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― Metamorphose ―

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泡沫恋歌のブログと作品倉庫     

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紙の上の箱庭 ③

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表紙は[ STAR DUST素材館 ] 様よりお借りしました。
http://lunar.littlestar.jp/stardust/2011_commencement/main.html


   第二章 旅のはじまり Ⅰ

「あの赤い球体だった、おまえがドラゴンに変身していたのには驚いた!」
『そうでしょう? わたしだって驚いたもの』

 ドラゴンの声がリョウの頭の中で響く。
 あの『打ち捨てられた世界』にいた赤と青、二色の光の玉の赤い方がレッドドラゴンとなって、リョウの前に現れた。
 青い玉の方もこの世界のどこかに紛れ込んでいることだろう。どうやら世界は新たに想像されようとしているようだ。

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「俺は名前を与えられたんだ“リョウ”って呼んでくれ」
『名前イイなぁー! わたしは……レッドドラゴンだけで名前がないの……』
「そうか、じゃあ俺が付けてやるよ」
『ホント? お願い』
「焔みたいにメラメラ赤い光を発しているから“メラ”しよう!」
『えっ“メラ”って? なんか安易な気もするけど……、OKそれでいいわ』
「よし! “メラ”俺を冒険の世界へ連れて行ってくれ」
『任せておいて“リョウ”
「どうやら、この世界は動き出したようだ」
『そうね! 冒険の始まりの予感がするわ』

 ドラゴンの背に乗って空を翔る。遥か眼下を見下ろせば、どこまでも続く平原の向うに、周囲が砂漠の小さな町が見えて来た。バザールのような市場も立っている。
 きっとあそこに行けば、何か起こりそうだとリョウは直感していた。
「メラ、あそこに町がある。あそこに降りてみようか」
『オーケー! リョウ』
 そう応えるとドラゴンは段々と高度を下げて、砂漠の町に近づいていった。町外れの砂の上に翼は降りたった。

「メラ、おまえはデカ過ぎるて、とても町に入ることができないよ。ここで待っていてくれるかい?」
 リョウがそういうとドラゴンはイヤイヤをするように長い首を振った。
『ヤダ! わたしも町に行きたい!』
「だけど……ドラゴンがいきなり町に現れたら、みんな驚いてパニックになるよ」
『ヤダ! ヤダ! ヤダ!』
 大声で抗議するドラゴンの声が耳の中でガンガン響く!
 さらにドラゴンは怒って、大きく首を振り、翼を羽ばたいたので砂漠の砂が舞い上がり、まるで砂嵐のようになった。
「いい加減にしろよ! メラ」
 リョウが叫んだ瞬間、ドラゴンの身体を赤い閃光が走った。余りの眩しさにリョウは目を瞑り地面に打っ伏した。

「リョウ、これならどうかしら?」
 突然、女の子の声が聴こえた。

「んっ……!?」
 そっと目を開けたリョウの目の前には、真っ赤な踊り子風の衣装を着た十歳くらいの女の子が立っていた。きれいな赤毛にキラキラ光るビーズを絡めてお下げ髪に編んでいた。
 肌の色は桜色で大きな紅玉のような瞳と紅を差したような赤い唇で、とてもチャーミングな少女だった。
「おまえは……!?」
「わたしメラよ。どうやら人間にも変身できるみたい。アハッ」
「へえー、すごいなぁー、ドラゴンから人間にもなれるんだ」
「うふふっ」
 自慢気にリョウの前でクルリと回ってみせる。薄いレースのドレスがふわりと揺れる。
「なかなか可愛いじゃないか」
「そう、嬉しい!」
「よーし! ふたりで町に行こう」

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 そしてリョウとメラは砂漠の町に入って行った。
 小さな町だがたくさんの人々が行き交い活気づいていた。町の中心の広場にはバザールが立ち、方々の土地から集められた珍しい野菜や果物、海産物などが売れていて、物売りたちの声も賑やかだ。蚤の市のような露天のお店では衣類や装飾品、家具も並べられて、怪しげな店では武器なども置いているようだ。
 どこからともなく、旨そうな匂いが漂ってきた。
「ねぇ、リョウお腹が空いた……」
 少女に変身したドラゴンが、リョウの袖を引っ張って言う。
「そうだなぁー、けどお金を持っているのかな?」
 そう言いながらリョウは、学生服の上着やズボンのポケットなどあちこち探ってみると、内ポケットにジャラジャラとコインが詰まっていた。
「やったー! コインが入っていた」
「わーい、なんか食べよう」
 メラは食べ物の匂いがする方へ、リョウをグイグイ引っ張っていく。

 バザールの屋台では大きな鍋でシチューのようなものが煮込まれていた。窯で焼いたパンが次々と並べられて、骨付きの肉やソーセージが焼かれている。
 店の主人にコインを渡すと、リョウとメラはバイキングのように、自分たちのお皿に目いっぱい料理を盛ってきて食事を始めた。
「おいおい、ちっこいくせにずいぶん食べるんだなぁー?」
「だって、ドラゴンってすっごくエネルギーがいるのよ。これくらい食べないと身体がもたないわ」
 メラはリョウの三倍の量をペロリとたいらげた。
「ああ、美味しかったわ」
「世界が動き出して、俺たちもいろんなことが出来るようになった」
「うん」
「わくわくするぜぇー」
「嬉しいね!」
 ふたりは世界が動き出した喜びを実感した。

 食事を終えたリョウとメラは町を見学しながら、ブラブラ歩いていた。
 小さな砂漠の町だが、いろんな種族が住んでいるらしく黒い人や白い人、黄色い人など、ラクダと共に沙漠を旅する遊牧民たちもいた。
 それぞれ独創的な衣装を身につけたエキゾチックな人々。それらは新たに構築された世界の想像上の民だった。

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「ねぇー、そう言えば、わたしたち、まだミッションを与えられていないね」
「俺は冒険がしたいんだ!」
「どんな冒険が始まるのかしら?」
「ドラゴンになったおまえの背に乗って、いろんな町を見て歩けるといいなぁー」
 リョウは冒険を夢想する。――高揚感が高まるようだ。

 その時だった。
 通りの向こうから大声で叫ぶ人の声が聴こえてきら、人々がこっちに向って走って来ている。
 ――見ると、頭からスッポリとフードみたいな衣装着た人がこっちへ逃げて来る、それをみんなで追いかけているようなのだ。

「なんだろう?」

 ふたりはジーッと事の成り行きを見ていた――。

『そいつを捕まえろー!』
『絶対に逃がすなよ!』
『闇市場で売ったら、そいつは高値で売れるぞぉー』


 そんなことを大声が喚きながら、盗賊のような荒くれ者が四、五人でフードを被った人物追いかけて来た。近づいてくるとフードの人物は小柄で華奢な身体つきをしていた。フードに隠れて顔は見えないが、ひ弱そうな奴を大勢で捕まえようとしていることに……リョウは腹が立った。
「君! こっち、こっちへおいで!!」
 その声にフードを被った人物はこちらへ逃げ込んで来て、リョウの後ろに隠れた。ハァハァと息を切らして、ひどく脅えている様子だった――。

『小僧! そいつをこっちへ寄こせ!!』
「ひとりを大勢で追いかけてひどいじゃないか」
『なんだとぉー? そいつがグンジョウ族だって知ってのことか!?』
「グンジョウ族って? なんだよ、それ?」
『知らないなら、俺たちに渡せ! そいつは高い値で売れるんだ』
 フードを被った人物はリョウにしがみ付いて震えている。可哀相に……こんな荒くれたちに渡すわけにはいかない。庇うように後ろ手で守った。
 すると、荒くれ者のひとりがワシッと手を延ばして、無理やりフードを被った人物を掴もうとした。
「おい、やめろ!」
 リョウが体当たりをかましたら、フードを掴んだままで男は尻餅をついた。その時、フードが剝がれて、中の顔が見えた。
 なんと、フードを被った人物は女性だった!
 白い肌に群青色の長い髪、深海のような深い蒼色の瞳を持つ美しい女である。額に大きなチャクラがあり、それは煌めく群青色の宝石だった。
 女性だと分かって、余計にこんな奴らに渡すわけにはいかないとリョウは思ったが……。

 ――だが、しかし、戦おうにもこっちには武器が何もない。どうしよう?

 思わぬリョウの反撃に荒くれ者たちは威きり立ち、武器を持って、今にも襲い掛かろうとする。
『小僧め、許さねぇー! ぶっ殺す!!』
《ヤバい! こうなった……》
 あの手しかない!!
「メラ! ドラゴンになれ!!」
「えっ、いいの? オーケー!!」
 いきなり疾風が舞い上がり、メラの全身を赤い閃光が包んだ。
 眩しさに目を覆った荒くれ者たちが、目を開けた瞬間に見たものは、天を突くような巨大なドラゴンの姿だった。
 ドラゴンは翼を大きく広げ男たちを威嚇した。全身から赤い光を放ち、キエェェ―――ンと鼓膜を突き破るような爆音で鳴いた。

 その声にさすがの荒くれ者たちも、恐れて大慌てで散々に逃げていった――。




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ドラゴンのイラストはこちらのサイトからお借りしました。http://matome.naver.jp/odai/2134466278183489001


   創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-10-08 10:13 | ファンタジー小説

by 泡沫恋歌