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泡沫恋歌のブログと作品倉庫     

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カテゴリ:SF小説( 23 )

ラボ・ストーリー ⑭

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   Dr.Yamada file.14【 優先順位 】

 「はあ? 誰が上司だってぇ~?」 素っ頓狂な声で助手の佐藤が、Dr.山田に向かって訊き返す。
「……だから、ここは山田ラボだし、責任者はこのわたしだ。君は助手なんだから、いわば部下だろう?」
「で、それが、なぁに……?」
 研究室のパソコンでギャルゲーをしながら、佐藤が面倒臭そうにいう。
「上司の言うことをたまにはきいたらどうなんだい」
「仕事ならやってるでしょう? 空いた時間にゲームして何が悪いの」
 佐藤はパソコンの魔術師と呼ばれる天才的プログラマーである。
「君が優秀な助手だと認めているさ。けどね、明日は大学の理事長たちがこのラボを視察にくるんだ。この部屋をなんとかしてくれたまえ……」

 劇薬保管倉庫の奥にある山田ラボは、博士と助手の二人きりの研究室なのだ。
 日頃は誰もここには近寄らないし、大学からも見捨てられている。だが、年に一度だけ研究費を計上するために事務局の視察を受けなければならない。
 しかし山田ラボの室内は、おおよそ研究室とは思えない有様だった。
 壁一面に貼られたアニメのポスター、棚に並べられた美少女キャラのフィギア、アニメキャラのぬいぐるみやクッションが床を覆い、BGMは声優が歌うアニソンが流れている。
 これらはすべてアニヲタ助手佐藤の私物である。
「明日は視察だから、アニメグッズを片付けてくれまいか」
「嫌です!」
 即答で拒否する佐藤だった。
「上司の命令が利けないのかい」
「僕はあなたの部下じゃない。まゆりん姫の下僕ですもん」
 佐藤は人気声優の志村まゆりファンクラブ『まゆりん皇国』の皇国民を自称している。
 皇国民である佐藤の使命は、まゆりん姫が声を当てているアニメすべて鑑賞して、CD、DVD、ブルーレイ、アニメ雑誌など、まゆりんが関係したあらん限りのグッズ買い漁るほどの忠誠心をもっている。
 佐藤の人格の89%は“まゆりんへの愛で出来ている”といっても過言ではない。
「アニメは趣味として、もっと仕事に真剣になってくれたまえ」
「僕の人生で最優先すべきことはまゆりんのことです」
「いや、他にも大事なものがあるだろう?」
「無いです!」
 きっぱりと言い放つ佐藤である。
「じゃあ、わたしは……」
「博士は優先順位38番くらいかな?」
「わたしが38番ですとっ!?」
「まぁ~そんなもんでしょう」
「わたしより優先順位が前の37番はどういう項目かね?」
「う~んと、天気が良ければ布団を干す」
「ううぅ……わたしは布団にも負けているのか」
「ちなみに優先順位36番はたまってる汚れたパンツを洗う。35番はサボテンに水をやる」
「パンツやサボテンより……わたしの方がどうでもいい存在なんて在り得ない!」
 机を叩いて抗議するDr.山田に対して、冷ややかな佐藤の視線。
「だいたい、あんたは上司としての威厳が皆無。どう見たって、ただの詐欺師っぽいオッサンだし……」
「失礼なっ! なんたる無礼な発言!」
「今までの人生でパソコンしか友だちがいなかった、この僕に光をくれたのはアニメです。僕のすべてをまゆりん姫に捧げています」
 清々しいほど、きっぱりと佐藤がいう。
 もうこれ以上話し合っても埒が明かない、平行線のまま博士と助手は睨み合っていたが――。
「後生だから……佐藤くん、この部屋なんとかしようよ。足の踏み場もない。明日は視察団がくるんだ」
 ついに涙声で訴えるDr.山田である。
「アニメグッズを片付けるなんてお断りです!」
 なにを言っても、聞く耳持たない頑固な佐藤には、ほとほと手を焼く――。だが、こうなることはある程度予測されていたので、Dr.山田の方にもちゃんと秘策があった。

「佐藤くん、ほれっ!」
 いきなり頭にヘルメットのようなものを被せた。
「スイッチ・オン!」
 ボタンを押すと、痙攣しながら佐藤が床に崩れた。
「実験なしで、ぶっつけ本番だったが……頑丈な佐藤くんなら平気だろう」
 このヘルメットは脳に電気をながし、ショックで一時的に記憶喪失にする装置だった。
「佐藤くんのアニメへの執着をなくせば、きっと掃除に協力してくれるはずだ」
 Dr.山田、助手に人体実験をするマッド・サイエンティスト!(怖ろしい子)

 そして10分後、佐藤は目覚めた。
「ここはどこですか?」
「佐藤くん、目が覚めた? わたしは君の上司のDr.山田だよ」
「知らない」
 すっかり記憶が飛んでしまっているようだ。
「えっ? まあ、わたしを忘れても掃除はできるだろう。今からこの部屋のガラクタを、全部きれいさっぱり片付けてくれたまえっ!」
「ハイ。分かりました」
 人が変わったように素直な態度だ。
「じゃあ、今から事務局に明日の視察の件を話してくるから、佐藤くんは掃除やってて」
「了解しました」
 従順な助手の姿に満足し、スキップしながらラボを出るDr.山田である。

 そして1時間後に戻ったDr.山田が見たものは、パソコンや研究機材がすべて取り除かれて、アニメグッズ一色になった山田ラボの室内だった。
「こ、これはいったい!?」
 茫然と立ちつくすDr.山田、アニメグッズ(ガラクタ)を片付けろと指示したはずなのに……まさか、こんな結果になっていようとは!?
「ガラクタは捨てました」
 高価な研究機材がゴミとして捨てられている。
「佐藤くん、君の大事なパソコンはどうした?」
「もう必要ありません」
「うわ~っ、大事なスキルまで捨ててしまった!」
「僕にとって、一番大事なモノはアニメグッズです」
 アニヲタを甘くみていたことに心底後悔するDr.山田である。
 こんな研究室に視察団が来たら、もうお終いだ! ラボの責任者という地位も、たったひとりの部下さえ失ってしまう。
「ああ~明日の視察はどうしたらいいんだ!? このままだと山田ラボが消されてしまう!!」
 頭を掻き毟り悶絶するDr.山田の隣には、アニメグッズに囲まれてご満悦な佐藤の姿があった。
 アニヲタ魂は永遠に不滅だった! 上司の言葉よりも、アニメ命の部下なのだ。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-25 20:38 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑬

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   Dr.Yamada file.13【 スカポンタン☆ 】

  大和工科大学の地下、薬品倉庫の奥深く、『劇薬』『火気厳禁』『混ぜるな! 危険』と書かれたプレートより、さらに危険なラボがあった。
 そこには大学の疫病神と呼ばれるDr.山田とその助手の佐藤が、日夜、極秘(胡散臭い)研究に明け暮れていた。

「あれぇ? 僕のプリンがなぁ~い!」
 冷蔵庫に頭を突っ込んだまま、助手の佐藤が叫んだ。
「博士あんたか? また勝手に食べたのか!?」
「プリン二個あったから、てっきりわたしの分だと思って食べた」
 顕微鏡を覗きながら、Dr.山田が平然という。
「しかも二個とも食べるなんて……どういう神経してるんですか?」
「一個は僕の分で、もう一個は君の優しさだと思った」
「違う! 一個は今日の僕の分で、もう一個は明日の僕の分だ。博士の分は買ってない!」
「そうなの? 優しい助手をもって幸せだと思ったのは、わたしの思い過ごしだったとは残念だよ」
「黙れ! ぽんこつ博士」
 怒った助手の佐藤は自分のパソコンに向かった。
「佐藤くん、このデーターの分析を大至急やってほしい」
「イヤです!」
 助手の佐藤はパソコンの技術はハイレベルなのだが、いったん怒らせると一週間は研究の手伝いをやらない偏屈者だ。
「もう、食べちゃったことだし水に流そうよ」
 機嫌を取りながら、Dr.山田がいうと、
「絶対にイヤだ! 今日のこの日ことは日記に書いてずーっと忘れないから」
「たかがプリン一個のことで、君も女々しい男だね」
 Dr.山田の言葉が、佐藤の怒りにガソリンを注いだ。
「このプリンはただのプリンじゃなぁ~い! 僕の大好きな声優の志村まゆりがボイスやってるんですっ!!」
 パソコンのモニターからアニメーションが流れだす。

『プルルン♪ プルルン♪ プルル~ン プリン♪ さあ、召し上がれ~♪』

 巨乳の萌えアニメキャラが胸を揺らしながらプリンを食べる。そのキャラのアフレコをまゆりんがやっている。
「まゆりんが宣伝してる、このプリンを買うため、あっちこっちのコンビニを駆けずりまわったんです。ご飯も食べずにプリンを探しまわった、この僕の苦労をなんだと思ってるんですかっ!」
 チンチンに焼けた薬缶(やかん)のように、頭から湯気を出して佐藤が怒鳴った。
「スマン! わたしが悪かった。このプリン買ってくるから」
「もういいです。家に帰ったら三つ箱買いしてます」
「えーっ! そんなに買ってるならプリンの一つ二つで、そんなに怒らなくても……」
「まゆりんプリンを僕以外の男に食べられることが耐えられない」
「いや~それってスポンサーの意向に合ってないでしょう?」
「そんなの関係ない!」
「だって、商品が売れないと仕事失くすよ」
「まゆりんプリンは僕が一人占めしたい! 追加50ケースAmazon注文するぞ!」
「うわ~っ、プリンだらけ……」
 助手の狂信ぶりに絶句するDr.山田であった。
 何しろ佐藤は『まゆりん皇国』という志村まゆりのファンクラブに所属していて、自分のことをまゆりん姫の下僕だと思っている熱狂的ファンなのだ。

「このデーターの分析を頼むよ」
 頃合いをみて、再び佐藤に仕事の依頼しようとする。
「しりません!」
「ねぇーねぇー頼む。佐藤くんだけが頼りなんだ」
 拝み倒してでもやって貰おうと、Dr.山田はプライドをかなぐり捨てた。
「だいたいさぁ~、ここの研究費ってどこから出てるんですか?」
 大学では厄介者扱い、その存在すら忘れられている山田ラボは、研究費の予算など計上されてもいない。
「そりゃあ、全世界数百万人のDr.山田ファンからのカンパだよ」
「ファン? そんなのいるわけねーよ! 世間に見捨てられた山田ラボに、研究費めぐんでくれるような物好きはいません!」(キッパリ!)
「まあ、研究費を捻出のために、いろいろ副業やってるし……」
「副業って? ニセ金つくってんじゃない?」

 ギクッ☆

「今、ギクッって肩動かなかった? まさか本当にニセ金つくってんの?」
「それも副業のひとつだけど……他にネットでいろいろ……」
「もしかしてネットで詐欺とかやってません? それって犯罪ですよ」
「バレなきゃあ、大丈夫」
 涼しい顔でDr.山田がいう。
「それに幾つかのパソコンを経由してるから、そう佐藤くんのも……」
「うわぁ~っっっ!! いつの間にか犯罪の片棒担がされたぁ~」
 慌てて、パソコンのパスワードを変更する佐藤である。
「佐藤くんほどの腕前なら、ハッカーだってやれるだろう」
「こないだ、首相官邸のパソコンに侵入しました」
「ええっ!?」
「まゆりんのためにお金稼いでます。ハッキングはいわば僕の副業」
 しれっとした顔で佐藤がいう、それも立派なネット犯罪です。
「佐藤くんのハッキング技術なら刑務所に入ってもすぐに脱獄できるよ」
「刑務所でパソコン触らせて貰えると思う? 僕はパソコンがないと生きていけない」
 研究費捻出の副業といいながら、ネットを悪事の道具に使っているこの二人はいかがなものか?(良い子はマネをしないで下さい)

 佐藤のスマホからまゆりんの歌が聴こえた。どうやらメールが届いたようだ。
「わーい、まゆりんからメールが届いたぁ~♪」
 小躍(こおど)りして喜ぶ。

『下僕番号4830番
シュガーちゃん、先日贈ってもらったゴディバのチョコ美味しかったよ。
まゆりん、今度は京都辻利の京ラテとわらび餅が食べたいなぁ~♡』

 下僕の佐藤は、まゆりんの私書箱に貢物として毎月プレゼントを送っている。

「やったー、ゴディバのチョコ喜んでくれたぁ~♪」
「うむ。あれは美味かった」
「えっ、なんか言った?」
「な、なにも……」
 慌てて口を押さえるDr.山田である。(なんか怪しい)
「じゃあ博士、明日、新幹線で京都の辻利本店までいってきまーす♪」
 すっかり機嫌が直った助手は仕事を始めた。

 アカウントを乗っ取られていることに、佐藤はまだ気づいていないようだ。
 Dr.山田は、まゆりんに成り済ましメールを送っては、助手に貢がせている。こんなペテン師まがいのやり方で、助手を喜ばせることが“優しさ”だと勘違いしている、まったく始末の悪い男である。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-24 14:51 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑫

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   Dr.Yamada file.12【 タイムレンジ 】

 「ついにタイムマシンが完成したぞ!」

 H・G・ウェルズの古典的SF小説の時代から、言い続けられたそのベタな台詞を、今、口にする科学者がいる。
 彼は大和工科大学、工学部物理学研究室の室長、Dr.山田その人である。
 天才的頭脳をもつ科学者だといわれるが、いったいどんな研究をしているのか、その詳細は明らかではない――。
 Dr.山田研究室、このラボには博士と助手の佐藤しかいない。二人は大学に内緒でなにやらこそこそと怪し気な研究をやっているらしい。

「佐藤君、完成したよ。これがタイムマシンだ」
「どこに?」
「ほらっ、目の前にあるだろう」
 テーブルの上でパッと見、電子レンジにしか見えない器械のことらしい。
「本当にこれがタイムマシンなんですか? ただの電子レンジにしか見えないんですけど……」
 助手の佐藤が疑わしい気に、Dr.山田に訊ねた。
「正真正銘のタイムマシンだ! 疑うんだったら、実験してみせよう」
 そういうと、Dr.山田は手にアボカドをひとつ持っている。
「佐藤君、このアボカドを触ってみたまえ」
 Dr.山田に渡されたアボカドを手に持って触ってみる。
「どうだい触った感じは?」
「硬くてまだ食べ頃じゃない」
 アボカドをタイムレンジに入れて、旧式のレバーを捻る。するとオレンジ色の光がチカチカ点滅して、小さな稲妻が走った。その後、器械の中のアボカドが消えてしまった。
「あ、あれ? アボカドどこにいったんですか」
「よし、もうそろそろ戻ってくる頃だ」
 Dr.山田の声と同時にタイムレンジがチンと鳴った。中には先ほどのアボカドが入っている。それを取り出して、再び佐藤に渡す。
「もう一度調べてくれたまえ」
 アボカドを触った瞬間、佐藤は叫んだ。「博士、柔らかくなってます。熟して食べ頃になってる」それは指で皮が剥けるほどだった。
「そのアボカドは五日後の世界にいって還ってきたんだ」
「まさか! それが本当だとしたら凄い」
「もっと他の物で実験してみようか」
 そういうとDr.山田は佐藤のデスクの上に飾っている、サボテンの鉢を手に取った。

「あっ! 何をする気ですか? それは僕の大事なステラだ」
「ステラ? 君はサボテンに名前を付けてるのかい」
「別にいいでしょう。僕のサボテンなんだから……」
「よく見ると小さな蕾がついてるね。これをタイムレンジに入れてみよう」
「ああ、僕のステラをダメだ!」
「大丈夫だから」
「やめてください!」
 佐藤の制止を振り切って、サボテンをタイムレンジの中に入れてDr.山田はレバーを捻った。
「今度は七日後の世界へ転送した」
 戻ってきたサボテンは一瞬にして蕾が開花していた。
「どうだい。きれいな花が咲いただろう」
「本当だ。ビックリしました博士、まさにミニ・タイムマシンですね」
「タイムレンジさえあれば、メロンも食べ頃だし、ぬか漬けだって即食べられる。まさに夢のマシンだよ」
「……けど、それしか使い道がないんですか?」
「実用化に向けてこのタイムレンジを量産したい。テレビでCM流したりして、キャッチコピーは『チンするだけで時間旅行が叶います!』佐藤君どうかね、素敵なコピーだと思わないか」
 と、上機嫌のDr.山田だった。
「……で、これ開発するのにいくらかかったんですか? 実用化したら価格とかどうすんの?」
「これ作るのに二十年かかったし、かなり研究費を注ぎこんだ。お値段は一台五千万円くらいでどうだろう」
 その金額を聞いて、助手の佐藤がズッコケた。
「あのね! 食べ頃アボカドのために、どこに世界に一台五千万円も払う人がいるんですかっ!」
「待たずに食べれるんだから、こんな贅沢ないじゃないか」
「アンタはズレてる!」

 テーブルの上の電子レンジを挟んで、Dr.山田と助手が対峙していた。
「役に立たない物しか発明できない。ぽんこつ博士!」
「佐藤君、いくらなんでも、それは言い過ぎだろう」
「違うんですか?」
「一部、当ってるかも……」(胸に手を当て考える)
「そんなことだから、Dr.山田研究室はみんなからゴミとか屑とか穀潰(ごくつぶ)しとか言われるんですよ。助手の僕まで博士のせいで白い目で見られています。自分がダメ科学者だとちゃんと自覚してますか?」
 完膚(かんぷ)なきまでのDr.山田への口撃(こうげき)だった。
「佐藤君、私の作ったタイムマシンがそれだけだと思ってるのかい?」
「はぁ? どういう意味ですか」
 ぶはっはっはっと、Dr.山田がまるでゲームのラスボスのように豪快に笑う。
「実はこの研究室全体がタイムマシンになっているんだ」
「ええぇ―――っ!?」

「佐藤君、君は昨日の佐藤君なのだ」
 研究室のドアが開いて、今日の佐藤が現れた。そして机の抽斗(ひきだし)から明日の佐藤が飛び出した。
「な、な、なんですか!?」
「昨日、今日、明日の佐藤君が揃った」
 三人の佐藤が顔を合わせて慌てふためいている。
「実は研究室全体がタイムマシンなのだ。それが昨日完成して、佐藤君で実験していたのだ」
「なんですってぇ~」
 いつの間にか、佐藤たちは被験者にされていたのだ。
「これでわたしが天才科学者だと分かっただろう」
「僕たちを勝手に実験台に使っていたのか」
「モルモット三匹」
 その言葉に佐藤たちがブチ切れた。
「ぽんこつ博士めぇ、絶対に許さんっっっ!」

 その後、三人の佐藤から蹴りを入れられて、目から火花を飛ばし、Dr.山田は病院のベッドへタイムスリップしたという。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-23 13:14 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑪

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   Dr.Yamada file.11 【 王家の墓 】

  大和大学エジプト考古学の山田教授とその助手佐藤は、ルクソールにある王家の谷で迷子になっていた。
「この辺りに未発掘の王家の墓があるはずなのだ」
「その地図に描かれている場所で本当にあってるんですか?」
 助手の佐藤がいささか不安な面持ちで訊ねた。
「ああ、間違いない! このパピルスにヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)で書かれているのだ」
 大事そうに手に持ったパピルスを睨んで、山田教授は首を捻っている。
「どれどれ……」
 教授からパピルスを奪うと佐藤は自分で解読を始めた。

『オウケノタニノマンナカアタリ』

 ブッと思わず吹いてしまった。
「教授、こんないい加減な説明じゃあ信用できません。第一、それどこで手に入れたんですか?」
「二十年前、わたしがピラミッド発掘隊に助手として同行した際に、カイロの土産物屋のオヤジから貰ったものだ」
「マジっすか? そんないい加減な手掛かりで、我々はエジプトくんだりまできたんですか」
 呆れ顔の佐藤に山田教授はにこやかに答えた。
「佐藤君が、俺はエジプト考古学専攻なのに一度もエジプトに行ったことないなんて恥かしいっす。て、いつもボヤくから連れてきてやったんじゃないか」
「ま、まあ……。大学から旅費が出てるんだし観光だと思えばいっか!」
「いや、わたしの旅費は研究費で賄ったが、君の分は自分で出して貰ったよ」
「はあ? どういうことすっか?」
「君が寝ている時に、君の財布からカードを抜いてローンで借りた」
「ほわぁっ!!」
「ATMで君がカードを使った時に、後ろで暗証番号を見てて、知ってたから簡単だったよ。とりあえず五十万ほどリボ払いで借りた」
 悪びれる風もなく説明する山田教授の前には、阿修羅の形相の佐藤がいる。いきなり胸倉を掴むと、
「この糞オヤジ! よくも俺のカードを勝手に使いやがったなっ! アンタこれが犯罪だという認識があるのかっっっ!?」
「まあまあ落ち着きたまえ。これも研究のためじゃないか」
「ガサネタの地図とカード詐欺、こんな教授にはついていけない。俺は今すぐ日本に帰ります!」
 そういうと佐藤は踵を返して、どんどん歩きだした。
「待ってくれ佐藤君! わたしを置いて行かないで……」
 追いかける山田教授だが、突然、佐藤の姿が目の前から忽然と消えた。

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「おーい、佐藤君どこだ?」
 風のように消えてしまった助手を捜して、教授は右往左往していた。
「教授、こ、ここです」
 隠れて見えなかったが、岩と岩の間にぽっかり穴が開いている。そこから佐藤の声がした、どうやらこの穴に落ちたらしい。
「今、助けてやる! ロープを下ろすから這い上がってくるんだ」
 リュックの中からロープを取り出し穴の中におろし、手に持ったロープを体に巻きつけて足を踏ん張り持ち上げようと力む山田教授だった。だが、佐藤がロープを掴んで上がろうとした瞬間、ロープと一緒に山田教授が穴の中へ転がり落ちてきた。
 身長165センチの痩せた男が、180センチ以上のガタイのでかい男を引っ張り上げようなんて、しょせん無理な話である。
「イテテ……教授、何やってるんすか」
 佐藤の上に見事にダイブした。
「日頃からダイエットしないから、大事な時に助けられないじゃないか」
「そんな問題じゃないでしょう。二人とも穴に落ちてどうやって助けてもらうんですか?」
「う~む。困った」
「あっ! スマホで助けを呼ぼう」
 ポケットからスマホを取り出したら、穴に落ちた時に圧し潰されていた。
「ダメだ! バキバキに壊れてる」
「佐藤君は日頃から食べ過ぎなんだ。だから、その体重でスマホまで粉々にしてしまった」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。この穴から出られなかったら、我々はカラカラに干乾びて……ミイラになってしまうんですよ!」
「いわゆる《ミイラ盗りがミイラになる》という、コトワザ通り」
 嬉しそうに喋る山田教授に、助手の佐藤はキレそうになる。
「じゃあ、教授の携帯で連絡してください」
「わたしの携帯は料金未納で今止められているんだよ」
「うわ~っっっ! 信じられない」
 頭を掻き毟り絶叫する佐藤であった。

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※ 自分の名前をヒエログリフに変換できるサイト
「かな・ヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)変換」
http://uenosato.net:8080/~moji/php/kana_hrg.php


「出口を探して穴の中を探検しよう」
 リュックの中には探検用グッズが入っている。
 ライト付きのヘルメットを被り穴の中を探索する教授と助手、狭い横穴だが高さは立ったままで歩ける、50メートルほど進んでいくと石の扉があった。そこには古代エジプトの象形文字ヒエログリフが刻まれていた。
「なんて書いてあるんでしょう?」

『ヨウコソ ココガオウケノハカ』

「おおっ! まさしく我々が探していた王家の墓だ」
「教授、やりましたね! エジプト考古学史に山田研究班の名前が永遠に刻まれますよ」
「未発掘だから、墓の中には王家の秘宝ががっぽりあるぞ!」
「黄金のデスマスクのミイラとか……」
「金銀財宝がガッポガッポ!!」(学者というより、墓荒らしの視点)
 二人は手を取り合って喜んだが、この石の扉をどうやって開けるかが問題だ。頑強な石の扉は押しても引いても叩いてもビクともしない。
「ひらけー、ゴマ」
「ひらけー、ポンキッキ」
「マハリクマハリタ……」
 てきとうな呪文を唱えてみたが、そんなもんで開くはずもない。

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 こうなったら体当たりしかないと、二人で扉に向って突進しようとした瞬間、
「いらっしゃいませ。遺跡パブ『王家の墓』にようこそ」
 ミイラ男が扉を開けてくれた。
 扉の中はテーブルがずらりと並び思ったよりも広い。天井のミラーボールがきらきら輝き、クレオパトラの衣装をまとった美しい踊り子がスポットライトを浴びて踊っている。盆にお酒を乗せたミイラ男のボーイたちがテーブルの間をぬぐって忙しそうに給仕をして回っている。
 店内は海外からの観光客たちで大繁盛である。
「こ、ここは……!?」
 意外な光景に、ただ茫然とする二人。
「うちは王家の墓を利用して作った遺跡パブでして、ツアーコースにも入っている名物店ですよ。まさか、裏口の石の扉からお客さんが入ってくるなんて珍しい」
「えっ? 裏口だったの」
「そこは非常口です。普通はカイロから送迎バスが出ていて、王家の谷を観光した後、うちの店で休憩してからホテルに帰るコースなんですよ」
 予想外の展開に言葉もでない二人だった。
「おや、お客さんの持ってるパピルスは二十年前、ここを開店する時にカイロの土産物屋に撒いたチラシだ。大事に取っててくれたなんて嬉しいね」
「へ?」
「それ宣伝用のチラシですよ」
「まさか、これがチラシだったなんて……」
 王家の墓の地図だと思っていた二人はがっくりと肩を落とす。
「お客さん、チラシ持参なら特別料金15%OFFにしますよ。さあさあ、お席にどうぞ」
 商売上手の店長に促されるままにテーブルに着く、そこへミイラ男のボーイがオーダーを訊きにくる。
「お飲み物は?」
「カモミールティ」と教授。
「コーラLLカップ」と助手。
 そして大和大学エジプト考古学の山田教授と助手の佐藤は遺跡パブ『王家の墓』の客となった。
 灼熱の太陽の元、迷子だった二人は喉がカラカラで干乾びそうだった。地獄で仏、いや砂漠でパブとは命拾いをしたものだ。
 王家の秘宝よりもチラシのお陰で得したと、ほくそ笑む山田教授だった。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-22 12:53 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑩

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   Dr.Yamada file.10 【 工学部物理学研究棟別室(別名:アニメラボ) 】

  大和大学工学部物理学研究棟の中に研究員たちにも知られていない謎のラボ(研究室)がある。
 劇薬保管庫の奥深く、物理学研究棟別室と呼ばれる小部屋がそこには存在する。実は最近、学生たちの間でおかしな噂が流れていた。
 ――それは劇薬保管庫の奥から幼女の歌声が聴こえてくるというものだ。
 鉄の扉には『関係者以外立ち入り禁止』の札が掛かっていて、そこではDr.山田とその助手佐藤が外部から隔離されている。
 この小部屋にこもって二人がどんな研究をしているのか、その詳細は明らかではない――。

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「佐藤君! このBGMは何とかならんかね?」
 劇薬保管庫の奥にある、ラボの中ではアニメ声優が歌うアニソンが一日中流れていた。
 異才の物理学者Dr.山田の助手佐藤はパソコンの魔術師と呼ばれる天才的プログラマーだが、いわゆる重度のアニヲタなのだ。
「はぁ? 僕はまゆりんの歌を聴くとモチベーションが上がるんだ」
 まゆりんとは、佐藤の圧し声優の志村まゆりのことである。
「わたしにはキンキンした声が耳障りなんだが……」
「だったら耳栓すれば」
 ことなげに佐藤が言う、その言い方が勘に触るDr.山田である。
「ラボの壁にベタベタ貼られた、このポスターも目障りなんだが……」
「まゆりんの主演アニメのポスターのこと? これが見えないと僕は仕事する気が起きません」
「……だが多過ぎるだろう? 壁が見える程度にしてくれ」
「お断りします!」
 ラボの壁にくまなく貼られたポスターを一枚剥がそうとDr.山田は立ち上がった。その時、背後から腕を掴まれた。
「まゆりんのポスターを勝手に剥がしたりしたら……僕は各国の防衛庁の軍事機密コンピューターにハッキングして、核ミサイルを飛ばしますから」
 まさかポスターくらいで核ミサイルはないだろう。ハハハ……と苦笑しながらDr.山田は、
「佐藤君、悪い冗談はやめたまえ!」
「冗談で言っているように見えますか?」
 そこには超真顔の佐藤がいた。
 たしかにパソコンスキルの高い佐藤なら核ミサイルだって飛ばせるだろう。なにしろ彼はスーパーハッカーなのだ。ポスター一枚でこの世界が滅亡なんかしたら大変だ。
 この件は置いといて……次に、Dr.山田は日頃から気になっていることを言った。
「佐藤君が着ている『俺の姫!』ってロゴの入ったピンクのTシャツ何とかならんかね?」
「このTシャツはまゆりん皇国の制服ですもん」
「ここはラボだし、研究者らしく、君も白衣を着たらどうかね?」
「イヤです! 僕は皇女まゆりんに『愛と忠誠』を誓っているんだ」
 何を言っても耳を貸さないアニヲタ佐藤に、Dr.山田もほとほと手を焼いている。
「マンガと仕事と公私混同しないでくれっ!」
「はぁ? 博士、今、漫画って言いました?」
「うむ……」
「漫画じゃなーい!!」
 いきなり佐藤が机を叩いて抗議した。
「だーかーらー、漫画とアニメーションを混同しないでください。紙に印刷された絵をめくって読むのが漫画で、アニメは映像化されているから音声や動きがあるんです! 漫画とアニメを一緒くたにする人間を僕は絶対に許さない!」
 怒りのあまり戦慄く佐藤、さらにボルテージが上がる。
「小学生の頃から、暗い、ダサい、キモいと学校では虐められてきた、どこにも居場所がなかった、この僕の唯一の心の拠り所は二次元の世界だけだった。毎日が絶望の日々でしかない、傷ついた僕の心を癒してくれたのが志村まゆりの声なんだ。アニメは僕にとって救世主だから、そのアニメを愚弄(ぐろう)する奴はぶっ殺す!!」
 口角泡を飛ばして激昂する佐藤である。
 いったんヘソを曲げると一週間は口を利かないし、研究データーの分析も手伝ってくれない、気分屋の助手なのだ。すっかり怒らせてしまった、これはマズイとDr.山田は内心慌てていた。
「ス、スマン! わたしが悪かった」
 合掌して拝みながら助手に謝った。
 これではどっちが博士か助手か分からないが、二人きりのラボで佐藤の協力なくして研究は捗(はかど)らない。ラボの空気が悪くなったので、話題を変えようと必死に焦るDr.山田だった――。

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「……ところで実験の分析データ―は出来てるかね」
「ほいさ。こんなのお茶の子さいさい」
 厚さ10センチはあるファイルを佐藤が渡した。
「ところで博士の研究ってなぁに?」
 研究テーマも知らず助手をやっていたとは驚きだ。佐藤の脳内にはアニメの世界しか存在していないのかもしれない。
「わたしは水銀から金を作る研究をしているのだ」
 フヘェッ!? いきなり佐藤が素っ頓狂な声を上げる。
「――それって、中世のヨーロッパで流行った錬金術ことですか?」
「そうだ、現代の錬金術だ」
 眼鏡の縁を持ち上げドヤ顔のDr.山田を見て、クックックッと忍び笑いの佐藤だ。
「博士のことを『眼鏡の錬金術師』と呼ばせて貰いましょう」
 これが有名なアニメのダジャレだと、Dr.山田はもちろん知らない。何となくカッコイイなぁ~と小鼻を膨らませている。
 現代ではアニメでしか存在しない錬金術いう非科学的な研究している工学部物理学研究棟別室、この厄介者二人がなぜ大学から追放されないのか不思議なのだが、どうやら大学関係者たちは……もしかしてDr.山田が凄い発明をするのではという淡い期待と、助手佐藤の天才的プログラミング能力も捨てがたい。
 劇薬保管庫の奥深くに隔離してさえ置けば、おそらく実害はないと踏んでいる。まあ、大学としては寄付金の一部で、怪しい生物を飼育しているようなものだ。
 けれども社会性ゼロ、落ちこぼれ科学者のラボが凄い発明をするかどうかは未知数なのである。

「博士には内緒にしてたけど、僕だって発明しました」
「ほう、佐藤君が……いったいどんな発明を……」
「見てください。これを!」
 目にも止まらぬ速さで佐藤がパソコンのキーを叩く、すると画面からサーチライトのような白い閃光が放たれ、空中に立体画像を作り出した。
 そこにはツインテールでフリフリのワンピースを着た、萌え系アニメキャラが等身大で出現したのだ。
「紹介しまーす。こちらが僕のまゆりんです」
 ただ茫然と眺めるDr.山田を尻目に、まゆりんとキャッキャッと戯れる佐藤である。
「ねぇ、博士もまゆりんの声を聴きたいでしょう?」
「いや……別に……」
 ぜんぜん聴きたくない、Dr.山田は思っていたが――。
「ちょっと待っててくださいよ」
 嬉々としながら佐藤は、パソコンとスマホをUSBケーブルで繋ぐと再び激しくキーを叩いた。
「よーし! これでオッケイさ」
「……な、何が始まるのかね?」
「いきますよ」
 大きく息を吸い込んだ佐藤がスマホに向って話しかける。
『コンニチワ♪ まゆりんだよ~』
 アニメキャラが喋り出した。よく見ると佐藤の声がまゆりんに変換されている。
『ハカセ! アタシとっても可愛いでしょう♪』
 まゆりんと一体化している佐藤は実に幸せそうだった。だがそのノリにはついていけない。
『ウフフ♪』
「さ、佐藤君……」
『正義の幼女戦士まゆりんでぃーす♪ 悪い子はママにかわってお尻ペンペンしちゃうぞぉ~♪』
 完全にアニメのキャラ化している助手を見て、Dr.山田は絶句した。
『まゆりん、今から歌っちゃうよ~ん♪』
 可愛い女の子の声でアニソンを歌い始める。
 恍惚とした表情でまゆりんを演じる佐藤に、Dr.山田の肌は粟立つ。

「佐藤君、頼むから三次元に戻ってくれ―――!!」

 劇薬保管倉庫の奥から、博士の悲痛な叫び声が轟いた。




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※ 作中のアニメの画像はストーリーとは関係ありませんが、
作者の好きな「夏目友人帳」「コードギアス」「シュタイングゲート」などであります。


   

創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-21 11:57 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑨

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   Dr.Yamada file.9【 驟雨期 Ⅲ ― 海に還る日 ― 】

  核戦争の後、地球は巨大な水族館になってしまった――。

「教授なにを観てるんですか?」
「ああ、これかね」
 アクロポリス・ヤマトにある、大和アカデミーのヤマダ教授の机の上のディスプレイには美しい映像が流れている。
「これは熱帯魚と呼ばれる観賞用の魚なんだ。21世紀くらいの南の海ではこんなきれいな魚が泳いでいたらしい」
「23世紀の海にはグロテスクな魚類しかいませんよ」
 海洋生物研究室の助手サトウは毎日海に潜って、水棲生物を観察している。
「昔は水族館という魚類を展示する施設があったらしい」
「水族館ですか? そこらじゅう海で今なら陸族館の方が必要だ」
 サトウが冷ややかにいう。
「小さな水槽に魚を閉じ込めるなんて残酷だと思わないかね? サトウ君」
 ヤマダ教授が熱帯魚を観ながらそういうと、「我々だって、雨に閉じ込められた空間で暮らしていますよ」とサトウが答えた。
 たしかに今は『驟雨期(しゅううき)』という雨が毎日降り続く天候なのだ。
「なにもかも地球の生態系が狂ってしまった。もう地上では太陽すら拝めない」
 サトウが机を叩いて叫んだ。
「あの愚かな戦争を人類がはじめたせいじゃないですか!」

 22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 資本主義と共産主義という二つのイデオロギーが真っ向からぶつかり合い、同盟国や近隣諸国を巻き込んで、果ては宗教紛争にまで飛び火して地球全体が戦場となった。最終的には各国が放った『核のドッジボール』によって戦いの幕を閉じた。
 だが、100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によって10分の1の10億人にまで激減した。国家は崩壊し、生き残った人々だけで都市国家(アクロポリス)が建築されたが、彼らは放射能の被爆者、大地は汚染されて、安全な食品もなく、厳しい状況だった。
 ――そして地球全域に異常気象が起こっていた。
 まるで汚れた地球を洗い流すかのように、一日に何度も激しい雨が断続的に降り続くのだ。23世紀になった今も雨は百年近く降り続いている。この異常気象を人々は『驟雨期』と呼んだ。
 降り止まない雨のせいで、海は増水し地球の面積の3割だった陸地が2割にまで減少していった。……このままでは海に陸を奪われてしまう。しかも太陽光線が不足して植物が育たなくなり、それに伴い昆虫や動物も絶滅していって、もはや地上には命を繋ぐ食べ物がない。
 ついに地上を身捨てるが如く、陸の生物たちは水棲生物へと急激に進化をはじめたのだ。

「そうそう、海で象をみましたよ」
 ディスプレイを一緒に観ていたサトウが、ふいに口火をきった。
「象だって!?」
「大きな耳をヒレ替わりして、スイスイ海の中を泳ぎ回って、海藻を食べてました」
「地上には植物がないからね。その点、海は海藻が豊富だ。海に順応できないと生き残れない。陸上生物は何万億年もかかった進化を一世代ごとに急激なスピードでおこなっている。人類だって最近生まれた赤ん坊は、歩くよりも先に水中を自由に泳ぐという」
「僕たちの五本の指が水かきになってしまったら何も作れない。人類は英知という武器で、この小さな身体で野生動物たちと戦って生き延びてきたんだ。……なのに水中ではコトバや文字も伝えられない。脳は退化して人類は知的生物ではなく、海の中では大型魚類の鮫やシャチに捕食される、ただの餌でしかなくなる」
「海という巨大な水族館に人類を入れようとしている」
「そんなの絶対にイヤだ!」
 机を叩いてサトウが抗議する。
「あの核戦争で人類は地球を汚染した。その報いとして下等魚類へと進化させられるのかもしれない。二度と核兵器など作れないように……」
 陸地が減少して、すべての陸上生物は海に還るための進化が始まっている。
「これが神の意思ですか? それとも地球の下した罰ですか?」
「サトウ君、あの戦争では人類以外たくさんの動植物が地上から絶滅した。もう我々は小鳥も花も見られない。一度消滅したものは二度ともどすことはできないのに……これは重大な罪だ。この地球は人類だけのものではないんだよ」
 今さらながら、人類が犯した罪の大きさを知る。23世紀の人類はその大罪を購(あがな)っているのかもしれない――。

「人類はこの先どうすればいいんだろう?」
「海に還るか、宇宙に新天地を求めるか、だな」
「宇宙ですか!?」
 サトウの目が輝いた。
「うん。アクロポリスの指導者たちが集まってその計画を推進している」
「教授! 僕は宇宙にいきたい」
「サトウ君は宇宙移住計画に参加したいんだね」
「はい! このまま水棲生物に進化させられるくらいなら、宇宙で新たな地球を見つけたい」
「そうか……」
 感慨深げにヤマダ教授が頷いた。
「地球以外の惑星に移住してホモサピエンスとして生き残る。宇宙にこそ活路を見いだせるかもしれない」
「それもいいだろう。宇宙にいけばこの異常な進化も止められるかもしれない」
「教授は地球に残るんですか?」
「わたしは自説である『ヤマダ進化論』を実証するために、地球(ここ)に残るよ」

『ヤマダ進化論』とは、いずれ陸地が減少して、地球が“海の惑星”になると、地上の生物は全て海に還って、水棲生物になるという説だった。
 かつて鯨が海に還って水棲哺乳類になったように、人類もまた海の環境に順応できる生物に生まれ変わるという。すなわち、脚がなくなり、ヒレができて、急速なスピードでDNAが魚体化することを意味する。
 当初、この説はとんでもない奇説だと笑い草だった。ヤマダ教授は海洋生物学会の異端児として、皆から白眼視されていたのだった。

「地球を捨てても人類は滅亡しません」と助手。
「海に還る人類を最後まで見届ける」と教授。

 二人の研究者は、それぞれ別の未来を選択する。

 いずれ巨大な水族館と化した“海の惑星”地球で、魚体化した人類が海を泳ぎ回る日は近いことだろう――。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-13 14:56 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑧

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   Dr.Yamada file.8【 驟雨期 Ⅱ ― 母胎回帰 ― 】

  ヤマダ教授は海水に浸かり考えていた。

 塩分濃度を少し薄めた海水は、まるで母の胎内のような心地よさだ。
 生命の起源、母なる海よ。我々、人類が海に還る日は近づきつつある。

 22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 かつて100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によって10分の1の10億人に激減した。人類は放射能の被爆者、大地は汚染されて、都市は荒廃していった。
 その上、異常気象が地球全域で起こっていた。
 核汚染された地球を洗浄するかのように、一日に何度も激しい雨が断続的に降る。23世紀になっても雨は止まず、百年近く降り続いた。この異常気象のことを学者は、『驟雨期(しゅううき)』と呼んだ。
 降り止まない雨のせいで、海が増水して地球面積の3割だった陸地が2割にまで減少してしまった。しかも太陽光線が不足して植物も育たなくなり、それに伴い昆虫や動物も絶滅していった。
 この惨憺(さんたん)たる状況下にあって、国家は崩壊し、生き残った人々は都市国家(アクロポリス)を建築した。放射能と雨を避けるため、都市全体を巨大なドームで覆って、その中で人工太陽を発電させて、作物を栽培、家畜などを飼育していた。
 驟雨期のせいで、いずれ陸地を海に奪われてしまうという恐怖と戦いながら、23世紀の人類は生き延びていたのだ――。

 アクロポリス・ヤマトにある大和アカデミーのヤマダ教授は、生物学会に『ヤマダ進化論』なる自説を発表して話題になっていた。
 ヤマダ教授の唱える『ヤマダ進化論』とは、いずれ地球の陸地が減少して“海の惑星”になると、地上の生物は全て海に還って、水棲生物になるという説だった。
 かつて鯨が海に還って水棲哺乳類になったように、人類もまた海の環境に順応できる生物に生まれ変わるという、すなわち脚がなくなり、ヒレができて、急速なスピードで魚体化することを意味していた。
 当初、この説はとんでもない奇説だと笑い草になった。そのため、ヤマダ教授は生物学会の異端児として、皆から白眼視されていたのだ。
 ――だが、最近になって『ヤマダ進化論』が俄かに脚光を浴び出した。
 この説を裏づける証拠がいろいろ出てきたからだ。ここ数年間に生まれた新生児1000人に1人の割合で、五指の間に水かきのような膜があり、一回の呼吸で約10分間は水中に潜れる、肥大した浮き袋のような肺を持つ子どもが生まれている。――彼らこそが、新人類の誕生だった。
 これは放射能の影響だと考えられていたが、人類のDNAが進化を始めた証拠である。

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 ヤマダ教授は自説が認め始めたことを誇らしく思う、半面、人類の終焉(しゅうえん)が近づいてきたことを実感していた。

 ――果たして、海は人類にとってパラダイスに成り得るのか?

「教授!」
 研究室のドアが開いて、誰かが入ってきた。
「ああ、サトウ君。ここだよ」
「また海水の水槽に浸かっていたんですか」
「そうさ、水槽の中で海を体感していたのだ」
 ヤマダ教授の助手サトウでさえ、『ヤマダ進化論』には懐疑的だった。
 しかし、スキューバーダイビングで海の様子を観察する内に、野生化した犬や猫たちが海中で魚を追う姿を何度も目撃した。人類だけではなく、動物たちも食糧が豊富な海に還ろうとし始めたことをサトウは知ったのだ。
 しかも海には今まで見たこともない、新しい生物も誕生している。海の中から何かが始まっている。――それは否定できない事実であった。

 水槽から上がった教授に、サトウは温かいコーヒーを手渡し、海の様子を話した。
「三毛猫がスナドリネコみたいに水中を泳いで、上手に魚を捕まえていました」
「ほぉ、人類よりも彼らの方が海に順応するのが早そうだね」
「もし海に還ったら、今までの人類の文明はどうなるんだろう。コンピューターや機械を使えない人類はあまりに無防備過ぎる」
「たぶん直立歩行できなくなれば、脳が退化して人類の知能はイルカ並みか、ヒレでは道具が作れないだろう」
「人類は全てを捨てなければならないんですか?」
「サトウ君、捨てるんじゃない。我々は生まれ変わろうとしているんだ」
「それは神の意思なのでしょうか?」
 サトウの問いに、教授は少し考えてから答えた。
「地球は惑星という巨大生物なのだ。それは神とも呼ばれ、思考もするし、感情だってある。これは核兵器によって、地球に牙を剥いた人類への報(むく)いなんだ」
 宗教やイデオロギーの違い、地球資源をめぐる利権などが絡んだ国家間の紛争だったが、戦争は長期化して戦いが泥沼状態になっていった。それに終止符を打つべく、ある国の主席が最終兵器核のボタンを押した。それを皮切りに各敵国がいっせいに放った『核のドッジボール』によって世界は幕を閉じた。
 核戦争の果て、地上は焦土と化し、放射能で汚染され、多くの動植物が絶滅していった。地球環境まで破壊した、この核戦争の責任を人類はいったいどう取るつもりなのか。
 地球上から消え去った動植物たちは、二度と再生することはできない。

「……愚かな人類は断罪されるべきなんだ」
 コーヒーカップを握りしめて、ヤマダ教授が呟いた。
「地球が下した、人類への罰が魚になることですか?」
「そうだ。地球は人類という害虫を本気で駆除しようとしている」
「……害虫ですか?」
 その言葉に、サトウは眉根を寄せた。
「ああ、殲滅(せんめつ)されないだけでも有難く思うべきだろう」
「――ですが、教授。狂った独裁者によって引き起こされた核戦争が人類全体の責任だというのですか? ……だとしても、僕らだって被害者なんだ。生まれた時からずっと雨ばかりで、太陽の光をまともに拝んだこともない。図書館のディスクで見た、昔の地球の青い空も白い雲も、小鳥や蝶が飛ぶ姿はもう永遠に見られない。ドームの外は核戦争の果て、破壊された都市の瓦礫の山しかないんだ!」
「結果として、核を作った人類の知能は誰も幸せにできなかった」
「二度と破壊兵器が作れないように、人類は水棲生物へと作り変えられるんですか」
「地球は人類に知能という進化を与えたことが失敗だったと考えているのかもしれない」
「だから魚ですか? 何も考えず生きるために必要なだけの狩猟(しゅりょう)しかしない。……そんなの! ただの動物じゃないか」
「争いのない平和な地球になるのだろう」
「僕は嫌だ! 絶対に嫌だ! 愚かだって人類でありたい!」
 嫌々をするように肩を震わせてサトウが叫んだ。
「まだまだ、ずーっと先の未来のことだよ」
「教授、我々人類の未来は……もうないんですか?」
 サトウの問いに、教授は黙り込んだ。

 先日、アクロポリス・ニューヨークで行なわれた生物学学会の後、ヤマダ教授は326のアクロポリス首長たちが一堂に会する『アクロポリス首長会議』に招かれた。
 自説の『ヤマダ進化論』は、首長会議でも議題になっていて、教授自ら詳しい説明を求められた。この学説を紛(まご)うことなき真実だと首長たちも認めた上で、人類の存続を悲願する、宇宙移住計画が具体的に議論されていった。
 正常な遺伝子を持つ、15歳から35歳までの健康な男女1000人を宇宙船に乗せて、地球から飛び立ち、新天地を求めて航海するというものだった。
 宇宙移住計画では毎年、一艘(そう)づつ宇宙船を打ち上げる予定である。当初の目標としては月、火星、木星の衛星エウロパなどの探査で、人類の居住できそうな星を探しながら長い航海になるであろう。食糧確保のため、乗組み員たちは交代制でコールドスリープ状態に入る。
 しかし人類を乗せた船が航海中に、小惑星に衝突したり、ブラックホールに呑み込まれたりするかもしれない。確実に何処かへ辿り着けるという保証は何もないのだ。それでも一縷(いちる)の望みとして、現在の人類であるホモサピエンスを残そうと、宇宙移住計画を秘密裏に進めていた。
 首長会議の後でアクロポリス首長たちから、宇宙移住計画について意見を求められたが……海に還ったとしても、宇宙に脱出したとしても、どっちにしろ人類にとって茨(いばら)の道になるだろう。……と、ヤマダ教授は思い口を噤んだ。
 もう少し計画が具体化したら、まだ若い助手のサトウには、こういう計画があることを話してやってもいいと思った。――どっちを選ぶかは彼の意思なのだから。

「生命の起源である海に還るだけさ」
「じゃあ、これは仕切り直しですね」
「ああ、我々人類はもう一度、母なる地球の胎内に抱かれようとしている」

 傲慢になり過ぎて、地球を傷つけた人類の愚かしさは、大きな代償を支払うことになった。
 やがて“海の惑星”地球から、人類は新たなる進化を遂げて、争いのない平和な生物になるようにと、母なる地球は願っていることだろう。

 生命の起源、母なる海よ!
 人類はもう一度、あなたの胎内に還っていこう。

 母胎回帰、海は巨大な羊水なのだ――。




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水中で魚を捕まえる、スナドリネコ(漁り猫)の様子




創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-12 15:21 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑦

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   Dr.Yamada file.7【 驟雨期 Ⅰ ― 新たなる進化を遂げて ― 】

  22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 資本主義と共産主義というイデオロギーが違う二つの勢力が真っ向からぶつかり合い、同盟国や近隣諸国を巻き込んで、果ては宗教紛争にまで飛び火して地球全体が戦場と化した。
 過去の遺物ともいうべき国連はなんら機能せず、戦争は激化して、最後には『核のドッジボール』によって幕を閉じた。
 100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によって10分の1の10億人にまで激減した。勝敗を決めるにはあまりに被害が膨大過ぎて……結局、共倒れという形になってしまった。
 国家は崩壊し、生き残った人々だけで都市国家(アクロポリス)が建築されたが、彼らは放射能の被爆者で、大地は汚染されて、安全な食品もなく、厳しい状況だった。

 そして、地球全域に異常気象が起こっていた。
 まるで汚れた地球を洗い流すかのように、一日に何度も激しい雨が断続的に続いているのだ。23世紀になった今も雨は百年近く降り続いている。この異常気象を『驟雨期(しゅううき)』と人々は呼んだ。
 止まない雨のせいで、海は増水し地球の面積の3割だった陸地が2割にまで減少していった。このままでは海に陸を奪われてしまう。しかも太陽光線が不足して植物が育たなくなり、それに伴い昆虫や動物も絶滅していった。
 22世紀の核戦争で生き残った子孫たちは、また激しい雨との戦いだった――。

 アクロポリス・ヤマトの大和アカデミーのヤマダ教授は、ある仮説を元に研究を続けていた。その仮説とは生物の進化を覆すような、とんでもない奇説で、『ヤマダ進化論』と呼ばれていた。
 この学説を学会に発表した途端に、彼は異端者、誇大妄想、学者失格の烙印を押されて、誰からも相手にされなくなってしまった。
 ――それでもヤマダ教授は自説を曲げなかった。 今日も研究室のベランダに出て、広大無辺な海を眺めながら、自説の正しさに確信を深めていた。
 そこへ助手のサトウが入ってきた。
 大学執行部から胡散臭い研究をしていると思われて、ヤマダ研究室は十分な予算が貰えず貧窮していた。そんな中、ヤマダ教授の唯一の助手サトウは、一緒に研究を続けてくれる貴重な人材だった。
「ヤマダ教授、また海の水位が上がっています」
「見渡す限りの海、やがて大地は海に呑み込まれてしまうだろう」
 この場所はかつて富士山山頂と呼ばれた場所である。
 かつて日本と呼ばれた国は、本州の中央部にある、飛騨・木曽・赤石の三つの山脈と奥羽山脈しか海面に残っていなかった。
「海水は濃度3%の塩などが溶けた水なのですが、最近、塩分の濃度が薄まっているようです」
「そうか。いよいよ還る日が近づいてきた証拠だよ」
「海では見慣れない新種の生物が誕生いるようです」
「いずれ、我々人類もそこに仲間入りすることだろうさ」
「ずっと僕は『ヤマダ進化論』には懐疑的でしたが……最近は、この説が真実だと思えてきました」
 助手の言葉にフッとヤマダ教授は笑みを浮かべると、大きく深呼吸した。
「ああ~潮風が気持ちいいね。サトウ君」
 ヤマト・アクロポリスでは、放射能と雨を避けるために巨大なドームで都市全体を覆っている。その中で人工太陽を作って、農作物を育てて、家畜を飼育しているのだ。
 雨の降らない時にはドームは開放されて、風も吹き込んでくる。太陽光が不足している人類はわずかな時間でも日光浴にいそしんでいた。――すると、雨雲が広がりポツポツと大粒の雫が空から降ってきた。
 雨を感知すると、アクロポリスの開閉式ドームは自動的に閉じられる仕組みになっている。

「雨だ! 部屋に入ろうか」
 ヤマダ教授の研究室の壁には珍しい化石の標本が飾られていた。それはデボン紀、3億6000万年前に生息した生物である。
「サトウ君、アカンソステガは実にチャレンジャーだった。水から這い出し陸に上がった初めての生物だった彼らが、どんどん進化して哺乳類になった。いわば人類の遠い祖先だ。――人類もまたチャレンジャーになる時がきたのだ」
 ヤマダ教授は嬉しそうに語る。助手のサトウはそれを黙って聴いている。
「私の学説『ヤマダ進化論』は学者の間で笑い草にされたが、それを裏づける証拠がいろいろ出てきたよ」
 教授は一冊のファイルをサトウに渡した。そこには子どもの写真が数枚挟んであった。
「ここ数年の間に生まれた子どもたちだ。よく見たまえ、五本の指の間に水かきのような膜が付いている。しかも、一回の呼吸で約10分は水に潜っていられる。肺が浮き袋のように肥大した新人類なんだよ。この子たちを放射能の影響で生まれた奇形児だという医師もいるが、断じて違う! 人類のDNAが進化を始めたんだ」
「教授、それ本当ですか?」
 ファイルの写真をサトウは凝視している。
「それだけではない、野生化した犬や猫たちが海に潜って狩りをしているのを確認した。陸上と違って、海の中は食糧が豊富だからね。」
「……ということは、教授が唱えていた!」
「海から生まれた生命は、再び海に還っていくのだ。この「驟雨期」は、陸上生物にとってチュートリアルなのだ」
「我々が生き延びる方法は他にないんですか?」
「分からない……」
 助手の問いに、教授は眉根を寄せ真顔になった。
「じゃあ鯨のように海に戻れと?」
「水棲生物へ進化を遂げないと、人類は滅亡するだろう」
「それは神の意思なのでしょうか?」
「ああ……おそらく……」
「なぜ神は我々人類にそんな大きな試練を与えたのだろうか?」
「サトウ君、地球は惑星という巨大生物なんだ。ある時は神とも呼ばれ、思考もするし、感情もある」
 いきなりドームの外で稲光が走った。轟音が鳴り響き、激しい雨は止みそうもない。
「いずれ陸は海に沈む――。人類はね、もう一度、母なる海に還るんだよ」
 ヤマダ教授は遠い眼をしてそう言い放った。まるで預言者ヨハネの言葉のようだとサトウは感じ入った。

 太陽系第3惑星という巨大生物は、核戦争で地球を汚染した、愚かなる人類へ怒り鉄槌を下したのだ――。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-11 15:04 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑥

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   Dr.Yamada file.6【 ビューティーコロン 】

「チクショウ! これで何度目の失恋だろう」
 今しがた男に別れようと言われた。理由は他に好きな子ができたから……また、それかよっ! そんな言い訳で今まで何度ふられたことか、悔しいけど本当の理由は分かっている、私がブスだからでしょう。
 私の容姿といったらチビで短足、貧乳だし、顔は色黒、細い目、あぐら鼻、しゃくれた顎、おまけにド近眼。この顔を整形したくとも、どこから手をつければいいのやら……究極のブスとは、この私のことだ(ヤケクソ!)
 ブスだって恋はしたい! 彼氏も欲しい。猛烈にアタックしたらデートしてくれる男もいたが、一、二度で決まって「ホテルに誘う気にもならない」と逃げられる。 女性としての魅力ゼロ、フェロモン皆無、男の下半身が萎えさえてしまう、こんなブスに生んだ親が恨めしい! ギリギリ……(歯ぎしりの音)
 失恋の痛手に泣きながら街を彷徨っていたら、見知らぬ路地に入ってきてしまった。

 なんだろう? 奥の方でチカチカ点滅している。
 古い平屋を改装した家に大きなネオンサインが付いていた。右から左にこんな文字が流れていく。『ブス矯正』『貴女も今日から美人に生まれ変わる』『全ての男性が振り向く魔法の香り』なによ、これ? 誰が見たって嘘臭い。誇大広告だってことは一目瞭然だが……失恋したての私の心にピンポイントで響いた!
『只今、無料モニター募集中!』マジで? その文字に目が止まる。
 私が看板の前で佇んでいたら、中から白衣を着た眼鏡の中年男が出てきた。
「おや、お嬢さんはモニター希望ですね」
「えっ?」
 まだ何も言ってないのに、白衣の男が決めつけるようにそう言った。しかも私を上から下までじろじろ見て、満足そうに「貴女のような方を探していました」と呟いた。
「いえ、アタシはちょっと興味があっただけで……」
 ブスのモニター希望だと決めつけられて、私は憤慨するが、
「さあ、さあ、中へ」
 背中を押されて、無理やり建物の中に連れていかれた。

「ようこそ。ヤマダ・ビューティーラボへ」
 ラボっていうから研究室かと思ったら、安っぽいソファーと机とパソコンがあるだけの殺風景な部屋だった。オタク風の若い男が背中を向けてキーボードを無心に打っていた。
 白衣の男が自分は山田という発明家だと名乗ったが、なんかやたら胡散臭いおっさんである。
「美人に生まれ変わるって本当ですか?」
 いきなり核心をつく質問した、デマだったらすぐ帰るつもりなのだ。
「ハイ! 本当です」
 自信満々に白衣の男が答えた。
「本当にそんなことができるの?」
「では説明しましょう。これが私の発明したビューティコロン!」
 赤い小瓶を誇らしげに見せた。
「香水?」
「このコロンの中にはフェロモンやいろんな化学物質が入っていて、これを身体にスプレーすれば、半径10メートル以内の男性には貴女が絶世の美女に見えるのです」「……なんか嘘っぽい!」
 即、帰ろうとドアに向って歩きだしたら、「お待ちなさい」と白衣の男が腕を掴んだ。
「信じられないなら、実験しましょう」
 いきなりスプレーを私に噴射した。く、臭い! まるで猫のおしっこの匂い。
「佐藤君、彼女を見たまえ!」
 興味なさ気に若い男が振り向いた、その瞬間、彼の目が爛々と輝いた。
「すっごい美人だ。完璧なプロポーション! 僕の理想の女性です」
 私の足元に縋りついてきた。
「一生貴女の下僕になります。僕の嫁になってください!」
 しかもプロポーズまでされた。
 なんなのこの人は、実際の私はブスなんだけど……。
「助手の佐藤君は二次元の女の子にしか興味がないのだ。その彼がひと目で貴女に恋した。この実験は大成功だ!」
 えっ? ええぇーっ!? 本当に私が美人に見えてるの? 俄かに信じがたい。錯覚? 幻覚? マジですか!?

 翌日、発明家から預かったビューティコロンを持って、私は街に出た。
 どうも昨日の実験はヤラセかもしれないので、本当に効果があるのか、人々が行き交う大通りでコロンを自分自身に噴射した。
 すると、どうだろう!? 
 歩いていた男たちが一斉に足を止めて私を見ている。『すごい美人だ』『まるで女神さま』『天使が舞い降りた』などと口ぐちに囁きながら、大勢の男たちが私に近づいてきた。目は爛々と輝き、私に向けて賛美の言葉を発しているのだ。
 私は美女!? ブスの私が男たちには絶世の美女に見えるんだわ。
 ビューティコロン本物だわ! ブスの私とサヨナラできる!
 大通りをハーメルンの笛吹きのように、私の後ろを男たちがぞろぞろ群れになって付いてきた。
 おーほっほっほっ。私こそ美の女王よ! 
 その光景を見ていた、小さな男の子が私を指差し、こう叫んだ『ブスのパレードだ!』なにっ? あの男の子には私の真実の姿が見えているかしら? 
「ちょっと、坊や! お姉さんはどう見える?」
「すっげぇーブス!」
「マ、マジで?」
 男の子の前でもう一度ビューティコロンをスプレーした。
「この匂いを嗅ぐと美人に見えるのよ」
「だって俺、風邪引いてるもん」
 この子はマスクをしている、もしかして鼻炎で匂いが分からないとか。だからコロンが効いてないの? 
 ……だとしたら、ビューティコロンは欠陥品じゃん!

 その頃、ヤマダ・ビューティーラボでは、モニターからの報告を首を長くして待っていた。
「街での公開実験の結果が気になるね」
 断わられたがカメラ持って、あの子に付いていけばよかったと山田は後悔していた。
「世の中にはあんな美女がいるなんて、まるで夢のようだ……」
 助手の佐藤は昨日から、『突発性恋わずらい』で仕事が手につかない状態である。
「ああ、モニターの女の子のことを思うと胸が苦しい。彼女の面影が頭から離れない」
「ほお、佐藤君にはどんな風に見えたかね?」
 うっとりと夢見るような表情で佐藤が答える。
「水色の髪がツインテール、可愛い声で歌っちゃうんだ」
 ビューティコロンを嗅ぐと幻覚をみる。お気に入りのボカロキャラがコスプレしたように佐藤の脳内で投影されていたようだ。だが、しかし、あくまでそれは幻影であって真実の姿ではないのだ。
 ビューティコロンは、初心(うぶ)な若者には罪な発明かもしれないと山田は思った。
「ねえ、今度は男性用のビューティコロン作りましょう。超イケメンになってモテモテになりたい」
「なにを言ってるんだい! 佐藤君には私がいるじゃないか」
「えっ! なにそれ……気持ち悪い……」
「君は唯一の助手なんだから、浮気なんて許さない」
「ああ、もういいや、やっぱり二次元に戻りまーす。僕」
 渋い表情で佐藤はパソコンのキーを叩き始めた。その姿を山田はにやにやしながら見ていた。
 このオッサン、ヘンタイじゃん!




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初音ミクのコスプレはネット検索してお借りしました




創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-04-07 16:51 | SF小説

ラボ・ストーリー ⑤

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   Dr.Yamada file.5【飛びます☆飛びます☆飛べません↓ 】

「いい加減にしてください!」

 空港の国際線ロビーに若い男の怒号が響き渡った。
「シィー、佐藤君、声が大きい……」
 口の前に人差し指を立てて、辺りを窺うように中年の男が諫めた。二人は大和大学で細菌学を研究する山田博士とその助手の佐藤である。
 山田博士が培養したスーパー酵母菌が化学雑誌で取り上げられ一躍注目を浴びて、この度パリで開催される世界細菌学シンポジュウムで、その研究発表をすべく、二人分の旅費と航空券が送られてきた。
 だが、肝心の山田博士が飛行機に乗ろうとしないのである。
「だってぇー、博士がいつまで経っても決心しないのが悪いんです」
「だから、私は個人的に鎖国しているんだよ」
「はぁ? 今は21世紀ですよ。飛行機に乗れない人間がいるなんて信じられない」
「乗れないじゃない。乗らないんだ!」
「どっちも同じ意味でしょう」
「断じて違う! 乗らないは自分の意思で拒否しているのだ」
「もぉー! 屁理屈捏ねてないで、さっさっと搭乗しましょう」
 イライラした佐藤が博士を急かせるが、
「待ってくれ! まだ心の準備が……」
「……ったく、二時間前から空港のロビーで心の準備をやってるんだから」
 うんざりした顔で佐藤が言った。
「私だって飛行機に乗って、パリの細菌学会で研究発表したいさ」
「じゃあ、飛行機に乗りましょう」
 博士の腕を掴もうとしたが、その手を振り払われた。
「イヤだ! とても怖くて乗れない」
「チッ! もう時間がない」
 時計を見ながら、佐藤が舌打ちをする。ふと博士の手荷物に目を止めて――。
「博士、鞄に貼ってるステッカーはなんですか?」
「交通安全のお札」
「首からさげてるのは?」
「お守り」
「手に持ってるもの?」
「清めの塩」
「ばっかじゃないの!」
 佐藤の罵声が空港ロビーに響く。行き交う人々がふり向いた。

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「アンタ、それでも科学者ですか?」
「科学者だって、困った時には神頼みするさ……」
「飛行機は最も安全な移動手段で、10万飛行時間当たりの死亡事故件数が0.07件、東京=ニューヨーク間を毎日往復したとして、438年、毎日乗リ続けて1回だけ事故に遭うレベルなんです」
「嘘だ! 鉄が空飛ぶなんてオカシイ……鉄だから絶対に落ちる!」
 科学者らしからぬ博士の言い草に、佐藤は大きく溜息を吐いた。
「こんな弱虫だったなんて……博士に幻滅した」
「誰だって、弱点はあるだろう?」
「僕が研究室に入って、間なしの頃、実験用のマウスを掴めなくておろおろしてたら、博士が言いましたよね。『佐藤君、たかがネズミ一匹掴めないようなお譲さんは、うちの研究室には要らない』って、あん時の博士の人を小馬鹿にした言い方を――。僕一生忘れませんからね」
「あの時のことをまだ根に持っていたとは……」
「持ってますよ!」
「執念深い男だねぇー」
 フンと、佐藤は鼻を鳴らした。
「研究室の冷蔵庫に入れて置いた僕のプリンを勝手に食べた犯人は博士でしょう?」
「な、な、何を言うんだ。証拠でもあるのかね?」
「山田博士のデスクの下のゴミ箱に、空のプリンのカップが捨てられてましたもん」
「し、しまった!」
「助手として情けない」
「まあ、そう言わずに……」
「それより僕は猛烈に悔しいんです!」
 いきなり握り拳を振り上げて、佐藤が博士に向って滔々と語る。
「山田研究室の納豆菌と酒麹とくさや菌を交配培養させて作った、スーパー酵母菌は1ヶ月服用すると、見た目年齢が10歳若返るアンチエイジングパワーを発揮します。癌細胞がみるみる消えてなくなる驚異の力があります。まさに人類が待ち望んだ奇跡の酵母菌です」
「そう、十年の歳月をかけて生まれたスーパー酵母菌だ」
「世界中に研究発表するチャンスを逃していいんですか?」
「だが……」
「山田博士の到着をパリの学会が待ち望んでいるんですよ」
「……ああ、私はどうしたらいいんだ」
 博士は頭を掻きむしって悶絶する。
「さあ、飛行機に乗って世界へ飛び立とう!」
「で、でも、飛行機怖い……」
「機内では、ガンガンお酒を飲んで酔っ払って寝ちまうってのはどう?」
「いくら飲んでも酔わない性質(たち)だ」
「睡眠薬で眠らせて、けど薬がない」
「ああ、ダメだ……」

 その時、空港ロビーにパリ行き搭乗を促すアナウンスが流れた。
「タイムリミット! 博士早く!」
 腕を掴んで引っ張ったが、博士は椅子にしがみつき動こうとしない。
「私はただの高所恐怖症だけではないんだ。閉所恐怖症も入っていて、パニック症候群で過呼吸になってしまう」
 博士は目に涙を浮かべて訴える。
「それよりも……飛行機に乗った途端、腰を抜かし失禁してしまうかも……」
「えっえぇ―――!?」
「そんなことになったら、恥かしくて、お天道様の下を歩けなくなる」
 頭を抱えて、博士は嗚咽を漏らす。
「……博士は、こんなチャンスを棒にふる気ですか?」
「佐藤君、これを……」
 研究発表の資料の入った鞄を助手に渡した。
「私の代わりに、君がパリの学会で発表してくれたまえ!」
「えっ!?」
「頼む! 佐藤君」
「博士……分かりました!」
 二人は固く手を握り合った。
 そして佐藤は慌てて、出国ゲートへ走って行く。山田博士は涙にむせびつつ、その後ろ姿を見送った。

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 あろうことか、パリの学会では博士の代理で研究発表した佐藤が脚光を浴びていた。
『スーパー酵母菌が人類を救う!』
『細菌学会に若きホープ現る!』
『天才科学者サトウ博士!』
 海外の化学雑誌に、スーパー酵母菌の開発者として佐藤の写真がデカデカと掲載された。

 日本では、飛行機に乗れないせいで、助手に手柄を奪われてしまった山田博士が『飛行機が怖くなくなる酵母菌』の研究に没頭していた――。




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2019-02-24 15:22 | SF小説