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泡沫恋歌のブログと作品倉庫     

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カテゴリ:ミステリー小説( 60 )

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表紙はフリー画像素材 Free Images 3.0 OhLizz 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


   第二十三章 一か八か勝負!?

 秋生の声で僕は覚悟を決めた。ナッティーが前に瘴気に当たって気を失った、あのパソコンに入るつもりだ。
 しかし、大魔神深野の雷は的を射て攻撃してくるので、今は逃げるのに必死で、そのチャンスすら作れないでいる。

 ふと見ると、消し炭になっていた秋生のアバターから青いオーラが羽衣のように、ふわふわと漂いながら、ナッティーの身体を包み込んでいた。秋生の霊魂がナッティーと合体していくようだ。いったい、何が始まるんだろう?
 僕を攻撃することに気を取られていた深野は、ナッティーたちの不穏な動きに気付いて、
「おまえら、何をやっているんだ?」
 ナッティーのアバターの中に秋生がすっかり収まったようだ。
「この虫けらどもが、踏み潰してやる!」
 ナッティーに向けて、巨大な脚が踏み付けようと下りてきた。
「ナッティー危ない!」
 次の瞬間、信じられないことが起こった。大魔神深野がすごい地響きを立ててひっくり返ったのだ。見ると、踏み潰されたと思っていたナッティーがムクッと立ち上がっているではないか!
 これは盗賊キャラが使える『やぶれかぶれの一撃』という技だった。どんな強い相手でも一撃で倒せる超レア技である。これには、さすがの大魔神も一本取られたようだ。

 僕の耳に再び秋生の声がした《ツバサ! 今だ、パソコンを壊しに行ってくれ》それに応えて「よっしゃー、任せろ!」すごい勢いで二次元の壁をよじ登り、深野のパソコンの窓まで到達した「南無阿弥陀仏」念仏を唱えると「おりゃあああぁ―――!」と、掛け声と共に身体中に『気』を集めて、パソコンの中に飛び込んだ。

 「うっ! なんだ? この黒い空気は息が苦しい……」
 黒く渦を巻くトンネルのような所を潜っていた。
 頭の中に『憎しみ』や『恨み』や『嫉妬』など禍々しい感情が飛び込んでくる。きっと黒い感情を抱いたまま死んで逝った、浮かばれない霊魂たちが彷徨っているのだろう。弱い心だと憑かれそうだった。
 次第に意識が遠のくようで……身体が硬直しそうになったが、守らなければならない仲間のことを想いながら、僕は必死で堪えていた。
 ――やっと出口が見えた!
 窓の向うで深野が、腐った魚みたいな眼でパソコンに向かっていた。
 スルリとパソコンから抜けた僕は、深野の身体に入り込もうとした。僕が入るためには深野自身の霊魂を追い出さなくてはならない。悪霊たちに依って弱小化していた彼の霊魂を恫喝(どうかつ)して無理やり肉体から放り出した。
 どうにか三次元の肉体を手に入れたが、やはり他人の肉体は違和感がある。たぶんそんな長い時間は入っていられないだろう。
 黒いパソコンを壊すために僕は道具を探した。深野の部屋は八畳のくらいの洋間できれいに片付いていた。見れば、ベッドの下に筋トレ用に使っていたと思われる鉄アレイが転がっている。

 よし、これだ! 3キロの鉄アレイを握ると、僕は黒いパソコンに思い切り叩きつけた。
 バキッバキッと音を立てて、パソコンから火花が散った!  なおも、鉄アレイを何度も振り下ろし叩きつけた。「ぎえぇぇ―――っ!」と、人の叫び声のようなものが聴こえて、閃光を放ち爆発してパソコンは粉々に飛び散った。

 その瞬間、僕も意識を失って崩れるように、その場に倒れてしまった――。

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   第二十四章 二次元の友情は永遠に

 どれくらい時間が経ったのだろうか――――。
 自分の部屋のベッドの上で意識を取り戻した。あの後、深野の肉体から離脱した僕の霊魂は、持ち主の肉体を探して戻ってきたのだろうか?
 机にうっぷしていたはずなのにベッドに横たわっているということは、一度、意識を取り戻して、再び、眠ってしまったのかもしれない。他人の肉体に入るということは想像以上にエネルギーを消耗するようだ。

 ハッと気付いて、飛び起きて僕はパソコンを起動させた。ずいぶん時間が経っていたので電源が落ちていた。
 ナッティーと秋生はどうなったんだろうか?
  パソコンは普通に起動していたが、モンスターランドにいっても、マイページにいっても……いくら呼び掛けても、ナッティーも秋生も応えない。
 ふたりともどうなったんだ!? 
もしかしたらあの戦いで疲れ果てて倒れているのかもしれない。今日は様子をみることにして、僕はパソコンを落として、再びベッドに倒れこんで泥のように眠った――。

 翌日、学校にいったら大騒ぎになっていた。
 生徒会長の深野が、昨夜、自宅で倒れて救急車で運ばれたが意識不明の重体になっているそうだ。部屋の中に粉々になったパソコンがあったので、爆発、感電した可能性もあると言われている。まだ、意識が戻らなくて、ほぼ植物人間状態らしい。
 学校中がその噂で騒然としていた。

 あんなひどいことをしていた深野とはいえ、ずっと植物人間のままだと、ちょっと可哀相だと僕は思った――彼の秋生へのおぞましい嫉妬心が、あの悪霊たちを召喚してしまったのだろうか?
 自業自得といえば、そうかもしれないが……人は誰でも弱い心を持っている。きっと深野は人を信じることができなくて、孤独や挫折感など鬱積した感情が誰を攻撃するというネガティブな行動に駆り立てたのだろう。
 3ちゃんネルの匿名掲示板では、自分自身の正体を隠して相手を攻撃できる。そのことが深野の人間性を歪め、ネットとリアルを使い分ける、二重人格『ジキル氏とハイド氏』へと変貌させていったのだろうか?
 そして、ネットという匿名の世界で『良心』という大事な心を失くしてしまったのかもしれない。――彼もまたネット社会の犠牲者ともいえる。

 その日、急いで家に帰った僕は、パソコンを開いてナッティーに呼び掛けた。
「おーい、ナッティー!」
しばらくすると、
「ツバサくん、乙カレー!」
 いつもの元気なナッティーの声が聴こえた。無事で良かった、僕は胸を撫で下ろす。
「あのね、ツバサくんに紹介したい人がいるの。ウフッ」
 意味深なナッティーのウフッと共に、パソコンの画面にイケメンのアバターが現れた。
「新しい彼氏だよーん」
「ツバサ、ぼくだよ。秋生」
「おおー! そのアバター、カッコイイなぁー」
 それは〔青い貴公子〕と呼ばれる。超レアアバターのフェイスではないか!
「うん。アバター燃えちゃったから、ナッティーが新しいのをくれたんだ」
「このフェイスはナッティーのお気に入りなの。いつか彼氏ができたら付けて貰おうと思って、ずっと持っていたのよ。秋生くんに使ってもらえて嬉しいわ」
「秋生だけ、イイなぁー」
 ちょっとイジケてみたりして……。
 あの後、モンスターランドで大魔神深野はパソコンが壊されたと同時に消えてしまったらしい。ナッティーは自分と同化している秋生の霊魂を取り出して、新しいアバターに移したが、深野の黒いオーラで穢された霊魂を浄化するのに丸一日かかったということらしい。――とにかく、ふたりとも無事で良かった!
 そして、このふたりに学校で聞いた深野の様子を説明した。
「――そうか、深野さんの霊魂は悪霊どもに持っていかれたのかもしれない。あんなすごいパワーを与えられた換わりに、自分の『魂』を捧げると契約した可能性がある」
「どうして、あんなバカなことをしたんだろうか……」
 植物人間になってしまった深野のことを考えて、僕と秋生はしんみりとしてしまった。今にしてみれば、すべて深野の心の闇が作りだした幻影でしかない。
「それにしても、あいつはメッチャ強かったわ」
 いきなりナッティーが言い出すと、秋生も話を繋いて、
「そうだね。三人で協力しないと絶対に勝てない相手だった」
 「何度も殺られそうになったけど、ナッティーは秋生くんとなら死んでもイイと思ったんだよ」
 嬉しそうにウフッとナッティーが笑う。その言葉に秋生はテレている。――そんなふたりの空気にムッして、
「だ~か~ら~、おまえたちはもう死んでいるだろうがぁー!」
「うっさい!」
 ナッティーと秋生ふたりして言い返しやがった。クッソー!
 そして三人で笑い合った。
 二次元の幽霊ふたりと三次元の僕の不思議なトリオの誕生なのだ。
 
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   エピローグ

 あれから、ナッティーと秋生は『わくわくアイランド』という島を育てるゲームの中で、自分たちの島を造り、家を建てて、牧場には家畜やペットを飼い、農園では野菜や果物を育て、魚釣りやクルージングをして楽しそうに暮らしている。
 秋生はナッティーのアバターにお金がかかるので、有料電子書籍サイトに『秋生 ツバサ』というペンネームを使って小説を書き始めた。たちまち人気作家になった秋生は毎月原稿料が入るようになった。
 一流出版社からもオファーがきているが、こっちでの代理人はすべて僕がやっている。何しろ執筆しているのは本物の幽霊だから……文字通り、秋生は『ゴースト作家』になったのだ! あははっ 

 この世に肉体のないナッティーと秋生だけど、二次元の世界で幸せそうだった。きっと、成仏するその日まで、この愛をふたりは育てていくのだろう。
 ちょっと羨ましいけど、親友としてふたりを応援するぜぇー!

 ああ、それから深野さんのことだが、半年後に、ようやく意識を取り取り戻すことができたみたいだ。だけど完全に記憶を失っていて、もう一度赤ちゃんからやり直しなのだ。きっと、新しい魂が再生するのに時間がかかったのだろう。
 もう二度とあんな過ちは犯して欲しくない! 健やかな心に育つように僕は祈っている。

 ネットの世界は楽しさいっぱい、刺激がいっぱい、繋がり合えば夢が広がる!

 だけど、3ちゃんネルのような掲示板サイトでは、匿名だから、何を書き込んでもバレない、構わない、人を傷つけても知らんぷり、そんな奴らもいる。
 匿名の持つ不透明さが、パソコンの向う側の誰かの胸に『言葉のナイフ』を突き刺していることを分かっているのだろうか?
 ネットでの匿名ということが、なにをやっても罪にはならない。まるで『免罪符』のように使われていることがとても怖ろしいことだと僕は思う――。

 もう決して『誹謗・中傷』『無断転載』『名誉棄損』をしない、明るく健全なネット社会になることを、僕は心から願っているんだ!

― END ―




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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-25 12:40 | ミステリー小説
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   第二十一章 敵の素顔に迫る

 ナッティーがモンスターに捕まっていた時の状態を話した。
 幽霊だから痛みはないのだが、瘴気みたいなのにあてられて、ずっと意識を失っていたようだ。深層意識は眠っていなかったので、意識を取り戻そうと必死でもがいていたが、まるで『金縛り』にあったように、身体がピクリとも動かなかったらしい。

「幽霊が金縛り? それって可笑しくなぁい」
「もう、生きた心地がしなかったわよ」
 首をすくめ顔をしかめて、ナッティーが答えた。
「えっ? もう死んでるのに……」
「んもぅ、うっさい!」
 いつものジョークで笑い合って、僕らは戦いの前の緊張をほぐそうとしていた。

「おまえら、余裕こいてる場合かよ!」
 いきなり、二次元の壁に声が轟いた。
「なんだぁー!?」
 僕らは声の在りかを探してキョロキョロと見まわす。すると黒づくめの衣装を着た魔術師がすぐ側に立っていた。
「おまえは……」
「あぁー! よくもあんな目に合わせたわね!」
 ナッティーが怒りを込めて叫んだ。
「おまえがヘボ過ぎるんだ。バカめ!」
「今度は負けないわよっ!」
 バズーカ砲を敵に向けた。
「あははっ、ホントにバカな女だ。そんなモノが俺に効くかよ」
 奴のレベルを見て、僕らは目を剥いた。なんと、レベル2000以上もあるのだ。とても、このゲームの常識では考えられない数値だった――。
 いったいどんなチート技を使えば、こんなレベル上げができるんだよ!?

「――誰なんだ、君は?」
 秋生が敵の前に歩み出た。
「おや? 雑魚(ざこ)が一匹増えているじゃあないか」
「なぜ君は僕に対して危害を与えようとするんだ? 理由を教えて欲しい」
 不思議な光景だ。秋生が自分自身のアバターに話かけている。
「理由? そんなもんあるかよ! おまえが気に入らないだけさ」
「……君は、……そのオーラは以前に感じたことがある。――黒いオーラの中に、微かに流れている薄紫色の波動は……誰だろう? 懐かしい感じがする」
 何かを探るように凝視している。
「深野さん! 君は深野さんだね!?」
 魔術師と対峙していた秋生が突然叫んだ。
「――――なっ!」
「ええぇ―――!!」
 ――まさか、あの深野さんなのか? 
 秋生のお葬式や火葬場まで一緒にきてくれていたし、マンションの自殺現場でも会った、文芸部では創作仲間だった、あの深野さんって……そんなの嘘だろう? 真犯人がこんな身近にいたなんて……。

「村井、おまえ幽霊になったせいで感が良くなったなあ。今頃、気が付いても遅いぜぇ」
「深野さん、あんたが3ちゃんネルの書き込みや、いたずらメールを送っていた犯人なのか?」
「――そうさ」
「どうして……?」
「それだけじゃあない。のべるリストの創作者たちを扇動して『村井秋生』叩きをさせたのも俺さ。あいつら利口そうな振りしているが、単純な奴らで、俺がほうぼうのコミュニティで村井の悪口を書いて回ったら、すぐに賛同しだして、ひとりだと叩けないもんだから――ダーティなリーダーが現れたら、勢いづいて『俺も、俺も……』で言いたい放題さ。しょせん、主義主張なんてないんだ。あいつらは人気や才能のある奴をただ叩きたいだけさ!」
『便所のラクガキ』だと、3ちゃんネルを評した言葉があるが、あながちその言葉を否定することはできない。
 秋生の件で、いろんな3ちゃんネルの文学系スレを読んで回ったが、どこも酷いものだった――。文学の批評ではなく、単に相手の作品や人格をこけ降ろしているだけの、非常に低次元の話を馴れ合いたちとやっている。そこには創作者としての品格は微塵なく、単なる野次馬たちでしかなかった。
 彼らは、なまじ言葉を知っているだけに、辛辣・悪辣・非道な書き込みばかりで、こんな風に顔も知らない人間を生贄にして、血祭りにあげられる人間性というのは『秋葉原の通り魔殺人』の犯人の心理と通じるものがあるとさえ思った――。

「――もしかして、僕のホームページから作品を盗んだのも深野さん、あんたか!?」
「そうだ、俺だよ」
「どうやって、そんなことができる? 何度パスワードを変更してもパス抜きをされたし、保存場所を変えても簡単に見つかった」
「それは俺のパソコンが優秀だからさ!」
「パソコンが……?」
「俺はもらったんだ! 凄い霊力を持っているモンスターに――。ある日、パソコンをやっていたら、不思議なバナーが出ていた『あなたの才能を伸ばしましょう! 将来は一流作家の仲間入り!』そう書かれていた。最初はこんなバナー無視していたし、何だよ、これ嘘くさい。って、クリックなんかしなかった」
「……普通はそうだろう」
「村井、おまえと一緒にラノベの公募に送ったことがあったよな? おまえは入賞して出版社からオファーがきたって言ってたよな?」
「あれは断わったよ。もっと投稿サイトで小説の勉強がしたいから……」
「なんでそんな勿体ないことをするんだ! 自分には才能があるからチャンスなんていくらでもあるとでも思ってんのかっ!?」
「違う! そんな風には思ってないよ」
「将来は小説家になることが夢だった。……なのに俺が書いた小説は一次選考さえ通過できなかったんだ。悔しかった! おまえとの才能の差を思い知らされて、俺は落ち込んでいた。そんな時だった『才能を伸ばす』というバナーの文字に魅入られてしまったのは……」
 イヒイヒッと不気味な声で深野が笑った。それは完全に魂を乗っ取られた脱け殻の声だった。
「そして……あのバナーをついにクリックしたのだ!」
 僕らはその先の話が聞きたくて、思わずゴクリと生唾を飲んだ。

   ※ ラノベ=ライトノベルの意味。ライトノベルの定義に関しては
     様々な説があり明確にはなっていない。
     簡単に説明して、表紙や挿絵にイラストを多用している若年層向けの
     小説とするものである。
     作家側の定義として「中学生~高校生をターゲットにした読みやすく
     書かれた娯楽小説」である。

「そのバナーを開くと、こう書いてあった『選ばれたあなたにだけ、このバナーは表示されています』次へをクリックしたら、黒いボディのノートパソコンの画像があって『このパソコンを無料でお届けします』と書いてあった。俺は思わず『受け取る』をクリックしてしまった。あくる朝、目を覚ましたら俺の机の上に、その黒いパソコンが置かれていたのだ」
 バナーをクリックした翌朝にはパソコンが届いているなんて、どう考えても不自然ではないか。なにか、不思議な力が働いているとしか思えない。
 そして、深野はしゃべり続ける。
「俺は興味を覚えて、その黒いパソコンを起動させてしまった。すると、すぐに立ち上がりパソコンの中から男の声が聴こえてきた『このパソコンは二次元と三次元を繋いでいます。あなたはネットの世界に入り込んで自由に望み通りのことができます。さあ、試してみなさい!』そうパソコンの声が俺に話しかけてきたのだ。最初は信じられなくて躊躇していたら、いきなりパソコンの中から手が出てきて俺は二次元の世界に引っ張り込まれたんだ。そしたら、いろんな奴のパソコンの中身が見れるじゃないか。村井のホームページを覗けて俺は面白くなってきた」
「ダメよ! その黒いパソコンには悪霊が憑いているわ」
 ナッティーが叫んだ。

「俺は構わないさ、才能のある奴の小説をパクって俺が有名になるんだ」
「深野さん、人の作品を盗んで有名になっても、そんなの虚しいだけだろう?」
 作品を盗用された秋生がムッとして言い返した。
「俺は自分の才能に見切りをつけていた。村井の書く文章は宝石のように輝いているのに、俺の文章はただの石ころでしかない。努力したって天性の才能には絶対に勝てない! おまえの才能が心底妬ましい」
「深野さん……」
「死ねばいいと思うほど憎らしかった!」
 深野の背中からどす黒いオーラが蛇のように鎌首をもたげた。
 なんとも怖ろしい嫉妬のオーラである。人間の感情の中でもっともどろどろした情念が、この『嫉妬』だろう。怒りや憎しみといった負の感情の中で『嫉妬』には愛情にも似た強い執着心が存在する。
 ――それは単なる憎しみよりもずっと厄介代物(しろもの)だ。

「深野さん、そんなの嘘だろう? あんたは秋生のお葬式にも来てくれたし、火葬場ではあんたも泣いていたじゃないか? 秋生の自殺現場では会った時も悲しそうだった」
 こんな酷いことをやっていたなんて、僕には信じられなかった。
「火葬場で俺が泣いていた? おまえはアホか、後ろ向いて肩を震わせていたのはなぁー、骨だけになった村井の遺体が滑稽で、俺は笑っていたんだ!」
 そう言うと、あははっと嗤った。
「な、なんだと!?」
 その言葉に、僕の怒りが沸騰点に達しそうになった。
「自殺現場を見に行ったのは、微かに村井の波動を感じるのであそこで自縛霊になっているかどうか確かめに行ったんだ。――そしたら、村井はいなかったのでオカシイと思ったら、いつの間にかネットの世界に入り込んでいたのさ」
「深野さん、こんなことはもう止めろ! これ以上、誹謗・中傷で人の命を奪ってはいけない! 僕と同じ犠牲者をこれ以上は増やさせないぞっ!」
 いつも大人しい秋生が、いつになく激しい口調で言った。
「ごちゃごちゃうるせい!」
 いきなり魔法の杖を振り上げて、深野は呪文を唱えだした。
 もの凄い霊力に二次元の壁は軋み、疾風が舞う、真っ黒なオーラが周りの色を奪っていく、その中で深野の身体が見る見る巨大化していった。

「おまえら、捻り潰してやる!」

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   第二十二章 二次元の対決!

 「うわーっ! こいつは大魔神か!?」

 二次元の天井を突き破るほどの高さにまで大きくなった。さすがレベル2000のパワーはもの凄い!
「もう終わりだ。今度こそ地獄へ送ってやる」
 天井から響くように声がする。敵が、こんなに巨大化するとは思ってもいなかった、これは「想定外」だ。こんな化け物とどうやって戦えばいいのだ?
「みんなで協力して戦うしかない!」
 秋生が覚悟を決めたように叫んだ。 ナッティーはバズーカ砲より、さらに強力なロケット砲を肩に背負って、大魔神深野に打ち込んだ。
「うりゃああああああああぁぁぁ―――!」
 連射されたロケット砲がさく裂して火の手が上がる、だが敵はこたえている風もない。
 深野は魔法の杖を使って、天井から雷(いかずち)を降らしてくる。先ほどのモンスターの赤い火の玉と違って、きちんと的を射て降ってくるのだ。
 それでも大魔神には痛くも痒くもない、まったくダメージを与えられない。

「ウザい女めぇー」
 魔法の杖をふり上げた。
「ナッティー危ない!」
 青いオーラでバリアーを張って秋生が、間一髪でナッティーを助けた。だが、次の瞬間、秋生が雷の犠牲となった。激しい電流で身体を焼かれ、真っ黒になった彼のアバターからは白い煙が立ち上っていた。秋生が倒されたら誰も回復技を使えない、もう後がない!
「秋生くーん!」
 ナッティーの絶叫が聴こえる。
 必死で敵の脚やら脛に僕は『無敵の剣』で切り込んだが、まるで歯がたたない。――まるで一寸法師と大鬼の戦いだ。
 レベル300では傷ひとつ付けることができない。巨大な脚で払われて、僕は数百メートルふっ飛ばされて、おもいきり地面に叩きつけられた。クラクラする頭で考えていた《自分は敵に殺られても、ナッティーだけは助けないといけない……絶対に!》僕は立ち上がり『無敵の剣』振り上げ、敵に向かって突進していく――。
「メーンヤァー!」
 剣道の掛け声で僕は気合を入れた。
 その声に共鳴するように『無敵の剣』は刃の先から真っ赤なオーラを放ちパワーアップした。そのままジャンプして、敵の顔面に「メーン!」と一本入れた。
 その攻撃技には大魔神の深野もクラッときたようだった。
「うるせいっ! この蠅がぁー」
 今度は僕に向けて、雷の攻撃を集中的に仕掛けてくる。その後は逃げるのが必死だ。ナッティーと秋生はどうなったんだろう? もう考えている余裕もない!

 その時、僕の耳の中に声が聴こえてきた《ツバサ、深野のパソコンを壊してくれ》「えっ!?」それは秋生の声だった。《三次元に肉体を持っているのはツバサおまえだけだ。三次元に戻って深野のパソコンを壊してくれ……頼む……》虫の息のような声で、秋生が懇願していた。
 三次元に戻るとすれば、深野のパソコンから向う側に戻るしかない。もう時間に余裕がない。このままだといずれ三人とも殺られてしまうから……。
 一か八か!? ヤルっきゃないっ!



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-24 11:36 | ミステリー小説
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   第十九章 信じる友のために戦う!

 秋生がパソコンの中に入って、今日で三日が経った。
 まだ、なんの動きもない。ナッティーは相変わらずモンスターに噛み付かれた状態でフリーズしていた。
 秋生からは、なんの連絡もこなかった。もしかしたら……秋生も敵に捕まってしまったのかもしれない。だんだん不安になってきた――。
 フリーズしたパソコンの画面を見ていると、僕らをこんな目に合わせた、あの『見えない敵』が心底憎らしくて、悔しかった。

「チクショウー!」

 思わず、液晶画面を叩いてしまった。が、その時だ! 静止していた画面がコマ送りのように少しづつ動き始めた。

「おおっー! 動いた、やっと動いた」

 序々に動きがなめらかになってきた。死んだように動かなかった僕のパソコンがようやく息を吹きかえしたのだ。
 同時にパソコンの中から声が聴こえてきた。

「ツバサ、やっとパソコンが動いた。パソコンにかけた結界は破ったけど、それでも動かなかったんだ。――今、ツバサの怒りの波動がパソコンに流れて、やっと動き出したよ」
「秋生、ヤッター! これでパソコンの中に僕も入れる」
「ツバサ、今度は僕がこちらへ誘導するよ」
 そういうと秋生は画面に二次元の掌をニョキと突き出した。もう分かっているさ、僕はその掌に自分の掌を合わせた。
 その瞬間、ふわりと僕の霊魂が抜けてパソコンの画面の中へ吸い込まれていった。

 ――僕は、再び二次元の世界へ。

 僕はこないだと同じの戦士のアバターになっていた。秋生は元々魔術師だったが、今回は僧侶を選んだようだ。西遊記の三蔵法師のような衣装を身に付けている。
『モンスターランド』では、四種類のキャラから選べる。盗賊・魔術師・僧侶・戦士などがある。
 盗賊は敵のアイテムを盗んだり、時々レアな技を使って一発逆転のチャンスがある。魔術師は敵の技を封じたり、罠を仕掛けたりして敵を倒す。僧侶は主に回復技や防御が使える。hpが下がって死にそうになったら、僧侶の回復技でまた復活できる。
 戦士の僕は、派手な大立ち回りで敵と戦う役だ。秋生から連絡を待っている間、僕はリビングのパソコンで『モンスターランド』と、よく似た対戦ゲームをやって戦いに備えて特訓をしていたのだ。
 今度は前みたいに、モンスターにビビって遅れを取ったりはしない。

「秋生、ナッティーの様子はどうだ?」
「パソコン画面のフリーズは解除したが、モンスターはまだフリーズさせてある。今、ヘタに動かしてナッティーを呑み込んでしまったら、取り返しがつかなくなる」
「そうだな。モンスターの口からナッティーを吐き出させないと……タイミングが難しいな」
「僕がモンスターのフリーズを解除したら、ツバサは速効で攻撃技を入れるんだ」
「おう! 任せろ、今度は負けないぞぉー」
「ふたりで戦って、ナッティーを救おう!」
「秋生! よっしゃあ、いくぞぉー!」
 僕は戦闘準備に入った、まるで剣道の試合に臨む気構えだった。

「ツバサ、ちょっと待て!」
「なんだぁ?」
「動くな!」
 いきなり秋生は両手をあわせて八指まで掌中に入れ、残る二指をつき合わせて、九字結印で呪文を唱えた。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前」
 すると、秋生の背中から青く輝くオーラが発散されて僕の身体を包み込んだ。何ともいえない清涼感が身体中を駆け廻った。
「よし!」
 秋生の回復技は終了――。
「……なんか、身体が急に軽くなったようだ」
「ツバサ、レベルを見てみろよ」
 驚いた! レベルが一気に300になっている。たった、レベル23しかなかった僕なのに……。
「秋生、すごくレベル上がったぁー! これなら絶対に負けないぞ」
「回復とレベル上げなら、僕に任せておけよ」
 あんなに人と争うことが嫌いだった秋生なのに、今は闘志満々だ。
「――秋生、おまえ変わったなぁー」
「そうか? 争い事が嫌いな性分だったのに……」
「おまえ強くなった気がする!」
 僕のいった言葉に、秋生はニンマリと笑った。

「――僕は、死んでから自分自身について考えてみたんだ。それで分かったことがある。今まで僕は誰とも面と向かってケンカをしたことがなかった。争い事を起こして面倒になるくらいなら自分の方から謝っておこうと、いつもそう考えてきたんだ。でもね、それって、ただの卑怯者の論理なんだよ。――良い子の振りをして、実はみんなに無関心だった」
「そうかな? 秋生は優しいからだと思うけど……」
「違うよ。自分の保身しか考えてなかった――。3チャンねるで叩かれた時、クラスのみんなに冷たい眼でみられて、誰も僕のことを信じてくれなかった。……と、いうのも今まで僕が誰かを守るために戦ったことがないので、僕という人間を誰も信じていなかったってことさ」
「秋生のことをよく知らなかったんだよ」
「いつも感情を隠すことで、本音の自分を見せなかった。クラスメイトたちとの軋轢を恐れて、周囲から距離を置く傍観者的立場だった。だから誰にも信用されなくて当然だよ。――こうなった原因の何パーセントは、僕の日和見主義にあったのだと分かったんだ」
「僕は秋生のことは信じている!」
「ありがとう」
「おまえが死んでも僕らの友情は変わらない」
「ツバサの友情だけが僕の心の支えだった。今さら気付いても、もう手遅れだけど……」
 やはり秋生は自分の命を捨てたことを後悔しているのだろう? 自嘲するように、フッとニヒルに笑ってみせた。
「僕のことを無条件で信じてくれるのはナッティーとツバサおまえだけだった。――だから、このふたりを守るために僕も全力で戦うんだ!」
「そうだ! 信じる友のために戦おう」
「よし! ツバサいくぞー」
「おうっ!!」
 その掛け声と共に、僕らの戦いの火ぶたが切って落とされた。

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   第二十章 桃園(とうえん)の誓い

 秋生が呪文を唱えた。すると、凍りついたように動かなかったモンスターがゆっくりと動き始めた。
 今だ! 僕は思い切りジャンプするとモンスターの眼に『無敵の剣』の刃(やいば)を突き刺した。モンスターが、けたたましい咆哮を上げた。その瞬間、咥えていたナッティーがポロリと零れ落ちた。――急いで秋生がナッティーを受け止めた。
 片目を潰されたモンスターは怒り狂って、赤い炎の玉を吐き散らし、その合間を掻い潜って攻撃を加えた。暴走するモンスターの背後に回り込んで、その上に僕は飛び乗った。背中にある剣のような骨質の板をかき分けて、モンスターの後ろ首に『無敵の剣』を深く突き刺した。
 モンスターは絶叫し嘶いて、そのまま巨体をつんのめるようにして地面に倒れ込んだ。急所だったので敢え無い最期だった――この一撃が効いたようだ。

「ヤッター、ヤッター!」
 モンスターをやっつけて飛び跳ねて喜んでいたが……見ると、ナッティーが目を覚まさない。秋生が回復技をかけて、なんとか蘇生させようと躍起になっている。
 子どもみたいに大はしゃぎしていた、自分が恥ずかしくなって、慌てて、ふたりのいる場所にいく――。
「ナッティーは大丈夫?」
「いや、まだ目を覚まさないんだ。かなりのダメージを受けていたから……」
「ナッティーしっかりしろ!」
 僕は心配になって、祈るような気持ちで大きな声で呼びかけた。その声に反応するように「う~ん……」とナッティーが呻いた。
「おーい、ナッティー! ナッティー!」
「……もう、ツバサくんの声がうるさいよぉー」
 顔をしかめ、悪態をつきながらナッティーがようやく目を覚ました。ところが、目を開けた瞬間!

「この偽者め! 許さない!」
 秋生のアバターを見るなり、いきなりナッティーが飛び起きて身構えた。そして秋生に向けてバズーカ砲を撃とうとしたので、僕は慌てて、二人の間に入って止めた。
「ナッティー、待って! 待って! こいつは本物の秋生なんだ!」
「えっ!?」
「村井秋生だよ。僕らの元に還ってきたんだ」
「本当に秋生くんなの? そういえば真っ黒なオーラを放っていない……」
 秋生がナッティーに話しかけた。
「ナッティー、ごめんよ。心配かけて……、秋生は死んだけど、違うカタチで蘇えったんだ」
「嘘?」
「嘘じゃないよ。ナッティー、僕だよ。秋生」
「ああ、青いオーラを放っている。間違いない、本物の秋生くんだわ」
 彼女の瞳から大粒の涙がはらはらと零れた。
「ナッティー」
「秋生くん……」
 その後、ナッティーは秋生の胸に縋って泣いていた。――このふたりは結構イイ関係だったのだと。ここにきて……鈍い僕が初めて気がついたのだ。
 泣いているナッティーの背中を撫でながら、こうなった顛末を秋生が説明していた「うん、うん……」とナッティーが素直に頷いて応えていた。なんだかイイ感じじゃないか――ちょっと、羨ましくもある。彼女いない歴十七年の僕だった。

 ちょっと待て! こんなラブストーリーな展開は可笑しいぞ。
 僕らは、もっと巨大な敵に立ち向かわなければならないのだから……。

「三人が揃った! これで見えない敵を我らの力で打ち負かすことができる」
 三国志風に僕は大層な物言いをした。
「そうだなあ、ナッティーもレベル上げしたら、三人のパワーは凄いものになるだろう」
「今度こそ、あの魔術師の男に負けないわ!」
「三人の力を合わせて戦う。まさにアレだ!」
「ん?」
「――我ら三人は名前や生年は違っても死ぬ時は一緒だ」
 いつか使いたかった、取って置きの三国志の名言『桃園の誓い』(とうえんのちかい)を朗々と述べた僕、……だが、
「だから、もう死んでるってば!」
 ふたり揃って言い返された。こいつら幽霊だった――。
 チクショウー!


   ※ 『桃園の誓い』意味は、大成を成し遂げるために固く誓い合うこと。
     三国志の名言で、劉備を長兄、次兄を関羽、末弟を張飛となり、
     義兄弟の契りを桃園で結んだ。三人は生涯この契りを忘れなかった。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-23 22:26 | ミステリー小説
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   第十七章 秋生の告白

 この話は死んだ秋生と僕がメールでのやり取りをして
 秋生を自身が語ったことである。

 それらを要約して、僕から分かりやすく説明しよう。

 そもそも秋生が自殺に至った原因は、3ちゃんネルの誹謗中傷の掲示板を見たクラスの女生徒を中心にシカト、陰口、悪い噂を流されるなどイジメに合っていた。
 特にショックだったのは、わりと好意を持っていた女生徒にまで「キモチ悪い、ヘンタイ、側にこないで!」と罵られたことである。――それで、もう秋生は学校へ登校できなくなってしまったのだ。
 その上、ネットに入るとマイページには大量のいたずらメール、観てもいないエロサイトからの高額請求メール、おまけに『のべるリスト』の作家たちの辛辣な批評や陰険な嫌がらせなど……どこにも身の置き所がなかった。

 何よりも、苦痛で耐えられなかったのは、ホームページの自分の小説を、何者かによって勝手に投稿サイトに転載していることだった。何度パスワードを変えても、すぐにパス抜きされて作品はどんどん盗用されてしまう。そのせいで、気が動揺して小説がまったく書けなくなってしまい……ついに秋生は「欝」状態に陥る。
 さらに、自分は誰かに命を狙われているのではないかという脅迫観念にも取りつかれて、誰にも相談することもできず、悶々とする内に……毎晩、自分が死ぬ夢をみるようになり、精神的に追い込まれて《自分は死ななければいけない》という強い思い〔希死念慮〕にかかってしまった。

 どうして、親友の僕に相談してくれなかったのか? という問いに対して、
「ツバサは部活と塾の勉強で忙しそうだったから……。高三は受験を控えた大事な時期だし、僕のネットトラブルに巻き込まれて、それに時間を割くのは申し訳ないと思っていたんだ。自分で何とかしようとやっている内に精神状態まで、おかしくなってしまった」
 ああ、死ぬ前に相談してくれればと、今さら悔やまれて仕方ない……。

 そして、自殺する前の日、マンションの児童公園で塾から帰る僕を秋生は待っていた。最後にツバサの顔が見たかったからと秋生はいう。
 あの日、僕とラーメン屋で少し話をして、マンションのエレベーターで別れた後、十二階の最上段の階段で飛び降りるチャンスを窺っていた秋生に、不思議なことが起こった――。
 意を決して、階段のフェンスに手をかけてよじ登ろうとしたら、急に意識が飛んで、崩れるように倒れた。……気が付いたら空中から、なんと自分の姿を見降ろしていたのだ。

 ――これはもしかしたら、幽体離脱か!? 
 そういえば、以前、ナッティーとゲームをやっていた時にもこんなことがあった。
 たぶん、一度、幽体離脱を体験した人間は霊魂が抜けやすくなっているのかもしれない。

 霊魂の状態で僕の所やお母さんにも挨拶にきたという。その時、秋生は思ったらしい――。もう、肉体を捨てて生まれ変わりたいと……。霊魂の自分はとても自由で清々しい気分だった。イノセンスというか、何ともいえないカタルシス効果を感じていた。

 いったん、肉体に戻った秋生は、階段のフェンスに跨がり自殺の準備をした《その時には不思議なくらい死ぬことが怖くなかった》飛び降りる前に、携帯のメール発信に時間指定をした。落ちると同時にメールがツバサに発信されるようにセットしておいた。
 ついに肉体を捨てた秋生は、十二階から落ちると同時に幽体離脱して、メールの電波に乗って、僕の携帯の中に入り込んだ。

 マンションから落下して死んだのは、魂のない秋生の肉体であった。

 ――そして秋生は、携帯から僕とナッティーの行動を見ていたというのだ。しかし、初めは僕と連絡の取りようがなくて、困っていたらしい。
 やっと霊力を上げて、生身の人間とコンタクトを取れるようになったのだ。

 何しろ、秋生は携帯に憑依した珍しい幽霊なのだから……。

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   第十八章 送信された霊魂

『 ツバサ、僕をパソコンに送ってくれないか?
                              秋生 』

『 パソコンに送るってどういうこと?
  秋生、いったい、おまえは何をするつもりなんだ?
                                 ツバサ 』

『 携帯から、パソコンにメールを送信してくれ、
  僕はその電波に乗ってパソコンに入っていくから、
  モンスターランドへ行って、ナッティーを助けたい!
                                  秋生 』

 『 ちょっと待て!
  秋生ひとりでは行かせないぞ!
  僕だって、ナッティーを助けたいんだ!!
                             ツバサ 』

『 そうか、分かった。
  僕が先にパソコンに入って、あのフリーズした
  画面を何とか直そう。
  そうすれば、ツバサも二次元に再び入ってこれるだろう?
                                      秋生 』

『 プリーズ! あのフリーズを直してくれ!
  僕も二次元に入って、一緒に戦うんだ。
  今度は死ぬ時も一緒だぜぇー!
                       ツバサ 』

『 いや、すでに僕は死んでいるから
  これ以上は死ねないさ(笑)
                    秋生 』

『 たしかにぃー(笑)
  じゃあ、パソコンに秋生を送信するから
  画面を直したら、僕を呼んでくれ

  何日でも待つから、秋生、おまえに頼んだ!
                               ツバサ 』
 
『 ツバサ、ナッティーを助けるために
  一緒に、敵と戦おう! 今度こそ僕は逃げないで戦うよ!
                                      秋生 』

 携帯から、パソコンのメールアドレスに秋生を送る準備をする。

 人と争うことが嫌いだった秋生が、自ら『戦う』という言葉を使った。
 それほど、あいつは『見えない敵』に対して強い怒りを持っているのだろう。
 それにしても敵は卑劣過ぎる。いたぶるように、パソコンの画面にナッティーを閉じ込めたやり方は悪趣味だ。これ以上、ネットのイジメで死者が出ないように、僕らはあの敵と戦って退治しなければならない。

  秋生、頼んだぞ! 心の中で念じながら送信ボタンを押した。

 ――メール送信が完了。

 果たして、上手くパソコンの内部に入れたかどうか心配だが……。今は秋生の霊力に頼るしかなかった。僕はドキドキしながら、秋生からの応答を待つことにした。

今度は絶対に逃げない! 仲間がいれば、僕だって最後まで戦い抜いてみせる!



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-22 16:58 | ミステリー小説
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   第十五章 ほぞを噛むの日々

 僕は情けなかった……。
 ナッティーを置き去りにして逃げ出した自分が許せなかった。
 こんな意気地なしで、弱虫の自分を堪らなく嫌悪していた――。

 僕のパソコンは断末魔のナッティーを映したまま、フリーズしてしまった。
 何とかしようと、あれこれ僕の知りうる限りのパソコン知識でやってみたのだが……まったく画面が動かない。奥の手で、ctrl+alt+Deieteを押すと、タスクマネージャーがでてきたので、そのページだけを消去しようとしたが……何度やっても消えない。不思議なことに電源を落としても、その画面は消えなかった。

 こうなったら、リビングのデスクトップから『モンスターランド』へ侵入しようと試みたが、自分のIDとパスワードを打ち込んでもマイページがどういう訳か開けなかった。仕方なく新規会員登録をしたが承認メールは、いくら待っても送られてこない……。
 どうやら……何者かの力で僕は入れなくされているみたい。これじゃあ『モンスターランド』に戻って、ナッティーを助けることもできないじゃないか!

 ――ほぞを噛む思いだった。
 あの画面は動かすことも、消すこともできないままに、ナッティーの無残な姿を映している。まるで僕の無能振りをあざけ嗤っているかのようだった。
 秋生の無念を晴らすために、僕らは罠に嵌めた犯人探していたんだ。ナッティーは自分から、かって出て協力してくれたのだ。ある時は瘴気に当てられて気を失いながらも、健気に頑張ってくれていたナッティー……。そんな彼女を身捨てて僕はひとりで逃げだした。いくらナッティーが逃がしてくれたとはいえ……自分は卑怯者だ。
 その画面を見る度に悲しくて、悔しくて、情けなくて、ナッティーに詫びながら、僕は涙を流していた。

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   第十六章 謎のメール

 相変わらず何をやっても僕のパソコンは動かない。
 仕方ない、親に事情を説明して《たぶん、信じて貰えないだろうけど……》パソコンのプロに修理してもらおうと観念した頃であった。一通の謎のメールが僕の携帯に送られてきたのは――。

 ベッドの上に寝転がって天上を見上げ僕は溜息をついていた。もう自分の手には負えない、パソコンも秋生の件も……結局、何もできずに諦めてしまうしかないのか……こんな結果でしか終われないのか? なんて不甲斐ない奴なんだ。
 そんなことを考えながら悶々としていた僕の耳に、いきなり携帯の着信音が聴こえた。メールなんか、どうでもいいやと放って置いたら、またしばらくしてメールが届いた。面倒臭いなあ……と、しぶしぶメールを開いて見て、びっくりした!

 そのメールは自分宛てに、自分から送られてきたメールなのだ。
僕は携帯を一台しか所持していないので、誰かのイタズラだと思ったが、送り主のメールアドレスは僕の物だった。
 送り主:福山翼 ⇒ 宛先:福山翼 そんなバカなっ! しかも、そのメールには……、

『 ツバサ、元気をだせよ!
  おまえのことはいつも見守っているからな
                            秋生 』

 秋生だって? これは悪趣味なイタズラか?
 死んだ『秋生』の名を騙ってメールを送ってくるなんて、いったい誰なんだっ!?
 許せない! さっきのメールと合わせて二通削除しようとボタンを押したら、また次のメールが届いた。

『 ツバサ、信じられない気持ちは分かる。
  秋生は死んだけど、実はおまえの傍にいるんだ。

  ちゃんと、今までのことも見ていたから
  ナッティーを一緒に助けだそう!
                       秋生 』

 えっ? ナッティーのことをどうして知っているんだ。
 こいつは誰だろう? もしかして、これは敵の罠かもしれない……。

 疑心暗鬼で染まった僕の心は、謎のメールをやすやすと信じることなんかできない!

『 ツバサは、僕のことがどうしても
  信じられないようだね?
  だったら、僕ら二人にしか分からない
  質問をしてみろよ。
                秋生 』

 ――僕らにしか分からない質問。
 秋生とは小学校に入る前から友だちだった。お互いにドジやら恥やら、いろんなことを知っている。
 そして内緒事や秘密も僕らはいっぱい共有していたのだ。

 じゃあ、あのことを訊いてやろう。すごく昔のことだけど、本物の秋生なら、きっと覚えているはずだ。

『 小一の頃、僕らの宝物は何だった?
  それをどこに隠した?
                 ツバサ 』

 それだけ書いて、僕は送信ボタンを押した。

 ――すると、すぐに返事が返ってきた。

『 小一の頃、ビールの王冠集めが流行った。
  僕の叔父さんがペルーから買ってきた
  「クスケーニャ」というビールの王冠がレアで
  子どもたちの間で、すごい人気になった。

  それが僕らのふたりの宝物だった。

  マンションの児童公園、ブランコに向かって、
  右から三番目の桜の根元にふたりで埋めたんだ。
                                 秋生 』

 そのメールを読んだ、瞬間、僕は言葉を失った――。

 小学校に入学する少し前に、僕らが住んでいるマンションが完成して、分譲として売りに出された。僕の家も秋生の家も建ったと同時に、このマンションに引っ越ししてきた。
 マンションの中に自分と同じ歳の秋生を見つけて、僕らはすぐに友だちになった。いつもふたりで、マンションの児童公園で元気いっぱい遊んでいた。
 小学校に入学してしばらく経った頃に、なぜかマンションの子どもたちの間で『ビールの王冠』を集めることが流行りだした。僕の家はお父さんが晩酌にビールを飲むので集まったが、秋生の家では、お母さんがお酒を飲まないので『ビールの王冠』が集められなかった。それで僕は自分の王冠を秋生に少し分けてやっていたのだ。
 その頃、お祖父ちゃんの家や親戚の家に行ったら、大人たちがビールを飲むのが楽しみだった。珍しい『ビールの王冠』が手に入ると僕は大喜びだった。

 そんな、ある日、秋生がすごくレアな『ビールの王冠』を持ってきた。
 南米にいっていた叔父さんが、お土産にビールを買ってきたのだ。「クスケーニャ」という、ペルー産のビールで日本ではとても珍しいものだった。
 そんなレアな『ビールの王冠』を手に入れた秋生は、一躍マンションの子どもたちの人気者になった。そのレアな王冠をみんなが見せて欲しがったのだ。……そんな風に、みんなの注目を浴びている秋生が羨ましくて、面白くない僕は、些細なことで秋生とケンカになった。何も悪くない秋生を、先に叩いたのは僕の方だった――。

 それなのに……翌日、秋生はペルーの王冠を持ってきて「これ、ツバサにあげるから、仲直りしよう」って、自分から頼んできたのだ。小さい時から争いごとが嫌いな秋生だったから……。
 心優しい秋生の態度を見て、自分の方が悪かったのに……僕は反省して謝った。だから『ビールの王冠』はいらないと断ったら、秋生が「じゃあ、これはふたりの宝物にしようよ」と言って、二度とケンカをしないように埋めてしまうことにした。
 マンションの児童公園のブランコに向かって、右から三番目の桜の木の根元に、ふたりで小さな穴を掘って、紅茶の空き缶に入れてから埋めたんだ。

 ペルー産の『ビールの王冠』は、当時の僕らの宝物だった――。

『 間違いない。
  僕の知っている村井秋生に
  おまえは間違いない!
                 ツバサ 』

『 やっと、ツバサに信じてもらえたか。
  僕は死んで、肉体は失ったけど
  違うカタチで生きかえることができたんだ。
                            秋生 』

『 どういうことだ?
  何があったんだ?
  秋生、僕に教えてくれ!
                 ツバサ 』

 ――この後、僕は死んだはずの親友から、とても信じられない話を聞かされることになったのだ。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-21 16:17 | ミステリー小説
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   第十三章 モンランの世界へ

 まるでスケートをするように、平面の上を滑りながらナッティーと僕は『モンスターランド』に向かって移動していった。
『モンスターランド』の入口で、アバターの服を着替えることにした。ゲーム用の装備に変えたのだ。
 おしゃれなナッティーは女盗賊の衣装にチェンジした。頭に赤いバンダナを巻き、ティンカーベルのような緑のパンツルックに肩から小型のバズーカ砲を提げていた。僕の衣装はナッティーが与えてくれたもので、銀色に輝く甲冑のようなものを身に付け、背中には大きな剣を背負っている。どうやら僕は戦士のようだ。
『モンスターランド』では、自分のキャラを盗賊・魔術師・僧侶・戦士と四種類のキャラから選べる。

 僕らは秋生に成りすましたキャラがいると思われる。『モンスターランド』のステージ(stage)の奥へ進んでいった。
 ナッティーの話に寄ると、昨日見た時の、そのキャラはレベル90以上だったそうだ。このゲームの上限レベルは100だから――相手はかなり強い。
 ちなみに、ナッティーがレベル70で、僕はたった23しかない……これっぽっちのレべルで戦えるのか? こんな弱い僕のために、ナッティーが『不死身の甲冑』と『無敵の剣(つるぎ)』という強いアイテム(武器)を付けてくれた。
 ――とにかく、どんな敵か分からないが、秋生のキャラを使っていることは見過ごせないし、絶対に許せない!

  ステージも最終面に近い所まできた――。
 パソコンの画面で見るゲームの世界と違って、二次元に入り込んで見た『モンスターランド』は3Dのため、音や振動、熱まで感じて、真に迫るど迫力だった。
 リアル世界で僕は剣道部員だが、ゲームの世界で、果たして、その技が使えるかどうかは分からない。秋生の偽者キャラとも戦わなければいけないが、ここには凶暴なモンスターたちがウジャウジャいるのだ。
 時々、モンスターの咆哮が轟いて僕はびっくりして首をすくめる。

「ナッティー、モンスターの声が聴こえるね」
「ここは『ソドムの魔境』っていうステージで、強いモンスターたちが棲んでいるのよ。前に秋生くんとクエストできたけど、モンスターがめっちゃ強くて……もう歯が立たなかったわ」
「大丈夫かなぁ……敵に会う前にモンスターに殺(や)られそうだ」
「今はツバサくんも幽霊の仲間だけど、外部に肉体があるから殺られたら、ちょっとマズイかも知れないなぁ……」
 ナッティーの言葉で余計に不安が募ってきた。
「――もし本物の幽霊になったら、ナッティーに弟子入りするさ……あははっ」
「幽霊道をバッチリ仕込んであげるからね。うふふっ」
 など、と力なく笑っていたら、いきなり真っ赤な炎の球が飛んできて、目の前で爆発した。
 間一髪、避けられたが肝を冷やした。

 で、出たっー! 巨大なモンスターがこっちに向かって全力で走ってくるではないか!? ナッティーと僕は戦闘態勢に身構えた――。

    ※ クエストとは、ロールプレイングゲームにおいて、
     ゲームマスターから提示されたミッションをこう呼ぶ事がある。

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   第十四章 二次元の戦い

 そのモンスターは、恐竜のステゴサウルスとティラノサウルスを合体させたような奴だった。剣竜と呼ばれるステゴサウルスは背中に剣のような骨質の板がある。しかも、そいつはティラノサウルスのように二足歩行で、もの凄いスピードで迫ってくるのだ。
 大きな頭には耳まで裂けた口があり、鋭く尖った牙が異様の大きく、あれで噛み付かれたら一溜まりもない。
 そいつを見た瞬間、恐怖で僕の身体は硬直してしまった――。

「ツバサくん! なにボーとしているの!」
 ナッティーの叫び声で、ハッと我に返った。いきなり戦局は大いに不利だった。目前にモンスターが迫ってきている。
「戦うのよー!」
「おうっ!」
「うりゃああああぁ―――!!」
 奇声を発しながら、ナッティーはモンスターに向けてバズーカ砲を乱射している。それに対して炎の球を口から飛ばしてモンスターが応戦してくる。バズーカ砲と炎の球がさく裂して、あたり一面は炎と白煙、そして爆風が吹き荒れた。
 ヤバイ! 僕も背負った『無敵の剣』を抜くと、モンスターの頭部に一撃を与えたが敵はビクともしなかった。今度は目を狙って斬り込んだが、口から吐く炎の球に阻まれて近づくこともできない。ナッティーは手榴弾のようなものをモンスターに投げつけて応戦していたが、まったく歯が立たない。
 ――な、なんて、強いモンスターなんだ!

 モンスターの巨大な尻尾にはらわれて、僕らは跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。hpがどんどん下がっていく……このままでは回復できないまま死んでしまう。ナッティーも僕も満身創痍でほうぼうの体だった。地べたにうっぷし、這いずり回って逃げる。
……そんな僕らに笑い声が聴こえてきた。

「あははっ、なんだ、だらしがないなあー、おまえらの戦力はその程度か?」
 見上げると真っ黒な魔術師の衣装を付けたアバターが立っていた。そいつはまさしく秋生が使っていたキャラだった。
「おいっ、虫けら立ち上がって俺と戦え!」
 そういった瞬間、僕の身体はふわりと起き上がった。
「お、おまえは誰だ!? なぜ秋生のキャラを使っているんだ?」
「ふん! 屑どもめ、俺が叩き潰してやる!」
 そいつのレベルを見て驚いた、280もある。このゲームのレベル上限は100のはずなのにどういうことだ? ゲームの仕様を変えるほど強烈なパワーをこいつは持っているというのか!?

「今から仲間のいる所へ送ってやるぜ! おまえの行き場所はHell(地獄)だ!」
 そいつは魔法の杖を天にかざして呪文を唱え出した。
 僕の身体は金縛りにあったように動けない、魔術師の身体から真っ黒なオーラがうねる蛇のように発散されている。たぶん、そのオーラに包まれたら、間違いなく僕は死んでしまう――。
「ああ、もうダメだ……」
 観念して目を瞑った瞬間、もの凄い力が僕を弾き飛ばした。
「ツバサくん、逃げてぇ―――!!」
 必死の形相でナッティーが僕を二次元の壁に放り投げていた。ナッティーのさく裂ボンバーに魔術師も一瞬ひるんだようだ。
「自分のパソコンへ帰るのよ! 早くー!!」
 僕のhpは低過ぎて、これ以上は戦えない――。

 あたふたと二次元の壁を這い上がって、スルリとパソコンの画面を抜けると、僕はリアルの世界へ戻ってきた。
『モンスターランド』では、たった一人でナッティーがモンスターと戦っている。
「スマナイ……ナッティー……」
 自分の無力さに僕は涙が込み上げてきた。

 その時だ、ゲーム画面のナッティーがモンスターに掴まれた! 
 そして頭から噛み付かれて、鋭い牙にナッティーは挟まれていた。モンスターに咥えられた無残なナッティーを映したまま、急にパソコンの画面がフリーズして動かなくなってしまった。
 もう一度『モンスターランド』に戻ってナッティーを助けたいが――それもできない。
「ナッティー! ナッティ――――!!」
 僕はパソコンの画面に向かって、叫ぶことしかできなかった。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-20 16:58 | ミステリー小説
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   第十一章 二次元に導かれて

 あれから、動きがないままに数日が過ぎていった。
 3ちゃんネルの掲示板を見にいったら、いつの間にか消えてしまっていた。秋生が死んだので、これ以上は叩いても意味がないので消したのだろうか。しかし不思議だ、あのサイトでは〔不適切〕な書き込みの削除だってほとんどやってくれないし、仮に掲示板を移動させたとしても掲示板自体が無くなることもないのに……お気に入りに入れていたURLから探しても、どこにも見つからなくなった。――掲示板ごと、きれいに消えてしまっている。

 ナッティーは『のべるリスト』を見張っているようだ。毎日、偽者の『村井秋生』は小説を更新しているが、パソコンの瘴気が怖くて近づけないでいる。
 おかしなことに秋生のホームページのパスワードを何度変更しても……作品は転載され続けているのだ。
 この見えない敵に、僕らは討つ術もなく、やりたい放題にされていた――。

 そんな、ある日、パソコンの画面の向こうでナッティーが興奮した声で話しかけてきた。
「ツバサくん、大変よ!」
「どうしたんだい? ナッティー」
 パソコンが起動すると同時にナッティーの声が飛び込んできたので僕は驚いた。僕らはパソコンを介さないとコミュニケーションが取れないからだ。
「偽者の秋生くんがゲームの世界にも現れたのよ」
「えっ! また偽者が現れたの? それもゲームって……」
「前から、秋生くんとナッティーでやっているゲームなんだけど……そこに秋生くんのキャラを使ってプレイしている人がいるんだよ」
「ナッティーのいるSNS、そこで秋生のアカウントが勝手に使われているのか?」
「そうよ。絶対に許せないわ! 秋生くんが育てたキャラを勝手に使っているなんて、最低よっ!」
 なんて奴だ! 小説の盗用だけでは飽き足らず、秋生のゲームのキャラまで勝手に使っているなんて……とんでもない厚顔無恥な奴だ。――僕は怒りを通り過ぎて呆れ返ってしまった。
「ねぇ、ツバサくんもきて!」
「うん。今からゲームサイトに入って見てみるよ」
「違うの。一緒にゲームの世界にきて欲しい」
「……えっ?」
「ナッティーのいる二次元の世界へ、ツバサくんもおいでよ」
「――まさか!? そんなことができるのか……?」
「一度だけ、秋生くんともやったことがあるのよ。ナッティーに任せておいて」
 秋生はナッティーのいる二次元の世界を覗いたことがあるのか。その事実に驚いた――。
「秋生くんにはパソコンをやっている最中に寝落ちして、夢をみていたのだと説明したら、それで納得してくれたけどね」
 うふふっと、ナッティーがイタズラっ子のように笑った。
「そうか、じゃあナッティーがネット幽霊だってことを秋生は知らなかったんだ」
「もちろん内緒にしていたわよ」
「バレたら殺されるぞぉー」
「もう死んでいるからヘーキですぅ~」
 あははっと、久しぶりにふたりで笑った。

「ツバサくん! いくわよ」
「よっしゃー!」
「ナッティーの掌(てのひら)に、ツバサくんの掌を合わせて」
 そう言うと僕のパソコンの画面いっぱいに、ナッティーの物と思われる二次元の掌がニョキと二つ現れた。
「これに両方の掌を合わせるんだな?」
「そうよ! 心を『無』にして導かれるままにこちら側へきて」
「うん」
 パソコン画面のナッティーの掌に僕の掌を合わせると、心を『無』にして静かに目を瞑った。
 パソコンの中から微かな波動のようなものを感じる。段々と合わせた掌が熱くなってきた、向こう側から僕の掌を引っ張るような感覚に襲われた。「ああっ!?」と叫んだ瞬間、ぼくの身体は強烈な吸引力でスルリと画面の中を通り抜けていった!

「ツバサくん、大丈夫?」
 ナッティーの声が耳元で聴こえる。しばし僕は意識を失っていたようだ。
「ああ、ナッティーここは……」 目を開けると、広い空間にいろんな絵が描かれていた、チカチカ点滅する文字やら、ピコピコというゲームの機械音や楽しげな音楽も聴こえてくる。ここが二次元の世界なのか?
 
高さの無い世界、平面の世界を二次元空間と呼ぶから、アニメのような絵に描いたものや、多分3DやSNSの世界も二次元なのかも知れない。ここはナッティーがいるSNS、アバターのナッティーは二次元だ。
 ――そして僕もアバターになっていた。

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   第十二章 不思議な二次元空間

「二次元へようこそ!」
「おおっ、アバターになってる!」
 ゲーム&アバターのSNSで、いつも使っているアバターに僕は変えられていた。
「アバターのツバサくんも素敵だよ。あははっ」
 ナッティーは相変わらず、レアアバターで決めている。今までどんだけアバターに課金したんだよ。
 ふと、空間を見渡すとあっちこっちに四角い窓のようなものがある。いったいなんだろう?
「ナッティー、あの窓みたいな四角い物はなぁに?」
「あー、あれ? 覗いてみる」
「うん」
 そう言われて……恐る恐る覗いてみたら、誰かの顔が見えた。マウスを動かして、あっちこっちと小刻みに目を動かしているのはゲームの最中なのか? どうやら四角い窓はリアルの世界、三次元を覗くパソコンの画面だったみたい。――ここからナッティーはいつも僕らを覗いていたのだ。
「ナッティー、僕のパソコンの窓はどれさ?」
「ツバサくんの、うーんと、あっ、あれよ」
 ナッティーが指差した窓は高い位置にあったが、僕は滑るように二次元の壁を移動して、自分のパソコンを覗いてみた。
 そこには、パソコン用デスクにうっぷしてグッタリしている僕がいた。微動だにしない、まるで死んでいるようだった――。
「……僕はどうなったの?」
「大丈夫よ。今は幽体離脱した状態なの。魂が抜けているからグッタリしているけど、元に戻ったら平気だよ」
「幽体離脱ってことは……僕もお化けなんだ?」
「そうよ。ツバサくんもナッティーの仲間だよ~ん」
 ナッティーがはしゃいだ声で言う。
「うわーっ! 死んでもイヤだぁー」
「あなたも今は幽霊ですから……」
「南無阿弥陀仏」
「お経を唱えても、成仏させてあげないよ」
 笑えないジョークに笑いながら……僕らは今から、この二次元で正体不明の敵と戦わなければいけないのだ。

「ナッティー、それで秋生に成りすました奴はどこにいるんだい?」
「モンスターランドってゲーム知ってる?」
「ああ、秋生と以前に遊んだことがある。秋生はずっと続けていたけど、僕は長いこと放置してて、レベルあんまり高くないよ。hpだって低いし……」
 このゲームはむしろ苦手だった。
「めちゃくちゃ弱いけど、足手まといにならないかなぁ~」「ナッティーは結構ヤレルから大丈夫だよ」
「うん、頼んだよ。ナッティーの後ろからこっそり付いていくさ、すぐにモンスターに殺られたくないから……」
「ゲームで死んでもリセットできるわよ」
「そうだな! よっしっ頑張るぞぉー」
「さあ、モンランの世界へ行くわよ」

   ※hpとは、ヒットポイント (hit point) または、
     ヘルスポイント (health point) と呼ばれる。
     ゲームにおけるキャラクターの生命力。

 ナッティーと僕は、秋生のキャラに成りすました奴がいる『モンスターランド』を目指して、二次元を移動していった。
 凶暴なモンスターたちと戦いながら、島の財宝を集めて回るこのゲームはユーザーに大人気であるが、モンスターたちが強過ぎるため、ギルドというモンスター狩りのチームを結成してないと、一人では攻略が難しいゲームなのだ。
そして、ついに僕らは『モンスターランド』へ。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-19 16:03 | ミステリー小説
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表紙はフリー画像素材 Free Images 3.0 OhLizz 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


   第九章 見えない敵

 学校から帰ったら、自分の部屋にあるノートパソコンを開いた。
 受験に必要だからと去年、親から自分専用のノートパソコンを買ってもらった。リビングにあるデスクトップは家族と共有なので、妹や弟が検索やゲームなどいろんな用途で使うので、自分に必要な『お気に入り』なども登録できないし、家族がいる部屋では長時間パソコンをいじっているわけにもいかない。すぐに妹や弟が「お兄ちゃん、何やってるの?」と後ろから覗き込むからだ。

 自分専用のノートパソコンを買ってもらってからは、パスワードをかけて他人に覗かれないように設定してある。
 まず部屋に鍵をかけてから、僕はパソコンの電源を入れて、立ち上がったらパスワードを入力し、メールなどをチェックする。その後『のべるリスト』を開き『村井秋生』という偽の秋生が作品を更新してないか調べにいった。
 つい、一時間ほど前に連載の続きを更新していた。
 やったー! これでIPアドレスを見れたはずだ。IPアドレスさえ分かれば、それを辿ってナッティーがそいつのパソコンの中に入って、どんな奴か相手の顔を確認できる。 ――もう少しで秋生を嵌めた犯人を見つけられるんだ。

 いつもナッティーがいるゲーム&アバターのSNSのウインドウを開いて、彼女に呼びかけた。

「ナッティー、ナッティー」

 いつもなら、すぐに現れるはずのナッティーが……。五分経っても、十分経っても姿を現わさない。――いったい、どうしたんだろう?
 小一時間経った頃に、

「ツ……バサ……くん……」
 か細い声がパソコンの中から聴こえた。同時に、薄くぼやけたナッティーのアバターも表示された。
「ナッティーどうしたんだい?」
「……しばらく意識を失っていた」
「大丈夫かい?」
「うん、なんとか……」
 ナッティーのアバターは、少しずつ鮮明さ取り戻した。
「IPアドレスは確認できたの?」
「――それがダメだった。あの小説投稿サイトをずっと見張っていたの。そしたら偽者が秋生くんのファームで投稿したから、ナッティーは慌てて、そいつのIPアドレスを見てやろうとパソコンの中を覗き込んだら、その瞬間に……意識を失ったぁー」
「ええっ!?」
「そいつのパソコンには強い瘴気(しょうき)が漂っていて、とても覗けないよぉー!」
 ナッティーが泣きそうな声で叫んだ。
「幽霊を一撃する瘴気っていったい……? ただのパソコンじゃなさそうだ」
「そうなのよ。――あのパソコンにはIPアドレスも付いていなかった気がする」
「ええっ? そんなバカなことが……!?」
 IPアドレスが付いてないパソコンなんて常識的に考えて在りえない。
「いきなりドス黒い瘴気に当てられて、コトンと意識を失った時はもう死んだかと思ったわ」
「――ナッティーはもう死んでいるから、それ以上は死ねない」
「そりゃあ、そうだけど……」
 いつものジョークだが、とても笑える気分ではなかった。
 パソコンに瘴気が漂っているって……いったい敵は何者なんだ? 信じられないようなナッティーの言葉に、僕は自身『見えない敵』に対する恐怖が現実味を帯びてきた――。

   ※ 瘴気(しょうき)とは、古代から、ある種の悪い病気を
    引き起こすと考えられた「悪い空気」。
    もしくは、熱病を起こさせるという山川の毒気。
    気体または霧のようなエアロゾル状物質と考えられた。

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第十章 秋生の残像

 マンションのエントランスを抜けて扉が開くといつも飛び込んでくる残像がある。
秋生が死んだ、あの日の光景――道に流れ出した真っ赤な血と白いシートに包まった物体。
 思い出したくないので僕は目を瞑るが、海馬に刻まれた記憶が何度も何度も、あの日の残像を僕に見せる。
 秋生の死体が発見されたあたりに時々花束が置かれている。たぶん、秋生のお母さんは供えたのだろう。僕もその側に秋生の好きだった炭酸飲料の缶を置いた。だが、いつの間にか取り払われている。マンションの管理人が片付けたのだろうか。
 きっと、マンションの管理者としては、ここが人の死んだ場所だという記憶を、みんなに早く忘れ去って貰いたいのだろうけど……。僕やおばさんにとって『秋生の記憶』は、秋生が死んだからと言って、簡単に消すことなんかできやしない。

 秋生のホームページの小説を読むことで、僕は『秋生の記憶』を新たにしている。ああ、秋生はこんなことを考えていたんだ。そうか、秋生はこんなことに興味があったんだなあ――。
 そんな風に、僕の中で『秋生の記憶』は今もなお更新されているのだ。

 それでも、あの場所だけは見たくない! ナッティーは自縛霊になって秋生は死んだ場所に居るかもしれないと言ったが……僕にはそうは感じられなかった。
 道路側に面した通路の奥には自転車置き場がある。通学に自転車を使っている僕は毎日、あの場所を通らなくてはいけないのだ。ツライので目を背けるが、意識とは別に、僕の目はそこに貼りつく。そして、いつも秋生を守ってやれなかった自分の不甲斐なさを嘆いているのだ。

 ――あの場所に珍しい人が立っていた。
 秋生が入っていた『文芸部』の部長で創作仲間だった深野(ふかの)さん――。秋生の遺体が発見された場所をジーッと見つめている。
 手に何も持っていないので献花にきたわけではなさそうだ。何をやっているんだろう? 自転車置き場から出てきた僕は、彼の側を通り過ぎると間際に「――ちはっ」と軽く会釈をした。
「あっ! 君は……」
 深野さんは驚いたように振り向いた。
「ども、秋生と幼馴染だった福山翼です」
「ああ、確か君のクラスは3-Eだったね」
「秋生は3-Bだからクラスは違うけど、ずっと僕らは親友でした」
 薄い眼鏡のフレーム越しに、悲しい目で深野さんは僕を見ていた。
「そうか……じゃあ、君も辛いね」
「……はい」
 今さらながら、その言葉に僕はうなだれる。
「僕と村井は創作仲間で文芸部やネットの小説投稿サイトでも作品を発表して、お互いに触発されながら成長してきたのだ。――なのに、彼に死なれて……悲しくて、虚しくて、僕は創作ができなくなってしまった」
 深野さんは独りごとのように、僕の方を見ずに一気にしゃべった。
「……その気持ち分かります」
「僕たちは小説家になるのが夢だったのに……」
 あの日、火葬場で僕と同じように、秋生のために肩を震わせて嗚咽を漏らしていた、深野さんだから……。僕らは同じ傷を舐め合うようだった。
「なにか、秋生の自殺の原因とか知りませんか?」
 僕の知らない秋生を知っている深野さんだから、思い切って聞いてみた。
「自殺の原因? あれは堪えたかも知れないなあ……」
「なんですか?」
「僕らは『のべるリスト』という小説投稿サイトに作品を書いていたんだけど、村井の小説は人気があって、すぐに人気作家ランキングの1位になったんだよ。――それでね、村井の人気がオモシロクない連中がいて、同じサイトの作家たちから嫌がらせを受けていたようなのだ」
「本当ですか?」
「ああ、嫌な書き込みされたり、悪口をミニメールで送ってきたり、自分らのコミュニティの仲間同士で村井の小説のことをこけ落としたりと、かなり陰湿なイジメにあったようだ」
「そうですか……」
 やはり秋生は小説投稿サイトでも虐めに合っていたんだ。

 もしかしたら、3ちゃんネルの秋生に対する誹謗中傷の掲示板も『のべるリスト』の奴らの仕業かもしれない。
『のべるリスト』のプロフィールに秋生は自分の写真を載せていた。自己紹介文には都立高校の三年生で文芸部所属、血液型AB、10月17日生まれなど公開していた。そのせいで秋生の個人情報がネットに流れてしまった――。
 だから、あんな掲示板を挙げられて、いかにも秋生自身を知っている者の仕業のように見せかけたのかもしれない。さすが物書き、そういう悪知恵だけは働くのだ。
 なんて卑劣な奴らだ! 同じ趣味の者同士なのに……大勢でひとりを潰そうとするなんて、こんな虐めをするような連中は器の小さい奴らじゃないか。
 他人の才能を嫉妬する前に、もっと自分たちも創作に精進しろよ! と、僕はそいつらに怒鳴りつけたくなった。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-18 22:26 | ミステリー小説
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   第七章 秋生のホームページ

 大学受験志望校をワンランク落とした。
 ランクを落とすことで、僕は時間に少し余裕ができた。先生や塾の講師も「弱気にならないでまだ間に合うから頑張れ!」とハッパをかけられたが、今は勉強に専念できる気分ではなかった。秋生のことを分かっている両親だけは、無理しなくてもいいよと理解を示してくれた。
 秋生のお母さんの嘆きを見ていた、うちの母は「子どもが元気なだけでもう幸せ」とつくづく悟ったらしい。

 どうしても開くことができなかった『秋生のホームページ』をやっと開く決心がついた。持っていたサイトは知っているので、IDとパスワードを打ち込んだら見ることができた。秋生は亡くなる一週間くらい前から設定を〔非公開〕にしていたようだ。
 そこは小説の作品倉庫ともいうべきホームページだった。長編小説三篇、中編小説七篇、短編と掌編を合わせて三十篇くらいはあるだろうか。詩も二十篇くらいは書いていた。
 ――それらの作品こそが、今は亡き秋生が生きた証(あかし)だった。

 今、ネット界では「知的財産」の継承権について討論されているらしい。ホームページやブログなどで書かれていた日記や記事、創作作品などの持ち主が亡くなった後で、第三者が譲り受けて継承していけるかどうかについて、大きな問題になっている。
 素晴らしいホームページがあるのに、持ち主の死亡によって閉じられたり、埋没してしまうのはあまりに勿体ないのである。
 後世に受け継ぐ知的財産として共有できれよいと思うのだが、法律的に難しい問題のようだ。

 秋生は最後のメールで「このHPを守ってくれ!」と言っていた。――それは、死の瀬戸際に立っていた秋生の唯一の願いだった。
 いったい、誰から守って欲しいのだろうか? このホームページを誰かが狙っているということか? ここにあるのは秋生の作品だけなのに……。
 そして僕はこのホームページを守るためにも、秋生の小説を全て読んでいこうと決めた。今まで秋生とは親友だったが、彼の書いている小説にはあまり興味はなかった。――もう二度と秋生の声が聴けないのだから、彼の書いた文章を声の代わりに僕は聴くことにした。
 読書なんか、ほとんどしたこともない僕だったが、毎日少しづつ読んでいる内に面白くなって止められなくなってきた。

 秋生の小説は、僕の想像を超えるものだった。
 美しい言葉たちが透明のガラスケースから語りかけてくるような、心の機微に富んだ素晴らしい物語なのだ。僕は知らなかった――秋生にこんな凄い小説の才能があったなんて!
 ナッティーも言っていたな「小説の才能も凄くあったのに惜しいよ」確かに秋生の文章の上手さは最初の一頁を読めば、素人にだって分かる。発想も奇抜で最後まで面白く読み進めるのだ。
 生きてさえいれば、いずれベストセラー作家になれたかもしれない。そう思うとこの小説の才能は惜しい。
 秋生は、まさに天才だったんだ――。


        【 ジ・エンド 】

  僕の言葉で世界を塗り変えよう
  真っ白なスケッチブックに
  いろんな色を塗り籠めた  赤 青 緑 黄 紺 橙 桃 

  僕のスケッチブックは賑やかになった
  色が踊っている 僕の心も騒ぎだす
  溢れだした色が暴れだした
  黒 灰 黒 灰 黒 灰 黒

  僕の頭の中で色が混じり合い
  グチャグチャなった なんて汚い色だ
  消さなきゃ! 白い色で存在を隠せ!
  白 白 白 白 白 白 死


 この詩は秋生が自殺する三日前に書かれたものだった。
 何者かに追い詰められて、混乱して、絶望していく様(さま)が分かるようで読んでいて胸が痛い。
 僕のしらないネットの世界で、いったい誰が秋生を苦しめていたんだ!?

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     第八章 謎の侵入者

 秋生が亡くなって、二ヶ月が過ぎようとしていた。
 もう世間では秋生のことは忘れ去られようとして、知り合いの間でも話題に上ることも少なくなってきた。僕は毎日、秋生のホームページの作品を読んだり、3ちゃんネルの掲示板を見張ったり、なにか動きがないかと目を光らせていた。
 ナッティーとは時々、秋生が好きだったゲームをして遊んだり、アバターのファッションショーに付き合ったりしていた。あれから秋生のマイページに悪口のミニメールがきてないかと訊ねたら、秋生が亡くなってからはエロサイトの高額請求も悪口のミニメールもきていないとナッティーは答えた。
 ――ということは、犯人は秋生が死んだことを知っている? 
 もう必要がないので、それらを止めているのだろうか。もしかしたら、リアルで知っている人たちの中に犯人がいるのかもしれない。そんな疑念が胸に湧く……。

「ところで最近なにか動きがあった?」
「――うん、それがおかしなことがあるのよ」
「なあに?」
「あのね、小説投稿サイトで『村井秋生』を名乗る人物が作品を発表しているのよ」
「ええっ? 死んだ秋生を名乗っている奴がいるのか?」
「そうよ。ネットの世界だから、誰も秋生くんが死んだこと知らないでしょう? だから秋生くんのファンたちの間で、その小説が話題になってて、凄い人気なのよ」
「いったい誰なんだ! 秋生を装って、人気まで横取りしている卑劣な奴は……?」
 怒りで思わずパソコンのデスクを叩いた。
「その小説投稿サイトを見張っていて、そいつが投稿した瞬間を捕まえて、パソコンのIPアドレスを調べてみるわ」
「おうっ、IPアドレスなら個人が特定できる!」
「そうよ、それで犯人の尻尾を掴んでやるわ」
「ナッティー頼んだよ」
「よっしゃっ! 任せておいて、伊達にネットの世界で生きてないわよ」
「だから、もう死んでるって……」
「また言ったなあー、このイジワル!」
 あははっ。これはナッティーと僕のいつものジョークなんだ。


   ※IPアドレスとは、インターネット網の中のコンピュータを
    機械同士で認識できように1台1台に割り当てられた住所のようなもので、
    所有者名が判ります。
    サーバー名の検索など、IPドメイン関係の検索の決定版です。
    2chでも、これがあるのでやたらな書き込みはできません。
    個人名が特定されて「誹謗中傷」「名誉棄損」などで告訴されています。


 さっそく、僕はナッティーに教えられた小説投稿サイトにいってみた。
 『のべるリスト』は、オンライン小説を主としたテキスト作品の公開、閲覧が楽しめる小説投稿型SNSのコミュニケーションサービスだった。
 投稿された小説にブックマークしたり、お気に入り作家を登録したり、コメントを残したり、また、そのサイトでは小説や作家の人気ランキングまである。

 確かに『村井秋生』というペンネームで小説が掲載されていた。しかも、作品名も作家も堂々の第一位だった。すごい閲覧数で人気はうなぎ昇りだった。――驚いたことに、その作品は秋生のホームページにあった長編小説の一本で、いったい誰が、いつの間に、持ち出したのだろうか? 僕は用心のために秋生から教えられたパスワードを一度変更しているのだ。……なのに、ホームページの中が誰かに覗かれていた?
 こうも易々とパス抜きができるなんて……見えない敵の不気味な影がシタシタと迫ってくるようだった。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-10 16:08 | ミステリー小説
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   第五章 3ちゃんネルの掲示板

 僕はそのサイトを開いて、見た瞬間、我が目を疑った。
 そこに書かれていたことは、とても信じられないことばかりだった!


 3ちゃんネル ■ 掲示板 ■

 【 村井秋生 】∀゜)彡<こいつの、悪事をみんなで語ろう!!

 1 :名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 08:33:05.42
 都立OO高校3年の【 村井秋生 】に、あたし体育準備室でむりやりキスされた!!
 あいつ、カッターナイフで脅して胸とか触ったんだ。その後も、理科室や美術準備室で何度も触られた。
 もうイヤーだよ! こいつキモイから何とかしてよ! ( ゚Д゚)<氏ね!

 みんなで【 村井秋生 】を血祭りにあげちゃってよ!!

 2 :名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 09:12:02.28
 【 村井秋生 】こいつ知ってるよ。
 文芸部の奴でしょう。大人しい顔してこんな変態野郎だったなんて・・・
 最低!(ノ ̄皿 ̄)ノウワアァァァアア―!┫:・‘.::

 3:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 10:10:01.12
 あたしのクラブの後輩の子も【 村井秋生 】に付き合ってくれって
 しつこく、ストーカーされたんだよ。
 エロいメールとかいっぱい送ってきてマジ迷惑してたわw

 4:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 10:12:45.08
 へぇーそんなに女に餓えてたんだぁーw
 ものすげえキモい。

 5:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 10:13:11.28
 警察に通報しましたw

 6:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 10:23:39.05
 アタチ【 村井秋生 】に部室においてた下着盗まれたもん(泣)
 女子トイレ盗撮してるって噂もあるよん(笑)

 7:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 10:32:07.08
 そいつのあそこをチン切ってやれいw

 8:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 11:03:36.45
 【 村井秋生 】変態野郎ww
 みんな大爆笑だな、こいつの正体がばれてwww
 ぶははははははははははは。

 9:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 11:09:47.39
 【 村井秋生 】ってさぁー
 小説かいてるとかきいたけど
 あんなのぜんぶ盗作なんだぜぇー

 ようするに【 村井秋生 】って奴は
 ロクな人間がじゃねぇよ、屑野郎なんだ!
 こんな奴はいてもいなくても同じだよな。
 生きてても死んでても同じってこと。( ゚Д゚)<氏ね!
 m9(^Д^)9mプギャー!!

 10:名無しの女子高生?:2011/09/18(土) 11:43:05.41
 これが本当だったら、学校と警察に通報して【 村井秋生 】を捕まえてもらわないと、
 女子は安心して学校にも行けません。
 明日、生活指導の先生にこの掲示板のことで相談します。
 みんなで、女性の敵【 村井秋生 】に天罰を与えましょう!


 僕は怒りで身体がワナワナと震えていた。
 秋生を誹謗中傷する掲示板が長々と二百スレくらいまで書かれてあった。どれも事実無根で僕の知っている秋生はこんな卑劣漢では断じてない。
 許せない! いったい誰がこんなデマ掲示板を作って秋生を嵌めたんだ!?
 強烈な怒りで腹わたが煮えくりかえるようだった――。

「――読んだ?」
 頭に血がのぼった僕は、ナッティーとのチャットを忘れていた。
「こんなのデマだ! 秋生はやってない!!」
「分かってるよ。秋生くんはそんな子じゃないもの」
「……ネットでしか知らないはずなのに、どうして君が断言できるんだ?」
 自信たっぷりにそういったナッティーの言葉に僕は疑念をもった。
「秋生くんはネットでしか知らないけど、わたしには見えるんだ」
「なにが?」
「秋生くんのオーラが見えるの」
「オーラ?」
「そう、秋生くんの身体からはきれいな水色の優しいオーラが出ていたもの」
「そんなのどうやって見るんだ?」
「パソコンの中から、あなたたちを見ているのよ」
「はあ? それってどういうこと?」
「だって、ナッティーはネットの世界に棲んでいるんだもん」
「君って……いったい何者なんだ?」
 ナッティーの不思議な言葉に興味が湧いてきた。

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   第六章 ネット幽霊ナッティー

「ナッティーは幽霊なのよ」
 いきなり、チャットではなく肉声がパソコンから聴こえてきた。
「ええっー?」
 驚いて、僕は部屋の中をキョロキョロ見回した。
「もう現世には肉体がないの、魂だけ、このネットの中に閉じ込められた」
 その後、ナッティーは自分が死んだ経緯とアバターやネット依存症のせいで成仏できなかったと語った。
「君は自縛霊みたいなもの? パソコンの中から僕らを見たり、話しかけたりしているんだね」
「そうよ。ネットの中からパソコンの前にいるツバサくんが見えるよ」
「じゃあ、僕のオーラはなに色さ?」
「今は、オレンジ色かな? 正義感が強くて、元気な人。秋生くんのことで凄く怒ってるから赤みが強くなっているわ」
「たしかに頭に血がのぼってるけど……」
「嘘が嫌いな正直者ね。秋生くんとの深い友情を感じる」
「そうかな。だけど……こんなデマを流した奴らを絶対に許せない!」

 ――誰にでも優しい秋生は争いごとが苦手だった。
 人を傷つけたことがないから、自分自身、傷つくことに免疫性がなかった。3ちゃんネルの掲示版の「誹謗中傷」「悪口雑言」「からかい」は確実に秋生の精神を傷つけ、崩壊させた。これらのストレスに耐えられず、秋生は欝状態になって自殺したのだと思われる。
 なんてことだ! あいつは繊細な神経の持ち主だった。唯一の親友をこんなデマから守ってやれなかった。

「こいつら……許せない!」
 3ちゃんネルの掲示板を見ながら、こんなデマを流した奴らを絶対に探し出してやろうと僕は決心した。
「ひと月ほど前から3ちゃんネルに、こんな掲示板が挙がって秋生くんは晒されていたのよ。それだけじゃない、パソコンのメールには大量のエロ系サイトのメールが送られてくるし、見てもいないエロ動画の高額請求書まで送られてきて、秋生くんのマイページのメールボックスにも悪口を書いたミニメールが毎日送られてきていたのよ」
「ひどい……」
 これはネットパッシング、ネットストーカーのレベルだ。
 執拗なまでの誹謗中傷は、秋生に対する恨みがあるとしか思えない。おそらく首謀者がいるに違いない。
「一番応えたのは、この掲示板を読んでいたクラスの女の子たちにキモイとか変態とか言われて、すっごく傷ついてた。その頃から学校にも行かなくなってパソコンも開かなくなってしまったから、秋生くんとの連絡がつかなくて凄く心配してたの」
 こんな陰湿なイジメにあっていたなんて知らなかった。親友の僕にも打ち明けられず、秋生は一人で苦しんでいたんだ。

「いったい誰なんだ!? 誰が秋生をここまで追い詰めたんだ」
「ナッティーも犯人を探しているけど……これをやっている奴はただの人間ではないみたいなの。3ちゃんネルの掲示板は、秋生くんが何度も運営側に「削除依頼」したけど、削除してくれなかったの。そのせいでどんどん落ち込んでいく秋生くんが可哀相で見てられないから、代わりにナッティーが削除しようとしたんだけど……不思議なことに消せなかった。――あの掲示板には、なにか結界のようなものが貼られて、ドス黒い瘴気(しょうき)が漂っているわ」
「ドス黒い瘴気って……?」
「ものすご悪意と憎悪を感じるの。あの掲示板を挙げた人間には悪霊がとり憑れているかもしれない」
 ナッティーの言葉に僕は動揺したが……たとえ相手が誰だろうと秋生の無念を晴らしたい。その憑かれている人物を探し出して、二度とこんなことをしないように懲らしめなくてはいけない。――僕はその意思を強く固めていた。

「ツバサくんは犯人を探す気ね?」
「ああ、僕は何があってもこんなことをした犯人を見つけ出して、二度とこんな卑劣なことをしないように懲らしめてやりたいんだ」
「お願い! ナッティーにも手伝わせて!」
「えっ、いいのかい?」
「ナッティーは幽霊だからネットの中なら、どこでも見れるのよ」
「それは心強いなぁー」
「――秋生くんを成仏させてあげたいの。きっと彼は亡くなった場所で悲しんでいると思うわ。犯人を見つけて安心させてあげようよ」
「ありがとう!」
「秋生くんはとっても良い子だったから……。よく一緒にロールプレイングゲームしてたけど、あたしが敵に殺られそうになると、いつも身代わりになってくれたの。小説の才能も凄くあったのに……死んじゃうなんて……惜しいよ」
「秋生は追い詰められて、自分の未来を閉じてしまった」
「あたし、秋生くんを自殺させた犯人を絶対に許さない!」
「ナッティー……」
「秋生くんと二度と逢えないなんて、悲しいよ……」
 僕のパソコンの画面に雫が流れた。触ってみると生温かい……これは、きっとナッティーの涙なんだね。
「一緒に秋生の無念を晴らそう」
「やっと、生甲斐が見つかったわ!」
「死んでから生甲斐って……? あはははっ」
「もう! うっさいよぉー」

 そして、ナッティーと僕は「秋生を自殺に追い込んだ犯人」を探すことになった――。



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創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-03-09 15:05 | ミステリー小説