― Metamorphose ―

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泡沫恋歌のブログと作品倉庫     

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ネットに棲むモンスター ④

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表紙はフリー画像素材 Free Images 3.0 OhLizz 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


   第七章 秋生のホームページ

 大学受験志望校をワンランク落とした。
 ランクを落とすことで、僕は時間に少し余裕ができた。先生や塾の講師も「弱気にならないでまだ間に合うから頑張れ!」とハッパをかけられたが、今は勉強に専念できる気分ではなかった。秋生のことを分かっている両親だけは、無理しなくてもいいよと理解を示してくれた。
 秋生のお母さんの嘆きを見ていた、うちの母は「子どもが元気なだけでもう幸せ」とつくづく悟ったらしい。

 どうしても開くことができなかった『秋生のホームページ』をやっと開く決心がついた。持っていたサイトは知っているので、IDとパスワードを打ち込んだら見ることができた。秋生は亡くなる一週間くらい前から設定を〔非公開〕にしていたようだ。
 そこは小説の作品倉庫ともいうべきホームページだった。長編小説三篇、中編小説七篇、短編と掌編を合わせて三十篇くらいはあるだろうか。詩も二十篇くらいは書いていた。
 ――それらの作品こそが、今は亡き秋生が生きた証(あかし)だった。

 今、ネット界では「知的財産」の継承権について討論されているらしい。ホームページやブログなどで書かれていた日記や記事、創作作品などの持ち主が亡くなった後で、第三者が譲り受けて継承していけるかどうかについて、大きな問題になっている。
 素晴らしいホームページがあるのに、持ち主の死亡によって閉じられたり、埋没してしまうのはあまりに勿体ないのである。
 後世に受け継ぐ知的財産として共有できれよいと思うのだが、法律的に難しい問題のようだ。

 秋生は最後のメールで「このHPを守ってくれ!」と言っていた。――それは、死の瀬戸際に立っていた秋生の唯一の願いだった。
 いったい、誰から守って欲しいのだろうか? このホームページを誰かが狙っているということか? ここにあるのは秋生の作品だけなのに……。
 そして僕はこのホームページを守るためにも、秋生の小説を全て読んでいこうと決めた。今まで秋生とは親友だったが、彼の書いている小説にはあまり興味はなかった。――もう二度と秋生の声が聴けないのだから、彼の書いた文章を声の代わりに僕は聴くことにした。
 読書なんか、ほとんどしたこともない僕だったが、毎日少しづつ読んでいる内に面白くなって止められなくなってきた。

 秋生の小説は、僕の想像を超えるものだった。
 美しい言葉たちが透明のガラスケースから語りかけてくるような、心の機微に富んだ素晴らしい物語なのだ。僕は知らなかった――秋生にこんな凄い小説の才能があったなんて!
 ナッティーも言っていたな「小説の才能も凄くあったのに惜しいよ」確かに秋生の文章の上手さは最初の一頁を読めば、素人にだって分かる。発想も奇抜で最後まで面白く読み進めるのだ。
 生きてさえいれば、いずれベストセラー作家になれたかもしれない。そう思うとこの小説の才能は惜しい。
 秋生は、まさに天才だったんだ――。


        【 ジ・エンド 】

  僕の言葉で世界を塗り変えよう
  真っ白なスケッチブックに
  いろんな色を塗り籠めた  赤 青 緑 黄 紺 橙 桃 

  僕のスケッチブックは賑やかになった
  色が踊っている 僕の心も騒ぎだす
  溢れだした色が暴れだした
  黒 灰 黒 灰 黒 灰 黒

  僕の頭の中で色が混じり合い
  グチャグチャなった なんて汚い色だ
  消さなきゃ! 白い色で存在を隠せ!
  白 白 白 白 白 白 死


 この詩は秋生が自殺する三日前に書かれたものだった。
 何者かに追い詰められて、混乱して、絶望していく様(さま)が分かるようで読んでいて胸が痛い。
 僕のしらないネットの世界で、いったい誰が秋生を苦しめていたんだ!?

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     第八章 謎の侵入者

 秋生が亡くなって、二ヶ月が過ぎようとしていた。
 もう世間では秋生のことは忘れ去られようとして、知り合いの間でも話題に上ることも少なくなってきた。僕は毎日、秋生のホームページの作品を読んだり、3ちゃんネルの掲示板を見張ったり、なにか動きがないかと目を光らせていた。
 ナッティーとは時々、秋生が好きだったゲームをして遊んだり、アバターのファッションショーに付き合ったりしていた。あれから秋生のマイページに悪口のミニメールがきてないかと訊ねたら、秋生が亡くなってからはエロサイトの高額請求も悪口のミニメールもきていないとナッティーは答えた。
 ――ということは、犯人は秋生が死んだことを知っている? 
 もう必要がないので、それらを止めているのだろうか。もしかしたら、リアルで知っている人たちの中に犯人がいるのかもしれない。そんな疑念が胸に湧く……。

「ところで最近なにか動きがあった?」
「――うん、それがおかしなことがあるのよ」
「なあに?」
「あのね、小説投稿サイトで『村井秋生』を名乗る人物が作品を発表しているのよ」
「ええっ? 死んだ秋生を名乗っている奴がいるのか?」
「そうよ。ネットの世界だから、誰も秋生くんが死んだこと知らないでしょう? だから秋生くんのファンたちの間で、その小説が話題になってて、凄い人気なのよ」
「いったい誰なんだ! 秋生を装って、人気まで横取りしている卑劣な奴は……?」
 怒りで思わずパソコンのデスクを叩いた。
「その小説投稿サイトを見張っていて、そいつが投稿した瞬間を捕まえて、パソコンのIPアドレスを調べてみるわ」
「おうっ、IPアドレスなら個人が特定できる!」
「そうよ、それで犯人の尻尾を掴んでやるわ」
「ナッティー頼んだよ」
「よっしゃっ! 任せておいて、伊達にネットの世界で生きてないわよ」
「だから、もう死んでるって……」
「また言ったなあー、このイジワル!」
 あははっ。これはナッティーと僕のいつものジョークなんだ。


   ※IPアドレスとは、インターネット網の中のコンピュータを
    機械同士で認識できように1台1台に割り当てられた住所のようなもので、
    所有者名が判ります。
    サーバー名の検索など、IPドメイン関係の検索の決定版です。
    2chでも、これがあるのでやたらな書き込みはできません。
    個人名が特定されて「誹謗中傷」「名誉棄損」などで告訴されています。


 さっそく、僕はナッティーに教えられた小説投稿サイトにいってみた。
 『のべるリスト』は、オンライン小説を主としたテキスト作品の公開、閲覧が楽しめる小説投稿型SNSのコミュニケーションサービスだった。
 投稿された小説にブックマークしたり、お気に入り作家を登録したり、コメントを残したり、また、そのサイトでは小説や作家の人気ランキングまである。

 確かに『村井秋生』というペンネームで小説が掲載されていた。しかも、作品名も作家も堂々の第一位だった。すごい閲覧数で人気はうなぎ昇りだった。――驚いたことに、その作品は秋生のホームページにあった長編小説の一本で、いったい誰が、いつの間に、持ち出したのだろうか? 僕は用心のために秋生から教えられたパスワードを一度変更しているのだ。……なのに、ホームページの中が誰かに覗かれていた?
 こうも易々とパス抜きができるなんて……見えない敵の不気味な影がシタシタと迫ってくるようだった。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-10 16:08 | ミステリー小説