― Metamorphose ―

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カテゴリ:夢想家のショートストーリー集( 97 )

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   第97話 静かな休日

 週末出張から帰宅したのは土曜日の夕方だった。
「ただいまー」と玄関に入ると、五歳の息子と三歳の娘が仔犬のように飛びついてきた。「いい子にしてたか?」二人の頭をなでる。
 いきなり妻が「明日、実家の両親と子どもを連れて遊園地に行くけど、パパも行く?」と訊いてきた。たった今、出張から帰ったばかりで疲れている。しかも取引先の人たちと遅くまで飲んで睡眠不足だった。「いや、俺はいいよ。ママと子どもたちで行っておいで」と答えたら、「あら、残念ね」とションボリいう。 ここんところ仕事が忙しくて子どもたちとも遊んでいないが、明日は勘弁してもらおう。
 うちの妻の実家は車で二十分の距離にある、出張の時には子どもを連れてちょくちょく里帰りしている。いつも実家から戻る時には米や洗剤、日用品、お菓子など自動車にどっさり積んで帰ってくる。我が家の家計の一片を妻の実家が担っているし、いつも孫の世話も掛けている。
 妻の実家がスポンサーで、子どもたちを遊びに連れていってくれるのはとても助かる。
 翌朝、眠がる子どもを連れて妻は車で出掛けていった。
「いってらっしゃい」とパジャマ姿で見送った後、まだ七時半だし、もう一度寝ることにする。

 AM9:30、二度寝から起きる。
 子どもたちのいない家の中は物音一つしない、こんな静かな休日は何年振りだろう。
 ゆっくりと朝刊に目を通す。ヨーロッパでまたテロがあった、罪のない子どもまで犠牲になっている。自分がパパになってから、子どもが殺される惨いニュースを読むと胸が痛くなる。
 窓を開けて、リビングと寝室に掃除機をかける。子ども部屋はおもちゃが散乱しているので今日はパスする、洗濯機を回しながら風呂掃除をして、ベランダに洗濯物を干す。――これで休日の家事分担は終わり。
 子どもたちを実家にあずけて妻はパートに出ている。週に三日、一日五時間の仕事だが、家事と育児と仕事では大変だろうから、休日くらいは俺も家事を手伝っている。
 家事も育児も協力し合っていかなければ、共稼ぎ夫婦はやっていけないのだ。
 昼過ぎまで、ソファーに寝転んでテレビを観て過ごす。たまに一人の時間も良いものだとしみじみ思う。

 PM1:30、腹が減ったので、駅前の商店街まで歩く。
 牛丼でも食べようかと思ったが、ファミレスのランチタイムが安いのでハンバーグとビールを注文した。一人でテーブルに座っていると、「江口くん」と誰かに名前を呼ばれた。見ると、知らない女が手を振りながら近づいてきた。
「江口くんでしょう? 私、麻美よ。ほら昔バイト先で一緒だった」
 ああ、やっと思い出した。大学時代にバイトしていた会社の人で、もう十年も前の話だ。
「懐かしいわ」と言いながら、麻美は俺のテーブルに座った。隣には小学校一年生くらいの女の子を連れている。
 俺たちを家族だと勘違いしたウエイトレスが注文を訊きにくる、麻美はパスタ、娘にお子様ランチを注文していた。
「江口くん元気そうね。今日は一人? 家はこの近く? 結婚してるの?」と矢継ぎ早に質問してきた。「ああ、妻と子どもは用事で出掛けてる」と素っ気なく答えた。
 麻美は去年離婚をして、今は就活中だという。「離婚して自立するのは大変でしょう?」と訊くと、麻美は別れた夫が浮気して、その上にDVまであった、姑には苛められたとか、自分のことをベラベラ喋り出した。
 話の途中、煙草を吸おうとしたので、「ここは禁煙席だよ」と注意すると「ああ、そう」と怒った顔でバッグに煙草をしまった。麻美の娘は黙々とランチを食べている、ひどく醒めた眼をしているのが気になった。
 バイト時代、麻美と二、三度デートしたこともある。彼女は俺以外の男たちとも付き合っていた。結局、妻子のある男性と不倫して会社を辞めさせられた。この女に言うことは信用できないし、俺には興味もない。
 今から、妻子を迎えにいくからと席を立つ、いきがかり上、彼女の分も支払う。
 別れ際に「相談したいことがある」からと携帯番号を訊かれたが、咄嗟に嘘の番号を教えた。これ以上、彼女とは関わりたくない。

 PM4:30、妻からメールが届いた。
 遊園地で遊ぶ子どもたちの写メで、帰宅は八時を過ぎるらしい。
 今日、麻美に会ったことは一応話しておこう。近所なので妻のママ友に見られているかもしれないし、変な噂でもたてられたら迷惑だ。
 七時を過ぎると少し小腹が空いてきた、冷蔵庫を探ると冷凍餃子があった。よく我が家の食卓にも上る一品だ。フライパンに水を入れて蒸し焼きにすると、片面だけが焦げたが、餃子をつまみに缶ビールを三本空けてしまった。妻が帰ってきたら「パパ飲み過ぎよ」と叱られそうだ。
 子どもが生まれると、お互いをパパ、ママと呼び合うようになって、家族としての絆が深まった。
 八時を過ぎても帰って来ない、メールしたら、道路が渋滞しているので遅れると返信がきた。妻や子どもたちのいない家の中は、静か過ぎてなぜか落ち着かない。帰りが遅いと心配で仕方ない。やっぱり俺も遊園地について行けば良かったと今さら後悔する。

 PM9:25、駐車場に車が入る音がする。
 慌てて駐車場まで家族を迎えにゆく、五歳の息子は両手いっぱいお土産を抱えている。眠っていた娘は急に起こされて大泣きしていた。そして妻は疲れた顔だった。
 無事に帰ってきた家族を見て安心する僕は元気よく「おかえりー」と叫んで、静かな休日が終った。
 そして幸せは賑やかにやってくる――。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-06-02 20:56 | 夢想家のショートストーリー集
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   第96話 正義の味方

 正義の味方なんて、偽善者くさい言葉が大嫌いだ。

 小学校の三年生の時に父親が死んだ。当時、世間を騒がせた通り魔殺人の被害者のひとりだった。白昼、起こった通り魔殺人は無差別に男女、そして子どもまで五人の人命を奪った。覚せい剤常用者の犯人は、元やくざで日本刀を振り回して、通行人たちを次々に襲ったのだ。
 その時、僕の父親は犯人の手からは逃れていたのに……ベビーカーを押した若い母親が襲われそうになっているのを見て、犯人に体当たりして、自分の方に注意を逸らした。その結果、父は無残に切り刻まれて死んだが、ベビーカーの親子はその隙に逃げ出し助かった。

 当時、ワイドショーなどで正義の味方だと父親のことがもて囃されたが、時間が経てば、事件のことも忘れ去られていった。
 本来なら、自分は助かっていた筈なのに……人助けして殺されてしまった。
 そんな立派な父親だったが、生命保険に入っていなかったので、残された母親と僕は貧窮していった。生活のために母親はパートを三つも掛け持ちして、身体を壊して病気になった。
 正義の味方の家族なのに、世間も親戚も助けてはくれない。
 死の直前まで「お父さんは人として立派な行いをしたのよ」と言い続けていた母親が、ガリガリに痩せて死んで逝った。高二で孤児になってしまった僕は、新聞奨学生として働きながら、自力で頑張って大学まで卒業した。
 父親が死んだせいで、僕は苦労ばかりさせられた。他人の家族を守って、自分の家族を不幸にした、そんな正義の味方があるもんか!
 子どもの頃は僕だって、正義の味方やヒーローが大好きだった。……けれど父親があんなバカな死に方をして以来、正義なんて言葉を聞くだけで虫唾が走る。

  だから、僕は良いことはしないと心に誓ったんだ!
 迷子の子どもを見ても知らんぷり、万引きを目撃しても通報しない、電車で痴漢に触られてる女性がいたとしても見て見ぬ振りをする。
 自己主義だといわれても構わない。どんなことがあっても人を助けたりしない。常に自分のことだけを考えていきていこうと決めた。

 大学を卒業した後、地方銀行に就職した。
 お客はみんなお金だと思えばやっていける仕事なのでクールな僕には合っている。勤務しているのは田舎町の支店で、ATMは二台しかない、銀行員は支店長と俺と女性行員が三名、案内係のシルバーのおじさんだけの小さな店舗だった。
 お得意様は地元の商店主や古い顧客ばかり、営業的に新規獲得が難しい地域だが、あんまり忙しくなくて助かる。
 僕は市井の人として、平穏無事に生きていければそれでいいと思っていた。

 そう思って安心していたら、とんでもない事件が起こった。
 突然、目出し帽を被った男が銃のようなものを持って銀行に入ってきた。閉店間際でATMに客が一人とカウンターに客が二人、支店長が出張中で店には八人しかいなかった。止めようとした案内係のおじさんは犯人に殴られて気を失った。ATMの客はすぐに表に飛び出して助かったが、カウンターにいた客と銀行員たちは中に閉じ込められた。
 犯人は黒いバッグを持って「マネー、マネー!」と叫んでいる、どうやら外国人のようだ。

 ヤバイことになった……犯人に見つからないように、僕はカウンターの奥に身を潜めていた。父親みたいに事件に巻き込まれて命を落とすなんて真っ平だ。
 若い女性行員がバッグを渡されて現金を詰めさせられている。彼女はパニックになって、なかなか現金が詰められない。わざとモタモタしているのかと、犯人が苛立って発砲した。
 しゃがみこんだまま女性行員はショックで腰を抜かした。
 ついに犯人がカウンターの中に入ってきて、僕は見つかり、こめかみに銃を突きつけられた。首を腕で絞めあげながら「キンコ、キンコ!」と強盗犯が叫ぶ、支店長がいないので誰も金庫を開けられない。そのことを犯人に説明しても分かって貰えそうもない。
 このままでは僕は殺される! こんなところで犬死になんかしたくない。
 かっこ悪くても僕は僕自身を守るために戦ってやる。こうなったら一か八かだ! いきなり犯人の顎に頭突きをかましてやった。衝撃でぶっ飛んで、おまけに舌を噛んだらしく、血を吐いてのたうち回っていた。落とした銃を拾い上げ、僕は犯人に銃口を向けた。
 その時、機動隊が店内になだれ込んできた。
 僕は銃を渡し、犯人を取り押さえたといったら、お手柄だといわれた。若い機動隊に名前を訊かれて、『虻川(あぶかわ)』という珍しい名字をいうと、「もしかして、二十五年前に通り魔から母親と赤ん坊を守った、あの虻川正義(あぶかわ まさよし)さんの親戚ですか?」と訊かれた。
「虻川正義は、僕の父親です」と答えたら、「あのベビーカーに乗っていたのは僕です。あなたのお父さんは命の恩人だ」と感激して僕の手を強く握った。
 正義の味方の僕の父親に憧れて、彼は警察官になったという。

 事件現場に集まってきた野次馬たちが口々に、僕のことを「ヒーローだ!」「正義の味方!」と褒めそやした。その後、銀行強盗に一人で立ち向かった、勇気ある銀行員だとして連日、ワイドショーで話題になっている。
 違う、違う! 父親のように他人を守るためにやったんじゃない。あくまで自分自身を守るために犯人と戦っただけなんだ。
 かってに美談にするのは止めてくれ! 断じて、僕は正義の味方なんかじゃない!



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-06-01 20:30 | 夢想家のショートストーリー集
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   第95話 竜宮島

 ネット上で自分のことを浦島太郎だと流布する男がいた。
 おとぎ話のキャラに成りすまして、どんなメリットがあるのだろうか。――まず、そこが気になった。
 どうせ成りすますなら、もっと歴史上の偉人とか、有名人を騙るとかあるだろう。だが、その男はTwitterやFacebookで、盛んに自分が浦島太郎だとアピールしているのだから、ただのバカなのか?
 どんな奴か見てみたいと、Twitterからメッセージを送ってみた。

『浦島太郎と名乗るあなたのことが気になるので、せひ取材させてください』

 こういう内容で送信したら、三分も経たない内に返信がきた。

『取材OK!! どうせ暇なのでいつでもどうぞ♪ 浦島太郎』

 なんか胡散臭い奴だと思ったが、面白い話が聴けるかもしれないと、ふたりで会うことになった。
 言い遅れたが、俺はネットなどに記事を書いているフリーライターで、『不可思議通信』という、都市伝説や怪奇現象などを取材したメルマガを発信している。
 ――ともあれ自称浦島太郎さんから、面白い話が聴けることを期待して、俺は待ち合わせ場所へ向かった。

 その男は時間ピッタリに現れた。
 スタバの店内をキョロキョロしながら歩いてくる、背中に『海人(うみんちゅ)』の文字入りの青いパーカーを着てくると言っていた。
 俺は手を振って、ここだと示すと男はいそいそとやってきた。
「フリーライターの那由他(なゆた)といいます」
「どうも浦島太郎です」
 浦島太郎は初老の男だった。
「もっと若い人かと思ってましたが……」
「僕、いくつに見えますか?」
「う~ん……パッと見、五十くらい?」
「いいえ、先月二十歳になったばかりの大学生です」
 たしかにキャラい感じはするが、絶対に二十歳には見えない。顔の皺から察しても五十から六十の間だろう。
「はぁ? 乙姫さまの玉手箱で急に老けたんですか?」
 俺が笑いながらいうと、男は真剣な表情でこたえた。
「あの島から戻ったら、三十年以上も時が流れていました。その間に両親は亡くなっていたし、大学も退学になってる。戸籍も抹消されて、僕は死んだことに……みんなに忘れ去られた存在なのです」
「現代の浦島太郎はボッチってことですか」
 俺の勘だと、この男はフューグ (Fugue)という解離性障害ではないだろうか。
 強いストレスを溜めていると、突然、自分のいる環境から逃げ出し、知らない土地で別の人格になって暮らし始める。そして自分が誰なのかという記憶まで、すべて失くしてしまうという病気である。
「あっちから戻って三ヶ月になりますが、こっちには僕の居場所がない」
 ん? この男には失踪中の記憶があるのか? じゃあ、ただのホラ吹きなのか、もっとよく聞いてみよう。

「あなたが浦島太郎になった切欠を話してください」
「大学の友人たちと伊豆へ釣りに行ったときです。岩場で釣りをしていたら大波にさらわれて、あっという間に僕は沖に流されてしまって……気がついたら、あの島へ流れついていた」
「あの島とは?」
「竜宮島。美しい九人の乙女たちが住んでいました」
 乙女が九人とか、ワルキューレか? しかも海に流されて異世界へいくなんて……まるでラノベ展開だと失笑した。
「さぞ竜宮城の乙姫さまにモテモテだったでしょう?」
「真珠やサンゴ礁で造られた美しい宮殿で、海神の娘、九人の乙女たちの夜の相手をしました」
 男は瞳を輝かせてそう語る。
「おやおや、それは男として羨ましい話ですね」
 酒池肉林? やっぱりオカシイ人だった、おそらく男の妄想だろう。それはよくあるエロゲーのシュチエーションだよ。
「那由他さん、信じていないでしょう? これを見てください」
 男は手の甲を見せた、そこには十円玉くらいの赤い痣があった。
「あっちから戻ったら、この痣がありました」
 母斑だろうか、よく見ると亀の形をしている。それが浦島太郎の証拠なのか、どうかはなはだ疑問だが……。

「なぜ自分が浦島太郎だとネットで宣伝してるんですか?」
「捜しているんです。僕みたいに竜宮島から戻ってきた人人間を……」
「あなたはどうやって戻ってきたんでしょう?」
「毎夜、違う相手と契り、九人目の乙女が僕に言ったんです。あなたが私を抱いたら、この儀式は終わり。この後、小舟に乗せられて海に流されてしまうのだと、それで彼女が僕を逃がしてくれたのです」
「補陀落渡海(ふだらくとかい)ってやつですか? 海の向うの極楽浄土を目指す」「違います! 極楽浄土は竜宮島だ。用済みなので僕は廃棄される運命だった」
「要するに、乙女たちの慰め者ですか?」
「はい。……ですが男なら誰でも夢見る、ハーレムのような日々でした」
 途中から、録音も撮っていない、こんなヨタ話は記事にもならない。単なる好奇心から、この男の話を聞いているだけの俺――。

「僕はあっちの世界に戻ります」
 取材を終えて、別れ際に男がいった。
「えっ?」
「いや、絶対に竜宮島に戻るんだ!」
「どうやって?」
「もう一人の浦島太郎を見つけたんです。彼は九十歳で老人施設にいます、そこの介護士さんが浦島太郎の話をする老人がいると教えてくれたから会いにいった。彼にも僕と同じ痣があります。……そして戻る方法を教えて貰った」
「本当に?」
「僕が釣りをしていたのは、亀岩という引潮にしか出ない、あの岩はあっちに繋がるなにかが……」
 そこまで話して急に口を噤む。
 一瞬、虚空に目を泳がせて、「……九人目の乙女が僕を待っている」と呟いた。
 俺に向かって「どうも」一礼すると男は走り去っていった。
 その日を最後に、浦島太郎と名乗る奴はネット上から消えた。



 それから数日後、伊豆の海岸に若い男の溺死体があがった。
 年齢は二十歳代、青いパーカーとジーンズ、手の甲に十円玉くらいの痣があった。
 この男がいったい誰なのか、知る者はおそらくいない――。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-11 09:20 | 夢想家のショートストーリー集
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   第94話 春の電車

 ホームの最前列に立って黒い線路を見つめていたが、結局のところ、彼女には死ぬ勇気もなかった。
 電車が入ってきたので、ふらりと乗り込んでしまったが、正午、郊外へ向かう電車には彼女を含めて乗客はたった五人だけ――。
 彼女と同じシートに七十代の老婦人と、端っこの座席にはスキンヘッドにサングラスのヤクザ風の男。向い側のシートには二十くらいの若い娘が化粧中だった。……その隣には、赤ちゃんを連れた若い母親がうたた寝している。
 前抱きおんぶ紐の赤ちゃんはご機嫌みたい、身体を反らしてこちらをじっと見ている。可愛い赤ちゃんだけど……彼女の心の中は嫉妬の炎が燃えていた。

 十五年連れ添った夫が浮気した。
 しかもただの浮気ではない、相手の女性のお腹には子どもがいるのだ。そのせいで夫は家に帰ってこなくなり、彼女は捨てられた。
 今日、義母に「孫が生まれるから、息子と離婚して欲しい」と懇願された。「あなたに落ち度もないけれど……一人息子の孫をこの手で抱きたいんです」泣きながら義母は、彼女に離婚を迫ってきた。
 ――妻として、落ち度はなかった。
 そう、不妊症で子どもが生めないこと以外、良い妻だと自負していたのに……浮気相手の胎内に命が宿った途端に、おはらい箱にされたのだ。
 結婚前、ふたりに子どもが生まれたら、息子だったらサッカー選手にしたいとか、娘だったら小学校まで一緒にお風呂に入りたいとか、他愛のない夢を夫婦で語り合っていた。
 一人息子の彼は家族を望んでいたが、彼女にはその夢を叶えられない。不妊治療もいろいろ受けたが結局ダメだった。
 私に子どもが産めないからと、そんなことを理由に他所で子どもを作っても、許されるわけがない! 彼女は激しく怒り、自分自身に絶望していた。
  子どもの産めない女の惨めさを噛みしめる。

「赤ちゃん可愛いいねぇ~。八ヶ月くらいかしら? ハイハイして目が離せない時期よ」

 いきなり隣の老婦人が話しかけてきたが、子どものいない者に赤ちゃんのことは分からない。
「わたしねぇ、最初の子をあれくらいの時に亡くして……とても悲しかった。授乳しながら寝てしまい……どうやら、窒息させてしまったようなの。毎日泣きながら死んだ赤ん坊にわびていたわ、あくる年に次の子を妊娠したときは嬉しかった。その後にも子どもは二人生まれたけど、それでも死んだ子のことは一生忘れられない」
 訊いてもいないのに、老婦人は一人で喋っている。
「……春になると、死んだ赤ん坊を思い出すのよ」
 白いガーゼのハンカチで老婦人は涙をぬぐった。
 おそらく赤ちゃんを見ていて、昔を思い出したのだろう。彼女は「そうですか」と気のない返事をして、やるせない気持ちで車窓から外を眺めた。
 流れゆく風景の中、線路沿いに桜並木がつづく、薄桃色の桜の花が咲いている。

 ――そうか、今は春なのだ。この電車は春の真っただ中を走っている。

 向いの席の赤ちゃんを見ている内、彼女はこう考えようと思った。
 浮気相手に夫を盗られたんじゃない。育児には両親が必要だから、赤ちゃんにお父さんをあげるだけなんだ……と、そう生まれてくる命に罪はない。
 くよくよしたって仕方ないし、心を広く持とう、大丈夫、きっと独りになっても生きていける。
 赤ちゃんの笑顔が、彼女の心に温かい春の風を吹き込んだ。
 
 前抱きおんぶ紐から身体を反らして、赤ちゃんがスキンヘットのおじさんをニコニコしながら見ている。

 サングラス越しに赤ちゃんと目が合ってしまい、柄にもなく男は動揺していた。
 若い頃にグレて、ヤクザの世界に入った男に家族なんかいない。ヤクザの抗争で人を刺した男が服役するとき、一緒に暮らしていた女から妊娠していると告げられたが、親の自覚も責任も持たない男は「勝手にしろ!」と吐き捨てた。
 後ほど、生まれた赤ん坊の写真を送ってきたが興味すらなかった。ただ写真を捨てることもできず、ずっと財布の中にしまい込んであった。
 その内、赤ちゃんの写真は男にとってお守りのような存在に変わっていった――。 今、財布の中から写真を取り出して眺める。
 あれから十年か……男の名前の一文字を取って名付けられた息子は、小学校五年生になっているはずだ。親として何もやっていないこの俺を恨んでいるだろうか?
 虫のいい話だが、俺は息子に会いたい。いつか堅気になって会いにいこうと男は心に誓った。
 赤ちゃんの笑顔で、男は自分の過去を恥じて後悔していた。

 朝寝坊した若い娘は時間がなくて、ひと目も気にせず、電車の中で化粧中だった。 実は若い娘のお腹に胎児が宿っている。
 同棲している彼氏の子だが、昨夜、妊娠を告げたら、結婚してふたりで子どもを育てようと言われた。だが若い娘は赤ちゃんを産もうか産むまいか迷っていた。遅くまで話し合ったが結論は出せず、今朝は寝坊して仕事へ遅刻しそうになった。
 ――化粧をしながら、若い娘は考えていた。
 結婚なんかしたくないし、子育てなんて面倒臭い、若いんだから、もっと自由に遊びたい、だから赤ちゃんは要らない。……と、そう自分で結論づけた。
 ふと気づくと、同じシートの赤ちゃんがこっちを見ている。
 ああ、赤ちゃんかぁ~と思って見ていたら、幸せそうな顔でニコニコ笑っている。マシュマロみたいなほっぺ、さくらんぼの唇、赤ちゃんのつぶらな瞳で見られたら、思わず笑みがこぼれる。
 天使のような可愛いらしさに、胸がキャンと鳴った――。ああ、やっぱり小さな命は消せない!
 赤ちゃんの笑顔で、若い娘は母親になろうと決心をした。

 電車が終点に着いた。
 停車と共に赤ちゃんの母親は目を覚まし、みんな赤ちゃんに軽く手を振って春の電車を降りていく――。
 同じ電車に乗り合わせた人たちが、新しい人生の一歩を踏み出そうとしている。
 それぞれの思いを胸に改札口へと向かう、駅を彩る桜の木が、回送になった電車の背に花吹雪を舞い散らす。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-10 09:00 | 夢想家のショートストーリー集
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   第93話 「美人になる」≠「愛される」

 自分の顔が大嫌いだった!
 腫れぼったい一重まぶた、あぐらをかいた鼻、エラが張った輪郭……どんな欲目に見ても、私の顔は十人並以下だろう。
 当然、男にモテたことはない。小学校からずっと容姿のことで男子にからかわれてきた。高校は女子高だったので気にしないで自由にやってこれたが、大学は共学なのでブスの私は出来るだけ目立たないようにしていた。
 ある日、大学の教室で男性から声をかけられた。ゼミを休んだのでノートを見せて貰えないだろうかと頼まれる。真面目な私はいつも一番前の席でノートに取っている。
 ブスが社会で認められるには学業に励んで、スキルを上げ専門職で身を立てるしかないのだ。

 日頃、男性から話しかけられたことなかったので、少し戸惑ったけれど、私の取り柄は勉強だけなので快くノートを貸してあげた。その後、ノートのお礼にとその男性から映画と食事に誘われた。
 まさかブスの私にお礼を返してくれるなんて思ってもみなかった、最初はからかってるんだと思っていたら、なんと! 彼の方から交際を申し込まれた。

 彼の名前は神谷龍一、さわやか草食系イケメンなので大学の女子たちにも人気があった。
 彼と一緒に歩いていると「王子様とブス」という陰口が聴こえてくる。やっぱり龍一に私は不釣合いだと周りは思っているのだろうか。
 美男美女のカップルなら理想的? 
 こんな私と歩いてて龍一は恥かしくないかしら? なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 だけど龍一は、私のことを「可愛い」っていってくれる。色が白いと褒めてくれる。歯並びがいいから「美奈子の笑顔は素敵だよ」と褒めちぎってくれる。
 そんなはずないのに……その言葉を信じてもいいの? 私は龍一が好きになればなるほど、自分の容姿が気になりだした。

 ある日、カラオケでデュエットしたりして盛り上がった。だんだん二人の愛が深まっていく――。私にとって、これが初めての恋、龍一とは永遠に離れたくないと思っていた。
 ドリンクバーで飲み物を作ってるときだった、女店員が二人お喋りしながら歩いてくる。
「さっき、入店したカップルさ、彼氏の方はイケメンよねぇ~」
「それに比べて、連れてるのアレが彼女なの? スゲーブスじゃん」
「ホント、よくあんなブスと付き合ってるわ」
「絶対に浮気されるって、あんなブスじゃ男も愛想尽かしちゃう」
 こちらに気づかず、二人は笑いながら通り過ぎていった。
 その言葉を背中で聴いていた私の、コップを持つ手がブルブルと震えていた。これは怒りではない。今まで幾度となく「ブス」という言葉を投げつけられてきたので、もうその言葉には慣れっこになっている。
 だが、浮気をされるという言葉だけが胸に突き刺さった。その内、龍一はブスの私に愛想を尽かして、もっときれいな女の子に目移りするかもしれない。
 たぶん私は捨てられる。漠然とした不安に胸が震えた。

 そんな時だった、母方の祖父が亡くなって遺産が入った。そこから結婚資金として、母が私に五百万円という大金をくれた。そのお金で美容整形しようと決心する。もちろん母には内緒だ。龍一と母には短期留学するからと嘘をついて一ヶ月ほど入院した。
 いよいよ退院の日には、執刀した医者も絶賛するほど、まるで別人のように美しく生まれ変わった!

 美しくなった私を早く見て貰いたくて、以前、二人で行ったカラオケ店に龍一を呼んだ。やっと留学から帰ってきたと、彼は喜んで来てくれる。
 先に行って驚かそうと部屋を暗くして待っていたら、龍一がドアを開けて入ってきた。
「美奈子どこ?」
「龍一、ここに居るよ」
「どうして電気を消してるんだ?」
「驚かせることがあるの」
 私は部屋の電気を点けた。一瞬、龍一はキョトンとした顔で私の方を見た。
「あれ? 部屋間違えたのかな」
「ううん。私は美奈子よ。美容整形したの。きれいになったでしょう?」
 私の顔を凝視していた彼の表情が曇っていく――。
「どうして整形なんかしたんだ」
「だって、私はブスだし……龍一に相応しい美人になりたかったの」
「僕が恋人を容姿で選んだと思ったのかい?」
「ブスのままだと浮気されそうだし……」
「浮気? 僕のことを信用してなかったんだね」
「龍一のことが好きだから、もっと愛されたいから、だから美容整形した」
「美奈子の真面目で飾らない、ありのままの姿が好きだった。整形で自分を偽った君のことはもう愛せない!」
「そ、そんな……」
「僕がいなくても……美人になった君なら、男性に注目されて愛されるだろう。さよなら……」
 そういって部屋から出て行ったきり、龍一は帰ってこなかった。

 こんなはずじゃなかった! 美人になったらもっと愛されると思っていたのに……捨てられてしまうなんて……。おまけに整形したことが母に知れて「そんな顔の人は、私が生んだ娘じゃない!」と怒って家から追い出されてしまった。
 美容整形に成功したけれど、恋愛には失敗した。
 容姿がコンプレックスだった私は、美人にさえなれば、もっと愛されると思っていたのに……思惑が外れてしまったから――。
 結局「美人になる」≠「愛される」の図式で終わった。
 どうすればいいの? 龍一の愛を失くした私は、美容整形でつくられた美しい顔だけを頼りに、これから生きていくしかない。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-18 16:02 | 夢想家のショートストーリー集
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   第92話 なかよしにゃんこ兄弟

ある町に住んでいる。
なかよしのにゃんこ兄弟のお話です。

お兄ちゃんのリッキーくんはマンチカン、弟のナッツくんはアメショー
もちろん血のつながった兄弟ではありません。
のんびりマイペースな兄と利口者の弟でした。

だけど二匹はとってもなかよしなのです(ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

とても月の明るい夜のこと。

飼い主、美弥さんのベッドの布団の上で
眠っていたはずの二匹でしたが、

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
真夜中に弟のナッツくんの声がします。
「ん?」
その声に、兄のリッキーくんが寝むそうな目をやっと開きました。
「……ナッツ、どうかしたのか?」
「お兄ちゃん、ボク考えてたら寝られへんようになってん」
ナッツくんは神戸のブリーダーの家で生まれなので、
関西風の猫言葉を話します。
「寝れないなら、お兄ちゃんがペロペロしてやろう」
そういうとリッキーくんは弟の顔をペロペロ舐めはじめました。
「ちゃうねん、ちゃうねん!」
お兄ちゃんの趣味は弟の毛つくろいで、ペロペロが始まると
なかなか止まりません。
ペロペロペロ……

「もう、ええって!」
お兄ちゃんの顔に思わず“猫パンチ”しちゃったナッツくん。
「イテッ」「あっ! お兄ちゃんゴメン」
「ヘーキだよ。あははっ」
やさしいリッキーくんは弟に怒ったりなんかしません。
「ボク、お兄ちゃんに聞いてほしいことがあるんや」
「へ? なに? なんでも言ってみろ」
「あのなぁーボクら、いつもママにお世話になってるやろ?」
「ん? ママってだぁれ?」
「そこで寝ている人のことや」
「ああ、下僕のことか」
「下僕って……お兄ちゃん、下僕の意味しってんの?」
「下僕って、こいつの名前だろう」
そう言って、寝ている美弥さんのほっぺを肉球でツンツンしました。

利口なナッツくんは下僕の意味をテレビを観てしっていましたが、
本当の意味をお兄ちゃんに説明するのはやめました。

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

「ボクらを可愛がってくれるママに恩返しがしたいんや」
「それって、下僕の仕事だっていつも言ってるぜ」
弟には優しいリッキーくんだけど、飼い主さんには“塩対応”みたい。
「だけど、ボクらに美味しい猫缶食べさせるために
ママは毎日仕事っていうところへ行ってるんやで……」
「オイラたちが家でゴロゴロしている間も下僕は仕事しているのか」
猫のリッキーくんには“仕事”いうものが、どんなモノかよく分かりませんが、
疲れて帰ってくる下僕を見て、大変そうだなぁーとは感じていました。

「うん。ボクらでママにしてあげられることないやろか」
「――たとえば、どんなこと?」
「ママが喜んでくれそうな」
「だったら、オイラのいちごの毛布を貸してやってもいいぞ」
いちごの毛布とは、リッキーくんの超お気に入りの毛布のことで、
それを肉球でフミフミすると気持ちイイみたいなのです。
いちごの毛布をフミフミしているときが、
リッキーくんにとって至福の時間なのだ。
「そんなのママはいらないよ!」
「そ、そっか~?」
キッパリ言われて、リッキーくんは“解せぬ”という顔になりました。

「ママの役に立って喜ばせたいんや」
「オイラたちにできることって……?」
じっと肉球を見ながら二匹は考えてみました。
「ママの猫友、美香ちゃん家のラグドール、クララちゃんは
黒い稲妻・ゴキブリを狩るらしい」
「すごいなぁー」
「しかも百発百中でゴキがバラバラにされるんや!」
「オイラには無理だ……」
情けない声でリキくんが呟いた。
そしてナッツくんはバラバラになったゴキを想像して……
エグイなぁーと思ったのでした。
「うん。虫は気持ちワルイし……」
小心者の家猫にはハードルが高い。

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

「ママを喜ばせることができないなら、
悲しませないことなら、できるかもしれへん」
「下僕を悲しませないことって……?」
「ママが一番悲しんだことは、リッキー兄ちゃんの上に
もう一匹のお兄ちゃんがいたんやけど……
その猫が病気になって虹の橋を渡ったときや」
「うん。下僕はものすごく悲しんだ」
「大好きなママに、そんな悲しい思いをさせたくない!」
泣きそうな声でナッツくんが叫んだ。
その声にリッキーくんもすごく悲しくなった。

「ずっとママと一緒に暮らしたいんや」
「ナッツと下僕とオイラと仲良し家族」
「そのためにはボクらもママも健康でないとアカン!」
「からだをきたえるか?」
「お兄ちゃんはダイエットした方がええんちゃうか」
ナッツくんはモフモフすぎるリッキーくんのお腹をみてそういった。
「エへへ、やっぱりそっかぁー」
「けど。無理せんでも、いつもどおりでええねん」
「だったら、オイラはよく遊んで、よく食べて、よく寝るのだ」
「なるほど、そのとおりや! さすがボクのお兄ちゃんやでぇー」
ナッツにほめられて、自慢そうにリッキーくんは“どや顔”になった。どや!

「よく遊び、よく食べて、よく寝るぞぉ~♪」
嬉しそうにリッキーくんは節をつけて歌いはじめた。

『よく遊び~♪ よく食べて~♪ よく寝るぞぉ~~♪』

なかよしにゃんこ兄弟は声をそろえて歌いだしました。

にゃんこ兄弟の鳴き声にも目を覚まさず
美弥さんはスヤスヤと眠っています。

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

朝がきて、美弥さんが目を覚ますと、
二匹のにゃんこは、布団の上でピッタリと
寄りそうように眠っていました。

起こさないように、そーっとベッドから抜けだすと、
リッキーくんとナッツくんの朝の猫缶を用意します。


― いつもの朝となにもかわらないけど
リッキーくん、ナッツくん、にゃんこ兄弟が、
きのうよりも、ずーっと“下僕”のことが
スキになっていたことを ―。

ゆうべのお月さまはちゃんとしっていました。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-10 21:30 | 夢想家のショートストーリー集
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   第91話 ガングリオン

 みなさん、ガングリオンって知ってますか?
 まるで戦隊物に出てくるロボットのような、北欧神話に登場する勇者の名前みたいでしょう?
 実は足や手の指、甲などにできる軟骨みたいなコブのことなんです。別に痛くも痒くもないし、ある日、気づいたらグリグリしたシコリができていたって感じ。
 ガングリオンが発症する原因は、まだはっきりと解明されてなくて、おそらく手などを使い過ぎたり、ぶつけたりしたとき、ガングリオンができやすいらしい。
 ……ですが、私のガングリオンには医学的なことは関係ありません。

 あれは一週間ほど前のことだった。
 左の手首が急に痒くなって、ポリポリ掻いてたら赤く熱を持ち、しばらくするとジンジンと鈍い痛みがあって、患部を触ると少し腫れていた。最初は虫に刺されたのかと思って、虫さされの薬を塗っていた。
 翌日になると痛みは収まったが、プクッと小さなシコリができている。
 日を追うごとに、手首のシコリがしだいに大きくなっていく、米粒から小豆粒くらいに、大豆ほどのシコリになったときは、さすがに医者に診て貰おうと思いました。
 それが病院へ行くために外出したら、お腹が急に痛くなって、その日は止めました。翌日も病院にいく準備をしていたら、頭がガンガン痛くなってきて、薬飲んで休むことに――。
 どういう訳か、病院へ行こうとしたら体調が急に悪くなるのです。
 そうこうしている内に、手首のシコリはピンポン球の大きさになりました。これはもう放っとけない! どんなに体調悪くても絶対に行くぞと決めて、タクシーで病院に向かいました。
 やっと皮膚科の受付に着いて、保険証を渡して、病状を説明しようとしたら……なんと! 声が出ないのです。
 ビックリした私は病院から飛び出し、外で何度も深呼吸をして、「あぁ~~~」と発声しました。もう一度受付に戻って喋ろうとするが……口をパクパクさせるだけ。
 何度も出たり入ったりして試しましたが、病院の中だとやっぱり声が出ません。ガングリオンが治療されるのを拒絶しているみたいだった。もしかしたら、私の脳はガングリオンに支配されているのかも? 想像すると背筋が寒くなった。
  結局、診察もしないで、その日は家に帰りました。

  自分の手首にできたガングリオンが、別の生き物のように思えて気味が悪い! 終いには身体を乗っ取られるのでは?
 この不気味なコブを潰さなければ……私は自分で潰そうと決心した。安全ピンを消毒して、ガングリオンに向かって、針を突き刺そうとした瞬間、「止めて!」と誰かの声が聴こえた。
 見ると手首のガングリオンに小さな口がある。そして叫んだ声は紛れもなく私自身の声だった。
「ワタシはあなたの体の一部なのよ。殺してもいいの?」
「だって……気持ち悪いよ」
「どうしてもワタシを追い出したいなら、ひとつだけ方法がある」
 ガングリオンが私に意外なことを告げた。

 あるテレビ局に『都市伝説認定委員会』いう番組がある。
 視聴者から新しい都市伝説を聴いて、それが都市伝説に相応しいかどうか判定する番組だ。キャストは民族学者、UFO研究家、漫画家、お笑い芸人、女優、そして辛口コメンテーターのクリスティーン・佐渡というオカマタレントである。
 私はその番組の予選に出場することになった。
 ディレクターやカメラマン、番組進行役のクリスティーン・佐渡の前で、自分自身のガングリオンついて語り始める。
「なんか嘘っぽいわね。都市伝説って単なる作り話じゃダメなのよ」
 いきなりクリスティーン・佐渡の辛口コメント。
「でも、本当です」
「じゃあ、あなたのガングリオンを見せてちょうだい」
 袖を捲しあげて、テニスボールほどに膨らんだモノを見せる。
「あらー、ずいぶん大きいのね。早く医者に行った方がいいわよ」
「ガングリオンが治療させてくれない」
「……そう、じゃあお大事に。ハイ、次の人!」
 クリスティーン・佐渡がそっぽを向く、誰も私の話を信じてくれなかった――。
突然、『私のガングリオン貰ってくださーい!』大声で叫んだ。すると、手首のガン グリオンが風船のように膨らんでパンッと弾けた。
「驚いた! 風船の手品? もういいから行って」
 はらうように手を振って、私の退場を促した。
 
 私のガングリオンは跡形なく消えた。
 そしてテレビをつけたら、『都市伝説認定委員会』の、クリスティーン・佐渡のおでこに、大きなガングリオンができていた。
 泣きそうな顔で、『アタシのガングリオン貰ってよぉー!』と画面の中で叫んでいた。
 次の日から街中にガングリオンの人が増えた。きっと『都市伝説認定委員会』を観ていた人たちだ。この調子でいくと、日本中の人がガングリオン持ちになることだろう。
 都市伝説は『私のガングリオン貰ってよ!』と人に向かって叫ぶと、ガングリオンが新しい宿主にうつるだったのです。

 数日後、『都市伝説認定委員会』から都市伝説認定証が私の元に届けられた。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-08 14:58 | 夢想家のショートストーリー集
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   第90話 自転車泥棒

 古いイタリア映画に『自転車泥棒』いう作品がある。自転車を盗まれた男が探し歩くが見つからず、困ったあげく自分も自転車泥棒になってしまうという話だった。

 七十五年間、まっとうに生きてきた、このわしが今日初めて犯罪に手を染める。
 理由はお気に入りの自転車をパクられたせいじゃ!
 わしの自転車は黄色と黒のタイガースカラー、ハンドルにミラーを付けて後ろもよく見えるし、ペットボトルホルダーや傘入れを装備、後ろの荷台には“ 町内パトロール中 ”のノボリを立てて走っている。
世界に一台しかない、自分ナイズされたパーフェクト自転車だった。

 公園のトイレで用を足して出てきたら、わしの自転車がなくなっていた。周辺を探し回ったが見つからん。うっかり鍵をかけ忘れたが、ちょっと目を放した隙に盗まれるなんて……。
 チクショウ! 自転車泥棒ゆるさん! 怒りで血圧が上がりそうじゃった。目には目を、歯には歯を! 盗まれた自転車の仕返しに、盗み返してやろうとわしは決めた。

 そして郊外にあるショッピングセンターの駐輪場へやってきた。
 ここは大型スーパーを中心にたくさんの店舗がひしめき合って、週末には買い物客で賑わっている。息子の車で連れてきてもらったことがあるが、広い駐車場は満車で空車を探すのが大変じゃった、一時間も駐車場をグルグル回ってやっと停められた。
 徒歩や自転車ならすぐに買い物ができるというのに、車とは不便なもんだ。だから、わしは自転車のエコロジーと利便性が好きなんじゃ。
 新しい自転車を買いたいが、息子の嫁が「お義父さん、もう年なんだから自転車に乗るのは止めてください。年寄りは反射神経が鈍いから事故に遭います」そうぬかしやがる。
 町内を走り回るのがストレス解消法のわしにとって、自転車を奪われたら、翼をもがれたも同じ! だから、わしは自転車泥棒になってやる。
 もし警察に捕まっても「覚えていません」「知りません」「ここはどこ?」と認知症のふりして誤魔化すまで。七十五歳以上後期高齢者のわしには責任能力がない、そのため介護保険料払っとるんじゃからのう。
 年寄りをなめんなっ! ボケても悪知恵は働くぞ。

 駐輪場には色とりどり自転車が並ぶ、さて、この中からどれを盗むか?
  まず鍵がかかっていないもの、登録番号が付いていないものにターゲットが絞られる。わしは一台一台チェックしていく、鍵のかかっていない自転車は結構あるぞ。
 おっ、この新品の自転車どうじゃあ? 新しい買ったばかりのを盗まれるのは気の毒じゃのう。次のは、後ろにベビーシートが付いてる、小さな子どもを連れた母親に迷惑かけられん。この平凡な自転車にするか、しかし田中史郎と名前が書いてある、それを盗むと田中という人に罪悪感があるし……。
 おおー、この自転車は古くてボロボロだし、盗んでも恨まれんじゃろう……だが、ここまで使い込んだ自転車なら、かなり愛着があるかもしれん……盗まれたら悲しむだろうなぁ~わしみたいに。
 いざ盗むとなると……いろいろ悩んで決められない。

 ふと駐輪場を見回すと、小さな男の子が一台一台自転車を見て歩いている。もしや、自転車泥棒か? わしのようなジジイはいいが、子どもはいかん! 絶対にいかん!
「なにをやっとる?」
 思わず声をかけてしまった。
 男の子はこっちを見てキョトンとしていた。青白い顔のぼんやりした子どもだ。
「僕、自分の自転車を探してる。新品の青い自転車だよ」
「坊やも盗まれたのかい?」
「ううん。ここで買った日、自転車に乗って帰ったら、途中でトラックとぶつかってポーンと飛ばされたんだ」
「飛ばされたじゃと?」
「そのあとはなにも覚えていない。ずっと自分の自転車を探してる」
 男の子はそう話すとまた探し始めた。
 わしも男の子が自転車を探すのを手伝ってあげた。青い子ども用の自転車か、どれどれ……おお、これなんかどうじゃろ?
「おーい、この自転車じゃないか」
 呼びかけたら、さっきまで側にいた男の子が煙のように消えていなかった。オカシイなぁーと思いつつ、その日は自転車泥棒を止めて家へ帰った。

 わしの自転車が玄関の前に置いてあった。息子の嫁に訊いたら、近所の子どもがイタズラして乗り回したけど、さっき返しにきたという。
「てっきり盗まれたかと思ったわい」
「そんなヘンな自転車だれも盗みませんよ」と笑いよった。
「わしの自転車バカにするなっ!」
「三丁目の交差点で、自転車の男の子がトラックに撥ね飛ばされる死亡事故があったのよ。心配だから、自転車は止めてくださいね」と、やけに優しい声でいいよった。
 翌日、事故のことが気になって図書館で新聞記事を調べたら、駐輪場で会った男の子の写真が載っていた。まさか、わしは幽霊をみたのか? 新品の自転車が諦められずあの子は幽霊になって彷徨っているのだろうか?
 こんなことを家族に話したら、きっとボケたといわれるわい。
 自転車泥棒なんて、恥かしいことをしようとした自分に猛反省! わしは三丁目の交差点を渡る子どもたちを見守るボランティアをすることにした。
 七十五年間、まっとうに生きてきた、このわしが、子どもの交通事故をなくすために頑張るのだ!



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-07 14:55 | 夢想家のショートストーリー集
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   第89話 Spring garden (春の庭)

小さなお庭で春の花たちが目覚めます。
太陽の光を浴びて、青々とした葉っぱを茂らせて、
太く伸びた茎には、美しい花を咲かせました。

「こんにちは。太陽さん」
チューリップが大きな口で挨拶します。

「今日も良い天気じゃ」
ひげオヤジみたいな顔のパンジーたち。

「暖かい日差しが、気持ちいいわ」
マーガレットたちもプランターでご機嫌なようす。

花たちが成長するには、水、肥料、太陽が必要なのです。
植物には光合成というのがあって、太陽のエネルギーで成長します。
そして、きれいな空気も作ってくれるのです。

「みんなイイなぁー。オイラのところには日陰なんだ」

どこからか声がしました。
よく見ると、ブロック塀とコンクリートの
わずかな隙間に、小さな黄色い花が咲いています。

「あらっ! そんなところに居たの?」
「そこは影になって光が届かないでしょう」
「お気の毒ねぇー」
春の花たちが口々に喋りだします。

「オイラも明るいところに移動したい」

……けれども植物は自分では移動できません。

ちょっとでも日当たりの良い場所に
プランターや植木鉢を置いて欲しいと
花たちはいつも願っています。
「ただの雑草のくせに生意気よ!」
チューリップが大声で言いました。

「オイラは雑草じゃない! たんぽぽって名前があるんだ」

「私たちは種や球根を鉢に植えて咲いた花なのよ。
勝手にそこら辺で咲いている花とは身分が違うのよ」
チューリップがバカにしました。

その言葉にシュンとなって、たんぽぽは黙り込んでしまいました。

「あたしも、うつむいてばかりだから太陽の光を拝んだことがないの」
花壇の隅っこで、クリスマスローズが呟いた。

「どうして、いつも地面ばかり見てるの?
それにクリスマスでもないのに、クリスマスローズなんて変よ」
チューリップが笑いました。

「チューリップさん、そんな言い方はずいぶんだと思うわ」
隣のプランターのさくら草たちが口々に批判しました。

「なによっ! あんたたち桜の木の親戚でもないくせに、
さくら草なんて、おこがましいのよ」

「ひどいわ! ひどいわ!」
さくら草たちはプンプン怒りました。

「あんたこそ大口開けバカみたい!」
黄色いスイセンがチューリップに噛みつきました。

「失礼ね! 私は春の花ナンバーワンのチューリップよ」
「まあ、なんて図々しい花なの!」
「だって、春になると一番待たれている花がこの私よ」
「フン! あんたのバカ面は見あきたって太陽が言ってたわ」
「あ~ら、太陽は私ものよ」
「ウソおっしゃい!」
みんな不満そうにざわつきました。

「まあまあ、太陽の光はみんなに平等だから……」
冬の花のシクラメンが仲裁します。

「シクラメンさん、まだ居たの? 
あなたの季節はとっくに終わったのよ」

「チューリップさん、ちゃんと分かってますよ。
そろそろ日陰に置いて欲しいと思っていたところです」

「花が少ない、冬のシーズンに華やかに
咲いていたシクラメンさんは立派です!」
春の花たちが賞賛の声をあげました。

「私はもうお役御免ですから……」
そう言って、シクラメンは花びらを散らし始めました。

「シクラメンさん、お疲れさま。また来年お会いましょう」

季節のバトンタッチ。
冬から春へ、その中で一番花たちが活気づくシーズン。
――それが春なのです。

あれから、ずーっと沈黙していたたんぽぽに、
なにやら変化が……
いつの間にか、フワフワの綿毛になっていました。

「オイラの仲間たちが、今から旅に出るんだ!」

一陣の春風が吹き荒れたら、
たんぽぽの綿毛たちが、いっせいに大空へ舞い上がった。

「すごい! 空を飛べるなんて」
「たんぽぽさんが羨ましいわ」
「風で運ばれる種なんて素敵!」


「みんな、さよなら~」

たんぽぽの綿毛たちは手を振りながら、
春の庭から遠い町へと旅立って行きました。

「今度は日当たりの良い場所に根を下ろすんだよ」
たんぽぽの綿毛をみんなで見送りました。

時々、ケンカもするけれど
太陽の恵みで植物は、スクスク成長しているのです。

みんな太陽が大好き!

そんな賑やかな春の庭の花たちを、
ニコニコしながら太陽が見ていました――。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-08 16:52 | 夢想家のショートストーリー集
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   第88話 新宿civil war

 ド―――ンという、耳をつんざく爆音と閃光、爆風で吹っ飛び、その後、ガランガランと建物が倒壊していく音がした。
 な、な、なんだ!? いったい何が起きたのか分からない。
 倒れてきた本の棚とテーブルの隙間に挟まって、かろうじて命拾いをした。
 建物は瓦礫に埋まって、あっちこっちに人間のパーツだった肉片が散らばっている。最初は地震かと思ったが、大きな爆音がして、瞬時に建物を破壊するのは爆弾しかない。もしかして、これは爆弾テロなのか!?

 平和だと思っていたこの日本で、まさかテロとは信じられない。

 ここは新宿にある、ネットカフェだ。
 俺は千葉の柏市から仕事で東京へきていたが、取引先の社員と新宿で深夜まで飲んでしまい、終電に乗り遅れたので、始発電車が出るまでネットカフェで仮眠していた。
 酔いもまわってウトウトしていたら、突然の爆音に驚いて、気が付いたらこの有り様だった。
 方々から火の手が上がった、早く逃げないと……このままだと煙に巻かれて死んでしまう。瓦礫をかき分け、屍を越えて、やっと倒壊しそうなビルから俺は脱出した。
 外を見回すと、新宿駅とその周辺のビルが壊されている。
 ひょっとして多発テロなのか? どこの国からの攻撃だろう。C国か、K国か、まさかのイスラム国? 国際情勢に疎い俺にはさっぱり分からない。
 JR新宿駅が使えないなら、隣の新大久保まで歩いて行くしかない。この騒ぎで街に人が歩いていない、みんなどこかに身を潜めているのに違いない。
 大事件なのに、機動隊や警察官の姿も見当たらない、ビルの中には死傷者が多数いるというのに……救急車さえ来てないなんて……いったいどうなってるんだ。
 とにかく、この状況を把握するため、俺はスマホでニュースを開いた。

 最初に飛び込んできた文字は、“東京23区で戒厳令発令!”

 な、なんだと!? さらにニュースを読み進むと信じられないような文字があった!

 “新宿区と渋谷区で内戦状態!”

 まさか、この日本で内戦勃発するなんて……絶句。しかもその原因というのが、
 “2020年夏季オリンピックを巡り、新宿区と渋谷区は水面下でいざこざが絶えなかった。新宿区にできる新国立競技場は、東京オリンピックのメイン会場となる予定だが、それに対して渋谷側から、伝統ある明治神宮外苑競技場をなぜ造らない。と苦情が殺到していた。そんな中、渋カジ五輪会のメンバーが新宿駅周辺と都庁前で新国立競技場反対の抗議デモを始めた。対して、オカマの聖地新宿二丁目の過激派がドローンによる火炎瓶投下をおこない、複数の死傷者がでた。その報復として、渋谷側から新宿駅周辺での爆弾テロがおこなわれた。死傷者は数千人にのぼるとみられる。”

 東京五輪が原因でcivil warだと……オリンピックなんか知るか! 僕は柏レイソルのファンなんだよう。

 “尚、新宿警察と渋谷警察は現在戦闘状態である。この騒動で都知事も行方不明になっている”

 こんな大変な時に政府は……国はいった何してるんだ!?

 “総理大臣は外遊中である”

 ニュースを読んで、思わず、スマホを道に投げつけそうになった。

 爆弾テロのせいで、鉄道は動かないし、道路も寸断されて、とうとう新宿は陸の孤島になってしまった。
 こんな騒動に巻き込まれるのは御免だ。俺は我が町柏市を目指して帰るだけだ。そう決心して急いで歩き出すと、周辺から銃声が聴こえてきた。
 これは危険だと物影に隠れて様子を見ていたら……これは悪夢なのか? なんと俺の目の前を戦車が通り過ぎていった。マジ? これって本物の戦争じゃん!!
 後続のトラックの上には渋谷のシンボル(ハチ公の像)が大量に積載している。どうやら制圧していった新宿区域には、あのハチ公の像を設置するようだ。まさかの銅像テロだ!

 いきなり首筋に冷たい金属の感触。
「動くな、声を出せば殺す!」
 ドスの利いた男の声だ。怖々振り向いて見たら、超美人のお姉さんがサバイバルナイフで俺を脅していた。
「我々は新宿二丁目の精鋭部隊だ。おまえは渋谷民か?」
「ち、違います。ボクは千葉の柏市からきた者です」
「本当か?」
 オカマ壌は俺をジロジロ見ると、「渋谷民にしては格好がダサイ!」そういって解放してくれた。
 千葉民をバカにすんなっ! 俺は中立だし、まさか捕まっても銃殺刑にはならないと……たぶん思う?

 新宿の内戦はさらに激化していった、ついに新宿アルタの前で戦闘が始まった。
 お洒落な渋谷ファッション部隊を迎え打つは、二丁目の精鋭部隊、見た目は女でも中身は屈強な男たちだ。
 弾丸飛び交う戦場、バズカー砲がさく裂、手榴弾まで投げ込まれた。街は破壊され、新宿に取り残された一般市民は逃げ惑う。血の海、屍の山、阿鼻叫喚の地獄絵図になった!
 流れ弾が頭をかすめていく、このままでは殺されてしまう。俺は白いハンカチを振りながら泣き叫んだ!

「俺は千葉県柏市民だ! 東京都民の内戦なんか関係ない!!」



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-07 11:06 | 夢想家のショートストーリー集