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カテゴリ:夢想家のショートストーリー集( 93 )

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   第93話 「美人になる」≠「愛される」

 自分の顔が大嫌いだった!
 腫れぼったい一重まぶた、あぐらをかいた鼻、エラが張った輪郭……どんな欲目に見ても、私の顔は十人並以下だろう。
 当然、男にモテたことはない。小学校からずっと容姿のことで男子にからかわれてきた。高校は女子高だったので気にしないで自由にやってこれたが、大学は共学なのでブスの私は出来るだけ目立たないようにしていた。
 ある日、大学の教室で男性から声をかけられた。ゼミを休んだのでノートを見せて貰えないだろうかと頼まれる。真面目な私はいつも一番前の席でノートに取っている。
 ブスが社会で認められるには学業に励んで、スキルを上げ専門職で身を立てるしかないのだ。

 日頃、男性から話しかけられたことなかったので、少し戸惑ったけれど、私の取り柄は勉強だけなので快くノートを貸してあげた。その後、ノートのお礼にとその男性から映画と食事に誘われた。
 まさかブスの私にお礼を返してくれるなんて思ってもみなかった、最初はからかってるんだと思っていたら、なんと! 彼の方から交際を申し込まれた。

 彼の名前は神谷龍一、さわやか草食系イケメンなので大学の女子たちにも人気があった。
 彼と一緒に歩いていると「王子様とブス」という陰口が聴こえてくる。やっぱり龍一に私は不釣合いだと周りは思っているのだろうか。
 美男美女のカップルなら理想的? 
 こんな私と歩いてて龍一は恥かしくないかしら? なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 だけど龍一は、私のことを「可愛い」っていってくれる。色が白いと褒めてくれる。歯並びがいいから「美奈子の笑顔は素敵だよ」と褒めちぎってくれる。
 そんなはずないのに……その言葉を信じてもいいの? 私は龍一が好きになればなるほど、自分の容姿が気になりだした。

 ある日、カラオケでデュエットしたりして盛り上がった。だんだん二人の愛が深まっていく――。私にとって、これが初めての恋、龍一とは永遠に離れたくないと思っていた。
 ドリンクバーで飲み物を作ってるときだった、女店員が二人お喋りしながら歩いてくる。
「さっき、入店したカップルさ、彼氏の方はイケメンよねぇ~」
「それに比べて、連れてるのアレが彼女なの? スゲーブスじゃん」
「ホント、よくあんなブスと付き合ってるわ」
「絶対に浮気されるって、あんなブスじゃ男も愛想尽かしちゃう」
 こちらに気づかず、二人は笑いながら通り過ぎていった。
 その言葉を背中で聴いていた私の、コップを持つ手がブルブルと震えていた。これは怒りではない。今まで幾度となく「ブス」という言葉を投げつけられてきたので、もうその言葉には慣れっこになっている。
 だが、浮気をされるという言葉だけが胸に突き刺さった。その内、龍一はブスの私に愛想を尽かして、もっときれいな女の子に目移りするかもしれない。
 たぶん私は捨てられる。漠然とした不安に胸が震えた。

 そんな時だった、母方の祖父が亡くなって遺産が入った。そこから結婚資金として、母が私に五百万円という大金をくれた。そのお金で美容整形しようと決心する。もちろん母には内緒だ。龍一と母には短期留学するからと嘘をついて一ヶ月ほど入院した。
 いよいよ退院の日には、執刀した医者も絶賛するほど、まるで別人のように美しく生まれ変わった!

 美しくなった私を早く見て貰いたくて、以前、二人で行ったカラオケ店に龍一を呼んだ。やっと留学から帰ってきたと、彼は喜んで来てくれる。
 先に行って驚かそうと部屋を暗くして待っていたら、龍一がドアを開けて入ってきた。
「美奈子どこ?」
「龍一、ここに居るよ」
「どうして電気を消してるんだ?」
「驚かせることがあるの」
 私は部屋の電気を点けた。一瞬、龍一はキョトンとした顔で私の方を見た。
「あれ? 部屋間違えたのかな」
「ううん。私は美奈子よ。美容整形したの。きれいになったでしょう?」
 私の顔を凝視していた彼の表情が曇っていく――。
「どうして整形なんかしたんだ」
「だって、私はブスだし……龍一に相応しい美人になりたかったの」
「僕が恋人を容姿で選んだと思ったのかい?」
「ブスのままだと浮気されそうだし……」
「浮気? 僕のことを信用してなかったんだね」
「龍一のことが好きだから、もっと愛されたいから、だから美容整形した」
「美奈子の真面目で飾らない、ありのままの姿が好きだった。整形で自分を偽った君のことはもう愛せない!」
「そ、そんな……」
「僕がいなくても……美人になった君なら、男性に注目されて愛されるだろう。さよなら……」
 そういって部屋から出て行ったきり、龍一は帰ってこなかった。

 こんなはずじゃなかった! 美人になったらもっと愛されると思っていたのに……捨てられてしまうなんて……。おまけに整形したことが母に知れて「そんな顔の人は、私が生んだ娘じゃない!」と怒って家から追い出されてしまった。
 美容整形に成功したけれど、恋愛には失敗した。
 容姿がコンプレックスだった私は、美人にさえなれば、もっと愛されると思っていたのに……思惑が外れてしまったから――。
 結局「美人になる」≠「愛される」の図式で終わった。
 どうすればいいの? 龍一の愛を失くした私は、美容整形でつくられた美しい顔だけを頼りに、これから生きていくしかない。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-18 16:02 | 夢想家のショートストーリー集
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   第92話 なかよしにゃんこ兄弟

ある町に住んでいる。
なかよしのにゃんこ兄弟のお話です。

お兄ちゃんのリッキーくんはマンチカン、弟のナッツくんはアメショー
もちろん血のつながった兄弟ではありません。
のんびりマイペースな兄と利口者の弟でした。

だけど二匹はとってもなかよしなのです(ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

とても月の明るい夜のこと。

飼い主、美弥さんのベッドの布団の上で
眠っていたはずの二匹でしたが、

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
真夜中に弟のナッツくんの声がします。
「ん?」
その声に、兄のリッキーくんが寝むそうな目をやっと開きました。
「……ナッツ、どうかしたのか?」
「お兄ちゃん、ボク考えてたら寝られへんようになってん」
ナッツくんは神戸のブリーダーの家で生まれなので、
関西風の猫言葉を話します。
「寝れないなら、お兄ちゃんがペロペロしてやろう」
そういうとリッキーくんは弟の顔をペロペロ舐めはじめました。
「ちゃうねん、ちゃうねん!」
お兄ちゃんの趣味は弟の毛つくろいで、ペロペロが始まると
なかなか止まりません。
ペロペロペロ……

「もう、ええって!」
お兄ちゃんの顔に思わず“猫パンチ”しちゃったナッツくん。
「イテッ」「あっ! お兄ちゃんゴメン」
「ヘーキだよ。あははっ」
やさしいリッキーくんは弟に怒ったりなんかしません。
「ボク、お兄ちゃんに聞いてほしいことがあるんや」
「へ? なに? なんでも言ってみろ」
「あのなぁーボクら、いつもママにお世話になってるやろ?」
「ん? ママってだぁれ?」
「そこで寝ている人のことや」
「ああ、下僕のことか」
「下僕って……お兄ちゃん、下僕の意味しってんの?」
「下僕って、こいつの名前だろう」
そう言って、寝ている美弥さんのほっぺを肉球でツンツンしました。

利口なナッツくんは下僕の意味をテレビを観てしっていましたが、
本当の意味をお兄ちゃんに説明するのはやめました。

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

「ボクらを可愛がってくれるママに恩返しがしたいんや」
「それって、下僕の仕事だっていつも言ってるぜ」
弟には優しいリッキーくんだけど、飼い主さんには“塩対応”みたい。
「だけど、ボクらに美味しい猫缶食べさせるために
ママは毎日仕事っていうところへ行ってるんやで……」
「オイラたちが家でゴロゴロしている間も下僕は仕事しているのか」
猫のリッキーくんには“仕事”いうものが、どんなモノかよく分かりませんが、
疲れて帰ってくる下僕を見て、大変そうだなぁーとは感じていました。

「うん。ボクらでママにしてあげられることないやろか」
「――たとえば、どんなこと?」
「ママが喜んでくれそうな」
「だったら、オイラのいちごの毛布を貸してやってもいいぞ」
いちごの毛布とは、リッキーくんの超お気に入りの毛布のことで、
それを肉球でフミフミすると気持ちイイみたいなのです。
いちごの毛布をフミフミしているときが、
リッキーくんにとって至福の時間なのだ。
「そんなのママはいらないよ!」
「そ、そっか~?」
キッパリ言われて、リッキーくんは“解せぬ”という顔になりました。

「ママの役に立って喜ばせたいんや」
「オイラたちにできることって……?」
じっと肉球を見ながら二匹は考えてみました。
「ママの猫友、美香ちゃん家のラグドール、クララちゃんは
黒い稲妻・ゴキブリを狩るらしい」
「すごいなぁー」
「しかも百発百中でゴキがバラバラにされるんや!」
「オイラには無理だ……」
情けない声でリキくんが呟いた。
そしてナッツくんはバラバラになったゴキを想像して……
エグイなぁーと思ったのでした。
「うん。虫は気持ちワルイし……」
小心者の家猫にはハードルが高い。

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

「ママを喜ばせることができないなら、
悲しませないことなら、できるかもしれへん」
「下僕を悲しませないことって……?」
「ママが一番悲しんだことは、リッキー兄ちゃんの上に
もう一匹のお兄ちゃんがいたんやけど……
その猫が病気になって虹の橋を渡ったときや」
「うん。下僕はものすごく悲しんだ」
「大好きなママに、そんな悲しい思いをさせたくない!」
泣きそうな声でナッツくんが叫んだ。
その声にリッキーくんもすごく悲しくなった。

「ずっとママと一緒に暮らしたいんや」
「ナッツと下僕とオイラと仲良し家族」
「そのためにはボクらもママも健康でないとアカン!」
「からだをきたえるか?」
「お兄ちゃんはダイエットした方がええんちゃうか」
ナッツくんはモフモフすぎるリッキーくんのお腹をみてそういった。
「エへへ、やっぱりそっかぁー」
「けど。無理せんでも、いつもどおりでええねん」
「だったら、オイラはよく遊んで、よく食べて、よく寝るのだ」
「なるほど、そのとおりや! さすがボクのお兄ちゃんやでぇー」
ナッツにほめられて、自慢そうにリッキーくんは“どや顔”になった。どや!

「よく遊び、よく食べて、よく寝るぞぉ~♪」
嬉しそうにリッキーくんは節をつけて歌いはじめた。

『よく遊び~♪ よく食べて~♪ よく寝るぞぉ~~♪』

なかよしにゃんこ兄弟は声をそろえて歌いだしました。

にゃんこ兄弟の鳴き声にも目を覚まさず
美弥さんはスヤスヤと眠っています。

 ☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆

朝がきて、美弥さんが目を覚ますと、
二匹のにゃんこは、布団の上でピッタリと
寄りそうように眠っていました。

起こさないように、そーっとベッドから抜けだすと、
リッキーくんとナッツくんの朝の猫缶を用意します。


― いつもの朝となにもかわらないけど
リッキーくん、ナッツくん、にゃんこ兄弟が、
きのうよりも、ずーっと“下僕”のことが
スキになっていたことを ―。

ゆうべのお月さまはちゃんとしっていました。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-10 21:30 | 夢想家のショートストーリー集
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   第91話 ガングリオン

 みなさん、ガングリオンって知ってますか?
 まるで戦隊物に出てくるロボットのような、北欧神話に登場する勇者の名前みたいでしょう?
 実は足や手の指、甲などにできる軟骨みたいなコブのことなんです。別に痛くも痒くもないし、ある日、気づいたらグリグリしたシコリができていたって感じ。
 ガングリオンが発症する原因は、まだはっきりと解明されてなくて、おそらく手などを使い過ぎたり、ぶつけたりしたとき、ガングリオンができやすいらしい。
 ……ですが、私のガングリオンには医学的なことは関係ありません。

 あれは一週間ほど前のことだった。
 左の手首が急に痒くなって、ポリポリ掻いてたら赤く熱を持ち、しばらくするとジンジンと鈍い痛みがあって、患部を触ると少し腫れていた。最初は虫に刺されたのかと思って、虫さされの薬を塗っていた。
 翌日になると痛みは収まったが、プクッと小さなシコリができている。
 日を追うごとに、手首のシコリがしだいに大きくなっていく、米粒から小豆粒くらいに、大豆ほどのシコリになったときは、さすがに医者に診て貰おうと思いました。
 それが病院へ行くために外出したら、お腹が急に痛くなって、その日は止めました。翌日も病院にいく準備をしていたら、頭がガンガン痛くなってきて、薬飲んで休むことに――。
 どういう訳か、病院へ行こうとしたら体調が急に悪くなるのです。
 そうこうしている内に、手首のシコリはピンポン球の大きさになりました。これはもう放っとけない! どんなに体調悪くても絶対に行くぞと決めて、タクシーで病院に向かいました。
 やっと皮膚科の受付に着いて、保険証を渡して、病状を説明しようとしたら……なんと! 声が出ないのです。
 ビックリした私は病院から飛び出し、外で何度も深呼吸をして、「あぁ~~~」と発声しました。もう一度受付に戻って喋ろうとするが……口をパクパクさせるだけ。
 何度も出たり入ったりして試しましたが、病院の中だとやっぱり声が出ません。ガングリオンが治療されるのを拒絶しているみたいだった。もしかしたら、私の脳はガングリオンに支配されているのかも? 想像すると背筋が寒くなった。
  結局、診察もしないで、その日は家に帰りました。

  自分の手首にできたガングリオンが、別の生き物のように思えて気味が悪い! 終いには身体を乗っ取られるのでは?
 この不気味なコブを潰さなければ……私は自分で潰そうと決心した。安全ピンを消毒して、ガングリオンに向かって、針を突き刺そうとした瞬間、「止めて!」と誰かの声が聴こえた。
 見ると手首のガングリオンに小さな口がある。そして叫んだ声は紛れもなく私自身の声だった。
「ワタシはあなたの体の一部なのよ。殺してもいいの?」
「だって……気持ち悪いよ」
「どうしてもワタシを追い出したいなら、ひとつだけ方法がある」
 ガングリオンが私に意外なことを告げた。

 あるテレビ局に『都市伝説認定委員会』いう番組がある。
 視聴者から新しい都市伝説を聴いて、それが都市伝説に相応しいかどうか判定する番組だ。キャストは民族学者、UFO研究家、漫画家、お笑い芸人、女優、そして辛口コメンテーターのクリスティーン・佐渡というオカマタレントである。
 私はその番組の予選に出場することになった。
 ディレクターやカメラマン、番組進行役のクリスティーン・佐渡の前で、自分自身のガングリオンついて語り始める。
「なんか嘘っぽいわね。都市伝説って単なる作り話じゃダメなのよ」
 いきなりクリスティーン・佐渡の辛口コメント。
「でも、本当です」
「じゃあ、あなたのガングリオンを見せてちょうだい」
 袖を捲しあげて、テニスボールほどに膨らんだモノを見せる。
「あらー、ずいぶん大きいのね。早く医者に行った方がいいわよ」
「ガングリオンが治療させてくれない」
「……そう、じゃあお大事に。ハイ、次の人!」
 クリスティーン・佐渡がそっぽを向く、誰も私の話を信じてくれなかった――。
突然、『私のガングリオン貰ってくださーい!』大声で叫んだ。すると、手首のガン グリオンが風船のように膨らんでパンッと弾けた。
「驚いた! 風船の手品? もういいから行って」
 はらうように手を振って、私の退場を促した。
 
 私のガングリオンは跡形なく消えた。
 そしてテレビをつけたら、『都市伝説認定委員会』の、クリスティーン・佐渡のおでこに、大きなガングリオンができていた。
 泣きそうな顔で、『アタシのガングリオン貰ってよぉー!』と画面の中で叫んでいた。
 次の日から街中にガングリオンの人が増えた。きっと『都市伝説認定委員会』を観ていた人たちだ。この調子でいくと、日本中の人がガングリオン持ちになることだろう。
 都市伝説は『私のガングリオン貰ってよ!』と人に向かって叫ぶと、ガングリオンが新しい宿主にうつるだったのです。

 数日後、『都市伝説認定委員会』から都市伝説認定証が私の元に届けられた。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-08 14:58 | 夢想家のショートストーリー集
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   第90話 自転車泥棒

 古いイタリア映画に『自転車泥棒』いう作品がある。自転車を盗まれた男が探し歩くが見つからず、困ったあげく自分も自転車泥棒になってしまうという話だった。

 七十五年間、まっとうに生きてきた、このわしが今日初めて犯罪に手を染める。
 理由はお気に入りの自転車をパクられたせいじゃ!
 わしの自転車は黄色と黒のタイガースカラー、ハンドルにミラーを付けて後ろもよく見えるし、ペットボトルホルダーや傘入れを装備、後ろの荷台には“ 町内パトロール中 ”のノボリを立てて走っている。
世界に一台しかない、自分ナイズされたパーフェクト自転車だった。

 公園のトイレで用を足して出てきたら、わしの自転車がなくなっていた。周辺を探し回ったが見つからん。うっかり鍵をかけ忘れたが、ちょっと目を放した隙に盗まれるなんて……。
 チクショウ! 自転車泥棒ゆるさん! 怒りで血圧が上がりそうじゃった。目には目を、歯には歯を! 盗まれた自転車の仕返しに、盗み返してやろうとわしは決めた。

 そして郊外にあるショッピングセンターの駐輪場へやってきた。
 ここは大型スーパーを中心にたくさんの店舗がひしめき合って、週末には買い物客で賑わっている。息子の車で連れてきてもらったことがあるが、広い駐車場は満車で空車を探すのが大変じゃった、一時間も駐車場をグルグル回ってやっと停められた。
 徒歩や自転車ならすぐに買い物ができるというのに、車とは不便なもんだ。だから、わしは自転車のエコロジーと利便性が好きなんじゃ。
 新しい自転車を買いたいが、息子の嫁が「お義父さん、もう年なんだから自転車に乗るのは止めてください。年寄りは反射神経が鈍いから事故に遭います」そうぬかしやがる。
 町内を走り回るのがストレス解消法のわしにとって、自転車を奪われたら、翼をもがれたも同じ! だから、わしは自転車泥棒になってやる。
 もし警察に捕まっても「覚えていません」「知りません」「ここはどこ?」と認知症のふりして誤魔化すまで。七十五歳以上後期高齢者のわしには責任能力がない、そのため介護保険料払っとるんじゃからのう。
 年寄りをなめんなっ! ボケても悪知恵は働くぞ。

 駐輪場には色とりどり自転車が並ぶ、さて、この中からどれを盗むか?
  まず鍵がかかっていないもの、登録番号が付いていないものにターゲットが絞られる。わしは一台一台チェックしていく、鍵のかかっていない自転車は結構あるぞ。
 おっ、この新品の自転車どうじゃあ? 新しい買ったばかりのを盗まれるのは気の毒じゃのう。次のは、後ろにベビーシートが付いてる、小さな子どもを連れた母親に迷惑かけられん。この平凡な自転車にするか、しかし田中史郎と名前が書いてある、それを盗むと田中という人に罪悪感があるし……。
 おおー、この自転車は古くてボロボロだし、盗んでも恨まれんじゃろう……だが、ここまで使い込んだ自転車なら、かなり愛着があるかもしれん……盗まれたら悲しむだろうなぁ~わしみたいに。
 いざ盗むとなると……いろいろ悩んで決められない。

 ふと駐輪場を見回すと、小さな男の子が一台一台自転車を見て歩いている。もしや、自転車泥棒か? わしのようなジジイはいいが、子どもはいかん! 絶対にいかん!
「なにをやっとる?」
 思わず声をかけてしまった。
 男の子はこっちを見てキョトンとしていた。青白い顔のぼんやりした子どもだ。
「僕、自分の自転車を探してる。新品の青い自転車だよ」
「坊やも盗まれたのかい?」
「ううん。ここで買った日、自転車に乗って帰ったら、途中でトラックとぶつかってポーンと飛ばされたんだ」
「飛ばされたじゃと?」
「そのあとはなにも覚えていない。ずっと自分の自転車を探してる」
 男の子はそう話すとまた探し始めた。
 わしも男の子が自転車を探すのを手伝ってあげた。青い子ども用の自転車か、どれどれ……おお、これなんかどうじゃろ?
「おーい、この自転車じゃないか」
 呼びかけたら、さっきまで側にいた男の子が煙のように消えていなかった。オカシイなぁーと思いつつ、その日は自転車泥棒を止めて家へ帰った。

 わしの自転車が玄関の前に置いてあった。息子の嫁に訊いたら、近所の子どもがイタズラして乗り回したけど、さっき返しにきたという。
「てっきり盗まれたかと思ったわい」
「そんなヘンな自転車だれも盗みませんよ」と笑いよった。
「わしの自転車バカにするなっ!」
「三丁目の交差点で、自転車の男の子がトラックに撥ね飛ばされる死亡事故があったのよ。心配だから、自転車は止めてくださいね」と、やけに優しい声でいいよった。
 翌日、事故のことが気になって図書館で新聞記事を調べたら、駐輪場で会った男の子の写真が載っていた。まさか、わしは幽霊をみたのか? 新品の自転車が諦められずあの子は幽霊になって彷徨っているのだろうか?
 こんなことを家族に話したら、きっとボケたといわれるわい。
 自転車泥棒なんて、恥かしいことをしようとした自分に猛反省! わしは三丁目の交差点を渡る子どもたちを見守るボランティアをすることにした。
 七十五年間、まっとうに生きてきた、このわしが、子どもの交通事故をなくすために頑張るのだ!



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-04-07 14:55 | 夢想家のショートストーリー集
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   第89話 Spring garden (春の庭)

小さなお庭で春の花たちが目覚めます。
太陽の光を浴びて、青々とした葉っぱを茂らせて、
太く伸びた茎には、美しい花を咲かせました。

「こんにちは。太陽さん」
チューリップが大きな口で挨拶します。

「今日も良い天気じゃ」
ひげオヤジみたいな顔のパンジーたち。

「暖かい日差しが、気持ちいいわ」
マーガレットたちもプランターでご機嫌なようす。

花たちが成長するには、水、肥料、太陽が必要なのです。
植物には光合成というのがあって、太陽のエネルギーで成長します。
そして、きれいな空気も作ってくれるのです。

「みんなイイなぁー。オイラのところには日陰なんだ」

どこからか声がしました。
よく見ると、ブロック塀とコンクリートの
わずかな隙間に、小さな黄色い花が咲いています。

「あらっ! そんなところに居たの?」
「そこは影になって光が届かないでしょう」
「お気の毒ねぇー」
春の花たちが口々に喋りだします。

「オイラも明るいところに移動したい」

……けれども植物は自分では移動できません。

ちょっとでも日当たりの良い場所に
プランターや植木鉢を置いて欲しいと
花たちはいつも願っています。
「ただの雑草のくせに生意気よ!」
チューリップが大声で言いました。

「オイラは雑草じゃない! たんぽぽって名前があるんだ」

「私たちは種や球根を鉢に植えて咲いた花なのよ。
勝手にそこら辺で咲いている花とは身分が違うのよ」
チューリップがバカにしました。

その言葉にシュンとなって、たんぽぽは黙り込んでしまいました。

「あたしも、うつむいてばかりだから太陽の光を拝んだことがないの」
花壇の隅っこで、クリスマスローズが呟いた。

「どうして、いつも地面ばかり見てるの?
それにクリスマスでもないのに、クリスマスローズなんて変よ」
チューリップが笑いました。

「チューリップさん、そんな言い方はずいぶんだと思うわ」
隣のプランターのさくら草たちが口々に批判しました。

「なによっ! あんたたち桜の木の親戚でもないくせに、
さくら草なんて、おこがましいのよ」

「ひどいわ! ひどいわ!」
さくら草たちはプンプン怒りました。

「あんたこそ大口開けバカみたい!」
黄色いスイセンがチューリップに噛みつきました。

「失礼ね! 私は春の花ナンバーワンのチューリップよ」
「まあ、なんて図々しい花なの!」
「だって、春になると一番待たれている花がこの私よ」
「フン! あんたのバカ面は見あきたって太陽が言ってたわ」
「あ~ら、太陽は私ものよ」
「ウソおっしゃい!」
みんな不満そうにざわつきました。

「まあまあ、太陽の光はみんなに平等だから……」
冬の花のシクラメンが仲裁します。

「シクラメンさん、まだ居たの? 
あなたの季節はとっくに終わったのよ」

「チューリップさん、ちゃんと分かってますよ。
そろそろ日陰に置いて欲しいと思っていたところです」

「花が少ない、冬のシーズンに華やかに
咲いていたシクラメンさんは立派です!」
春の花たちが賞賛の声をあげました。

「私はもうお役御免ですから……」
そう言って、シクラメンは花びらを散らし始めました。

「シクラメンさん、お疲れさま。また来年お会いましょう」

季節のバトンタッチ。
冬から春へ、その中で一番花たちが活気づくシーズン。
――それが春なのです。

あれから、ずーっと沈黙していたたんぽぽに、
なにやら変化が……
いつの間にか、フワフワの綿毛になっていました。

「オイラの仲間たちが、今から旅に出るんだ!」

一陣の春風が吹き荒れたら、
たんぽぽの綿毛たちが、いっせいに大空へ舞い上がった。

「すごい! 空を飛べるなんて」
「たんぽぽさんが羨ましいわ」
「風で運ばれる種なんて素敵!」


「みんな、さよなら~」

たんぽぽの綿毛たちは手を振りながら、
春の庭から遠い町へと旅立って行きました。

「今度は日当たりの良い場所に根を下ろすんだよ」
たんぽぽの綿毛をみんなで見送りました。

時々、ケンカもするけれど
太陽の恵みで植物は、スクスク成長しているのです。

みんな太陽が大好き!

そんな賑やかな春の庭の花たちを、
ニコニコしながら太陽が見ていました――。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-08 16:52 | 夢想家のショートストーリー集
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   第88話 新宿civil war

 ド―――ンという、耳をつんざく爆音と閃光、爆風で吹っ飛び、その後、ガランガランと建物が倒壊していく音がした。
 な、な、なんだ!? いったい何が起きたのか分からない。
 倒れてきた本の棚とテーブルの隙間に挟まって、かろうじて命拾いをした。
 建物は瓦礫に埋まって、あっちこっちに人間のパーツだった肉片が散らばっている。最初は地震かと思ったが、大きな爆音がして、瞬時に建物を破壊するのは爆弾しかない。もしかして、これは爆弾テロなのか!?

 平和だと思っていたこの日本で、まさかテロとは信じられない。

 ここは新宿にある、ネットカフェだ。
 俺は千葉の柏市から仕事で東京へきていたが、取引先の社員と新宿で深夜まで飲んでしまい、終電に乗り遅れたので、始発電車が出るまでネットカフェで仮眠していた。
 酔いもまわってウトウトしていたら、突然の爆音に驚いて、気が付いたらこの有り様だった。
 方々から火の手が上がった、早く逃げないと……このままだと煙に巻かれて死んでしまう。瓦礫をかき分け、屍を越えて、やっと倒壊しそうなビルから俺は脱出した。
 外を見回すと、新宿駅とその周辺のビルが壊されている。
 ひょっとして多発テロなのか? どこの国からの攻撃だろう。C国か、K国か、まさかのイスラム国? 国際情勢に疎い俺にはさっぱり分からない。
 JR新宿駅が使えないなら、隣の新大久保まで歩いて行くしかない。この騒ぎで街に人が歩いていない、みんなどこかに身を潜めているのに違いない。
 大事件なのに、機動隊や警察官の姿も見当たらない、ビルの中には死傷者が多数いるというのに……救急車さえ来てないなんて……いったいどうなってるんだ。
 とにかく、この状況を把握するため、俺はスマホでニュースを開いた。

 最初に飛び込んできた文字は、“東京23区で戒厳令発令!”

 な、なんだと!? さらにニュースを読み進むと信じられないような文字があった!

 “新宿区と渋谷区で内戦状態!”

 まさか、この日本で内戦勃発するなんて……絶句。しかもその原因というのが、
 “2020年夏季オリンピックを巡り、新宿区と渋谷区は水面下でいざこざが絶えなかった。新宿区にできる新国立競技場は、東京オリンピックのメイン会場となる予定だが、それに対して渋谷側から、伝統ある明治神宮外苑競技場をなぜ造らない。と苦情が殺到していた。そんな中、渋カジ五輪会のメンバーが新宿駅周辺と都庁前で新国立競技場反対の抗議デモを始めた。対して、オカマの聖地新宿二丁目の過激派がドローンによる火炎瓶投下をおこない、複数の死傷者がでた。その報復として、渋谷側から新宿駅周辺での爆弾テロがおこなわれた。死傷者は数千人にのぼるとみられる。”

 東京五輪が原因でcivil warだと……オリンピックなんか知るか! 僕は柏レイソルのファンなんだよう。

 “尚、新宿警察と渋谷警察は現在戦闘状態である。この騒動で都知事も行方不明になっている”

 こんな大変な時に政府は……国はいった何してるんだ!?

 “総理大臣は外遊中である”

 ニュースを読んで、思わず、スマホを道に投げつけそうになった。

 爆弾テロのせいで、鉄道は動かないし、道路も寸断されて、とうとう新宿は陸の孤島になってしまった。
 こんな騒動に巻き込まれるのは御免だ。俺は我が町柏市を目指して帰るだけだ。そう決心して急いで歩き出すと、周辺から銃声が聴こえてきた。
 これは危険だと物影に隠れて様子を見ていたら……これは悪夢なのか? なんと俺の目の前を戦車が通り過ぎていった。マジ? これって本物の戦争じゃん!!
 後続のトラックの上には渋谷のシンボル(ハチ公の像)が大量に積載している。どうやら制圧していった新宿区域には、あのハチ公の像を設置するようだ。まさかの銅像テロだ!

 いきなり首筋に冷たい金属の感触。
「動くな、声を出せば殺す!」
 ドスの利いた男の声だ。怖々振り向いて見たら、超美人のお姉さんがサバイバルナイフで俺を脅していた。
「我々は新宿二丁目の精鋭部隊だ。おまえは渋谷民か?」
「ち、違います。ボクは千葉の柏市からきた者です」
「本当か?」
 オカマ壌は俺をジロジロ見ると、「渋谷民にしては格好がダサイ!」そういって解放してくれた。
 千葉民をバカにすんなっ! 俺は中立だし、まさか捕まっても銃殺刑にはならないと……たぶん思う?

 新宿の内戦はさらに激化していった、ついに新宿アルタの前で戦闘が始まった。
 お洒落な渋谷ファッション部隊を迎え打つは、二丁目の精鋭部隊、見た目は女でも中身は屈強な男たちだ。
 弾丸飛び交う戦場、バズカー砲がさく裂、手榴弾まで投げ込まれた。街は破壊され、新宿に取り残された一般市民は逃げ惑う。血の海、屍の山、阿鼻叫喚の地獄絵図になった!
 流れ弾が頭をかすめていく、このままでは殺されてしまう。俺は白いハンカチを振りながら泣き叫んだ!

「俺は千葉県柏市民だ! 東京都民の内戦なんか関係ない!!」



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-07 11:06 | 夢想家のショートストーリー集
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   第87話 鍵

 先ほどから鍵穴を睨んでいる。
 手に鍵を持ったまま、私は304号室を開けるべきか迷っていた。
 この部屋の中に何があるのか分からない。それを知りたいと思う好奇心と、見るのが怖いという、二つの考えがせめぎ合っている。
 夫の秘密を知ることは、妻の権利だといえるだろうか?

 私たちは銀婚式をとうに過ぎた夫婦だった。
 子供は二人いる、長女は結婚して来年には初孫が生まれる、長男は就職が決まり今年から社会人になる。
 夫は中堅の商事会社に勤めているが、年中出張や海外転勤でほとんど家にいない人だから、専業主婦の私がひとりで家を切り盛りしてきた。
 不仲というわけではないが、たまに夫が家にいても会話すらなかった。
 いつも仕事で疲れている夫の健康を心配していたら、夫の同期の人が急死した。その人の葬儀から帰った夫が、故人は働き過ぎが原因で欝病になって自死したのだという。「俺はあんな死に方はしたくない」そういって、定年になったらキャンピングカーを買って、おまえとふたりで日本中を旅して回るのが夢だと語った。
 夫の言葉に、「狭いキャンピングカーであなたと旅行なんて真っ平です!」私は即座に断った。

 子育てを終えた主婦の楽しみといえば、花を育てること、ペットの世話をすること、たまに手の込んだ料理を作ってみたり、近所の主婦たちとホテルでランチして、カラオケで盛り上がることだった。
 ささやかな主婦の楽しみを夫と時間を共有することで奪われたくないと思っていた。
 自分の夢を妻に拒絶されて、夫はさぞ傷ついたことだろう。――今にして思えば、ずいぶん薄情な態度だったと思う。
 その頃からだった、時々週末に行く先も告げず、旅行鞄に着替えを詰めて出掛けるようになったのは――。たぶん一泊のゴルフコンパだと思って気にもしていなかった。
 いつも仕事で家にいない夫に慣れて、私は彼に対して無関心だった。

 その夫が心筋梗塞で急死した。
 出張先のホテルで倒れて、そのまま帰らぬ人となった。定年まであと八年だったのに……夢を果たせないままで人生を終えた。
 人ひとり亡くなるということは、悲しみにくれる隙を与えないくらい、遺族には用事が多い。葬儀の手配から煩雑な法的手続きまで終えて……やっと故人の死を悼むことができるのだ。
 少し落ち着いたころ、夫の遺品の整理を始めた。
 服や身の回りの物はすべて処分したが、夫が愛用していた旅行鞄だけは取っておくことにした。この鞄を持って出張に出かけていく夫の後姿を思い出して切なくなった。夫との間に溝をつくったままのお別れだけに辛かった。
 旅行鞄を一度陰干ししようとひっくり反したとき、底敷きの下から鍵が落ちた。
 ごく普通の鍵だったが、『304号室』と書いたプレートが付いていた。
 なぜ鍵を夫は鞄の底に隠していたのか気になってしかたない。
 書類箱を調べたら、夫名義の通帳が出てきた、そこには毎月決まった金額が引き落とされている。家賃の支払いかもしれないと、引き落とし先の会社に事情を話して、鍵の部屋の住所を教えて貰った。
 自宅から電車で一時間ほどで行ける距離に夫の部屋はあった。
 そこは単身者用のワンルームマンションだった。私は部屋の前でしばらく迷っていたが、どうしても知りたいという好奇心に負けて、鍵を開けることにした。
 鍵穴に差し込みゆっくりと回すと、カチャリと鍵のあく感触があった。

 ――ひどく殺風景な部屋だった。

 広さは八畳くらい、小さなキッチンとユニットバス付である。ソファーと小さなテーブルがあるだけ、ベッドは置いてなかった。テレビも冷蔵庫もなく、テーブルの上には読みかけの文庫本と眼鏡、キッチンには電気ポットと紙コップ入りのインスタントコーヒーがあった。
 もし女の痕跡があったらどうしようかと脅えていたが、そういう用途で使われていたふしはなかった。
クローゼットを開けてみたら、衣装ケースがひとつ。
 ケースの中にオリーブグリーンのマフラーが入っている。それは結婚前に、私が夫にプレゼントした手編みのマフラーだった。まさか、夫が今でも大事に取っているとは思ってもみなかった。
 他にも新婚旅行で行ったハワイのレイやアロハシャツ、銀婚旅行のオーストラリアのエアーズロックで撮った夫婦の写真、毎年の夫の誕生日プレゼントなどが入っていた。
 これは夫婦の記念品箱ではないか、これらの品物に触れて、私の目頭は熱くなった。
 さらにケースの底には『最愛の妻へ』と記した、きれいな小箱が入っていた。何だろうかと、開けてみたら真珠のネックレスだった。

 ――もしかしたら、これは夫が私に仕掛けたゲームなのかもしれない。

 あの鍵はスタートボタンなのだ。
 少しでも自分に関心があれば、この部屋を見つけ出せるだろうと、この殺風景な部屋の中で私に見つかることを、わくわくしながら心待ちしていたのだろうか。
 自分に対する、妻の愛を確かめるためのトラップとして、この部屋は借りられていた。

「あなたの隠れ家、304号室を見つけましたよ」

 輝く真珠のネックレスは、夫から私へのご褒美だった。



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-06 16:30 | 夢想家のショートストーリー集
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   第86話 箱の中の呟き

 大きな木の箱から、何やら呟きが聴こえてくる。
「あぁー、もうそろそろ春になったのかしら?」
 ため息交じりの女の声は、どこか気だるく寝むそうだ。

 年に一度、このカビ臭い箱から、わたくしはやっと出してもらえる。
 真っ暗な箱の中ではずっと眠っている。いいえ、寝たふりをしているだけで、時々、薄目を開けて周りを見回しているけど……ただ真っ暗闇で何も見えない。「こんなの退屈過ぎて気が変になりそう!」だから、また寝たふりをする。――そうすると、その内、冬眠状態に入るから。

 何のために存在しているのか分からないけれど、一年に一度の行事のために……。その日を美しく彩るために、わたくしたちは作られた。

 それ以外の日は外にも出してもらえない。
 ずっと箱の中に軟禁状態で、おまけに虫よけの薬の臭いが強烈で息苦しい。でも、それが薄まってきたら、今度はカビの臭いが鼻を突く。大事な着物にカビが生えたらどうしよう! 除湿剤も一緒に入れといてよね。
『○○は顔が命』とかいって、汚れないようにと顔にテッシュを巻かれているから、「ああ~息苦しいよぉ……」去年、片付ける時に扇子をどこかに失くしちゃった。
 あれがないとポーズがきまらないのよ。
 困ったわ! たぶん、この箱のどこかに落ちているんだと思うんだけど……。

 いつもわたくしの右側にいる彼氏が去年、仕舞う時に離ればなれにされちゃった。
 毎年片付ける度に、やり方が違うから困ってしまうわ。
どうやら三人娘の誰かとカップリングされたみたいね。時々クスクス……と女の忍び笑いがするもの。
 あの娘たちときたら身のほど知らずにも程があるわ!
 ……と言っても、私と右側の彼氏とは今では仮面夫婦ですの。愛情なんてとっくの昔に冷めているけど、世間体だけで仲良し夫婦の振りをしているのよ。
 だって、私たちが仲よく並んでいないと絵にならないでしょう?
 ホントは私……最近は右側の彼氏より白いお髭の渋いご老人に萌えていますの。
 あっ! これは絶対に内緒ですわ。シィー……。

 昔は箱から出されると、七段飾りの緋毛氈の上に丁寧に並べられていった。
 わたくしたち夫婦を最初に飾って、三人娘や五人の楽士たち、おじさんが二人と段々と並んでいきました。
 飾り終わったわたくしたちを見て、女の子の瞳はキラキラ輝いていたわ。この日だけは、どこの家の女の子も“お嬢さま”で、きれいな着物をきて誇らし気な笑顔だった。
 ――だって女の子のお祭りですもの。
 近所の女の子たちを集めてミニパーティ! 桃の花を飾り、ちらし寿司や蛤のお吸い物、白酒、菱餅、あられでお祝をしたのよ。
 楽しそうな女の子たちの様子ったら――上段から見ていて、こっちまで嬉しくなっちゃうわ。
 その場を盛り上げる雰囲気作りに欠かせないのは、もちろんわたくしたちの存在よ!

 ああ、もうこんな退屈な箱の中から出たい!     
 

 
 『ねぇ、お雛さまどうするの?』
『もう、明日でしょう?』
『おまえが手伝ってくれないから、お母さんひとりじゃあお雛さま飾れないよ』
『もう、いいんじゃないの。子どもじゃないんだし、女子大生になってまでお雛祭りはやんないよ』
『――そうかい』
『どうせ、すぐに片付けないといけないし、面倒だから、もう出すの止めようよ』
『おまえがそれでいいなら……』
『止めよう、止めよう! それより雛祭りケーキ買ってきてよね』
『お雛さまより、食い気の娘なんて……あははっ』
 
 
 早く、早く! この箱から出してくださいなっ!



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-15 10:44 | 夢想家のショートストーリー集
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   第85話 優しさの裏側

半年前まで、ボクらは恋人同士だった。
それが今ではボクのお姉さんか、まるで母親みたい。

「ああ~またこぼしてる」
朝食のトーストを食べるとき、ほんの少しパン屑をこぼしたら、
キミは目ざとく見つけて、ふきんで拭きとろうとする。
「あら、ネクタイがまがってる」
横からボクのネクタイを直そうとするんだ。
そうやって四六時中、なにかを正そうとしている。

「ねえ、コーヒーのお代わりいかが?」
コーヒーカップの中まで、いつも気を配っている。
それがキミにとって、ボクへの愛もしくは、
優しさだと思っているのかい?

最初はキミの優しさが好きだった。
とても気が利くし、いつも気配りしている人。
相手を大事にする、その姿勢にとても好感がもてた。
だからキミと一緒に暮らしたら、
ボクらは幸せになれると思っていたのに……。

そうじゃなかった!
キミは自己満足の優しさを押しつけてくるし、
ひとり合点して、なんでも通そうとするし、
優しさに対する感謝の言葉を求めるようになった。
キミの愛が重たい!

ああ、正直めんどくさい。
なんだか、いつも監視されているようで息が詰まる。
キミの優しさが、ボクから自由を奪っていく。
まるで蜘蛛の糸のが絡みついたようだ。

本当の優しさなんて伝わらない。
言葉を尽くせば、尽くすほど……
優しさから遠ざかって――。
剥き出しのエゴが牙をむく。

「ねえ、コーヒーのお代わりいかが?」
またボクに訊く。
コーヒーのお代わりはいらないさ。
この部屋からボクは出ていくから、
おそらく、二度と、ここへは戻らないだろう。

なぜ、出ていったのか?
残された者は考えることだろう。
優しいキミが傷つかないように、
その理由はあえて言わないでおくよ。
それがボクの優しさだと気づいてほしい。

優しさには、いつも表と裏がある。
見える優しさと、見えない優しさと、
本当の優しさは、月の裏側みたいに、
目を凝らしても見えないけれど、
いつの日にか、その想いは伝わるだろう。

グッバイ マイ ハニー


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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2017-02-14 21:09 | 夢想家のショートストーリー集
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   第84話 戯曲・バレンタインディー殺人事件

夕焼けに赤く照らされた放課後の教室。
中央に机と椅子が置かれている。うつ伏せで学生服の男が死んでいる。机の上には丸いアーモンドチョコレートが散乱していた。
三人の女生徒たちが、死んだ男の周りを囲うように立っている。

女生徒たち:キャー! 
 悲鳴をあげる。その声に舞台の袖からインバネスコートに鹿撃ち帽を被った探偵が現れる。
探偵:みなさん、落ち着いてください!
女生徒A:ああ、なんて怖ろしいこと。
女生徒B:教室の中で彼が死んでいました。
女生徒C:今日はバレンタインデー、女の子がチョコを渡す日です。
探偵:みなさんは全員容疑者です。ここから動かないでください。
女生徒たち:いいえ! 私は犯人ではありません。
探偵:みなさん、被害者との関係を話してください。
女生徒A:私は死んでいる演劇部部長とは幼馴染で恋人でした。
女生徒B:まあ! 部長の恋人はこの私です。
女生徒C:おほほっ。もう貴女方は過去の人よ。今、部長とラブラブなのはこの私なの!
探偵:おやおや、みなさん見解が違いますね。
女生徒たち:私こそ演劇部部長の恋人よ!
 女生徒たちが大声で叫ぶ。

探偵:では、この教室にいた理由をお訊ねしましょう。
女生徒A:もちろん、彼に本命チョコを渡すためです。
女生徒B:あらっ! 彼は私の手作りチョコしか食べないわ。
女生徒C:彼はベルギー製の生チョコが好きなのよ!
 女生徒たちはそれぞれ手にチョコを持っている。
探偵:このアーモンドチョコは誰が渡したのですか?
女生徒たち:私ではありません。
 探偵は虫眼鏡で死体を調べている。
探偵:ふむふむ。アーモンド臭が毒物は青酸カリです。
女生徒たち:まあ、怖ろしい!
探偵:犯人はここにいます! 毒入りチョコを食べさせたのは誰ですか?
女生徒たち:違います! 私たちがきたときには、すでに彼は死んでいました。
探偵:犯人は正直に名乗り出なさい!
謎の声:チョコを食べさせたのは俺だ!
 いきなり男の声が響いた。
全員:誰だ!?

 舞台の袖から、ふっなしーの着ぐるみが現れる。
ふっなしー:みなさん、こんにちは。ふっなしー探偵助手です。
女生徒たち:ふっなしーは探偵さんの助手なのですか?
探偵:いいえ。こんな奴はしりません!
ふっなしー:ちょっと探偵さん! 
探偵:なんだ?
ふっなしー:アーモンドチョコ食べていた被害者のアーモンド臭で、青酸カリはナイっしょ?
探偵:疑問があるのか?
ふっなしー:バッカじゃねーの? 
アーモンドチョコ食べてたんだから、とーぜんアーモンド臭がスルっしょ! 
探偵:いや、そのう……。
 痛いところを突かれて、狼狽する探偵。
ふっなしー:やーい、ぽんこつ探偵!
探偵:うるさい!
ふっなしー:俺は犯人知ってる。
探偵:なんだとっ! それは誰だ!?
ふっなしー:演劇部部長にアーモンドチョコやったのは俺っス。
探偵:な、なにぃー、お前が犯人なのか!?
ふっなしー:こいつさあー、俺の3DSのセーブデーターを勝手に消しやがったんだぜぇー半年かけてコツコツやってたロープレのデーターだぞ!
探偵:それが殺人の動機か?
ふっなしー:人として許せない悪行じゃんか!
探偵:しかし、そんなことで人の命を奪っていけない。
ふっなしー:そうそう、それとチョコ貰えないからひがんで……。
探偵:殺害方法は?
ふっなしー:アーモンドチョコを3~4粒口に放り込んだ頃合いを見計らって、
おもっきり背中にパンチを喰らわしてやった。
女生徒たち:Oh no!!
ふっなしー:アーモンドチョコを喉に詰まらせて死にました。アーメン!
探偵:ぎゃはははっ!
 探偵が腹を抱えて笑った。

「いい加減にしろ!!」

いきなり死んでいたはずの男がスクッと立ち上がった。
「こんな脚本はダメだ! ダメだ!」
「ええっー? ここまで書いたのに俺の脚本は没ですか?」
「そのふっなしーの格好はなんだ? それじゃあ、シリアスな内容じゃなくてお笑いだろう?」
「あたしたちもふっなしーの着ぐるみで舞台に出てきたときはマジ? って思ったわ。あははっ」
 女生徒たちも爆笑している。
「せっかく体育館借りて練習してるのに、こんなおふざけた内容じゃあ、顧問に見つかったら怒られるぞぉー」
 演劇部のメンバーは、秋の文化祭に向けて出し物の練習をしていた。
「あぁーあ、僕の芸術的センスは理解されないのか」
「バーカ! お笑いセンスなら十分だよ」

「今日はバレンタインデーだし、女子3人から男子にチョコのプレゼントだよ」

 そういうと、それぞれ手に持ったチョコを部長、探偵、ふっなしーに渡した。
「ありがとう!」
「義理でもやっぱりチョコは嬉しいなあー」
「あれれ? 俺のだけ手作りチョコだ!」
 ふっなしーがいうと、女生徒Bが顔を真っ赤にして、
「だって、それ本命チョコだもん……」
「ええー!?」
 その言葉に部員たちは口々に、
「なんだよ、お前ら付き合っていたのかよ」
「ふっなしー君、良かったね!」
「大胆な愛の告白! 俺は義理チョコでも有難く頂きまーす」
「羨ましいなあ、あたしも来年は本命チョコ渡したーい」
 ふっなしーと女生徒Bのカップル誕生である。
「さぁ、片付けが済んだら、みんなでマックにいこう! 女子はチョコのお礼に俺が奢るから」
「わーい。さすが部長、太っ腹だね!」
「えっ? 俺らは?」
「男子は自腹に決まってんだろう」
「部長のドケチ!!」 

 わいわい騒ぎながら、舞台の袖に消えていく演劇部員たち。

 Happy valentain to you♪


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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-02-13 23:06 | 夢想家のショートストーリー集