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萌える猫 画像 41

萌える猫 画像 41

TwitterやFacebookや2ちゃんなどから、
可愛い猫画像をコレクションしました。


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創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-31 13:03 | 猫画像(コレクション)


「世間知らずのお嬢様の麗華に世の中を見せてやろう!」

 大伯父さまのバイクに乗って街に飛び出しましたのよ。
 わたくしバイクに乗ったのは初めてですの、びゅんびゅん風を切って走るスピード感がスリリングですこと! このスリルは癖になりそう。おほほっ
 そして、バイクはダウンタウンの一角にある酒場の前で停まりました。
 なんだかとっても怪しげなお店なの。アーリーアメリカン調の古い木の建物で、ウッドデッキでお酒を飲んでいるお客たちはみんな黒いレザーのライダースーツ着ていますわ。まるでカラスの集団みたい――どうやら、ここはバイクの趣味の方々がお集まりになるお店みたい。

「麗華、ちょっと待っててくれい、バイク仲間に挨拶してくるから……」

 そういい残して、大伯父さまはお店の中に入っていきました。
 外に停めた大伯父様のバイクの前で待っていますと……黒いワゴン車がすぐ側に停まって、ちょっとヤンチャそうな若者が三人降りてきましたわ。
 急に足を止めて、大伯父さまのバイクを指差して、

「おおー! 見ろよ、すごいバイクだぜぇー」
「ハーレーダビットソンだ!」
「すんげぇー、一台で何百万もするバイクだろう?」
若者たちがバイクの周りに集まって、大伯父さまのバイクを勝手にベタベタと触りまくっていましたの。
 チラッとわたくしの方を見て、
「このバイク、ねぇーちゃんかい?」
「御免あそばせー、今、なんとおっしゃったのかしら?」
「ねぇーちゃんのバイクかって訊いてんだ」
「ねぇーちゃんって? なんのことでしょうか? わたくし聴いたことのない単語ですわ」
「だから、あんたのバイクかよっ!」
「いいえ、わたくしの大伯父さまのものでございますのよ」
「はぁ~? この女、ヘンなしゃべり方だぜぇー」
「身なりもいいし、どっかの金持ちのお嬢さまかもしれねぇーぞ」
 そういうと、彼らはわたくしを無遠慮にジロジロ見ましたの。イヤね!
「世間知らずのお嬢さまってタイプだなぁー」
「親はがっぽり金持ってそうだぜぇ~」
「俺、不景気で先週仕事クビになったんだ」
 わたくしの方を見る彼らの目の色が怪しいんですの!
「な、なんですの! ジロジロ見るなんて失礼ですわよ」
 わたくしが怒ってソッポを向くと、
「金持ち面しやがってムカつく!」
「この女、誘拐しちゃおうぜぇー!」
「おう!」
「ええぇ―――!?」
 
 その言葉に驚いて逃げようとしたけど……もう手遅れ! わたくし口を押さえられて、彼らが乗ってきたワゴン車に連れ込まれそうになった! 
 ひえぇ―――! 麗華最大の危機ですわ!
 必死の抵抗も虚しく、三人の男に押さえられて、わたくしを乗せた黒いワゴンは発進しましたの! 
『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』こと、麗華の運命やいかに……。あれぇぇ~!?

「可愛い顔したねぇーちゃんじゃん」
 ひとりの男はわたくしの顔をグッと押さえ付けながら言うのでございます。
「失礼ね! わたくしは誰だと思ってるの?」
「へへー、そんなのしるか、金持ちだったら誰でもいいよ」
「ザ・グレート・オブ・お嬢さま、蟻巣川麗華ですわ」
「あんたが誰だろうが、今は俺たちに誘拐された人質なんだぜぇ」
「……蟻巣川……なんか聞いたことあるぞ。たしか世界の長者番付にその変な名前があった。ネットで見たことある」
 ひとりの男がふいに思い出したように仲間に告げた。
「世界の長者番付だって? じゃあ身代金は十億は要求できるぜぇ!」
「いやいや、百億だっていける。もしかしたら一兆かも!」
 わっはっはっはっと、男たちは嬉しそうに大声で笑っている。
 人の命をお金に換算するなんて失礼ですわ! なんという屈辱でしょう……わたくし涙が零れてきました。
 ――と、その時ですわ! ワゴン車にガツンと衝撃が!?

「うわー! なんだこりゃ~!?」
運転していた男が大声で叫びました。
バイクに乗った男が金属バットでワゴン車の車体をガンガン叩いているのです。他の仲間も車の外を見て驚愕ですわ!
「なんだ? ハーレーダビットソンが追いかけてくる!」
「一台だけじゃないぞぉー、後ろからわらわらと……」
「ハーレーダビットソンが五十台以上くるぞぉ―――!」
「ひえぇぇぇ―――!」


 ハーレーダビットソンに乗った、イ-ジーライダーの一団に取り囲まれて、黒いワゴン車は路肩に停車させられた。
 麗華は無事に助けられて、三人の男たちは黒いライダースーツを着た強面の男たちに首根っこを掴めれていましたわ。
「ど、ど、どうか許してください!」
 三人の男は土下座して謝っている。
「麗華、大丈夫か?」
「大伯父さまー!」
 思わず、わたくしは大伯父さまに抱きついて泣いてしまいました――。
 とっても、とっても怖かったんですもの。

「スマン! わしが中でバイク仲間と長く話していたから……店から出てきたら、麗華がいなくて……冷汗がでたぞぉー」
 優しく麗華の頭を撫で撫でしながら、大伯父さまがおっしゃった。
「大伯父さまが助けにきてくれて良かったわ」
 無理やりワゴン車に乗せられる麗華を見ていたバイク仲間の通報で、すぐに後を追いかけたみたい。
 さっき、金属バットで車体をガンガン叩いていたのは、大伯父様だったようです。あらま! ワゴン車が凸凹ですわ。おほほっ

「リーダー! こいつらどうします? ブルーシートに包んで東京湾にでも沈めますかい?」
 筋肉隆々のプロレスラーみたいな大男が大伯父さまに訊ねてきた。
「まあ、殺さんでもよかろう」
「じゃあ、腕と脚でも折っときましょうか?」
 ポキポキと指の関節を鳴らしながら、プロレスラーみたいな男がいうと、三人の男たちは縮みあがって、ブルブルと震えていた。
「おい! おまえら、なんでこんな悪さをしたんだ」
 大伯父さまが威厳のある声で三人に話かけた。
「もう……こんなことしません! どうか命だけはお助けください」
 みんな泣きそうな声でした。
「誘拐なんぞ、もっとも卑劣な犯罪だ!」
「スミマセン! 俺たち仕事もなくて……お金に困っていたんです」
 地べたにおでこを擦り付け土下座しながら赦し乞う。――なんだか、ちょっと可哀相になってきちゃう。
「おまえら、働きたいのに仕事が見つからないんだな?」
「はい、不景気で仕事クビになったんです」
「――分かった! わしのところにきなさい」
「はあ?」
 三人はポカンとした顔で大伯父さまを見た。
「わしは世界中の“恵まれない子どもたち”に、クリスマスプレゼントするおもちゃを作っておるんじゃあ、わしの住んでいる敷地内におもちゃ工場があるから、おまえらもきて、そこで働けっ!」
「はい! お願いしまーす」
「よしよし……」
 黒いサングラスの口元が笑った。
 世界中の“恵まれない子どもたち”に、配るプレゼントを作っていたなんて、まるでサンタクロースみたい。大伯父さまってなんて素敵なんでしょう!
 その上、大伯父さまはハーレーダビットソンのライダー仲間で結成している『ハーレー彗星』のリーダーで、全国のハーレー愛好者の憧れの人なんですって!
 名家、蟻巣川家のアウトローだけど、タフで心優しい大伯父さまは麗華の誇りですわ。トレビアン!

「さあ、麗華帰るぞ!」
 ハーレーダビットソンの後ろに飛び乗った。
「大伯父さま、アウトローって素敵ですわ!」
「そうか、じゃあワイルドグッズをいっぱい買って帰るぞ。わははっ」

 そして、わたくしたちはスカルや血や悪魔の絵の描いた怪しげなお店でお買物をしましたの。ええ、とっても楽しいお店ですのよ。うふふ♪

 蟻巣川家の屋敷に帰ったら、上空をヘリコプターが数十台旋回していました。どうやら、わたくしたちを心配した、執事の黒鐘がヘリコプターを飛ばして行く方を捜査していたようですわ。
 ホントにもう! 心配性な爺やねぇー。  
 今日は怖い目にもあったけど、大伯父さまとお出かけができて、とっても楽しかったことよ。
 バイクは蟻巣川家のゲートを目指して、真っ直ぐに走っていく。
 あら? 門の前に黒い人影が……どうやら、黒鐘と鶴代さんのようですわ。早く顔を見せて安心させてあげましょう。うふっ♪

「黒鐘、ただいま!」
 泣きそうな顔で黒鐘が飛んできた。
「お嬢様、心配しました。よくご無事で……」
 ――と言いかけて、黒鐘の視線が止まった。
「どう? わたくしのこのファッション?」
「はあ? どうなされたのですか? そのまっ黒けのカラスみたい服は……」
「イケテルでしょう?」
「……そんな、骸骨や鎖の付いた黒い服は感心しませんなぁー」
 黒鐘が眉をひそめ渋面でいう。
「あら、そうかしら」
「ゴージャスな、お嬢さまらしいファッションがございましょう」
「そう、じゃあ、これはどうかしら?」

 くるりと後ろを向くと、スカル柄のジャンバーを脱いで、黒いタンクトップを見せた。わたくしの背中には、大きな蜘蛛のタトゥーがあった!

「ひえぇぇ―――!」

 それを見た瞬間、黒鐘が奇声を発して倒れた。

 あらら! 黒鐘って蜘蛛が苦手だったのかしら? 
 驚いて卒倒しちゃったみたい……お嬢さまだって、たまにはこんな冒険もしなくっちゃねー。
 もちろんタトゥーシールでございますわ。うふっ、御免あそばせぇー♪


― 第二話〔お嬢さまの社会見学〕 おわり ―




創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-29 20:53 | 現代小説

   第二話 〔 お嬢様の社会見学 〕

 キャア―――!!

 早朝の蟻巣川家に絹を裂くような悲鳴が轟いた。
 執事の黒鐘(くろがね)は、その声を聴き付けて大急ぎで、当家の令嬢麗華(れいか)の部屋へと駆けつけた。
「お嬢さま、どうなされましたか!?」
 見れば麗華お嬢さまが、ベッドの隅で身体を縮めてブルブル震えていました。
「な、なにがあったのですか?」
「く、黒鐘……で、でたのよ、あれが……」
「はあ?」
「そこにほらっ! いるでしょう? 虫が……」
 目を瞑って怖々指差す、ベッドの上にはわずか5mmにも満たない、小さな蜘蛛の子が一匹這っていた。
「この小さな蜘蛛ですか?」
「わたくし、虫は大嫌い! 早くなんとかして頂戴!!」
「はい、はい、かしこ参りました」
 蜘蛛の子を紙で摘まんで窓から逃がした執事の黒鐘は――。
 いくら温室育ちのお嬢さまとはいえ、虫けら一匹で朝から大騒ぎするとは困ったものだと、心の中で舌打ちをした。チェッ!
「わたくしの部屋に虫が出るなんて、許せませんわ!」
「まあ、あれくらいの小さな虫は我慢してください」
「イヤよ、イヤイヤイヤー!」
 わたくしはベッドの上で両脚をバタつかせて抗議しました。
 だって、どんな小さな虫だって大嫌いなんですもの。こんな虫の出る部屋なんかで眠れません!
「即、お引っ越ししますわ!」
「えぇ―――!!」
 その言葉に爺やは顔をしかめて驚いている。
「わたくし、他のお部屋に移ります」
「……お嬢様、またですか?」
 フゥーと、わざと大きな音で溜息を吐くんですのよ。失礼ね!
「二ヶ月前もお部屋に蚊がいたからと……、部屋替えしたばかりじゃないですか?」
「わたくし、虫は大嫌いですの。絶対にお引っ越ししますわ。お屋敷の見取り図を持ってきて頂戴!」

 わたくし、蟻巣川麗華(ありすかわ れいか)は由緒正しき、元華族の家柄ですの。名家生まれの麗華のことを皆さまが令嬢の中の令嬢だ。まさに『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』呼びますのよ。おほほっ
 当家、蟻巣川家は広大な土地に屋敷が建っていますの。本館、別館、新館と合わせるとお部屋の数は百以上はあるんです。さながらリゾートホテル並みの規模で、その中に住んでいるのは当主のひとり娘、わたくし麗華と執事の黒鐘、家政婦、コック、メイド、運転手、庭師、家庭教師、美容師、スタイリスト、警備員をいれても、わずか二十人ほどですわ。
 ほとんど使われていないお部屋ばかりなので、それぞれ四季に応じて、お部屋替えをしています。でも後片付けでなんやかやとお仕事が増えるので、執事の黒鐘はいつも渋面で乗り気ではないの。まったく使えない爺やだこと……。フン!

 お引っ越しする部屋を決まるため、メイドに言いつけて、お屋敷の見取り図を持ってこさせました。
 地図を広げて見れば、敷地内にはプール、ゴルフ場、野外コンサートホール、池や森もありますわ。あっ、滝もひとつ。わたくしでさえ、まだ隅から隅までは行ったことがありませんの。
 あらら、よく見れば見取り図の中に知らない建物が載っていますわ。西地区の端に小さな建物が、いつの間に……?
「黒鐘、ここ、この建物はなぁに?」
 わたくしが指差した、地図を見て、
「はあ? やや! いったい、いつの間にこんなものが!?」
 爺やも驚いています、どうやら知らなかったみたい。
「――そう言えば、いつだったか大型トラックが何台もお屋敷のゲートから入って来ていたもので、当主の御主人さまにお訊ねしましたら、知り合いが住む建物を西地区に建築中だから、気にしないで放って置くように、むやみに立ち入らないように、と申し渡された記憶がございます」
「まあ、お父さまがそんなことを……その建物に誰が住んでいるのか気になりますわ」

 わたしくの父、七代目当主の蟻巣川是仁(ありすかわ これひと)は、今は別宅の愛人宅に住んでおりますの。母の慧子(さとこ)は、美男子の秘書を連れて世界中を旅行中ですし、蟻巣川家で家族が顔を合わせるのは、年に十回くらいかしら?
 こんな風に家族の縁(えにし)が薄いのは、名家に生まれた宿命なのかもしれませんわ。小さなお家でひしめくように暮らしている庶民が羨ましく思えることもあるんですの。アハッ!

「わたくしの住む、屋敷の敷地内に得体の知れない建物が建っているなんてどういうことなの? 誰が住んでいるのか、今から調査に参りましょう!」
 その言葉に驚いた黒鐘は、慌てて遮るように、
「そ、それはダメでございます! ご主人さまに近寄るなと申し渡されて……」
「いいえ! 麗華の知らない秘密があるなんて許さない」
 この『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』麗華のプライドが許しません。キリッ!

 そして、わたくしの断固たる意見で、黒鐘と古くからいる家政婦の鶴代、それと警備員を二名連れて、移動用カートに乗り込みました。蟻巣川家は広大な土地なので屋敷の中を移動する時には、いつも専用のカートがありますのよ。
 西地区に建っている、その謎の建物に向けて、我ら蟻巣川探検隊はレッツ・ゴウー!! 


 窪田鶴代(つぼた つるよ)は、もう七十歳を越えるベテラン家政婦です。
 家政婦といっても、メイドやコックや庭師たちを取り仕切っているマネージャーのようなもので、蟻巣川家三代の当主に仕えた彼女は、まさに蟻巣川家の生き字引的存在ですの。
 先々代の当主の命令で鶴代さんは死ぬまで、この蟻巣川家の家政婦の座を約束されていますのよ。
あの執事の黒鐘でさえ、鶴代さんにかかれば『ひよっこ』扱いですもの。おほほっ

「黒鐘さま、執事のあなたが何も知らないなんて、おかしな話じゃあございませんこと?」
 チクリと棘のある言い方で鶴代さんがおっしゃる。
「はあ、誠に申し訳ない次第ですが……、ご当主さまから放って置くようにと申し渡されておりましたもので……」
「それでも、そっと偵察くらいはして置くものでしょう? それが執事の職務というものです!」
「……誠にもってその通りです」
「黒鐘さまの職務怠慢のせいで、大事なお嬢さまに何かあったらどうなさる、おつもり?」
「はあ、ですが……」
 黒鐘は鶴代さんにはいつも頭が上がらない。
「婆や、もう許しておやり。ちょっと抜けているところが黒鐘のプリティなところですわ」
「まあ、お嬢さま。確かにそうですこと。おっほっほっ」
 蟻巣川家のお局鶴代さんに黒鐘がイビられている内に、カートは謎の建物の前に到着しました。

 その建物の前に立ってビックリですわ。とっても奇妙な建物だから。 
 灰色の頑丈なブロックで造られた、高さ20m以上はあろう大きな円形の建物で、窓もなく外階段もなく大きな鉄の扉がひとつだけ。
 人が住んでいる建物とは思えないような佇まい――。
「なんですの? これは……」
「まるで砦みたいな、いや要塞かもしれない。さながらバベルの塔のようでございますなぁー」
「中に兵器でも隠されているのではないでしょうね?」
皆、口ぐちに不安そうな表情で囁きあった。
「これは危険です。お嬢さま、もう引き返しましょう」
 不気味な塔の前で、尻込みしながら黒鐘が言い出した……わたくしはとっても興味津々なのですわ。

「いいえ! わたくしはこの塔の中に入ります」
 蟻巣川麗華は何も怖れませんわ。わたくしには名家の令嬢としてのプライドがありますもの。時としてプライドは恐怖に打ち勝つパワーを持っていますのよ。
「黒鐘、マスターキーを渡して頂戴!」
 鍵穴に差し込みクルリと回すと、鉄の扉のロックが外れた。

「よろしいこと、開けますわよ!」

 ギィーギィー……重たい金属音を響かせて、ゆっくりと扉が開ていく――。

 なんとっ! 鉄の扉の向こうは熱帯ジャングルだった。
 うっそうと茂るシダ類や蔓を延ばした熱帯の木々が目の前に広がっていた。塔の屋根は全面ガラス張りになっていて、ここは大きな温室のような建物だった。
「こ、これは、いったいなぁに?」
 これには、さすがの麗華も驚きましたわ。
「ランボーが出て来そうな熱帯ジャングルでございますなぁ……」
「悪趣味な植物園ですこと」
 湿度が高くてムンムンしています。どこからか熱帯に棲む鳥の甲高い鳴き声まで聴こえてきます。うっそうと茂る蔓草が地面を覆い足元さえ見えませんわ。
 ――その時です!

「ぎょえぇぇぇ―――!!」
 隣を歩いていたはずの黒鐘が奇声を発して、目の前から忽然と消えました!
「黒鐘―――!」
「お―――い!!」
 みんなでキョロキョロ周りを見回しても黒鐘の姿がない。騒然としていると……。
「助けて……助けて……」
 足元から、声が聴こえてきましたわ。……あれは黒鐘の声!?
「……ここです。ここにいます」
 草むらをかき分けてみると、ポッカリと穴が開いていますの。その中から声が聴こえてくるようです。
「黒鐘、大丈夫?」
「お嬢さま、早く助けてください」
 泣きそうな声の黒鐘に、警備員たちがロープを下して助け出しました。深さ3mくらいの落とし穴でしたわ。いったい誰がこんなトラップを仕掛けたのかしら?

「ぜぇぜぇ……」
 落とし穴から助けられた黒鐘は息も荒く、自慢の執事服がどろんこになっていましたわ。あまりの悲惨な姿に思わず噴き出しそうになっちゃいました。麗華って悪い子ね! うふっ
「いったい誰が、こんな罠を仕掛けたのでしょうか?」
さすがの鶴代さんも動揺しているようです。
「お、お嬢さま、こ、ここは危険です! もう出ましょう」
 泣きそうな顔で黒鐘が訴える。
 今度くる時は、狙撃部隊がいるかも……と、麗華は本気で考えておりましたわ。
 ビュンと、何かが風を切って飛んできました!
「ぎゃあ、危ない!」
 木に刺さった矢を見て、鶴代さんが叫んだ。

「わしのアジトに入り込んだ貴様らは何者だ!?」

 いきなり奥の方から男の声が聴こえた。

 いったい何者なの? 危険な人物かもしれないわ。わたくしたちは恐怖で縮みあがりました。
 でも、奥から出てきた人物は、ツル禿げで、痩せた、白い山羊髭のお爺さんだった! 
 ブッシュマンのように裸足で腰蓑ひとつ、しかし背中には弓矢を差している。そして顔には、なぜか真っ黒なサングラス。――どう見ても怪しい人物ですわよ。

「ここは立入禁止地区じゃ、さっさっと立ちされい!」

 厳めしい声でお爺さんが怒鳴った。その声にみんなは縮み上がった。
 そ、その時ですわ! いきなり鶴代さんが叫んだ。

「亀ちゃん!」
「……ん?」
「亀ちゃん、あたしよ」
「おおー! あんたは鶴ちゃんかぁ~」
「亀ちゃん、懐かしい」
「――鶴ちゃん、おぬしも達者そうじゃあのう」
 そう言いながら、ふたりは再会のハグをしている。
 鶴代さんと旧知の仲とは……このお爺さんはいったい何者かしら!?
「婆や、その方はどなたですの?」
「お嬢さま、この方は先々代のご当主の蟻巣川亀仁(ありすかわ かめひと)さまでございます」
「ええぇ―――!?」

 これには、わたくし驚きましたわ。父の是仁(これひと)の前の当主は、祖父の鷹仁(たかひと)でした。――確か、その前の当主は祖父の兄だった人で、たった三ヶ月で当主を辞めて、放浪の旅に出たと父から聞いたことがあります。
 ずーっと行方不明だったのに、まさか生きていたなんて……?
「じゃあ、この方はわたくしの大伯父さまでいらっしゃいますの?」
「そうでございます。お祖父さまの兄上の亀仁さまでいらっしゃいますよ」
 裸足で腰蓑をつけた変な老人を、恭しく鶴代さんが紹介しました。
「この子は是仁の娘か? ほほう、なかなか美人じゃなぁー」
「大伯父さま、初めまして。わたくし麗華と申します」

 わたくしはスカートの裾を摘まんで片足を曲げ、貴族のお姫さまみたいに、ご挨拶を差し上げました。
「わしは長い旅に出ておったからなぁー、何もかも変ってしまったわ」
 そういうと感慨深げにツルツルの頭を撫でている。
 この奇妙な老人に麗華は興味が湧いてきました。名家の令嬢が不躾なこととは分かっていますが、ついつい質問をしたくなりましたの。御免あそばせー。

「大伯父さま、ご質問申し上げても宜しいこと?」
「ふむ、何じゃ?」
「わたくし、行方不明の大伯父さまは死んでいると父から聞いておりましたの。まさか元気でいらっしゃるとは驚きましたわ。――なぜ、わたくしの両親の結婚式やお祖父さまが亡くなった時にも、蟻巣川家にお戻りになられなかったのですか?」
 その質問に大伯父さまは困ったような顔で答えた。
「……そうなんじゃが、帰れなかったのだ。是仁の結婚式の時、わしはモロッコで傭兵として雇われて戦っておったし、鷹仁が死んだ時は……南米クスコの大洞窟を探検中で道に迷って出てこれなんだ。麗華が生まれた時には、アフリカで裸族になっておったわ」
「大伯父さまって、そんな風に世界中を歩き回っていらっしゃるの?」
「そうじゃ、わしは冒険家なのだよ」
 自慢そうに、白い山羊髭をしごきながらいう。
「どうして、名門蟻巣川家の当主の座を捨てて冒険家になられたのか、理由(わけ)を聞かせてくださいませ」
「――そうか、少し長い話だが聞いてくれるかのう?」
「はい! 喜んで」
 わたくし大伯父さまの話にわくわくしました。うふふっ

「父が急逝して、十七歳でわしは蟻巣川家の当主を継いだんじゃが、まだ若いのでいろいろやりたいことがあった。その頃、うちにメイドとして鶴代さんが雇われてきた。わしと鶴代さんはお互いにひと目で好きになったんじゃ、初恋であった。そして、わしら二人は結婚したいと望んだが……周りの者たちに身分違いだと猛烈に反対されてのう、引き離されそうになった。
 何もかも嫌になって、わしは弟の鷹仁に当主の座を譲り、ひとりで放浪の旅にでたんじゃよ。その時に鶴代さんが路頭に迷わないように、蟻巣川家で終身雇用を約束させた。
 二度と日本には戻らないつもりだった。――いくらかの現金は世界中の銀行に預けてあったので、それを資金にして世界中を冒険しておったのじゃ。だが、一日たりと鶴代さんのことを忘れたことはない! オーストラリアのエアーズロックの頂きから星空を見上げて、わしは鶴代さんの幸せを祈っておった!」

 その言葉に鶴代さんのすすり泣きが聴こえた。
 あの気丈な鶴代さんが泣くなんて……ずっと結婚もしないで、蟻巣川家に仕えていたのは、きっと大伯父さまの帰りを待っていたからなのかもしれない。なんて純愛なの! 麗華、もらい泣きしちゃいますわ。 グスン……。
 もう、ふたりを引き裂く障害はありません! この麗華が大伯父さまと鶴代さんを応援しますわ。ハイ!
「最近なぁー、甥の是仁と連絡が取れて……わしもこの年で日本が懐かしくなって……そっと、内緒で帰ってきた訳なんじゃあ。まさか、鶴ちゃんが元気で蟻巣川家にいるとは思わなんだ。わははっ」
 その言葉に鶴代さんも嬉しそうに笑った。

「――そんな風に世界中を自由に飛び回る大伯父さまが羨ましいわ。麗華なんかひとりではどこにも行かせて貰えないんですの。いつも黒鐘か、ボディーガードが付いてくるから……」
「そうか、お嬢さまは不自由なもんじゃのう」
「ええ、まるで籠の中の小鳥ですの」
「ひとりで外出など飛んでもありません! 虫っこ一匹殺せないような、か弱いお嬢さまにそんな危険なことはできませぬ!」
 黒鐘が渋面でキッパリという。

「感心せんのう。脆弱なお嬢さまに躾けるのは……」

 う~んと腕組みをしながら大伯父さまが言った。
「よしっ、こい! 麗華はわしが躾てやろう。」
 そういうと大伯父さまはわたくしの手を引っ張って、勢いよく走り出したんです。あーれー、どこへ連れていかれるのでしょうか? 
 しばらく走ると大きなログハウスが見えてきました。
 あれが大伯父さまがお住まいのお家でしょうか? 建物の側には人工の池があって虹色の噴水があがっていますわ。トレビアン!

「ここで待っておれい、わしは支度をしてくるから……」

 裸足に腰蓑を着けただけの大伯父さまは、建物の中に入って行きました。
 しばらく待っていると、ブォンブォンという騒音と共に一台の大型バイクが建物から出てきた。マシンには黒いレザーのライダースーツに身を包んだ人物が乗っております。
 ヘルメットで顔が見えませんわ。あのライダーはいったい誰かしら?

「麗華、ほれっ、後ろに乗るんじゃ!」
 わたくしにヘルメットを投げて寄こした男の声は、大伯父さまに間違いない。
 それにしても、さっきの裸族と大違いですわ。麗華ビックリ!
「しっかり掴まっておれよ!」
「はい、大伯父さま」
「行くぞぉ―――!」

 ブォンブォンとエンジン音を響かせてバイクは走り出した。わたくしたちの後を追いかけてきた黒鐘たちが驚いた顔で見送っています。
 これから、どこへ行くのかしら? 麗華わくわくですわ♪





創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-28 20:29 | 現代小説


   第一話 〔お嬢さまの取扱説明書 〕

「お嬢さま、おはようございます」

 朝の挨拶と共に、いつものように執事の黒鐘(くろがね)が、わたくしを起こしに来ました。

「あん、もう少し眠らせてちょうだい」
「なりません、お嬢さま。今日は午後から大事なお茶会がございます」
「後、三十分だけ眠らせて……」
「さあ、ブレックファーストの用意が整っております。冷めない内にどうぞ召し上がれ」

 爺やの石頭、全然融通が利かないんだから!
 わたくしは仕方なく、天蓋付きのベッドからしずしずと起き上がるとシャワーを浴びて、着替えを済ましてから、朝食の席に着きました。
 今朝はサンルームのテーブルにブレックファーストが設えてあります。

 ここは温室になっていて、一年中蘭や薔薇が咲いていますの、そこから眺める広いお庭は青々とした芝生と美しい季節の花々が咲き乱れておりますわ。
 だけど、こんな風景もの毎日見ていたら感動なんてありません――。
 いつの間にか、足元にマンチカンのシャナが摺り寄ってきて朝の挨拶をします。まあ、なんて可愛い子なんでしょう。わたくし猫が大好き。だって、いつも自由なんですもの。それに比べてわたくしの日常なんて、雁字搦めで何ひとつ自由が利かないんですわ。
 嗚呼、お嬢さまって本当は苦労が多いんですのよ!

 わたくし、蟻巣川麗華(ありすかわ れいか)は由緒正しき、元華族の家柄ですの。華族といってもお分かりにならない方もいらっしゃるので、執事の黒鐘から、少しだけご説明差し上げますわ。
「――では、執事の黒鐘がご説明いたします。そもそも華族(かぞく)と申しますのは1869年から1947年まで存在した日本近代の貴族階級のことでございます。公家に由来する華族を公家華族、江戸時代の藩主に由来する華族を大名華族、国家への勲功により華族に加えられたものを新華族、臣籍降下した元皇族を皇親華族、と区別いたします。これにより華族は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五階の爵位に叙されました。ようするに……」
「黒鐘! もういいわ。そんな長い説明聴いていたら……わたくしまた眠くなりそう」
 我が蟻巣川家は皇族の親戚筋の華族ですので元侯爵家でございますわ。そう、だから皆さま、わたくしのことを『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』って呼ぶんですのよ。おほほっ

「失礼いたしました。ではメイドに料理を運ばせましょう」
 執事がチリンとベルを鳴らした。すると、三人のメイドがブレックファーストを運んで参ります。
 トリュフ入りのオムレツ、キャビアの乗ったサラダ、ブルガリアから空輸したヨーグルト、そして本場フランスのパン職人が焼いたクロワッサンなど――。
 バカラのグラスに注がれたフレッシュジュースをひと口飲んで、テーブルに並べられた料理をひと目見るなり、わたくしフンと鼻を鳴らしましたわ。

「要らないわ、全部下げてちょうだい」
「お嬢さま、朝食抜きはお身体に悪うございます。どうか、お召し上がりください」
「要りません」
「そんなことをおっしゃらずに……どうか……」
「食べたくない!」

 わたくしが強くそういうと、黒鐘は困った顔でパンパンと手を打って、メイドに別のものを持って来させました。
 そして、しずしずとマイセンのお皿に乗って運ばれてきたモノは、そう、わたしくの機嫌が悪い時に出される、アレですわ!

『焼きいも』

 甘く美味しそうな匂いがお皿から漂ってきて、わたくしのお腹は「グゥー」と反応します。口の中には涎が……ああ、もう我慢できませんわ!
 夢中で焼きいもの皮を剥くと大口をあけて、パクリとかぶりついた。

「トレビアン! 世の中に焼きいもほど美味しいモノはございませんわ」

 わたくし焼きいもを目の前にすると、名家の令嬢のプライドも気品もなくしてしまうの。そんな、わたくしの様子を執事の黒鐘が苦々しい顔で見ています。どんな一流のパティシエの作るスイーツよりも、焼きいもは最高ですわ! おほほっ

  三年前、わたくしと焼きいもとの運命の出会いがありました。
 その日はオペラを観て帰る途中でした。ロールスロイスの車内で運転手に喉が渇いたというと、その日はティーセットのポットを積み忘れていて、ただちに停車して「飲みものを買って参ります」と運転手がいうので、わたくし車内で待っておりました。
 十五分経っても運転手は戻らず、退屈した、わたくしはロールスロイスから降りて辺りをフラフラしておりましたのよ。
 その時です! 不思議な声が聴こえて来ました。

『石焼きいも~♪ 石焼きいも~♪ 美味しい美味しい石焼きいもはいかがですかぁ~♪』

 それは何度も、エンドレスリピートで鳴り響いておりました。
 わたくし、にわかに興味を覚え、小さなトラックを止めて『石焼きいも』なるものを買うことにしました。
「御免あそばせ、石焼きいもってなんですの?」
「おやまぁー! えらい豪勢な格好のお嬢さんだねぇー」
 真冬だったので、わたくしブルーフォックスの毛皮のコートを羽織っておりましたかしら? おじさんが窯の中から取り出して見せてくれました。――こんなの初めて見た。 
「その石で焼かれている芋をください」
「へい! お幾つ?」
「トラックごと全部」
「えぇ―――!?」
 おじさんは目をまん丸にして驚いていました。
 わたくしがアメリカンエキスプレスのセンチュリオン・カード(通称ブラックカード)を見せて、これでお願いっていうと……。
「お客さん、うちはカード払いできません」
 あらっ、困ったわ。――わたくし現金なんて持ち歩いたことがないんですもの。
 おじさんとスッタモンダしているところへ、うちの運転手が帰ってきて現金を払って、焼きいもを買うことができました。
 そして、ロールスロイスの車内で食べた、焼きいものなんと美味しいこと! 目からウロコですわ。こんな美味しいモノを庶民が食べているなんて許せません!
 さっそく帰ってから、執事の黒鐘に石焼きいもの器具を購入させました。だけど、わたくしがあんまり焼きいもに夢中なので、こんな下品なモノを蟻巣川家の令嬢が食べていることが世間にバレたら……家名に傷がつくと密かに心配しているようですわ。うふふっ



 ――と言っても、わたくしの機嫌の悪い時は、宥めるのに効果抜群なので『家伝の宝刀』とばかりに、いざとなったら焼きいもを持ち出すくせに……。フン!
 さてさて、今朝も黒鐘の止めるのも聞かずに焼きいもを五つもたらふく食べてしまいました。お腹がパンパンになって、ゲップ! 
 あらっ、わたくしとしたことが……御免あそばせー。
 
 午後から、徳川家の末裔、松平家のお屋敷でお茶会がございますの。
 次期当主の松平健史郎(まつだいら けんしろう)さまはわたくしのいいなづけで、幼い頃から両家で結婚を決めていた相手なんですの。
 今日は留学先のロンドンからお帰りなられたので身内だけのパーティがあって、当然、いいなづけのわたくしも招待されていますわ。

 嗚呼、お嬢さまは自分で結婚相手を選べないんですの。
 籠の小鳥のわたくしは親が決めた男性と結婚するしかないのです。――それは名家の令嬢に生まれた宿命なのだから仕方ありませんわ。
 こっそり、爺やがいうのには……名家の令嬢は家のために結婚して、子どもを産んで相手の一族と血が繋がったら、後は隠れて自由に恋愛したっていいんですって――。
 そういえば、お母様はいつも美男子の秘書を連れて世界中を旅行しているし、お父様だって、他所にも家があって……そこの家族と暮らしています。
 蟻巣川家で家族が顔を合わせるなんて、一年に十回もありませんもの……。それぞれマイライフを楽しんでいるから、庶民と違って、これが普通なんですわ。ふぅ~

 松平家のお茶会は身内の集まりといっても、広いホールには百人近い親族が集まっておりました。今日のパーティの主役は健史郎さまと婚約者のこの麗華ですの。
 わたくしたちは招待客の前で仲よくワルツを踊って見せました。華麗なステップで踊るふたりに似合いのカップルだと皆さまの溜息交じりの囁き声が聴こえてきます。
 薄いピンクのシルクのドレスを身に纏った、わたくしはまるで妖精のように美しいのでございます。
 どこに居たって『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』こと蟻巣川麗華は、憧れと羨望と的ですのよ。おほほっ

 先ほどから、わたしく下腹が張って苦しいんですの。
 今朝、焼きいもを食べ過ぎたせいですわ。どうしよう……どこがで……ガス抜きをしないと……ううぅ~、苦しい。
 いくらお嬢さまだって、人の子ですもの生理現象には勝てませんわ。
 テラスに人が居ないのを確かめて、わたくし……そっと、パーティから抜け出して、テラスでお腹のガスを抜こうとイキんだ瞬間! あらまっ、だれか来ました。

「麗華さん、どこにいったのかと探しましたよ」
「健史郎さま」
 優しく微笑みながら婚約者が近づいてきました。
「今日の貴女は美しい。麗華を妻に出来るなんて僕は幸せ者だ」
 そういって、わたくしをギュと抱きしめたのです。
 ああっ! 止めてお腹がポンポンに張って苦しいの。押さえたらガスがでちゃう!
「麗華、愛してる!」
 わたくしの唇に熱いキスをしました。
 まあ、わたくしのファーストキス! 婚約者同士ですもの構わないわね。ああぁ……蕩けそうなキッスに、わたくしの身体の力が抜けた瞬間に!
 
 プウゥゥゥ―――と大きな音と共に、ガスの臭いが周辺に漂った。

 さすが『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』おならの音もグレートだった! おほほっ、御免あそばせー


― 〔お嬢さまの取扱説明書 〕 おわり ―

 ※ ブラックカードとは、アメリカン・エクスプレスが発行するセンチュリオン・カードです。
   これはプラチナの上に君臨する一枚で、通称ブラックカードと呼ばれています。
   なんと年会費が350,000円という驚異の金額、利用限度額無制限、
   専任コンシェルジュ付きで貴族のようなサービスが受けられます。
   まさにセレブのためのブラックカード!!






創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-27 20:14 | 現代小説

   第六章 計画

 まだ夜が明け切らない時刻に、父の慎一が帰ってきた。
 たぶん、どこかで酔い潰れていたのだろう。父は徹に脅迫状を書くように命じた、具体的な人質と金銭の受け渡し方法である。
 長い文章だったが、父のしゃべる言葉をそのまま聴いてノートに書き写していく。

 ……計画はこうだ。
 今夜九時に駅構内のコインロッカーに三千万円の入った鞄を預けること。
 その後、公園の電話ボックスの電話帳の間にコインロッカーの鍵をはさんで、その場から立ち去ること。
 その鍵でコインロッカーを開け、鞄の現金を確認したらコインロッカーの中に人質の居場所を書いた紙を入れて置く。
 もし警察に連絡したり怪しい行動を取ったら、娘の命はないと思え!

「娘の命はないと思えって……?」
 最後の言葉に驚いて徹は訊き返した。
「まさか、父ちゃん! その子をやっちゃうんじゃないだろうな?」
 真剣な顔で父に問う。
「人殺しなんかしねぇーよ、金さえ貰えればいいんだ、娘は殺さない……」
 殺すという言葉に徹は背中に冷たいものを感じた。
 嫌だ! 可奈子は死なせない! 絶対に俺が守ってやる! 心の中で叫んだ。
「そんな度胸は俺にはないさ……」
 今日は珍しく素面の慎一だった、酒さえ飲まなければ父はいたって小心者なのだ。

 今夜の計画実行まで姿を消すので、逃げないように娘をちゃんと見張っておけと徹に言い残して父は姿をくらました。早朝、徹は命じられたように佐伯家に二通目の脅迫状を届けに行った。
 ポストに手紙を投げ込み、塀の隙間から中をうかがった。きっと、この家の中では誘拐された娘を心配して、一睡もしないで朝を迎えた両親がいるんだろうなあ?
 父のやったこととはいえ、徹は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。犬小屋に入れられているのか? 二匹の番犬に、今朝は吠えられなかった。
 この静けさが、みょうには不気味なんだと……徹には思えてきた。

 その足でコンビニへ寄った。
 珍しいことに、わずかだが父がお金を置いていってくれたのだ。食料品とお菓子を買う、可奈子が喜びそうだとチョコレートも買った。
 急いで廃屋に帰り、押入れに隠していた可奈子を出してやる。人質の可奈子は手と足をヒモで縛って、口にガムテープをして押入れに隠して置くようにと、父から厳しく言われていたのだ。
「ごめん……痛くなかったか?」
 ヒモをほどきながら徹は謝った、本当はこんな手荒なことはしたくない。
「ううん……」
 自分で口のガムテープをピリピリ剥がしながら、可奈子が返事する。
「腹減っただろう? 飯作るから……」
 昨日、誘拐されてから可奈子は食事を与えられていない。
「それまで、これ食べてなよ」
 買ってきたチョコレートを可奈子に手渡した。
「ありがとう! 可奈子チョコレート大好きなの!」
 美味しそうにチョコレートをほおばった。
 そんな可奈子を見て、絶対に無事に家に帰してやるからと、徹は心の中で強く誓った。


   第七章 願い

 カセットボンベでお湯を沸かし、カップ麺を作って可奈子とふたりで食べた。
 カップ麺を食べるのは、生まれて初めてだという可奈子は、「美味しい、美味しい」と喜んで食べていた。誘拐されて人質になっているくせに、のん気な可奈子が徹には不思議でならない。
 たぶん、この子は苦しんだり悲しんだり絶望することなく育ってきたのだろう。
 だから、本当に怖いということをまだ知らない。俺らとはまったく違う世界の人間なんだ、可奈子は温室育ちの花だから――。

「ねぇ、トオルくんは神様を信じる?」
 ふいに可奈子が そんなことを訊いてきた。
「信じない!」
 即座に徹はそう答えた。
「どうして?」
 悲しそうな瞳で可奈子が問う。
「だって……神様なんか見たことないし、俺は助けて貰ったことない」
「そうなの? でもね、気づいていないだけで神様はちゃんとトオルくんのことを見てるのよ」
「んなことあるか! だったら、どうして母ちゃんと妹に会わせてくれないんだ。神様は俺にだけイジワルだ!」
「……たぶん、それは神様が与えた試練なのよ」
「しれん? 試練ってなんだよ。やっぱりイジメじゃんか」
 やり場のない怒りを徹は可奈子にぶつけた。
 今こうして、誘拐されている可奈子の方がよっぽど厳しい試練だと気づきもしないで……。

 今夜九時に駅の構内で待っているように父に言われている。首尾よく身代金を受け取ったら、その足で逃げる手筈だ。
「俺、もう行かないといけないから……」
 父に言われた通り、可奈子の手をヒモで縛りながら言う。
「もうすぐ、可奈子のお父さんとお母さんが迎えにくるから……」
「…………」
「もう少しだけ我慢してくれよ」
「うん……」
 悲しい顔で可奈子が頷く、徹にされるがままに大人しく従っている。
 足も縛ろうとヒモをかけたが……もしも、何かあったら可奈子が自力で逃げ出せるように足をホモで縛るのは止めておいた。
「可奈子、ごめんな……」
 最後に口をガムテープで塞いだ。
 今にも泣き出しそうに、何度も目を瞬いていた。そんな可奈子の顔を見るのが切なくて……。徹は目を逸らした。

 ふと、ダンボールに並べた四つ葉のクローバーに目をやった。それは放課後、徹が原っぱで見つけた四つ葉のクローバーである。
「これを……」
 そのひとつを摘んで可奈子に見せた。
「四つ葉のクローバーに願いをかけると叶うんだ。」
 徹はじっと目を閉じて、心の中で願い事を唱えた。
 神様は信じないと自分でいっておきながら、やはり何かに縋らないと不安でしかたなかった。
「可奈子が無事に家に帰れるように願いをかけたから、絶対に大丈夫!」
 紙に包んで可奈子の服のポケットに入れた。押入れを閉めるとき、濡れた瞳で徹をじっと見つめていた。

「さよなら、可奈子」
 今日で可奈子は家に帰れるんだ、良かったと思う反面、もう一生、可奈子と会うことは無いだろうという寂しさが、徹の胸を震えさせた。
 普通なら出会うこともない、徹と可奈子だが……誘拐された少女と犯人の子供いう、稀有の運命がふたりを引き合せた。
 そして、ふたりの心にはいつしか“強い絆”が生まれていた。


   第八章 火事

 駅の構内で徹は父を待っていた。
「父ちゃんどうしたんだ……」
 九時はとっくに過ぎているのに、慎一はいつまで経っても姿を現さない。
「計画失敗したんだろうか?」
 不安で徹は落ち着かない、それよりも心配なのが可奈子のことである。
 無事に両親の元に帰れたのだろうか? 心配で居ても立ってもいられなくて……。徹は可奈子の様子を見るために、こっそり廃屋に帰ることにした。

 廃屋の周りの有刺鉄線を抜けて敷地に入ると、なぜか人の気配がしていた。
「あれれ、父ちゃんが帰ってきてるんか?」
 割れた窓ガラスから中に入ると、つんと鼻を刺す臭いがする。
「なんだ、このニオイは……?」
 部屋に入ると父がペットボトルに入った液体を部屋中に撒いていた。つんと鼻を刺すようなその異臭は、まぎれもなくガソリンの臭いだった。
「父ちゃん、なにやってるんだ!」
 驚いて、徹は大声で叫んだ!

「徹、失敗だ! サツの手がまわった!」
「このままじゃあ、父ちゃん捕まっちまう!」
「ちくしょう、ちくしょう! なにやっても上手くいかねぇー!」
 血迷った父は大声で叫びながら、部屋中にガソリンを撒いている。しかも酔って泥酔状態である。心の弱い父は事が上手くいかないと、すぐにお酒に走る人間なのだ。

 電話ボックスにコインロッカーの鍵を取りに行った父は、遠くから電話ボックスの様子を覗う男たちの姿を見てしまい勘で警察だと思った、それで怖くなって鍵も取らずに逃げ帰ったらしい。
 そして証拠を消すために廃屋を燃やそうとしている。
「徹、全部燃やして俺らは逃げるんだ!」
 そういうとダンボールの上に灯したロウソクを取ろうとした。
「父ちゃん! あの子はどうするだ?」
 押入れを開けると、そこには恐怖で引きつった可奈子がいた。

「その娘は俺らの顔を見てる! もう殺すしかねぇー」
 その言葉に驚愕し、愕然となり、徹は言葉を失った……。まさか父が可奈子を殺そうと考えてるなんて……信じられない。
 あのとき、娘は殺さないって言ったくせに、父ちゃんの嘘つき!
「その娘ごと全部焼いちまうんだ!」
「可奈子は殺さないって言ったじゃないかっ!」
 ろうそくを持った父を止めようと徹は必死だった。
「父ちゃんの嘘つき! ダメだ! 絶対にダメだぁー!」
 しばらく、父と揉みあったが殴られて弾き飛ばされた。父は押入れから可奈子を引きずり出すと、ガソリンを掛けようした。片手には火のついたロウソクを握っている。
 その光景を見た瞬間、徹の頭は真っ白になった!
「可奈子が殺される!」
 徹は満身の力を込めて、父に体当たりをした。
「やめろー!!」
 その勢いにもんどり打って父は壁に激突して倒れた。その時、手に持っていたガソリンが着衣にかかり、ロウソクの火が引火して、あっという間に、父は炎に包まれた!
「父ちゃん!」
 徹は絶叫した! しかし炎が激しくどうすることも出来ない。
 やがて、火は部屋中に燃え広がった。早く逃げないと火に巻かれて焼け死んでしまう、とっさにやかんの水を可奈子にぶっかけ、腕を掴んで必死で徹は逃げた!
《あの時、足を縛らなくて良かった……》
 振り返った時、炎の中で火ダルマになった父が、断末魔の叫び声をあげながら、徹たちを追いかけてくるように見えた。
 ――その光景はずっとずっと後まで、悪夢となって追いかけてきた。
 火の中を掻い潜り、可奈子とふたり外へ逃げ出した……。

 力尽きて気を失う瞬間、徹は誰かの声を聞いたように思った。薄れいく意識の中で誰かが必死で自分の名前を呼んでいた。
 あれは可奈子の声だったのかもしれない……。
「可奈子……」
 徹は気を失った……。


   第九章 家族

 永い眠りから覚めるように、ゆっくりと徹は意識を取り戻した。
 気がつくと病院のベッドに寝かされていた、足と手の甲に火傷を負っていた。あの火の勢いで命が助かっただけでも奇跡だった。
 ベッドの側には母と妹がいた、あれほど会いたかった徹の家族だ。

 母の郁恵は徹の無事を喜び、家に置いて出たことを泣きながら何度も何度も謝っていた。家出をしていた母は、お店のお客さんだった会社の社長の紹介で、運送会社の社員寮で住み込みの賄いの仕事をしていた。
 ひと部屋もらって住まわせて貰っていたが、とても子供二人も連れていけなくて、幼い妹の亜矢だけ連れていったのである。
 時々、母は徹の様子を見に来ていたらしい、遠くから下校する徹を見て泣いていたとハンカチで目頭を拭いながらいう。原っぱで、ひとり四つ葉のクローバー探す徹の姿を見て知っていた。

 母ちゃんから完全に捨てられたわけじゃないんだ、徹の目から涙が溢れた。
 もうちょっとしたら生活も落ち着くし、そしたら徹を迎えに行こうと思っていた、矢先のこの事件だった。
 母は夫慎一の暴力に怯えていたので、亡くなって少し安堵しているように思えた。
「母ちゃん……あの女の子はどうなった?」
 恐る恐る徹は母に訊いた……。
 女の子はケガもなく無事に助けられたよと母が答えた。それを聞いて徹は安心して、ふたたび深い眠りへ落ちていった――。

 徹の手足の火傷も癒えて、やっと退院することになった。
 手の甲には醜い火傷の跡が残ったが、それよりも心にもっと深い傷跡を残した。実の父を不可抗力とはいえ焼死させてしまった罪悪感は重く、とても拭いきれない。
 あの時、必死で廃屋から逃げ出し意識を失ったが……すでに警察の手が回っていて、すぐにふたりは発見保護された。
 可奈子の誘拐に使った軽のミニバンに工務店の社名が入っていて、誘拐されたと思われる場所(可奈子の靴が片方だけ落ちていた)から、急発進する不審なミニバンを目撃した人が多くいた。元々白昼の拉致は人目につきやすいものだ。
 結局、工務店の社名から簡単に足がつき、父の慎一はすでに警察にマークされていたのだ。廃屋の周辺は機動隊が包囲し、いつ突入するか様子を覗っている状態だった。
 その矢先の出火に警察も顔面蒼白になったという。

 徹の入院費用とお見舞金を佐伯病院の院長が出してくれた。
 その額は見舞金にしてはあまりに多すぎる金額だった。娘の可奈子を命がけで助けてくれた、徹に対する感謝の気持ちもあるだろう。
 しかし、その金額には口止め料もたしかに含まれているように思えた。
 父の起こした事件は闇に葬られた、新聞に片隅に小さく……。
〔廃屋から不審火、焼け跡から住所不明の男性の遺体発見〕とだけ載った。
 たぶん、佐伯院長が誘拐事件を表沙汰にすることを怖れて、いろんなところに手を回して揉み消したのだろうか? 娘の可奈子が無事に戻ってきて、犯人が死んだ今となっては……この事件が世間にしれて、大事なひとり娘が人々から好奇の目で見られることに耐えられなかったのだろう。

 金持ちは守るものがいっぱいあって大変だなぁー、プライド、名誉、世間体……。
 それに比べて、貧乏人には何も守るものがないから、いつだって捨て身でいられる。金持ちがホントに怖いのは、俺ら貧乏人なのかもしれないと徹は思った。

 佐伯院長に貰ったお金で、徹たち親子はこの町を離れた。
 他所でアパートを借り家族三人で慎ましく暮らし始めた、あの酒乱の父のいない平和な生活だった。
 時々、可奈子のことを思い出しては、甘酸っぱい想いに胸がキュンとするが、幸せに暮らしていればいいなぁー、それだけを徹は願っていた。
 おそらく一生会うこともない、可奈子だと思っていたのに……。


   終章 感謝

 ふたりは長い間、見つめ合ったまま黙っていた。お互いにあの事件のことを思い出していたのだろう。
「可奈子……どうして?」
 長い沈黙の後、やっとそれだけ徹は言えた。
「トオルくん に言って置きたいことがあるの」
「…………」
「大人になったら会いに来ようと、ずっと思っていた」
 そういって強い瞳で徹を見つめた。
「……あれから可奈子はどうしていたんだ?」
 可奈子の視線に照れて、徹は話をそらしてしまった。

 あの事件の後、誘拐で受けた心の傷(トラウマ)を心配して両親は、可奈子をアメリカに留学させた。カレッジ卒業まであっちで過ごしたらしい。
 だけど、本当は日本に帰りたかったの……肩を竦めてそう可奈子が言う。
「だって日本には会いたい人がいるから……」
 黒く大きな瞳の視線は徹を捕えた。
「可奈子、トオルくん にずっと感謝して生きてきたんだよ!」
「えっ?」
 なんで可奈子が俺なんかに……。
「可奈子が今、こうして生きていられるのはトオルくんのお陰だから……」
「…………」
「あの時、命懸けで助けてくれたトオルくん に感謝している!」
 可奈子の瞳から大粒の涙がポロポロ零れた。

 徹は自分のことを父親殺しの咎人だと思って、ずっと自分を責めて生きてきた。
 あの事件のことを刑事に訊かれたとき、徹は父が自分でガソリンをかぶって火を付けたと咄嗟に嘘をついた。
 これ以上、母を悲しませたくなかったからだ。
 廃屋の火事は、父の慎一が事件の発覚を怖れて自分で火を付け焼身自殺を図る、警察で結論に至った。なぜか、可奈子も警察に同じことを答えたようだった……。
 そして、あの誘拐事件は闇に葬られた。

 徹くん に感謝している。
 可奈子のその言葉に、心臓に刺さった氷の棘が溶けていくようだった。
 まるで神に赦されたように、その言葉は心に響いた。今まで苦しんで苦しんで……生きてきた徹にとって、その言葉は魂の救済だった。
 可奈子は俺に感謝してくれていたんだ! 父親殺しのこの俺に?
 ――気づけば、徹も泣いていた。
 どんなに苦しいときでも、絶対に泣かなかった徹が子供のように泣いていた……。

「トオルくん、苦しんで生きてきたのね?」
「…………」
「いろいろ調べたから知ってるのよ」
「う……うん。」
 泣いてる自分に気づいて徹は慌てて手の甲で涙を拭った、すると可奈子が、その手をそっと掴んだ。
「その傷は、あの時の傷なのね……トオルくん、ありがとう!」
 可奈子は火傷の傷跡に優しくキスをした。
「トオルくん に貰った四つ葉のクローバーに、わたし、トオルくん に会いたいってお願いしたの」
 恥ずかしそうに微笑んだ可奈子は、無邪気で可愛いかった。

 可奈子がこんなに自分を想っていてくれたことが、徹には不思議だった。
 だが、自分もまた可奈子をずっと想っていた。いつも、徹の心の中には可奈子が住んでいた。あの時、芽生えたふたりの絆は十年たった今も変わることなく、ふたりの心に固く結ばれていたのだ。
「あの時、トオルくん に助けて貰った命で、今度は可奈子がトオルくんを助けるから!」
「……可奈子」
「もうひとりで苦しまないで……」
 徹の掌を握っていた可奈子の手を、強く握り返した。

 涙で濡れた頬を早春の風が撫でていく、やがてそれは喜びの涙に変わる。
 初めて生きていることを感謝した、何があっても可奈子とはもう離れない! ふたりは見つめ合ったまま、時の立つのを忘れていた。

「俺も、ずっと可奈子に会いたかった!」

 あのとき、可奈子が無事に両親の元に帰れるようにと、四つ葉のクローバーに願った徹だったが、実はもうひとつ、いつかまた可奈子に会いたいという願いをかけていた。
 希有の運命で巡り合った少年と少女は、十年という長い時を経て、再び、お互いの姿を瞳で捕えた。
 もう、切れることのない“絆”でふたりは結ばれている。

 ――四つ葉のクローバーの願いが叶ったんだね。


― 完 ―





創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-26 13:51 | 現代小説

    
   第一章 再会

 自転車で片道二十五分、いつも通いなれた平川徹(ひらかわ とおる)の通勤時間だ。
 夜勤明けの朝、冷たい早春の風に吹かれながらペダルを漕ぐ、仕事で疲れた身体には、朝の日差しが眩しくて思わず目を細めてしまう。
 平川徹(ひらかわ とおる)は小さな町工場で働いている。
 この不況で人手を減らした分、徹たち残った従業員に仕事の負担がかかる。残業をしても生産が間に合わず、削減した人数の分の夜勤が回ってきた。高校にも入っていない低学歴の徹には、サービス業か肉体労働のほか仕事がない。安い給料できつい仕事だけど、それでも仕事があるだけ有難いと思っている。
 家が貧しく家計を助けるために、中学生の頃からずっとアルバイトをやってきた。一生懸命に働き続けたら、きっとそのうち暮らしが楽になるかもしれないと、そんな根拠のない希望を抱いて、日々を生きてきたのだ。
 徹は誰にもいえない秘密を抱えていた。
 過去に大罪を犯した咎人だから、文句など言ってはいけない身だと、いつも自分自身に言い聞かせている。今でも悪夢にうなされる恐怖の残像、決して消し去ることのできない罪の記憶だった。
 死ぬまでこの罪を償う、贖罪することで生きている理由を見出そうとしている。

 去年の春に、母が病気で亡くなった。
 元々母子家庭だったので、高校生の妹の亜矢と今はふたり暮らしだ。家に帰ったら、妹を起こして、朝ごはん食べさせてから学校に送り出さなければ、そんなことをぼんやり考えながら、自転車のペダルを漕いでいた。
 四つ角を曲がったら、徹の住んでいる古いアパートが見える。
 あれ、白い人影が自分の部屋の前に立っている。誰だろう? こんな朝早くに……。誰かこのアパートの住人を待っているのか? それとも、うちの妹の友人だろうか?
 ほどなく自転車はアパートに到着、白い人影は白いコートを着た女性だった。
 サドルから降りると自転車を押して自分の部屋の前に近づく、その女はじっと徹の方を見つめていた。軽く会釈をして、徹は自分の部屋の前に自転車を止めた。

 その人は美しい女性だった。
 歳はたぶん自分と同じくらいか、二十歳前後に見える。黒く長いストレートヘアーで、肌が抜けるように白く、黒目の大きな愛らしい顔だった。
 服装も派手ではなく、仕立ての良さそうな白いコートを上品に羽織っている。おおよそ、この界隈で見かける奴らとは人種が違っているように思える。

 徹は部屋を開けようと、ジャンバーのポケットに手を突っ込んで鍵を探っていたら、なぜか、その人は徹の真後ろに立ってじっと見ている。そして……、
「トオルくんですか……?」
 小さな声で囁くように訊いた。
「えっ! 俺、徹だけど……あんた誰?」
 鍵を開けながら驚いて振り向いた。
「これ覚えていますか?」
 そう言って、手に持っていた紙を開いて中身を見せた。

 それは、四つ葉のクローバーの押し花だった。
 干乾びて茶色く変色していたが、葉っぱが四枚ある四つ葉のクローバー。
 「可奈子(かなこ)……」
 驚きで徹は目を見開いた。
 その四つ葉のクローバーは、十年前に徹が可奈子にあげたものだった。同時に、徹の脳裏にはあの事件の記憶が甦ろうとしていた。
 切なく甘い記憶と凄惨な記憶が交互にフラッシュバックする。十年たった今も、夢でうなされるあの怖ろしい事件が……。

 ――思いがけない、可奈子との再会に、驚愕して徹は立ち竦んだ。


   第二章 貧困

 十年前、小学校五年生の徹は父とふたり暮らしだった。
 父の平川慎一(ひらかわ しんいち)は土木作業員で貧しい、その日暮らしの生活を送っていた。親子は住む所にも追われ、町外れの廃屋に勝手に住まい雨露をしのぐ生活であった。
 ガス・水道・電気は無く、水は近所の公園の水道から汲んできて、やかんや鍋に溜めて置き、カセットボンベでお湯を沸かし煮炊きをしていた。夜になると明かりはロウソクだけだった。

 その半年前、父の慎一は工事現場の足場から転落した。
 脚を複雑骨折し、後遺症で歩行が少し不自由になり、そのせいで脚が痛いと仕事をサボるようになった。
 そして朝から酒を飲んでは管を巻いていた。
 母の芳恵(よしえ)は働かない夫と、二人の子供を養うために水商売に出ていた。仕事で酔って深夜に帰宅する芳恵に、父は何が気に入らないのか……。
「このアバズレ!」
「淫売!」
 汚い言葉で罵っては暴力を振るっていた。
 元はと言えば、飲んだくれて働かない自分が悪いのに……仕事で男性客相手にお酒を飲んで帰る妻に嫉妬して暴力を振る、父はそんな男だった。毎夜、徹は母の悲鳴と父の怒号を子守唄に眠った。

 徹の両親は共に天涯孤独な境遇同士だった。
 父の慎一は幼い頃に両親が別れて、親戚中をたらい回しにされ養い親に虐待されて育った。
 子供の頃、寒の師走に養父に家から閉め出され、軒下で凍死寸前だったのを近所の人に発見され助けられたと父は徹に話したことがあった。
 悲惨な子供時代を送った父はイビツな人間に育ってしまった。義務教育終了を待たず、家を飛び出し、放浪しながら大人になった。

 母の郁恵は生まれたときから、両親の顔も知らず養護施設で育った娘である。
 そんな寂しい境遇のふたりが、家族欄団に憧れ家庭を持ったはずなのに……。生活苦から憎み合うことしかできず、そして子供の頃に虐待を受けた父は妻や子供を殴ることで、うさを晴らそうとする。
 弱いものが、弱いものを虐める『負』の連鎖は止まらない――。

「銭湯に行ってくる」
 ある日、母は五歳の妹の亜矢(あや)を連れてと家を出たまま帰って来なかった。
 夜になっても帰って来ないふたりを心配して徹は銭湯まで迎えにいった、暖簾を片付けに出てきた銭湯の主人に母と妹は来てないかと訊ねたら、今日は来てないと言われた。
 慌てて家に帰って箪笥の中を調べたら、母と妹の身の回り物がごっそりなくなっていた。母は妹を連れて家出したのだと、その時になって徹にも分かった。
 そして自分は母に捨てられたのだと――徹は悟った。
 その日から父の酒の量が前にもまして増えた、酔っ払って徹にも暴力を振るった。母がいなくなってアパートの家賃が払えず滞納して、ついに大家から追い出され親子で町外れの廃屋に住まうことになったのである。


   第三章 廃屋

 有刺鉄線を抜けて廃屋の中に入っていく、今はここが徹にとって我が家だった。
 住む人も無く何十年も打ち捨てられた古屋は傾き床は抜け、伸びきった雑草に覆われ外からは容易に見えない。立ち入り禁止の札と回りには有刺鉄線で張り巡らしていた。
 この近所の子供たちは、ここを『お化け屋敷』と呼んで、誰ひとり近づかない。
 まさか、こんな所に人が住んでいるとは誰が想像できよう。
 割れた窓ガラスを開けて中に入る。一番手前の部屋を片付けて、なんとか寝起き出来るようにした、こんなあばら家でも野宿するよりは、ずっとマシなのだから――。

 小学校五年生の徹は給食を食べるために学校へ通っている。顔に生傷を作って登校する徹に、若い担任教師はいつも、
「おい、大丈夫か?」
 心配げな顔で訊ねたが……。
「大丈夫です!」
 何を訊かれても徹は、そうとしか答えなかった。
人に同情されたくなかったし、こんな状況を知られることが死ぬほど嫌だった。
 クラスメイトも徹の家庭のことは、薄々気づいているが……大人しいけど怒らせると何を仕出かすか分からない徹を、内心怖れているようだ。
 虐められなかったけれど、誰もが遠巻きに見ているだけで助けてはくれない。家庭でも学校でも、徹はいつもひとりぼっちだった。そこに居場所なんかなかった――。

 早く帰ると飲んだくれて機嫌の悪い父親に殴られるので、出来るだけ家に帰らないようにしていた。いつも酔い潰れて寝込んだ頃合いを見計らって、こっそり廃屋に戻った。
 家に帰るまで徹は、知り合いの自転車屋のお爺さんの手伝いをして食べ物やわずかなお駄賃を貰っていた。他にもお弁当屋の奥さんが同情して、ときどき売れ残りの弁当やおにぎりを分けてくれる。お礼に店の片づけや溝掃除などを手伝った。

 それでも時間がつぶし切れない時は、原っぱで四つ葉のクローバーを探した。
 徹が幼いとき、母が原っぱで見つけて「四つ葉のクローバーに願い事をすると、きっと叶って幸せになれるんだよ」と言ったから、母の言葉を信じて、徹は四つ葉のクローバーを探していた。
「母ちゃんと妹の亜矢に会えますように!」
「一緒に暮らせるように!」
「父ちゃんが殴らないように……」
 そう願って徹は四つ葉のクローバーを探し続けた。
 今の徹にとって《ふたたび家族で暮らせる》その願いだけが生きる希望だった。早く大人になって、絶対に母ちゃんと亜矢を探すんだ!
 どんなに辛くても涙ひとつ見せない徹だったが、原っぱでひとり四つ葉のクローバーを探しながら、気がつけば涙が頬を伝っていた。

 日が暮れて廃屋に帰ると、いつものように酔っ払った父が、珍しく徹に話しかけてきた。
「なあ、徹……なんで父ちゃんは何をやっても上手くいかないんだろう?」
 徹は返答に困って黙っていた。
「生まれた時から貧乏で、親もなくて……おまけに、ケガで脚は悪くなるし、母ちゃんは出て行くし、アパートも追い出される……」
 愚痴りながら焼酎を煽る父だった。
「良いことなんか何もない、これも貧乏が悪いんだ!」
 そう言って拳で床を叩いた。
「おまえ駅前にある佐伯病院(さえきびょういん)って知ってるか? 新築のでっかい病院だ」
「……うん、知ってる」
 そう訊かれて、駅前に最近新築された立派な病院を頭に思い浮かべていた。
「父ちゃん、工事であの病院にいってたけど、隣に院長先生の自宅があるんだが……」
 父が何を言いたいのか徹には分からなかった。
「でっかい家で駐車場にはなぁー、ベンツやら外車が三台も止まってやがる! ちくしょう! 金持ちばかり良い思いしてやがる。なあ、徹、世の中は不公平だと思わないか?」
「うん……」
 どう答えて良いか分からない、答えが気に入らないと父に殴られる。
「徹……俺ら貧乏人があんな金持ちから、ほんの少しお金を貰っても悪くないだろ?」
 父の目は異様な光を放っていた。
「真面目にやってもダメなんだ! 一発デカイことやって、こんな生活から抜け出してやる!」
 そう叫んで、父は焼酎を一気に煽り、コップを壁に向けて投げつけた! 
 父の慎一がそのとき、いったい何を考えていたのか、後になって徹にもよく分かった。


   第四章 誘拐

 今日は珍しく父が朝から仕事に行くと出掛けていった。
 それで安心した徹は、いつもよりも早く廃屋に帰ってきたら、どういう訳か父の慎一はもう帰っていた。驚いた徹だったが、それよりさらに驚いたのは、見知らぬ女の子が口にガムテープ、手をヒモのようなもので縛られ部屋に横たわっていたのだ。
「父ちゃん! その子は……?」
「死んじゃあいないさー、怖くて気を失っているだけだ」
 女の子を足でつつきながら父が言った。
「父ちゃん……父ちゃん……」
……徹には、この事態が飲み込めない。
「徹、その子は俺らにとっちゃあ大事な金ズルだから……」
 そこまで聞いて、少しづつ徹にも状況が分かってきた。『誘拐』その二文字が頭の中をグルグル回り始めた、まさか父ちゃんが……?
「徹、おまえが手紙書け、子供の筆跡だとバレない」
 なんて親だ! 子供に犯罪の片棒を担がせようとしている。徹は訳も分からぬまま、父の命令を聞くより仕方がなかった。

 どうやら父は、かなり以前から誘拐の計画を練っていたようなのである。
 病院の工事現場から偶然見かけた院長先生の娘、両親の愛情たっぷりに育てられた、この娘を誘拐のターゲットにしようと絞り込んでいたのだ。
 それから幾度となく、佐伯家の様子を窺っていたようで、私立小学校に通う少女の送り迎えには、いつも母親が車を運転しているようだが、週に一度、水曜日だけは母親に用事があり、少女はひとりで駅まで歩いて電車で通学している。
 その日をつきとめて、自宅からひとりで出てきた少女を無理やり車に押し込み連れ去ったのである。誘拐に使った軽のミニバンは知り合いの工務店から、こっそり拝借してきたもので、もちろん父は車の免許証など持ってはいない。

「なぁー徹、身代金はいくらがいい?」
「金持ちからガッポリ巻き上げてやろうぜ!」
「一千万……いや、あの家なら三千万くらいは出せるだろう」
 酒を飲んで上機嫌でひとりでしゃべる父だったが、自分がやっている怖ろしい犯罪を何とも思っていないのだろうか?
 父がマトモではないと徹にも分かっていたが……結局、父に命じられるままに徹は身代金要求の脅迫状を書かされた。大学ノートを破り、鉛筆書きのその脅迫状は誰が見ても、子供のイタズラ書きにしか見えない、ちゃっちいモノだった。
 父が女の子の持ち物を付ければ、ホンモノに見えると言うので、徹は気を失って横たわる少女のポケットから持ち物を探った。

 間近で見た少女は色が白くて、まつ毛の長い愛らしい顔だった。
 いかにも育ちが良さそうで、ひと目で《俺らとは全然違うなぁー》と徹にも分かった。
 ポケットから真っ白なハンカチが出てきた、それを手紙に付けることにする。ハンカチには桃色の糸で「kanako」と刺繍がしてあった。“かなこ”それが、この少女の名前だろうか?
 こんな犯罪に巻き込まれた少女が気の毒で仕方なかったが……暴力で言うことをきかす父が怖くて、とても逆らえない徹だった。

 徹は父に命じられ手紙を直接、佐伯家のポストに投函しにきた。
 病院も立派だが、院長先生の自宅も大きな屋敷だった、父に言われた通りに病院のポストではなく、自宅の方のポストに入れる。
 広い庭にはラブラドールが二匹放し飼いにされていて、徹を見て勢いよく吠えた。ビビリながらも何とか投函できたが、この家では帰って来ない娘を家族は心配しているんだろうなぁ? そして自分が書いた手紙を見て、さらに酷いショックを受けるんだろう。
 小学生の徹にだって罪の意識はある、悪いことと知りながら、父が犯した罪の片棒を担いでいる自分も犯罪者なのだろうか? 
 そんなことを考えながら、佐伯家のポストから逃げるように遠ざかった。


   第五章 暗闇

 廃屋に帰ると、少女は目を覚まして泣いていた。
 ガムテープで覆われた口から小さな嗚咽と、鼻水をすする音が聴こえる。少女はいつまでも泣き続けていた。
ついに父が怒鳴った!
「やかましい! いつまでも泣くなっ! このガキがぁー!」
 少女の胸ぐらを掴んで殴りかかろうとした。
「父ちゃんやめろっ!」
 とっさに徹は父の腕を掴んで止めた。
「徹、てめぇー!」
 怒った父は徹の顔を二、三発、拳で殴った。その後、酒が切れてイライラした父は買ってくると外へ出ていった。

 あまりのことに少女は目を見開いてキョトンとしていた、茫然自失……。
 親になんか殴られたこともない、こんな場面を真近で見るのは、おそらく生まれて初めてだろう。きっと、この子は両親に大事に育てられているのに違いない、そう徹は思った。
 父がいないから、苦しそうなので少女のガムテープを剥がしてやった。よほど息苦しかったのか少女は大きく口を開けて深呼吸をした。
「ごめんな……」
 何を言っていいか分からず、とりあえず少女に謝った。
「あのー」
 もじもじしながら消え入りそうな声で……。
「トイレに行きたい……」
 頬を赤らめ少女はうつむいた……。
 そういえば朝からこんな状態で、ずっとおしっこも我慢していたんだ。
「逃げないって約束するなら、ヒモほどいてやるから……」
「うん、約束するから……」
 必死に尿意を堪えながら少女は頷いた。
 廃屋の周りは街灯もなく真っ暗闇だった、月だけがふたりを見ている。

 あんなお嬢様でも、やっぱしおしっこするんだなぁー、ヘンなことに感心して、クスッと徹は笑う。
 徹の住んでいる廃屋にトイレと呼べるようなものはない。父も徹も男だから周辺で適当に済ませている、大きい方は公園のトイレに行っている。まさか、可奈子を公園のトイレに連れて行く訳にはいかない。街灯もない廃屋の周辺は真っ暗闇である。懐中電灯を持ってふたりは外に出た。
「ここでしろ!」
 草むらを指差し、可奈子のヒモをほどいてやる。キツク縛られていた手首は赤く擦りむけて痛々しい、可哀相に……。
「見ないでねぇー」
「俺、見ないから……」
「でも、側に居てください……」
 心細げに可奈子が言う、この闇がよほど怖ろしいのだろう。やがて放尿する音が闇に響く。

 終わった後、手を洗いたいと言うので貴重なやかんの水をかけてやる。
 ガムテープとヒモはほどいたままだけど……父が帰るまでそのままにしておこうと徹は思った。
 おしっこを済ませて、少し落ち着いたのか可奈子はひとりでしゃべり始めた。
「わたし可奈子……」
 クルッとした瞳で徹を見た。
「佐伯可奈子(さえき かなこ)、小学五年生、聖神小学校に通っています」
 聖神小学校、名前は聞いたことがある。この近辺のお金持ちの子が通う有名私立小学校だ。そこの制服だろうか? 可奈子は濃紺のセーラー服に臙脂色のベレー帽をかぶっていた。
「俺……トオル、俺も五年生だ……」
「トオルくんも可奈子と同じ五年生なんだぁー」
 にっこりと微笑んだ、そんな可奈子がストレートに徹は可愛いと思った。

「血が……」
 徹の顔をまじまじと見て可奈子がつぶやく。さっき、父親に殴られたとき唇が切れて少し血がにじんでいた。
「こんなのへっちゃらだよ……」
 いつも殴られている徹にとって、これくらいの傷は軽い方である。
 母が水商売に出ていた頃、小さな妹の亜矢が夜になると母を恋しがってグズった。酔っ払って管を巻いていた父は、泣き止まない妹に癇癪を起こして叩こうと手をあげた。そんな時、いつも妹をかばって徹が代わりに殴られていた。
 あの時も、とっさに徹は父を止めようとしていたのだ。
 ふいに妹のことを思い出して、徹は目頭が熱くなった……。いつか貧乏から脱出したら、きっと家族でまた暮らせる日がくるんだ。

「可奈子のせいでごめんなさい……」
 少女はうっすら涙ぐんでいた。
 自分の置かれている状況よりも、父に殴られケガをした徹を心配しているのか?
「トオルくん、痛い……?」
 可奈子の指が徹の唇に触れた、瞬間、何故か心臓がドキドキした。
 こんな感情は初めてだった、女の子に触れられてこんなに胸が熱くなったことはない。人に同情されるのは死ぬほど嫌いな徹だったけれど……。
 可奈子の優しい言葉が――何故か心に浸みていくのが分かった。
 その夜、ふたりは手と手をヒモで結んで寄り添うようにして、一緒に眠った。






創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-25 13:49 | 現代小説
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   ◆ 再会 ◆

コミュニティ・プランから2週間がたった。
WS-21(女)の事件ですっかり心が塞いでいたが……。
なぜか、WD-16(女)は時々あの日のことを思い出していた。

何もせずに別れたあの青年の気弱な笑顔を――。
別れの挨拶に差し出した手の温かな感触を――。
不思議な人だったなぁー……。

コミュニティ・プランで、身体を重ねた男性は何人もいたけれど……。
握手だけで終わった、あの人の方がはるかに印象に残っている。
ホントに変な人だったわ、思い出しても笑みが零れる、こんな気持ちになったのは初めて……。
なんだろう? このざわめくような感情は?

そろそろ次のコミュニティ・プランの日がやって来る。
それを考えるだけで憂鬱なWD-16(女)だった……。

そして、また、この部屋の前に立っている。
透明の球体に手を翳すとドアは音もなく開く。
幾度となく入室したことがある、コミュニティ・プランの小部屋である。
全部同じ作り真っ白で無機質な冷たい部屋。ここは大嫌いだ!
嫌だぁー……帰りたい、そんな気分のWD-16(女)だった。
ハァーと深いため息がでた。

前回は『YES』を押したので、
今日は『NO』を押してさっさと帰るつもりだった。

部屋に入るとガラスの仕切りの向こう側で男が待っていた。
そちらを見て、「あっ!」とWD-16(女)はおもわず声がでた。
彼はこっちを見てニコニコ笑っている。
まさか? 前回のコミュニティ・プランで一緒になった、あの不思議な人ではないか。

「どうして、あなたが?」
通常、コミュニティ・プランで同じ相手と連続であたることは、まずありえないし、聞いたこともない。
これはコンピューターの不具合だろうか?
仕切りのガラスを開けるべきか、どうしようかWD-16(女)は迷っていた。
だけど、心のどこかで彼ともう一度会いたいと思っていたので、たしかに嬉しい気持ちもある。

「こんばんは」
マイクから聴こえた声は、たしかに聴き覚えのある声だ。
「ガラスの仕切り開けて貰えないかな?」
少し遠慮がちな声でMO-14(男)が訊いた。
その言葉に反応するように、WD-16(女)は『OPEN』のスイッチを押してしまった。

「驚かせて、ごめん!」
ガラスの仕切りを開けて、ふたりはベッドに腰掛けている。
なんだか訳が分からない内に、彼のペースに乗せられているとWD-16(女)は思っていた。
「どうして、あなたが……」
いぶかしげな顔で訊ねた、とても不思議で仕方ない。
「うん、君とまた会いたくて……」
テレたように笑いながらMO-14(男)が答える。
「だけど……いったいどうやって?」
「コンピューターは僕の顔じゃなくて、身体に埋め込んだチップや生体番号のプレートで個人を識別しているんだよ」
「……うん」
「だから僕はコンピューターに嘘の情報を入れて、別人になりすまし、君とコミュニティ・プランを組んだんだ」
「嘘?」
「本当だよ」
「そんなこと出来るわけないわ!」
「僕なら出来るんだ」
そう言って、イタズラっぽくMO-14(男)は笑った。

生まれつき知能指数が非常に高いMO-14(男)はチャイルド・グループの時から、特別の施設で英才教育を受けてきた。
13歳で彼はアカデミーを卒業して、コンピューターシステム・エンジニアの『マイスター』という“ 群れ ”全体でも100人もいない特別のライセンスを持っている。
だから、勝手にコンピューターのプログラムを書き換えてもよいのである。
その中でも、彼は特に優秀人材と認められて、メイン・コンピューターともアクセス出来る数少ない人物のひとりなのだ。

MO-14(男)の説明を聞いても、WD-16(女)はチンプンカンプンでぽかんとしていた。
“ 群れ ”社会では完全な役割分担が決まっていて、自分の仕事以外での知識はほとんど皆無である。
ただ、このひょろりとした青年が、実はすごい人だということだけは十分に理解できた。


   ◆ ふたり ◆

「そんな危険なことをしても大丈夫なの?」
心配そうに訊ねるWD-16(女)に
「バレた時のことも考えて二重三重にもプログラムを書き換えてあるんだ“ 群れ ”ではコンピューターの情報しか信じないからね」
そしてWD-16(女)の方を向いて、彼女の目を見て
「どうしても……君に会いたくて……」

彼のその瞳には一点の翳りもなかった。
見つめられて……WD-16(女)はどぎまぎした、なんと答えればいいのか分からない。
実は自分も心の隅でもう一度会いたいと思っていたし、こうして一緒にいられて嬉しい。
――こういう感情をなんと言えばいいんだろう?
赤ちゃんと一緒にいるときの可愛いいと思う感情とは似ているようで、ちょっと違うかもしれない。
『愛』という感情を言葉で表現するのは、とても難しいのだ。

「僕はコンピューターのメンテナンスで古い20世紀や21世紀初頭のディスクを見ることがあるんだけど……」
MO-14(男)が静かに話し始めた。
「その時代の人々は今と違って、男女が一緒に暮らして子どもを作って、同じ家で生活していたんだ」
「えっ、ほんとに!?」
そんな話はWD-16(女)にとって初耳だった。
「本当のことだよ、核戦争の前の時代だけどね」
「……知らなかった」
「一緒に暮らしている男女を『夫婦』って呼ぶんだ、そして同じ血族で暮らすことを『家族』というんだよ」
「じゃあ、自分の産んだ赤ちゃんともずっと一緒に暮らせるの?」
「うん。ずっと同じ性愛相手の子どもを産んで、一緒に暮らして育てていくんだ」
「信じられない、そんなことが出来るなんて……」
WD-16(女)はその話を聞いて、その時代の方が今の自分たちよりも、ずっと幸せに思えて仕方がない。

核戦争の後、人類は約50年間地下シェルターの中での生活を強いられた。
狭い空間の中で、人々はそれぞれ社会的地位や独占欲から水や食料、住居の問題で常にトラブルが絶えなかった。
核戦争で生き残った人々がシェルターの中でまた血を流し合うという悲劇が起こっていた。
お互い自己主張をし合っている限り、内紛は後を絶たず、そうした状況の中で考え出されたのが“ 群れ ”のイデオロギーである。

『個人では何も所有しない』という、究極の平等主義である。

その考えが浸透していくにつれて、自己主張する者はなくなり内紛も治まり、人々は仲良く暮らせるようになった。
これが“ 群れ ”のイデオロギーの成り立ちなのである。

やがて、地上の放射能汚染が薄れてきたので地下シェルターから這い出して、比較的汚染の薄い南極に人々は移り住んだのであるが、核戦争から約250年の歳月が経っていた。

「あなたは、わたしたちの知らないことを何でも知っているのね」
「昔のディスクをいろいろ観たから知っているんだ」
“ 群れ ”のチャイルド・グループの時にそんなことを教えて貰ったことはない。
ただ、“ 群れ ”のイデオロギーのみを叩き込まれてきたのだ。
「僕は“ 群れ ”の考え方には疑問を持っている」
MO-14(男)は静かに、だが確固たる声でそう言い放った。
その言葉にWD-16(女)は大きく息を呑んだ。

「そんなことを言ってはダメよ!」
もし、ポリスロボットにでも聞かれたら反逆罪になってしまう。
心配そうにMO-14(男)の言葉をWD-16(女)は諌めた。

「君を“ 群れ ”の君ではなく、僕だけの君にしたいんだ」
「えぇっ!?」
なんて危険なことを言うの!
その考え方は“ 群れ ”ではもっとも悪いとされる『所有欲』って感情だわ。
「僕は君を……」
「ダメ!」
これ以上言ってはいけない!
WD-16(女)はMO-14(男)の唇に、いきなり自分の唇を押し当ててしゃべるのを止めさせた。
突然のキスに驚いたMO-14(男)だが……
そのままふたりはキスをしながら、抱き合ってベッドに倒れていった。


無機質な白い部屋の中で
求め合うふたりは
時のベッドに揺られながら
心と身体を重ね合う
この重さ 愛の深さと知る

女の身体を潤し 
熱き 生魂挿入すれば
花弁それを包みこみ
甘き蜜が溢れ出す
男は白き乳房に母をみる

きつく抱き合って
熱く激しく奮わせる
ふたりの咆哮連呼して
繋がった肉体は歓喜する
女の内に白き遺伝子注ぎ込む


   ◆ 心の真ん中 ◆

WD-16(女)は、彼のことを考えていた。
コミュニティ・プランで、ふたりは朝まで2度結ばれた。
女性は初めてというMO-14(男)とは、ぎこちない性愛だったが、ふたりの心がリンクしていたので、そういうことは関係なく深く心を通わせた、そんな性愛だった。
セックスは回数や技術ではなく、心が深く結ばれていれば、ただ手を握るだけでも心が豊かになれるものだと……。
女のWD-16(女)はそう思う。

――あれから、ずっとあなたのことを想っている。

こんな感情のことを……。
MO-14(男)が教えてくれた言葉で、『愛』というらしい。
昔の人たちはみんな持っていたのに“ 群れ ”の人たちは失くしてしまった。
その言葉さえ、今は誰も使わなくなった。

『愛』は、醜い所有欲だと“ 群れ ”で教えられたけど……それは違う!
だって、こんなに胸が熱いし、あなたを想うだけで喜びに包まれるんだもの、ふたりは“ 群れ ”のゲージに阻まれて、自由に会うことが出来ないけど――。

別れ際にMO-14(男)が言った、
「2週間後にまた会おう、それまでずっと君を想っている」
その言葉を何度々も心の中で繰り返す。

MO-14(女)、あなたが……あなたが心の真ん中にいる!

先日“ 群れ ”反逆罪でポリスロボットに連行されたWS-21(女)は妊娠していることが判明して、刑の執行が猶予されている。
母親が罪人だとしても、赤ちゃんは“ 群れ ”の仲間である。
その考えから“ 群れ ”では妊婦には刑を執行しない、モラトニアム(猶予期間)があるのだ。
妊娠・出産・授乳の期間が過ぎるまでWS-21(女)は、ほぼ通常と変わらない生活をしている。
体内にJPチップを埋め込まれた“ 群れ ”の人々は何処にも逃げられないし、逃げる場所もない。
生体番号プレートを見せなければ、水一杯だって貰えない社会なのだ。
すべてコンピューターで完全管理された“ 群れ ”の社会では自由なんてない。

――そもそも、『自由』という言葉すら、ここには存在しない。

ただ命じられるままに“ 群れ ”のために働いて消えていく。
ここ“ 群れ ”には、なぜか老人たちがいない。
ある一定の年齢を過ぎると自然に消えてしまうのだ。
何処に消えるのか分からないし、誰も消えた先のことを知らない、そのことを考えようともしない。
“ 群れ ”では働けなくなり、役に立たなければ消えるしかない、それは野生の群れ動物たちの自然淘汰であり、生き物の宿命なのだ。

そのシステムを“ 群れ ”では暗黙の了解だった。




   ◆ Name ◆

MO-14(男)と約束した2週間が来て、コミュニティ・プランの日になった。
本当に今日も会えるのかしら?
WD-16(女)は胸がドキドキする、もし部屋に入って知らない男だったら……。
たぶん、自分は泣いてしまうだろう。

不安を抱えながら、白い部屋に入ったらガラスの仕切りの向こうで、MO-14(男)がこっちを見て嬉しそうに笑っている。
これほど2週間が待ち遠しいなんて……。
もう言葉はいらない。
急いでガラスの仕切りをオープンにすると、まるで突進するように、
ふたりは仕切りの中央で抱き合った。

お互いの肌の温もりに、こうして会えた喜びと安心感で身も心も溶けていくような、
そんな抱擁――。
会えなかった時を惜しむようにふたりは愛し合った。
寄せくる波のように、甘美な悦楽に呑まれて、白いシーツの海に溺れていく。

静かな波動……。
全裸で抱き合ったふたりは余韻に浸るように目を瞑り、鼓動を聴いている。
WD-16(女)は心の中で思っていた。
わたしはこの人と出会うために生まれてきたのかも知れない。
そう思うとMO-14(男)に、新たな命をもらったようにさえ思えてくる。

――愛とは不確実なのに、すべての理論より絶対的な存在である。

「どうして僕らには名前がないんだろう?」

ふいにMO-14(男)が言う。
「名前って?」
「Name……昔の人はみんな持っていたんだよ」
「どんなの?」
「生体番号ではなくて、個人の名称で生まれた時に親が付けるんだ」
「そういえば、わたし赤ちゃんが可愛いからプニプニって呼んでいたわ」
「プニプニかぁー、可愛いなぁー」
ふたりで笑った。

「僕らも名前を持とうよ」
そういって、MO-14(男)がほっぺに優しくキスする。
「僕が君に名前をつけるよ、君だけの名称だから」
「Name……新たな命が吹込まれるようね!」

「20世紀のディスクを見ていると、シェイクスピアという1564年生まれの男が書いた物語が幾つもあるんだ」
「うん」
「その人の書いた四大悲劇と呼ばれる物語はたくさんの人々に読まれていたみたい」
「チャイルド・グループでも、小さな子どもたちに絵本の読み聴かせをするけど……大人になると物語はまったく読まないわね」
MO-14(男)は、彼女の話にうなずきながら話を続ける。
「シャイクスピアの物語の中で、ロミオとジュリエットという若い男女が愛し合う物語がある」
「ロミオとジュリエット……」
声にすると、とても美しい響きだとWD-16(女)は思った。
「君にとても美しい名前を付けるよ」
MO-14(男)が耳元で囁く。

「君はジュリエット、僕だけのジュリエットだよ」
「わたしはジュリエット……」
名前を持った瞬間、不思議な感情にWD-16(女)は襲われた。

名前を持つことで、初めて『自分』という意識が明確になる。
わたしは単なる“ 群れ ”一員ではなく、ジュリエットという女になったのだ。
それは長い間、“ 群れ ”社会で封印されてきた、自我の目覚めである。
Nameには、不思議なチカラがあった!

「僕はロミオ……」
「あなたがロミオ」
「そう、この二つの男女の名前は対になっているんだ」
「ロミオとジュリエット……」
どんな物語か知らないが、その二つの名前はたがいを求め合うように響き合っていた。
「永遠に離れないように!」
生まれたままの姿でふたりは強く抱き合った。

「ふたりのために、僕が“ 群れ ”を変えてみせる!」


   ◆ ある朝、突然に ◆

あの朝、突然に“ 群れ ”に大きな変化が起きた。

男・女・チャイルドの“ 群れ ”のゲートが開きっぱなしになっていた。
いつもなら街中を巡回している、黒い服のポリスロボットも、いたる所で飛んでいる小型監視カメラも見当たらない。
そして街中にある街頭スクリーンテレビとハウス内のテレビには、ひとりの男の顔が映し出されている。

「僕の名前はロミオ。“ 群れ ”のコンピューターはすべて、僕によって制御されています」
ひょろりとした若い男は、あのMO-14(男)ではないか。
「みなさん、今日“ 群れ ”に革命が起きました!」
いったい何が起こったというのか!?

その後、街中のテレビやハウス内のテレビは20世紀~21世紀の映画や歌を流し始めた。
それは恋愛や家族愛のことを謳ったもので、感動的で美しい内容ばかりだ。
初めて見る物語に“ 群れ ”の人々は思わず足を止めて見入ってしまっている。
なにもかも彼らのしらない、過去の世界の物語なのだ。

大きな変化が起きたにも係わらず、“ 群れ ”の人々は驚くほど冷静だった。
コンピューターやロボットたちに管理された社会で生活していた人々……。
社会の法と秩序はコンピューターが握っていたため、彼らは自分たちで考え行動する術をしらない。
元々、所有欲のない彼らには、社会の変化に動揺するほど、なにも執着するものなど持ってはいない。
ゆえに“ 群れ ”の人々は大きな変化にも従順だった。

“ 群れ ”という柵の中で暮らす、羊のような人々には夢もなく、単に日常を生きていければ、それで十分満足なのだ。

「みなさん、首に埋め込まれたJPチップを無効化します。そして生態番号ではなく、個人で名前を付けましょう。わたしたちは“ 群れ ”の一員ではなく、名前を持ったひとりの人間なのです!」
そしてMO-14(男)は力強く叫んだ。

「我々はもう自由なのだ!」

毎日、流している映画や音楽、そして本のディスクも自由に閲覧できます。そこから自分に合った、名前を見つけてください。親は子どもに名前を与えてください。
スクリーンテレビの男は名前の意味や効果について“ 群れ ”の人々に熱弁を奮う。
テレビの男は“ 群れ ”人々に毎日いろんな指示を与える。
そして“ 群れ ”のロボットたちは彼のプログラムによって、その手助けをしている。

「あなたの赤ちゃんや家族を探します!」

ハウス内のコンピューターから、自分の産んだ子どもたちの居場所を検索出来るようになった。
多くの母親たちは、自分の産んだ子どもたちを捜し始めた。

「女性は自分の産んだ赤ちゃんやその子どもの遺伝子の男性とも一緒に暮らせます。それを『家族』と呼ぶのです!」

段々と、“ 群れ ”に変化が現れた。
そういう生活を望む人々のためにハウス内に部屋が作られた、その部屋で子どもや愛する人を暮らす人々もだんだんと増えてきて、新しい“ 群れ ”の社会形態が出来上がろうとしている。

――250年振りに人々は『家族団欒』という言葉を実践する。

コンピューターの天才児、MO-14(男)はその才能によって“ 群れ ”社会の無血革命を成し遂げた。
誰にも見つからないように、秘密裏に、メイン・コンピューターにアクセスして多くのプログラムを書換えていった。
たったひとりで、その困難な作業をやった革命児なのだ。

そして、コンピューターに管理された“ 群れ ”の人々に自由を与えた!

恋に堕ちた者、家族と暮らしたいと望んだもの……。
そんな罪で、『反逆罪』に問われた者たちは、即刻、その罪を解かれて愛する者たちの元へ帰された。
“ 群れ ”の中には、この変化を喜ぶ人たちも多くいた。
テレビの男は“ 群れ ”の人々に毎日いろんな指示を与える、そして“ 群れ ”のロボットたちは彼の手助けをしている。

自分たちは自由なのだと知った人々は、自分たちの生き方を模索し始めて、新しい社会形態に慣れようとする。
そして『愛する家族』と暮らすことで、生きる喜びを見つけた。
“ 群れ ”は変化している、それを阻止する人たちはもはや存在しない。

一重に、それはWD-16へ(女)の『愛』が起こした奇跡だといえよう。


   ◆ エピローグ ◆

ついに“ 群れ ”社会は崩壊した!

少しの混乱とトラブルはあったが、“ 群れ ”は大きく変化していった。
そして、未来の人々は新たな歴史を刻み始める。

― 20XX年、核戦争後 ―

過去と儀式であった結婚式をおこない、初めての夫婦が誕生した。
MO-14(男)とWD-16(女)のふたりは、
共に生涯を暮らすことを誓い合った。

こうして未来のロミオとジュリエットは結ばれた。
ふたりの愛が永遠に続くように。

人類の未来が希望で輝いていますように――。


― End ―







創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-24 14:46 | SF小説
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  ◆ スノーレース ◆

地平線の果てまで続く雪原と、紺碧の空と。
南極の夏は、氷の白と空の青が織り成すツートンカラーの世界、どこまでも澄みきって美しい情景だ。
ここは生き残った人類たちの最後の楽園である。

核戦争の後、大きな衝撃で地球の地軸が狂ってしまった。
かつての極寒の地は温暖化して人が住める気候になったが、解けた氷河のせいで大陸の何パーセントかは海中に沈んでしまったが……。

毎年、南極の短い夏のイベントとして“ 群れ ”ではスノーレースがおこなわれる。
各ハウスから選び抜かれた選手たちが、スノーモービルに乗ってスピードを競う、“ 群れ ”社会になってからは、仲間同士で争うことはなくなったが、夏のスノーレースだけは、男たちをエキサイトさせる。

MO-14(男)は、まだ15歳だがこのレースに参加する。
スノーモービルはリニアモータカーの原理で3種の電磁力、すなわち、浮上力、案内力、そして推進力によって磁気浮上して動くが、それは走るというより氷雪の上を滑る感じである。
スピードも200㌔以上は軽くでる、かなり危険なレースだがMO-14(男)の稀にみる、コンピューター・プログラミング能力をかわれての初参加なのだ。

あらかじめ、決まっているレースコースをスノーモービルのコンピューターにプログラムして、目的地まで最短で、より速く到着した者がスノーレースの勝利者となる。
運転技術よりも、電子知能を上手く操れる能力の方がより必要なのだ。
「よし!」と気合を入れて、ヘルメットを被り、安全ベルトをロックすると武者震いをした。
MO-14(男)はレース前の緊張で喉の渇きを覚えた。

南極の雪原を疾走するスノーモービル。
まるで甲虫の群れのように、氷上をもの凄いスピードで滑っていく、あっ、という間にペンギンたちの群れも追い抜いていく。
南極のペンギンたちは温暖化で、一時はその数が激減したが、“ 群れ ”アカデミーの遺伝子操作テクノロジーで、温暖化にも順応できるペンギンに創り変えられていった。

先の核戦争では、人類だけではなく、多くの動植物も絶滅してしまった。
“ 群れ ”アカデミーでは、それらの絶滅種をもう一度、遺伝子操作で蘇らせるのに、学者たちは躍起になっていた。

“ 群れ ”では宗教は禁止していたが、『地球再生』という強い理念があった。

氷床を、もの凄いスピードで疾走する2機のスノーモービル。
レースも中盤になり、この2機が他の機体を大きく引き離していた、トップを走るのは、スノーレース3年連続優勝の覇者である。
そして、チャンピオンの機体にぴったり張り付いて、後ろからぐんぐん追い上げてきているのが、なんと! あのMO-14(男)のスノーモービルなのだ。
初参加でノーマークの機体に、追い上げられそうな勢いで迫られるとは、チャンピオンにとって予想外だったはずだ。

若干15歳の小僧っ子、MO-14(男)だが、アカデミーに通いながら大人に混じって、メイン・コンピューターのメンテナンスの仕事を任されていた。
“ 群れ ”社会を管理するのはコンピューターだが、それをメンテするのはやはり、人間の手によるものだった。
MO-14(男)は、予想以上のスピードに最高のスリル感じながら、自分がプログラムした通りに動く、スノーモービルに満足していた。
レース前に風力・気圧・天候と、いろんな要素を考え、分析してコースをインプットして置いたのだ。

「なにをする気なんだ?」
じりじりと距離を縮め追い上げてくる、MO-14(男)の機体に焦ったのか?
トップの機体は大きく旋回して、コースから外れようとしている、驚いたMO-14(男)だが、たぶんトップは別のルートで目的地に着こうとしているのだと分かった。


   ◆ 氷洞 ◆

このまま行けば、巨大な氷洞がある。
自然が創った氷河のトンネルだが、あそこは狭いし、あっちこっちに氷の岩や氷柱があって、障害物が多く、たいへん危険なコースなのだ。
一気に追い抜ける最短コースではあるが、あまりに危険過ぎるので選手たちは、このコースを誰も選ばない。

「トップの機体は、あの危険なコースを行くつもりなのか?」
MO-14(男)の機体は、トップの機体の後に続いた。
レース中に追い抜かれそうになったら……逃げ切り用のコースとして、あの危険なコースも秘策として、一応、コンピューターにプログラムしておいたのだが……。
チャンピオンも同じことを考えていたようだ。

「逃げ切らせない!」
普段は大人しいMO-14(男)だが、スノーレースでは男の闘争心がめらめらと燃えてきた!
逃がすまいと、彼の機体はチャンピオンの機体の真後ろにぴったりと張り付いた。
たぶん、トップのチャンピオンはかなり面食らっていることだろう。

「どうしても、あの危険なコースを突っ走るつもりなんだ」
訝し気に見ていると、トップの機体は氷洞の中へ突っ込んでいく、吸い込まれるように、MO-14(男)のスノーモービルも続いて入っていった。
氷洞の中は狭く、障害物が多く、おまけに視界も悪い、これは危険だと察知して、MO-14(男)の機体はスピードを急速にダウンさせた。
先頭のチャンピオン機は凄いスピードで疾走し続けている。

「危ないなぁー」
MO-14(男)は、ここを抜けられるだけで運がいいとさえ思った。
やっぱし、このコースは危険過ぎる、ちょっと後悔し始めた。……瞬間、前方で閃光が走った、その後に轟音が鳴り響いた。
トップのチャンピオン機が、障害物にぶつかり大破したのだ。

「あっ! やってしまった!」

あまりのことに、MO-14(男)はしばし茫然自失……。
その時、クラッシュして飛び散った機体の部品がMO-14(男)の機体を直撃した。
衝撃でバランスを失い、機体が横倒しになり、スピンしてクルクルと氷床を滑っている。
「ダメだっ!」
ハンドル操作ができない。
「うわっ、ぶつかる!」
MO-14(男)は、とっさに安全ベルトを外して飛び出す!
そして、その衝撃で氷床に全身を激しく叩きつけられた。

気を失う瞬間、自分の乗っていたスノーモービルが、氷柱に激突して、炎上するのが見えた。
まさに間一髪だった!
「助かった……」
安堵して、MO-14(男)は意識を失ってしまった。




   ◆ 病院 ◆

MO-14(男)が意識を取り戻したとき、最初に目に映ったのは天井から光る青白いライトだった。
真っ白な壁の部屋の中で、医療器具の音だけが聴こえていた。
かすかな消毒薬の臭いで、ここが病院だと分かる。

「あぁ、生きている」
取りあえず、身体のあちこちに意識を込めたが、無くなった身体の部分はなさそうである。
あの衝撃の割には、どうやら軽症で済んだようだ。
少し安堵したMO-14(男)だが……チャンピオンはどうなったんだろう?
自分が追い上げようとしたために、焦って無茶をしてクラッシュしたチャンピオン機。
あのクラッシュでは、たぶん……。
MO-14(男)は、自分のせいで事故が起きたように思い……、
罪悪感でいっぱいになった。

翌日、ハウスのルームメイトたちがお見舞いに来てくれた。
“ 群れ ”では家族ではなく、共同生活なので、一緒の部屋で暮らしている。
ルームメイトたちが家族のようなものである。
「よく生きてたなぁ?」
「無茶しやがって!」
「このバカもんがぁー」
みんな、口々に好き勝手に言っていたが、MO-14(男)の無事を心から喜んでくれていた。
ケガは左肩の骨折、肋骨にヒビが入った程度で、1週間も安静にすれば完治するものだった。

「おまえ、“ 群れ ”のスノーモービル壊したから、帰ったら始末書かけよ!」
一番年配のルームメイトが笑いながら言った。
「あぁー始末書か……」
急に浮かない顔になった、MO-14(男)を見てみんなで笑う。
それにしても、初参加のスノーレースで、あそこまでチャンピオン機を追い詰めたMO-14(男)に対して、彼らは心の中で、声のない賞賛を贈っていた。

入院して5日目、いよいよ明日は退院だ。
“ 群れ ”の医療テクノロジーなら、骨折くらいなら4~5日で完治できる、明日は仲間たちの待つハウスに帰れる。
すっかり元気になった、MO-14(男)は退屈でうずうずしていた。

看護用ロボット・ナースのシステムを勝手にイジって、まるでペットみたいに自分になついて、どこでも付いてくるように改造した。
アンドロイド型の看護用ロボット・ナースは入院患者の健康状態を管理するロボットである。
熱・脈拍・血圧など調べて、患者の状態に応じて調剤し注射や点滴など医療処置をする。他にも食事やリハビリの介助なども、こまごまとした身の回りの世話まで焼いてくれる。
だから、病院内は患者と看護用ロボット・ナースしかいなくて、ごくたまに、医師が医療機ロボットと看護用ロボット・ナースを連れて回診にまわってくるが、診察するのは常にロボットの方で、医師はロボットのデーターをうんうんと頷いて見ているだけだった。

“ 群れ ”社会では、コンピューターが管理し、ロボットたちが実践して、それらを人間がメンテナンスしている、そういう社会構造だった。

若干15歳のMO-14(男)だが、コンピューターシステム・エンジニア『マイスター』の称号を持っている。
類まれな才能を持つ彼は、“ 群れ ”全体でも100人もいないような、コンピューターシステム・エンジニア『マイスター』のひとりなのである。
その称号を持つ者は、自由にコンピューターのシステムやメンテナンスをおこなってもよいとされる特権が与えられていた。

看護用ロボット・ナースを彼に従う、忠実なペットに改造したら。
今度は病院のコンピューターのシステムでも見てやろうと退屈なMO-14(男)は、ナースを連れて病院内を歩き回っていた。


   ◆ 優しい香り ◆

1階のロビーに降りると、“ 群れ ”の女性医療スタッフと思われる一団がいた。
たぶん、彼女たちは医療セミナーかなんかでこっち(男の“ 群れ ”)へ来ているのだろう。
40~50人はいるであろう、女たちは口々に賑やかにしゃべっていて、その騒がしさに、MO-14(男)は面喰ってしまった。

“ 群れ ”社会では男女は別々に暮らしているので、女性を見るのは珍しい。
チャイルド・グループの管理者たちは、女性スタッフが多いのだが……これだけ大勢の女性たちを見るのは久しぶりである。
少し興味を惹かれながらも……。
あまり見ていると不審がられるので、コンピュータールームのある最上階へいこうと、女性たちの横をすり抜けて、MO-14(男)はそそくさと医療用ロボット・ナースを連れ、エレベーターに飛び乗った。
なんとなく安堵して、ため息がでた。
ドアが閉じようとした瞬間に、ひとりの女性が走り込んでくるのが見えた。
MO-14(男)は、慌ててエレベーターの開閉ボタンを『OPEN』に押した。

「ごめんなさい……忘れ物しちゃって……」
ハァハァ息を切らせながら、その女性は謝った。
「何階ですか?」
クスッと笑いながら、MO-14(男)は訪ねた。
「23階、お願い……」
その時、MO-14(男)はその女性と目が合った。

自分と同じアジアン系だろうか?
髪も目も黒い、落ち着いた感じの年上の大人の女性だった。
初めて会ったのに、なんだか親しみを感じて、不思議な気分がする。

彼女はさっきから、自分の生体番号プレートを見つめてる。
生体番号プレートには、個人情報が全てインプットされていて、IDカードのようなものである。
“ 群れ ”では外出時には、自分の生体番号を書いたプレートを必ず首から提げていなければならない。
もし付けていないと、『不携帯』ということで罰則規制になる。
なにをそんなに見てるんだろう?
不審に思うMO-14(男)だったが、知らない顔をしていた。

「あなたはMO-14?」
「はい?」
「エリア038で20XX年10月生まれなのね?」
「そうですが……」
いきなり何を訊くんだろう、いぶかしげなMO-14(男)だが、
「ちょっと、ごめん!」
その女性はMO-14(男)の頬にかかった髪を、かき上げ耳の後ろを見た。
「やっぱり……小さなホクロがあるわ!」
「な、なんですか?」
訳も分からず、相手の無礼に戸惑うMO-14(男)だった。
「まさか会えるなんて! 生体番号とホクロで分かった……」
MO-14(男)を見て、彼女はハッキリした声で言った。
「あなたはわたしが産んだのよ」
そういうと、彼女はMO-14(男)を優しく抱きしめて……。
「わたしの赤ちゃん……」
と小さな声で呟いた。

突然のことに、びっくりして棒立ち状態のMO-14(男)である。
彼女の髪から優しい香りがした。
その香りは懐かしく温かな想いがする、なんだ、この感覚は?
この女性は、僕の……、
MO-14(男)が夢の中で何度も会いたいと願っていた人なのだ。

やがて、23階に着いてエレベーターのドアが開いた。
「さよなら……」
そういうと、何もなかったように彼女はエレベーターから降りて、そのまま振り返らずに歩いていった。
取り残されて、MO-14(男)はひとり呆然としていた。
「あの人が僕を産んだ人なんだ……まさか? 本当に!?」
彼女に何か言えば良かった、いつも思っていることを言えば良かった!

「僕を産んでくれて、ありがとう」

そう言いたかったのに……。
僕を産んでくれた人に、いつか会えたら……いつか会えたら……きっと。
ありがとうって、そう言いたかったんだ!
MO-14(男)は悔しくてエレベーターの壁を拳で叩いた。

もう二度と会えない人の優しい香りだけが心に残った。


   ◆ 君に触れたい ◆

「その人は、私の知ってるWF-02だと思うわ」
MO-14(男)の話を聞いて、WD-16(女)は即座にそう答えた。
「WF-02は、女たちの“ 群れ ”で、医療スタッフとして働いているし、時々セミナーで、男たちの“ 群れ ”の病院にも出張にいっているもの」
そして、ひと呼吸して、
「あなたと彼女の顔はそっくりだわ!」
きっぱりと言い切った。

「そうか、自分では分からなかったけど……そんなに似てるんだ?」
「ええ、男と女の顔の違いくらいよ」
「だけど……嬉しいな、僕を産んだ人が君の側にいるなんて!」
「ほんとね!」
ふたりは目を合わせて、にっこりと微笑んだ。

何もしないからと男がいうので、WD-16(女)は着衣を身に着けて、ベッドに並んでふたりは腰掛けている。
初めて会った人なのに、警戒心も解けて打ち溶け合っているなんて、不思議な人だわ。
“ 群れ ”では個人の写真を撮る習慣がない。
だから、どんな人物かは言葉による表現しかないから、WD-16(女)はいっぱい彼女の話をしてあげた、WF-02(女)の癖や好きな食べ物のことまで教えてあげた。
うんうんと嬉しそうに相槌を打つ、なんだか――この男が可愛いらしく思えてきた。

「どうして、僕を産んだ人と暮らせないんだろう?」
ぽつりとMO-14(男)が呟いた。
それを聞いて、WD-16(女)はあっと驚いた。
それは赤ちゃんと引き裂かれてから、ずーっとWD-16(女)の胸の中で燻り続けていた疑問だった。
ふいに赤ちゃんのことを思い出して、乳房が痛くなった、もっと赤ちゃんに授乳させたかったのに……。
赤ちゃんのことを思い出すと、WD-16(女)は胸が張り裂けそうだった。

「わたしも自分の産んだ赤ちゃんと暮らしたい……」
そういうと彼女の瞳から大粒の涙がぽろぽろ零れた。
「どうしたの、大丈夫?」
突然の涙にびっくりしたMO-14(男)だが、自分が何気なくいった言葉に、彼女がこんなに過剰反応すると思わなかったのだ。
「なにかあったの?」
嗚咽を漏らし泣きつづける彼女に、MO-14(男)は優しく訊ねた。

半年前に赤ちゃんを産んで、100日間一緒に暮らして別れたが……。
その時の悲しさ、苦しさ、辛さ、を泣きながら彼女は話してくれた。
そのせいでコミュニティ・プランに参加して、赤ちゃんを産むのが嫌になったことまで、洗いざらいMO-14(男)に泣きながら訴えた。
「そうか……きみも辛かったんだね」
「僕は男だけど、自分の遺伝子で生まれた子どもの顔は見たいと思う」
「…………」
泣きながらWD-16(女)は男の声を聞いていた。
「そんな風に考える僕らは間違っているのかな?」
明らかにそれは“ 群れ ”のイデオロギーから外れている、問題発言である。
「…………」
だが、その言葉にWD-16(女)も心の中で深く同意していた。
自分と同じことを考えている人間が、この“ 群れ ”にもいるなんて……。

「こんな時間……」
赤くなった目を瞬きながらWD-16(女)がいう。
ひとしきり泣いて、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「そろそろ退室しないとね」
ふたりは何もしないまま別れていく。
「もう会えないと思うから……」
ひと呼吸おいてから、
「最後に君の身体に触れてもいいかい?」
「えっ?」
その言葉に少し身を固くするWD-16(女)だが、今から何かする気かしら?
「君に触れたい……」
照れ臭そうに笑いながら、WD-16(女)の前に手を差し出してきた、どうやら握手を求めている。
なんだか拍子抜けするようだったが、ふたつの手はしっかりと握りあって別れの挨拶をした。
MO-14(男)の掌は温かく優しさが伝わってくるようで、この感触をきっと忘れないわ、とWD-16(女)は思っていた。

初めて“ 群れ ”の男と心が触れた瞬間だった。


   ◆ チャイルド・グループ ◆

WD-16(女)は、子どもたちだけの“ 群れ ”チャイルド・グループの管理スタッフをしている。
彼女は子どもが大好きで職業適性検査でチャイルド・グループ管理スタッフに任命された。
ここでは6歳~12歳までの子どもたちが共同生活している。
“ 群れ ”では必要な知識や教育はチャイルド・グループですべて完了させる。
13歳からは一人前と認められて、大人たちに混じって仕事をこなすのである。
しかし、特に成績優秀な者はアカデミーで専門的な教育を受けることが出来るが、ごく限られた優秀な人材のみである。

WD-16(女)は、ここで小さな子どもたちの世話をみるのが好きだった。
一緒に遊んだり、勉強したり、食事をしたりと、子どもたちと触れ合いながら親と暮らしていない、子どもたちの精神面でのサポートをするのがチャイルド・スタッフの重要な仕事のひとつである。
しかし、まだ17歳のWD-16(女)はスタッフと言っても見習いみたいなもので、いずれ資格試験を受けて、正保育士になるために勉強を続けていた。

チャイルド・グループのスタッフは子どもの世話ということもあり、ほとんど女性スタッフが多い。
だが女性ばかりでは、特に男の子の精神発育上、偏りがあるため。
週に何度か、男の“ 群れ ”から男性の保育士がやってくる。
10人ばかりの大人の男たちが、スポーツをしたり、ハイキングをしたりして、スキンシップで子どもたちと触れ合っていくのである。

“ 群れ ”社会では男女、子どもは別々の“ 群れ ”で暮らしているので、通常は顔を合わせないのだが……チャイルド・グループの管理スタッフだけである。
男女混合で働く職場なのは――。

それだけに、“ 群れ ”にとって一番危険な職場でもあった。


   ◆ 愛してはいけない ◆

その事件は起こるべくして起きた事件ともいえよう。

“ 群れ ”社会では恋愛・結婚・家族も禁止している。
完全なる平等をイデオロギーとする“ 群れ ”では、愛は執着であり、独占欲は他人に危害を与え、“ 群れ ”調和を壊す、悪しき考えとされていた。

ちょうど子どもたちとお昼を食べている時間だった。
ポリスロボットが2体突然現れ、部屋に入って来ると、ひとりの女性スタッフを拘束した。
訳も分からず戸惑うスタッフたちと子どもたちに、黒い服を着た屈強なポリスロボットが彼女の罪状を告げた。

〔 “ 群れ”反逆罪第19条で、この女を逮捕、連行する 〕

抑揚のない、冷たい機械音声でポリスロボットは言った。
反逆罪第19条とはコミュニティ・プラン以外での男女の性愛行為のことである。
スタッフたちがどよめく、“ 群れ ”ではコミュニティ・プラン以外での男女の性愛行為は強く禁止している。

そのためにも、男女は別々の“ 群れ ”で暮らしているのだ。

WS-21 W-Woman(女)、S-Sepember(9月)、21日生まれ。
彼女はWD-16(女)より、3歳年上で子どもたちにも人気の優秀な保育士だった。
北欧系の彼女は金髪碧眼でとても美しい容貌を持っている。
“ 群れ ”では、種族保存のため同種族同士でのコミュニティ・プランが通常行われるが、金髪碧眼は劣勢遺伝のため稀少種である。

金髪のWS-21(女)と黒髪のWD-16(女)はとても仲が良い。
仕事では先輩のWS-21(女)を尊敬していたが、ふたりはプライベートでも、気が合って一緒に買い物や食事をしたりと気のおけない関係で、仮に家族という存在があれば、ふたりはまるで姉妹のようだった。
お互い信頼し合っていたが、今回のことはWD-16(女)でさえ何も知らなかった。

それが、いきなりWS-21(女)が連れていかれる!
彼女に手錠を嵌め、ポリスロボットが連行しようとしている。

ショックのあまり頭の中が混乱しているWD-16(女)だった。
最後に彼女は振り向いて「いやー!」と泣き叫びながら、たぶん相手の男性の生体番号を何度も絶叫していた。
その悲痛な叫び声が何度も耳の中でエコーする。
ふたりはもう二度と会うこともないだろう。

男は、南極の僻地で資源開発の危険な重労働をさせられる。
女は、まだ若いWS-21(女)なら、男“ 群れ ”の一角にある性愛施設で拒否権なしで、男たちの相手をさせられる。
そのために避妊手術までおこなわれる、それが“ 群れ ”の規則を破った男女に科せられる罰なのだ。

「お願い! 彼女を連れて行かないで!」
WD-16(女)は悲しみで胸が張り裂けそうだった。

「なんてバカなの!」
背後から誰かの声がした。
「彼女は男“ 群れ ”の保育士と性愛行為したのよ、恥知らずな、許せないことだわ!」
先輩スタッフの怒気を含んだ言葉が胸に突き刺さる。

どうして? 特定の男性と性愛行為をしてはいけないんだろう?
ふと、WD-16(女)の心に素朴な疑問が生まれた。
きっと、彼女はその男性としか性愛をしたくなかったんだ、女の身体は本当に好意を感じる男としかしたくないものだから……。
セックスは、ただの繁殖行為だけではないはず――ちゃんと心も合わせたい。

赤ちゃんと暮らせない、特定の男性と性愛行為ができない。
自分たちは何のために生きているのだろう?
人類繁殖のため? 地球再生のため? ただの動物なの?

“ 群れ ”の人々は生後100日経って母親と離されて、すぐに首の後ろに微小なチップを埋め込まれる。
それはJP機能でコンピューターから常に居場所を確認出来るのだ。
“ 群れ ”の人々はそんな風に完全管理されている、だから自由な行動が出来ない。
WS-21(女)も、そのシステムで特定の人物と行動していたことがコンピューターに発覚したのだろうか。
今まで疑問さえ感じなかった“ 群れ ”のシステムに不満を感じるようになっている。
ぞんな自分にWD-16(女)は驚いていた。








創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-23 14:42 | SF小説
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   ◆ プロローグ ◆

― 西暦20XX年 ―

一度、人類は地球上から、ほぼ絶滅しました。

ある国の独裁者が放った無数の核ミサイルが引き金となり、地球上でおこなわれた核のドッチボールは、一夜にして……。
約98%の人類を地球上から消滅させてしまった。

壮絶な核戦争の果て、わずかに生き残った人類たちは、放射能汚染が比較的軽度な南極の地に逃げのびて……。
人類再生への夢をかけて、新しい生活形態で暮らし始めていた。
長く苦しい地下シェルター時代に、個人の所有欲から仲間同士で争いが絶えず、新たな悲劇を生んだことへの教訓として、考え出された理想社会であった。

哺乳類本来の “ 群れ” という社会意識。

個人愛から仲間愛、家族愛から “ 群れ ” に対する忠誠心。
そして、それは恋愛や結婚、家族への全否定だった。

『個人では何も所有しない』――それが未来世界の掟なのだ。


   ◆ MO-14 ◆

MO-14、それが彼の呼び名である。

M-man(男)、O-October(10月)、14日生まれ。
10月14日生まれの男性、そういう意味なのだ。
その後には長い出生地や身体の特徴を示す、生体番号が続くのだが、通常MO-14と彼は呼ばれている。

彼は生まれた時から父も母もいない。

……いないというよりも、その存在の意味が分からない。
記憶が生まれた頃には、同じ年齢の “ 群れ ”の仲間たちと暮らしていた。
“ 群れ ”では、12歳までは男女混合のチャイルド・グループで生活するが、その後は男女別々の“ 群れ ”で生活するようになる。
特別の行事以外では、女たちと顔を合わせることはまったくない。

特別の行事、それはコミュニティ・プランと呼ばれる、男女の性愛の儀式である。
コンピューターが選んだ相手と、彼らは愛情も無く、ただ繁殖目的で一夜を共にする。
恋愛は個人の感情を所有しようとするため“ 群れ ”の調和を壊すものだと言われていた。

この未来世界では、『個人では何も所有しない』という鉄則があり、恋愛感情はタブーとされていた。


   ◆ コミュニティ・プラン ◆

透明の球体に掌をかざすと、前方の扉が音もなく開いた。
生まれた時から体内にJPチップを埋め込まれて、生体認証されている身体はバーコードのようにコンピューターと連動している。
扉の内側は小部屋になっている、何もない殺風景な部屋は薄暗く、青いライトが天井から灯っていた。
中央を透明のガラスで仕切られて。
こちら側にはイスがひとつ、向こう側の部屋には真っ白なシーツに包まれたベッドが置かれている。
この部屋ではコンピューターが選んだ、見知らぬ男女が朝まで一緒に過ごすことになる。

コミュニティ・プランとは繁殖行動のことで、男性は18歳、女性は16歳から参加する。
それは子孫を残すための、“ 群れ ”社会の大事な責務である。
コミュニティ・プランの相手はコンピューターが選び出し、この部屋でお互い初めて対面するのだ。

性愛の相手をするかどうかの選択権は、子どもを産む女性側にあって、『YES』を押せば、仕切りのガラスが開き女性がいるベッド側の部屋に招き入れる。
しかし、『NO』とボタンを押されて、女性が部屋から出て行けば……拒否された男性側はすごすごと帰るしかないのだ。

MO-14(男)は、先週18歳になったばかり。
初めてコミュニティ・プランに参加する、シュミレーションでは何度かバーチャルな体験はしたものの……。
生身の女性を相手にするのは、今夜が初めてなので胸がドキドキしていた。

ふいに向こう側のドアが開き、若い女性が入室するのが見えた。


   ◆ WD-16 ◆

彼女は、WD-16
W-Woman(女)、D-December(12月)、16日生まれ。
12月16日生まれの女性である。

まだ17歳の彼女だが、半年前に出産を経験していた。
” 群れ ”では通常1グループ100人ほどでハウスと呼ばれる、建物の中で共同生活をしている。
出産したばかりの女性は、ハウス内に小部屋を与えられて、赤ちゃんと100日間、一緒に生活し授乳と育児に専念できる。

WD-16(女)は、初めて産んだ赤ちゃんが愛おしくてたまらなかった。
無心に乳首を吸って授乳する姿は、いくら見ていても見飽きないほど可愛かった。
これが赤ちゃんを産んだ満足感なんだと喜びに胸が熱くなった。

だが、未来社会では、『母性愛』という言葉すら、死語になっていた――。

やがて育児期間が終り、赤ちゃんと別れる日がきた。
別の施設に赤ちゃんは移されて、そこで仲間たちと一緒に育てられるのだ。
もう二度と自分の産んだ子どもと会うこともないのだ。
それが“ 群れ ”の規則なので仕方ない。
しかし、無理やり赤ちゃんと引き裂かれたWD-16(女)は淋しく、悲しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうだった。

赤ちゃんと別れて、しばらくは脱力感で“ 群れ ”の仕事も、うわの空で手につかず、夜になると赤ちゃんを思い出して泣いてばかりいた。
心配したハウスの年上の女性が慰めてくれたが、「私の赤ちゃんに会いたい」と言うと……
赤ちゃんは“ 群れ ”の仲間で、あなたの所有物ではない!
個人的な感情を持つのは悪いことだ!
きびしく叱責された、そして彼女は……。
「次の妊娠をしたら、そんなことは忘れるわよ」
と、悲しげに笑った。

“ 群れ ”の女たちは、繁殖種として子どもを生むことが義務づけられている。

だけど、WD-16(女)はどうして自分が産んだ子どもの成長を傍で見守ることができないんだろう?
その疑問を頭からぬぐい去ることができず苦しんだ、こんな苦しい思いをするのなら、もう二度と赤ん坊を産みたくないと思っていた。

コミュニティ・プランに参加しても、連続10回、『NO』サインを出した。
そのことがコミュニティ・プラン管理者に知れて、WD-16(女)は厳重注意を受けたばかりである。
これ以上、拒否権を使った場合は『拒否権停止』処分に課す、と言い渡されていた。

『拒否権停止』それだけは耐えられない!

急遽、事故で行けなくなった女性の代わりに、WD-16(女)はコミュニティ・プランに参加させられたが、相手がどんな人物であろうとも……。

今日は、観念して『YES』を押して、ガラスの仕切りを開くしかないのだ。


   ◆ ガラスの仕切り ◆

彼女は、僕と同じくらいの年齢だろうか?
アジアン系の黒い髪を腰まで伸ばし、後ろでひとつに纏めていた。
細身で華奢な感じがするが、ふくよかな胸を白い薄布で包み、柔らかな色香を醸していた。
彼女はベッドに腰かけ、大きな黒い瞳でじっとこちらを睨んでいる。

「こんばんは……」と、挨拶をするが返事がない。

MO-14(男)は同じアジアン系で身長は180㎝くらいあるが痩せてひょろりとしている。
わりと端正な顔立ちで、目元は優しげで、人懐っこい笑顔だ。
入室して1時間以上経つのに、女はひと言もしゃべらず、じっと動かない。
自分は初めてだし、きっと頼りないから断わられるのに違いない、どうしようもない居心地の悪さに、逃げ出したくなったMO-14(男)だった。

『NO』なら、『NO』と、ハッキリしてくれ! 
心の中でMO-14(男)は叫んだ。

通常、初参加の者には経験豊かな相手が選ばれることが多い。
どう見ても自分と歳が大差のない相手というのは珍しい、ハウスの年上の仲間たちから、いろいろ予備知識を仕入れて、コミュニティ・プラン初参加に挑んだが……。
みじめな結果になりそうで、MO-14(男)は仲間たちへの言い訳のセリフを、あれこれと考え始めていた。
もう相手に掛ける言葉が見つからず、ため息ついたとき……。

いきなり、中央のガラスの仕切りが開いた。

驚いて、MO-14(男)はイスから立ち上がった。
急に心臓がドキドキし始め、自分でも顔が赤くなるのが分かる。

「こんばんは……」
小さな震える声で彼女が挨拶をしてきた。
「そっちに……行ってもいいんですか?」
MO-14(男)は彼女に訊くと、
「ええ……」
小さく頷く。

ゆっくり歩いて、ベッドまで行くと彼女の隣に静かに腰かけた。

「はじめまして……」
「よろしく……」

この世界“ 群れ ”では名前を名乗る習慣はない。

間近に見た彼女は憂いをおびて哀しげで愛らしく……。
一瞬、胸がしめつけられるような未知の感情が、MO-14(男)の身体を駆け抜けていった。




   ◆ 乳房 ◆

WD-16は、繁殖行為が大嫌いだった。

WD-16(女)は、繁殖行為が大嫌いだった。

コンピューターの選んだ相手は毎回替わり、身体を重ねても心が重なることはない。
子どもを作るための“ 群れ ”の大事な義務だと考えていたが……自分が産んだ赤ちゃんを取り上げられてからは、嫌悪感がつのり……。
「どうして、女になんか生まれたんだろう?」
そんな疑問が、WD-16(女)の胸の中で燻っていた。

あんまり早くハウスに帰ると、コミュニティ・プラン管理者に怪しまれるので、わざと男を焦らして時間稼ぎをしていたのだ。
嫌なことは、さっさっと終わらせたい!
彼女は“ 群れ ”に対して反抗的な気分だった。

「私、ハウスに帰りたいの!」
怒ったように、彼女は勢いよく服を脱いだ。
いきなり、むき出しの乳房にMO-14(男)は目が眩んだ。
「早く終わらせて……」
そう呟いて、彼女はベッドに潜り込んで目をつぶった。

なぜか? 理由は分からないが、彼女はひどく不機嫌で怒っている。

初めてのコミュニティ・プランで、嫌がっている女性と交わるのはやるせなくて……。
MO-14(男)はとても悲しくなった。
彼女の方に目をやると、むき出しの乳房が青白いライトのせいで、蛍光しているように白く光って見える。

それは水銀灯のように儚く美しかった。


   ◆ Mother ◆

不貞腐れたようにベッドに横たわる女……。

「嫌ならなんにもしない、だから君のことを聞かせて欲しいんだ」
MO-14(男)は諦めて、彼女と話をしたいと思っていた。
「えっ?」
その言葉に驚いて、WD-16(女)は目を開けて相手の男をまともに見た。
背丈は大きいがひょろりとして、気の弱そうな優しい目をしていた。
嫌いな顔ではない、見覚えのある顔だ、そう誰かに似てる?

「あなたの顔見たことあるわ」
「……えっ?」
「その目が同じ、鼻と口元もよく似ているわ」
「いったい誰に?」
彼女はベッドから起き上がり、面と向き合った。
「あなたの顔、WF-02とそっくりだわ!」

WF-02 W-Woman(女)、F-February(2月)、2日生まれ。
その人は彼女のルームメイトである。
ハウス内にある、1ルームに10人ほどで寝起きをしている。
年齢も職種も違っているが、年長者が若い者の面倒をみながら“ 群れ ”の秩序を守って、女たちだけで暮らしている。
WD-16(女)がチャイルド・グループから、このハウスに移って来てから、ずっとWF-02(女)とはルームメイトだった。
最初の頃、慣れないことばかりで戸惑って泣いていると……いつも傍にきて、WF-02(女)が手伝ってくれた。

「なぜ、そんなに優しいの?」
……て訊いたことがある。
「あなたと同じ年頃の子どもを産んだことがあるから……」
「赤ちゃんを?」
「だから、放って置けないのかなぁー」
と答えた。
ふたりの年齢差は確かに出産者と赤ちゃんほど離れている。
赤ちゃんのことで前に叱責されたことがあるが、いつもは面倒見の良い優しい女性なのだ。

“ 群れ ”の団体生活の中では、親子の絆を断ち切ってしまわなければならない。
この世界では、『Mother』という言葉は存在しない。
それでも年上の女性には、なにかしら甘えたいと思う感情が湧くものである。
そして年上の女性もまた、年下の彼女を放っては置けないのだ。

「その女性は僕を産んだ人かもしれない」
「どうして分かるの?」
「一度だけ会ったことがあるんだ」
「まさか、本当に?」
「うん、偶然だけど……」

この世界“ 群れ ”では親子が対面するなんてことは希有である。






創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-05-22 14:40 | SF小説

乙 一 「暗黒童話」

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画像はTwitterから流れてきたものをお借りしました。


かつて読書家だった私ですが、
最近は創作することばかりに腐心して
本も読まず、読書の楽しさを忘れてしまっていた。

面白い物語を書くためには、
私自身が読者の視点に戻るべきだと考え
『読書日誌』を付けようと思い立った次第であります。




 ■ 著者名 ■

『暗黒童話』

 ■ 著者 ■

乙 一

 ■ 出版社 ■

集英社文庫

 ■ ジャンル ■

小説

 ■ あらすじ ■

突然の事故で記憶と左目を失ってしまった女子高校生の「私」。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左目は様々な映像を脳裏に再生し始める。それは、眼が見てきた風景の「記憶」だった……。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえているとも知らずに……。乙一の長編ホラー小説がついに文庫化。

 ■ 感想 ■

娘が面白そうだからといって買って置いた、乙一の「暗黒童話」を退院後の暇つぶしに読んでみた。
正直、乙一さんの世界観は苦手です。ホラーだから仕方ないけれど……残酷でグロテスクで、あまりにドライ。
この本を読みながら寝ると、どうも嫌な夢をみてしまう。若い人には人気があるようだが、私のような年齢の者には向いていない……と思う。

 ■ 参考になったこと ■

なるほどインパクトがありますね!

 ■ 評価 ■

★★★☆☆


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by utakatarennka | 2017-05-21 13:43 | 読書日誌