― Metamorphose ―

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ネットに棲むモンスター ⑫

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表紙はフリー画像素材 Free Images 3.0 OhLizz 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


   第二十三章 一か八か勝負!?

 秋生の声で僕は覚悟を決めた。ナッティーが前に瘴気に当たって気を失った、あのパソコンに入るつもりだ。
 しかし、大魔神深野の雷は的を射て攻撃してくるので、今は逃げるのに必死で、そのチャンスすら作れないでいる。

 ふと見ると、消し炭になっていた秋生のアバターから青いオーラが羽衣のように、ふわふわと漂いながら、ナッティーの身体を包み込んでいた。秋生の霊魂がナッティーと合体していくようだ。いったい、何が始まるんだろう?
 僕を攻撃することに気を取られていた深野は、ナッティーたちの不穏な動きに気付いて、
「おまえら、何をやっているんだ?」
 ナッティーのアバターの中に秋生がすっかり収まったようだ。
「この虫けらどもが、踏み潰してやる!」
 ナッティーに向けて、巨大な脚が踏み付けようと下りてきた。
「ナッティー危ない!」
 次の瞬間、信じられないことが起こった。大魔神深野がすごい地響きを立ててひっくり返ったのだ。見ると、踏み潰されたと思っていたナッティーがムクッと立ち上がっているではないか!
 これは盗賊キャラが使える『やぶれかぶれの一撃』という技だった。どんな強い相手でも一撃で倒せる超レア技である。これには、さすがの大魔神も一本取られたようだ。

 僕の耳に再び秋生の声がした《ツバサ! 今だ、パソコンを壊しに行ってくれ》それに応えて「よっしゃー、任せろ!」すごい勢いで二次元の壁をよじ登り、深野のパソコンの窓まで到達した「南無阿弥陀仏」念仏を唱えると「おりゃあああぁ―――!」と、掛け声と共に身体中に『気』を集めて、パソコンの中に飛び込んだ。

 「うっ! なんだ? この黒い空気は息が苦しい……」
 黒く渦を巻くトンネルのような所を潜っていた。
 頭の中に『憎しみ』や『恨み』や『嫉妬』など禍々しい感情が飛び込んでくる。きっと黒い感情を抱いたまま死んで逝った、浮かばれない霊魂たちが彷徨っているのだろう。弱い心だと憑かれそうだった。
 次第に意識が遠のくようで……身体が硬直しそうになったが、守らなければならない仲間のことを想いながら、僕は必死で堪えていた。
 ――やっと出口が見えた!
 窓の向うで深野が、腐った魚みたいな眼でパソコンに向かっていた。
 スルリとパソコンから抜けた僕は、深野の身体に入り込もうとした。僕が入るためには深野自身の霊魂を追い出さなくてはならない。悪霊たちに依って弱小化していた彼の霊魂を恫喝(どうかつ)して無理やり肉体から放り出した。
 どうにか三次元の肉体を手に入れたが、やはり他人の肉体は違和感がある。たぶんそんな長い時間は入っていられないだろう。
 黒いパソコンを壊すために僕は道具を探した。深野の部屋は八畳のくらいの洋間できれいに片付いていた。見れば、ベッドの下に筋トレ用に使っていたと思われる鉄アレイが転がっている。

 よし、これだ! 3キロの鉄アレイを握ると、僕は黒いパソコンに思い切り叩きつけた。
 バキッバキッと音を立てて、パソコンから火花が散った!  なおも、鉄アレイを何度も振り下ろし叩きつけた。「ぎえぇぇ―――っ!」と、人の叫び声のようなものが聴こえて、閃光を放ち爆発してパソコンは粉々に飛び散った。

 その瞬間、僕も意識を失って崩れるように、その場に倒れてしまった――。

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   第二十四章 二次元の友情は永遠に

 どれくらい時間が経ったのだろうか――――。
 自分の部屋のベッドの上で意識を取り戻した。あの後、深野の肉体から離脱した僕の霊魂は、持ち主の肉体を探して戻ってきたのだろうか?
 机にうっぷしていたはずなのにベッドに横たわっているということは、一度、意識を取り戻して、再び、眠ってしまったのかもしれない。他人の肉体に入るということは想像以上にエネルギーを消耗するようだ。

 ハッと気付いて、飛び起きて僕はパソコンを起動させた。ずいぶん時間が経っていたので電源が落ちていた。
 ナッティーと秋生はどうなったんだろうか?
  パソコンは普通に起動していたが、モンスターランドにいっても、マイページにいっても……いくら呼び掛けても、ナッティーも秋生も応えない。
 ふたりともどうなったんだ!? 
もしかしたらあの戦いで疲れ果てて倒れているのかもしれない。今日は様子をみることにして、僕はパソコンを落として、再びベッドに倒れこんで泥のように眠った――。

 翌日、学校にいったら大騒ぎになっていた。
 生徒会長の深野が、昨夜、自宅で倒れて救急車で運ばれたが意識不明の重体になっているそうだ。部屋の中に粉々になったパソコンがあったので、爆発、感電した可能性もあると言われている。まだ、意識が戻らなくて、ほぼ植物人間状態らしい。
 学校中がその噂で騒然としていた。

 あんなひどいことをしていた深野とはいえ、ずっと植物人間のままだと、ちょっと可哀相だと僕は思った――彼の秋生へのおぞましい嫉妬心が、あの悪霊たちを召喚してしまったのだろうか?
 自業自得といえば、そうかもしれないが……人は誰でも弱い心を持っている。きっと深野は人を信じることができなくて、孤独や挫折感など鬱積した感情が誰を攻撃するというネガティブな行動に駆り立てたのだろう。
 3ちゃんネルの匿名掲示板では、自分自身の正体を隠して相手を攻撃できる。そのことが深野の人間性を歪め、ネットとリアルを使い分ける、二重人格『ジキル氏とハイド氏』へと変貌させていったのだろうか?
 そして、ネットという匿名の世界で『良心』という大事な心を失くしてしまったのかもしれない。――彼もまたネット社会の犠牲者ともいえる。

 その日、急いで家に帰った僕は、パソコンを開いてナッティーに呼び掛けた。
「おーい、ナッティー!」
しばらくすると、
「ツバサくん、乙カレー!」
 いつもの元気なナッティーの声が聴こえた。無事で良かった、僕は胸を撫で下ろす。
「あのね、ツバサくんに紹介したい人がいるの。ウフッ」
 意味深なナッティーのウフッと共に、パソコンの画面にイケメンのアバターが現れた。
「新しい彼氏だよーん」
「ツバサ、ぼくだよ。秋生」
「おおー! そのアバター、カッコイイなぁー」
 それは〔青い貴公子〕と呼ばれる。超レアアバターのフェイスではないか!
「うん。アバター燃えちゃったから、ナッティーが新しいのをくれたんだ」
「このフェイスはナッティーのお気に入りなの。いつか彼氏ができたら付けて貰おうと思って、ずっと持っていたのよ。秋生くんに使ってもらえて嬉しいわ」
「秋生だけ、イイなぁー」
 ちょっとイジケてみたりして……。
 あの後、モンスターランドで大魔神深野はパソコンが壊されたと同時に消えてしまったらしい。ナッティーは自分と同化している秋生の霊魂を取り出して、新しいアバターに移したが、深野の黒いオーラで穢された霊魂を浄化するのに丸一日かかったということらしい。――とにかく、ふたりとも無事で良かった!
 そして、このふたりに学校で聞いた深野の様子を説明した。
「――そうか、深野さんの霊魂は悪霊どもに持っていかれたのかもしれない。あんなすごいパワーを与えられた換わりに、自分の『魂』を捧げると契約した可能性がある」
「どうして、あんなバカなことをしたんだろうか……」
 植物人間になってしまった深野のことを考えて、僕と秋生はしんみりとしてしまった。今にしてみれば、すべて深野の心の闇が作りだした幻影でしかない。
「それにしても、あいつはメッチャ強かったわ」
 いきなりナッティーが言い出すと、秋生も話を繋いて、
「そうだね。三人で協力しないと絶対に勝てない相手だった」
 「何度も殺られそうになったけど、ナッティーは秋生くんとなら死んでもイイと思ったんだよ」
 嬉しそうにウフッとナッティーが笑う。その言葉に秋生はテレている。――そんなふたりの空気にムッして、
「だ~か~ら~、おまえたちはもう死んでいるだろうがぁー!」
「うっさい!」
 ナッティーと秋生ふたりして言い返しやがった。クッソー!
 そして三人で笑い合った。
 二次元の幽霊ふたりと三次元の僕の不思議なトリオの誕生なのだ。
 
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   エピローグ

 あれから、ナッティーと秋生は『わくわくアイランド』という島を育てるゲームの中で、自分たちの島を造り、家を建てて、牧場には家畜やペットを飼い、農園では野菜や果物を育て、魚釣りやクルージングをして楽しそうに暮らしている。
 秋生はナッティーのアバターにお金がかかるので、有料電子書籍サイトに『秋生 ツバサ』というペンネームを使って小説を書き始めた。たちまち人気作家になった秋生は毎月原稿料が入るようになった。
 一流出版社からもオファーがきているが、こっちでの代理人はすべて僕がやっている。何しろ執筆しているのは本物の幽霊だから……文字通り、秋生は『ゴースト作家』になったのだ! あははっ 

 この世に肉体のないナッティーと秋生だけど、二次元の世界で幸せそうだった。きっと、成仏するその日まで、この愛をふたりは育てていくのだろう。
 ちょっと羨ましいけど、親友としてふたりを応援するぜぇー!

 ああ、それから深野さんのことだが、半年後に、ようやく意識を取り取り戻すことができたみたいだ。だけど完全に記憶を失っていて、もう一度赤ちゃんからやり直しなのだ。きっと、新しい魂が再生するのに時間がかかったのだろう。
 もう二度とあんな過ちは犯して欲しくない! 健やかな心に育つように僕は祈っている。

 ネットの世界は楽しさいっぱい、刺激がいっぱい、繋がり合えば夢が広がる!

 だけど、3ちゃんネルのような掲示板サイトでは、匿名だから、何を書き込んでもバレない、構わない、人を傷つけても知らんぷり、そんな奴らもいる。
 匿名の持つ不透明さが、パソコンの向う側の誰かの胸に『言葉のナイフ』を突き刺していることを分かっているのだろうか?
 ネットでの匿名ということが、なにをやっても罪にはならない。まるで『免罪符』のように使われていることがとても怖ろしいことだと僕は思う――。

 もう決して『誹謗・中傷』『無断転載』『名誉棄損』をしない、明るく健全なネット社会になることを、僕は心から願っているんだ!

― END ―




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-25 12:40 | ミステリー小説