― Metamorphose ―

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雨と彼女と僕と…… ④

雨の日に女をひとり拾った。
若くもない、取り立てて特徴もない。
ただ白い肌ときれいな歯並びを持っている、そんな女。



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― 第一章 雨と彼女と僕 ―


  第七話 lonely heart

「誰かを真剣に好きになったことってある?」
ベッドの中で、いきなり彼女が訊いた。まだ余韻も醒めきらないうちに……。
「そりゃーあるさ」
「そう、でも女なんか信用してないでしょう?」
「…………」
「やっぱしね」
「なんでそう思うんだ?」
「なんだかそんな気がしたから……」
僕の心を探っているような、そんな彼女の態度が僕を不快にさせる。
僕らはそんな関係ではないだろう? 僕になにを求めている?
愛情? 優しさ? セックス?
ほんの少しの優しさとセックスしか彼女に与えられない。僕は愛とかそういう厄介なものには深入りしたくないんだ。
いつも心のセキュリティが自然に作動して、人と『 心の距離 』を空けようとする、どうしてだろう?
僕にも分からない……。


  【 piano 】

あなたの細いその指が
鍵盤に触れる時
弾きだされる旋律

わたしの躯を包みこむ
この胸に愛が充ちてきたら
心の琴線が震えだす

ねぇ愛してるといって……

こんなに想っていても
掴めないあなたの心
寂しさで萎れてしまう

あなたが奏でる音符には
悲しい音色が混じっていて
わたしの胸を絞めつけから

ねぇ愛してるといって……

なにも欲しがらないから
もっとわたしを求めてよ
あなたを感じて生きていたい

女は楽器この肢体を
あなたがかき鳴らせば
愛は切ないため息で果てる

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「あなたはわたしと話してるとき、肝心なことは聞き流そうとするよね? うちの夫もそうなんだけど……」
「それで……」
「聴こえないのか、聴きたくないのか、どっちなの?」
「……ちゃんと聞いてるよ」
そう答えると、彼女は小さな声で、
「嘘つき」
とだけいう。
「きみだって、人のいうことを信じてないじゃないかっ!」
ちょっとイラっとして僕は言い返した。
「女を抱いても、愛してくれないのね?」
「君だって、身体を許しても心を許すことはしないくせに……」
「…………」
「そんなことで愛は構築されない」
「……そうね」
「愛はもっと……」
「もっと……?」
「深いんだ!」
思わず叫んだ言葉が痛い。

「……わたし捻くれてるから、ごめんなさい」
そういって僕の頬に謝罪のキスをする彼女がいじらしい。その身体をギュッと抱きしめたら切なさが込みあげる……心のセキュリティが解除されてしまった。
「僕だって、失敗者だから……」
「失敗者? 挫折者じゃなくて?」
「うん……挫折までいかない……なんとなく不運で思うように生きられない人間なんだ……だから用心深いかもしれない」
「だから、女にも執着したくないのね?」
「たぶんそう、裏切られるのが怖いから……」

おそらく(女を信じられない)僕という人間の臆病さが、過去の恋愛の失敗の原因だったかしれないと思い当たった。
どういう訳か、心の奥を吐露してしまっている。こんな話をしても仕方ないのに……どうしたんだろう、僕は。
もしかしたら、必要以上に彼女に対して関心を持ってしまったのか?
しょせん、他人の女ではないか。僕は心の中で彼女の存在を打ち消そうとする。


  【 oneself 】

有刺鉄線を張り巡らし 
囲いの中でわたしは 
小さなプライドを守っていた
感情に触れたモノには 
鉄の棘で傷つけた

人の言葉に耳を塞ぎ 
空想の世界で呼吸していた
小さな砦の中では
自分の声しか聴こえてこない
孤独な魂は震えていた

寂しさから縛ろうとした 
弱さからすがろうとした
そして……
振りまわし 優しいあの人を
疲れさせてしまった

道の途中に立ち止まり 
行くべき道に迷っている
『 自分なんかいらない 』 
そう呟いて ぬかるんだ道を 
一歩だけ前に進む……

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静かに雨が降り続く。
湿気のせいで重くなった空気と布団が裸のふたりを包みこんでいる。なにも喋らなくなった彼女の呼吸が、時おり夜のしじまに溶けていく――。

僕らはこうやって肌を合わせていても、心は遠い。

「わたし……」
「ん?」
「いっぱい恋をしたよ、離婚もしたし……男と女は捨てたり、捨てられたり……だね」
ふーっと切なげにため息を漏らす。
彼女の人生がどんなものだったか知らないけれど、彼女なりに懸命に生きてきたんだろう。
僕らはもう若くはない、だからいろんな傷を持っている。時々、そこから血が流れだす。
「人を捨てるってことは存在を否定すること……それはいなかったと思うことなんだろうか? 必要ではないと思うことなんだろうか?」
彼女が自問するように呟く、その声に僕も自答しようとして、
……雨の音しか聴こえない夜、ぼんやりと闇の中で答えを探してみた。

   失ったモノ 戻らない そう思ってた
   失ったモノ 必要ない そう誓ってた

「わたしを捨てた男がそう詩に書いてたわ」
「そっか、存在を否定して、感情を切り捨てようとしているんだね」
「ええ、その言葉でわたしの愛は否定されて……捨てられたもの」
「失ったモノって君の『 愛 』ってことなんだ?」
「そう、彼の言いなりにならなくなって、そのことで彼はフラストレーションをつのらせて、わたしに怒ってたから。情は深いけど、もの凄く焼き餅やきな男だったから……」
「愛情と相手を縛る兼ね合いって……難しいよね」
「いつも監視されているようで息苦しかった。彼の愛が重すぎて逃げ出したかった……」
「……そっか」
「自由のない愛は耐えられない」
「……だね」
「それでも懲りずにまた誰かを好きになってしまう」
「あははっ」
「ひとりぼっちでは生きられない」
「うん……」
「ひとりは寂しい」
「…………」

彼女の生温かな息が僕の頬にかかる。こんなに傍にいても心はひとりぼっち。


  【 lonely heart 】

『 寂しい 』とあなたがいう
こんなに傍にいるのに
なにがそんなに寂しいの

君に逢えないと寂しい
君を待ってる時が寂しい
君の心が見えなくて寂しい
そう言って子供みたいに拗ねた

愛されていても
愛されていなくても
人は寂しいんだね

ひとりは寂しいくて
誰かの心に寄り添うけれど
寂しくないと思えたのは錯覚で
すべてを独占できるわけではない

好きなのに寂しい
好きになればなるほど寂しい
心はいつもひとりぼっち

寂しいと言われて
そう分かった瞬間が一番寂しい
私たち愛し合ったんじゃなくて
孤独を舐め合ってただけなんだろうか

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  第八話 傷つけあう心

朝、目が覚めると部屋の中に生活感のある匂いが漂っていた、僕の部屋なのに……。
「おはよう」
明るい声で彼女が挨拶をする。
「……おはよう」
なんだか照れる、この光景がまるでデジャヴみたい。記憶のひだが揺れた。
キッチンのテーブルの上に、ハムエッグとみそ汁と白いご飯が二人分並んでいる。
「朝ご飯作ったよ、食べよう」
「うん……」
朝はあまり食欲がないのだが、せっかく作ってくれたので一緒に食べることに。
彼女はフライパンが古くてテフロン加工がとれてて目玉焼きが張り付いて黄身が壊れたとか、わかめとお揚げのみそ汁がシンプルで好きだとか……そんな取り留めのないことをひとりでしゃべっている。
ごく普通のありふれた朝の情景、ずっと以前に僕が手放してしまった生活がそこにあった。
ひとり暮らしの気ままさに慣れて……なんだか違和感を覚える。
だけど……そこには懐かしさもある。

「美味しい?」
「うん……」
「ご飯お代わりあるよ、いっぱい食べて」
「もう、いいよ」
「じゃあ、残ったご飯はおにぎりにしておこうか?」
「あぁ……」
彼女がずっと昔から一緒に暮らしているみたいで不思議な感覚だ。
ひとり暮らしの方が気楽でいいと思っていた。ずっと、そう自分に言い聞かせて僕は満足していたのに……せっかく忘れかけていたことを蒸し返されて嫌な気分になった。
そんなことで動揺している自分が惨めにみえる。

「前に誰かと暮らしてたの? お揃いのマグカップあったから……」
食後のコーヒーをテーブルに置きながら、こともなげに彼女が訊く。
「…………」
「あらっ、悪いこと訊いちゃった?」
「別に構わないさ……」
あんなものを捨てずに取っておいた自分の迂闊さを恥じた。
「ねぇ、朝ご飯、美味しかった?」
そんなことをわざわざ聞く彼女に、女特有の厭らしさを感じて僕はわけもなく腹が立った。
「君の日常を僕の部屋に持ち込まないでくれよ」
「えっ?」
「飯を作ってやれば、男は誰でも大喜びするとでも思ってるわけ?」
「…………」
「飼う気もない野良猫に餌をやらないでくれ!」
「…………」
「そんなことをされたら……」
彼女はじーっと僕の目を見ていた、ひと言も言い返さずに、
「……余計なことをして、ごめんなさい」
そういうと飲みかけのコーヒーをシンクに流し、洗いものを済ませて、冷蔵庫の食材を全部ゴミ箱へ捨ててしまった。そして、ボストンバッグから文庫本を取り出しベッドに寝転がって読み始めた。
気まずい雰囲気が流れたが、僕は仕事に没頭することで彼女の存在を無視した。
やがて、ベッドから規則正しい寝息が聴こえてきた、どうやら彼女はいつの間にか寝てしまったらしい。
僕は仕事机から立ち上がると、寝ている彼女にそっと布団を掛けてやる。その寝顔に言い過ぎたことを謝った。

そんなことをされたら……君が帰った後、僕が寂しくなるじゃないか。


  【 夢の中へ・・・ 】

不条理な夢で目覚めた朝
もの憂い倦怠感で
頭の芯がズキズキ痛む
a0216818_19122110.jpg夢とか希望とかそんな言葉で
ちっぽけな人生を飾ってみても
掴めるものといえば
ほんのひと握りの砂だけ

現実をみろ!
誰かの声が聴こえた
だから現実って な・に・さ

ここには必要なカードがない
湿った部屋はカビ臭いくて
カーテンの色もくすんで見える
無風状態に慣れて心が荒んでいく

ヘッドフォンを着けて
現実をシャットアウトする
もう誰の声も聴こえない

甘い砂糖菓子をひとつ
浅い眠りに誘われていく
いつか見た あのシャガールの
絵の中に溶けこんでしまいたい




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-12-25 14:31 | 恋愛小説