― Metamorphose ―

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ネットに棲むモンスター ②

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表紙はフリー画像素材 Free Images 3.0 OhLizz 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


   第三章 秋生の死

 秋生が死んだ! あの白いシートの中身は秋生だったんだ。
 僕にメールを送った直後に、秋生はマンションの十五階から飛び降りた。遺体は大きな物音に驚いた、犬の散歩中の老人が発見通報したのだ。
 当初、遺体の損傷が激しく身元が分からなかったが、十五階の階段の踊り場に携帯電話が置かれていたので判明したらしい。秋生のお母さんは看護師で、その日は夜勤で不在だったが警察から連絡を受けて、遺体の『身元確認』をしたらしい。

 飛び降り自殺は高い所から落下するので重力がかかって、もの凄い重さになって落ちていく――だから地面に激突すると身体中の骨がバラバラに砕けてしまう。まるで熟したトマトを思いっきり壁に投げつけたようなもので、グチャグチャになって人間の原型を留めていないのだ。
 マンションのエントランスに、僕が立っていたときは、秋生の遺体を運搬する車を待っていた時だった。すでに死亡が確定している人間を救急車は乗せてくれない。

 ――お葬式の日、どうしても秋生の死が受け入れられず、僕は悲しむことさえできなかった。まるで夢の中の出来事のようで――傍観者のように眺めていた。秋生のお母さんも茫然として、心ここに在らずという顔だった。しかも、この数日の間に十歳は老け込んで見える。
 小さい頃「秋生はひとりっ子だから……」と言って、僕も一緒に遊園地や映画館、プールにもよく連れて行ってくれた。男っぽくて、さっぱりした気質の人で、離婚して女手ひとつで秋生を育てていた。看護師をしているので勤務時間が不規則だったが、うちの母親が秋生の面倒をよく見ていたので、そのことをいつも感謝してくれていた。
 僕の下には妹と弟がいて、三人兄弟だったし、ひとりくらい増えても手間はかからないと母は笑っていた。実際、秋生はとても大人しい子どもだった。
 おばさんにも「秋生は内気で弱虫だから、イジメられたらツバサくんが助けてあげてね」と僕はいつも頼まれていた。なのに、それなのに……僕は秋生が苦しんでいるときに知らん振り、何も力になってやれなかった。――僕は最低だ、薄情な人間だ! 壁に頭を打ちつけたいほど、激しく後悔していた。

 おばさんが泣いた!
 火葬場で骨になった秋生の遺体見たとき、おばさんが大きな声で泣き出した。
 僕も骨になった秋生を見た瞬間、堪えていたものがプツンと切れて、堰を切ったように涙が溢れた、俯いた僕の黒いローファの上に涙の雫がポタポタと落ちた。
《秋生のバカ野郎! みんなをこんなに悲しませやがって、なんで死んだんだ? どうして自殺なんか……》心の中で叫びながら僕は泣いた。

 ふと気付いたら、僕と同じ学生服を着ている人がいる。彼も後ろを向いて壁に向かって肩を小刻みに震わせている。秋生の死を悲しんで泣いているのだろうか?
 顔はよく見えないが、確か三年の『深野』という人で、秋生が所属している文芸部の部長で生徒会の会長もしている。
 成績が良くて、人当たりの良い深野さんは学校では先生たちの信頼が厚く、女生徒にも人気がある。秋生とは創作者仲間だと聞いていた。
 秋生の死を悲しむ人はここにも居るのに、どうして僕らを残して逝ったんだ! 怒りにも似た悲しみで涙が止まらない。

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   第四章 ナッティーとの出会い

 幼馴染の親友を喪った僕は、大きなショックから立ち直れなくなっていた。
 あの時もっと秋生の話を聞いてやれば良かった、一週間も学校を休んでいる間に、なぜ訪ねてやらなかったんだろう? どうして秋生の心の変化に気づいてやれなかったのか? 僕は親友だと言いながら、秋生のことに無関心で冷たい奴だった。秋生、ゴメンな、僕が不甲斐ないばかりに……。
 そんな風に自分を責めて、責めて……僕は勉強も部活も手に着かなくなってしまった。
 秋生に教えられたホームページは、なんだか怖くて開くことができなかった。悶々と苦しんでひと月ほど経った僕は、昔、秋生と一緒にゲームして遊んだSNSを開いた。ゲームをして気分を紛らわせようと思って――。

 ふと、秋生のマイページを見にいこうと思った。主(あるじ)はもういないが誰がきているのかと気になったのだ。
 秋生の伝言板には『ナッティー』という女の子のアバターがきていて、毎日々、秋生に挨拶を書き込んでいた。ひと月以上も秋生はログインしていないのに、それでも毎日伝言板にきていたし、とても心配している様子だった。たぶんミニメールもたくさん送っているのだろう。
 ……こんなに心配させて、可哀相に……ツライけれど秋生が死んだ事実を告げた方がよいと判断して、ナッティーのマイページにいってみることにした。

 とってもチャーミングな女の子のアバターだった。
 このSNSはゲームとアバターに人気があって、アバターに着せ替えする服や背景のアイテムに高価な値段が付いて、ネットオークションでも取引されていると、以前、秋生から聞いていたが、まさに彼女のアバターはレアモノで高そうだった。
 ゲームのアイコンもたくさんゲットしているので、アバターだけではなくゲームもかなり遣り込んでいそうな雰囲気だった。それらのアイコンの中には秋生がよく遊んでいたゲームのもあった。――もしかしたら、秋生のゲーム仲間だったのかな?

 まさか、秋生の死を伝言板に書き込むことはできない。僕は彼女にミニメールを送ることにした。

『 はじめまして、ツバサと言います。

  僕は秋生のリアルの友人ですが、
  彼は不幸な事故でひと月前に亡くなりました。

  今まで、秋生にありがとう。
       
                  ツバサ   』

 何を書けばよいか分からず……簡素だが、そういう文面で、ナッティーにSNSからミニメールを送った。

 翌日、僕のマイページにナッティーからミニメールの返信がきていた。

『 こんにちは。わたしナッティーです。

  秋生くんとはよくゲームをして遊びました。
  死んでしまったなんて信じられないわ。
  詳しい事情を聞かせて欲しいので、
  チャット部屋にきてください。

  チャット部屋 38番
  入室パスワード****

  午後7時~12時まで待っています。

                   ナッティー  』

 いきなり、チャットで話を聞かせて欲しいという、ナッティーの申し出にいささか戸惑ったが、一ヶ月以上も毎日秋生の安否を確かめにきていた彼女の心情を思うと、やはり、きちんと事実を告げるべきだと僕は思った。
 もしかしたら、秋生の自殺の理由を何か知っているかもしれない。――そういう期待も無きにしも非ず。

 入室パスワードを打ちこんで、僕はナッティーが待っているというチャット部屋に入っていった。そこはバーチャルだが、小部屋風でお互いのアバターが表示される。鍵をかければ(入室パスワード設定)誰にも邪魔されず、ふたりきりでゆっくり話ができる。ここは、ネットのカップルたちがイチャイチャするのによく使っている部屋なのだ。
 チャット部屋に入ったら、ナッティーのアバターは表示されていたが、本人は別の場所にいるようだった。

「こんばんは」
 チャットに書き込んだ。
 ――しばらく経っても反応がない。三十分ほど待って、もう部屋から出ようかと思ったら、やっとナッティーから返事がきた。
「待たせてゴメンね!」
「こんばんは」
 もう一度、同じ挨拶を打ち込んだ。
「あのね、アバターの交換所にいっていたから、すぐに気がつかなくて……ゴメンなさい」
 アバター交換所というのは、自分の持っているアバターアイテムと交換相手の持っているアバターがお互いに気にいったら、交換しあう場所なのだ。『アバ廃人』たちはここでレアアバターなどを手に入れると聞いている。
「いいよ、僕も他のゲームしながら待っていたから」
 どうでもいいようなパズルゲームを僕も別ウインドウでやっていた。
「今日はきてくれて、ありがとう」
 キュートなアバターのナッティーがそう打ち込んできた。
「僕は秋生と幼馴染で親友だった。だから君に秋生のことをちゃんと話さないといけないと思った」
「秋生くん、いつ亡くなったの?」
「ひと月ほど前」
「死因は?」
「自殺」
 僕がそう打ち込んだら、しばらくナッティーから反応がなくなった。
 たぶん、パソコンの向うでショックを受けたのだろう。――その気持ちは分かる。五、六分経って、十分以上過ぎて……もしや落ちてしまったのか?

「そうなるんじゃないかと心配していました」

 やっと返ってきた返答が、あまりに意外だったから僕は驚いてしまった。彼女は何か知っているのかもしれない。
「知っているんですか? 秋生の自殺の原因を……」
「ええ……」
 そう言うとナッティーはチャットの画面にURLを書き込んだ。
「このサイトにいってください」
「これは、なあに?」
「そこへいって、読んでくれれば分かります」
「うん……」

 僕はウィンドウをもう一つ開き、そのURLをドラックしてコピーすると検索に貼り付けた。

 ――そして、パソコン画面に別のサイトが開いた。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-08 17:15 | ミステリー小説