた。もう一人は十歳年上の人妻でお小遣いをくれる、セックスだけの関係だった。
 たまたま、紗江子が妊娠したので結婚したまでで、ホントのところ俺は、三人の女のだれでも良かったのかもしれない。
 ぶっちゃけ、俺という人間は今まで女を本気で愛したことがない。愛という名の元で、自由を拘束されたり、干渉されるのが嫌だから、いつも女たちとは距離を置いて付き合っていた。女にも、仕事にも、家庭にも、そんな足枷で縛られるのは真っ平御免だ!
 ――たとえば、雲のようにふわふわと自由気ままに生きていたかった。
 そんな俺だから、社長の椅子を紗江子に譲ったら、やれやれ……肩の荷が下りたとばかりに、妻が経営の建て直しに躍起になっている姿を尻目に、会社の金で遊び回っていた。そして水商売の女との浮気がバレて、紗江子の逆鱗に触れた。
 離婚届けの用紙を突き付けられた時も、《まあ、紗江子が怒るのも当然だわなぁー》と半分あきらめムードで判子を押したのだ。
 まさか、こんな俺にまだ未練を持っていることが信じられない。

「莉子に前から聞きたかったんだが、どうして俺は“父さん”で、紗江子は“ママ”なんだ? 普通、両親の呼び方って揃えるもんだろう?」
「うん。お父さんは『家族』だけど、ママは『身内』だもん」
「身内? そうかママは莉子にとって身内なんだ」
 たしかに母と子は胎児のときは子宮の中で臍の緒で繋がっている、こればかりは男には勝てない『絆』の深さがある。――だから父親は家庭の中で孤独になってしまうのかもしれない。しょせん、男は『家族』しかなれない存在なのだから……。
「――だから、莉子にはママの気持ちが分かるんだ」
「そうか、羨ましいなあ。だったら俺の入り込み余地なんかないじゃないか」
 さっき娘の言葉に、柄にもなく俺は傷ついていた。
「違うよ! ママは強がって、父さんには突っ張っているけど、本当は父さんがいないとダメなんだ。キッチンでため息つきながらお酒呑んでるママの姿なんか見たくないよ。ママ、本当は父さんに帰ってきて欲しいんだ。今でも父さんが使っていた部屋をきれいに掃除しているんだから……あたし父さんもママも好きだよ。どっちか親を選ぶなんて……できないよ! お願い、ママの元へ帰ってきて……」
 いつもは無口な莉子がひどく饒舌なのに俺は驚いた。
 そんなにママのことが心配なのか? 万引きをしたのも俺に訴えたいことがあったから? 今、目の前にいる娘は俺の知っている莉子ではないような気がした。
 しかし、そこまでして両親を仲直りさせたいと思う気持ちが健気だった。
「――そうか、一度ママと話し合ってみるよ」
「お願い……」
 さすがの俺もひとり娘の頼みには弱い。
 言いたいことだけ言ったら、胸がスッとしたのか、携帯の時計をチラッと見て「もう帰るわ」立ち上がって玄関の方へ歩いていく、時刻は八時を少し過ぎたところだ。心配なので家まで送ると俺は言ったが、莉子は通りに出たらタクシーを拾って帰るからとすげなく断った。
 じゃあタクシーを拾うまで、ふたりで通りに出て探そうと言ったら、タイミングよく空車がきたので、手を上げて停車して貰った。久しぶりに会った娘と少しでも長く居たかった、そんな子どもみたいな俺がいる。
 タクシーに乗り込む時、俺の方を向いて、
『ママを頼んだよ』
莉子が薄く笑った、その透明の笑顔が儚げで切なくなった。

 タクシーを見送った後、ひとりで部屋に戻った。――見れば、莉子の座っていた場所にぽつんと赤いマニキュアが置かれていた。万引きした品物なので俺のとこに置いていったんだろう。
 なぜ、マニキュアなんか……ふと思った、家族は長く一緒に暮らしていると、いろんなモノが剝がれて、嫌なモノまで見えてくる。その度にネイルを塗って、傷を隠して体裁を整えて暮らしていけばいいってことなんだ。
 もう一度、家族三人でやり直そうかと俺は考え始めていた。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-22 20:05 | 現代小説

かんどう脳 ⑥

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第四話 マニキュア ①

「おはよう……」
 ドアを開けて挨拶をした途端に、俺の目の前にいきなり冊子のようなものが飛んできた。
「遅い! なにやってたの? もう十一時過ぎよ、打ち合わせは十時からとメールしたでしょう!」
 女社長はカンカンに怒っている。
 無理もない遅刻はこれで三回目だ。やる気があるのかと問われたら……さあ、どうだろうか? と答えるしかない、この俺だった。
 俺、河野啓司(こうの けいじ)は、バツ一、中年、金なし、やる気なしの最悪の人間だ。十ヶ月前に妻と離婚、原因は俺の浮気がバレて……浮気癖の治らない夫に、ついに妻の堪忍袋の緒が切れた! 目の前に離婚届けの用紙を突き付けられた。
 そして俺は家から追い出されてしまったのだ。――元々マンションは妻の名義だったので、俺はわずかな荷物を持って家から出ていった。今は小さなワンルームマンションでひとり暮らしだ。
 なによりも辛いのは……今年、高校生になったばかりの最愛の娘、莉子(りこ)と会えないことだった。これも身から出た錆なので仕方ないか……トホホ。
 さて、目の前で俺に悪口雑言、怒りのオーラで罵る女社長こそ、なにを隠そう、元妻の紗江子(さえこ)である。

 元々俺の勤めているデザイン事務所は、紗江子の父親の会社だった。
 美術大学を卒業したが就職もしないでブラブラしていた俺に、大学の先輩がこの会社を紹介してくれた。従業員十数人でやっているこじんまりしたデザイン会社だが、居心地は悪くなかった。
 最初はアルバイトのつもりで軽い気持ちで入社したが、当時父親の会社で経理事務をやっていた、社長の娘の紗江子とデキちゃって……。
 そのまま結婚して、婿養子みたいなカタチで義父の会社で働いていた。

 生まれついてダメな男のオーラが漂う俺は、今までの人生なんとなく女にはモテてきた。
 今も社内では十歳年下の派遣社員の女と付き合っているし、行きつけの飲み屋の女将とはもう五、六年の付き合いだ。
 たぶん俺という男は会社員より、ヒモかジゴロが向いているんだろう――。出来れば、働かないで《女に食わせてもらいてぇー》みたいな。
 そんなことを考えながら社長紗江子の長い説教を馬耳東風で聴いていた。

「――で、分かってるの? 河野さん!」
「……はい」
「遅刻の理由はなんなの?」
「いやそのう、目覚ましのアラームが鳴らなかったんで……」
 俺の言葉に彼女は眉根を寄せてこちらを睨んだ。なにか感に触ったみたいだ。
「アラームが鳴らなかったとか、靴紐がうまく結べなかったとか……いつもそうやって、だれかのせいにするのね。それで世の中渡っていけると思ってるの?」
 無責任な俺の性格を知ってるくせに、今さら責められてもなあー。
「こんなやる気のない人は、もうクビにしたっていいのよ!」
「……はあ、スミマセン」
 俺は気のない返答で謝った。一応、こっちは雇われの身だし……。

 最後に捨て台詞のように、紗江子が俺を睨みつけて言った。
「いい加減、その甘えた性格を直したらどうなの? 男として最低よ!」
 もう夫婦でもない俺たちは、完全に立場が逆転している。離婚した時点で、なぜ俺を会社から放り出さなかったのが、今思えば不思議なくらいだった。
 男のプライドなんか糞喰らえ! この年で失業者にだけはなりたくない。
「申し訳ありません。以後、気をつけますから……」
 元妻に平頭低身で謝った。
 なんだかんだ言っても、お情けで会社に置いて貰っている俺なんだから、いい返す言葉もない――。

 三年前、義父の社長が急死した。
 そのまま経営を引き継いで新社長になった俺だが、経営手腕がまったくない、社長になった途端に注文は減るわ……、顧客は離れるわ……、ライバル会社にごっそり仕事を盗られるわ、もう散々だった。忽ち会社が左前になってしまった。
会社の経理を見ていた妻に言われた。
「あなたに任せていたら、このままでは父の会社が倒産してしまうわ」
 俺はギブアップして、経営は社長の娘の紗江子にバトンタッチ。そこから、彼女の頑張りは奇跡だった。
 離れた顧客の一軒一軒を回って、亡き社長の娘の立場を利用して、泣きついて仕事を回して貰った。お陰でライバル会社に盗られた仕事も少しづつ取り返してきた。その上、新しく出来たファッションビルのデザインや宣伝の仕事まで取ってくるし、タウン誌やネットビジネスも展開していた。
 紗江子には生まれつき経営手腕があったのだ。
 それに比べて俺ときたら……社長なんて元々器ではなかったし、無能振りが露呈しただけだった。――それでも俺だって必死だった、苦手な営業だって頑張っていたんだ。けれども……経営状態が悪くなる一方だったので、だれも俺の頑張りなんて評価してはくれない。

 ――と、言ってみても、今となっては愚痴でしかない。
 会社の赤字の補てんもせず、平社員に降格したといっても、会社に置いて貰っているだけでも感謝すべきなんだろう。けれど、やる気なんていつまで経っても出そうもない、この俺だから……。
「じゃあ、営業にいってきまーす」
 あの後、会社から飛び出し、パチンコ屋で時間を潰して、自分のワンルームマンションに直帰しようとした。
 途中、派遣社員の女から『今夜、会いたい』と何度もメールがきたが、そんな気分になれなかったのでメールは無視していた。
 駅前でほか弁を買って、唐揚げ弁当の唐揚げをつまみにビールでも呑むか、そんなことを考えながら部屋の鍵を開けていたら、ふいに携帯が鳴った。《しつこいなぁーまた派遣の女か?》と思って、液晶画面を確認すると知らない電話番号なので無視しようか悩んだが……何となく受信してしまった。

「もしもし、河野ですが……」
「河野莉子さんの保護者の方ですか?」
 知らない男の声に問われた。
「はあ、河野莉子はうちの娘ですが……」
 その男は駅前のドラッグストアの店長だと名乗った。
 店の商品を娘の莉子が万引きしたというのである。今から保護者の方にきていただきたいと、丁寧だが厳しい口調で言われた。
 買ってきた唐揚げ弁当を玄関に置いたまま、俺は急いでその店へ向かった。

 大手ドラッグチェーンの店舗には薬だけではなく、インスタント食品や菓子類、飲料水、日用雑貨、化粧品まで品揃えが豊富である。生鮮食料品以外なんでも売られていた。
 その店内に入っていって、品出しをしていた女店員に簡単に事情を説明して、店長室へ案内して貰うことにした。たぶん万引き事件なんて、この店ではさほど珍しくもないのだろう。別に驚く様子もなく、彼女は淡々と事務的に取り告いでくれた。

 ドラッグストアの奥の店長室に案内された。八畳くらいの室内には事務机とパソコン、窓にはブラインド、壁側には段ボールが山積まれていた。その中央に会議用の机とパイプ椅子が並べられていた。
 そのひとつに、制服姿の莉子が項垂れて座っていた。机の上には赤いマニキュアが置かれている。――たぶん、これが万引きした商品なのだろうか?
 パッと見、千円もしないような商品である。欲しいなら自分のお小遣いで買えるはず、しかも真っ赤なマニキュアなんて、本当に欲しくて莉子が万引きしたとは到底思えない……。
 ――毒々しい真っ赤なマニキュア。
 高校一年生の莉子は、小さい時から大人しく手の掛からない子どもだった。家でも学校でも優等生の彼女がどうして万引きなんか? よく我が子が犯罪で捕まったときに、親が「まさか、うちの子に限って……悪いことをするような子どもではありません!」そんなベタなセリフが、俺の頭の中をグルグル回っている。

「あのう、河野莉子の父親ですが……」
 女店員の後から入ってきた俺を、莉子はチラッと見たが、そのまま膝に視線を落とした。
「ああ、どうぞ、こちらに座ってください」
 四十代後半の俺と同じくらいの年の店長が莉子の隣の椅子を勧めた。
 その後、店長は莉子が万引きした経緯について説明したが、しごく単純で制服のポケットにマニキュアを隠して、店から出たところを私服警備員に捕まったらしい。万引きも隠す風もなく、側に人が通っていても堂々とポケットに商品を入れたので、警備員も見ていたらしい。
 なんでまた、そんなバカなことをしたのだろう?
「補導して、すぐにここで話を訊いたら素直に謝って本人も反省してました。単独でどう見ても初犯みたいなので、学校と警察には通報しませんでした」
 助かった! 莉子の入学した女子校はこの辺では有名なお嬢様学校で、万引きしたことが学校にバレたら、間違いなく退学処分になるだろう。

「ありがとうございます」
 俺は思わず、その店長にお礼を言った。
「聴けば……いろいろ事情があって、衝動的にやったみたいだしね。まあ、思春期だから、分からないこともないけど、万引きは犯罪だから見過ごす訳にはいかない」
「ハイ、本人にはよーく言い聞かせますので、スミマセン……」
「わたしにも高校生の子どもがいますから、出来るだけことを荒立てたくないんです」
「本当に申し訳ありません」
 まったく、今日の俺は謝ってばかりだ。
「じゃあ、これに著名、捺印お願いしますよ」
 書類を渡された、それは保護者としての念書だった。二度と万引きをしないように家庭で教育します。今度やったら警察に通報しますよ。そういう内容が書かれていた。
「じゃあ、奥さんお大事に……」
 やっと解放された俺たち親子は、帰り際に店長から意味不明の言葉を掛けられた。奥さんって、紗江子のことか?
 あいつは俺を怒鳴りつけるほど元気だ――。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-21 15:47 | 現代小説

かんどう脳 ⑤

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第三話 隣の音 ②

そんなある日、隣の部屋からヒステリックに怒鳴る女の声と
大声で泣く子どもの声が聴こえてきた。
ドアがバタンと開いて、ドサッと何かを放り投げる音がして、
再び、ガチャンと乱暴にドアが閉まる音がした。
外から泣き叫ぶ子どもの声がする。
どうやら、子どもを部屋から閉め出したようだ。

咲江はドアチェーンをしたまま、
細めに開けて外の様子を窺った。
子供がうずくまって泣きじゃくっている。
まあ、こんな小さな子を可哀想に……。

「ぼうや、大丈夫?」
思わず声をかけてしまった。
顔を上げた子供のほっぺたが、真っ赤に腫れあがっている。
母親に殴られたのだろう?
ひどいことを……きっと虐待だわ!

「おばちゃんがジュースあげるからね」
咲江は泣いている子供の手に、缶ジュースを握らせた。
泣くのを止めて、子供は美味そうにジュースを飲んでいる。
その時、咲江にある考えが浮かんだ、
そうだ! この子にポポちゃんのことを訊いてみようと――。

「ねぇ、ぼうや、おばちゃん家で犬飼ってるのは知ってる?」
「うん」
「こないだ、マンションから落ちて死んじゃったの……」
「…………」
「ばうや、だれが落としたか知らない?」
「うん、知ってるよ」
こともなげに子供は答えた。
「えぇーっ! ホント? だれが落としたの?」
「うちのママがそこから放り投げた」
マンションのフェンスを指差しながら子どもが言った。

やっぱり! なんてヒドイことを……
咲江は怒りで頬が紅潮するのを感じていた。
「おばちゃん、ここだよ! ここからママが落とした」
子どもはフェンスにぶら下がり、下を指差した。
「ここね、ここからポポちゃんを放り投げたのね!」
子どもと一緒に咲江も下を覗き込んだ、目がくらむような高さだった。
「ここから落ちたのね……」
「うん」
咲江は落ちないように子どもの腰をギュッと掴んだ。

「やめろ―――!!」いきなり、咲江は背後から羽交い絞めにされた。
それはマンションの管理人だった。
「なにすんの? 離してよっ!」
もがきながら咲江は叫んだ。
「ぼうや、大丈夫か?」
管理人は咲江を放し、フェンスにぶら下がった子どもを抱き下ろした。
「奥さん、今、この子を落とそうとしただろう?」
「なに言っているの? 隣の子どもと下を覗いていただけですよ」
子どもは足元にしゃがみ込んでいた。

「ねぇ、ぼうや」
咲江が頭を撫でようとすると、子どもはビクンと身を硬くした。
「その子どもは隣の子どもじゃないよ! 違う階の入居者のお子さんです」
「嘘っ! そんなバカな、たしかに隣の子どもさんですよ」
管理人は咲江の顔をマジマジと見て、ぽつりと言った。

「隣に人なんか住んでいないんだ……」
「ええー?」
咲江は笑い出しそうになった。
「なにを言っているの? 隣から壁を蹴る音が聴こえてくるのよ」
「奥さん、隣の部屋はあなたが引越しする前から空室で、だれも住んではいない」
「……そんな」
咲江は絶句した。
「隣の部屋はずーっと空き部屋なんだ」
「だけど……音が……それに隣の奥さんが子どもを……」
頭の中が混乱して、訳が分からなくなってきた。
「隣が空き部屋なんて嘘よ! 絶対に人が住んでいるわ!!」
咲江は大声で叫んだ。
「隣の音で苦情を言いにきた時から、奥さんの様子がおかしかったから……
わたしはそれとなく、あなたを見張っていました」
「…………」
「他の入居者からも奥さんへの苦情があったんです!
 早朝に大声を出す、ゴミの袋を破くなど……いろいろあります」
「管理人さん、ポポちゃんを隣の奥さんが落としたんです!」

「犬はあなたが放り投げたんだ! 上の階の人が見てました」
「そんな! ま、まさか……」
咲江は頭がクラクラして立っていられない。
「架空の住人を作って、みんなの気を引くために事件を起こした」
「…………」
「ミュンヒハウゼン症候群って知ってますか?」
「はぁ?」
「すべて、あなたの自作自演で妄想なんです!」
管理人は咲江の腕を掴み、こう言った。
「警察に連絡します」
その冷静な声に反応するように、咲江は気を失った。


ドンドンドン……
なんの音だろう?

また、隣から聴こえてきたわ。


― おわり ―


   ※ ミュンヒハウゼン症候群(英語: Münchausen syndrome )は
     虚偽性障害に分類される精神疾患の一種。
     症例として周囲の関心や同情を引くため に病気を装ったり、
     自らの体を傷付けたりするといった行動が見られる。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-20 10:53 | 現代小説

かんどう脳 ④

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第三話 隣の音 ①

ドンドンドン……
なんの音だろう?

はじめ、咲江には分からなかった。
音は明け方になると、隣の部屋から聴こえてくる。
それはだれかが壁を蹴っている音のようだった。
音は毎日続いて、咲江を悩ませた。

長年連れ添った夫が、去年心筋梗塞で帰らぬ人となった。
子どもは男の子が二人いたが、共に世帯を持ち独立していった。
夫を亡くした当座は、ボーとして何も手に付かなかったが……
少しずつ立ち直って、何かを始めようという意欲がやっと出てきた。

手始めに、長年住み慣れた古家を売ることにした。
家は古いが敷地が広かったので、ソコソコの値で売れた。
そのお金で郊外に分譲マンションを購入した。

10階建てのマンションの7階、端っこの角部屋だった。
間取りは2LDK、広いダイニングで日当たりも良好、見晴らしも最高。
咲江には十分な広さで、終の住処はここだと決めた。

ひとり暮らしを始めてから、いろんなことにチャレンジしようと
市民ホールの絵画教室に週に1回通いはじめた。
最初はわくわくしながら通っていたが、教室の中に偉そうに指図する人がいて、
自分の描いた絵に、勝手に色を塗ったりされて……
咲江は怒って辞めてしまった。

40年近く、専業主婦一筋だった咲江は人付き合いが苦手だった。

結局、家に引きこもってしまった咲江のことを
退屈だろうと、近所に住む次男がパソコンを教えにきてくれた。
最初はチンプンカンプンで覚えられないと何度も音を上げたが、
少しずつマウスを操れるようになっていった。
今度もチャレンジ精神で、ブログサイトに登録してみた。

毎日、パソコンを開いてブログを書いたり、写真を載せたり
他の人の記事を読んだりするのが楽しくなってきた。
それが、ある日、ネットの友だちに挨拶を書き込もうとしたら、
なぜか書き込めなくて……調べてみたら……
自分のHNがブラックリストに入れられたことを知った。

なぜ? こんなヒドイことをされたのか。
理由も分からず、ショックで2~3日落ち込んだが、
どうせ顔の見えない世界だし、ヘンな人もいるのだからと
気を取り直して、やっと咲江は立ち直った。

そんな具合だったので、他府県に住む長男が心配して、
ひとり暮らしは淋しいだろうとペットを飼うことを勧められた。
そして、ヨークシャーテリアの仔犬をプレゼントしてくれた。
「ポポ」と名付けた仔犬は可愛らしく、咲江の孤独を慰めてくれた。
愛犬のポポちゃんと今はふたり暮らし、近所の公園をお散歩したり、
一緒にお買い物に出掛けたりと、平穏な日々を送っていた。

そんな咲江だが、最近、どうも気になることがある。

明け方近くになると、隣の住人が壁を蹴るので、
その音で、いつも目が覚める。
強く蹴るのではなく、規則的にドンドンドンと蹴り続ける。
耳栓をしても、横になっていると、その振動が身体にまで伝わってきて、
そのせいで熟睡できないのだ。

なにをやっているんだろう?
隣の住人は咲江よりの1ヶ月ほど後から、マンションに入居したが……
引っ越しの挨拶もないし、どういう人が住んでるのかよく分からない。

それでも、時々、通路で見かけたことがあったが、
見たところ、30代の夫婦と5歳くらいの男の子が住んでいるようだ。
奥さんは茶髪で派手な化粧をした、昔ヤンキーだったという感じで、
旦那さんは人相が悪く、怖い商売の人みたいに見える。
マンションの通路で、よく子どもを大声で叱りつけていた。
直接、苦情を言いにいくのは怖いし、嫌だったので……
マンションの管理人に相談することにした。

「じゃあ、お隣さんにそれとなく注意して置きましょう」
咲江の苦情を聞いて、管理人が快くそう言ってくれた。
それで、やれひと安心と喜んだ咲江だったが……

やはり、明け方になると……
相変わらず隣の住人の壁を蹴る音が続いた。
本当にお隣さんに注意してくれたのかしら?

もう一度、隣の苦情を管理人に言いにいったら、
「お隣さんは壁なんか蹴ってないと言ってますよ」
「えっ?」
「それより、明け方に大声でお経をあげるのを注意してくれと言われました」
困ったような顔で管理人がそういった。
まあ! 明け方に大声でお経をあげたりしたことないわ!!
とんだ言いがかりだ! あんな隣の言うことを真に受けて……
管理人なんか信用できないわ、怒って咲江は管理人室から出ていった。

翌朝のゴミの回収日、マンションのゴミ置き場に出しにいった。
ゴミ袋を置いて、集合ポストに新聞を取りにいって、
エレベーターで部屋に戻ろうとしたが、
何気なく振り返って、ゴミ置き場を見た瞬間、「あっ」と驚いた!

咲江のゴミ袋が引き裂かれ、中身が散乱しているではないか……
ゴミ袋は引き裂いたように大きく口を開けていた。
これは猫やカラスの仕業ではない。いったい誰がやったの?
そういえば、咲江がゴミを出そうと部屋を出たときに、
お隣さんもゴミ袋を出していた。
まさか……?
ヘンなことを想像して、咲江は頭の中で打ち消した。

不可解なことばかり続くので、絵画教室で知り合った、
同じマンションに住む主婦に相談することにした。
隣の住人にイヤガラセされているように思えてならないと話したら、
マンションの主婦は咲江の話を真剣に聞いてくれて……

隣の部屋の住人はマンション内でも、とても評判が悪い。
挨拶はしない、ゴミの分別が出来ていない、通路で大声でしゃべる。
とにかく苦情の多い人だから、くれぐれも注意してね。
と同情してくれた。
やっぱり、同じ主婦だから分かってくれる!
嬉しくなって、咲江は少し安心した。

――数日後、最悪の事件が起きた。

夕方の散歩に愛犬のポポを連れていこうと思って、
玄関のドアを開けた途端、隣の家族と鉢合わせした。
エレベーターに、一緒に乗り合わせたくないので、
ポポのリードをドアノブに引っ掛けたまま、
いったん部屋の中に、咲江は引っ込んだ。

しばらくして、ドアを開けて外に出たら
ポポの姿が見当たらない!
「ポポ―――!!」
名前を呼びながら、マンションの通路を端から端まで探しまわった。
「いったい、誰がポポちゃんを連れていったの?」
咲江は気が動転していた。

階下も探しにいこうとエレベーターの前で待っていると、
管理人が上がってきた。
手にバスタオルで包んだものを抱いている。
咲江の顔を見るなり、
「奥さん、この犬はお宅の飼い犬ですか?」
とタオルを突き出してきた。
「えっ?」
「マンションの下に倒れてました。たぶん上から落ちたんだと思います」
そういうと管理人はタオルを開いて、中身を咲江に見せた。
「キャ―――!!」
それは変わり果てた、愛犬ポポの姿だった!
ショックのあまり、ヘナヘナと咲江はその場に座り込んでしまった。

いったい、誰がポポちゃんをあんな目に合わせたの?
悲しくて、悔しくて、眠れない日々が続いた。
相変わらず、隣の住人は毎朝壁を蹴ってくる。
犯人は隣の家族かも知れないという疑念が、
どうしても拭い去れないでいた。

だって、お散歩に行こうとして部屋に引っ込んだときも
隣の家族が通路にいたんだもの。あの家族の仕業かもしれないわ。
絶対に警察に突き出してやるから……ポポちゃんの復讐よ!
だが、しかし、犯人だという証拠が何もない……。

それとなく、咲江は隣の住人を見張るようになった。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-19 20:50 | 現代小説

かんどう脳 ③

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第二話 金魚 ②

 そんなある日、思わぬ事件が起こった。

 晴れた日曜日の午後、和哉は鼻歌まじりに金魚の世話に余念がない。今日は水槽を洗うので、バケツの中に入れられ金魚たちは、一階の駐車場の外に置かれている。
 二階のベランダで布団を干していた千秋の目に、電柱の陰に潜む野良猫の姿がチラッと映った。野良猫は金魚を狙って忍び足で近づいて来るではないか。もちろん千秋は夫に教える気などさらさらない。
 なりゆきに目を凝らし、ひたすら傍観者の立場を貫いた。

 猫が金魚の入ったバケツをひっくり返して大きな音がした。駐車場の中で水槽を洗っていた和哉が、異変に気づいて慌てて飛び出してきたが、時すでに遅く……二匹の金魚が無残にも猫の餌食になっていた。
「ちくしょう!」 和哉が大声で叫んだ。
 一匹残った金魚を未練たらしく電信柱の陰から、まだチャンスを窺っていた猫に、和哉は手に持ったスポンジを投げつけた。飛び散った水に驚いて猫は一目散に逃げ去ったが、その後ろ姿にあらん限りの罵声を浴びせる夫だった。
 二階のベランダから一部始終を見ていた千秋は可笑しくて、ププッと噴きそうになった。《ふん! いい気味だわ》内心、ほくそ笑んだ。まさに溜飲が下がるが思いだった。

 ――その晩、夫はすっかりしょげ返って……元気がない、目も虚ろだった。
 いつもなら三膳はお代わりする夕餉のご飯も一膳しか食べず、フーと深いため息をついていた。まさか、こんなにショックを受けるとは想像していなかった千秋だが……さすがにちょっと可哀相になってきた。
食事のあと、水槽の前で、たった一匹だけ生き残った金魚を愛しそうに眺めている。《あなたは、そんなに金魚が大事なの?》そう和哉に訊いてみたかった。
なぜか? その夜、夫は千秋を抱いた。
 セックスレスではないけれど――最近はめったに妻を求めてこなくなっていた。パチンコで大勝した。好きなサッカーチームが勝った。昇給した。子どもたちが早く寝た。エロなDVDを観た……そんな理由で夫婦はセックスをする。
 もう子どもは要らないし、本当は女の子がもうひとり欲しいのだけれど……今の経済状態ではとても無理だと分かっているし、愛情を確かめ合うというよりも、存在を確認し合うような、そんなセックスだった。

「ねぇー」
 久しぶりに夫に抱かれて、心が和んだ千秋。
「……ん?」
 和哉の腕枕でちょっと甘えたい気分だった。
「金魚さぁー、一匹じゃあ寂しいからペットショップで買おうよ」
 その言葉に、天井をジィーと見つめながら和哉が答えた。
「要らない」
「えっ?」
「あの金魚でないとダメなんだ」
「……どうして?」
「おまえは忘れたのか?」
「なぁに?」

 ふたりが結婚して間もない頃だった。近くの神社で夏祭りがあると聞いて、ふたりは浴衣に着替えて出掛けていった。たくさんの夜店の屋台が立ち並び賑やかなお祭りに、新婚のふたりはぐれないように手を繋いで人波の中を歩いた。
 綿あめ、たこ焼き、ヨーヨー釣り、お面屋さんをひやかしたりして、楽しいお祭り見物だった。
 そこに夜店の金魚すくいがあった。大きな長方形のタライの中で金魚や出目金が涼し気に泳ぎ回っていた。小学生と大人四、五人、が楽しそうに金魚すくいをやっていた。
さっそく、千秋が「やりたい、やりたい!」と金魚すくいの紙のアミを買ってチャレンジするが、一匹もすくえず……あっという間に紙のアミが破れてしまった。
「あぁー、悔しい一匹もすくえないなんて……」
「あははっ」
 悔しがる千秋を見て和哉が笑った。
「もう! 笑うんだったら、和哉さんもやってみせてよ」
  プッとホッぺを膨らませて千秋が拗ねた。「分かった、分かった……」と和哉もアミを買って金魚すくいを始めたが……一匹もすくえない内に、紙のアミが半分ほど破れてしまっている。こんな薄い紙のアミでは金魚をすくうのは難しい。
「和哉さんだって、金魚一匹もすくえないかも……」
「待て待て! ここから本気を出すからー」
 和哉は浴衣の袖を捲くって気合を入れた。
「あたしのために頑張ってね!」
「よっしゃー! 俺に任せろ」
 そう言うと和哉は慎重にアミを使って、夜店の水槽の金魚をすくい始めた。
――そこから奇跡の逆転劇。なんと、半分破れたアミで金魚を見事に三匹すくってみせた。
「和哉さん、すごい、すごい!」
 ビニール袋の中で泳ぐ、三匹の金魚を手に提げて千秋が歓喜の声をあげた。
「えへへ……」 褒められて和哉も嬉しそうに照れていた。
「半分破れたアミでも諦めたらダメなのね。これから長い人生、お互いに嫌になることもあるかも知れないけど、絶対に諦めないで和哉さんについていく。諦めたらお終いだって教えてくれたから――この金魚はふたりの愛の記念品だわ! ずっと大事に金魚飼おうねぇー」

「――あんとき、おまえがそう言ったんだ」
「…………」
「だから俺は金魚を大事にしてきた。なのに……今日二匹も死なせてしまった」
 和哉は悲しげにため息をついた。
 ……なんてことだ。
 千秋はすっかり忘れていた――。あの時、ふたりは同じものを見ていたはずなのに……同じ記憶が残っていない。忘れ去られたモノはなぁに?
 恋人同士が結婚して夫婦になった、子どもが生まれてお父さんとお母さんになった、やがて、孫が出来れば、おじいちゃんとおばあちゃんと呼ばれる。そうやって、男女の愛はその形態を変えながら持続していくものなのだ。

 やがて夫婦は家族という人生の墓標に刻まれて終焉を迎える。
 ――あの金魚はあと何年生きるんだろうか? 金魚の命より自分たち夫婦の方が危ういとさえ千秋は思った。

「金魚がいなくなっても、わたしたちには子どもがいるじゃないの」
「うん」
「金魚より子どもたちを可愛がってください」
「そうだなぁー」
 千秋は久しぶりに和哉の手をギュッと握ってみた。
 ゴツゴツした男の手だ、この手をずっと離さずにやっていけるのかな?
 この頃は生活に疲れて相手を見ようとしない。自分の不満の鉾先を身近な人間のせいにして、それで何となく気を紛らわせている日々だった。
 男女の愛に終わりがあっても、夫婦の生活に終わりはない。
 夫婦ってなんだろう? 愛情がなくなっても暮らし続けなければならない男と女?
「もう寝ようか」
「うん……」
 和哉が寝返りを打って背中を向けて眠り始めた。夫の寝息を聴きながら千秋も静かに目を閉じる。

プカリと水槽の中で金魚が泡(あぶく)を吐いた――。


― 終わり ―



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-18 11:28 | 現代小説

かんどう脳 ②

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言葉が胸を打つ! あなたの脳が震えだす!!


   第二話 金魚 ①

 主婦の千秋(ちあき)は仕事から帰ると、まず家中の窓を開ける。夏場、西向きのキッチンは夕方になっても照り返しがきつい。部屋の中にこもった熱気を抜くため、窓辺に扇風機を置き、換気扇を回して空気を循環させる。
 出来るだけクーラーはつけたくない、主婦としては節約を心掛けなければならない。
 汗が引いてきたら、お湯を沸かしコーヒーを準備する。ドリップコーヒーは自分だけのために買い置きしている。日頃はインスタントコーヒーを飲んでいるが、この時間帯だけは、今日一日頑張った自分自身に《ご苦労さん!》そんな思いを込めて、ちょっと贅沢なドリップコーヒーを飲むことにしている。
 猫舌で熱い飲みものが苦手な千秋だが、ゆっくりと冷ましながらコーヒーを啜るのが好きなのだ。キッチンのテーブルに腰を下ろし頬杖をつき、今日の出来事を思い返してみる。

 千秋はスーパーでレジ係の仕事をしているが、うっかり商品の値引きを忘れてお客を怒らせた。いくら謝ってもお客の怒りはおさまらない、そのあげく「店長を呼んでよ!」と大声で凄まれた。
 中年の主婦だが怒り方が尋常ではなかった。確かに値引きを忘れたのはこちらのミスだが、普通のお客なら謝って、差格分のお金を払えば許されるレベルのミスだったのだが――。
 たぶん、あの客は日常に不満があるのか、よほど虫の居所が悪かったのだろう。それで自分より弱い立場のレジ店員に当たり散らしたとしか思えなかった。とんだ災難だったと思いつつ、千秋はコーヒーをひと口啜った。

 ――すると、玄関の方でドアが開く音がした。その後、ガチャガチャと鍵をキーケースにしまう音が……夫の和哉(かずや)が会社から帰って来たようだ。
 今年、三十二歳になる主婦千秋の家族は、夫の和哉、五歳と三歳のやんちゃ盛りの男の子がふたり。夫は真面目な性格だがまったく面白味のない退屈な男だ。
 日々の生活が不幸というほどでもないけれど、なんだか満たされない、物足りない、何となくイライラしちゃう……ありふれた日常だが、こんなものだろうと納得しながら暮らしている。

「なんて早いの」
 壁の時計を見ると、まだ夕方の六時前。和哉の会社は製造業だが不況で受注が減ったせいで残業がなくなり、給料も大幅にダウンして家計は苦しい。おまけに、三年前に新築の分譲住宅を購入したため住宅ローンの返済もある。
 今年の春から家計を助けるために、千秋は五歳の長男を保育園に、三歳の次男を自分の実家に預けてパートの仕事に出ている。スーパーのレジ係だが午前十時から午後三時までのシフトである。
 仕事には慣れてきたが、勤務を終えてからスーパーで買い物を済ませ、保育園に長男を迎えに行って、実家に居る次男を連れて帰る日常。――それを毎日繰り返す。

 和哉の会社はバイクで片道三十分。五時に仕事が終わって真っすぐ帰ればこんな時間になる。たまにパチンコ店で時間を潰す日もあるが、負けが込んで軍資金がないのか、最近では特に帰りが早い。
 長男はテレビのアニメに釘付けで、次男はソファーで夕寝している。一日の中で主婦千秋がひとりだけになれるのわずかなとき……ホッとする間もなく、和哉のご帰還だ。夫が帰ってくれば、主婦である千秋は夕食の準備を始めなければならない。 チッと心の中で舌打ちをする。
「さてと……」
 まだ飲みかけのコーヒーをシンクに流して――。
 千秋はキッチンの前に立ちじゃがいもの皮を剥き始めた。そんな千秋を横目でチラッと見ながら……夫は何も言わずにリビングの奥の自分の定位置(ていいち)へと向かう。

 ――金魚の水槽がある。

 リビングのサイドボードの上に小さな水槽が置かれていて、中には三匹の金魚が泳いでいる。まだ、ふたりが新婚時代にお祭りの夜店ですくった金魚たちである。
 いわば『ふたりの愛の思い出』の金魚たちなのだが――かれこれ六、七年は生きている。金魚って小さい割には意外と長生き……それもそのはず、和哉がその金魚たちを、ことの他大事にしているのだから――。
 彼は会社から帰宅すると妻子をさておき、まず水槽の金魚たちに帰宅の挨拶をする。休日は朝から何時間もボーと水槽の前で金魚を眺めて過ごすこともある。

「パパ遊ぼうよ」
 長男がおもちゃを持って、一緒に遊ぼうとせがんでも……。
「後でな。向うへいってなさい」
 ……と取り合おうとしない。
 水槽の金魚の何が楽しいのか? ただ、ひたすら和哉は金魚に見入っている。
 和哉はどちらかというと無口で妻子とはあまり会話をしない。最近は特に口数が減ってきたような気がする。何が不満なのか知らないが……不満なら、こっちの方にもないわけではない、と言ってやりたい。
 相手に対して興味もなくしてしまい、うっとうしい存在でしかない。結婚して七年目……倦怠期ってやつかなぁー?
 かつて、この男を愛した記憶さえ曖昧になってきている。自分でもどこがよくて結婚したのかよく分からない。しょせん流れで一緒になったような気がする。
「つまらない男だわ」
 サイドボードの前に椅子を置いて、そこに腰掛けて金魚と会話している? そんな夫の後姿に、いいようのない嫌悪感を覚える千秋だった――。

 日曜日のお昼、千秋は子どもたちの大好きなオムライスをテーブルに並べた。
 五歳の長男はわんぱく盛り、いっときもジッとしていられない。家族四人でご飯を食べていると、三歳の次男と些細なことで兄弟けんかを始めた。千秋が長男を大声で叱りつけていると、横から和哉が「うるさい!」と不機嫌そうに怒鳴った。
 その声にムッとして千秋は和哉に言い返した。
「うるさいってなによ!」
「食事の時くらい静かにできないのか?」
「躾で叱っているんでしょう」
「おまえのはギャーギャーうるさいばかりで躾になってない」
「なによ! 父親なんだから、あなたも子どもの世話みたらどうなの?」
「躾っていうのは……」
 和哉が言いよどむと、千秋は畳みかけるように、
「金魚ばかり可愛がらないで、たまには子どもたちとも遊んでよっ!」
「俺は……」
「あたしにばっかり育児を押しつけて、自分は何にもしないくせに……」
「…………」
「父親としての自覚が足りないのよ!」
 その言葉に和哉は黙り込んで、ふいに立ち上がって外へ出ていった。

 口げんかの後、煙草を買いにいくと出ていったが……シンクで茶わんを洗いながら、千秋の腹の虫は収まらない。
 いつも都合が悪くなるとすぐに逃げるのよ、あの人は……。
 金魚ばかり可愛がって、自分の子どもには無関心、父親失格よ、あんな人! 何よりも気に入らないのは――自分だけ現実逃避しようとしている、あの態度よ。
 いつも水槽の金魚を眺めて、自分の世界に浸っている夫の姿を思い出して、千秋は無性に腹が立ってきた。
《あんな金魚なんか死んじゃえばいいんだ!》
 つい、千秋は手に持った食器用洗剤を水槽の中へ。
 数滴零したら、エアーポンプのせいで瞬く間に水槽の中は泡だらけになった。どんどん泡が膨らんで水槽から溢れ出してきた。思いがけない事態に焦った――その時になって千秋はえらいことをやってしまったと愕然とした。
 まずい! これは夫に怒られる。
 泡だらけの水槽の前で千秋が右往左往していると……。
 直後に帰宅した和哉が水槽を見た瞬間面食らって棒立ちになったが、急いで金魚を網ですくい、水槽の水を入れ替えた。――そして金魚たちを無事に水槽の中に戻した。
 すっかり片付いてから、怒気を含んだ声で和哉が千秋に訊いた。
「誰がやったんだ?」
「あ、あのう……」
「誰だ!?」
「……こ、子どものイタズラよ」
 怖い怒りの形相に、千秋は子供のイタズラだと咄嗟に嘘をついてしまった――。その途端、和哉は隣の部屋でアニメを見ていた長男の首根っこを掴んだ。なぜ長男かと言うと、三歳の次男ではサイドボードの上の水槽には手が届かないからだ。――それで犯人は五歳の長男と決め付けられた。
 有無を言わせず長男はお尻をおもいっきり引っ叩かれた。
 訳も分からず、父親に叱られ、殴られた長男は大声で泣いた。その後もいじけて、いつまでも泣いていたが……無実の罪で罰を受けた我が子の肩を抱いて、頭を撫でながら千秋は優しく慰めた。
《ごめんね、ごめんね……》
 翌日には、思いがけなく母親におもちゃを買って貰い大喜びの長男だったが、しかし、それが……せめてもの千秋の罪滅ぼしの品だとも知らず……。
 金魚ごときのことで長男のお尻を引っ叩いた夫を許せないと千秋は思っていた。金魚に八つ当たりした自分の罪も忘れて……憎らしい金魚め!
  いよいよ千秋の金魚への憎悪が増してきた。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-17 15:18 | 現代小説