― Metamorphose ―

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雨と彼女と僕と…… ⑧

雨の日に女をひとり拾った。
若くもない、取り立てて美人ではないが
心映えの美しい、そんな女だから。



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― 第二章 憂鬱な彼女と僕 ―


   第五話 金木犀の風

   金木犀の風
   甘き香に心酔い
   ふと立ち止まり
   懐かしき人を想う
   夕暮れの街角

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――街に金木犀の風が吹く季節になった。
夏の終わりに『 猫公園 』で偶然彼女と出会ってからひと月は経つだろうか、あれから彼女は何も言って来ないし、たぶん旦那とまた上手くいっているんだろうと思っている。
あの日、『 猫公園 』で彼女と取り留めない話をしただけで別れたが……彼女を僕の部屋に誘いたい下心があったけど、普段着の彼女を拉致する勇気が僕にはなかった。
彼女は彼女の日常に帰っていく、その不文律を僕の欲望で壊すことなんかできない。
僕らの関係はとてもデリケート、微妙なバランスで保たれているのだから……。


  【 綱渡り 】

わたしの中で 
オンナが疼く
あなたに
逢いたい 逢いたい
この激しい衝動を 
抑えられない

優しいあの人の 
背中に嘘をつき
そっと部屋を出て 
足早に向かう
あなたが待つ 
その場所へ

優しいあの人は 
大事な人
逢いたいあなたは 
恋しい人
どちらの愛も
捨てられない 

人を傷つけても 
愛を乞う
わたしは罪深い
オンナだけど
ここまで来て 
後戻りは出来ない

この危険な
バランスゲーム
いつか崩れて 
すべて失うだろう
その覚悟を胸に 
愛の綱渡り


彼女のことは『 女 』として愛おしい。
だけど、彼女の人生を背負い込む勇気は今のところ僕にはない――。自分のことで精一杯で彼女を支えてあげられるだけの余裕がないんだ。『 愛している 』という言葉に伴う責任から、ずっと逃げている。
愛なんか信じない、そう思って自分の感情を押し殺してきた。
これからだって、そのスタンスを変える気はないけど……。

それでも、雨が降ったりすると彼女のことをぼんやり考えたりもする。来ないかなぁーと、心の片隅で期待してしまう。
いつの頃からか、心の中で彼女の存在が大きくなった。
お互いを縛らない自由な関係は、相手を縛れない寂しさがある。
今頃どうしてるのかな? 無邪気で危なっかしい女、そんな彼女に逢いたくなる。
逢いたいと思うほど、寂しさが募るばかり……。


  【 痛い 】

1日のうち1分でも
あなたはわたしを
想ってくれているかしら?

わたしは1日のうち
1秒としてあなたを
忘れたことはない!

そんなことを……
考えなければよかった
みじめで悲しくなった

そんな自分が痛い!

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   第六話 逃避行

朝のまどろみの中、ベッドで惰眠を貪る僕の耳に、ドンドンドン……と乱暴にドアを叩く音が聴こえてきた。
「誰だよ……」
ベッドの脇に置いた携帯の時計を見ると、まだ七時前だ……。
「冗談じゃないぜぇー」
イラストレーターの僕は完全な夜型人間である。
朝は十時より早く起きたことがない、こんな僕になんという乱入者! 憤慨しながらドアを乱暴に開けて怒鳴った。
「誰だっ!?」
「わ・た・し」
満面の笑顔で彼女が立っていた。
「嘘だろう、何でこんな朝早くから……」
ぶつぶつ言いながら、彼女を部屋に通した。

低血圧のため、朝は元気が出ない僕……。
今朝は彼女にコーヒーを淹れて貰う。僕は熱いブラックコーヒー、彼女はいつもの薄温い牛乳割りのヘンテコなコーヒー。
「ねぇーねぇー、あのさぁー」
「なんだよ!」
いきなり朝早く起こされて不機嫌な僕はブスッとした顔で応える。そんな僕の態度を気にする風もなく、彼女はやたら楽しそうだった。
「一緒に旅に出よう!」
「えぇーっ!」
飲んでいたコーヒーを思わず噴きそうになった。彼女はいつだって突拍子もない。
「あのさ――温泉に行こうよ」
「急になんだよ」
「温泉いきたい! 温泉いきたい!」
「……温泉かぁー」
彼女の口から何度も発せられた『 温泉 』という言葉に少しそそられる。ふたりで旅行もいいかもしれない。
「うん。それでどこへ行く?」
「あのねぇー、山奥に『 ランプの宿 』っていうのがあるんだって。そこへ行ってみたいの」
うきうきした顔で彼女がいう。
どうした訳か――今日の彼女はテンションが高め。こんな楽しそうな彼女を見るのは久しぶりかな?
まるで子どもが《遊びましょう》って、家に誘いにきたみたいだ。無邪気な彼女の態度に思わず笑みが零れる。
「よし、行こう!」
「わーい」
パソコンで『 ランプの宿 』を検索して、宿の予約と行き先の路線を調べてから、僕らは旅立った。

――それは、現実生活(リアル)からの逃避行だった。


  【 L et's try!】

ねぇ 深呼吸したら 風の色が変わったよ
眠っていた サナギが目覚め始めた 
わたしを揺り動かす うねるような焦燥感

何か 新しいモノを求めて 『 L et's try! 』
ここには もう留まってはいられない
広げた地図をたたんだら 旅立ちの準備

あのね あなたがそっと教えてくれた
秘密の暗号 今も心の中で解いているよ
優しかったあの人 ずっと忘れないから

だから みんなにバイバイって手を振るよ
たんぽぽの綿毛たち 一緒に連れて行って
小さな温もり抱きしめて わたし旅立つ

        『  求めよ、さらば与えられん。
           尋ねよ、さらば見出さん。
           門を叩け、さらば開かれん 。 』

             新訳聖書 「マタイによる福音書」より

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主よ あなたの言葉を信じます!
わたしは その扉を何度も叩きます
何度でも 何度でも 『 L et's try! 』


僕らは幾つもの電車を乗り継いで、どんどん都会から遠ざかっていく――。行き着いた山奥の駅から一日三本しか出ないバスに乗り継いで、ついに目的の『 ランプの宿 』へ向かおうとしている。
バスの乗客は彼女と僕のふたりだけ、まるで貸切バスが僕らを遠い世界へ連れ去って行くようだ。

僕らはまるで逃亡者にでもなった気分だった!
渓谷沿いの険しい山道をバスはどんどん登っていく。ガードレールもなくタイヤがスリップしたら谷底へ真っ逆さま、舗装もされてない山道なのでバスは大きく左右に揺れる。遊園地の絶叫マシーンより、よっぽどスリルがある。
彼女は怖いのか? 僕に腕を絡めてぴったりと寄り添っている。
密着する彼女の肉体から女の匂いが立ちのぼって……劣情をそそられたが……そんな自分を抑えていた。
焦るな! この旅のあいだ、彼女は僕だけのものになる。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-01-11 16:18 | 恋愛小説