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時代屋シリーズ 【 黒揚羽と女房 】

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表紙はフリー素材 [ 四季の素材 十五夜 ] 様よりお借りしました。
http://ju-goya.com/



詩小説 時代屋シリーズ 其の壱

【 黒揚羽と女房 】

あちきはおせんという、
飾り職人清吉の女房でございます。
亭主の清吉さんは、それは腕のいい職人で、
女たちの髪を飾る簪作りを生業として
浅草寺雷門の参道に小さい店を構えております。

亭主と姑とあちきの三人暮らしですが、
嫁して五年経っても、まだ赤子(あかご)が授かりません。
「おまえは石女(うまづめ)じゃ!」
姑に辛く当られても、清吉さんが庇ってくれるので、
あちきは幸せな女房でございました。

その清吉さんが変わったのは……
飾り職人の集まりで吉原に簪を卸すことになり、
腕を買われて遊郭へ注文を受けるために
初めて吉原の門をくぐった時からでした。

昔から堅物と呼ばれていた清吉さんは
吉原など悪所に足を踏み入れたこともない男です。
それなのに……それなのに……
廓の主人に遊んでゆけと勧められて、
つい遊女を抱いてしまったが間違いの始まり……
すっかり吉原の煌びやかさに当てられてしまった。

ああいう悪所には男を狂わせる瘴気でも
漂っているのでございましょうか。

夕凪(ゆうなぎ)という女郎の馴染みになり、
ぞっこん惚れ込んでしまい、家業も身が入らず遊んでばかり
店からお金を持ち出しては夕凪に貢いでしまう。
あちきがどんなに泣いて頼んでも……
清吉さんは吉原通いを止めてはくれない。

ああ、口惜しい、口惜しい……
あちきの心は般若にようになってしまった。

丑三つ刻になると、
裸足で雷門と本堂を行ったり来たりしてお百度参り。
清吉さんが吉原通いを止め、夕凪と別れるように
と、願をかけて
毎夜、毎夜、あちきはお百度参りする。

或る夜、お百度参りをしていると……
すぅーと魂が抜けて生霊になってしまった。
そして黒い揚羽蝶に変身すると、
清吉さんの羽織りの背中に張り付いて
一緒に吉原の門をくぐった。

亭主を盗った憎い女郎の夕凪に
生霊のあちきはとり憑いてやったのさ。
七転八倒して転げ回ってもがき苦しむ夕凪を
清吉さんは怖れ慄き見ていましたが、
ひらひら舞う黒揚羽のあちき目掛けて
「不吉な黒蝶め!」
と、箱枕を投げつけたのです。

ああ、怨めしい、怨めしい……
黒揚羽は無残にも潰されてしまった。
悲しい女房の物語でございます。


          
― 終り ―



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by utakatarennka | 2015-10-02 11:33 | 詩誌AVENUE