― Metamorphose ―

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雨と彼女と僕と…… ⑥

雨の日に女をひとり拾った。
若くもない、取り立てて美人ではないが
心映えの美しい、そんな女だから。



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― 第二章 憂鬱な彼女と僕 ―


  第一話 愛の言霊

彼女は雨の日になると、時々アパートにやって来て『 僕の女 』になってくれる。
いつも小型のパソコンを持ち歩き、白いUSBメモリには魂が封じ籠められているという、そんな彼女は自称詩人である。
その彼女が来なくなって、たぶんひと月は経つだろうか? 
退屈だが平凡な日常を繰り返している――僕。

一週間ほど前になるが、彼女を見かけた。
僕らの住む町にある大型ショッピングモール内のスーパーマーケット、彼女はショッピングカートを押して、たぶん夫とおぼしき人物と買い物をしていた。
ふたりはおしゃべりしながら、次々と食材をカートに放り込んでいく。どこにでもいるような平凡な夫婦の買い物風景だった。
偶然、見かけた僕だったが……彼女の夫婦仲睦ましい姿を見ても、その夫(後ろ姿しか知らない)に対して、嫉妬心とか湧かない。彼女を独占したいとか、そういう気持ちはあまりないからだ。
ただ、僕のアパート以外での彼女の現実生活(リアル)を見てしまい、戸惑ったことは確かである。

その日は雨ではないけれど、久しぶりに彼女が僕のアパートを訪れた。
トントントン……と、遠慮がちにノックする音がして、開けてみたら彼女が立っていた。
薄手のジャケットとジーンズの彼女は、ふらりと近所へ買い物に行くような普段着姿だった。
「久しぶり」
「うん、元気だった?」
久しぶりに見た彼女は、恥ずかしそうに薄く笑った。
「あがんなよ」
「うん……」
少し緊張した面持ちで、彼女は部屋に上がってきた。
思えば……あの日の夕暮れ、携帯の呼び出しで急いで帰っていった以来だった。――もうずいぶんと昔のような気がしてならない。

キッチンテーブルの椅子に彼女が座り、僕はインスタントコーヒーを淹れてやる。
猫舌の彼女のために牛乳で薄めた生温いコーヒーだが、それを美味しそうにひと口飲んで、
「長いこと来られなくて、ごめんね」
と、僕に詫びた。
「いいよ」
僕らはお互いを縛る関係ではないんだから。
「鬱で外出できなかったから……」
えっ、今、彼女が嘘をついた? 
先日、スーパーで旦那と仲睦まじく買い物してたじゃないか? 僕は喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
彼女には彼女の事情があるのだろう。それを無理してまで逢いに来てくれとは言えないし、そんな権利は僕にはない。
ただ、そんな底の浅い嘘をつかれたことに対して、少しばかりプライドが傷ついたことも確かだ。
それ以上の会話の虚しさに……僕は彼女を引きよせキスをした。彼女も舌を絡ませて僕のキスに応えてくれる。

男と女は言葉を使わなくてもコミュニーケーションする術(すべ)があるから――。


  【 白夜 】

恋人よ
その唇に
甘き吐息を重ねよう

永遠の時は
数えられないけど
砂時計は刹那を刻む

明けない夜
ふたり魚になって
白い川を泳いでいく

愛染の
罪は深まりつつ
快楽は心を失くす

もう何処にも
逃げ場などない
針一本の隙間さえない

白い夜
ふたり重なり合って
波に揺られ溶けていく

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「逢いたかった……」
小さな声で彼女が呟いた。
彼女の中に果てて、繋がったまま覆いかぶさって、ぐったりしている僕の耳元で……。
もしも、それが本心から出た言葉ならば、涙がでるほど嬉しいと思った。彼女が僕をどう思っているのかなんて、今まで真剣に考えたこともなかったが……。
彼女の「逢いたかった……」そのひと言で、実は自分も逢いたかったのだと思い知らされた。
ただセックスの関係だけではなく、肌が触れ合う温かさ、優しさ、愛おしさ――この時を僕だって渇望していたのだ。
「逢いたかった……」それは彼女が放った愛の言霊だった。


  【 愛の言霊 】

沈みゆく夕陽の
叫びにも似た紅緋色
世界を燃やし尽くすように染めていく

心の渇望は際限なく
乾いた土が水を欲しがるように
あなたの言葉に耳を傾ける

わたしの葛藤は……
ざわめく言霊たちが交差する
未完成な箱庭の中にあって
小さな隙間には
希望が封じ込められている

あなたの差し出すパレットには
様々な色が塗り込まれていて
わたしの心に触れて
また新しい色に変わる

言霊はわたしの躯を廻り
群青の空へと解き放つ
紅緋色の胸『 愛の言霊 』を抱く巫女

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   第二話 憂鬱な彼女

「ねぇ、今夜泊っていってもいい?」
ベッドから起きて、のろのろと帰る支度をしていたが、ふいにそんなこと言いだした。
「別に……いいけど」
なぜか、いつもと少し様子の違う彼女が気になっていた。
「どうしたの? なにかあった?」
僕の問いかけに手を止めて、しょんぼりと俯いている。
「どうしたのさ、元気ないじゃん」
「……うん」
「話してみなよ」
「…………」
「なにがあった?」
「なにもかも嫌になった……死にたい!」
いきなり、そんなことを叫ぶと両手で顔覆って、わっと泣きだした。
抑えていた感情が噴出して、子どもみたいに声を上げて泣きだす。その状況に僕は驚き、戸惑っている。
少し落ち着くのを待ってから、僕は話を聞いてやることにした。


  【 虚無(うろ) 】

迷子のように いつも迷っている
遠くばかり見ていて 足元に落ちている
未来の地図を いつまでも拾えない

自分の甘さは分かっている
自分のズルさも分かっている
誰かにすがらないと
生きてゆけない 弱さも分かっている

『 何故 自分を愛せないのだろう? 』
ハリボテの頭で いつも考えている
幾度失敗しても それを学習できない
イビツで壊れたわたしは とても不安定

いつも消しゴムで こんな自分を消したい
衝動を抑えてる 自分の存在に価値なんかない
『 ダメな人間! 』
自分で貼ったレッテルが 心地よくて剥がせない

いつも自分を救う 術(すべ)を探してる
わたしの心の 虚無(うろ)には
誰の声も きっと届かない……

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ひとしきり泣いたら、すっきりしたのか、ようやく喋り出した。
「けんかして……飛びだした……」
「旦那と?」
「……うん」
「そっかぁー」そんなことだろうと思った。
彼女は普段着だったし、いつもの小型パソコンは持ってきてないし……。
ここに来た時からテンション低かったから、なんかヘンだとは思っていたが――やはりそういうことか。
僕から「話してみなよ」と言った手前仕方ない、今から夫婦げんかについて聞かされるのかと思うと、うんざりする。
「夫がぶった……」
「そう、大丈夫?」
「うん、それは大したことないけど……心が傷ついた」
「まぁー、暴力は良くないけど、たぶん相手も反省しているかもしれないから、今日のところは帰った方がいいよ」
こともなげに僕が言うと、
「……冷たいのね」
恨みっぽい目で僕を見て、彼女がそう呟いた。

出来るだけ平静を装った僕の言い方が、彼女にはひどく冷淡に聴こえたようだが……じゃあ、どうしろというんだ? この問題(夫婦げんか)に僕が首を突っ込んだら、ややこしくなるのはそっちの方だろう?
さっきの情事の後、彼女に、「逢いたかった……」と言われて、一瞬、とても幸せな気分なった能天気な僕だったが……単なる『 夫婦げんかの避難場所 』にされたことについて、僕だって傷ついているんだ。
彼女のくすり指を見る度、胸がちくりと痛む、どうせ僕のものにはならない。そんなことは分かってる、二人の関係がバレなければ誰も傷つかなくて済む、こんな状況での外泊はまずいだろう。
夜は長い。僕だって本当は帰したくないんだ。


  【 月下美人 】

漆黒の闇の夜
天上には燦燦と月は輝く
夜の華 月下美人は
月に焦がれて
艶やかな花弁で
ひと夜の恋に堕ちる

たとえ許されない恋でも
心に嘘はつけない
愛すれば愛するほどに
この恋は苦しみに変る
今宵 苦い『 罪の杯 』を
ひと思いに煽ってしまおう

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どんなに間違っていても 構わない!
たとえ狂ってると言われても 構わない!
すべてを壊してしまっても 構わない!

あなたに 愛するあなたに
触れていたい
愛を感じていたい
それだけが生きる望みだから
儚き華 月下美人よ
その哀しみをわたしは知る




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-01-09 20:08 | 恋愛小説