― Metamorphose ―

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2018年 03月 06日 ( 1 )

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表紙はフリー画像素材 Free Images 3.0 OhLizz 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


   第一章 ナッティーについて

「アザース!」 嬉しそうに彼女はニッコリと微笑んだ。
 僕のパソコンの画面に映し出された彼女はとってもチャーミングなアバターなのだ。
 アバターというのはSNSなどでゲームやチャットをする時に自分の分身として、画面に表示される画像ことで、それぞれのSNSでいろんな顔や服装パターンが存在する。
 彼女が入っているSNSは、特にアバターが精巧に出来ていて可愛い。アバターには服装や背景を着せ替えできるようになっていて、自分のアバターにお気に入りの衣装をコーディネイトして楽しむ趣味の人たちがいる。――いわゆる『アバ廃人』と呼ばれるマニアで、月に何万円もアバターを買っている人たちだ。
 まあ、よくお金が続くなぁーと感心してしまう。

「コンビニでウエブマネー買ったから、今、番号教える」
「良かったぁー、これでまたアバターを買えるわ」
「ほどほどにしなよ」
「だってぇー、アバター命だもん!」
「もう死んでるのに……」
「――それを言うか? 失礼な奴めぇー」

 彼女のハンドルネームはナッティー、実はネットの中に棲んでいる幽霊なんだ。……まさか、信じられない? うん、誰だってそう思うよね。
 だけど、最近の幽霊はお墓になんか棲んじゃいないのさ。いろんな世界と繋がる異次元空間ともいえる、このネットこそが幽霊たちの隠れ家なんだ。アバターやアイコンでしか存在を示せないネットでは、リアルの肉体を失くした彼らが、幽霊だと悟られずに人間たちとコミュニケーションできる唯一の場所なのだ。
 君も気を付けなよ、ネット仲間の何人かに、もしかしたら幽霊が紛れ込んでいるかも知れないぜ。あははっ

 ――ナッティーも、そんな幽霊たちのひとりなんだ。
 彼女に訊いたところ、一年ほど前にパソコンをやっている最中に心臓発作で亡くなったらしい。
 ナッティーは超アバター好きの『アバ廃人』で、アイテムバックにはレアアバターをかなりコレクションしているらしく、亡くなった日は欲しかったレアアバターをゲットできて歓喜し過ぎて興奮したために発作を起こしたらしい。
 元々、心臓が悪いナッティーは自宅で療養生活だった。――あまり外出できないので、パソコンべったりの『ネット依存症』になったらしく……そのせいか、アバターへの執着とネット依存症で死んでも成仏できず、ネット幽霊としてSNSに棲み着いてしまったのだ。
 俗名は菜摘(なつみ)、享年十九歳。それがナッティーの生涯だった――。

 しかし、ネット幽霊になってしまったものの、SNSの課金システムは厳しい。
 自縛霊のナッティーはネットの外へ出られないので、お金を自分でチャージすることができない、定期的に課金しないとSNSのいろんなサービスを受けられなくなってしまう。
 そんなナッティーのために、この僕はウエブマネーを買って、時々チャージしてあげてるってわけさ。

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   第二章 僕と秋生について

 さて、前置きが長くなったが――。
 僕の名前は福山翼(ふくやま つばさ)都立に通う高校三年生だ。サッカー好きの親父に『ツバサ』とキャプテン翼にちなんだ名前を付けられたが、実は小学校からずっと剣道一筋なんだ。
 このネット幽霊ナッティーとは、半年前に起きた悲しい事件をきっかけに知り合いになった。――僕らはある人を死に至らしめた犯人をネットの世界で探しているのだ。

 その事件とは、僕の幼馴染で親友だった、村井秋生(むらい あきお)の自殺だ。
 僕と秋生は同じマンションに住み、小・中・高校とずっと同じだった。看護師をしている母親とふたり暮らしの秋生は。よく僕の家に泊まりにきて、ご飯を食べて風呂まで一緒に入った。まさに家族同然の付き合いだった。
 気が優しくて繊細な秋生は人と争うことが嫌いで、ひとり静かに小説を読んでいるような奴で、棒きれ振りまわして暴れてる剣道少年の僕とは大違いだった。――だけど僕らは兄弟みたいに仲が良く、自分にない部分をお互いおぎあい認め合っていたんだ。
 高校生になって勉強や塾、部活などで前ほど遊べなくなったけど、スカイプやメールなどで連絡は取り合っていた。

 秋生の様子がオカシイなぁーと感じたのは、あいつが自殺する前日だった。
 十時過ぎに塾が終わって、僕は自転車で帰宅中、自宅のあるマンションの前にきたら、建物敷地内の児童公園の暗がりに誰かがうずくまっていた。ホームレスかと思って通り過ぎようとしたら、「ツバサ……」と呟くような声が聴こえてきたのだ。
 振り返って見たら、それが秋生だった。確か、一週間前から学校を休んでいると秋生のクラスの剣道部員から話を聞いていたが、近所ということもあって、つい見舞いにいくのが遅れてしまった。――言い訳すれば、剣道部の試合と塾の模擬試験が重なって忙しかったのだが……。
 心配しながらも後回しにしていたら、まさかこんな所で秋生と会うとは思わなかった。
 ――だが、いつもの秋生と様子が違う。僕らは会うとジョークを二言三言、飛ばして笑い合うのだが……その日の秋生は蒼白い顔をして元気がなかった。
 塾帰りの僕は腹が減っていたので、近所のラーメン屋にいかないかと秋生を誘ったら付いてきた。一緒にラーメンを注文したが、ほとんど秋生は食べなかった。口数も少なく、時々しゃべるとドモッたり、瞼がピクピク痙攣して……なにか、神経性の疾患ではないかと思われた。

「秋生、何かあったのか? いつものおまえらしくないぞ」
 目の前の秋生の様子が心配で箸を置いて僕は訊ねた。
「……べつに……」
 曖昧な顔で秋生が薄く笑う。
「悩みごとでもあるんじゃないのか? 何かあるなら相談しろよ」
「どうしようもない……」
「えっ?」
「もう……限界だ……」
「なにが?」
「……ジ・エンド」
「秋生?」
 その後、秋生は何を聞いてもいっさいしゃべらなかった。
 その日は遅くなったので自宅のあるマンションのエレベーターの前で別れた。僕の家は七階で、秋生は最上階の十五階なのだ。

 それが――秋生を見た最後の姿だった。

 朝方、ベッドの枕もとに置いた携帯が鳴った。着信音がメールだったので後で読もうと開かないで、そのままにして……眠ってしまった。
 遅刻ギリギリまで寝ていた僕は、慌てて支度をするとカロリーメイトとポカリを持って、マンションのエレベーターに飛び乗った。そこで気が付いて、早朝にきたメールを僕は開いてみた。
 ――それは秋生からだった。

『 ツバサ、おまえに残したいものがある。
  これは僕の遺産だから

  ID:●●●●●●●
  パスワード:*******
  このHPを守ってくれ!

  ツバサ、ごめんな、
  おまえはいい奴だった、ありがとう

  もう限界なんだ 疲れたから
  今から飛ぶよ

  さよなら……

          秋生   』

 こんな冗談とも取れない、意味不明のメールがAm5:10に携帯に送られていたのだ。
 僕は悪い冗談かと……首を捻りながらも、昨夜の秋生の様子が尋常ではなかったので、俄かに心配になってきた。やがてエレベーターが階下に着いた、エントランスの自動ドアが開いて僕が見たものは……。
 救急車とパトカーが数台、それを囲むように野次馬の群れ、それらの眼は真っ赤な血に染まったマンション前の路上と白いシートに包まれたある物にそそがれていた。
 ――そう言えば、メールの着信音の後にドーンと何か落ちたような音がしたが、あれは……もしかして……秋生、おまえだったのか!?

 僕は言葉もなく、その場に茫然と立ち尽くしていた――。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-06 16:21 | ミステリー小説