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― Metamorphose ―

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ネットに棲むモンスター ⑧

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表紙はフリー画像素材 Free Images 3.0 OhLizz 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


   第十五章 ほぞを噛むの日々

 僕は情けなかった……。
 ナッティーを置き去りにして逃げ出した自分が許せなかった。
 こんな意気地なしで、弱虫の自分を堪らなく嫌悪していた――。

 僕のパソコンは断末魔のナッティーを映したまま、フリーズしてしまった。
 何とかしようと、あれこれ僕の知りうる限りのパソコン知識でやってみたのだが……まったく画面が動かない。奥の手で、ctrl+alt+Deieteを押すと、タスクマネージャーがでてきたので、そのページだけを消去しようとしたが……何度やっても消えない。不思議なことに電源を落としても、その画面は消えなかった。

 こうなったら、リビングのデスクトップから『モンスターランド』へ侵入しようと試みたが、自分のIDとパスワードを打ち込んでもマイページがどういう訳か開けなかった。仕方なく新規会員登録をしたが承認メールは、いくら待っても送られてこない……。
 どうやら……何者かの力で僕は入れなくされているみたい。これじゃあ『モンスターランド』に戻って、ナッティーを助けることもできないじゃないか!

 ――ほぞを噛む思いだった。
 あの画面は動かすことも、消すこともできないままに、ナッティーの無残な姿を映している。まるで僕の無能振りをあざけ嗤っているかのようだった。
 秋生の無念を晴らすために、僕らは罠に嵌めた犯人探していたんだ。ナッティーは自分から、かって出て協力してくれたのだ。ある時は瘴気に当てられて気を失いながらも、健気に頑張ってくれていたナッティー……。そんな彼女を身捨てて僕はひとりで逃げだした。いくらナッティーが逃がしてくれたとはいえ……自分は卑怯者だ。
 その画面を見る度に悲しくて、悔しくて、情けなくて、ナッティーに詫びながら、僕は涙を流していた。

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   第十六章 謎のメール

 相変わらず何をやっても僕のパソコンは動かない。
 仕方ない、親に事情を説明して《たぶん、信じて貰えないだろうけど……》パソコンのプロに修理してもらおうと観念した頃であった。一通の謎のメールが僕の携帯に送られてきたのは――。

 ベッドの上に寝転がって天上を見上げ僕は溜息をついていた。もう自分の手には負えない、パソコンも秋生の件も……結局、何もできずに諦めてしまうしかないのか……こんな結果でしか終われないのか? なんて不甲斐ない奴なんだ。
 そんなことを考えながら悶々としていた僕の耳に、いきなり携帯の着信音が聴こえた。メールなんか、どうでもいいやと放って置いたら、またしばらくしてメールが届いた。面倒臭いなあ……と、しぶしぶメールを開いて見て、びっくりした!

 そのメールは自分宛てに、自分から送られてきたメールなのだ。
僕は携帯を一台しか所持していないので、誰かのイタズラだと思ったが、送り主のメールアドレスは僕の物だった。
 送り主:福山翼 ⇒ 宛先:福山翼 そんなバカなっ! しかも、そのメールには……、

『 ツバサ、元気をだせよ!
  おまえのことはいつも見守っているからな
                            秋生 』

 秋生だって? これは悪趣味なイタズラか?
 死んだ『秋生』の名を騙ってメールを送ってくるなんて、いったい誰なんだっ!?
 許せない! さっきのメールと合わせて二通削除しようとボタンを押したら、また次のメールが届いた。

『 ツバサ、信じられない気持ちは分かる。
  秋生は死んだけど、実はおまえの傍にいるんだ。

  ちゃんと、今までのことも見ていたから
  ナッティーを一緒に助けだそう!
                       秋生 』

 えっ? ナッティーのことをどうして知っているんだ。
 こいつは誰だろう? もしかして、これは敵の罠かもしれない……。

 疑心暗鬼で染まった僕の心は、謎のメールをやすやすと信じることなんかできない!

『 ツバサは、僕のことがどうしても
  信じられないようだね?
  だったら、僕ら二人にしか分からない
  質問をしてみろよ。
                秋生 』

 ――僕らにしか分からない質問。
 秋生とは小学校に入る前から友だちだった。お互いにドジやら恥やら、いろんなことを知っている。
 そして内緒事や秘密も僕らはいっぱい共有していたのだ。

 じゃあ、あのことを訊いてやろう。すごく昔のことだけど、本物の秋生なら、きっと覚えているはずだ。

『 小一の頃、僕らの宝物は何だった?
  それをどこに隠した?
                 ツバサ 』

 それだけ書いて、僕は送信ボタンを押した。

 ――すると、すぐに返事が返ってきた。

『 小一の頃、ビールの王冠集めが流行った。
  僕の叔父さんがペルーから買ってきた
  「クスケーニャ」というビールの王冠がレアで
  子どもたちの間で、すごい人気になった。

  それが僕らのふたりの宝物だった。

  マンションの児童公園、ブランコに向かって、
  右から三番目の桜の根元にふたりで埋めたんだ。
                                 秋生 』

 そのメールを読んだ、瞬間、僕は言葉を失った――。

 小学校に入学する少し前に、僕らが住んでいるマンションが完成して、分譲として売りに出された。僕の家も秋生の家も建ったと同時に、このマンションに引っ越ししてきた。
 マンションの中に自分と同じ歳の秋生を見つけて、僕らはすぐに友だちになった。いつもふたりで、マンションの児童公園で元気いっぱい遊んでいた。
 小学校に入学してしばらく経った頃に、なぜかマンションの子どもたちの間で『ビールの王冠』を集めることが流行りだした。僕の家はお父さんが晩酌にビールを飲むので集まったが、秋生の家では、お母さんがお酒を飲まないので『ビールの王冠』が集められなかった。それで僕は自分の王冠を秋生に少し分けてやっていたのだ。
 その頃、お祖父ちゃんの家や親戚の家に行ったら、大人たちがビールを飲むのが楽しみだった。珍しい『ビールの王冠』が手に入ると僕は大喜びだった。

 そんな、ある日、秋生がすごくレアな『ビールの王冠』を持ってきた。
 南米にいっていた叔父さんが、お土産にビールを買ってきたのだ。「クスケーニャ」という、ペルー産のビールで日本ではとても珍しいものだった。
 そんなレアな『ビールの王冠』を手に入れた秋生は、一躍マンションの子どもたちの人気者になった。そのレアな王冠をみんなが見せて欲しがったのだ。……そんな風に、みんなの注目を浴びている秋生が羨ましくて、面白くない僕は、些細なことで秋生とケンカになった。何も悪くない秋生を、先に叩いたのは僕の方だった――。

 それなのに……翌日、秋生はペルーの王冠を持ってきて「これ、ツバサにあげるから、仲直りしよう」って、自分から頼んできたのだ。小さい時から争いごとが嫌いな秋生だったから……。
 心優しい秋生の態度を見て、自分の方が悪かったのに……僕は反省して謝った。だから『ビールの王冠』はいらないと断ったら、秋生が「じゃあ、これはふたりの宝物にしようよ」と言って、二度とケンカをしないように埋めてしまうことにした。
 マンションの児童公園のブランコに向かって、右から三番目の桜の木の根元に、ふたりで小さな穴を掘って、紅茶の空き缶に入れてから埋めたんだ。

 ペルー産の『ビールの王冠』は、当時の僕らの宝物だった――。

『 間違いない。
  僕の知っている村井秋生に
  おまえは間違いない!
                 ツバサ 』

『 やっと、ツバサに信じてもらえたか。
  僕は死んで、肉体は失ったけど
  違うカタチで生きかえることができたんだ。
                            秋生 』

『 どういうことだ?
  何があったんだ?
  秋生、僕に教えてくれ!
                 ツバサ 』

 ――この後、僕は死んだはずの親友から、とても信じられない話を聞かされることになったのだ。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-21 16:17 | ミステリー小説

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