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カテゴリ:ファンタジー小説( 25 )

ふしぎ脳 ⑱

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第八話 彷徨える人形 ③

 vol.Ⅵ

どのくらい、心を失くしていたのだろう?
気がついたとき、人形は薄汚い雑多なガラクタ屋にいた。
周りには信楽の狸や千成ひょうたん、七福神の置き物、
贋物くさい掛け軸などと一緒に、ガラスケースに放り込まれていた。

美しかった人形も長い年月の間に……
白いエプロンドレスは外されてなくなって、 
真紅のドレスは色褪せ、青磁の肌は薄汚れ、
髪もくしゃくしゃで、ひどく陰気臭い人形になっていた。
そんな人形を誰も買う人もなく、店先に忘れさられて……
毎日、ため息ばかりついて人形は暮らしていた。

そんなある日、貧しげな身なりのひとりの老婦人が、
人形を指差し、これが欲しいと店主に告げた。
値段のことで少し揉めていたが……
このまま店先に置いても一向に売れそうもない、
アンティークドールを、しぶしぶ老婦人に売り渡した。

久しぶりに、持ち主のできた人形は少しウキウキした。
おばあさんのキャリーバックに乗せられて、
奥まった路地の、小さな古い平屋に連れて帰られた。
だけど家の中はこじんまりして、とても清潔で快適だった。
そして人形は、ここでおばあさんとふたり暮らし始めた。

おばあさんの日課は毎朝、仏壇に手を合わせる事から始まる。
仏壇には亡くなった夫と、7歳で亡くなった娘の位牌が納められていた。
いつも仏花とお供えを絶やさなかった。
都会に息子が家族と住んでいるが、ひとり暮らしの母親の元に、
あまり訪れたことはなかった。

いつもひとりぼっちで、おばあさんは寂しそうだった。

人形のことは、亡くなった娘の名前を借りて、
『なおみ』とおばあさんは呼んでいた。 
「娘が西洋人形を欲しがってねぇ~」と人形に話しかけた。
「うちは貧乏だから、そんな高い人形は絶対に無理だからって、
買ってやれなんだぁ~あんなに早く死ぬんだったら……」
無理してでも、買ってやればよかったと、
おばあさんは後悔していた。
「最後に、なおみの棺の中に入れてやれれば良かった」
と嘆いて、
「なおみ、お母さんを許しておくれ!」
おばあさんは深いため息をついて、仏壇に手を合わせて
亡くなった娘にいつまでも詫びていた。

その姿は死んだ者より、死者の想い出にすがって生きている方が、
その何倍も悲しくみえると人形は思った――。

おばあさんと人形は毎日平穏な日々を送っていた。
人形のためにおばあさんは新しいドレスを縫ってくれた。
娘の形見の服をほどいて、ひと針ひと針と手で縫っていた。
それは少し不恰好だったけど、おばあさんの真心が込められて、
とても嬉しかった。
大事に扱ってくれるおばあさんが大好きだった。

「なおみ、じゃあ行ってくるよ」
脚の悪いおばあさんは、キャリーバックを押して、
いつものように買い物に出掛けていった。

だけど、どうしたことか?
そのまま、何日たってもおばあさんは帰ってない。
「おばあさん どこへ行ったの?」
人形は心配しながら、ひたすらおばあさんの帰りを待っていた。
暗い部屋の中で、虚しく時計の針が時を刻むのを聴きながら……

数日経った、ある朝、知らない人たちがドカドカ家の中に入ってきた。
それは都会に住む息子の家族だった。
その時初めて、買い物帰りに、おばあさんがトラックにはねられて、
亡くなったことを人形は知った。
この家に、おばあさんの遺品の片付けにやってきたようだ。
おばあさんの荷物は、ことごとくゴミとして捨てられていった。
あまりのショックに、人形は呆然としていた……

人形もゴミ袋に投げ込まれようとした、その瞬間、
「それは取っといて!」息子の嫁がいった。


 vol.Ⅶ

おばあさんの人形は、都会のマンションに連れてこられた。
マンションの室内では、2匹のコーギー犬が飼われていた。
ダンボールの箱から取り出された人形の髪を掴んで、 
息子の嫁は、犬たちに向ってこういった。
「ほらっ、新しいオモチャよ!」
人形を犬たちに放り投げた。

喜んで興奮した犬たちは、
2匹で人形を咥え、引っ張りあって遊んだ。
「やめて! やめて!」人形は泣き叫んだ!
じゃれ合う犬たちによって、
人形の髪もドレスもボロボロにされていった。
「まるで悪夢だわ……」なすがままだった。
フランスの人形職人のおじいさんが作った、
自慢の人形がぼろ屑のような無残な姿にされていく……
それはプライドの高い人形には耐え難い辱めだった!

とうとう人形は捨てられてしまった。
犬が散歩に咥えていって、そのまま公園の片隅に忘れられた。

「なんだこりゃ? 汚い人形だな!」
それを見つけた小学生の男の子たちに、
サッカーボール代わりに蹴飛ばされ、踏んづけられた。
蹴られる度に、人形は心の骨が折れるようだった。
あぁ~心が砕けていく……

今は腐敗した生ゴミといっしょにゴミ箱の中にいる。
人形のガラス玉の眼に映る空は、どんより暗く重かった。
今までの持ち主たちのことを、ぼんやりと考えていた。
結局、みんな不幸だった、いつも悲しい末路だった。
わたしの本当の名前は不幸の人形なのだろうか?

だけど、人形は何もしていない。
見ていただけに過ぎないのに……ただ見ていた。 
神さまは、何ひとつとして願いを叶えてはくれなかった。
いつだって、運命という河に流されていくしかなかった!
わたしは何もできない、ただの人形だから……

遥か西洋のフランスから、東洋の国にやってきた、
彷徨える人形の、長い長い旅路が、
ようやく終わろうとしている。
もうすぐ、ゴミの回収車がやってくるだろう。
パッカー車に投げ込まれて、こなごなに潰されて、
他のゴミと混じって、人形のカタチなんかなくなってしまう、
もう、それでいいと思った。

もし生まれ変われるなら、心の無い人形になりたい。
何もできないのに、心があるのは辛過ぎるから……
見ているだけは、悲し過ぎると人形は泣いていた。

そして、ゴミの回収車に投げ込まれる刹那 
「Je veux ne regarder rien!」人形は叫んだ。


もう、何も見たくない……


だけど、人形の声は誰の耳にも聴こえなかった。


― 彷徨える人形 完結 ―




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-21 10:50 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑰

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第八話 彷徨える人形 ②

 vol.Ⅳ

煤けた貧相な骨董品のお店だった。
蚤の市に並ぶような、ガラクタと一緒に、
ガラスケースに入れられ、人形は店の片隅に飾られた。

あんな女の姿を見なくて済むと思っただけで、
むしろ清々した気分で人形は嬉しかった。
ただ、あの青年のことだけが気がかりだった――。
「今ごろ、どうしているのだろう?」
ひとり部屋に取り残されて、絶望した彼の姿が浮かんできて、
胸が締め付けられた。

どのくらい、経っただろうか……
ガラスケースの上に、うっすら埃がかぶる頃に、
人形は誰かの視線を感じて眠りから覚めた。
眼鏡をかけた小柄な東洋人の男がひとり、
しげしげと食い入るように人形を眺めていた。
やがて店主に声をかけ、
たどたどしいフランス語で値段の交渉を始めた。
あら、わたしを買うつもりなのかしら?

彼は仕事でフランスにきていた旅行者だ。
祖国で待つ、妻へのお土産にアンティークドールを探していた。
この店で人形を見るなり、「これは掘り出し物だ!」と内心喜んだ。
しかしながら、幾らかでも値切って買おうと彼は必死だった。
もう何年も売れ残っている人形にうんざりしていた店主は、
東洋人の男のいう値段に譲歩して人形を売り渡した。

そして人形は彼の旅行鞄に詰められて、
何日々も船に揺られ、見知らぬ国へ連れて来られた。
そこは言葉も習慣も全く違う、 JAPONという東洋の国だった。

やっと窮屈な旅行鞄から取り出された人形を、
ひと目見るなり、東洋人の男の妻は歓喜の声をあげた!
「まあ、なんて綺麗なお人形なの!」
その美しさに目を見張った。
奥さんは、『メアリー』という名前を人形に与えた。

人形好きの奥さんは、部屋いっぱいに人形を飾っていた。
それは東洋の人形で、市松人形と呼ばれている。
黒い髪とキモノを着た、少女の人形たちだった。
市松人形たちが解らない言葉で話していた。
「あの人形、髪の色が黄色いわ!」
「目も青いのよ! ヘンな格好だし、みっともないわね」
「本当、なんて気持ち悪いんでしょう!」口々に人形を罵った。

西洋人形の彼女は、みんなから除け者扱いされたけど……
ひと目みるなり人形が気に入った奥さんは、
お部屋の一番良いところに人形を飾ってくれた。
居心地の良い家に、とても満足していた。

奥さんは、出張がちで留守の多い夫をいつも家で待っていた。
夫婦には子供はなく、ひとりぼっちで孤独な時間が長かった。
家事を済ませたら、庭のお花をいじったり、愛猫とじゃれて遊んだり、 
人形相手におしゃべりをしたりして、一日を過ごしていた。
そうやって、淋しさを紛らわせようとしていたのかもしれない。

そんな奥さんが、この頃そわそわして気もそぞろになった……
窓辺でため息をついたり、毎日、誰かに手紙を書いていると、
ときどき夢みる乙女のような瞳の色になった。

ある日、ひとりの男性が奥さんを訪ねてきた。
どう見ても、奥さんよりずっと年下らしい男性は、
優しげな声で話しかけていた。 
はにかんだ奥さんは下ばかり向いて、男性の顔をまともに、
見れずに頬を赤らめていた。
突然、男は奥さんの手を握ると抱き寄せた。

ふたりは惹きあうように抱き合ったままソファーに崩れた。
「まあ、奥さんなんてことを!?」人形は驚いた。
純情な奥さんが、夫以外の人、
この男性を好きになったのだと分かった。

奥さんは夫の留守中、家でこの男と逢うようになっていった――。


 vol.Ⅴ

ふたりの蜜月は、そう長くは続かなかった……
ついに奥さんの浮気が、夫にバレてしまったのだ。

それから人形が見たものは、凄惨な夫婦の修羅場だった。
妻の浮気に激怒した夫は、奥さんに暴力をふるうようになった。
大人しく優しかった旦那さんは、 まるで人格が変ったみたいだ。

奥さんが可愛いがっていた猫を殺した。
夜になると、寝室で妻を殴ったり蹴ったりした。
人形に聴こえてくるのは、毎晩、毎晩……
旦那さんの怒号と、奥さんの悲鳴と号泣だった。
人形は、誰かに助けを求めて叫びたかった。
「お願い! 奥さんを助けて!」
「このままでは、旦那さんに殺されてしまう!」
人形も泣き叫んでいた、何もできない人形の身が悲しい。
奥さんを助けたくても、動けない無力な自分に絶望していた。

一日中、奥さんは外出もしないで家で臥せっていた。
夫に殴られた傷が痛むのか、苦しいそうに呻いていた……
特に顔は紫色に腫れあがり、切れた唇から血が滲んで、
とても痛々しかった、その顔を見るのが人形には辛かった。
奥さんは鏡で自分の顔を見て泣いていた。

女の顔を、こんなになるまで殴るなんて!
人形は激しい怒りで心がどす黒くなるようだった。
いくら妻の浮気を許せないとはいえ、あまりに酷すぎる。
そんなに憎いのなら、なぜ別れないんだろう?

妻を殴りながらも、彼は妻を愛していた。
それは嫉妬という、男の執着心だった。
あまり深く深く愛し過ぎて…… 
愛と憎しみの境界線が見えなくなっていたのだ――。

なぜ奥さんは夫の暴力から逃げないんだろう?
……ただ、彼女は待っていたのだ。 
この家にいれば、恋人が助けに来てくれると信じて……
だけど恋人の若い男は夫に凄まれて、
奥さんを見捨てて逃げてしまっていた。

愛は哀しい、人間は悲しい、と……人形はそう思った。

ついに、怖れていたことが起こった。
真夜中、家の中に男の絶叫が響き渡った!
その声に、恐怖で人形は身の毛がよだった。
「あの声は旦那さんの声だわ、いったい何が起こったの?」

いきなり部屋のドアが開いて、奥さんが入ってきた。
長襦袢の前がはだけ半裸身、全身におびただしい血を浴びて……
手には血のついた包丁が握られていた。
ひと目でなにが起きたのか、人形にも察しがついた。
奥さんは、ついに夫を殺してしまったのだ!

真っ赤な血のついた手で、奥さんは人形を掴んだ。
胸に抱きしめて、愛おしそうに頬ずりをした。
奥さんは誰かの名前を呟いていた、何度も、何度も……
その名前は奥さんをもて遊んで逃げた。
あの若い男の名前だった!

男の名を呼びながら、奥さんは泣いていた。
涙をぽろぽろこぼしながら…… 
子供のように声をあげて、泣きじゃくっていた。
それは、あまりにも哀れな女の姿だった。
人形も一緒に、奥さんと声をあげて泣いた。

やがて、奥さんは放心したように……
ゆっくりと、包丁の刃の先を自分の喉にあてた。
「奥さん、何をするつもりなの!?」人形は驚いた。
「やめて、やめて! お願い馬鹿なことはしないで!」

大きく頷くように、包丁で自分の喉を刺し貫いた。
悲鳴と共に鮮血が降ってくる、人形のドレスにも、髪にも、顔にも……
ぜんぶ奥さんの血だ! 血が雨のように降ってきた。
「お願い、死んじゃあダメよ!」人形は叫んだ。

「奥さん、奥さん! 死なないで!」

奥さんは人形を抱きしめたまま、こと切れた……
あまりに凄惨な死ざまだった、そして人形も心を失った……

そして世間では、人形のことを『血塗られた人形』だと呼んだ 。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-20 17:49 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑯

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
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   第八話 彷徨える人形 ①

 vol.Ⅰ

路地裏のゴミ箱に人形が捨てられていた。
散乱腐敗したゴミの中で、汚い人形は周りに同化してみえた。

その人形は古いアンティークドールだった。
青磁の肌に碧眼、金髪のカールが美しかった人形だが、
今は泥で汚れドレスは破れ髪はクシャクシャで、
千切れた片方の足はどこにも見当たらない。
ただ憐れな姿を晒していたのだ。

――人形は泣いていた。
青いガラスの瞳は曇った空を映して……
見えない瞳は哀しみの雫で濡れていた。

19世紀のヨーロッパはイギリスの産業革命と、
フランス革命の影響のもと、東西文化が著しく交流した時代であった。
人形の世界においても、流行のファッションを身に着けた、
パリジャンヌと呼ばれる人形は、華やかなパリの空気を伝える、
美しい存在として女の子たちの憧れの的だった。

19世紀パリの街角、人形工房でビスクドールの彼女は作られた。
年老いた人形職人のおじいさんは人形に『カトリーヌ』という名前をつけた。
青磁の肌と青いガラスの瞳、真紅のドレスと白いエプロンドレス、
子供の姿態をしたベベ・タイプの、それは華やかで美しい人形だった。
ずっとおじいさんの自慢の作品であった。
お気に入りのカトリーヌを、おじいさんは最後まで手放さずに、
ずっと自分の工房に置いていた。

ある夜、おじいさんは人形のカトリーヌ相手に若い頃の話を始めた。
青年の頃、心から愛した女性と結婚できなかったこと、
どうしても彼女のことを忘れられなくて、おじいさんは生涯独身を通した。
『カトリーヌ』とは、おじいさんが心から愛した女性の名前だった。
人形はその人の容姿を写して作られていた。
青磁の肌、金色の髪……そして青い瞳は、
おじいさんの哀しみを湛えて泣いているみたいに潤んで見える。

おじいさんは愛した人の面影を写した人形のカトリーヌを、
深く愛していたから、まるで恋人に囁くように話しかけていた。
人形のカトリーヌはもちろん話すことはできなかったが、
おじいさんの話すことは理解できた。
たぶん、あまりに精魂を込めて作った人形だったので、
心が宿ったのかも知れない。
カトリーヌはおじいさんの傍で長く一緒に暮らしていた。

だが、寒い寒い冬の朝、年老いたおじいさんは、
心臓発作を起こして、あっけなく亡くなってしまった。
発作を起こしたおじいさんは苦しみもがいていたが……
やがて息絶えて、動かなくなってしまった。
その一部始終を人形は見ていたが、何もできずに、
「おじいさん、おじいさん……」と、
ただ叫び続けるしかなくて、
張り裂けそう悲しみで、青い瞳は蒼く沈んでいった。

おじいさんの最後の言葉は「カトリーヌ愛してる……」だった。


 vol.Ⅱ

人形職人のおじいさんが亡くなって、カトリーヌは遺品になった。
生前に取引のあった人形店に引き取られ、お店のショーウィンドウに
カトリーヌは飾られた。
自分が売り物になるなんて、想像していなかったカトリーヌにとって、
それは屈辱だった。

お店の人形たちは、カトリーヌを見て意地悪な声で、
「あなたのドレスは流行遅れだわ」
「なんて、陰気な瞳の色なの?」
「生意気な顔ね!」
口々に嫌味を言われたけれど……
おじいさんが作った自慢のビスクドールとして、 
カトリーヌは誇りを持っていたから、何をいわれても胸を張っていた。

そんなある日、ショーウィンドウに飾られた人形は、
プチ・ブルジョワの小さな娘の目に留まった。
彼女はカトリーヌを見た瞬間、桃色の頬を更に紅潮させて、
「まあ、とっても可愛い人形だわ!」
キラキラと瞳を輝かせた。
「お父さま見て、この人形の青い瞳がとても素敵よ」
傍らの父親に指で示す。
「ねぇ、この子はうちに来たいっていってるみたい」
ひとり娘を溺愛している父親は、可愛い娘のおねだり勝てない、
その場でお金を払って人形を買った。

小さな娘の胸に抱きしめられて、 
カトリーヌは新しい家に引き取られていった。
「あなたは今日から、わたしの妹よ」
ずっと妹が欲しかった、小さな女の子は人形に、
『ミッシェル』と、新しい名前をつけた。
わたしにはカトリーヌという名前がありますといったが、
その声は誰にも聴こえない。

いつも可愛い少女の胸に人形は抱かれていた。 
眠る時にはベッドの傍に置かれて、窓辺から差し込む月明かりで
安らかに眠る少女の寝顔を眺めるのが好きだった。
この天使のような無垢な魂の少女のことを、人形も深く愛していた。

やがて少女から成長した彼女は美しい娘になった。
「ミッシェル、わたし好きな人ができたの!」
柔らか頬を桃色に頬を染めて、人形だけにうちあけ話をした。
娘の好きな人の話を人形は微笑みながら聴いていた、
心から、この娘の幸せを願いながら……
この娘と暮らす日々が、人形にとって満ち足りた日々でした。

それなのに……、ああ、神さまはあまりに残酷だった!
18歳の誕生日を目前に、喘息の発作で娘は天に召されてしまった。
なんてこと! 娘の死が信じられず人形は茫然とする。
悲しみの青い瞳は、毎日々、娘の姿を探し求めていた……

突然、愛娘を失った父親はショックで酒びたりになった。
母親は悲しみで憔悴して病気になり寝込んでしまった。
人形は淋しい家族の末路を、その瞳に映して……
青い瞳は蒼く蒼く翳っていく……
ああ、心の中に悲しみの雨が降ってくる。


 vol.Ⅲ

ある日、ひとりの青年がこの悲しみの家を訪れた。
亡くなった娘の遺品を何かくれまいかと、父親に所望した。
彼こそが、娘が生前の好きだったその人だ。

青年の一途な娘への想いに、父親は心打たれて、
「娘を思い出すから、これを見るのが辛い……」と、 
娘が可愛がっていた人形を、形見として、その青年に手渡した。

そして人形は青年の住むアパートメントへ連れて行かれた。
さっそく人形に「マリアンヌ」と、娘の名前をつけて呼んだ。

貧乏画学生の青年の部屋には、
生前の娘の生き生きとした姿態を写した、
キャンバスが何点も置かれていたが……
それが返って人形には娘を思い出して、とても辛かった。 

青年は絵を描きながら、人形相手に亡くなった娘の、
思い出話をよくしていた。
ふたりでよく行ったカフェのこと、一緒に観たオペラのこと、
初めてマリアンヌを抱きしめてキスした時の感動やら……
そして最後はいつも泣いていた、人形も一緒に泣いた。
人形と青年は悲しみを分ち合った。
この純粋な青年を人形も好きになり始めていた。

けれど若い彼にはやがて新しい恋人ができた。
その女は絵のモデルだといっていたが、
真っ赤なルージュと派手なドレス、強い香水をプンプンさせた、
まるで娼婦のような女だった。

初めて青年の部屋に訪れた時、いきなり人形の足を掴んでから、
逆さまにして、
「あら、まっ、人形のくせにパンティだって穿いてるわ! ぎゃははっ」
大口を開けて、下品な声で笑った。
最低の女だと思った! 人形は怒りと屈辱で頬が熱くなった!
なぜ青年がこんな女を好きなったのか? 
人形には到底理解できなかった。

“生身の人間は、しょせん思い出だけでは生きてはいけない”
そのことを人形には理解できるはずもない。

やがて、ふたりは青年のアパートメントで一緒に暮らし始めた。
その女は人形を手荒く扱った、自慢のドレスにワインをこぼしたり
癇癪を起こして床に投げつけられたりした。
「なんて酷い女!」人形は彼女を嫌悪していた。
しかも、その女は派手で金使いが荒く、借金まみれだった。
好きになった女を救えるのは、自分しかいないという自負から…… 
青年は好きな絵を諦めて、朝から晩まで女のために働きはじめた。

それなのに……
青年がいない日、女は昼間から男をくわえこんで情事に耽っていた。
その嬌声に人形は目と耳を塞ぎたかった。
「こんな女は、死んでしまえ!」心で何度も呪っていた。

そんな日々が続いた、ある日……
ついにその女は新しい恋人と、青年が留守の日に出ていこうと、
荷物をまとめていた。
やれやれ、これでまた平穏な日々を送れると思っていた人形だったが、
部屋を出て行くときに何を思ったか?
女がいきなり人形を掴んでバックの中に乱暴に突っ込んだ。
「嫌っ! わたしをどうつもり?」人形は叫んだ!

アンティーク雑貨のお店に、人形は売られてしまった――。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-20 17:38 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑮

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
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   第七話 猫の帽子屋 ②

 どこをどう走ったのか、見覚えのある景色が見えてきた。
 そこには小さな公園があった、ここは学校の近くにある児童公園だ。ブランコとすべり台とジャングルジム、小さな砂場、それと木のベンチが二つ並んでいる。
 中央には大きなメタセコイアの木がある、その根元で誰かがトランペットを吹いていた。
 その人は櫻井部長だった、前に部室で演奏してくれた、ジョン・コルトレーンの『マイ・フェイバリット・シングス』という古いジャズの曲でした。本来はソプラノサックスの曲だといっていたが、トランペットでの演奏も素晴らしかった。
 そのメロディーに惹かれるように、白猫の私は櫻井部長の側に寄っていった。すると、猫の存在に気づいて、「おや、どこからきたんだい?」演奏を中断して私を抱きあげてくれた。
「この近所の野良猫かな?」
 櫻井部長は猫好きなのか、白猫(私)をだっこして嬉しそう。

 ――そのときだった、私の頭の中に彼の声が聴こえてきたのは――。

《澤木さん、なんで急に帰ったんだろう?》
 私のことを心配してくれている。
《一階で呼び止めたとき、泣いてたみたいだったけど、森さんになにか言われたのかな?》
 そ、そうなんです。
《森さんはクラリネットは上手いけれど、下級生や自分よりヘタな子を見下すところがあって、あんまり性格がよくない》
 えっ、櫻井部長は香里奈ちゃんのこともちゃんと分かってたんだ!
《今日も楽器店に付き合ってとしつこく誘われた。だから、ふたりきりは困るから、ほかにツレがいたら行ってもいいと言ったら、澤木さんが校門で待っていた》
 そうなんだ、だから香里奈ちゃんは私を誘ったのね。
《俺、澤木を見たとき、ちょっと嬉しかったなあ~》
 えっ、えっ? 部長、今なんていったの? 
《あいつ、無口で大人しいけど、みんなのために部室を掃除したり、使ってない楽器の手入れをしたり、そういうことを自主的にやってくれてるんだ》
 えへっ、テレるなぁ~。ちゃんと私のこともみてくれてたんだ。
《自分ちの花を持ってきて、部室に飾ってくれたり、そういう控え目な優しさがグッとくる!》
 もしかして、私のこと褒めてる? これって、櫻井部長の“真実の声”なんだよね。

 ――ああ、心の奥の“真実の声”がどんどん聴こえてくる。

《俺のマイ・フェイバリット・シングスのひとつは澤木梨恵だ》
 ウッソー! 夢みたい、信じられなぁ~い!!
《澤木が帰ったあとで、森さんに何があったのか訊いたら、急に用事ができたって帰っちゃった。部長に挨拶もしないで梨恵ちゃんって非常識よね。とか、言ってたけど……どうも怪しい。もしかして、ふたりきりになりたいので澤木に何か言って……追い返したのかもしれない》
 そうなんだ。だから急にあんなヒドイこといったのね。
《嫌な気分になって、俺も帰るっていったら……森のやつ、近くのスタバへいこうよって、しつこく誘われた。それも断わって帰ろうとしたら、道端で櫻井さんと付き合いたいとか告られたけど……》
 マジ!? 最初から香里奈ちゃんの魂胆はそれだったんだ。
《森なんかタイプじゃないし、速攻で断わった! すごい顔で睨まれたけどさ》
 やったー! やったー!! 
《それよりも、俺は澤木のことが気になってる。吹奏楽部やめるとか、いわなきゃいいけど……》
 櫻井部長がいる限り、香里奈ちゃんに何をいわれても退部しません! 
《なあ~白猫くん。俺、澤木になんていったらいいんだろう?》
 白猫(私)の喉を撫でながら、そんなことを訊く。
「あっ!」
 彼の腕から、白猫(私)が逃げ出した。

 メタセコイアの木陰に隠れて、白い猫耳帽子を外したら――元の人間の私に戻っていた。

「櫻井部長……」
「あれっ! 澤木、どっから現れた?」
 急に私が目の前に立っていたので、櫻井部長はビックリしてた。
「さっきは急に帰って、ゴメンなさい」
「いいんだ。澤木が戻ってきてくれただけで……」
「部長……」
 その後、ふたりはしばらく無言で見つめ合っていた。
 なにも言わなくていいんです。――櫻井部長の本心はちゃんと分かってるから、そして、彼の瞳の奥にも真実が光っていました。

 帰り道、夕日に向かってふたりで歩いた。
 先輩が卒業したら、付き合おうってLINEのアドレスを交換して、ふたりだけのホットラインを作った。来年は私も先輩と同じ大学を受験するつもり、こっちはフルートよりもずっと自信がある。
「これからも、ずっと一緒!」
 初めて手を繋いだら、ふたりとも顔が真っ赤になった。――夕日のせいかしら。
 そんなふたりを、塀の上から一匹の黒猫が見ていた。こっちを向いてニャアーと鳴いて、どこかへ消えてしまった。
 ……もしかして、あの黒猫は帽子屋のおばあさんだったりして?
 大学に入ったら、彼が所属する吹奏楽部のマネージャーを希望しようと思っている。だって、いつも彼とその音楽に包まれていたい。
 櫻井部長のマイ・フェイバリット・シングスの私だから――。


― おしまい ―




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『花小鳩』 今宵 様よりお借りしました。
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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-19 12:55 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑭

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第七話 猫の帽子屋 ①

 どこをどう歩いて、この場所にやってきたのか分からない。
 気が付いたら、私は帽子屋の前に立っていた。その帽子屋はとても風変わりだった。ショーウインドウに飾られた帽子にはすべて猫耳がついている。
 看板を見たら『猫の帽子屋』と書いてあった。
 ここは猫耳が好きな人の帽子屋さんかしら――そんなことを私は考えていた。


 二時間ほど前のことだった。同じ吹奏楽部の森香里奈(もり かりな)から、楽器店に楽譜を買いにいくので付き合って欲しいと頼まれた。
 私、澤木梨恵(さわき りえ)はフルートだが、香里奈ちゃんはクラリネットであまり親しくない。それなのに、突然、買い物に付き合って欲しいなんて……なんだかすごく不自然な気がしたが、その場で断る勇気がなくて、部活が終わってから一緒に楽器店へいくことになった。
 校門の前で待っててといわれたので、そこで待っていると……香里奈ちゃんが男子生徒と一緒に現れた。
その人は吹奏楽部の部長の櫻井悠一(さくらい ゆういち)だった。部長の顔を見た途端、私はドキドキしてしまった。
「あれ、澤木も一緒か?」
「梨恵ちゃんも楽器みたいっていうもんだから」
 そんなことはひと言もいってないのに、香里奈ちゃんが勝手なことをいう。そして、私も適当にうんと頷いた。
「新しいフルート買うのか?」 櫻井部長が訊いた。
「ううん。そんな予定ないですぅ~」声がうわずってしまった私。
 今使ってるフルートは中古で五万円だったけど、それより高いのを親に買ってなんて言えない。
「あたしのクラリネットは七十万以上したのよ。やっぱり楽器は高くないと良い音がでないわ」
 香里奈ちゃんが自慢そうにいう、彼女の家は開業医でお金持ちなのだ。
「そりゃあ、高い方が楽器の音はいいけど、それを使いこなす技術の方がもっと大事だぞ」
 部長の悠一くんがそういった。

 そもそも私が吹奏楽部に入部した理由は、去年の私たちの入学式で、吹奏楽部が新入生歓迎の演奏会やってくれた。その時、聴いた櫻井部長のトランペットの演奏に感動して、彼に憧れて入部したのだ。
 私みたいに櫻井部長に憧れて入部した女子部員も結構多い、彼は演奏だけではなく、背が高くてイケメンだし、カッコイイから人気があるけど、特定の女の子とは付き合っていないみたいだった。
 三年生の櫻井部長は二学期で部活は引退だったが、トランペットの実力を買われて、有名大学の吹奏楽部に推薦入学が決まっていた。だから卒業まで後進の育成に吹奏楽部に顔出ししてくれているのだ。
 少しでも櫻井部長の指導を受けられるのは、私にとっては幸せだった。
 五十数人いる吹奏楽部員の中で、私は上手い方ではない。いくら練習してもフルートの腕は上達しなかった。だから、今年入学した一年生に演奏会のフルートのポジションを盗られてしまった。それに比べて香里奈ちゃんは、小学校からクラリネットを習っていて、その腕前は吹奏楽部一だった。
 こんな落ちこぼれ部員の私でも、少しでも吹奏楽部の役に立ちたいと思っている。櫻井部長や先輩たちが育てた吹奏楽部をもっと輝かせたい、最近は縁の下の力持ち的ポジションで頑張っていた。

 駅前にある大型店舗の楽器店に入った。
 そのお店は一階と二階があって、櫻井部長は下の階でトランペットのマウスピースをみてるというので、私は香里奈ちゃんと一緒に上の階にある譜面コーナーにいった。
 特に用事のない私は譜面を選ぶ彼女をみていた。
「澤木さん、一年生にフルートのポジション盗られて悔しくないの?」
 突然、香里奈ちゃんにいわれた。
「……残念だけど、あの子の方が上手いから顧問の先生が抜擢したんだと思う」
「情けない人ね」
 さらっと、バカにされた。
「練習しても、上手く演奏できなくて……」
「どうせ上達しないんだったら、フルート辞めて、マネジャーにでもなったら。よく部室の掃除とか、楽器の手入れとかやってるでしょう?」
「上達しないけど……フルート辞めたくないです」
「ハッキリいって、あなたみたいな中途半端な部員は目障りなのよ!」
「そ、そんな……」
「櫻井部長もきっとそう思ってるわよ」
 その言葉がグサリと胸に刺さった。
香里奈ちゃんと櫻井部長が、そんな話をしたのかしら? 私って、みんなのお荷物だったの!?
 そんな風に思われていたことがショックで涙が込み上げてきた。
 香里奈ちゃんに、「先に帰ります」とだけいって二階からかけ下りた。一階のフロアで櫻井部長に呼び止められたけど、泣顔を見られるのが恥かしくて、そのまま楽器店から飛び出していった――。


 そして、いつのまにか猫耳の帽子屋さんの店先にいた。
 ショーウィンドウの前でボーッと突っ立っていたら、店の中から手招きされた。すると、身体が勝手に動いて、私はふらふらと入っていった。
 お店の中には、黒い猫耳付きニット帽を被った、黒いドレスのおばあさんがいて、「いらっしゃい」と挨拶をされた。
「あら、可愛いお客さんだね」
「こんにちは」
「お嬢ちゃんにお似合いの帽子がありますよ」
「わたしお客ではないんです」
 道に迷って、この店の前に立っていただけと言おうとしたら、
「ほら、この白い帽子、とっても素敵でしょう?」
 猫耳付きの白いキャスケットを勧められた。
「あのう、学校帰りなのでお金持ってませんから……」
 そういっても、おばあさんはニコニコしている。
「このお店の帽子は全部、あたしの手作りなの」
 店内には、色とりどりの猫耳帽子が飾られていたが、こんなネタっぽい帽子を、本当に買う人がいるのかしら、ちょっと不思議に思った。
「この猫耳帽子は、人の“真実の声”が聴けるんだよ」
「えっ!?」
「あなた“真実の声”を聴いてみたい人がいないの?」
 一瞬、櫻井部長の顔が浮かんだ。
 私みたいなヘタクソ部員は辞めてもらいたいと思ってるのか知りたい。もし、本当に櫻井部長がそう思ってるのなら……私は退部するつもりだった。
「じつは……います」
「ほう、やっぱりいるんだね。だからここにきたんだよ」
 おばあさんが意味深なことを言いながら、大きな鏡の前に私を立たせた。
「さあ、被ってごらん。この猫耳帽子を!」
 私の頭に白い猫耳帽子を被せた。――そして鏡に映った姿の驚いた! 私は一匹の白猫に変身していたのだ。
「白猫さん、“真実の声”聴きたい人の元へいってらっしゃ~い」
 おばあさんの声を背中に受けて、猫の姿のままで駆け出していた。




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『花小鳩』 今宵 様よりお借りしました。
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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-19 12:42 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑬

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第六話 夢のまりあ ②

 ― 幻夢 ―

『欠席日数が多いと単位落として卒業できなくなるぞぉー! コラッ!』
ずっと大学を休んでいる俺を心配して、携帯に悪友からメール届いていた。
大学かぁ~もう、どうでもいいや……
そんな俺は毎日ベッドの中でまりあと愛し合っていた。
起きている時間より寝ている時間の方がはるかに長い。
寝ても、寝ても、寝ても……激しい睡魔が俺を襲ってくる。
夢の世界では、いつもまりあが俺を待っている。

その後、悪友からしつこく何度もメールや電話があったので、
俺は仕方なくに大学に登校した。
だが、久しぶりに登校した大学はまるで異世界へきたような
不思議な違和感に包まれた。
ここが現実世界(リアル)なのに……とても居心地が悪くて、落ち着かない。

「勇介くーん!」
振り向くと、サークルのアイドル優香が珍しいことに俺に声をかけてきた。
「勇介くん、ひさしぶりね。元気だったぁー?」
久しぶりに見た彼女の顔、なんて化粧が濃いんだ! 
まるで男を誘うような、ド派手なファッションに俺は嫌悪感を覚えた。
――まりあの美しさに比べたら、こんな女は大したことないや。
つい最近まで、優香に憧れてサークルまで入っていた俺なのに……
今じゃあ、信じられないほど興味を失っていた。

「ねぇ、今夜サークルのコンパあるんだけど勇介くんも来ない? 
人数が集まらなくて困ってるの、お願い……」
冗談にせよ、あの優香が手を合わせて拝んで頼んでいるではないか?
「悪いけど……俺、バイトが忙しくて休めないから無理!」
適当な嘘で優香の頼みを断った。
「あらっ、そうなの? 残念だわ!」
即座に断られてムカッときたのか、キツイ顔で優香が俺を睨んだ!
男にチヤホヤされて当然と思っている、自分の頼みを断るわけないと……
思い上がった優香の自尊心を傷つけたようだ。
そして俺の顔をまじまじと見て、いきなり、
「あんた顔色悪いわよ! どっか病気じゃないの? 気持ち悪いわるぅー」
そういうと踵を返して、さっさっといってしまった。

ふざけんなっ! おまえなんか、まりあに比べたらブスだ。
俺はそう呟いて、優香の後ろ姿に冷笑をくれた。

深夜バイト中、何度も居眠りをしてヘマをやった俺は、コンビニの店長に、
「体調が良くなるまで、しばらく休んでいいから……」
と、言われた。
そして新しいシフト表には、俺の名前が載っていない、事実上クビである。
最後のバイトを終えて、ロッカーの中を片付けて帰ろうとすると、
深夜バイトの相方が俺を呼び止めた。
「おまえ、ナルコレプシーって知ってるか?」
「はぁ?」
「脳の病気かも知れないから、病院で診てもらえよ」
真剣な顔でそう言われた。
ナルコレプシー? なんか聴いたことはあるぞ。
いわゆる眠り病ってやつらしい。――相方は、医大の浪人生で、
俺なんかより、ずっと病気への知識がある。
「おまえの眠り方は異常なんだ、深いレム睡眠の状態が長く続いている」
相方は心配そうに俺にいう。
「ありがとう」
「絶対に診察してもらうんだぞっ!」
「ああ、じゃあな……」
コンビニのバイトに俺は別れを告げた。

もう何もかもどうでもよくなっていた……
俺にとって、現実世界(リアル)も夢の世界(ドリーム)も変わらない。
てか、まりあのいる世界が俺にとっての現実なんだ。

――絶対にまりあとは離れられない!



 ― 艶夢 ―

部屋に帰って、荷物を置いて、そのまんまベッドに倒れこんだ。
現実世界(リアル)は、俺をひどく疲れさせる。

瞬く間に夢の世界へ落ちていく……。
まりあは、今日も俺のために美味しい料理を作って待ってくれている。
俺はもう、まりあの作った料理しか口に合わない。
起きていても、ほとんど食べ物を口にしなくなっていた――。
俺のまりあは時々ふざけて、
「勇介、あーんして!」
赤ちゃんみたいに食べさせてくれる。
こんな美人をひとり占めできるのは、夢の世界(ドリーム)だからなんだ。
彼女は素直で逆らったりしないし、俺だけを愛してくれる。
――ここにいる限り、俺は世界一の幸せ者だった!

いつも、まりあは俺の愛を受け入れて……
優しく返してくれる、最高の女なんだ。
ふたりは快楽の後の脱力感で、全裸のままで抱き合っていた。
まりあは甘美な余韻に浸っているように、深く呼吸をした。

「勇介……」
「うん」
「わたし、赤ちゃんができた」
はにかんだように、まりあが俺の耳元で囁いた。
「えぇー!」
まさか、本当か? 夢の世界(ドリーム)なのに……そんなことがあるのか!?
「触って……」
俺の手を自分の腹の上に持っていった。
「どう感じるでしょう? 赤ちゃんの心臓の鼓動を……」
まりあの下腹部に押し当てた俺の手には何ともしれない……
かすかな心音と胎児のイメージが浮かんできた。
「ふたりの赤ちゃんよ」
「…………」
「勇介、あなたの子供だからね!」
キリッとした声でまりあが念を押した。

「まりあ……俺、俺は……」
言葉が出ない――愛する女性に自分の子供を産ませる。
そんなこと想像したこともない、どうしたらいいんだ? 
なんと答えればいいんだろう、俺は……?
「産んでもいいでしょう? 一緒に育てましょう。ふたりの赤ちゃんをここで!」
俺の手には、ハッキリと胎児の心音が伝わってくる。
「だから、ずっと、まりあのそばにいてね」
まりあは縋るように俺に抱きついてきた。
こんな可愛いまりあを放って、ひとりで現実世界(リアル)になんか戻れない!
「まりあ……俺は……俺は、まりあと赤ん坊とここで暮らすよ」
「勇介、愛してる」
俺の体に、まりあが裸体を絡めてくる。
ああ、なんて甘美な世界なんだ。

口下手でブサメンの俺は、今まで女の子にモテたことなんかない。
たとえ、夢の世界(ドリーム)であっても俺のことを愛してくれる人がいる。
それって、現実世界(リアル)では一生望めない幸せかもしれない。
もうどうなってもいい、このまま目覚めなくてもいい……
まりあとは絶対に別れられない。

「ずっと、ずっと、ここで愛し合っていこう!」

――俺は、まりあの虜だった。
この世界から出られなくなっていく……夢の世界(ドリーム)から……永遠に……。



 ―念夢 ―

「勇介、勇介、勇介!」
男は大声で何度も呼び続けた。
「おいっ! 勇介、目を覚ませ!」
耳元でさらに叫んだ。
「――なんで、こんなことに信じられねぇ」
変わり果てた友人の姿に彼は絶句した。
病室のベッドの上には、痩せ細った若い男が昏睡状態で横たわっている。
「危なかったです!」
白衣の医師は患者の脈を取りながら言った。
「後2~3日発見が遅れていたら……たぶん命はなかったでしょう」

「患者は田沼勇介、22歳大学生ですね」
警察官が手帳にメモを書き込みながら事件を説明する。
「目立った外傷はなし、胃の中に内容物はなく、3週間程度の絶食状態による
衰弱かと思われます」
「俺が発見した時、こいつベッドの中で餓死しかけてた……」
発見者の友人は、そのときのことを思い出して声を震わせた。
「部屋は内側から施錠され、外部からの侵入形跡はなく、争った様子もない。
事件性がないので、自殺未遂もしくは、なにか事故の可能性があります」
冷静な声で警察官が説明した。

「それにしても絶食自殺というのは信じられません」
現在の日本で、餓死状態の患者など滅多に診ることはない。
医師は信じられないという表情だった。
「金がなくて食べ物が買えなかったんですか?」
「いや、財布や部屋の中には現金で5万円近くあり……
冷蔵庫には冷凍食品やインスタント食品が入っていました」
「――不思議な話ですね。急な病気で動けなくなったとか……」
医師が首を捻る。
「それがベッドのそばには携帯電話が置かれていました。
充電もまだ残っていたし、何かあれば助けを呼べたはずなんだが……」
警察官もまた首を捻る。
「それじゃあ、勇介は自分の意思で餓死しようとしたんスか?」
とても府に落ちないというと、友人はふたりに訊ねた。

「夢みたっス。――こいつが、俺の夢の中に出てきて……
そっちの世界には戻らない。今までありがとうっていって、フッと消えたっス」
友人は昨夜の夢の話をした。
「それがすんごくリアルな夢で……俺、めっちゃ胸騒ぎがしたっス!」
大学を無断で休んでいて、電話してもメールして連絡が取れない。
そんな勇介のことを彼は心配していた。
聴けばバイトも辞めてるし、少し前から勇介の様子が変だった。
「それにもしても絶食自殺なんて、長く苦しむ死に方だよなぁー?」
患者の様子をみながら、不思議そうにいった。
「その割りに安らかな顔して眠ってるっス、こいつは……」
友人が勇介の顔を覗きこんで呟いた。



 ― 永夢 ―

病室のドアが開いて、ワンルームマンションの管理会社の社員が入ってきた。
「田沼さんの家族に連絡取れました、今から病院に向かわれます」
「こいつの家族は驚いたでしょう?」
発見者の友人は家族には連絡せずに、管理会社に友人の部屋を、
開けてくれるよう、強く頼んだのである。
「しかし、またあの部屋だ……」
管理会社の社員がポツリと呟く。
「ああっ! そういえば、前にもたしか自殺未遂があったな?」
思い出したように警察官が応えた。

「半年ちょっとなるかなぁ? 女子大生でしたよ」
「そうそう、ベランダで首吊り自殺しかけて、紐が切れて……
命は助かったけど、可哀相に脳死状態になった」
現場を思い出しながら警察官がいうと、
「私がね、部屋案内して賃貸契約したんですよ。可愛らしいお嬢さんで、
年は21だっけ? ホント気立ての良い子でしたよ」
初老の社員はため息まじりで話した。
警察官は手帳を閉じながら、
「今もどこかの病院に入院していると聞いたけど……」
さらに続けて、
「婚約者が交通事故で亡くなって、後追い自殺を図ったらしいですが……
じつは、あの娘は妊娠してました」
その話題に彼らは、しばしベッドの上の患者のことを忘れた。

「先生、こいつ、勇介はいつ目を覚ますんですか?」
いきなり訊かれた医師は、しばらく考えてから、ゆっくりと説明した。
「3週間近く絶食で脳に栄養がいき渡らず、かなりダメージを受けています。
命が助かったとしても、脳が元通りに機能するのは難しいでしょう、
――このまま寝たきりになってしまう可能性もあります」
気の毒そうに、医師が説明する。
「寝たきりって……まだ22だぜぇー。こいつは……勇介……」
「お気の毒ですが……」
「チクショウ! 勇介――――!!」
医師の言葉にショックを受け、堪えきれず、友人は声を上げて泣いた。



「まりあちゃん、生まれたわよ!」
病院の分娩室に乳児の泣き声が鳴り響いた。
「こんな状態で、よく頑張ったわねぇー!」
妊婦は21歳の若い女性で、脳死状態のまま帝王切開で、
2500gの男児を産み落とした。

「あら? 今笑った?」
点滴を付け替えながら、看護師がポツリといった。
「ほんとだ、口元が笑ってる、まりあちゃん……」
「どんな夢みてるんだろう?」
産婦人科の女医が、まりあの顔を覗きこんでいった。
「きっと夢の中で婚約者と赤ちゃんと幸せに暮らしているかもしれない」
「……いつか目覚めるのかしら? それにしても綺麗な人だわ」
「ホント、まるで聖母マリア様みたい」
そんな話をしながら、ふたりは病室から出ていった。


――点滴の針を刺されて、ベッドに横たわる聖母は微笑んでいた。                         
                       

― 完 ―





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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-11 17:00 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑫

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第六話 夢のまりあ ①

 ― 萌夢 ―

「なんてリアルな夢なんだ!」
目が覚めた時、勇介はまだ彼女の手の温もりと柔らかな感触を覚えていた。
あれが夢なんだろうか?
まるで現実のことのように、くっきりと記憶に残っている。

――それは、まるで夢のような夢だった。

ベッドの側に置いた、携帯のアラームさえ鳴らなければ、
もっと夢の続きをみていられたのに……
なんだか残念で悔しかった。

いつも大学に通うバスに揺られながら、田沼勇介(たぬま ゆうすけ)は、
あの夢のことを思い出していた。
それは、こんな夢だった。

夢の中で、俺は大学のサークルのコンパに参加していた。
お酒も飲めないし、女の子とも気軽にしゃべれないシャイな俺が……
高い会費まで払って、なんでコンパに参加したちゃったんだろう?
かと、心の中で後悔していた。
お目当てのサークルのアイドル優香(ゆうか)ちゃんは、
取り巻きの男たちにチヤホヤされて、俺なんか側にも寄れない。
あぁ~こんなんだったら、家でネトゲでもやってりゃよかったなぁー、
やけっぱちで、手当たり次第にテーブルの料理をほおばっていると――。

「隣いいですか?」
ふいに声がして、爽やかな花の香りがした。
気づくと俺の隣の席に若い女性が座っている。
白っぽいワンピースを着た、色白でストレートのロングヘアー、
まつ毛の長い、涼やかな顔立ちの美人だった。
やけに親し気に俺に微笑んで、
「わたし連れがいなくてひとりなの。お話相手になってください」
向こうから声をかけてきた。
「……お、俺もひとりだから、いいっス」
こんな美人を真近に見たことのない俺は、どうしていいか分からず、
ドギマギしながら答えた。

「わたし、お酒飲めないの……」
「えっ? 俺も酒は無理っス!」
「じゃあ、ウーロン茶でカンパーイ!」
乾杯をして、意気投合した。
ふたりの共通点が見つかって、そこから急に会話がはずみだした。
偶然、好きなミュージシャンが一緒で、ますます話が盛り上がったが、
しかし、その話題も最近の曲の話になった途端に、
「最近は聴いてないから……」
と、彼女は口をつぐんでしまった。

さっきから、俺のためにオードブルを取り分けてくれている。
自分は食べないで、ただ俺が食べるのをニコニコしながら見ていた。
彼女はスレンダーな体型だし、たぶんダイエットでもしてるんだろうなぁー?
女性から、こんなサービス受けたことない俺は、嬉しいけど落ち着かない。
不思議なことに彼女の取り分けてくれた料理は、
夢のはずなのに、なぜか味覚さえ感じていた。

しかも俺の隣に、こんな美人がいるのに、誰もこっちを見ようともしない。
可愛い女の子にはすぐ反応する奴らが、どうしたんだ? 
おっかしいなぁ~? そっか、これは俺の夢なんだ。
だから、ぜんぶ俺に都合のいいストーリーになっているんだな。納得!
夢の中で、なぜかしごく冷静な俺がだった。

目が覚める直前に……
「わたし、まりあ」
と、彼女は自分の名を告げた。
「俺は……」
言いかけると、まりあが答えた。
「勇介でしょう。知ってるわよ」
「えぇー!」
一瞬、驚いた俺だったが、そっか、これは俺の夢だったなぁー。
別れ際に、まりあが俺に握手を求めてきた。
ドキドキしている俺の手を優しく握りしめて、
「勇介、また会おうね!」
そういってから、フッと姿が消えてしまった。

――携帯のアラームが鳴り響いて、そこで俺は夢から覚めた。



 ― 美夢 ―

アラームの音に叩き起こされた俺は、いつものように通学の準備をして、
大学へ向かうバスに乗っていた。
あの夢のことを思い出しながら、バスの座席の深くもたれて、
目を瞑っていると、
「勇介」
ふいに誰かに呼ばれた。
目を開けると隣の座席に、まりあがちょこんと座っていた。
あれぇー? 
そこはたしか、サラリーマン風のオッサンが座っていたはずなのに……
けど、まあ俺としては、まりあに会えて嬉しかった。

「勇介と同じバスに乗れて嬉しいわ」
はしゃいだ声でまりあがいう。
「俺も……うれしい……なぁー」
朝の光の中、透明感のある肌をした、まりあがすごくきれいだった。
しかも狭い座席はバスが揺れる度に、お互いの体が触れ合って、
ドギマギしてしまった。
夢だから、俺みたいなサエない奴でもモテるんだろうなぁ~
それでもいいや! モテたことのない俺にはまさに夢みたいだった。

――うん。俺にとっては夢みたいな夢だな。

「あのね……」
「前のカレシもゆうすけって名前だったの……」
悲しげに瞳をふせて、まりあがぽつりとつぶやいた。
「えーっ、そう? 偶然だね……」
いきなり元カレの話をされてムッとした。
夢なのになんでマジになってんだ、この俺は?
「前のゆうすけは、会えない所へいってしまった。もう、二度と会えない……」
会えないって? それって、もしかして死んだってことか……?

「勇介! お願いだから、まりあをひとりにしないで!」
うわっ! まりあが急に俺に抱きついてきた!
ちょっ、ちょと、みんなが見てるよ。
ここはバスの中だし……あれれ? 乗客は俺らふたりだけ?
そっか、これは俺の夢だからなぁ~
俺はまりあの肩に手を回しギュッと抱きしめた。
「大丈夫だから、俺がついている」
思わずキザなセリフを吐いた。
俺の胸に押し当てられた、まりあの柔らかな胸のふくらみ、
なんて幸せなんだ、ドキドキが止まらない。
このまま時間よ、止まってくれい!

「お客さん!」
バスの運転手の声に、ハッとして目が覚めた。
どうやら、俺はバスの中で居眠りしていたようだ。
終点のバス停まで乗り越してしまった、俺はそこからUターンして、
大学のあるバス停まで戻ったが……
当然、講義には遅刻してしまった。

それでもいいや、あんな幸せな夢を見られたんだから。
まりあの胸のふくらみの感触を思い出して、ひとりニヤニヤしてたら……
「おまえさぁ、遅刻してきて、なにニヤニヤしてんだよ!」
「はあ?」
「さては、昨夜いいことでもあったのか?」
大学の悪友が、俺の脇腹をシャーペンの芯で突きながら訊く。
「べつにぃー」
わざと、超不機嫌そうな顔で俺は答えたが、内心はニンマリだった。

夢の中で、女の子といいことあったなんて……
恥かしくて、とても言えるわけないじゃん。



 ― 望夢 ―

大学から帰るとバイトが待っている。
俺は親元から離れて、学生向きのワンルームマンションでひとり暮らし。
生活費は毎月の仕送りと、自分で稼いだバイト代でやりくりしていた。
彼女のいない俺は、遊びといったら、せいぜいネットゲームくらいで……
デートなんかにお金を使ったこともない。
サエえない、ボッチ生活だけどさ。

近所のコンビニで、週に3~4日バイトをやっている。
おもに深夜のバイトで、夜の10時から翌朝6時迄である。
時間は長いが、時給が良いのと、深夜なのでお客が少なくて、
人見知りの俺には、接客が少ない時間帯の方が気が楽だったから。
途中に2時間の仮眠休憩がある、たいてい携帯ゲームをいじったりしながら、
椅子にもたれて軽くうとうとしているだけだ――。
今日は仮眠休憩に入った途端、強烈な睡魔に襲われて……
いつのまにか、寝込んでしまった。

――そして、また夢を見た。

いつものように、コンビニでバイトをしていると、まりあがお客で入ってきた。
レジカゴを持って、向こうから俺に軽く手を振っている。
なんか嬉しくて、俺はまりあの方ばかり見ていて仕事が手につかない。
買い物カゴをいっぱいにして、まりあがカウンターにやってきた。
レジカゴいっぱいに、いろんな食材が入っている。
こんなたくさんの食材を、だれと一緒に食べるんだろう? 
そんなことが頭をよぎって、俺はチョイ焼もちを妬いてしまった。

「ねぇ、勇介はどんなお料理が好き?」
にっこり微笑んで、まりあがまっすぐに俺をみて訊いた。
「えっ? 俺は好き嫌いとかないよ」
その視線に照れた俺は、みるみる顔が赤くなった。
「俺、まりあが作った料理なら、なんだって喜んで食べるさ」
「今度、勇介にまりあの作った料理を食べさせてあげるね」
「ホント? 嬉しいなぁー」
俺はわくわくしてしまった。
「楽しみにしていてね」
そういうと、カウンター越しにまりあは俺のほっぺに軽くキスをした。
「あっ!」
びっくりして硬直してしまった。
「じゃあ、またね」
いたずらっぽく笑って、まりあはドアの向こうへ消えていった。

「おいっ! 起きろよ!」
だれかに身体を揺さぶられて、ハッとして目が覚めた。
「交代の時間なんだ!」
深夜バイトの相方に起こされた。
「おまえさ、すんげぇー寝言いってたぞぉ……
それも大声で、だれかと話してるみたいで、マジ気味悪かったぜぇー」
まじまじと勇介の顔を見て、相方が怪訝な顔でそういった。

あれはやっぱし夢だったのか!?
まりあがキスしたほっぺに触れてみる。
そこには、たしかに彼女の唇の感触が残っていた――。



 ― 恋夢 ―

長いバイトから解放されて、やっと家に帰ってきた。
シャワーを浴びて、後はもう寝るだけだ……寝るだけ? 
今の俺にとっては、最高の楽しみだ!
もしかしたら、また、まりあに会えるかもしれない。

ベッドで横になると、すぐに夢の世界へと落ちていく――。

俺は、ワンルームの自分の部屋の前に立っていた。
鍵を開けて中へ入ると、なんと、まりあが俺の部屋にいる。

「勇介、おかえりなさい」
白いエプロン姿で俺を出迎えてくれた。
「まりあ! なんで?」
びっくりしてキョトンとしている俺に……
「ねぇ、ご飯できてるわよ……」
まるで奥さんみたいなことをいう。
見れば、テーブルの上には花が飾られ、ふたり分の料理が用意されてある。
その上、部屋の中まできれいに掃除されていた。
玄関から見渡せる、ワンルームの部屋を茫然と眺めていると、
「いつまで突っ立てるつもり?」
ちょっと怒ったような顔で、
「さあ、お腹すいたでしょう? 一緒に食べよう」
焦れたように俺の手を取り、まりあが引っ張った。

まりあの作った料理は、今まで食べたことないくらい美味しかった。
味覚も、香りも、温度まで感じて、まるで現実世界(リアル)で食べているようだ。
俺は夢中になってガツガツ食べた。
そんな俺を、まりあはニコニコしながら見ている。
そして、自分の料理もぜんぶくれた。彼女は何も食べようとしない。

食事を終えて、まりあが片付けをして、その後、ふたりでテレビを観ていた。
まるで新婚夫婦みたいだなぁーなんて思っていた。
その後の展開どうしようか? 男の俺はあれこれ考えてしまう。
すると……まりあの方から俺の側にきて、肩にしなだれてきた。
ドキッとしながらも、これはチャンスか! ?

俺はまりあを抱きしめて、夢中でキスをした。
ふたりは何度もキスをして、抱き合ったままベッドへ崩れていく。
女性との経験がない、この俺だけど……。
まりあとはごく自然に愛しあえた。
朝がくるまで、俺たちは何度も愛し合っていた。
すっかり、身も心もまりあに夢中になってしまった。

――夢の中、俺とまりあとの関係は、
ただの夢の出来事だとは思えなくなってきた。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-10 16:46 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑪

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第五話 彼女のウワサ ③

 ついに待ちに待った同窓会の日。
 わたしたち『地元残留組』のメンバーは元さんの手伝いに早くから集まっていた。
 ひと通りの料理が準備できたので、本日の参加人数十八人分の御膳をテーブルに並べていった。御膳には突き出しとビールのコップ、箸と本日の料理のメニューが書いた御品書きが乗っているのだ。
「あれぇー?」
 元さんは並べられた御膳を見て不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「おっかしいなぁー? たしか十八個しか御膳の用意してないはずなのに……今、数えたら、十九個並んでいるんだ」
「あ、ホントだ。私たちも並べる前は十八個ちゃんと確認して並べたのに……」
「不思議よねぇー」
「……まあ、多い分には構わないかぁー」
 みんなの集まる時間が近づいていたので、そのまま十九番目の御膳は置いたままにした。

「カンパーイ!」
 同窓会幹事の挨拶の後、参加者たちで再会を祝して乾杯をした。
 みんな変わったなぁー。スッカリおじさん、おばさんになっている。中にはもう孫までいる人がいた。かつての悪ガキやおてんば娘たちも不惑となり、社会的にもそれ相当の暮らしをしているようだ。
 学校で目立たなかった少年が社会に出て営業でバリバリだったり、カッコ良かったあの男子が今じゃあ、ハゲでメタボなオッサンだったりして……、か弱いと思っていた女の子が肝っ玉母さんみたいに逞しくなって――。それぞれの歩んだ人生が、彼らの今の顔になっている。
 同窓会の話題も家族や仕事の話から、健康の話へと変わっていく。
 コレステロールや高血圧、中性脂肪、がん検診など、お互いの健康について話題が尽きない。そういう年代に入ってきているんだなぁー、と自覚させられた。

 ふと気が付いたら、十九番目の御膳の前に誰か座っている。
 白いワンピースを着た女性だ。なんと、それは紛れもなく、あの“小椋麻耶”だった!
「あれぇー! いつきたの?」
「今きたばかり。みんなで盛り上がってるみたいだから、そっと入ってきたの」
「あれま! 麻耶ちゃんじゃないの」
 知美さんと英子さんも同時に見つけて叫んだ。
「同窓会があることがよく分かったね?」
 驚いた顔のまま、知美さんが訊ねた。
 たしか消息不明の麻耶ちゃんには連絡できなかった筈なのだ。
「ええ、ツイッターで偶然見たのよ」
「ああ、そっか!」
 誠くんが連絡のつかない人たちへ向けて、毎日、ツイッターで同窓会の連絡を流していたんだっけ――?
「それにしても麻耶ちゃんは昔と全然変わらないわねぇー」
「ホント! 美人は年を取らないのかしら……」
 知美さんと英子さんがうっとりした顔で羨ましそうにいう。
 わたしたちと同じ四十五歳にはとても見えない――。すべすべの白い肌、皺ひとつない、どう見ても三十代にしか見えない。着ている服も襟あきの広いワンピースで彼女のデコルテの優雅な曲線を際立たせている。手首にはエレガントなカルチェの時計、爪の先までネイルアートされて、まるで女優のように美しい。
 洗練されたファッションセンス、上品で知的な雰囲気だった。自分たちとは持って生まれた世界が違うって感じだった。
 先日のウワサ話でソープ嬢だの、極道の妻だの、すべて一笑してしまうほど、彼女は凛として清純な感じだった。

「今、なにやってるの?」
「夫が演奏家なので今はイタリアで暮らしているの。世界中を旅しているわ」
「うわー、すごい! セレブな生活ねぇー、羨ましい!」
 英子さんが心底羨ましいそうに叫ぶ。
「ねぇ、旦那さんは日本の人? 子どもは何人?」
「アメリカ人よ。子どもは残念ながらいないの」
 矢継ぎ早のふたりの質問にも、麻耶ちゃんは微笑みながら答えていた。『地元残留組』の男メンバー酒屋の旦那も役人の誠くんも、麻耶ちゃんに見惚れている。
 おおよそ、この界隈でこんな美人は身近にはいない。

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「麻耶ちゃん、久しぶり! 飲みもの何にする?」
 元さんが注文を訊きにきて、麻耶ちゃんを遠慮なくジロジロと見ている。昔、水商売をしていたので女性を真近で見てもあがったりしないのだろう。
 だけど胸元を覗きこむような、あの目線がいやらしい。
「ワインをくださる。辛口の白」
「うちは高級ワインなんか置いてないぜぇ」
「構わないわ」
「じゃあ、国産のドンペリ持って参りまーす。あははっ」
 国産の安いワインでも、麻耶ちゃんが飲んでいたら高級シャンパンのドンペリニヨンに見えることだろう。彼女が居るだけで華やかな雰囲気が店内に漂っている。

 同窓会も終盤に近づき、遠方からきている人たちがそろそろ帰り始めた。『地元残留組』のメンバーは、店の外まで出て、その人たちにお別れの挨拶をして見送っていた。
 店の中に戻ったら、あれ、麻耶ちゃんがいない……いつの間に帰ったんだろう? 
 なぜか十九番目の御膳も消えていて、ワイングラスだけが置かれていた。
 きた時と同じように、麻耶ちゃんはまるで風のように消えてしまった――。
 
 翌日の早朝、私は飲み過ぎたせいで、二日酔いでダウンした。
 吐き気と頭痛に堪えながら、近所にゴミ出しにでて帰ってきたら、家の電話が鳴っていた。
 こんな早い時間から誰だろう、訝しげに受話器を取ったら、
「春奈、大変なことよ!」
 いきなり、名乗りもしない興奮した知美さんの声がした。その甲高い声が頭にキーンと響いた。
「な、なによ? どうしたの!?」
「信じられないような話で……ビックリしないでね! 今朝の新聞読んだ?」
「ううん、まだ。何があったの?」
「麻耶ちゃんが死んでた」
「えっ? どういうこと?」
「麻耶ちゃんの死体が発見されたのよ」
「嘘? まさか……昨日会ったばかりなのに……」
 ――ショックで言葉を失くしてしまった。
 だが、本当に驚いたのは、この後の話の方だった。
「あのね、麻耶ちゃんの昔住んでいた家が空家になっているでしょう? その中で彼女が死んでいたのよ」
「ええっ! あの気味の悪い廃屋の中で……?」
「そう、しかも死後一週間経っていたらしい」
「そ、そんな……じゃあ、昨日、私たちが会った麻耶ちゃんはいったい誰?」
 真剣な知美さんの声に冗談とも思えない――。新聞店を営む彼女はお客よりも一足早く、新聞の情報を知るのだ。
 その後、私は茫然としたまま電話を切った。

 リビングのテーブルに置いていた新聞を捲ってその記事を探した。地方欄の端っこに小さく記事が載っていた。

     OO町の廃屋から女性の変死体が発見される。
     近所の高校生数人が建物に侵入して、遺体を発見、警察に通報した。
     遺留品から東京都足立区に住む、無職・小椋麻耶さん(45歳)とみられる。
     遺体に目立った外傷はなく、死後、約一週間経過していた。
     死因は自殺、病死の両面から警察が捜査中である。              

 この新聞記事になってる人が本物の麻耶ちゃんだったとしたら、昨日の同窓会にきていた人は、いったい誰なの? 廃屋で死んでいた人と、どっちが本物の麻耶ちゃん?
 ああ、二日酔いの頭の中が混乱して、余計にキリキリ痛んできた。
 もう我慢できなくなって、寝室にいって、そのまま、ベッドに倒れ込んで私は眠ってしまった――。


 ひと月後、麻耶ちゃんの死んだ家の前に『地元残留組』のメンバーが集まった。
 事件の捜査もひと通り終わったようで、いつものように、ここは森閑とした場所だ。やはり、廃屋で死んでいた女性が“小椋麻耶”本人だということだった。

 死因など詳しい事情は、知美さんが新聞のお客さんで夫が警察官をしている主婦に訊いてきたようで、それに依ると……死因は覚せい剤のショック死らしい。遺体の傍には覚せい剤の注射器が落ちていた。
 麻耶ちゃんの腕には無数の注射針の痕があり、身体はガリガリに痩せて、肝臓も悪くなって皮膚の色はどす黒く、歯も抜けていた。遺体は実年齢よりも二十歳は老けて見えたということだ。胃に内容物はなく、所持金はたったの五百円だった。
 発見したのは近所の不良グループで、シンナーを吸うために建物に侵入して、偶然発見した。リビングルームの壁にもたれるようにして彼女は死んでいたらしい。
 発見時、身元は期限切れの免許証を持っていたので分かった。その後、指紋で確認したので、この人が“小椋麻耶”本人に間違いない。
 彼女には覚せい剤所持の前科があり、警察で指紋採取されていたのだ。麻耶ちゃんの遺体の引き取り人はなく、無縁仏として葬られた――。

「麻耶ちゃんが、こんな所で死んでいたなんて……」
 英子さんが花束を門の壁に立てかけた。
「どうか、成仏してください」
 知美さんがりんごを置いた。
「南無阿弥陀仏」
 酒屋の旦那が念仏を唱えながら、缶ビールを供えた。
 それぞれ手に持ったお供え物を壁の前に並べると、線香立てに元さんがお線香を差した。それを合図に『地元残留組』全員で合掌して冥福を祈った。

「不思議なこともあるもんだ。俺たちの同窓会にきてたのは、いったい誰なんだ?」
 役人の誠くんが解せない顔つきでいう。
「私たち六人は、麻耶ちゃんの姿を見ていたけど、おかしなことに他の人たちに訊いたら……そんな人きてた? て、言われたのよ。あんな目立つ格好していたのに……」
 知美さんも解せぬ顔だ。
「もしかしたら、私たちにしか見えない幽霊だったのかなぁー?」
「南無阿弥陀仏」
 英子さんと酒屋の旦那が脅えている。
 みんなの話を黙って聞いていた元さんがボソリと話し出した。
「……幽霊かどうかは分からんけどね。あの同窓会の麻耶ちゃんも本物だった。左の肩甲骨の窪みに小さなホクロがあるんだ。昔、ソープで抱いたときに、『こんな所にホクロがあって色っぽいなぁー』と思った、だからハッキリ覚えている。同窓会の女にも同じ位置にホクロがあったんだ」
 ああ、それを見るために――あの日、元さんは無遠慮にジロジロと覗き込むように麻耶ちゃんを見ていたんだ。
「やっぱし、おぐらまやを抱いたのかっ!」
 酒屋の旦那が叫んだ。
 その声に、みんなはどっと笑ったが、その内、しんみりして黙ってしまった。
「あんなに美人に生まれてきたのに、ちっとも幸せじゃなかったんだ」
 美人の麻耶さんに憧れていた英子さんがいうと、
「麻耶は美人だから、あの顔と身体には値打ちがある。だからロクでもない連中があの子を喰い物にするのさ」
 かつて新宿で働いていた、水商売の世界に詳しい元さんが応えた。
「美人だからって幸運とは限らない。顔は十人並みでいいよ」
 夫婦で自営をいとなむ知美さんがしみじみという。
「彼女はツイテナイ人生で、独りぼっちで、ヤケッパチになってしまったのかなあー。この町に住んでいたら、少しは相談に乗ってあげられたのに……」
 残念そうに誠くんが呟くと、
「やっぱり東京は怖いところだ!」
 恐妻家の酒屋の旦那が独り合点して頷く。なぜ、その結論に達するのかという突っ込みを入れる者もいない。

 麻耶ちゃんの人生って何だったんだろう? 彼女の足跡を辿ってみる。
 深窓の令嬢だった麻耶ちゃんは、高校二年生のとき、父親が事業に失敗して自殺する。借金取りから逃げるために、東京に夜逃げしたが、親戚に冷たくあしらわれて、運送会社の寮で働くが、美人母娘なので男たちに何度も襲われそうになった。そこから逃げ出し、母親は水商売に出るが身体を壊して亡くなった。
 独りぼっちになった麻耶ちゃんは、工場や深夜喫茶のウェイトレスしながら生活をする。その頃に知り合った男と同棲するが暴力をふるわれて、また逃げ出す。たぶん、それが私の学生寮に来訪したときかもしれない。
 その後、新宿で探した仕事というのがソープ嬢だったのか。それで稼いだお金で高級ブランドバッグを私に贈ってくれた。新宿のソープでは元さんとも会っている。もしかしたら、やくざの親分に見染められて、愛人になったのはソープ嬢時代だろうか。
 極道の妻として羽振りが良かった時分、銀座で英子さんと偶然会ってフレンチをご馳走したり、こっちの町では酒屋の旦那がマヤ姐さんのウワサを聴き、知美さんの店で新聞を五部とってくれた。市役所に勤める誠くんに土地の件で電話をかけてきたのもこの時期だったようだ。
 その後、覚せい剤所持で逮捕され懲役になる。そこから麻耶ちゃんの転落の人生になった。ドラッグとお酒に溺れる日々で身体を壊し生活も貧窮する。年を取って容貌も崩れてきたので水商売も無理になってきて、熱海の観光ホテルで住み込みの仲居をやっていた。そのとき、知美さんの旦那に目撃されたみたい。
 ついに……自分の死期を悟った麻耶ちゃんは、この町に密かに帰ってきて、あの屋敷で誰に見看とられず、独りぼっちで死んで逝った。
 麻耶ちゃんは、美人ゆえに女たちには嫉妬されて嫌われる、男たちにはその肉体を喰い物にされてきた。あんなに美人に生まれてきたのに、ちっとも幸せな人生じゃなかった、なんて……悲しすぎる。
 ――私は麻耶ちゃんの冥福を祈ることしかできない。
  

 自治会の集まりで、麻耶ちゃんの屋敷を取り潰して、児童公園にする案が決定した。
 あの土地の持ち主が、高齢で管理できないので町に寄付してくれたのだ。あの廃屋はいろいろと青少年の犯罪の温床にもなっていたし、極めつけは麻耶ちゃんの変死体事件だろう。気味が悪くなって占い師に診て貰ったら、あの場所は不吉だと言われて、持ち主が怖くなって寄付したのだと、後ほど知美さんから聞かされた。

 そう言えば、同窓会の一週間前に麻耶ちゃんが亡くなったとしたら、あの日、自転車の帰り道、ここで会ったあの女性は……ずいぶん変わり果てた姿に分からなかったが、あれが生前、最後の麻耶ちゃんの姿だったとしたら……。
 彼女は死に場所として、自分の育った家に戻ってきていたんだ。
 
 きっと彼女は帰りたかったのだ、この町に……。そして同級生たちにも会たかった。だから現実の自分と違う、理想の自分になって、わたしたちに会いにきたのだろう。
 彼女の心の中には、いつも望郷のおもいがあって、いつの日か、この町に戻るつもりだったのかもしれない。
 この町で家族と幸せに暮らしていた、あの頃の自分を死ぬまで忘れられなかった。そんな彼女の心情を思うと……可哀相で涙が零れた。


 ――あの場所が児童公園になるのなら、桜の木をいっぱい植えてほしい。

 毎年、春が巡りきて、桜を眺めるたび、きれいだった麻耶ちゃんを思い出せるように、公園の敷地には、いっぱい、いっぱい桜を植えてください。
 ずーっと、私たちの側に居てね。もうどこにもいかなくていいんだから……。


 麻耶ちゃん! 

 あなたも『地元残留組』の仲間入りだよ。


― 完 ―




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-09 11:46 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑩

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第五話 彼女のウワサ ②

 あれは東京の大学に通っていた頃だった。
 今と違ってこんなに交通の便が良くなかったので、私は親元から離れて下宿することになった。下宿といっても『女子学生会館』と呼ばれる女子大生専門の学生寮だった。そこには寮母さんがいて、食事や身の回りの世話をみてくれる。
 建物は三階建てで、各部屋は六畳ほどの洋間でベッドと机とクローゼットとユニットバスが付いていた。そこに地方から出てきた女子大生が三十人くらい暮らしていたのだ。
 当時は今と違って携帯が普及してなかったので、『女子学生会館』にかかってくる電話を寮母さんが各部屋の回線に繋いでくれていた。
『女子学生会館』では、大事な娘さんを預かっているという寮母さんの思いもあって、寮の門前は十時までと厳しく、遅くなる時には電話で連絡を入れないと、親に「夜遊びをしました」とチクられるのだ。――大学卒業までの四年間、私はそこで暮らしていた。

 ……たしか、あれは大学二年生の時だったと思う。
 その日、大学から帰ると寮母さんに来客が応接室で待っていると告げられた。この寮は男子禁制なので来客が女性だとすぐに分かった。
『女子学生会館』の応接室は十畳くらいの広さで、二組の応接セットと大型のテレビ、なぜかピアノが置かれていた。ドアを開けると、ピアノの音色が聴こえた。背中を向けてピアノを弾いている長い髪の後ろ姿が見えた。
「お待たせしました」
 声をかけると、振り向いたその顔は“小椋麻耶”だった。夜逃げ同然で、東京へいってから三年以上も音信がなかった、麻耶ちゃんの突然の来訪に驚いた。
「春奈、久しぶり」
 少し痩せていたが、相変わらず美人の麻耶ちゃんだった。
「ビックリしたよ。よくここが分かったね」
「――同級生だった人からここにいるって聞いて、近くまできたから会いにきたの」
 なんだか不自然な感じのする説明だし、よく見ると、麻耶ちゃんは粗末な身なりだった――。
 冬だというのにTシャツと擦り切れたジーンズ姿で、かつてのお嬢様ファッションの麻耶ちゃんの面影はどこにもない。手に提げた紙袋には着替えのような物が入っていて、まるで家出少女みたいだった。
「久しぶりにピアノに触った……」
 そういうと、彼女は愛しそうに鍵盤の上を撫でて薄く笑った。
 小学校からずっとピアノを習っていた麻耶ちゃんだったが、お父さんが事業に失敗、自殺以来、そんな余裕もなかったのだろう。
「ねぇ、今から食堂でご飯食べるんだけど、麻耶ちゃんの分も寮母さんに頼んで作って貰うから一緒に食べない。ここのご飯はボリュームがあって、わりとイケるよ」
「ありがとう!」
 よほどお腹が空いていたのか、嬉しそうに応えた。

 食堂でご飯を食べた後、寮母さんの許可を得て、今夜一晩だけ私の部屋に麻耶ちゃんを泊めることにした。
『女子学生会館』は規則が厳しく、一晩くらいなら女友達を泊めてあげられるが、何泊もとなると「ここはホテルじゃありません!」と寮母さんに注意されるのだ。基本、部屋主がいない時には保護者(母親)以外、誰も部屋に入れてはいけない規則である。
 一晩泊ったときに、どんな話を麻耶ちゃんとしたかは月日が経って、詳細に渡っては忘れてしまったが……。
 私の部屋にはベッドがひとつしかないので、ふたりで一緒に寝た。
 麻耶ちゃんの話では、頼っていった東京の親戚に冷たくあしらわれて、借金取りに東京まで追いかけて来られるし、紹介されて親子で働いた、住み込みの運送会社の寮の賄いは、独身の中年男性が多くて、何度も襲われそうになって、怖い目にあったので、そこを逃げ出した。
 仕方なく、夜の務めに出た母親は慣れない仕事で身体を壊して、あっけなく亡くなった。うしろ盾もなく独りぼっちになってしまい、高校を中退してから、繊維工場で働いたり、深夜喫茶でウェイトレスしていたという、そんな悲しい話をポツリポツリとしゃべっていた。
 彼女は泣いたりはしなかったが、その方が余計に辛い心情が伝わってきて、聞いてて胸が痛くなった。
 今日の突然の訪問は、一緒に暮らしていた男とケンカしてアパートから追い出されたのだと言った。男に殴られたという、左頬が赤く腫れていた。

 翌朝、大学にいく私と麻耶ちゃんは『女子学生会館』を出て、最寄りの駅まで一緒に歩いた。ホームで別れ際に、
「仕送り前で、今これだけしかないんだ。少ないけど……これ取っといて!」
 電車に乗り込む間際に、麻耶ちゃんの手に一万円札を無理やり握らせた。そのまま、飛び乗り電車の窓から手を振り彼女とはそこで別れた。
 あの時、いつまでもホームで手を振る麻耶ちゃんの姿が切なくて、今も心に焼き付いている。
 新宿で仕事を探すと麻耶ちゃんは言っていた――。

 それから半年ほど経った、ある日『女子学生会館』に小包が届けられてきた。
 送り主の住所は書いてなかったが“小椋麻耶”と名前だけが書いてある。突然、麻耶ちゃんから小包なんて、「何だろう?」と開けてみると、ブランド物のハンドバッグが入っていた。
 デパートで買えば、たぶん十万円以上はしそうな、私たち学生の分際で持てるような代物ではない。そんな高級品をポンと麻耶ちゃんが送ってきてくれたのだが……嬉しいというより、なんだか気味が悪くて、ほとんど、そのバッグを持つことはなかった。
 あのブランドバッグは、駅のホームで麻耶ちゃんにあげた一万円のお礼のつもりだったのかもしれない。しかし……会いにもこないで高級品を送りつけるだけというのは、なんだかバカにされた気分であった。
 ――それが二十数年前の、私と麻耶ちゃんの思い出だった。

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 居酒屋『元さん』で二回目の同窓会の打ち合わせがあった。
 連絡先が分かった二十四人の同窓生の内で、八人は体調不良や遠方なので行けないと不参加だった。
 消息不明だった人の内には友人に聞いたからと参加したいと言ってきた人が二人いる。現状では十八人が同窓会に参加予定だ。――まあ、卒業して三十年も経つのだから、そんなものだろうと思う。
 この人数なら居酒屋『元さん』でやれそうである。ついに同窓会が一週間後に近づいて『地元残留組』はわくわくしていた。

 同窓会の打ち合わせの帰り道だった。
 近所なのでいつも自転車で行っているが、その日は少し遅くなったので、近道をしようと、かつて麻耶ちゃんの屋敷があった道を通った。
 麻耶ちゃんの住んでいた屋敷は、彼女が引っ越しした後、三、四人持ち主が変ったが十年くらい前から、ずーっと空家になっている。
 この辺りは街灯も少なく、人通りもなく、今や住む人がいない、かつての白亜のお城は蔦に覆われ、窓ガラスやドアは壊され、敷地内は雑草が生い茂り、崩れたブロック塀には有刺鉄線は張り巡らされていた。
 廃屋と化した屋敷には、ホームレスが住みついたり、地元の不良たちがシンナーを吸うのに使ったりと……防犯上良くないので、早く取り壊すようにと自治会で運動しているのだ。

 気味の悪い場所なので、急いで自転車のペダルを漕ぐ。
 その時、自転車のライトが人影らしきものを照らした。廃屋の塀の前に女がひとり立っている。黒っぽいコートを羽織っていて、長い髪が風になびいて不気味な姿だった。
 自転車ですれ違いざま、ライトに浮かび上がった、その女は痩せて、蒼白い顔色、眼光が鋭く、口元が歪んでいた。――ぞっとするような怖ろしい顔に、思わず背筋が凍った。
 いっぺんに酔いが醒めた私は、必死で自転車のペダルを漕ぐと、自宅まで飛んで帰った。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-09 11:18 | ファンタジー小説

ふしぎ脳 ⑨

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ふしぎ ふしぎ 不思議がいっぱい! 
頭の中を覗いてみたい☆



   第五話 彼女のウワサ ①

 人の変化が一番よく分かるのは、何んといっても『同窓会』だろう。
 変わった人、変わらない人、いろいろ。――その人と何十年も会わなかった間に辿ってきた人生。それによって、人柄や顔つきまで変わってくるのだから、会わなかった空白の期間をギュッと凝縮して、その人の今を『同窓会』では見せてくれる。

 首都圏に特急電車で小一時間で行ける地方都市に住んでいる。
 大都会ではないが、地元にはデパートや大型店舗のスーパーもあって、何でも揃うし、生活するのにはしごく便利である。都会の無関心でよそよそしい感じがなくて、のどかで人情もあるし暮らしやすい土地柄だと思っている。
 地元中学を卒業して三十年、かつての同級生たちも不惑となり、社会人として仕事を持ち、家庭を築き、それぞれの生活を送っていることだろう。

『地元残留組』親睦会と称して、地元に残った中学校同窓生が集まって、ふた月に一度の割で飲み会をやっている。
 場所は同級生の元太(げんた)くんが経営する居酒屋『元さん』だ。そこには酒屋の店主の貴昭(たかあき)くんと介護士をしている英子(ひでこ)さん、夫婦で新聞販売店を営む知美(ともみ)さん、そして小野寺春奈(おのでら はるな)こと専業主婦のわたし。
 この五人が今日のメンバーだった。

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「みんな、どうしているんだろうね?」
 英子さんがふいに呟いた。
 介護士の彼女は三年前に離婚してバツ1なった、今は大学生の息子とふたり暮らしだ。
「さあ、地元に居る人やこっちに実家のある人の噂ならよく聞くけどね」
 知美さんは一度も町から離れず、地元で知り合った旦那さんと新聞販売店を経営している。
 新聞の集金もやっているので、いろんな家庭の事情にも明るい。この町のことだったら、かなりの情報通である。
「東京とか都会にいけた奴が羨ましいよ」
 貴昭くんは地元の老舗酒屋の三代目である。
 ちょい二枚目の彼は、若いころから役者になりたくて、親に頼んだが許してもらえず、結局、店を継いで酒屋の主人に納まっている。
 最近では、お酒のディスカント店を三店舗経営して手広くやっているが、主に奥さんの商才だといわれている。
「はーい! 生中お待ちっ!」
 居酒屋『元さん』の大将こと山本元太くんは、中学卒業と同時に東京へ飛び出していった。
 新宿で水商売などやっていたようだが、四十歳になったとき、ふらりとこの町に帰ってきて、十坪ほどの小さな居酒屋をひとりで経営している。
「あっ、その生中はあたしのね」
 わたし、春奈は高校までこの町に住んでいた。
 大学、就職、そして結婚と数年間は東京で暮らしたが、夫もこの町の出身者なので、親の老後のことも考えて、ふたり目の子どもが生まれた時に、思い切って故郷にリターンしてきた『出戻り組』なのだ。

「――そう言えば、うちの旦那が去年、新聞店の交流旅行で熱海に行ったんだけど、そこで珍しい人に会ったらしいよ」
「何、だれ、だれ?」
「小椋麻耶(おぐら まや)って知ってるでしょう?」
「おぐらまやって、あの美人のぉー?」
 酒屋の旦那が素っ頓狂な声を出す。
「熱海の観光ホテルで会ったんだけど……そこで仲居さんやってたらしい」
「ウッソー、まさか、あの人が!?」
 英子さんが信じられないと声を上げた。
「仲居さん……て、ホントに?」
 あの麻耶さんのイメージに合わない。
「たぶん、うちの旦那が間違いないって言うんだ。着物に付けてた名札に『小椋』って書いていたし、顔も老けてやつれたけど、あれは小椋麻耶だったって、旦那は学年違うけど、学校でも目立つ美人だったでしょう、だから、よく覚えているって言うし……」
 知美さんの旦那さんは同じ中学の二年先輩である。ふたりは当時から付き合っていて結婚したのだ。
 ふいに思い出したように英子さんがしゃべり出す。
「そういえば……あたしが十年くらい前に、銀座で麻耶さんにバッタリ会ったときは、シャネルのスーツを着て、エルメスのバッグを持って、フェラーリから降りてくるところだったよ。偶然、通りかかって目があったら、向うから『英子さんでしょう?』て、声をかけてきて、近くのフランス料理店でランチを奢って貰っちゃった。その時は銀座でクラブ経営しているって言っていたわよ。すごく羽振りが良さそうだったけどねぇ……」
 みんなの話を聞いていた元さんが意味深な顔でボソリと話し出した。
「……二十年近く前になると思うけど……俺が新宿の風俗店でマネージャーやっていた頃に、ライバル店にすごい美人のソープ嬢がいると聞いて、偵察兼ねて買いにいったんだ。……で、誰が出てきたと思う“小椋麻耶”だった。あれは間違いない!」
「なにぃー、おまえはおぐらまやとやったんか!?」
 酒屋の旦那は恐妻家で、奥さんが怖くて女遊びもできない。同窓会みたいな集まりですら、奥さんの許可を貰うのに必死なのだ。
「ノーコメント」
 ニヤリと元さんが笑った。

 小椋麻耶(おぐら まや)は私たちと同じ地元中学を卒業した同窓生である。
 彼女は裕福な家のひとり娘で、色が白くて、黒目がちの大きな瞳、黒くて長い髪、幼い頃から優雅な身のこなしで、いつもお洒落な洋服を着て、少女モデルかと思うほどの可愛らしさだった。
 近所でも目立つ白亜のお城のような屋敷に住んでいた。家が近かったので、小学校の頃には麻耶ちゃんとよく遊んだ。彼女の家にいくと麻耶ちゃんによく似た美人のお母さんが手作りのドーナツやケーキをおやつに出してくれた。
 広いリビングには白いグランドピアノがあって、麻耶ちゃんがよくピアノの練習をしていた。まさしく深窓の令嬢とは、こういう女の子のことを指すんだろうと思えるほどだった。
 なに不自由ない暮らしをしていた彼女だが、高校二年の時に、父親が事業に失敗して、屋敷も財産もなくし、借金苦で自殺してしまった。その後、麻耶ちゃんとお母さんは親戚を頼って東京へ引っ越ししていった。
 それから一年後くらいに、風の便りで、不幸なことにお母さんも病気で亡くなったと聞かされた。あのときは麻耶ちゃんを励ましてあげたいと思ったが、連絡先すら分からなかった。

「みんな、遅くなってゴメン!」
 遅れてやってきたのは市役所に勤める誠(まこと)くんだ。
 東京の大学を卒業後、地元に戻って公務員になった。堅実派の彼は、農協に勤める女性と結婚して子どもが三人、大きな家を建てて家族五人と愛犬二匹で暮らしている。
「誰の話をしてるの?」
「誠、おまえ“小椋麻耶”って覚えてるか?」
 酒屋の旦那が話を振った。
「ああ、覚えてるよ。もう七、八年前になるかなぁー、市役所の俺んとこに麻耶ちゃんから電話があってね。いきなり『昔、自分が住んでいた家を買い戻したいので、土地登記とか調べて貰えないだろうか、今はカルフォルニアに住んでいるけど、いずれ日本に帰ったら、その土地で暮らす予定あるから』とか言ってさ、そんなことを頼まれたことがあったんだ。まあ、俺で分かる範囲のことを調べて、一応書類を用意して置いたんだけど……それっきり連絡がこなかった」
「へぇー、カルフォルニアに住んでいるの? セレブな感じ」
「さぁ、電話で聞いた話だから本当のところは分からんよ。元さん、俺、焼酎の湯割り梅入りで」
「そういえば――だいぶ昔に聞いたウワサなんだけど……」
 酒屋の旦那が日本酒をチビチビ呑みながら、勿体つけて話し出す。
「うちの店は駅前のキャバクラにも酒卸しているんだけど、あそこの店長はいわゆるコレ……」
 人差し指で頬っぺに傷を描く。要するにヤバイ世界の人なのね。
「その店長が、うちの組長の愛人のひとりが、この町の出身者でマヤ姐さんと呼ばれてる、すんごい美人がいるって話してたことがあったなぁー、その時は“小椋麻耶”のことなんか頭に浮かびもしなかったけど……」
「それって極道の妻ってこと? あの麻耶ちゃんが信じられない!」
 英子さんが反論する。
「駅前のキャバクラなら、うちの新聞五部も取ってくれてたのよ。東京の知人の紹介とかで、すいぶん気前いいお客でありがたかったわ」
 知美さんまで、そんなこと言い出す。
 東京の知人とはいったい誰だ? もし、それがマヤ姐さんの差し金だとしたら……。
「あくまでウワサだけどさ、火のない所にウワサは立たないって言うでしょう?」
 酒屋の旦那も言い返す、そのことわざはちょっと違うような気もするが……。
「だけど、中学卒業してからン十年、かつての同級生たちが、今はどんな暮らしをしているかって気になるよね?」
 と、わたしが言うと、みんなが「うんうん」とうなずく。
「会いたいよねぇ~みんなと……」
 英子さんが遠い目をして呟いた。
「同窓会やろうよ!」
 知美さんが叫んだ。
 そのひと言で、三十年振りに中学の同窓会をすることになった。

 幹事は言い出しっぺの知美さんと市役所に勤める誠くんがやってくれることになった。会場は二十人くらいまでなら居酒屋『元さん』でもやれると元さんが引受けてくれている。
 サポーターとして酒屋の旦那と英子さんとわたしも手伝うことになった。
 ――さて、三十年振りの同窓会にいったい何人集まるのか楽しみだ。

 一週間後、居酒屋『元さん』で同窓会の打ち合わせをした。
 私たちのクラス三年二組は卒業時に四十三人いたと思う。担任だった先生は高齢のため老人介護施設に入っておられて出席は無理だった。連絡先が分かった同窓生の人数が二十四人、半分ちょっとは連絡が取れそうだ。ほとんどの人たちが東京かその近郊に住んでいるらしい。
 それから悲しいことに故人が三人もいた。病死、事故死、ひとりはどうやら自殺らしいとの噂だ。そして消息不明が十六人、その中には“小椋麻耶”も含まれていた。
 あの日、みんなで麻耶ちゃんのウワサ話に花が咲いたとき、私にも彼女と……ちょっとしたエピソードがあった。
 ただ、それは悲しい思い出だったので――みんなの前では黙っていた。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-01-08 10:05 | ファンタジー小説