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ラボ・ストーリー ⑬

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   Dr.Yamada file.13【 スカポンタン☆ 】

  大和工科大学の地下、薬品倉庫の奥深く、『劇薬』『火気厳禁』『混ぜるな! 危険』と書かれたプレートより、さらに危険なラボがあった。
 そこには大学の疫病神と呼ばれるDr.山田とその助手の佐藤が、日夜、極秘(胡散臭い)研究に明け暮れていた。

「あれぇ? 僕のプリンがなぁ~い!」
 冷蔵庫に頭を突っ込んだまま、助手の佐藤が叫んだ。
「博士あんたか? また勝手に食べたのか!?」
「プリン二個あったから、てっきりわたしの分だと思って食べた」
 顕微鏡を覗きながら、Dr.山田が平然という。
「しかも二個とも食べるなんて……どういう神経してるんですか?」
「一個は僕の分で、もう一個は君の優しさだと思った」
「違う! 一個は今日の僕の分で、もう一個は明日の僕の分だ。博士の分は買ってない!」
「そうなの? 優しい助手をもって幸せだと思ったのは、わたしの思い過ごしだったとは残念だよ」
「黙れ! ぽんこつ博士」
 怒った助手の佐藤は自分のパソコンに向かった。
「佐藤くん、このデーターの分析を大至急やってほしい」
「イヤです!」
 助手の佐藤はパソコンの技術はハイレベルなのだが、いったん怒らせると一週間は研究の手伝いをやらない偏屈者だ。
「もう、食べちゃったことだし水に流そうよ」
 機嫌を取りながら、Dr.山田がいうと、
「絶対にイヤだ! 今日のこの日ことは日記に書いてずーっと忘れないから」
「たかがプリン一個のことで、君も女々しい男だね」
 Dr.山田の言葉が、佐藤の怒りにガソリンを注いだ。
「このプリンはただのプリンじゃなぁ~い! 僕の大好きな声優の志村まゆりがボイスやってるんですっ!!」
 パソコンのモニターからアニメーションが流れだす。

『プルルン♪ プルルン♪ プルル~ン プリン♪ さあ、召し上がれ~♪』

 巨乳の萌えアニメキャラが胸を揺らしながらプリンを食べる。そのキャラのアフレコをまゆりんがやっている。
「まゆりんが宣伝してる、このプリンを買うため、あっちこっちのコンビニを駆けずりまわったんです。ご飯も食べずにプリンを探しまわった、この僕の苦労をなんだと思ってるんですかっ!」
 チンチンに焼けた薬缶(やかん)のように、頭から湯気を出して佐藤が怒鳴った。
「スマン! わたしが悪かった。このプリン買ってくるから」
「もういいです。家に帰ったら三つ箱買いしてます」
「えーっ! そんなに買ってるならプリンの一つ二つで、そんなに怒らなくても……」
「まゆりんプリンを僕以外の男に食べられることが耐えられない」
「いや~それってスポンサーの意向に合ってないでしょう?」
「そんなの関係ない!」
「だって、商品が売れないと仕事失くすよ」
「まゆりんプリンは僕が一人占めしたい! 追加50ケースAmazon注文するぞ!」
「うわ~っ、プリンだらけ……」
 助手の狂信ぶりに絶句するDr.山田であった。
 何しろ佐藤は『まゆりん皇国』という志村まゆりのファンクラブに所属していて、自分のことをまゆりん姫の下僕だと思っている熱狂的ファンなのだ。

「このデーターの分析を頼むよ」
 頃合いをみて、再び佐藤に仕事の依頼しようとする。
「しりません!」
「ねぇーねぇー頼む。佐藤くんだけが頼りなんだ」
 拝み倒してでもやって貰おうと、Dr.山田はプライドをかなぐり捨てた。
「だいたいさぁ~、ここの研究費ってどこから出てるんですか?」
 大学では厄介者扱い、その存在すら忘れられている山田ラボは、研究費の予算など計上されてもいない。
「そりゃあ、全世界数百万人のDr.山田ファンからのカンパだよ」
「ファン? そんなのいるわけねーよ! 世間に見捨てられた山田ラボに、研究費めぐんでくれるような物好きはいません!」(キッパリ!)
「まあ、研究費を捻出のために、いろいろ副業やってるし……」
「副業って? ニセ金つくってんじゃない?」

 ギクッ☆

「今、ギクッって肩動かなかった? まさか本当にニセ金つくってんの?」
「それも副業のひとつだけど……他にネットでいろいろ……」
「もしかしてネットで詐欺とかやってません? それって犯罪ですよ」
「バレなきゃあ、大丈夫」
 涼しい顔でDr.山田がいう。
「それに幾つかのパソコンを経由してるから、そう佐藤くんのも……」
「うわぁ~っっっ!! いつの間にか犯罪の片棒担がされたぁ~」
 慌てて、パソコンのパスワードを変更する佐藤である。
「佐藤くんほどの腕前なら、ハッカーだってやれるだろう」
「こないだ、首相官邸のパソコンに侵入しました」
「ええっ!?」
「まゆりんのためにお金稼いでます。ハッキングはいわば僕の副業」
 しれっとした顔で佐藤がいう、それも立派なネット犯罪です。
「佐藤くんのハッキング技術なら刑務所に入ってもすぐに脱獄できるよ」
「刑務所でパソコン触らせて貰えると思う? 僕はパソコンがないと生きていけない」
 研究費捻出の副業といいながら、ネットを悪事の道具に使っているこの二人はいかがなものか?(良い子はマネをしないで下さい)

 佐藤のスマホからまゆりんの歌が聴こえた。どうやらメールが届いたようだ。
「わーい、まゆりんからメールが届いたぁ~♪」
 小躍(こおど)りして喜ぶ。

『下僕番号4830番
シュガーちゃん、先日贈ってもらったゴディバのチョコ美味しかったよ。
まゆりん、今度は京都辻利の京ラテとわらび餅が食べたいなぁ~♡』

 下僕の佐藤は、まゆりんの私書箱に貢物として毎月プレゼントを送っている。

「やったー、ゴディバのチョコ喜んでくれたぁ~♪」
「うむ。あれは美味かった」
「えっ、なんか言った?」
「な、なにも……」
 慌てて口を押さえるDr.山田である。(なんか怪しい)
「じゃあ博士、明日、新幹線で京都の辻利本店までいってきまーす♪」
 すっかり機嫌が直った助手は仕事を始めた。

 アカウントを乗っ取られていることに、佐藤はまだ気づいていないようだ。
 Dr.山田は、まゆりんに成り済ましメールを送っては、助手に貢がせている。こんなペテン師まがいのやり方で、助手を喜ばせることが“優しさ”だと勘違いしている、まったく始末の悪い男である。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-24 14:51 | SF小説

by 泡沫恋歌