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幻日 (げんじつ)って、見たことありますか?

昨日、うちの娘がLINE からこんな写真を送ってくれました。


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印をつけた部分に、もうひとつ太陽が映っています。

幻日 (げんじつ) とは、太陽と同じ高度の太陽から離れた位置に光が見える大気光学現象のことである。
なお、月に対して同じような光が見える場合もあり、この場合は幻月 (げんげつ) と呼ばれる。

私はこの年で初めて幻日 (げんじつ)を見ました∑d(*゚∀゚*)チゴィネ!!




   ブログ
by utakatarennka | 2016-10-31 12:05 | ブログ
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   第59話 マリッジリング

 港の埠頭で夜釣りをしていたら、いきなり近くで大きな水音がした。
 何だろうと懐中電灯で照らしてみたら、女が海に飛び込んで溺れていた。もがきながら段々と女は海中へ沈んでいく、これはヤバイと思った瞬間、飛び込んで女を助けようとしていた。
 千葉の南房総生れ漁師の子の俺は泳ぎには自信がある、だが海中で必死にもがく女を助けるのはまさに命懸けだった。何とか岸まで引き上げことができたが、かなり海水を飲んだらしく女はぐったりして、顔を横向けて水を吐かせて人工呼吸をしていたら、しばらくして女の意識が戻った。
「大丈夫ですか?」
「……どうして死なせてくれなかったの」
「目の前で人が溺れているのを放って置けるわけない」
「そうね……」
 見たところ、女は三十歳くらい薬指に指輪をしているので人妻らしい。身なりは紺色のスーツでブランド物のようだ。化粧は水に濡れてとれかけているが濃い目。岸に抱き上げる時に香水に匂いがした。
 どういう素性の人か知らないが水商売か、セレブの奥さんのように見える。埠頭には女の荷物らしいブランドのボストンバッグが置いてあった。
 この近くで祖母が民宿をやっているので、びしょ濡れの女をそこへ連れて行くことにする。寝ていた祖母を叩き起こして「この人、海に落ちたんだ」と説明したら、風呂を沸かして簡単な食事を用意してくれた。

 風呂に入って、着替えた女は意外と楚々とした人妻風だった。あんなことがあった後だけに、少し箸を付けただけでほとんど食事は残していた。
 部屋に布団を敷いて貰い、「今夜はここで休んでください。遅いので僕はもう帰ります」と告げて立ち去ろうとしたら、布団の上に茫然と座っていた女がいきなり「待ってください。話を聞いて貰えませんか?」と縋るような目で俺に頼んだ。
 入水自殺をしようとしたくらいだから、相当深い悩みを抱えているのだろうと思うと邪険にもできない。人助けのついでだから、女の話を聞いてやることにした。

 ――ここからは彼女の話を掻い摘んで説明していく。
 女の名前は宮田茉里絵(みやた まりえ)、東京からきた主婦で子どもはいない。仕事は外資系の化粧品メーカーの美容部員で新宿のデパートで働いている。
 半年ほど前から夫が失踪していて、私立探偵などを雇って調査していたら、この近くのアパートに夫らしき人物が居るということが分かったので捜しにきた。
 だが、会いにいった彼女が見たものは他の女性と暮らす夫の姿だった。
 しかも相手は妊婦で臨月の大きなお腹を抱えていた。夫に説明を求めたら、自分の子どもを宿している彼女と一緒に暮らしていくつもりだという。黙って家を出たのは出産するまで騒動にならないように秘密にしたかったから、赤ん坊が無事に生まれたら妻とは離婚するつもりだったという。
 女が東京に帰ってもう一度やり直そうと懇願しても、夫は「彼女を愛してる。君とは別れる」と頑として受け入れなかったそうである。
 妊婦から夫を奪い返すこともできず、女は泣きながら帰っていったという。
 
 夫が妻以外の女性との間に子どもを作って家を出る。
 世間では、よくある話だが当事者にとっては納得できない理不尽な出来事だろう。たしかにショックで妻は海に飛び込みたくもなる。
「夫は……指輪をしてなかったんです。私たち夫婦の誓いマリッジリングを外していました。ひどい……」
 か細い声で女は嘆く。
「結婚指輪なんて、外してしまえば既婚者かどうか分からなくなる」
 と俺が答えると、女は薬指の指輪を外した。
「生涯の伴侶を誓った筈のマリッジリングなのに……付ければ既婚者、外せば独身、まるでスイッチみたいに切り替えが利くなんて、オカシイですよね」
「便宜上のものでしかない」
「ええ、結婚の証なのにとても曖昧なものです」
「たしかに曖昧だ」
 曖昧という言葉を俺は鸚鵡返しする。
「夫が薬指に結婚指輪をしてなかったので、既婚者だと知らなかったと相手の女性が私にそう言いました。夫は指輪を外して独身者の振りをしていたの」
「それは確信犯だね」
「夫婦の愛の証マリッジリングは夫の心には嵌められなかった。それが悔しい……悔しい……」
 女の目から関を切ったように涙が溢れて、ぽたぽたと布団の上に零れた。両手をついて、まるで土下座するような格好で泣いている女が憐れに思えて、俺は無意識に肩を抱いていた。女は幼児のようにしゃくりを上げて、いつまでも泣き止まない。
 すべてを吐きだして心が軽くなったのだろうか。やがて、疲れたように俺の胸の中で眠ってしまった。そーっと、身体を離して布団に女を寝かしつけてから、静かに部屋を出ていった。

 翌朝、早くに女は民宿を出て東京へ帰っていったという。
 布団を上げてみたら指輪が落ちていたけど、どうしようかと祖母が困っていた。これは指輪を届けて欲しいという女からメッセージかも知れないと、俺は直感でそう思った。
 東京のデパートに勤める女を見つけることは、きっと容易いだろう。この指輪は女が振った運命のダイスなのかもしれない。




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-30 22:06 | 夢想家のショートストーリー集
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   第58話 闇に光る三白眼

まだ、夜が明けきれない真っ暗な街の中。
自転車のペダルを漕いで、自分は朝刊を配るアルバイトをしていた。
――きっと後、三十分もすれば朝日が昇るだろうか? 

なんだか小雨も降ってきて、早く朝刊を配り終えて家へ帰りたい。
真っ暗な街はいいようもなく不気味で、仄暗い路街灯だけが頼りなのだ。

前方から、透明のビニール傘を差した若い男が歩いてくる。

こんな時間に……朝帰りか? 
電車は終電も始発もない筈なのに……。
どうでもいいことなのに自分はやけに気になった。
たぶん、こんな真夜中に遭遇した人間だからだろう――。

よく見ると、男の後ろから女がひとり、二、三歩離れて付いてきているではないか。
小雨が降っているのに、何故、男は女を自分の傘に入れてやらないのだろう。
全く素知らぬ風で歩いている――。
ははん、さては喧嘩でもしているのだろうか。
そんなことを考えている内に、このカップルとすれ違った。

その時、後ろの女が、ギロリと三白眼で自分を睨んだ。

白目が暗闇に光った! 
一瞬、背筋に寒いものが走った。

なにか……途轍もなく嫌なものを見てしまったような気がした。
言いようのない不気味な恐怖が、五感を駆け廻り震えが止まらなくなった。

――自分は急に暗闇が怖くなってきて、早く夜が明けて欲しいと願った。


それでも朝刊を配っていると、路地の奥、道の真ん中に黒猫が座りこんでいた。
自転車が近づいて行っても、いっこうに逃げようとする気配がない。
暗闇の中で、自転車のライトが黒猫を照らしたら、

ピカッと猫の眼が赤く光った!

ミャアーとひと鳴きして、

「おまえ、あの女を見たんだね」

と、黒猫が話かけてきた。

「……あ、あ、あ、」

恐怖ですくんで、自分は声が出ない。

「あの女は三日前に、十一階建てのマンションの屋上から飛び降りて死んだのさ。
まるで腐ったトマトみたいに、真っ赤な血肉を地面にぶちまけて死んだ女なんだ」

「……ひ、ひぇー」

三日ほど前に、
この近くのマンションで飛び降り自殺があったことは自分も知っていた。

「――そりゃあ、もう、辺り一面血の海でさ。
男に捨てられて自棄になって自殺したんだけど、
成仏できなくて……ああして暗闇を彷徨っているんだよ」

突然、ひらりと黒猫は塀に登った。

「おまえ、気をつけな、あの女に憑かれそうさ――」

そう言うと、暗闇に中に消え去った。


まさか猫がしゃべるなんて……。
今の猫の話を聞いて余計に怖くなった。

真夜中に魔物に遭遇したら、神社などのお守りに効果があると聞いたことがある。
日頃から、信仰心のない自分はそういう物を持ち歩いていない……。
気味が悪い、リアルに恐怖が差し迫って来る。
アルバイトだからって、もう新聞なんか配っていられない。

早く帰りたい! 明るい所へ逃げたい!

闇雲に自分は自転車を走らせる――。
とにかく、この夜の闇から逃げ出したい。

不意に自転車の前を誰かが横切った。

あっ、あの女だ! また三白眼で睨んだ。
駐車している車の中にも、あの女が居る。
人家の生垣の暗がりからも、あの女が見ている。
いたる所に、あの女が潜んでいるのだ!

――闇に光る三白眼。

ああ、もう嫌だ! 
頭の中が恐怖でパニックになった。
心臓もドックンドックン脈打つ。

電信柱の街路灯が急に点いたり消えたりと……、
チカチカ点滅し始めて、自分の恐怖は頂点に達した。

いきなり後ろから、誰かに腕をギュッと掴まれた。
振り向いて見たら――恨めしそうに、三白眼の女が睨んでいた。

ギャアァァァ―――!!!

――絶叫が暗闇に吸い込まれていく。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2016-10-29 22:02 | 夢想家のショートストーリー集
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   第57話 浅草の寅

 てやんでぃ! おいらは三代続いた浅草生まれの野良猫だぜぃ!
『浅草の寅』と言えば、この辺りでは知らない者はいねぇー。爺さんの代から、浅草寺から花やしきにかけてはおいらの縄張りだ。
 今日も子分をひき連れて、シマの見回りに出掛けるぜぃ!
 おや? 雷門の下に見慣れない猫がいるぞ。

「やいやい! てめぇ、どこのシマのもんだぁ~?」
 子分A、クロがいきなり脅しをかけた。
「あっ! ゴメンなさい。私、迷子なの」
 見れば、真っ白なロン毛で青い目のきれいな女の子だった。
「よぉ! ねぇーちゃん、どこから来たんだ?」
 子分B、マダラがにゃん相の悪い顔で訊いた。
「わ、わたし……カルフォルニアから来ました」
『かるふぉるにあ~?』
 おいらたちは聞き慣れない言葉に素っ頓狂な声を上げた。
「なんでまた、そんな異国の猫が浅草をウロウロしてるんだぁ?」
「私、キャロルって言います。飼い主と一緒に日本に来たの。東京のブリーダーの家にホームスティするために……」
「イヤで逃げてきたのか?」
「違います。車の中で飼い主の膝の上にいたけど……退屈して、ドアが開いた時に飛び出しちゃったんです。すぐ戻るつもりだったのに、犬に吠えられてビックリして駆けだしたら、帰る場所が分からなくなってしまったの」
 そう言って女の子はシクシク泣きだした。
 おいらは江戸っ子でぃ! 困ってる子を見たら放っては置けない性分だ。
「泣くなっ! おいらたちがお前の飼い主探してやるさ」
「ありがとう!」

「まずは目撃情報ってもんが大事なんだ!」
 子分C三毛猫の三太が言う。
 こいつは学習塾に飼われている半野良で『浅草の寅』一家では一番頭がイイのだ。
「どうすればいいんだ」
「彼女は真っ白できれいだから、浅草界隈を歩くと当前目立つ。それで探してる飼い主にキャロルを見たという情報が届きやすい」
「じゃあ、キャロルを連れて歩き回ればいいんだな?」
「そう、キャロルと一緒に浅草を一周してくればいいよ」
 そして『浅草の寅』一家の猫たちは、わざと目立つように浅草寺の境内や花やしきを練り歩く、キャロルも初めて見る浅草の風景に興奮気味だった。
「腹、空いてないか?」
「ええ……空いてる」
 恥かしそうにキャロルが答える。
「よっしゃ! おいらが取って置きの穴場に連れて行ってやるぜぃ」

 キャロルを連れて、商店街の外れにある「もんじゃ焼き」の店に行った。
 入口の前でニャーニャー鳴いていると、おばあさんが出てきて削り節のかかったご飯をくれた。
「おやまあ、寅ちゃん。ずいぶんとシャンな子を連れてるじゃないか」
 おばあさんはキャロルのご飯も用意してくれた。――なのにキャロルは嗅ぐだけで食べようとしない。
「どした?」
「これなぁに?」
「猫まんまといって日本古来の猫のご飯だぜぃ」
「この白い粒はなぁに?」
「米といって日本人の主食だ」
 おそるおそる……キャロルは猫まんまを食べた。
「Oh! Delicious」
 ひと口食べて気に入ったみたいだ。

 歩き疲れて陽が暮れて、夜風が冷たくなってきた。
「ねぐらは空き地に捨ててあるトロ箱の中にするか」
「トロ箱?」
「魚が入ってた箱だけど温かいんだ」
「カルフォルニアは一年中暖かいのよ」
「日本には四季ってもんがあって、冬は冷たい雪が降って野良猫には厳しい季節なんだぜぇ~」
 発泡スチロールの箱に入るとキャロルは眠そうにアクビをした。
「今夜はここで寝るんだ。いいな、じゃあ」
 おいらが行こうとすると……。
「待って! 独りにしないで。心細いわ」
 潤んだ青い瞳でキャロルが見つめるから、おいらのハートがキュンと鳴った。
「おねがい……」
 飼い猫のキャロルと野良猫のおいらとでは住む世界が違う。
「仕方ないなぁ、蚤が移っても知らないぜぇー」
 
 ――そして朝になった。おいらはキャロルのふさふさの毛に包まれて眠った。
「リッチなモーニングを食べに行こう」
 隅田川沿いにある寿司屋へ直行。ゴミ箱の中には魚のアラや握り鮨も混じっている。
「ここはネタは新鮮で旨いぜぇ!」
「キャッ! 辛い」
「猫にわさびは無理! あはは」
 仲よくゴミ箱をあさっていると、
『やい、寅! この餌場はうちのシマだぜぇー』
 隣のシマの親分『両国の玉』が子分を引き連れてやってきた。
「てやんでぃ! ここは三代前から『浅草の寅』一家のものだ!」
「ガタガタぬかすんじゃねぇ!」
 猫の縄張り争いは熾烈なのだ。
「おいらのシマから出て行け!」
 玉に強烈な猫パンチをお見舞いした。
 おいらの鳴き声を聴きつけて子分たちが集まってくる。ついに『浅草の寅』一家 vs 『両国の玉』一家の大乱闘になった。
 騒がしい猫の喧嘩に近所の住民たちが出てきた。寿司屋のオヤジがホースで水をかけやがった! 水が苦手な猫は戦意喪失しちまった。
 たくさんの野次馬が集まっていたが、その中にキャロルと同じ青い目の女の子がいた。
「Carol!」
 その声に、一目散に飛んでいった。
 女の子に腕に抱かれてキャロルは嬉しそうだった。そのまま車に乗せられて、発車の間際、おいらに向かってキャロルが何か叫んでいた。が……、その声は聴こえなかった――あっけない別れだった。
 遠ざかる車をいつまでも見送っていた――。

 てやんでぃ! おいらは『浅草の寅』だぜぃ。泣いてなんかいねぇーぞ!




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-28 15:01 | 夢想家のショートストーリー集
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   第56話 双子座

 早朝に玄関のチャイムが鳴った。眠い目を擦りながら、インターフォンのカメラを覗くと、まるで鏡に映った自分が立っているようだった。
「……どなたですか?」
「すっとぼけてないで! あたし那美よ」
「どうして、ここが分かったの?」
「あたしたち双子だもん。離れていてもテレパシーで分かるって」
「突然どうしたの?」
「亜美、早くドア開けてよ!」
「ちょっと待ってて……」
「もうぉー、さっさと開けろ!」
 苛立って靴でドアを蹴ってきた。
 
 私と那美は一卵性双生児である。十歳の時に両親が離婚したため、姉の那美は母の元へ、妹の亜美は父が引き取り、双子は別々の場所で成長した。
 そもそも母の浪費癖と浮気が原因での家庭崩壊だった。
 母の作った借金を肩代わりして、父は私を連れて海外転勤することになった。十五歳の時に高校受験するため日本に帰国した。ずっと音信不通だった母と那美を捜して訪ねると、二人は古い安アパートに住んでいた。離婚してから母は浮気相手と再婚したようだが、すぐに別れたらしい。その後、いろんな男性と付き合い、仕事は水商売風だった。
 そして双子姉妹の那美はド派手な化粧の不良少女だった。
 その場でカツアゲされ財布を奪われた。母にはしつこく父の居場所を訊かれた。こんな荒んだ二人の姿を見て、私は悲しくて泣きながら帰った。
 ――それが八年前のことだった。

「へぇ~、一人暮らしなん?」
 2LDの部屋の中をぐるぐる見回してから那美がいう。
「お父さんが亡くなったし、マンションの方が安全だと思うから」
「自宅の方は売ったの」
「ええ、買いたいって人がいたから……」
「ふぅ~ん。生命保険も貰ったんでしょ? 亜美は金回りがいいのね」
 私の財産を値踏みするように探りを入れてきた。
「あんなバカなオカンにしないでお父さんを選べば良かった」
 離婚後、どっちの親を選ぶか決める時に「お母さんがいい」と泣いて訴えたくせに身勝手な人、双子だけど私たちの性格は真逆だ。那美は派手好き自己中な母とそっくり、私は生真面目な父の性格を受け継いだ。
「ところで用はなぁに?」
「オカンと喧嘩して家を飛び出したから、しばらくここに置いてくんない?」
「えぇー!?」
「お願い、お願いだってば~」
 両手を合わせ拝む那美に、一週間くらいならと渋々承諾した。

 十三年振りに双子はひとつ屋根の下で暮らすことになった。
 ズボラな那美は一日中ソファーの上でテレビを観てるか携帯をいじっている。私がいない時は出前を注文するので、ソファーの周りにピザの空箱や缶ビールが散乱している。しかも出前のお金は私の財布からくすねているようだった。
 携帯から、じゃんじゃんネットで買い物して代金引換で私に支払いをさせる。注意すると、「亜美には遺産があるからいいじゃん」当然のような顔でいう。
 ――母も那美も本当に酷い母娘だ。
 離婚している父の所に何度もお金の無心に来る。癌で入院中の病室で「私にも遺産を頂戴」と生きている父の前で母はそう言った。この言葉だけは絶対に許せない!
 ――このまま好き放題にはさせない。

 その日、外出から帰るとテーブルの上にピザや出前の中華料理が並んでいた。新しい居場所が見つかり明日出て行くから、パーティをやろうと那美が言った。
 お酒の飲めない私にジュースを注いでくれた、那美は日本酒に氷を入れてロックで飲んでいる。「双子の再会と別れを祝して乾杯!」勢いよくグラスをぶつけたので、私のジュースを零してしまった。
「何やってんの、このドジ!」
 ムッとした顔で那美が怒鳴った。
「ごめん、布巾と氷も取って来るわ」
 冷蔵庫から氷を持ってきて那美のグラスに入れてかき回した。
「……ところでお母さんは元気にしてる?」
 私の質問に那美はお酒を一気に煽り、私のグラスにジュースを注ぐ。
「喧嘩してから会ってない」
 お酒と氷を入れてかき回す。それを飲み干すと那美はあくびをした。
「亜美、ジュース飲まないの?」
「飲まない。だってヤバイ感じがする」
 その言葉に那美がギョッとした。
「睡眠薬で眠らせて私を殺してから、亜美に成り代わろうって魂胆でしょう」
 図星だったみたい、那美は目をシロクロさせて言った。
「だ、だって、オカンが部屋で血塗れで死んでたの。あたしが殺したんじゃない」
「知ってる。殺したのは私だもの」
「えっ……」
 驚いてポカンと口を開けている。
「父の遺産を寄こせと煩く言ってくるので、那美に変装して母をナイフで刺した。血痕の付いた服を着て走り去るのを近所の住人に見られてる。母の財布にここの住所メモを入れたのは、この私よ」
「……あたしが嵌められた?」
「そうよ。那美には母親殺しの犯人になって貰うわ」
「頭がくらくらする……眠い……」
「やっと効いてきた」
 睡眠薬を溶かして氷を作って置いて、それをお酒のグラスに入れた。氷はグラスの中で序々に溶けて、とうとう那美はテーブルにうっぷし眠ってしまった。
「私たち双子だから行動パターンが分かるのよ」
 変装した私は那美の免許証を使ってレンタカーを借り、岸壁から車をダイブさせようと次の行動へ移った。

『オカンごめんな』

 と書いた、那美の遺書も添えて置こう。


 双子座の姉妹。
 さよなら那美、永遠におやすみ――。




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-27 14:51 | 夢想家のショートストーリー集
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   第55話 夢幻回廊

 ――夢の世界へ迷い込んだ。
 気がつくと、そこは見渡す限り砂の海であった。
 地平線の向こう、遥か彼方まで砂に覆い尽くされた世界。天上にはナイフのような新月とスワロフスキーの星々が煌めいている。
 自分は駱駝の背に揺られていた。アラビンナイトの踊り子の衣装で、東郷青児の描く女のように深い憂いの睫毛を瞬かせて……。ここは砂漠なのかしら?
 駱駝の手綱を見知らぬ男を引いている。白いターバンを巻いた異国の若い男だ。
「眼を覚ましたのか」気配に気づいて声を掛けてきた。
 異国の言葉だが、何故か意味は理解できた。ここは何処ですかと訊ねようとしたら、男がくぐもった声で、
「おまえと今日で百日、砂漠を旅している」と云った。
 こんな灼熱の砂漠を百日も旅ができる筈がない。
「昼間のおまえは小さな木彫りの人形で、日が暮れて月が昇ると人の姿に変わる。きっと、これはシバ神の呪いなのだ」男は哀しげに溜息をついた。
 自分は悪夢をみているのだろうか?
「シバ神の踊り子に恋をして、おまえを神殿から連れ去った。だが、昼間のおまえは人形で、月が昇って人の姿に戻っても、俺が触れようとすれば、忽ち人形の姿に変る。どんなに愛していても契ることもできない」
 異国の男は肩を震わせ泣いていた。
 ああ、なんて酷い呪いなの……。
「蜃気楼のオアシスに、呪いを解く泉があると訊いた。そこで沐浴すれば人の姿のままでいられる。今日で百日探しているが何処にも見つからない」
 疲れ果てた男は駱駝の手綱を放しガクリと膝を折って、そのまま砂にうつ伏して砂を掴んで地面に叩きつけている。
 男の絶望感がひしひしと伝わって、自分も胸が切なくなってきた――。
   
 やがて東の空が白んで、ああ、もう夜が明けてしまう。
 木彫りの人形に変る前に男に何か云って置かなければ……だけど、いったい何を云えばいい?
 焦れるばかりで言葉が出てこない。男は砂漠の砂にうつ伏したままで微動だにしない。自分は駱駝の背から降りると男の肩に手を掛けた。瞬間、男の姿はスッと消えて、砂の上に木彫りの人形がコトリと落ちた。
 人形に変ったのは自分ではなく男の方だった。
 砂に落ちていた人形の男を拾って、そっと胸に抱く、駱駝の手綱を引いて歩き始める。永遠に見つかりそうもない泉を探して――。
 東の空には真っ赤な太陽が昇って、今日で百と一日、自分は人形の男と砂漠を旅していた。

 ――夢幻回廊は続く。
 夢だと知りながら、そこから逃れられない。夢が現実を侵蝕していく――。
 果てしない砂の海を漂っていた。白い砂の波がずぼずぼと足を引きずり込むから、遅々として進まず、方角すら判らない。
 今宵も月が昇ると、木彫りの人形は人の姿に変る。
 白いターバンの男は恋人だと云った。触れられないが、傍でいろんな話を聴かせてくれた。自分は呪いをかけられる前の記憶がない――だから、男の話すことを黙って聴いているしかない。
「おまえは俺と旅をしていて哀しくないのか?」ふいに、そんなことを云う。
 哀しいと思っても……これは夢なのだから、心の中で思ったが何も云わず黙っていると、
「おまえに触れることもできず、ただ砂漠を彷徨っているのが苦しいのだ」
 男は顔を歪めて吐き出すようにそう云う。
「いっそ人形のおまえを壊して、俺も砂漠で朽ち果てる。こんな旅は終わりにしたい」
 この堂々巡りの夢を終わらせるには、人形を壊すより他に方法がないのだろう……か。自分には他に術もなく、男の意見に従うしかないと思い、こっくりと頷いた。
陽が沈む前にお互いの人形を壊そうと誓い合って、二人は最後の時を過ごした。
 やがて朝日が昇り、砂の上にコトリと人形が落ちた。自分は人形の男を拾い上げ胸に抱くと、駱駝の手綱を取って再び歩き始める。

 狂気のような熱風がこの身を焼く、生きながらにして自分は焼かれていく。陽が昇った瞬間、ひたすら陽が沈むことだけをただ願う――そんな苦しい夢についに終わりがくる。
 自分は木彫りの人形の男を壊す覚悟なのだ。
 もうすぐ、砂の地平線に陽が沈む。揺らぎながら陽炎のように、ゆらゆらと……。太陽が隠れかけた時、石の礫で人形を叩き壊そうと腕を振り上げた。
 その瞬間、太陽の色が緑に変った。
「みどりの太陽だ!」
 緑の閃光、太陽が緑色に変る現象を『グリーンフラッシュ』という。緑色の太陽を見た者は幸せに成れるという幸運のいい伝えがある。
 これに願いをかけたら叶うのかしら? どうか、私たちを人の姿のままでいさせてくださいと、自分は何度々も強く願っていたら……男の人形は、いつしか人の姿に変り自分を抱きしめていた。
 やっと呪いが解けた! 
 二人は抱き合ったまま砂漠の砂の上を転がっていた。異国の言葉で「愛している」と男が何度々も云うから、自分は嬉しくて男の身体をなおも強く抱いた。





 気がつくと、そこは見渡す限り砂の海であった――。




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-26 20:33 | 夢想家のショートストーリー集
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   第54話 初雪

 家業の新聞販売店を継ぎたくないと思っていた。
 冬は寒いし、夏は暑いし、朝夕刊あるからまとめて寝られない。休みが極端に少ない上、チラシや集金、新聞の拡張とか雑用もいっぱいあって忙しい。おまけに職場はおじさんやおばさんばかりで冴えない。
 それなのに……今は実家である新聞販売店を手伝っている。

 大学卒業後、会社員として他府県で働いていた。
 自営業と違って安定した生活だった。俺にも恋人ができて結婚を前提に同棲していた。それが突然、結婚式の一ヶ月前に破談にしてくれといわれた。理由を訊ねたら、結婚して、上手くやっていける自信がないというのだ。
 翌日、会社から帰ったら婚約者も荷物も部屋からなくなっていた。婚約者の実家に行ったら、「うちの娘はお宅の家風に合わないのでお断りします」と門前払いされた。
 そう言えば、結婚の挨拶に行った時、実家の職業を訊かれて「新聞販売店です」と答えたら「新聞やぁ?」と語尾が上がって、軽蔑したような響きに聴こえたが、それも破談の一つの原因だったのかなあ? 
 俺の実家の雰囲気にも馴染めない様子だったし……それなら、もっと早く言って欲しかった。結婚が破談になり面子を潰された俺は会社に行くのも惨めな気分だ。婚約者と暮らした部屋に独りで居ても酒の量が増えるばかりなので、退職して実家に帰ってきてしまった。
 だが、両親は内心喜んでいる様子で、同業者の集まりに俺を連れてゆき、「後継ぎの息子です」と紹介して回るのは止めてくれよ。いずれ、心の傷が癒えたら実家を出ていくつもりなんだから……。

 珍しく若い女の子が新聞配達をしたいと面接にやってきた。
 まだ十九歳で化粧っ気もなく内気そうな子だった。父に配達ルートを教えてやってくれと頼まれて、翌朝から一緒に区域を回ることになった。俺はバイク、君は自転車で、一週間で百五十軒の配達先を覚えないといけない。
 無口な子だが仕事振りは丁寧だった。一度だけ「どうして新聞の仕事を選んだの?」と訊いたことがある。すると、しばらく考えて「夜明け前の空気が好きだから……」と答えた。
 あくまで俺の勘だが、君は心の中に悲しみを隠しているようで、そんな様子が気になった。
 いつも配達が終わると自販機の温かい缶コーヒーを手渡す。「ありがとう」といって君は美味しそうに飲む、その素直な横顔に好感を持った。

 今年、初めて雪が降った日――。
「雪道は滑るから気を付けろよ」
 重い新聞を乗せて自転車で走るのは、バランスを取るのが難しい。
 遅くなっても配達から戻らない君を心配してバイクで探しに行った。猛威を奮った初雪は道端に雪溜まりを作り、まだ配達に慣れていないあの子は難儀していることだろう。
 見つからなくて……もう諦めて引き返そうとした矢先、引っくり返った自転車の横で倒れている君の姿が見えた。驚いて、駆け寄ったら意識はあるが痛くて動けなかったようだ。膝小僧と肘を擦りむいて血を流していた。
 バイクの後ろに乗せて病院に連れて行き、配達の続きを終わらせてから再び病院に戻ったら、治療を終えて君は帰ろうとしていた。家族を呼ぼうかと言ったら、お父さんに叱られるからと泣きそうな顔になった。
 そして急に……、
「あのう、私、今週で辞めます」
「どうして、早朝の仕事は辛いから?」
「違います。お父さんにお金になる仕事をしろと言われて……」
「そうか、いい仕事が見つかった?」
「……親の借金のために風俗店で働くことになったんです」
 消え入りそうな声でそう答えた。その返答に俺は驚いた。
「風俗店って……? 君はそれでいいの? 親の借金だろう?」
「お母さんが家出しました。それ以来、お父さんは仕事しないでお酒ばっかり飲んで、そのせいで借金が増えて……。私が風俗で稼いて返済しないといけないんです。逆らったら、お父さんに殴られるから……」
 君は泣きながら話した。聴くと、日常的に父親に暴力を受けているらしい。なんて父親だ! 俺は心底腹が立った。
「風俗なんかで働きたくないだろう?」
 君は深く頷いた。
「――で、借金は幾ら?」
「二百万くらい……」
「よし! 分かった」

 俺は銀行があくのを待って預金を下ろし、その足で君の家に行き父親と会った。二百万円の現金を見せて、これで借金の肩代わりをする。
 その代わり、娘さんのことは、うちのお店で世話をみるから今後一切関わらないでくれと宣言した。
 金に困っていた父親はその条件に飛びついた。一応念書も取っておく。
 その後、お店の近くにアパートを借りて君を住まわせた。母親も見つかり今は二人で暮らしている。

 金で君を買ったなんて思わないでくれ!
 この金はどうせ使い道のなくなった俺の結婚資金だったんだから……これで君を助けられるのなら惜しくないさ。
 家業を継ぐなんて最悪だと思っていたけど、生涯をかけて守りたい君を見つけたから、この仕事も悪くないと俺は思い始めた――。




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-25 20:28 | 夢想家のショートストーリー集
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   第53話 R-12 三匹の子豚 (保護者同伴で読みましょう)

 三匹の子豚の作った家で、頑丈な煉瓦の家は狼の襲撃にもビクともしませんでした。
 そのことで自信をつけた末っ子の子豚は、『子豚ハウス』という建設会社を立ち上げました。注文住宅専門で設計から施工まで引受けるのです。
 人手(豚足?)が必要なので、ダメな兄二匹を雇うことにしました。
 一番上の兄には営業に回って貰うことにしました。「よし! 俺が注文を取ってくるぞ」と勇ましく飛び出した兄は、森へ行ったきり帰ってきません。
 数日後、森の中で血の付いた営業鞄が発見されたのです。どうやら、狼に喰われてしまったようです。
 二番目の兄には、資材担当をやって貰うことに「煉瓦を作る粘土をとりに行ってくる」と山へ入ったきり、待てど暮らせど兄は粘土を持って帰ってこない。
 山へ捜しにいった末っ子豚が見たものは……もはや、原型をとどめていない二番目の兄の惨殺死体だった。殺害現場には狼の足跡が残されていた。
 どうやら、二匹の兄豚たちは狼に喰い殺されたようだ。
 憎っくき狼め! 煙突で大やけどさせられたことを根にもって、三匹の子豚たちをストーカーしていたのか?
 生き残った末っ子の子豚は、兄弟の墓標に仇打ちを誓ったのです。

 利口な末っ子は考えた。
 どうすれば、あの狼に復讐ができるかと……そこで、ここに至るまでの経緯について考え始めた。
 なぜお母さんは、僕らに家を出て自分の家を建てろと言ったんだろう? 狼はお母さんの声色を使って僕らを騙し、家の中に入れて貰おうとしたが……オカシイなあ、お母さんの声色を使ったのは、お母さんを知っているから? ストーリー展開の鍵を握っているくせに、一度もお母さんが場面に登場していないのが不自然過ぎる!
 数々の疑問が大きな渦となって、末っ子豚の頭の中でぐるぐる回っている。気になる、気になる、今すぐ、お母さんに会いに行こう。

 三匹の子豚のお母さんの家は森の中にあります。
 留守なのか家の中は静まりかえっていました。まさか狼に襲われたのではと心配になって、
「お母さーん! お母さーん!」
 何度も大声で叫びました。
「誰だい? うるさいよ!」
 裏にある納屋からお母さんが現れました。手には血の付いた大きな包丁が握られて、どうやら料理の最中だったようだ。
「お母さん、大変だ! 兄さんたちが狼に食べられちゃった」
 末っ子豚は泣きながら話した。
「おやまあ、バカな兄さんたちだね」
 あまりに冷淡なお母さんの反応に、子豚は言葉を失った。
「……自分の子供が死んだのに悲しくないの?」
「別に。いずれハムになる運命のおまえたちじゃないか」
 そういって薄ら笑いを浮かべたのです。
 こんな酷いことを言うなんて……本当の母親だとは思えない。
「おまえは誰だ? 僕らのお母さんはそんな薄情じゃない!」
「子豚たちに家から出て行けって言った時点で、あたしゃ薄情な母親なんだよ」
 なんかオカシイぞ。
 三匹の子豚の作者は、母親の性格について何も書き記していない。――この話には裏が有りそうだと直感した。

「正体を現わせ!」
 にんにくの首飾りをした末っ子豚は「アーメン」と十字を切って十字架を掲げた。
「なんだい?」
「十字架が怖いだろう」
「あたしゃ吸血鬼じゃない」
「えっ?」
「バーカ! そんなに正体が見たいなら見せてやるよ」
 お母さん豚の姿が、醜い魔女に変わった。
「もう一つの顔がこれさ」
 凶悪な牙を剥く狼に変身した。
「お母さんも狼も……みんな魔女の仕業だったのか!」
「おまえたち子豚は、ハムを作るために農場からさらってきたんだ」
「大きくなったから家から放り出して、狼に襲わせて、その肉でハムを作っていたのか」
「あたしゃ『ルチアおばさんの森のハム屋さん』というお店でハムを売ってるのさ。このロースハムは一番目のお兄さん。ボンレスハムは二番目の兄さんだよ。おまえは何がいい? 焼豚かい、豚の角煮も堪らん旨さだよ」
 魔女は口からよだれを垂らしながら、包丁を持ってにじり寄ってきます。
 そして子豚に切りつけた瞬間、ピカッと稲光が走り落雷が家に落ちた。黒い煙が立ち込めて中は暗闇になった。
「子豚め! どこへ逃げた?」
 辺りを見回しても何も見えない。その時、魔女の首根っこを何者かが掴んで持ち上げた。
『邪悪な魔女よ! おまえの毒気でわしの封印が解けたぞ!』
「お、おまえは何者じゃ?」
 そこに立っていたのは怖ろしい怪物だった。
『魔王ルシファーだ。聖者によって子豚に変身させられていたが、やっと本来の姿を取り戻すことができた!』
「ま、まさか末っ子豚が魔王さまだったとは……」
『わしは腹が減っているのだ。おまえを喰ってやる!』
 魔女を摘まんで大きな口で一飲みすると、復活した魔王は地獄へと帰還していった。

 三匹の子豚の登場者たち全員が消えたところで、この物語は目出度く罰(バツ)ENDとなりました――。




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-24 20:22 | 夢想家のショートストーリー集
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   第52話 切手の貼っていない手紙

 前島優也は今売り出し中の声優である。
 知的で甘い彼のボイスに熱狂するファンも多く、アニメやゲームの吹き替えを中心にキャラソンを歌ったり、イベントで踊ったり、今どきの声優はマルチでないと務まらない。
 ある日、優也の住むマンションのメールボックスに、切手の貼っていない手紙が入っていた。
 宛名は怜斗(れいと)という自分が吹き替えをしているゲームキャラの名前だった。差し出し人は同じく、十夢(とむ)というゲームキャラの名前だった。
 ファンのイタズラだろうかと思い、封筒を開けてみると便箋が一枚入っていた。そこには……、


   怜斗へ

 もう許さないぞ。
 ストーカーみたいに麻里香につきまとうのは止めろ!
 彼女はお前を嫌っているんだ。
 麻里香から手を引かないなら、俺にも覚悟があるぞ。

               十夢


 なんだよ、これは? 成りきりファンか。
 女性向け恋愛ゲーム「らぶらぶコレクション」は人気のゲームである。そこで優也が声をあてている怜斗というキャラはスポーツ万能な優等生タイプ、十夢は怜斗のライバル役でやんちゃなツッパリキャラである。麻里香(まりか)というのは「らぶらぶコレクション」の女主人公なのだ。
 ゲームでは、女主人公(麻里香)=プレイヤー自身が演じている。
 ちょっぴりドジな女の子麻里香が怜斗や十夢、他五人のイケメン相手に恋の駆け引きをして、エンディングで「告られる」という設定である。
 これが腐女子向け恋愛シュミレーションゲーム、通称乙女ゲーなのだ。

 優也はフフンと笑い、その手紙を丸めてゴミ箱へ放り投げた。

 三日後、怜斗宛ての手紙がメールボックスにまた入っていた。先日の手紙の奴だと思ったが熱心なファンなので、一応、読んでみることにする。


 怜斗! 
 てめぇーこの野郎!!
 俺の麻里香にちょっかい出すなっ!
 ブン殴られたいか!? 

               十夢


 ずいぶん物騒な手紙だと優也は苦笑した。
 十夢とエンディングを迎えたいと思っているプレーヤーに取って、ライバルの怜斗は邪魔な存在なのである。ライバルの怜斗を潰さないと十夢との恋は叶わない。熱心なファンの妄想には困ったものだ。

 やれやれ……と思い、そのウザイ手紙を破ってゴミ箱に捨てた。

 翌日、手紙がまた入っていた。中を見た瞬間、ギャッと叫んで優也は放り投げた。


 ぶっ殺す


 真っ赤な血文字で書かれていた。
 これはもうシャレにならない。警察に通報しようかと迷ったが、今売り出し中の優也に取ってトラブルは禁物。痛くもない腹を探られてネットで悪い噂でも流されたら堪らない。
 ――気持ち悪いが無視することにした。

 仕事柄、優也の帰宅はいつも深夜が多い。今夜もスタジオでアニメの収録をしてスタッフと飲んでから、真夜中にタクシーで帰ってきた。
 マンションのオートロックを開けると、後ろから誰かが一緒に建物の中に入ってきた。身長は低く若い女性のようだった。エレベーターに乗り込むと自宅のある七階のボタンを押した。ドアが閉まる瞬間に、その女も飛び乗ってきた。フードで顔を隠して気味が悪いと思ったが、背中を向けて優也はスマホをいじっていた。

 らぶらぶ 恋のコレクショ~ン♪
 らぶらぶ 君を愛してるぅ~♪ 

 いきなり「らぶらぶコレクション」のエンディングテーマを歌い出した。
 驚いて優也が振り向くと、女がカッターナイフで襲いかかってきた。狭いエレベーターの中で逃げる場所もない。凶器を避けようとして腕や手を切られた。七階でドアが開いたので優也は飛び出し、大声で助けを求めながら廊下へ走って逃げた。
 女は歌いながらカッタ―を振り回して、優也を追いかけていく……。

 らぶらぶ 恋のコレクショ~ン♪
 らぶらぶ 君を離さなぁ~い……♪

 

 加害者の岡部茜(17歳)は、中学校の頃から不登校、引き籠りになり、精神状態は不安定で自傷行為を繰り返しています。家でゲームばかりしていて、特に好きなのが乙女ゲーといわれる恋愛シュミレーションゲームです。
 警察の取り調べ室で二人の刑事が調書を読んでいる。
「乙女ゲー? なんじゃそりゃあ」
 年配の刑事が訊いた。
「若い女性向きゲームで、好きな男性キャラとカップルになれるゲームです」
 若い刑事が説明する。
「それってゲームの中の話だろう? オヤジ族にはさっぱり分からん」
「加害者は自分をゲームのキャラだと思い込んで、憎いライバルを襲いに来たようです」
「じゃあ、あの声優さんは妄想で襲われたってことか?」
「ええ。腐女子の妄想は怖いですから……」
「ケガだけで済んだから良かったが、ファン心理とは怖ろしいもんだ」
 年配の刑事は煙草に火をつけて一服深く吸い込むと、ゆっくり煙を吐き出し、言い放った。
「精神鑑定。必要有りだな!」

 留置場の壁にもたれて、手首のリスカの痕が痛々しい小女が、

 らぶらぶ 恋のコレクショ~ン♪
 らぶらぶ 君の全ては僕のものさぁ~♪

 嬉しそうに歌っている。――しかし、その眼は現実の世界を見ていない。




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-23 13:33 | 夢想家のショートストーリー集
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   第51話 邂逅記

 まったく先生のていたらくには愛想が尽きる。
 夏木露山(なつき ろざん)は、帝国日本を代表する立派な文学者である。代表作の「猫の始末記」「膝枕」「これから」などは素晴らしい文学で深い感銘を受けた。そんな夏木先生に憧れて書生になったのだが、同じ屋根の下で暮らすようになると先生に対する幻想が壊れてしまった。
 駒込千駄木町に居を構え、先生の奥様とお子さんが五人と女中が住んでいる。先生の収入は主に大学で教鞭をとることである。いつも「文筆活動は金にならぬ」と嘆いておられる。

 僕の実家は飛騨の大地主、三男坊なので東京の大学へ進学して自由気儘な身分だ。
 父に文士になりたい夢を打ち明けたら、「三十までお前の好きにしてもよい。いずれは国元に戻って分家を継げ」と言われた。父は俳句を詠む人なので、僕の気持ちを分かって援助してくれる。
 僕を書生に雇うため、夏木露山に大枚払って頼んだという。盆暮れには、米や味噌醤油、酒など飛騨から馬車で届けてくる。貧しい夏木宅の暮らしを裕福な僕の実家が担っているといっても過言ではない。
先日、先生は奥様と大喧嘩をした。
 その原因は僕の実家から贈ってきた長崎の銘菓カステラを戸棚にしまっていたら誰かに食われた。その犯人が先生だと判って、奥様が憤慨して子供たちと女中を連れて実家へ帰ってしまったのだ。
 奥様が出ていって今日で五日目、先生は大学を休んで文士仲間たちと酒盛りだ。書生の僕に酒の肴を買ってこいというが、もちろん銭は僕の財布から……。しかも「牛鍋が食べたい」とか言い出す始末だ。

 牛肉がどこで売られているのか分からぬ。どうしたものかと途方に暮れて、あてどなく馬車道を歩いていると、突然、男の怒号が聴こえた。
「このアマぁ、なめんじゃねぇー」
 人力車の前で若い娘相手に車夫が息巻いている。義を見て為さざるは、勇無きなり。
「もし、君!」
 二人の間に割り入って、車夫を牽制する。
「なんでぃ? 若造」
「今しがた、サーベルを差した巡査が通りかかったので、車夫が若い娘をかどわかすそうとしていると告げておいた」
「な、なにぃ!」
「今、交番から手勢を連れてくるぞ」
 僕は大声で「巡査さーん、ここです!」通りに向って叫んだ。その声に車夫は慌てて逃げ出した。その背中に向って娘が不意に、
「すっとこどっこい、おとといきやがれ!」と罵声を浴びせた。

 田舎者の僕は威勢のいい江戸っ子の啖呵に度肝を抜かれた。
「あ、あのう。大丈夫ですか?」
「車夫の野郎、釘を踏んだのはお前のせいだから倍払えとぬかしやがった」
 髪は西洋風の束髪、海老茶袴の楚々とした女学生が、乱暴な口を利くのに戸惑った。巡査は嘘だといったら、うふふと愛嬌のある顔になった。
「この近くで、文士の夏木露山のお宅をご存じない?」
「僕は夏木先生宅の書生です」
「まあ、偶然。案内してください」
 娘は江口鶴(えぐち つる)と名乗り、神楽坂から先生の奥様の使いで様子を見にきたという。風変わりな娘だが印象は悪くない。
「先生! お客さんです」
 玄関から声を掛けると、奥から先生が現れた。
「おや、鶴じゃないか」
「お久しぶりです」
「ところで……余の妻子は達者にしておるか?」
「はい。今はお子様を連れて湯河原へ湯治にいっております」
「ふむ、呑気なもんだ」
 そういうと鶴を上がるように促し、僕にお茶を出すように命じる。

 先生から聞いた話によると、鶴は奥様の幼馴染の娘で神楽坂の芸者の娘だ。妾腹だが父親は華族だという。文明開化の流れに女子も学問を身に付けるべく女学校へ通っている。成績は大変優秀らしい。
「先生、文士の皆さんはお帰りになったのですか?」
 酒瓶が転がる客間に鶴は通されていた。
「文学論で口喧嘩になって帰ってしまった」
 文士は熱い人物ばかりである。
「先生、私も文士になりたいの」
「ほお、鶴ちゃんが……」
 風呂敷包みから原稿を出した。さっそく数枚読んだ先生は感嘆の声をあげた。
「なかなか良いじゃないか! 文士仲間に紹介しよう!」
「……先生、女の文士なんて奇妙だ」
「失礼ね! 紫式部も清少納言も女ですわ」
 鶴が口を尖がらせて僕に抗議した、尤もだと自分を恥じる。

 後ほど、鶴の書いた小説を読んだが、女性の感性と表現力、他に類を見ない独創的な作品だった。夏木露山の後ろ楯で文壇に登場した鶴は、忽ち脚光を浴び「たけとんぼ」「墨絵」などの名作を生み出した。
 僕は鶴の才能にすっかり惚れてしまった。千通を超える文通の末、お互いを無二の存在だと知り、勘当覚悟で結婚の許しを乞うた。父は鶴の小説を読み終えて、「一生、この人の傍に居なさい」と理解を示してくれた。晴れて夫婦となり、病弱な鶴を励まし、二人三脚で文学の道を歩むこととなった。 
 あの日、鶴との邂逅が僕の人生を大きく左右する切欠となったのである。




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2016-10-22 13:29 | 夢想家のショートストーリー集