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カテゴリ:桜アルバム( 1 )

桜アルバム

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 【 桜アルバム 】

多くの季節を生きて
わたしは幾度も春を迎えてきた
そして 毎年 
いろんな桜と出会っている

真新しい制服に身を包み
新たな出会いに心躍らせて 
踏みしめるように校庭を歩けば
薄桃色の花びらが
ひらひらと肩に舞い落ちてくる

たぶん初めての恋だった
恋人と呼べる その人と手を繋いで
一緒に見上げた 夜桜は
月に照らされて 白く光っていた
まるで夢見るような桜の樹だった

あなたを亡くした春
近所の公園に咲いた 満開の桜に
足を止め 独り佇んで見惚れていた
こんなきれいな桜を お母さん 
あなたにも見せてあげたかった
――と思った途端に涙腺が緩んだ

人の記憶は日々遠くなっていくけれど
毎年 春になれば
桜は忘れずに 必ず花をつける

百年 二百年……
長い時を生きる桜の樹だから
世の移ろいなど取るに足らぬこと
震災の瓦礫の中でも桜は見事な花を咲かす
まるで宿業のように

その年の感慨に触れて
桜の花びらは様々に変化していく
もう一度 桜が散る前に
そっと掌の中に この想いとともに
閉じ込めてしまおう

今年の桜も
心のアルバムに貼り付けておこう


  【 桜風 】

桜風吹き花びら散らす 春爛漫
桜の枝で頸括り この命断ちませう

その骸 桜に生った果実のように 
ゆらりゆらりと 桜風に揺れる

冥途など行けぬ 女の魂魄は
桜の木に魅入られて 亡霊となり

不実なおまえを慕っては 
恋しい恋しいと 夜な々泣きまする

哀しい女 肉体は朽ち果てても 
魂は流離う 情念の燃え尽きるまで

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 【 花びら 】

春、春、春、桜吹雪

ひらりと花びら
僕の掌に 舞い落ちた
そっと 握りしめて
指の隙間に閉じ込める


 ―― 縛ることが愛だと思っていた
    見守ることが愛だと君はいう ――


指の隙間からするりと
飛んでいった花びら
今はどこの空を舞っているのか
知るすべもない

 春、春、春、桜散る


 【 散桜 】

花冷えの空の下
満開の桜が咲き誇る
冷たい春の風が
花びらをさらっていく
ひらひらと
桜吹雪になって天を舞う

もう 逢えなくなった
あの人を想う
今さら ふたりの時間を
巻き戻す術もなく
去っていく人の
後姿をただ見送った

散りゆくさだめに
桜も涙するのだろうか
春は季節の中で
一番哀しい
出会う前に
別れがそこにあるから


 【 今年も桜が咲いて 】

『 おーい 』 夫の呼ぶ声がする
家事の手を止めて 
ゆっくりと階段を降りていく
桜の木を指差して 
夫が何かしゃべっている

『 桜の木に蕾がつきましたか 』
微笑む わたし
今年も桜が咲いて 
またひとつ歳をとる
あなたとふたり 
ゆっくりと年を重ねる日々

『さぁ お茶にしましょう』
優しく声を掛ける
ええ 分かってますよ 
あなたが好きなのは
ポットいっぱいの 
ダージリンティーのストレート


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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2012-04-13 07:38 | 桜アルバム