詩集 愛の言霊 ⑪
【 デフォルト 】
あなたに逢えなくて
分かったことがひとつある
わたしの日常は
あなたを中心に廻っていたことを
トーストとハムエッグにサラダ
当たり前に並べられた朝食も
ひとりで食べると
なんだか味気ない
楽しく食べるのが食事であって
空腹を抑えるために食べるなら
単なる餌でしかない
この寂しさはあなたという
心の軸を失ったせい?
輝きを失ったわたしは
鈍色の惑星になってしまった
凡庸(ぼんよう)な日常の中にあって
主婦は輝くのだと
そのことに
――今 気がついた
【 嘘つきゲーム 】
わたしを傷つけないように
あなたが優しい嘘をつく
嘘だと分かっていても
わたしは騙された振りをする
あなたが まだわたしを
愛していると信じていたいから
ふたりの心を繋いでる
嘘つきゲームは終われない
【 sofa 】
お気に入りのsofaは
仄かな光沢を放つ
手触りがよくて
硬すぎず 柔らかすぎない
丁度よい弾力で
わたしを包みこんでくれる
あまりの心地よさに
甘美な夢に誘われそう
やっと手に入れた
この安らぎ この力強さ
熱い想いがこみあげる
もう止められない
わたしの心は
あなたというsofaに
すっぽり囚われてしまった
【 むかえにいくよ 】
「むかえにいくよ」と
男がいう。
「きっと、むかえにいくから」
そう、いつも私にいうので、
「いつむかえにきてくれるの?」と、
訊いてみれば、
「ロトシックスが当たったら!」
大真面目に男が答えた。
夫がいる私を奪うのに……
そんな奇跡みたいなことを真剣にいう
この男が滑稽だ。
なぁ~んだ、その程度の想われ方かと
呆れてしまった。
私が怒り出すと、
ひたすら謝る。
拗ねると……
「愛している」とか調子のイイことをいう。
別れを切りだしたら、
「だって、俺たち友だちだろう?」
などと、私を煙に巻く!
――とにかく変な男なのだ。
しょっちゅう
用もないのに電話を掛けてきては
「寂しい」と泣きを入れたりして
甘えん坊さんだし
なんだか不憫な奴
但し、私の健康だけは心配してくれて
「事故・怪我には気をつけてくれよ」と、
そう、言葉だけはいつも優しい。
この年齢になったら、恋よりも
健康と年金の方が私にとっては重要な問題だ。
「むかえにいくから待っててくれ」
なんの根拠もなく、そんなことをいう男。
のらりくらりと私を縛る
毒にも薬にも成らない男だ。
だから、その珈琲は飲まずに
香りだけを楽しんでおこう。
――もう、そんな恋で十分なんだよ。
【 恋患い 】
病気になりました かなり重症です
身体が熱いんです 微熱があるみたい <のぼせ?
胸がドキドキして 心臓が苦しいの <ときめき?
おまけに眼も悪くなって 周りがよく見えない <夢中?
些細なことで すぐ怒ったり泣いたりします <情緒不安定?
せんせい これって病気ですか?
なかなか逢えないと 病気が進行しちゃうんです
イライラして 八つ当たりしたり <欲求不満?
勝手に想像して 疑ってみたり <疑心暗鬼?
自分はダメだと 落ち込んでしまって <自信喪失?
あげく投げやりになって 何もしたくなくなる <無気力?
せんせい 効く薬ありますか?
ねぇ 分かってる? 世界中どこを探しても
この病気を治せる名医は あなたしかいないってことを!