人気ブログランキング | 話題のタグを見る

― Metamorphose ―

rennka55.exblog.jp

泡沫恋歌のブログと作品倉庫     

ブログトップ

紙の上の箱庭 ④

紙の上の箱庭 ④_a0216818_6194230.jpg
表紙は[ STAR DUST素材館 ] 様よりお借りしました。
http://lunar.littlestar.jp/stardust/2011_commencement/main.html


   第二章 旅のはじまり Ⅱ

 リョウと群青色の髪の女はドラゴンの背に乗って上空へ舞い上がった。荒くれ者たちが戻ってくる前に砂漠の町を離れたのだ。

「俺はリョウ、君の名前は?」
「…………」
「――名前教えてくれないか? 名前を呼べないと話が出来ないだろう?」
「…………」

 女は黙して何もしゃべらない。しゃべりたくないなら仕方ないけど……。なんだか不思議な女だとリョウは思った。
 町を離れてしまったので、今夜はどこかで野宿するしかない。少し飛んで行くとこんもりを木が茂った森があった。

紙の上の箱庭 ④_a0216818_20184382.jpg


 森の中に果実をつけた大きな木があったので、ドラゴンはゆっくりと降下して森に降り立った。さっそく、女の子に変身したメラが木に登って、たくさん果実をもいできた。
「リョウ、この果物とっても甘いわよ」
 それは桃のような果物で、甘い香りとたっぷりの果汁があった。
「君も食べるかい?」
 群青色の髪の女にも果物を渡したが、首を横に振って食べようとはしない。
「こういう物は食べない種族なのかな?」
「リョウ、彼女が食べたかったら自分から欲しいって言うわよ。お節介はよしなよ!」
 甘い果実を頬張りながら、メラがそれとなく注意する。その言葉にリョウはこれ以上、構うのは止めようと思った。
 女は不機嫌ではないみたいだが、ひと言もしゃべらないし、食べ物も口にしない――。

 夜になって、翼を広げたドラゴンをテント代りに、その中でリョウたちは休むことにした。ドラゴンの翼の中は温かく快適だった。
 群青色の髪の女はリョウの傍らに来て休んだ。別に嫌われている訳ではないんだと少し安心した。

 ――そして、その夜、夢の中でリョウは群青色の髪の女と話をした。

紙の上の箱庭 ④_a0216818_20191659.jpg


 どこだか分からないが、ミルク色の霧で一寸先も見えない。そんな中をリョウはひとりで彷徨っていたのだ。――夢とはいえ、何だか息苦しいような、この霧の中から早く抜けだしたいとそればかりを望んでいた。
 どうやら、ここは森の中のようだ。時おり、木の枝や葉っぱがリョウの身体を撫でていく、いったいどこへ行こうとしているのかは分からないのだが……何かに導かれるように、深い霧の中を歩いていく、やがて前方に薄暗い光のような物が見えた。そこまで行けば何かありそうなので、リョウはわずかな光を頼りにそこへ向かって進んで行った。
 光の元にようやく辿りついたら、それは、あの群青色の長い髪の女の額に嵌めこまれたチャクラが放つ光だった。

「あなたのような勇者を探していました」
 群青色の髪の女がリョウに向かって静かな声で話し掛ける。
「あれ? ちゃんとしゃべれるじゃないか」
「ええ、わたしは人間の意識に中に入り込んで夢の中でなら話ができるのです」
「夢でしか話せないんだ」
「元々、現実の世界に肉体は存在していません。わたしの姿は妖術で見せている幻影なのです」
「形が無いってことは生き物ではないのか?」
「そうですね。心はありますが、一定の形はありません。わたしたちグンジョウ族は希少種で、この世界にほん僅かしか存在していません。かつては王国を築き、何にでも変身できる妖術で世界に君臨していましたが『グンジョウ狩り』と呼ばれる血の粛清によって多くの仲間が殺され、もしくは奴隷として王侯貴族に仕えさせられています」
「……それは悲惨だなぁー」
 その話にリョウの心は曇った。
「わたしたち、グンジョウ族の王女サンゴ姫も悪い奴らに人質として連れ去られました。西の果てにある「Black Land」と呼ばれる天空の島に軟禁されているのです。どうか、わたしたちの大事な王女さまをお助けください」
「そうか、悪い奴らにお姫さまが拉致されているんだなっ! それは許せない!!」
「王女さまをお願いします。リョウのためにわたしは武器になります。どうか、わたしを使って存分に戦ってくださいませ」
「おう! 俺に任せて置けって」
「お頼みします。わたしはこれで……」
 群青色の髪の女が霧の中に消えそうになったので、リョウは慌てて、
「ところで、君の名前は?」
「――ミュウと申します」
 そういうと告げるとスーッと女は消えていった。


 その声が耳に残りリョウは目を覚ました。
 リョウの傍らには立派な刀剣が置かれていた。銀色に輝く、ずっしりと重い鋼(はがね)、だが、手に握ってみるとまるで空気のように軽い剣である。そして柄の部分には女の額にあったチャクラ、群青色の宝石が埋め込まれてあった。
 ――これはミュウが変身した剣だろうか?

 初めて武器を手にして、これから始まる冒険にリョウの胸は躍った。



紙の上の箱庭 ④_a0216818_20192439.jpg
ドラゴンのイラストはこちらのサイトからお借りしました。http://matome.naver.jp/odai/2134093800535443301


   創作小説・詩
by utakatarennka | 2014-09-19 12:18 | ファンタジー小説

by 泡沫恋歌