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by 泡沫恋歌
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夢想家のショートストーリー集 第113話

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   第113話 時空を超え300年の眠りから目覚めた私が果たして人類の救世主になりうるのか!?

 どんなに才能があっても、莫大な財産を持っていても、有名人だったとしても……手に入らないものがある。それは自分自身の寿命だ。
 私は17歳で芥川賞を受賞した天才小説家だった、大ヒットした小説は映画化、ドラマ化、アニメ化されて、あっという間にひと財産を築いた。
 コメンティーターとしてテレビに映らない日はなかった。小説のアイデアがどんどん浮かんできて、才能はもっともっと開花するはずだったのに……ある日、過労が原因で倒れてしまった。

 ――ただの過労だと思っていたら、私の肉体は怖ろしい病魔に侵されていた。
 突然、医師から不治の病だと診断された。
 このままだともって数ヶ月の命だという、おめおめと死に逝くわけにはいかない。私には夢がある、野望もある、もっと書きたい! 創作はアイデンティティなのだ!
  たとえ、それが私の運命だとしても“ 死 ”を拒絶する。そして未来の医学に希望を託し、冷たいカプセルに入ることを自ら選択した。

 大きく深呼吸をひとつ、眼を閉じれば視界から全てがシャットアウトされていく――。
 今度目覚める時、この世界はどう変わっているだろう。期待と不安が入り混じるが、眠りとともに、私の時間は悠然とただ過ぎていくだけだ。

 ――これは始まりなのか? 終わりなのか?

 20XX年12月16日 遠野未来(とおの みく)、18歳、小説家、大学病院の地下4階、コールドスリープで仮死状態に入る。

*
             
「good morning!」

 いきなり甲高い男の声で、悠久の眠りから目覚めた。
 真っ白な無機質な部屋、ここは病院だろうか? 私は蘇生した!

「どのくらい眠っていたのですか?」
「300年ほどです」
「えっ、えぇー! 300年も?」
「21世紀に大地震があって、病院ごと土砂に埋まってしまい、そのまま存在を忘れられていたのですが、地下鉄工事であなたのカプセルが地中から発見されたのです」
「コールドスリープはそんな長く稼働できないのでは? たしか100年くらい……」
「カプセルは停止していて、あなたの死体は長い間、密閉された土中に置かれていたため、完全に死蝋化してました」
「えっ! 死蝋(しろう)?」
「外気と長期間遮断された果てに腐敗を免れ、内部の脂肪が変性して死体全体が蝋状もしくはチーズ状になったものですが、現代の医学で蘇生させました」
 私が死人だったなんて……医者の言葉に衝撃を受けた。
「……そ、それで不治の病の方は?」
「それならさっき注射一本で完治です」
 注射一本って? たった注射一本なの!? 不治の病がそんな簡単に治るんですか? なんか300年もコールドスリープして、大損した気分だよ。
 まさか300年ってことは、今は24世紀くらい? 一度死んでいたなんて……しかも私の目の前にいる男は、21世紀に不治の病だと宣言した医師と同じ顔をしている。
 これってドッキリカメラかもしれない。

「先生は私の主治医だった人でしょう?」
「いいえ。僕は彼のクローンで3代目になります」
「クローンって!?」
「この地上にはオリジナルの人間はいません。すべての人類はクローンなのです」
「ぱっと見は普通の人間と変わらないよ」

 私が眠っている間、いったい地球に何が起こったの!?

 医師の説明によると、22世紀初頭に世界戦争が勃発、核兵器ではなく、敵を根絶やしにしようと細菌兵器が使われた。それは人類を不妊にしてしまう怖ろしい細菌だった。
 敵を滅ぼすために使用された細菌が味方にも感染してしまい、とうとう人類は子孫を残せなくなってしまった。
 そして彼らクローンが人類存続のためにつくられた。
 死の直前に自分の細胞を残し、それを培養で生まれたのが、現代のクローン人類なのだ。

「あなたに未来からお願いがあります」
「人体実験ならお断りです!」
「遠野未来さん、あなたは小説家でしたね」
「ええ。脳を調べるのはやめてくだい!」
「違います。実は我々クローンには創造力がありません」
「へ? 想像力がないってことは空想したり、妄想したり、嘘を付いたりできないってこと?」
「はい。クローンは身体的な特徴は再生できても、記憶や性格、本人の才能は引き継げません。大作家や有名画家のクローンであってもぜんぜんダメなのです」

 なんと300年後の人類は想像力を失くしてしまっていた。

「イメージを描けないから、新しいものを創作できない」
「……それじゃあ人類には進歩ってものがないの?」
「そうです」
「そんな社会じゃ未来に希望がもてないね」
「はい。どんどん無気力になって自死するクローンが年々増加しています。このままだと人類存続の危機です!」
 想像する心を失くして、クローンは自滅しようしている?
「私は何をすればいいの?」
「たくさんの物語を書いてください」

「モノガタリ?」

 人間と動物の違いは想像したり、空想したり、妄想したり、有りもしないことを頭の中で生み出すことができることだ。
 ただ身体だけ再生できればいいってもんじゃない。想像力は人間とって生きていく糧になるのだ。

「あなたが創作する楽しさを我々に教えてください。それが刺激になってクローンたちにも想像力が生まれるかもしれない」
「いっぱい書けばいいんですね!」
「はい」
「それならおやすい御用、300年間書きたくてうずうずしてたから」
「想像力で未来を救ってください」
「フィクションの楽しさを教えてあげる!」

 時空を超え300年の眠りから目覚めたオリジナル人類、遠野未来は想像力を失くしたクローンのために創作スキルを発動する。
 彼女はPCに向かい、凄まじい勢いでキーボードを叩き始めた。300年間、封印されていた創作の翼が羽ばたいたのだ。
 ここに人類の救世主たる、創作の女神(ミューズ)が舞い降りた。



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泡沫恋歌 『夢想家のショートストーリー集』


創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-11-07 13:01 | 夢想家のショートストーリー集