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 癌細胞は毎日増殖する?
実は通常の細胞でない癌細胞の前段階の細胞は毎日、約3000~5000個も作られています。その後、癌細胞が活性されるような癌細胞にとって居心地の良い体内環境でいれば、この細胞はどんどんと活性され、癌細胞が増殖します。


しかし、この細胞を除去してくれるのが、免疫細胞です!!免疫細胞と、癌細胞は簡単に言うと正反対の状況を好みます。


それでは、癌細胞を死滅させるにはどうしたら良いでしょうか?


 癌細胞を死滅させる方法とは?
色々な情報がでていますが、一番簡単に実践できる事は、「身体を温める事」です。体温を1度上げるだけで、免疫力は5~6倍になるという有名な言葉がありますが、癌細胞の敵は、免疫細胞です。


癌細胞を死滅させる温熱実験は沢山行われています。温熱実験によって、何度で死滅するかは、色んな説がでていますが、有効なのは、「39.6度」と「42度」です。つまり、39度で悪性細胞は衰え始め、42度で死滅するという事です。


 日本人のお風呂習慣が癌細胞を殺すヒントとなった?
「身体を温めると癌細胞が死ぬ」という研究で話題になっているのは10年位前からですが、実は、この方法は、第二次世界大戦後すぐに実験されて、明らかになっている事でした。その研究のヒントとなったのは、日本人の熱い風呂に入る習慣からでした。


第二次世界大戦前に、フランスの医師パスツール、ジョリエが実験し、その後、ドイツのアンリ・ランペール教授が2次大戦中に自分の腸チフスや兵士達の腸チフスを熱いお風呂(43度)に入らせる事で治してきました。


彼は、熱いお風呂に入る習慣のある日本人の癌の発症率が他国と比較し20倍も低い事に注目し、研究しました。


その結果、ガン患者を36度のお風呂に入浴させ、徐々に温度を上げ、42度まで上げ、最終的に、体温が39度に上げると悪性細胞は衰えはじめ、42度で死滅する事を発見しました。


 熱いお風呂で、良い細胞に対する影響
癌細胞を死滅させても、良い細胞まで死んでしまっては意味がありません。


正常の細胞は、44度までは体温の上昇に絶える事ができます。正常細胞は温かい温度で活性され、悪性細胞は、温かい温度で死滅してゆきます。


(有名な癌細胞実験)
1978年に国立予防衛生研究所で、人間の子宮がん細胞を、32度~43度の間で温度に変化を与えながら、正常の細胞と比較いました。39.6度以上にした際に、癌細胞は10日間で全滅しました。


逆に、38.5度でマクロファジー(免疫細胞)はどんどんと活性されてゆきます。


 癌細胞が好きな物と嫌いな物
① 癌細胞が好きな物

・低体温:体温が35℃になると、癌細胞は喜んで活性化します。


・酸欠状態:酸素がない状態が癌細胞にとって最高な居心地です。


・ストレス:ストレスが溜まると、敵である免疫細胞が弱まるので、癌細胞は増殖します。


・ミネラル不足:ミネラルは、3大要素であるタンパク質、脂質、糖質と異なり、実は体内に摂取するのが、とても難しい栄養素です。これらが不足すると、体液は酸性に傾き、DNAが異常を起きやすくなります。サプリで摂取しようとしても、中々体内に入らないで、食事で摂取するようにしてください。


・高ブドウ糖:癌細胞は、糖質を使用して、エネルギーを作り増殖します。


② 癌細胞が嫌いな物

・高体温:体内が熱い状態は、癌細胞にとっては敵です。逆に、免疫細胞は体内が熱くなる程、活性します。身体はできるだけ温めて下さい。


・酸素:体内が酸素で溢れていると、癌細胞は増殖するのが難しくなります。酸素は血流を良くするので、呼吸や運動で酸素を多く取り込んで下さい。


・ミトコンドリア:正常細胞は酸素を使用し、ミトコンドリアからエネルギーを得ますが、癌細胞は、酸素を使用せず、グルコース(糖質)からエネルギーを作ります。


 癌細胞を一番簡単に死滅させる裏ワザ
癌細胞と免疫細胞は、基本的に正反対の環境を好みます。


簡単に言うと、癌細胞の活性をさせず、死滅させ、免疫細胞を活性させれば良いのです。癌細胞を死滅させる方法として、糖質を抑えて、ミトコンドリアを増やすなど、沢山の方法がでています。


ただ、一番簡単な方法は、「温熱療法」です。HSP(ヒートショックプロテイン)はタンパク質の一種で、全ての細胞に存在します。このHSPは、免疫力を高めて、細胞を修復し強化してくれます。体温が上昇すると増加する性質を持ちます。一番効率良く増加させるには、お風呂に入る事です。


 癌細胞を死滅させるお風呂の入り方とは?
癌細胞は、、39度で悪性細胞は衰え始め、42度で死滅すると言いました。しかし、お風呂に浸かっても42度まで体温を上昇させていると、身体への負担が大きく逆効果です。免疫細胞が活性する38.5度まで体温を上昇させれば良いのです。これは、意外と簡単にできます。


 癌細胞を死滅させるお風呂の入り方
① 全身浴で入浴する事

首と腋下は、血管が太い為、熱が入りやすい箇所です。血液を全身に運び、深部体温を上昇させてくれます。


② 入浴前に、炭酸水、もしくは、温かい飲み物を飲む

ご参照下さい→食べすぎをなかった事に?「簡単にカロリー消耗させる」裏ワザ!


③ お湯の温度は40度~42,3度にする

この温度で10分間入浴すれば、体温は38度以上までは上がります。(*個人差があります)


④ 温める効果の高い精油を使用する

私は、ジュニパーとゼラニウムを塩やオイルに入れて入浴しました。その結果、体温が上昇する時間が短縮されました。

ジュニパー4滴+ゼラニウム3滴

(入浴剤なし)42度のお風呂に10分間で38.5度

(精油入り)42度のお風呂に5分間で38.5度


実は、この方法は、昔からの日本人の知恵や習慣によって見出された方法です!
簡単に実践できることなので、是非、お試しください。


 健康の大敵である「冷え」
冷えや低体温は万病の元と言われ、肩こり、頭痛、腰痛、腹痛、生理痛、不眠などの不快症状が現れてきます。


女性の半数から7割近い方が冷えをつらいと感じています。


 半身浴で冷えた身体を温めましょう!

なぜ全身浴ではなく半身浴なの?
熱いお湯で急激に温まった体は、血管が収縮し、体表面だけが温まっているので、冷めるのがとても早いのです。


健康的に全身を温める半身浴は、おへその下までで良いのです。体の芯まで温めるために、ぬるめのお湯にしましょう。


熱すぎるお湯は、体の表面だけを温めてのぼせやすいと言われています。


お湯の温度:38~40度

お湯の量:みぞおちの辺りまで浸かる程度


なぜ熱い温度で肩まで浸かることがよくないのでしょうか?


43度以上の熱めのお風呂では、血圧が入浴後2分で30~50mmHgも上昇します。


高血圧、動脈硬化、糖尿病で血管がもろくなっている人は、脳出血のリスクが高まります。


 冬の寒さ対策に
入浴中に血液は1分で1回全身を循環します。20分半身浴すれば20回循環するので、体を芯から温められるのです。


ぬるめのお湯は、緊張状態をほぐす副交感神経のはたらきが高まり、リラックスでき、脈拍も安定し、自律神経や内分泌の乱れも改善してくれます。


下半身を温めることによって、温まった血液を循環させ、全身を内からゆっくりと温める 長時間ゆっくりと身体を芯から温めることによって、発汗作用を促すので多量の汗を出すことができます。


 肩こりや腰痛に
半身浴は肩こりに効果が特に高いと言われています。新陳代謝の上がり方も、普通の入浴に比べるとアップしているのです。

半身浴での気を付けるポイントは肩を冷やさないことです。お湯を肩にかけるだけでは逆効果なので、できれば乾いたタオルを肩にかけるようにしましょう。


40℃前後のややぬるめの湯に肩までつかり、10分間全身浴をしましょう。時間があるときは、半身浴で20分つかります。

肩こりがある場合は、まず全身浴が良いみたいです。後から半身浴にするんですね。

                  ↓ ニュースソース
       http://healthfitness-share.sblo.jp/article/177905097.html


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by utakatarennka | 2017-03-31 21:20 | 健康

萌える猫 画像 39

萌える猫 画像 39

TwitterやFacebookや2ちゃんなどから、
可愛い猫画像をコレクションしました。


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by utakatarennka | 2017-03-30 09:57 | 猫画像(コレクション)

れきし脳 ⑭

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか


   第五巻 羅刹丸 ②

 ある夜、夜盗の羅刹丸は村の長者の屋敷に盗みに入った。たいそう立派な屋敷である。
 ここなら忍び込んでも広過ぎて、簡単には見つかりはしないと踏んだ。屋敷の主は留守のようで屋敷の中はしんと静まり返っていた。金目の品を物色しながら羅刹丸は屋敷の中をあっちこっち彷徨って、一番奥の部屋の戸を開けると……。
 ――まだ若い女が眠っていた。
 この女は《この屋敷の主の妻か……?》月の明かりに照らされて眠る。美しい緑の髪と白い肌の高貴な女だった。薄物から覗く乳房や脚……その姿態に羅刹丸は劣情した。
 ごくりと息を飲んで、いきなり女の上に馬乗りになった。驚いて目を覚ました女だが、叫び声をあげようとした瞬間。羅刹丸は女の口と鼻を掌で押さえ窒息させようとした。
 手足をばたつかせて抵抗していたが、やがて気を失った。
 ぐったりした女の衣服を剥ぎとり、全裸にして白く美しい肌を堪能してから、女の股を開き秘所に、おのれの物を無理やり押し入れた。――途中、ううん……と意識を取り戻しかけた女の首を絞めながらなおも犯し続けた。
 羅刹丸が果てた時、女は痙攣して目を見開いたまま絶命していた――。
 獣のような羅刹丸は欲望のままに女を犯し、殺しても、一片の良心の呵責もない男である《さすが長者の妻だ上等の味だったぜぇー》ご満悦である。
 この部屋で金目の物を物色したら逃げ去ろうとしていた羅刹丸だが、屏風に掛けてある美しい打ち掛けに目が止まった。緋色に金糸銀糸の刺繍を施した豪華な着物である。羅刹丸は思わず、それをひっつかんだ。――が、屏風を倒してしまい大きな音がした。
「もし! どうかなされましたか」
 隣室から乳母とおぼしき女の声がした。
 戸を開けて様子を覗いた乳母が死んでいる主の妻を見て、絹を裂くような悲鳴をあげた。
「人殺し! 人殺しー!」
 大声で乳母が騒いで、その声に屋敷の中が急にざわついた。羅刹丸は慌てて逃げ出したが、すぐさま追手がかかりそうだった。
 何とか……竹藪の庵まで逃げ帰った羅刹丸だが乳母に顔を見られたので、すぐさま追手がここへ来るに決まっている。

 庵の中に入ると女が蒼白い顔で眠っていた。産み月近くになって、女は床に臥せることが多くなった。丈夫ではない身体に、まだ母体として十分に成長しきっていない妊娠である。かなり身体に負担なのだろう。
 このころには羅刹丸も優しくなっていて、山で雉など捕まえて滋養をつけるため食べさせてやっている。女は羅刹丸から逃げたい気持ちなど毛頭ないようだ。
 寝ていた女を起こし長者の妻から盗んできた着物を渡した。その美しい着物を見た瞬間、女は目を丸くして驚いていた。たぶん、生まれてこの方こんな美しい着物は見たことがなかったのだろう。
 貧しい生まれの女には一生触れることも出来ないような、それは豪華な着物であった。嬉しそうに美しい着物を羽織って見ていた。
「追手が掛かった! 逃げるぞ」
 そんなことをしている場合ではない。早く逃げなければ追手がやってくる。具合の悪い女の手を引っぱり、羅刹丸は竹藪の庵から逃げ出した。《長者の妻を殺したのだから……ただでは済むまい。きっと大勢の追手がかかる。とにかく、遠くへ遠くへ……逃げなくては……》気ばかり焦る羅刹丸。竹藪を抜け森の中に入った。――今夜は山越えになるかも知れない。

 先ほどから、女の具合がかなり悪そうで……足がよろよろして上手く歩けない。腹を押さえて、苦しそうに肩で息をして呻き声を漏らす。産み月が近い、大きく腹がせり出た女に山越えなど無理である。羅刹丸はだんだん焦ってきた。
 どうして、こんな女まで連れて来たんだろう? 足手まといで進めない! このままでは追手に追いつかれてしまう。置き去りにするか? 殺すか? 羅刹丸は迷っていた。
《追手に捕まれば俺は殺される。命が惜しい、死にたくない!》羅刹丸も必死だった。
 ついに女は地べたにしゃがみこんで泣き崩れ腹を押さえ、もがき苦しみだした。とうとう破水して、陣痛が始まったようだ。
 寄りによって、こんな時に産気づくとは……仕方ない! 女を置き去りにしようと羅刹丸は考えた。自分ひとりなら何んとか逃げ果(おお)せる。――だが、女の苦しそうな呻き声を聴いていると……羅刹丸はその場を動けなくなってしまった。
 陣痛の苦しみに耐え、いきんで赤子を産み落とそうとする女。出血も多いし、女の体力は限界に達していた、やっと……赤子の頭が出てきて、羅刹丸が引っぱり出した。
 おぎゃーと大きな声で赤子が産声をあげた。その泣き声が森の木々に木霊した――。
 産み終えた女に、赤子を見せてやると憔悴しきった顔で薄く微笑んだ。くしゃくしゃで顔は分からないが女の子であった。
 女は泣いていた――。大きな瞳に涙をいっぱい溜めて……雫が頬を伝って零れ落ちた。もう自分の命が幾ばくもないことを悟っているようだ。
 悲しげな瞳で羅刹丸の方見て、何か言いたそうに口をパクパクさせていたが……。口の利けない女は、やがて、力つきて……。
 静かに息をひきとった――。

 羅刹丸は森の中に女の遺体を横たえて、その脇に生まれたばかりの赤子を置いた。上から美しい打ち掛けを羽織ってやった。母親が死んだのだから、いずれ赤子も死んでしまう。血の匂いを嗅ぎつけた山犬どもの餌食になってしまうかも知れない。
「――俺の女だった。俺の子を産んで死んでしまった」
 そう呟いて、しばらく茫然と女の死顔を眺めていた。なんだこれは……? 気がつけば目から雫が零れていた。幼いころから滅多に泣いたことがない羅刹丸が泣いている。
《これは涙か? 俺が泣いてる? まさか……?》袖でゴシゴシと乱暴に目を拭いて、羅刹丸は走りだした。
「ちくしょう! ちくしょう!」
 泣きながら羅刹丸は森の中を無茶苦茶に走り続けた。
《こと切れる前、女は俺に何を言いたかったんだろう?》口の利けない女の悲しそうな死顔が心に焼き付いて離れない。
「あいつは俺の女だった。唯一、俺が愛した女だったんだ!」
 森の木や枝に身体を打ちつけながら、それでも羅刹丸は我武者羅に走り続ける。
「ちくしょう! ちくしょう!」
 泣き叫びながら《長者の妻なんか殺さなければよかったー。具合の悪い女を無理やり引っ張って逃げなきゃよかった!》後悔で胸が張り裂けそうだ。
「許してくれ! おまえに死なれて……」
 俺は……そう心の中で呟くと、がくりと膝が折れて羅刹丸は地面に倒れ込んだ。
 さっきまで生きていた女の愛らしい顔が目の前にちらついて離れない。
《ほんの小娘だったのに……可哀相に――あっけなく死んでしまった》
 人殺しなんか、何んとも思っていなかった。悪鬼のような羅刹丸が愛する者を亡くして、初めて……。
 ――人の死の悲しみを知った。


「赤子の声がします」
 森の木々の中、風がどこからか赤子の泣き声を運んできた。
 生まれた時から大事に育て上げた姫君を羅刹丸に惨たらしく殺された乳母は、たとえ一太刀でもあの者を斬り付けねば、憎しみが納まらぬと追手として家人(けにん)たちに付いてきた。
「乳母殿、空耳でしょう? このような所に赤子など……」
 追手の指揮を執る、右馬権頭(うまのごんのかみ)が怪訝な顔で答えた。
「いいえ。右馬権頭殿、確かにこの乳母には聴こえます!」
 尚も、耳を澄まし音を探す――乳母である。
「こっちじゃあー」
 そう言うと乳母は惹き寄せられるように走り出した。
 そして赤子の泣き声を辿っていくと、大きな楠の木の根元、亡き姫君の打ち掛けの下に、まだ若い産婦の遺体と赤子がいた。
「おおー、姫君の打ち掛けの元に赤子が……きっと、これは姫君のお引き合わせ違いない!」
 そう言って乳母は涙を流し、愛おしげに赤子を抱いて屋敷に連れ帰った。
 産婦の遺体は家人たちに寄って森の中に葬られた。


 羅刹丸は幽鬼のようになって森の中を彷徨っていた。女を喪って抜け殻のような魂。
「――俺はどうしたらいいんだ? もう逃げたってしょうがない」
 あいつに死なれて、もう俺は生きていたって仕方がないんだ。追手に捕まったら、どうせ殺される。――だったら……。

 獣の咆哮のような叫び声が轟いて、真っ赤な血しぶきが森の木々に飛び散った。
 刀を首に突き刺して、地面に倒れ、もがき苦しむ血まみれの羅刹丸の姿がそこにはあった。自分の流した血の海の中で羅刹丸の命が消えようとしている。
 死の直前、薄れゆく意識の中で――女の声を聴いた。

『かわいそうなひと……』

 ――人殺しの羅刹丸は最後に自分を殺した。

― 完 ―



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-25 09:30 | 時代小説

れきし脳 ⑬

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか


   第五巻 羅刹丸 ①

 人を殺すことなんか、何とも思っちゃいない。大人も子どもも殺す。年寄りは、大っ嫌いだ殺す! 若い女は……いたぶってからゆっくり殺す。

 ――俺の中には『憎悪』しかない。


 男は羅刹丸(らせつまる)と呼ばれる東山の麓の鹿の谷(ししのたに)あたりを根城に悪さを働く一匹狼の夜盗だった。金のためなら、人殺しなんか何んとも思っちゃいない。村を襲っては金と食糧を奪って、女を犯す、まるで悪鬼のような男である。

 その日、羅刹丸は人里離れた民家に押し入り、その家の老婆を殺して食糧を奪って逃げようと戸口で様子を窺っていると……野良仕事を終えて帰ってきた、若い娘とばったり鉢合わせになった。
 まだ十五か十六の生娘のようだった。
 殺された老婆の死体を見て茫然と立ち竦んでいる。恐怖に声も出ないのか、娘は目を見開いて顔を強張らせ震えていた。
 丁度、旨い餌にありつけたとばかりに羅刹丸は娘に襲いかかった。固まったように動けない娘は抵抗するまでもなく、組伏せられて、衣服を剥がされ、無理やりに犯された。
 蹂躙している最中も……苦痛に顔を歪め涙を流していたが、不思議なことに娘は悲鳴や呻き声は発するが「助けて」とひと言も叫ばなかった。

――ことが終わって。
 身を震わせて泣いている娘を用済みだから殺してしまおう。娘の首に刀の刃をあてると……恐怖で「ひぃー……」と呻いて首をすくめた。
 その時はっきりと分かった。この娘は口が利けないのだ。

 娘を殺そうと思っていた羅刹丸だが――。
 口が利けないのなら、逃げ出しても何も言えないから都合が良い。余計なことをしゃべらないから静かでいい、まだ若いし生娘だった。肌もきれいだ。《俺の棲み処に連れて帰って慰め者にしてもいいなぁー》と不埒なことを考えた。
 殺すのが惜しくなった羅刹丸は、泣いている娘を刀で脅して引きずるようにして……村はずれの竹藪の中にある庵に無理やり連れ帰った。

 元々、この庵には年老いた僧侶がひとりで住んでいた。
 一年ほど前、役人に追われ手負いになった羅刹丸は血まみれになって竹藪で倒れていた。その瀕死の羅刹丸を助けて、手厚く介抱してくれたのがこの庵に住む僧侶であった。
 やがて傷が治り、すっかり元気になった羅刹丸は年老いた僧侶を殺そうと目論んだ。自分の命を助けてくれた。――その僧侶なのである。
 野良犬のような羅刹丸は恩など端(はな)から感じてはいない。殺して金目の物を奪って逃げる算段だった。

 ある夜、よく切れそうな包丁を厨房から持ち出すと……。
 僧侶の寝ている部屋へ静かに入っていき、枕元に立って胸に包丁を突き立てようとした瞬間! カッと僧の目が開き、ぎょろりと羅刹丸を睨んだ。その眼光の凄まじさに思わず羅刹丸はのけぞって尻餅をついた。
「拙僧を殺す気か?」
 羅刹丸は慌てて、包丁を後ろ手に隠した。
「おまえを助けた時からこうなることは分かっておった」
「――じゃあ、どうして俺を助けた?」
「憐れだったからじゃ、人の心を持たぬ羅刹のようなおまえが……」
「らせつ?」
「羅刹とは鬼神のことで、人の肉を食う凶暴な悪鬼のことじゃあ」
「そうか! 俺はその羅刹って奴か? だったら、今日から俺は自分のことを『羅刹丸(らせつまる)』と名のることにするぞ!」
 今までこの男には名前などなかったのだ。
「わしは年寄りじゃ、命などもう惜しくないわ。さっさと殺せ!」
 そう言うと僧侶は座禅を組み、念仏を唱え始めた。
「いい名付け親だったぜぇー、あばよ!」
 年老いた僧侶の首を包丁で斬りつけて殺しまった。
 僧侶の死体を竹藪の中に埋め、奪った仏像や経典を市で売り捌き、その金で羅刹丸はひと竿の刀を手に入れた。
 ――そして、この男の悪事はもう止(とど)まることを知らない。

 今は鬼畜のようになった羅刹丸だが、幼い頃に母に捨てられた。住んでいた村は戦に捲き込まれ火を放たれ焼かれてしまった。その時、父と兄弟を亡くし、母とふたり生き伸びたが村を焼かれ、住むところをなくした親子は仕方なく都に出て暮らすことに……鴨川辺の橋の下に粗末な小屋を建て、母は男に身体を売って稼いでいた。――だが、その母がある日忽然と消えてしまった。
 ずっとずっと母の帰りを待っていた。薄暗い小屋の中でひとり取り残された羅刹丸は膝を抱え、ひたすら母の帰りを待っていたのに……いつまでも経っても母は帰って来なかった。
 何日も小屋の中で飲まず喰わずで倒れていたら、ある日、見知らぬ老婆がやって来て羅刹丸に水と食べ物をくれた。
「童(わらし)、おまえくらいの餓鬼を探しておった」
「――え?」
「飯は喰わせてやる、さぁー婆の元に来い」
 そして羅刹丸は妖しげな老婆に引き取られることになった。
 後ほどのことだが、鴨川(かもがわ)の下流で羅刹丸の母とおぼしき遊女の死体が上がった。首を絞められた痕あり、どうやら客に絞め殺されて川に投げ込まれたようだ。そんな事実も知らず、羅刹丸は母に捨てられたと思い込んで、――そのことで、ずっと恨んでいた。

 羅刹丸を連れて行った老婆は通称『まむし婆』と呼ばれていた。
 深い森の中に住んで居て『まむし酒』作りを生業しており、森の中で捕まえた毒蛇まむしを薬草と混ぜた酒に生きたまま漬け込んで作る婆の『まむし酒』は滋養強壮に利きめがあると市ではよく売れた。
 そして……その毒蛇まむしを捕まえることが羅刹丸の仕事だった。
「今まで二十、三十人はまむしにやられたかのぉー」
「えぇー?」
「おまえは気張るんじゃぞぉー」
「…………」
「ぎょうさんまむしを捕まえてけれや」
 そう言って、まむし婆はふぉっふぉっと歯のない口で嗤った。
 まむし婆に言い付けられたように、毎日、森の中を歩き回ってまむしを探した。悪運が強い羅刹丸は上手くまむしを捕まえることが出来た、まむし婆も羅刹丸にはご満悦だった。

 長じて、羅刹丸は立派な若者に成長した。
 羅刹丸が市に『まむし酒』を売りに行くと、女たちが見目(みめ)の良い羅刹丸目当てに買いに来て、飛ぶように『まむし酒』がよく売れた。
 そうなると、年甲斐もなく……まむし婆が羅刹丸に色目を使うようになった。身体を触ったり、市で若い娘を見ただけで嫉妬するようになった。
「おまえはいい男じゃのう。わしの亭主にならんか?」
 老婆のくせにそんな事を若い羅刹丸に言うようになった。
 そして、ある夜、羅刹丸が眠っていると……。
 寝所の中に誰かが入ってきた。帯を解くような音がして、肌に何かが密着した。息苦しさに目を覚ました羅刹丸の上には、まむし婆が全裸で覆い被さっていた。
「わしはまだ生娘なんじゃー。おまえの嫁にしてけれー」
 そう言って羅刹丸に抱きついて離れない。汚い舌で身体中を舐め回す。萎びた乳房、皺だらけの手足――もう気持ち悪くて鳥肌が立つ!
 満身の力でまむし婆を撥ね退けて、そのまま一目散に森の中へ羅刹丸は逃げ込んだ。
 翌朝、だらしなく眠っている。まむし婆の寝所の中へ毒蛇まむしを数匹放り込んで、婆を蛇に殺めさせた。婆が甕に隠していた銭を盗み出奔した。――それから盗みや悪事をはたらきながら、ほうぼうを羅刹丸は彷徨った。

 竹藪の中の庵に連れ帰った娘。
 最初の頃は逃げないように……縄で縛って柱に括っていたが、羅刹丸が余程怖しいのか? 口が利けないせいもあってか? 大人しくしているので、羅刹丸が居る時は縛めを外してやった。
 まだ十五、十六の幼顔が残る大きな瞳の可愛い娘であった。
 毎夜、羅刹丸は欲望のままに娘を犯した。情などない! 肉の快楽のために身体を弄んだ。最初の頃は苦痛に顔を歪め泣いていた娘も……少しずつ羅刹丸に快楽を教えられ女になっていった。
 情事が終わった床の中で、羅刹丸の背中の刀傷を指でなぞり、口の利けない女は《痛かったでしょう?》と言うように、傷痕にそっと口づけて、背中をぎゅっと抱きしめてくれる。その肌の温かさが……まるで母の優しさのようで、荒ぶった羅刹丸の魂さえも落ち着かせてくれた。無理やりさらってきた娘だが――羅刹丸を恨む風もなく気立てが良い。
 ――やがて女は羅刹丸の子を孕んだ。
「俺の子か?」
 こくりと女が頷いた。下腹部がぷっくりとせり出てきた。
「まさか、俺の餓鬼を孕むとは……」
 生娘から犯し続けたのだから……もはや羅刹丸の種に間違いなかった。
 ……羅刹丸は悩んだ。夜盗の俺に嫁も子も要らん! どうする? 足手まといになる前に殺してしまうか? 少しばかり、この女と長く暮らし過ぎたようだ。――もう簡単に捨てられなくなった。女も俺に慣れて従順になっている。
鬼畜のような羅刹丸だったが……この女を殺すことだけは躊躇していた。




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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-24 18:21 | 時代小説

れきし脳 ⑫

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか


   第四巻 五百年の楓 ④

 山梨県にある身延山地(みのぶさんち)で宿坊と呼ばれる、寺が経営する宿に逗留することになった。
 宿坊とは基本的にお寺であり、ご修行やお参りのための宿なので、ホテルのようなサービスはないし、トイレも共同だった。料理はいわゆる精進料理で、地元で採れた新鮮な山菜や野菜の天ぷらや煮物など、ゆばやごま豆腐も味わい深い、何よりも米が美味かった。
 宿坊の住職に「この辺りに楓の木が有名な場所がありますか?」と訊いたところ「身延山東参道の奥に古い楓の木があって、一説では五百年は経つと言われています。その楓は季節外れに、いきなり真っ赤に紅葉する不思議な木なのです」と、説明された。
 その季節外れに紅葉する楓の木と言うのが夢の男が言っていた『血染めの楓』のように思えて、そこに行ってみようと僕は思った。
 久しぶりに、そういう日本的な霊的パワーに触れて、いわゆるスピリチュアルスポットにやって来て、僕の五感は研ぎ澄まされたように思われる。

 身延山は標高1,153mの山である。そこにある身延山久遠寺(みのぶさんくおんじ)は、鎌倉時代に日蓮(にちれん)によって開かれたお寺で日蓮宗の総本山だ。
 その東参道を二時間ほど、かなり急勾配な山道を登って行く、目印に聞いた滝から山道を外れてケモノ道に入って行く、深い山なので迷子になって遭難しないか、ちょっと心配になった。そこから更に三十分くらい歩いて奥に入ると楓の木があるらしい。そこは地元の人しか知らない場所だと住職に訊いた。
 深い森の中をずんずん歩いて行く、ここでいいのか? あっているのか? 夢の男に訊いた話なので何の根拠もない。一時の衝動に駆り立てられて、ここまでやってきたが――。
 果たして、『血染めの楓の木の元で女が待っている』という、その楓が本当に、ここにあるのだろうか?
  木々がざわざわと風に揺れたと思ったら、天から紅いものがひらひらと降ってきた。
 僕の肩に掛かったものを指で摘まんで見てみれば、ひとひらの紅葉だった。《こんな季節に紅葉(こうよう)か?》もしかしたら、これがあの血染めの楓の木なのか!? 
 何かに引き寄せられるように、いきなり駆け出した。

 そこだけ真っ赤に紅葉した楓の木の下で、女がひとり佇んでいた。
 風景に溶け込んだ女の輪郭はぼんやりと薄く、白い着物の足元は血のように赤い楓が敷き詰められていた。
 そこから霊気が放たれて、もはやこの世の者ではないことは窺いしれた。『血染めの楓』の元で待っているというのは、この女かも知れない……。
 震える声で僕は話しかけた。
「――あなたは?」
『わたくしはここで待っているのです』
「誰を待っているのですか?」
『喜助を待っています。楓の木の元で五百年待ち続けました』
 そう言うと、女は悲し気な顔で薄く笑った。
 五百年……五百年も誰かの言葉を信じて待っていたというのか? その女のけな気さが憐れに思えた。僕は鞄の中から櫛を取り出し、それを見せた。
「こ、これを……」
『折れておるが、ギヤマンの櫛!』
 僕の手の中の櫛を見て、女がそう叫んだ。
「ここで待っていたのは、この櫛を受け取るためだったのですか?」
『いいや! 櫛などではない。わたくしが待っておるのは喜助じゃ!』
 喜助? 誰だろう。 もしかしたら僕の夢に出てきた、あの男のことだろうか。
「僕が代わりに櫛を届けました」
『喜助が来ない、来ない、来ない……』
 女が泣きながら『来ない』を連呼する。
 五百年も待っていたのに期待が裏切られて、さぞ悲しいだろうと僕にも分かる。
 そして落胆したようにガクッと肩を落とした。その瞬間、女の頭がもげて地面にぽろりと落ちた。「ひいぃぃ――――!!」あまりに驚いた僕は、飛び上がって尻餅をついた。
 その時、鞄の中から飛び出した観音像が女の方へころころと転がっていった。すると、観音像の中から白い煙のようなものがモクモクと立ち込めて、やがて、それは人の形へと変化していった。――その情景に声もなく、驚愕した僕はただ見ていた。
『紅芭(くれは)、俺だ』
『その声は……』
『喜助だ』『喜助!』 いつの間にか、女は先ほどの人の姿に戻っていた。
『ずっと、ずっと……楓の木の元で待っていた。なぜ早く来てくれなかった?』
『すまね。紅芭、聴いてくれ、実は……』
 ふたりの霊魂は人の形になり抱き合っている。どれほど長い間、お互いを待ち焦がれていたことだろうか。いったい、何が起きてこうなったのか僕も知りたかった。
 これから喜助の長い話が入る。掻い摘んで説明すると――。
 楓の木の元で待っている紅芭を残して、急いで喜助は小屋に帰った。隠して置いたギヤマンの櫛を取り出すと、なんと! 真っ二つに櫛が折れていた。これは不吉だと嫌な予感がしたが、とにかく、これを持って紅芭の元へ戻ろうと小屋を飛び出した。
 途中、滝の辺りで三人ずれの武士に出合った。慌てて、茂みに隠れてやり過ごそうとしたら、奴らの話し声が聴こえてきた。そこで男たちが紅芭を犯して、殺めたことを俺は知った。そして真っ赤に染まった袋の中には……愛しい紅芭の首が入っていることまで聴いてしまった。
 俺の大事な紅芭の命を奪った奴らが憎い!
 紅芭の仇を討つために、いったん小屋に帰り、平家の落ち武者の家系なので、床下には武器が隠されていたのだ。山は子どもの頃から駆け回っていたので地形を分かっているし、夜目もよく利く、槍と弓などを持って、再び、小屋を出ると滝の辺りで夜が明けるのを待っていた、武士たちを襲撃した。
 一人目は小用しているところを音もなく近づき槍で突き刺し殺した。二人目は不穏な気配を感じて仲間を探しに来たところを矢を放ち、動きを止めたところで大きな石で頭を叩き割って殺した。残る最後の武士は相当な手錬れ(てだれ)と見えて隙がない。
 奴は仲間を襲った見えない敵から身を守るために、見晴らしのよく利く、滝の上の崖に陣取って俺を待ち構えているようだった。――紅芭を喪った俺は自暴自棄になっていたので、この武士と遣り合って相殺(そうさつ)でも構わないと考えていた。

 俺は野兎の巣で捕まえた兎たちを放って、奴の注意をそっちに向けた瞬間に飛び出して、槍で突き刺したが、さすが急所は外され刀で槍の先を切り落とされた。だが、土地勘のある俺はすばしっこい。
 刀で向ってきた敵に俺は吹き矢を放つ、それが運良く目に当たって動きが止まった。槍の棒で何度も叩きつけ奴の刀を落とさせた、小刀で斬りつけ組み合って殴り合いとなった。
 奴を道連れに、俺は死ぬ気だったので「死なば諸とも!」組み合ったまま、地面を転がり崖から滝壺へ二人で落下していった。

 気が付いたら、川に流されていたが俺はまだ生きていた。
 だが、すべての記憶を失っていたのだ。自分が誰か分からないまま山野を彷徨っているところを旅の僧侶に拾われた。偶然なのか、運命なのか、その僧侶は都へ行くのだという。
 新しく建立された寺院へ赴く途中だったが、お供の者が病に倒れて、難儀していたところだった。俺が経典や仏具の入った大きな葛籠(つづら)を担いで京都まで僧侶のお供をすることになった。
 その後、その僧侶のお供の者として都の寺で世話になった。
 俺は観音像を彫るのが巧かった。なぜ、そんなことができるのか、自分でも分からないまま、彫った観音様の顔はいつも同じ女の顔で、どこか懐かしく愛しい感じがする。だが、この女が誰なのか思い出せなかった。
 しかも俺の懐には折れた櫛が入っている――これも誰のものか分からない。ただ、観音像の顔の女と深い繋がりがありそうだと思っていたが、俺の記憶は生涯戻らないままだった。
 やがて天命が尽きて召されるとき、死の瀬戸際、俺の記憶は走馬灯のように巡り思い出したのだ。――俺のことも、櫛のことも、そして楓の木の元で待っている女のことも……すべての記憶が死の淵で蘇えった!
 俺の魂は天に昇らず。この観音像に憑依して、いつか紅芭に逢えることを願いつつ、悠久の刻(とき)を過ごしていた――。

『楓の木の元で俺を待っている。おまえにどれほど逢いたかったことか』
『わたくしはいつか喜助が来てくれると信じておりました』
『やっと逢えた!』
 ふたりの霊魂は融合して輝く光の柱になって天に昇っていこうとしていた。互いに強い念から解放されて、やっと成仏できるのだ。
『ありがとう……』
 どこからか声が聴こえた。
 僕の力でふたりを逢わせて上げられて良かった。感謝して貰えて僕も嬉しいよ。
 五百年の永久の時を経て、ふたりの想いが重なり合って、都ではなく天へと昇っていった。楓の葉がまるで別れを惜しむようにひらひらと空中を舞っている。
 ふたりの固い絆にいつしか涙を流しながら、美しい昇天の儀を見ていた。
 さらに不思議なことに、僕が手に持っていた折れたギヤマンの櫛がきれいに直っていたのだ。たぶん、この櫛はふたりが裂かれる運命を予知して折れたのかもしれない。

 京都に帰ってきた僕は、あのふたりのために祠を建てた。
 そこには喜助が彫った観音像と櫛を奉納して、その傍に楓の木を植えることにした。血染めの楓の木は一晩で立ち枯れてしまったと宿坊の住職に、その後(のち)訊いた。五百年も樹齢があったのは、紅芭さんの強い残留思念力(呪い)のせいだったのかもしれない。
“信じていれば、待つことは辛いことではない”五百年待ち続けた愛はきっと極楽浄土で輪廻転生を待っていることだろう。来世で、ふたりが再び巡り逢い、今度こそ生きて幸せになれることを心から願っている。
 理数系脳の僕だけど、この不思議な経験に触発されて、自分自身で《愛の方程式を解いてみたい》なんて、思い始めていた。

 いつか紅い楓の木の下を、未来の恋人と手を繋いで歩きたいと――。


― 完 ―




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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-23 15:30 | 時代小説

れきし脳 ⑪

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか


   第四巻 五百年の楓 ③

 ― 2013年 京都 ―
 東京の理科系大学の研究室に勤務していた僕は、亡き祖父の住んでいた古い寺を処分するために京都へ帰ってきた。
 僕の両親は現在海外転勤中で日本にはいない。元々、母の実家にあたる寺なのだが、京都でも辺鄙な場所にあって、観光の目玉になるような国宝や文化財クラスの仏像や庭園もない、檀家だけで細々とやってきたような寺で、跡を継ぐ者もいないので廃寺にすることになった。
 祖父の寺は歴史だけは古く、建立されたのが室町時代の中期1500年頃だというのだから、五百年もの歴史がある。
 数年振りに訪れたお寺は檀家のみなさんが掃除をしてくれていたので、すっきりと片付いていた。処分するといっても、こんな古い寺を買ってくれる者もいないし、結局、地元に寄付するような形で、今後の管理を任せることになっていた。
 どうやら寺を壊して公民館として利用する案があるようだ。――そのための事務手続きがいろいろあって、委任状を渡された僕が書類に記入捺印することになっていた。
 僕は理数系脳なのでお寺や仏像といった歴史的な物には全く興味が湧かない。元より、こんな古い寺なんぞ相続しても仕方ないと思っていたのだ。

 久しぶりに誰も住んでいない母の実家へ休暇を兼ねて戻ってきた。
 もう長い間、空家同然だったので寺の中には私物は何も置いていない。母の父の住職が亡くなって五年になる、小学生の時には毎年夏休みになると帰省するのを楽しみにしていたものだが、大きくなると法事くらいにしか寄ったこともない。――今回の帰省は祖父の葬儀以来である。
 子供の頃の思い出が詰まった、この寺を最後によく見ておこうと僕は山門から法堂や庫裏(くり)、鐘楼などを見て回った。小さいが規模だけは本格的な寺院で、昔はもっと規模が大きかったと言われているが、最初の建屋は戦火や災害などで失われており、今の本堂は古い土台の上に建っているだけである。

 最後に本尊を祀ってある仏殿に入る。ここは長年焚き込んだ線香の香りと、カビの臭いが鼻孔を擽る、この寺の古い歴史を感じさせる。
 本尊の前に立つと、読経を上げていた祖父の後ろ姿を思い出して、しんみりした気分になった。
 あまり入ったことがないが、本尊の裏側に古い仏具や仏像などが仕舞われている納戸があって、そこは壁一面が戸棚になっていた。
 僕はなに気なく……一番下の戸棚を開けて、奥の方に手を突っ込んでみたら、戸棚の奥に、更に隠し戸棚があって、古い布に巻かれた観音像が出てきた。
 それは全長30㎝ほどの木彫りの観音像で、誰の作かは分からないが、ノミ一本で彫ったような荒々しい作風だが、顔の部分だけは細部まで丁重に彫ってあった。まるで、モデルがいたかと思うほど、妙に艶めかしい女の顔であった。
 僕は手に取って、その観音像をしげしげと眺めていたが、振ってみたら、カラカラと音がする。
 あれ、何だろう?
  裏返してみると蓋が付いていた。それを外すと空洞になっていて、中から櫛が出てきたが、残念ながら……それは真っ二つに折れていた。
 こんな物が観音像の中から出てきて、僕は背中に悪寒が走った――そこから、もの凄い念を感じたからだ。
 もしかしたら、この櫛の持ち主だった人の御霊を祀るために彫られた観音様なのかもしれない。――と僕は思い、そっと棚の奥に観音像を戻した。

 その夜のことだった、僕は不思議な夢を見た。
 見知らぬ男が夢枕に立って、僕にどこかにある山に櫛を届けてくれと頼まれた。
 朝、目が覚めて、妙にリアルな夢だったが不思議と怖いという感覚はなかった。真剣に、この僕に頼んでいるのだという気持ちが伝わってきたからだ。
 その次の夜にも、また、その男が夢枕に立った。
 顔などが少し鮮明になってきた、自分よりもずっと若い男だった。手に櫛を持ち、これを女に届けて欲しいと真剣に頼んでいた。
 三日間同じ夢を見たが、段々とハッキリと見えてきて、その場所の地形やそこに楓の木があるとか、こと細かく説明された。
 最後に、夢の中の男が『血染めの楓の木の元で女が待っている』と不気味なことを言って消えた。
 さすがに、三日目の夢を見た時には、そこに行かないと祟られるのではないかとさえ思えてきた。夢に出てきた男の真に迫った表情から、これは無視することができないことだと悟ったからだ――。
 何かしら、得体の知れないモノに引き寄せられるようだった。
 パソコンで、夢の男が言ったことを検索したら、山梨県にある山が分かった。多分、そこに行けば手掛かりが掴めるだろうと、何の根拠もなく僕はそこへ行ってみようと思った。
 旅行鞄には木彫りの観音像と折れた櫛を入れて持って行くことにする。




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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-22 15:11 | 時代小説

れきし脳 ⑩

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか


   第四巻 五百年の楓 ②

 ――それが、ある日、こんな山奥にまで追手がやってきたのです。
 わたくしが裏山で山菜を採っていると、小屋の方へ役人と思われる武士たちがやってきたのが見えたのです。
 慌てて草むらに身を潜めて、小屋の様子を窺っておりました。
 戸口に立っている喜助は、役人に何を訊かれても、首を横に振って知らないと答えているようでした。
 利口な喜助は、わたくしが曰く有り気な女だと初めから判っていたので、役人に何を訊かれても「知らぬ、存ぜぬ」を通して、上手く誤魔化しているようでした。それでも疑い深い役人は、小屋の中まで入って調べましたが、わたくしの荷物はいつも床下の羽目板(はめいた)の中に隠していたので、何も見つからなかったようです。

 それにしても……こんな山奥まで調べに来るとは、館の主はギヤマンの櫛とこのわたくしにそれほど執着しているのか? 執拗に探し回っているようで怖ろしい。このままでは、いずれ見つかってしまうだろう。一刻も早く逃げ出さねば……喜助にも迷惑が掛かってしまう。
 いつまでもぐずぐずしている場合ではない、わたくしは再び旅立つ決心をいたしました。
 今宵、最後の情を交わした後、喜助が寝込んだのを見計らって、わたくしは羽目板の中から荷物を取り出しました。すると、中に入っているはずのギヤマンの櫛が見当たりません。
 姫君の大事な形見の品を、誰が……まさか喜助が売ってしまったのでは……という疑念を抱きましたが、まさか、起こして訊く訳もいかず……わたくしを助けてくれた、この男に恩義として、差上げても構わぬかと諦めました。
 喜助の寝顔に別れを告げて、涙を堪えながら小屋を出て行きました。

 もう、振り向くまい!
 そう心に誓って、ずんずんと山の奥へ入って参りますと、深い森の中に月光に照らされた一本の楓の木がございました。
 まだ紅葉の季節でもないのに、不思議と、その楓の木だけが真っ赤に紅葉しておりました。その妖艶な美しさに、わたくしは目を奪われて……しばし立ち竦んで見惚れておりますと――背後から、誰かの呼び声がしました。
 はたと我に返り振り向けば、そこには喜助が立っています。
「……紅芭(くれは)、おまえ……どこへ行くんだ」
 はぁはぁ……と息を切らせて、走って追い掛けて来たようです。
「――喜助(きすけ)」
「ひとりで行くなっ!」
「わたくしは都へ戻らねばなりませぬ」
「だったら、俺も一緒に行く」
「えっ?」
「おまえと暮らしたい。俺も都へ連れていってくれ!」
「喜助……」
 その言葉に、わたくしの心は揺れました。
「俺は……紅芭の下僕になってもいい! 決して、おまえの傍を離れない」 見れば、喜助の目には光るものが……。わたくしの目にも涙が溢れました。
 嫌いで別れる分けではない。感極まって……ふたりは抱き合って泣きました。肌の温もりに触れて、この情の深さに気づきました。
 もはや、後戻りはできない。覚悟を決めて《死んでも別れない。一緒に都へ参りましょう》と、互いの想いが重なり――ふたりは誓い合った。
「ギヤマンの櫛は俺が持っている。紅芭が勝手に出て行かないように、実は隠して置いた」
 喜助がそう白状した。
「今すぐ、小屋に取りに帰るから待っていろよ」
 わたくしが不安そうな顔をすると、喜助は笑って、
「この楓の木の元で待っていてくれ」
「喜助!」
「必ず戻って来るから!」
 そう言って、慌てて来た道を戻って行く。
 ひとり残されて……真っ赤な楓の緋毛氈(ひもうせん)の上に座して――愛しい男が戻って来る時を、今か、今かと待っておりました。

 どうやら油断したようで、待っている間に目を瞑りうとうとしてしまった。
 パキッという小枝の折れる音でハッと目が覚めました。喜助かと思って、暗闇に目を凝らすと……それは追っ手の武士たちだった。
 「紅芭どの、やっと見つけましたぞ!」
「あなたの姿を見かけたと里の村人が噂しておりました」
「都の女は美しいので、この辺りでは特に目立つのじゃ……」
 屈強な東国武士三人に取り囲まれて、もはや逃げる術もない。
「我ら、お館様にギヤマンの櫛と紅芭どのを連れ戻すように命じられておる」
 武士が乱暴に腕を引っ張って連れて行こうとする。
「放せ! 下郎ども」
 逃げようと必死に抵抗するが……しょせん、女の力では敵わない。《嫌じゃ! もうすぐ喜助がここに戻ってくる》館の主の元へなんぞ戻りたくなかった。
「おいっ、ギヤマンの櫛はどこだ!?」
 わたくしの荷物を探っていたもう一人の武士が訊いた。
「……く、櫛は谷に落ちた時に失くしてしまった」
 わたくしがそう答えると、
「なんだと? 嘘をぬかすなっ!」
 ギヤマンの櫛が見当たらないことに、激昂した三人目の武士がわたくしの肩を掴んで楓の木に突き飛ばしました。よろけて倒れた、わたくしの頬に何度も平手打ちをくれた。
「どこだ? どこに隠した!?」
「この女、身ぐるみ剥いで調べるぞ!」
「よーしっ、やれい!」
 わたくしは乱暴に着物を剥ぎ取られてしまいました。
「さすが、都の女は肌がきれいじゃのう」
 素っ裸の女を見て、男たちは口ぐちに野卑なことを申します。
 その後、男たちが無体な所業を! 穢い獣のような東国武士たちに替わるがわる、わたくしは凌辱されてしまったのです。泣きながら、《喜助、助けて!》心の中で何度も叫びました。

 やがて事が終わって……。「どうやら、ギヤマンの櫛は無いようだ」
「この女どうする?」
「犯してしまったことがお館様にしれたら、わしらが叱られるぞ」
 楓の木の元で、惨めな姿で横たわっている女を見て男たちが相談し合っている。
「――見つけた時には女は山で死んでいた。櫛は持っていなかった……」
「ふむ……」
「――そう言うことにして、女を殺せ!」
 突然、男はわたくしの喉を刀で掻き斬った!
 絶叫と共に真っ赤な鮮血が辺りに飛び散って、楓の木が血飛沫で染まっていく。最後に《喜助―――!!》と強く心の中で念じて、わたくしはその場で息絶えました。
 その後、武士たちはお館様に見せるために首を斬り落とし、わたくしの着物に包んで持っていったのです。
 楓の木の元に首の無い女の死体が打ち捨てられたまま、流れだす血潮が地中に吸い込まれていく――。わたくしの憐れな末路でございました。

『喜助、早く戻ってきて……』

 おまえに逢えずに死ぬのは嫌じゃ!
 辱めを受けて殺されたのは無念でならぬ!
 この世に未練と怨念を残して死んで逝った、わたくしの魂は成仏できず、やがて楓の木に宿りました――。
 わたくしの骸を山犬や野猿がきて肉を喰い骨を砕いて、無残な姿になりました。その上、骨を咥えてどこかへ持って行ってしまうのです。やがて、肉体は腐敗して、蟲どもが湧き、徐々に干乾び、骨だけが残り、やがて朽ち果てて……土へ還っていったのでございます。
 その有様を楓の木に宿った、わたくしの魂は、ただじっと見ているしかないのです。
ああ、口惜しい。

『喜助、おまえをここで待っています』

 ずっと、ずっと……この楓の木の元で喜助を待っている。
 たとえ肉体が消滅しても、この想いだけは消えませぬ。わたくしの一念は残留思念力(呪い)となって、喜助を待つために楓の木に憑依して自縛霊となりました。
 そして長い長い時間、この楓の木の元で喜助を待つことになるのでございます。




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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-22 14:56 | 時代小説

れきし脳 ⑨

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか



   第四巻 五百年の楓 ①

 ああ、わたくしはどれほど長く待っていたことだろうか?
 百年、二百年、三百年……いえいえ、そんなものじゃない。――もう五百年にもなるであろう。この楓の木にわたくしの魂が宿ったのは、世の中が戦国時代と呼ばれた室町幕府の頃であった。


 わたくしは宮中で女房と呼ばれる女官でございました。
 姫君に歌や書を教えるのが仕事でしたが、京の都が戦火に見舞われたので、遠く甲斐の国まで逃れてきました。それというのもわたくしがお仕えする姫君がこの地を治める豪族と婚礼したからでございます。
 京の都しか知らぬわたくしたちには、地方での暮らしは辛いものでございました。言葉が通じぬ、不味い食膳、雅を知らぬ館の主(あるじ)の粗暴な振舞い、このような愚人に仕えることは恥と嘆いておりました。
 都に住む高貴な家柄の姫君が、このような辺鄙な土地に望んで来たわけではありません。
 度重なる戦(いくさ)に都は荒れ果てて、住んでいた館も焼かれ、夜盗どもに強奪されて、父君も病に臥せってしまい、日々の暮らしにも貧窮する有り様に……そんな時に現れたのが、武士団として都の警備にあたっていた豪族でいらっしゃる、この館の主でした。
 武士の身分は低いため、貴族の娘を妻に迎えたいと望んでおられたので、姫君の館を建て直し、武士団を警護につけ、高価な金品を山積みして、その見返りとして姫君を所望されたのです。
 姫君の輿入れにはわたくしのほか、乳母殿と侍女が二人お供しましたが、乳母殿はこの地に着いて、間もなく病で亡くなられてしまい、侍女の一人は里心がついて都に帰ると書置きを残したまま行方知れずに……もう一人の侍女は武士団に手篭めにされて自害いたしました。
  姫君の元に残ったのは、とうとうわたくし一人でございます。

 その内、姫君はご懐妊されましたが、ちっともお喜びではなかった。
 赤子が産まれたら、この地にずっと留まらなければならない。いつか都に帰りたいと願っている姫君にとって、それは耐えられないことでした。
 館の主に「ややが生まれたら、都に里帰りさせていただきます」という条件を出されたようでございました。
 いよいよ月満ちて、出産となりましたが、これが大変な難産でに苦しまれて、苦しまれて……赤子を産み落とし、とうとう力尽きて姫君は亡くなられてしまわれた。
 ああー、わたくしは嘆き悲しみ、どれほど泣いたことでしょう。
 大事な姫君を喪ってわたくしの居場所もなくなったので、館の主に「都へ帰らせてください」と、お暇乞いをいたしましたところ、赤子が大人になるまで側に居て、都の流儀やや歌や書を教えるようにと申し渡されましたが、わたくしは乳母ではありません。
 こんな寂れた土地にひとりで残るのは心底嫌だったので、重ねてお暇乞いを陳情したところ、「都の女子(おなご)は色が白くて、別嬪じゃのう」と好色なことを申されて……亡き姫様の代わりに、わたくしに側室になれとおっしゃいました。

 都生まれのわたくしが厳つい東国武士なんぞと……嫌じゃ! 虫酸が走る。
 側室にされる前に都へ戻りたいと、こっそり屋敷を抜け出して、わたくしは都を目指して旅に出ました。供の者を付けない女のひとり旅が危険なことは重々判っておりましたが、已む無く決意したのでございます。
 わずかな身の回りの品と、亡き姫君の遺髪と形見のギヤマンの櫛を持ち出しました。この櫛はポルトガル人の宣教師が宮家に献上した宝物で、婚礼の時に姫のご両親が持たせてくれたものでございます。そんな大事な品をここに置いてはいけません。――わたくしが持ち出したことがしれれば、きっと追手が掛かることでしょう。
 ただ気掛かりなのは、姫が産んだ赤子のこと……乳飲み子を連れてはいけない。女児なので家督争いなどに巻き込まれることもあるまいし、乳母をつけて大事に育てて貰えると信じて、この地に置いていくことにいたしましょう。
 何としても都に戻って、お里のご家族に姫君が亡くなられたことをお伝えしなければなりません。――どうやら館の主は姫君の死を都に隠しておられる様子なのです。

 ある夜、闇夜に紛れてわたくしは出奔いたしました。
 ひたすら都を目指して、女の脚で山越えをいたします。深い山道に分け入って、城下より遥か遠くなって参りました。――ここまでくれば追手が見つかるまいと安心したのもつかの間、山狩りをする武士たちの声が風に乗って聴こえてきました。
 ああ、このままでは追いつかれてしまう。
 わたくしは焦って真っ暗な山道を駆け出しました。何度も木々にぶつかりましたが、見つかれば連れ戻される。――それだけは真っ平でございます。
 急に身体がふわりと浮き上がったかと思ったら、瞬間、ずりずりと山の斜面を滑り落ちていったのです。途中、木に引っ掛かり止まりましたが、わたくしは気を失ってしまいました。

 気をついた時、見知らぬ誰かに背負われておりました。
 それは広くて温かな男の背中でした。どうやら、木にぶら下がっていたところを助けられたようです。わたくしはその男の家に運ばて介抱されました。そこは貧しい山小屋でございます。
 男の名は喜助(きすけ)という木こりで、山で炭焼きをして、時おり雉や野兎などを捕まえて、市で売ったりするのが生業の者でした。両親を亡くして、今は小屋にひとりで暮らしているのだという。
 わたくしの足は酷く腫れあがって、どうやら足首を挫いてしまったようで痛くて痛くて……とても歩けません。これでは旅は無理だと諦めるほかない……。
 喜助はわたしの足が治るまでここに居ればよいと言ってくれました。
 なぜ女がひとりで無謀な山越えをしたのか。――など、という余計なことをいっさい訊かない寡黙な男でした。
 その日から、喜助は動けないわたくしのために食事の世話や小用を足す時にも手を貸してくれて、真に心根の優しい男でございます。

 毎晩、囲炉裏の傍で喜助は観音像を彫っておりました。
 小刀一本で彫った観音像は見事な出来映えで、頼まれていた、裕福な長者や商家に持っていってお金や食糧と交換して貰うのだそうです。
 わたくしに餅を食べさせてやりたいからと夜なべをして木彫りの観音様を彫っていました。
 山暮らしだが、どこか気品のある面立ちの喜助は平家の落ち武者の家系だと聞きました。平家はかつて都で貴族のように暮らしていた武士団のことで、源平の合戦で負けて一族は滅亡したが、その生き残りが山野に潜んで暮らしていたのです。
 姥桜(うばざくら)と言われたわたくしから見て、喜助は十歳ほど若い、少年の面影が残る顔に、山野で育った肉体は逞しく野性味があります。

 ある晩、わたくしの傷もそろそろ癒えてきた頃でした。
 囲炉裏端で、黙々と観音像を彫っていた無口な喜助が、珍しく話し掛けてきた。
「おまえは都からきた女か?」
 喜助が訊ねた。
「そうじゃ、京の都に帰ろうとしておった」
「都の女はおまえみたいにきれいなのか?」
「わたくしはもう若くない……」
「今まで見た、どの女よりもおまえはきれいだ」
「戯れをもうすでない」
「俺は木にぶら下がっていたおまえを見つけたとき、空から天女が舞い降りたのかと思ったほどじゃ……」
「嘘? 恥かしい……」
 わたくしは喜助の言葉に恥かしくなって袖で顔を隠した。
「隠さないで! もっと見たい」
 袖を払うと喜助は熱い眼差しで見つめた。囲炉裏の炎に照らされて、わたくしの顔は真っ赤になっていたことでしょう。
「名を教えて欲しい」
 世話になりながら、この男に名前すら教えていなかった。
「紅芭(くれは)」
「おまえが好きだ……」
 わたくしの肩を強く抱きしめました。
「紅芭、俺の嫁になってくれ!」
 突然の喜助の告白に、まるで小娘にように胸が高鳴りました。
 そのまま二人は抱き合い、身体を重ねました。小窓から差し込む月の光に酔ってしまったのでしょうか? いいえ、それは――あがなうことのできない運命だったのでございます。
  
 この身分違いの若者にわたくしは抱かれてしまいました。
 そろそろ傷も癒えて旅立ちを考え始めていたので、喜助と深い仲になってしまい、別れを切り出せなくなってしまいました。いずれ都へ帰らなくてはならぬ、この身にとって……喜助との縁は断ち難く辛いものでございます。
 ひと月ほど喜助と夫婦のようにして暮らしておりました。
 傷が治ったにも関わらず、旅立つ決心がつかず悩む日々。一日一日と延ばす内、このまま喜助と一生添い遂げたいという想いが、日に日に強くなって参りました。――わたくしも喜助のことを深く愛していたのです。




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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-21 18:40 | 時代小説

れきし脳 ⑧

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか


    第三巻 隴を得て蜀を望む ③

  果して、その夜――。
 斎姫は敗戦国の姫として、敵の君主に蹂躙されるという恥辱を味わうが……命が助かっただけでも善しと思い、どうせ女の身ゆえ、男の言いなりに生きるしか術がないのだと諦めて……父の仇に、その身を任せた。
 まだ若く穢れを知らない斎姫をことのほか劉操は気に入り、自分の後宮へ連れて帰った。
 その折り、側仕えの侍女たちを十人ほど連れて行きたいと所望された。娘みたいに若い斎姫には、さすがの劉操もすっかり甘くなって、なんでも望み通りに許した。後宮に入ってからも、劉操の寵愛が特別に深いので、誰も斎姫に手だしが出来なかった――。
 元々、呂晃の娘という名家の出でもある。
 おまけに側仕えの侍女たちは皆、腕に覚えのある女傑ばかりだ。惷蘭亡き後、正室はまだ誰も決まっておらず、後継ぎの男児もまだ生まれていない。もしも、斎姫が懐妊して男児を産んだら……間違いなく、劉操の正妻になるであろう。
 そのような事態を考えて、後宮の女たちは皆こぞって、斎姫のご機嫌を取るようになっていた。
 ――そして、期待通りに斎姫はすぐに懐妊し、待望の男児を出産した。

 劉操は待望の跡取り、男児誕生に歓喜して国を挙げて祝った。
 生まれた息子は劉晃(りゅうこう)と名付けられた。当然、斎姫は劉操の正妻になり、名実ともに後宮の支配者となった。
「劉鳳ゆかりの姫を大事にしているので、惷蘭の呪いが解けたのだ」
 劉操はそう考えた、斎姫にしか男児は生まれないと思い込み、いっそう大事にした。戦のない時には、後宮に入り浸って生まれたばかりの赤子と斎姫を愛でていた。決して口には出さないが……実は劉操は……劉鳳と惷蘭と娘たちを死なせたことを、心の奥で深く後悔していたのだ――。
 やがて配下の小国同士の小競り合いから戦いが勃発した。両国を制圧するために、劉操は戦地に赴くことになった。ようやく首が据わり、日に日に愛らしくなる我が子と若く美しい妻と離れるのは、劉操にとって辛かったが……君主たるもの私情で任務を拒んではならぬと、斎姫にうしろ髪を引かれながら、馬上の人となった。

 殊のほか、戦が長引いて……かれこれ半年近く劉操は戦地に居る。留守の間、斎姫や跡取りの劉晃は達者だろうか心配だったが……戦火が治まらず、ズルズルと半年の月日が経ってしまった。
 自国の国政も気になるので、一度、国元へ還る決心をした。
 わずかな、兵士を連れて劉操は帰還した。先に使いの者が知らせていたので、後宮では劉操の帰還を祝う華やかな宴が行われた。半年ぶりに見る、斎姫と我が子に目を細める劉操。赤子の劉晃は半年見ない間に、見違えるほど成長していた。劉操が抱こうとすると、人見知りをして大声で泣いた。半年も会わないのだから仕方がないかと、劉操は思ったが……やはり寂しかった。
 酒を呑み、美味い料理を食べ、傍らには斎姫と跡取りの劉晃。久しぶりの宴に、すっかり気分が良くなった劉操は《自分は貧しい村で生まれたが、今では、こうして一国の君主である。ここまで、やってきた自分は幸運な人間だった》と、つくづく思った。
 戦地から帰ってきて、緊張が解れたせいか、劉操は強烈な睡魔に襲われて、不覚にも眠ってしまった。

 なにか……鼻を突くような臭いで、目が覚めた。その臭いは今まで幾度も戦火に塗れた劉操のよく知っている臭いだ。
 ――血だ、血の臭いが鼻を突いた!

 ゆっくりと目を開けて、劉操の見たものは――。夥しい人の死体だった。宴の客たちが皆殺しされていた。後宮の女たち、子どもたち、踊り子や楽隊、警備の兵士たちも……皆、血を流して死んでいた。
 ……いったい、自分が眠っている間に何があったのだ?
「斎姫……劉晃……どこだ?」
 やっと我に戻って、劉操はふたりを探した。立ち上がろうとしたが……足が痺れて立つことが出来ない。意識はあるが、身体が動かないのだ。毒を盛られたかも知れない。
「だ、誰かぁー居らぬか?」
 かろうじて、声だけは出るようである。すると人の気配がした――。
「お目覚めですか?」
 部屋の隅の暗がりから、若い男の静かな声がした。
「誰だ、おまえは?」
「お忘れですか?」
「いったい誰だ? 名を名乗れ!」
「あはははっ」
いきなり男の嘲笑がした、そして暗がりから蝋燭の灯りの元へ。
「我が子の顔をお忘れですか? 父上様」 灯りに浮きあがった、その顔に劉操は目を見張った! そこに立っていたのは……死んだはずの我が子、劉鳳だった!
「お、おまえは死んだはずでは……?」
 亡くなった惷蘭に面影がよく似た、成人した劉鳳の姿だった。
「劉鳳は死んでいません! 呂晃殿が殺すのは不憫と許されました」
「しかし……おまえの遺髪、切り取られた耳が届けられた」
「わたしのではない! あれは病気で死んだ子どもから切り取ったもの。わたしは表向き死んだことになっていますが、呂晃殿の城の奥でこうやって生きていました」「なぜ、知らせをくれなかった?」
 意外な事実に劉操は狼狽した。
「いずれ劉操が降伏したら、その国を与えると呂晃殿は誓ってくださった。なのに……あなたの卑怯な戦略で呂晃殿は殺されてしまった」
 深く嘆いた声で劉鳳は言う。
「――だが、生きておったなら、この国の後継ぎは劉鳳おまえではないか!」
「あなたは罪もない母上惷蘭を惨い仕打ちで死なせてしまった! そのせいで憐れな妹たちも後を追ったと、わたしは聞きました。父上、あなたは自分の欲望のために、大恩のある祖父李硅や窮地を助けてくれた呂晃殿に恩を仇で返した外道だ!」
「そ、それは、悪かった、許してくれ……」
 劉操の謝罪の声を遮るように、激しい怒りの声で劉鳳が叫んだ!
「父上! 貴方を許さない!」

「その男を早く殺して!」
劉鳳の後ろから、女の声がした。その声は……?
「斎姫!」
 斎姫は劉鳳の傍らにぴったりと寄り添った。腕には劉晃を抱いている。その背後には、血の付いた刀を持った十数人の女傑たちがずらりと並んだ。
「父上、劉鳳と斎姫は二世を誓った仲です。斎姫は貴方のものになる前に、すでに、わたしと契っていました。――劉晃はわたしの息子だ」
「ええー!」
 劉操は驚愕した。
「すでに孕んでおったのじゃ! 呂晃の城でわらわを殿の前に引っ立てた兵士の顔をお忘れか? あれは劉鳳殿じゃあ」
「なんだと? おまえら謀ったなぁー!」
「あはははっ」
 高らかに斎姫が嗤った!
「軍略家の殿が騙されるなんて……お終いですわ!」
「父上、皆の恨みです。死んで頂きましょう」
「待ってくれい! お、俺は……なぁ! 聞いてくれ……」
 さすがの劉操も、この後に及んで敵を欺く術が見つからない。

 ――そして『稀代の軍略家』の首に刀が振り落とされた。



― 完 ―



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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-21 16:08 | 時代小説

れきし脳 ⑦

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古の人の情けに涙して 粋を知らぬは脳なしか


   第三巻 隴を得て蜀を望む ②

 隣国の君主、呂晃(ろこう)は、才気溢れる若い男だった。
 幽閉中の軍師劉操を助け、是非、我が配下に付けたいと思っていた。『良禽は木を択ぶ』という言葉がある。良禽(かしこい鳥)は木を択んで、賢臣は主を択んで仕えるという意味であるが、正しく、劉操にとって、君主呂晃との関係はそうであった。
 初めて劉操が、呂晃に謁見した時、彼は君主の身分でありながら劉操の手を強く握り。
「そなたこそ、稀代の軍略家!」
 その才を褒め讃えた。
 さっそく、ふたりは李郭の国を攻める作戦を練ることに――。勝手知ったる国のことゆえ、劉操の戦略でいとも簡単に李郭の国は攻め込まれた。
 戦いの途中から、敵軍の主だった武将たちが、そちらに劉操殿がおられるのならと……こぞって投降して味方に加わったため、あっけないほど落城は早かった。
 敗戦の色が濃くなって、こそこそ逃げ出そうとしていた李郭は、味方の将軍に見つかり「おのれ、逃げるか、この卑怯者め!」と首を刎ねられてしまった。
 そして降参の手土産として『李郭の首』は呂晃の元へ届けられた。

 その後、君主呂晃と劉操は巧みな戦略と鍛錬された兵士たちで、次々と隣国に攻め入り領土を拡大させて行った。やがて劉操も呂晃から小さな領土を貰い一国の君主となった。
 馬屋の小僧から、兵士、軍師、大臣、ついに君主にまで、その地位を上った劉操である。
 近隣の君主たちからは『稀代の軍略家』と怖れられていた。そして領民からは、農地を測り、その容赦ない年貢の取り立てに『恐王』とも密かに囁かれていた。
 一国の君主となった劉操は、狭い領土では飽き足らず国費を富、兵士を鍛え、巧みな戦略で近隣の小国を次々と侵略していった。むしろ、その動きに危機感を募らせたのは、かつての君主呂晃であった、彼は劉操の動向を牽制し始めた。

 ――突然、呂晃から婚礼の話がもち掛けられた。
 自分の娘、斎姫(さいき)五歳と劉操の息子、劉鳳七歳を結婚させたいとの申し入れだった。これは結婚とは名ばかりで、実は嫡子の劉鳳を『人質』によこせと言っているようなものだった。劉操の動きを封じるために、自分の国に嫡子劉鳳を預かって置こうという考えなのだ。
「まだ、七つになったばかりの劉鳳には可哀相でございます」
 妻の惷蘭は泣いて反対したが……だが、呂晃の話を断る訳にもいかない。
「劉鳳を差し出さなければ、いずれ呂晃と戦火を交えることになろう」
「それでは人質と同じではありませぬか?」
「もし戦火を交えれば……今の我が軍の人数では到底太刀打ち出来ぬ」
「いたわしや……劉鳳……」
 惷蘭は袖で顔を覆い泣き崩れた。そして劉鳳は――。
「父上様、母上様。きっと元気にこの国に戻って参ります!」
 笑顔で皆に手を振り、多くの家臣たちに見送られて呂晃の国へと旅立っていった。その健気な後ろ姿に、惷蘭はいつまでも泣いていた。

 そして五年の歳月が流れた。
 呂晃の国で暮らす、劉鳳からは時おり使者が、両親に宛てた手紙や描いた絵や書などが送り届けられていた。それを見る度に惷蘭は涙を流して喜んだ。
 一方、劉操は呂晃の配下の小国ではあるが、肥沃な土地で作物が良く育つ、南の小国が一つ欲しかった。当然、そこを狙えば、呂晃の逆鱗に触れることは重々分かっているのだが……その土地が欲しくて、欲しくて堪らなかった。
「あの肥沃な土地で採れた作物を、我が軍の兵士たちに食べさせ、肥らせれば、もっともっと我が軍は強くなる!」
 いつか、あの小国を奪ってやるぞと虎視眈眈と劉操は機会を狙っていた。

 そんな折、呂晃の国が長雨のせいで河が氾濫して大洪水になった。かなりの土地が水に浸かってしまい、大規模な水害のため呂晃の国は水が引くまで動けない状態になった。
 好期到来!と、ばかりに劉操は呂晃の小国に攻め込み、やすやすとその領土を手に入れた。
 ――洪水の最中(さなか)、配下の小国を奪われたことを知った呂晃は激怒した! 数日後、劉操の元に呂晃の使者が届けてきたものは……劉鳳の血の付いた衣服、遺髪、切り取られた耳だった。それらの遺品を見た瞬間、覚悟はしていたが……劉操は絶句した。妻の惷蘭は泣き叫び、錯乱し、気を失って倒れた。
 その日から、惷蘭は床に着いてしまった。妻の見舞いにきた劉操に、
「あなたが劉鳳を殺したのです! わたしの劉鳳は返して!」
 激しく劉操を責めた。そして惷蘭はふたりの娘を連れて母方の実家へ帰ってしまった。

 たとえ惷蘭が去ったとしても……一国の君主である劉操には、後宮に女たちを侍らせている。
 その中で特にお気に入りの愛妾、麗鈴(れいりん)は、元は踊り子であったが、戦勝の宴に呼ばれて、美しく舞っている姿を劉操が見染めて後宮に入れた。麗鈴は歌や踊りなど芸事も秀でていて、客馴れしているので、もてなし方も上手く、劉操にとって気の置けない、唯一、癒される女であった。
 寵愛されている麗鈴は後宮でも力を持ち始めていた、惷蘭が去った後の事実上、劉操の本妻の地位であった。やがて、麗鈴は懐妊して子を産むが女児であった。なんとしても世継ぎの男児を産んで、劉操の正妻になりたいと麗鈴は強く願っていた。
 翌年、二人目を懐妊出産するが、またしても女児であった。劉操も麗鈴も深く落胆した。
「あの女が呪いをかけているから、男児が生まれない!」
 挙句、麗鈴が道士に調べて貰った結果が、惷蘭が劉操に後継ぎが生まれないように呪詛しているというのだ。
 あろうことか、劉操は麗鈴の讒言を信じて、実家で娘たちとひっそりと暮らしていた惷蘭を無理やり城に牽き立てて、厳しく尋問を行い、そして自害させたのである。
 それでも惷蘭への嫉妬が収まらない麗鈴は……死して、なおも美しい惷蘭の遺体に対して整えた髪を掻き乱し、衣服を引き裂き、その口には糠を詰め込み棺桶にも入れずに葬らせたのだ。――げに怖ろしきは女の嫉妬である。
 その様を見ていた、惷蘭が産んだふたりの娘たちも母の後を追って自害してしまった。大恩ある将軍、李硅の娘に対する余りにも冷酷非道な劉操の行いに、家臣たちも眉を顰めたが……誰も彼を諌めることは出来なかった。
 この事件の翌年にも麗鈴は子を産んだが、またしても女児で、しかも生まれながらに身体に奇形を持つ児だった。――家臣の中には「惷蘭様の呪いだ」と噂をした。

 その頃には、劉操の麗鈴への寵愛もだんだんと薄れてゆき……若い女たちに移りつつあった。
 従って、後宮での麗鈴の力も衰え始めていた……。あろうことか、自分の召し抱える侍女に、劉操が手をつけたことを知った麗鈴は激しく嫉妬して、その侍女を折檻の果てに惨殺してしまった。その事実を知った劉操は憤怒した。嫉妬深く凶暴な性格の麗鈴には、ほとほと愛想が尽きていた劉操は、ついにこの女を処刑してしまった。麗鈴が産んだ三人の娘たちも「我が子ではない!」と母親と共に葬った。
 親として、人間として、尋常ではない劉操の行いである。

 そのように、私生活では悶着が絶えない劉操だったが……だが、戦略は冴渡っていた――。
 嫡子の劉鳳を殺された恨みから、劉操は呂晃を征伐する好機を狙って暗躍していた。隣国の小さな国を次々と侵略していき、序々に包囲網を広げていった。
 折りしも、呂晃の国が再び大洪水に見舞われた。国力の弱った呂晃の元へ劉操は大軍で攻め込んで行った。――劉操の圧倒的な勝利だった。ついに城を落とし、呂晃の首も落とした。
 兵士たちの戦勝品はもちろん敵の大将の首だが……彼らのもうひとつの楽しみは君主の後宮の女たちである。出来るだけ早く攻め入って、女たちが自害する前に我がものにしなくてはいけない。
 劉操は呂晃の後宮へと進み行く、すでに呂晃の正妻をはじめ、数人の女たちが折り重なるようにして自害していた。どれも身分は高いが若くも綺麗でもないので興味はない。呂晃は意外と堅物で後宮に若くて綺麗な女たちがいなかった。侍女たちは兵士の慰め者にくれてやる。
 戦いで血が滾る、この躯を慰めてくれる女はいないものかと探してみたが……好みの女がいなくて劉操は落胆した。
「殿! 殿!」
 劉操に呼び掛けながら、兵士が捕虜とみられる女を連れてきた。
「この女が隠れ部屋に潜んで居りました」
 見れば、まだ若い娘で高貴な衣服を身に着けている。呂晃の親族の者であろうか。
「そなた、名をなんと申す?」
 怒ったような顔で娘は黙っていた。その態度に怒った兵士が娘を小突いた。
「きさま! 殿にお答えせぬかっ!」
 娘はキッと怒りの眼で劉操を睨んだ。
 その眼は誰かに似ている。そうだ、呂晃にそっくりだった。捕虜になった呂晃の首を刎ねる時、そんな眼で劉操を睨んでいた。
「おまえは呂晃の娘だな?」
「……わらわは斎姫(さいき)」
「斎姫だと……」
 斎姫といえば、今は亡き劉鳳の婚約者だった姫である。正妻との間に出来た姫で、呂晃が特に可愛がっていたと噂に聞いた。七歳で呂晃の国に行った劉鳳だが、斎姫とも気が合って、まるで兄妹のように仲が良かったと聞く。
 その劉鳳を殺してしまったので、斎姫がとても嘆き悲しんで……後のちまで呂晃を困らせていたという。
 ――その斎姫、たぶん歳は十五か、十六であろう。
 肌の色が貫けるように白く、高貴な顔立ちである。身体は十分に成熟している、まだおぼこ娘かも知れない。――今夜の夜伽の相手は、この女に決めた。
「その娘を後で、わしの部屋に連れて参れ!」
 そう言い置いて、劉操はその場から立ち去った。
「今夜は殿がおまえを可愛がってくださるぞ」
 兵士はにやりと野卑な笑いを浮かべ、斎姫を引き立てた。




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   創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-03-20 15:40 | 時代小説