― Metamorphose ―

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カテゴリ:ミステリー小説( 60 )

饒舌なる死者 ①

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 あなたは死者の言葉を信じますか?
 死者は決して嘘をつかないと思いますか?
 ことわざに「死人に口無し」というのがありますが、死んだら永遠に沈黙を守れると言い切れますか? 
 死して、なお、饒舌なる死者もいるのです。
 そう、こんな風に……。

*


 久しぶりに郷里に帰ってきた俺は、十年振りの高校の同窓会で、古賀真司(こが しんじ)が死んだことを知った。
 そのことを報じた新聞を幹事の女が同窓会に持ってきて皆に見せていたのだ。その記事は地方欄に小さく載っていた。卒業して十数年も経つ同級生の死なんか興味なかったが、死因が自殺だと書いてあったので、なぜ今頃になって……と、俺は訝しく思っていた。
「死人に口無し」という言葉があるが、あれは嘘だった。――死人ほど饒舌な者はいない。まさか、その後、あんな大きな事件になろうとは俺自身が想像していなかった。

 俺と古賀真司は中学高校と同じだった。
 活発でクラスのリーダー的存在だった俺と、無口で目立たない古賀とは正反対の存在なのだが、ただ、成績だけは古賀がいつも俺のライバルであった。
 中二の時、古賀と同じクラスだったが数学の学力テストで俺は98点で学年トップになった。クラスのみんなの前で俺は教師に褒められた。ちなみに古賀が次席で95点だと聞いた。たった、3点差で負けて悔しかっただろうと俺は内心ほくそ笑んだ。
 その日、学校の帰り道でクラスの不良グループに絡まれた。
 教師があんまり俺の成績を褒めたものだから、そのことでムカッ腹を立てていた不良グループに俺は殴られ、学生鞄の中身をばらまかれ、98点の数学のテスト用紙をビリビリに破って足で踏みつけられた。不良たちに執拗に殴ったり、蹴ったりされて……地面に這い蹲って、俺は「もう止めてくれ」と泣きながら許しを乞うていた。
 偶然、そこへ通り掛かった古賀が大声で助けを求めてくれたので、不良たちは逃げ去った。――俺は地面に蹲ったまま泣いていた。
 古賀は鞄の中にばらまかれた荷物を一つ一つ拾って入れてくれた。破られたテスト用紙まで拾い集めてくれていた。ようやく立ち上がったボロボロの俺を……その時、古賀は憐れむような目で見つめていた。
 そしてポケットからシワクチャのハンカチを出して渡そうとしたから、それを掴んで地べたに投げ捨てて、俺は靴で踏みつけてやった。
 古賀になんか、同情されるのが我慢できなかった。選りによって、こんな奴に助けられるなんて! 俺は不良グループに痛めつけられた恨みを、古賀にぶつけていただけだった。

 その後、不良グループは集団万引きで補導され、リーダーだった奴がクラスの女子数人に性的暴力を働いた件が表沙汰になって少年院送りになった。それで虐めもなくなり安心したが、あの時、古賀に惨めな格好を見られたことが俺にとって屈辱だった。教室であっても古賀は何も話さないが、その目の奥に人を小馬鹿にしたような嘲笑の色が見えた。――そのことが、ずっと俺の胸の中で燻り続けていたのだ。
 中学を卒業した俺は進学校へ入学した。
 そこは地元でも偏差値の高い学校で、うちの中学からは二人した進学できなかった。高校の合格発表の日、自分の受験番号を見つけてホッとして大喜びした俺だったが、同時に古賀の受験番号もそこに見つけた時には、チッと舌打ちをしてしまった。この高校に進学したのは、俺と古賀真司の二人だけだった。
 ともあれ、高校に入ってから一度も古賀と同じクラスになることもなかったし、クラブも俺は『英語検定部』という、受験のための実用的なクラブに入っていたし、古賀は『写真部』だと聴いていた。
 たとえ校内で顔を合わせても、お互い知らんぷりだった。

 あれは高校生活の最後の夏だった。
 学年ではトップクラスの成績で、生徒会長だった俺は教師たちの信頼も厚く、自慢じゃないが女の子にも人気があった。高三だった俺は受験勉強に明け暮れる日々だったが、息抜きに女の子とも適当に遊んでいた。特に決まった子とは付き合わず、来るものは拒まず去る者は追わずの精神だった。
 俺に取って女と付き合うことは、ゲームで言うところのレベル上げのようなもので、攻略するまでが面白くて、攻略してしまえば急に興味を失ってしまうものなのだ。
 その頃になっても、俺と古賀は同じ中学から同じ高校に進学した仲だったがお互いに無視し合っていた。高校に入ってからの古賀は太い黒ブチ眼鏡、髪もボサボサで冴えない感じになった。陰気臭く根暗な古賀のことを俺は心底馬鹿にしていたし嫌いだった。
 古賀の方も俺のことが苦手みたいで、いつも避けているように見えた。

 五時間目の移動教室で理科実験室の席に着いたら、机の中にプラケースの書類入れみたいなものが入っていた。何だろうと開けてみたら……中には、写真がギッシリ100枚以上は詰っていた。
 全部、陸上部の鈴木由利亜(すずき ゆりあ)の写真だった。
 由利亜がグランドを走っている姿や部員たちと談笑しているもので、遠くから隠し撮りしたような写真ばかりだった。
 いったい誰がこんなものを忘れていったんだ? 前のクラスの奴かな? 
 そう思っていたら、血相を変えて古賀が教室に入ってきた。プラケースを俺が持っているのを見つけると、まるで引ったくるように奪い取った。
 そのまま、教室を出て行こうとする古賀に、
「おまえ、陸上部の鈴木由利亜が好きなのか?」
 俺が訊くと、背中がビクッとして動きが止まった。
「根暗な奴でも女には興味があるんだなぁー」
 皮肉たっぷりに言ってやった。振り向いて古賀は、
「由利亜さんは俺の女神だ!」
 そう言い残して、教室から逃げるように走り去った。

 女神だって!? 俺は可笑しくて、思わず噴き出した。
 確かに鈴木由利亜はスタイルも良いし、顔もわりと可愛いが……。たかが陸上部で走ることしか能のない女を捕まえて《女神》はないだろう? あいつは中二病か? オタクを拗らせるとああなるんだ――。
 古賀が《女神》と呼んだ鈴木由利亜のことは、今まで興味すらなかったが、逆にあいつのひと言で興味を持ってしまった。俺はその《女神》とやらを攻略したいと思ったのだ。
 鈴木由利亜は、女子陸上部のキャプテンをしている。短距離が得意でインターハイでは常に上位ランキングだった。アスリートの彼女は引きしまった肉体とスラリとした肢体、チーターのような野生動物をイメージさせた。
 ボーイッシュなショートヘヤーは中性的な魅力で、その人気は高く、特に後輩の女生徒たちからは熱狂的に支持されていた。彼女の走る姿を見るために、放課後のグランドには由利亜のファンたちが集まってキャーキャー騒いでいた。――まさに女子陸上部のアイドルだった。
 古賀真司も、そんな鈴木由利亜に憧れるファンの一人のようだ。

 あんな中性的な女は趣味ではなかったが、古賀の奴を悔しがらせてやろうと俺の食指が動いた――。




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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-11-02 10:44 | ミステリー小説
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   Pert.16 ついに真犯人登場か?

「彼女なら君たちの足元で眠っている」
 いつから、そこに居たのか。いきなり根岸先生の声がした。
「何だと!? どういうことだ!」
 語気も荒く、葛西先輩が噛みついた。
「死んでしまったんだよ。いや、殺す気はなかったけど……」
 まるで他人事のように、根岸先生は平然と殺人の告白をした。
「なぜ? どうして? 千夏を殺したんだ!?」
「わたし副業として、海外向けのAVを制作して売っているんだ」
 AVって? エロビデオ、それが教師の副業か!? 信じられない糞野郎だぜ。
「あの日、奥の部屋へ入ろうとしていたところに、彼女が戻って来てね。見られたらマズイんで口止めにAVのモデルにしようとこの部屋に連れ込んだんが、あんまり暴れるんでスタンガンを強めに当てたら、心臓麻痺を起してあっ気なく死んでしまった。まさか死ぬとは思わなかったので、わたしも驚いたよ。あはは……」
「千夏は小さい時から軽い心臓疾患があったんだ……それを……おまえは……チクショ……」
 最後の言葉は涙で絶句した葛西先輩――。
「事件が発覚すると困るんで彼女の遺体をコンクリートの床下に埋めさせて貰った」
「この糞野郎! 千夏を返せ―――!!」
 激昂した葛西先輩が飛び掛かろうとした瞬間!

『ダメ―――! そこを動いちゃダメ!!』
 突然、真美が大声で叫んだ。気を失っているとばかり思っていたのに……。
 その言葉に慌てて飛び退いた葛西先輩だったが、足元を見て驚いた。水で濡れたマットが敷かれ、その下に裸の電線が何本も通っていたのだ。この上に乗ったら確実に感電死させられる。
「チッ!」
 悔しそうな顔で根岸先生が舌打ちをした。
「田村教頭を殺したのもあんたか?」
 今度は俺が質問した。
「ああ、そいつは、わたしの副業のAVの儲けを半分よこせとか言ってきたからね。しかも女子高生とやらせろとか、奈津子先生みたいなビッチは飽きたとか贅沢いうんで、もうウンザリだ。さっき実験がてら、そこで感電させたら死んだよ」
 なんて乱れた教師たちだ! 俺は心底こいつらに嫌悪感を抱いた。
「こんな地下室まで造って何をするつもりだ?」
「ああ、この地下室は偶然見つけたんだ。以前、図書室の床工事をやった時に発見した。戦時中に防空壕として使われていたみたいだった。わたしは学校に内緒で工事をして、秘密の小部屋として使えるように改造したんだ」
「変態教師! 女生徒を連れ込んでイタズラするつもりだったんだな?」
「冗談じゃない! わたしは女には興味ないんだ。AVの撮影はしても触る気はさらさらない。男子生徒ならそそられるが……ね」
 ニヤリと嗤ったヒゲ面が気持ち悪くて鳥肌が立った。
「根岸はゲイだよ! 2ちゃんの書き込みにもそう書いていった奴が何人も居たし、ここを見ろと教えて貰ったURLに飛んだら、ゲイ専門の出会い系サイトだった。そこの掲示板に根岸と思われる人物が『セフレ募集中』と書いているのを僕は見た」
「おや、葛西君ずいぶん詳しいね。いや、正直に告白するとあんな小娘より、わたしは葛西君に興味があったんだよ。だから他校の女生徒と図書館を利用しても何も言わなかった。こっそり、君を見ていたかったからさ」
「ぶっ殺す!!」
 怒り心頭で、真っ赤に紅潮した葛西先輩が飛び掛かろうしたら、ビカッと光って床に倒れた。

「先輩! 大丈夫ですか!?」
 電気ショックで気を失ったようだ。
「ここは電気流れるって知ってたくせにトラップに引っ掛かるんだから……おまえたちには学習能力ってものがないのかね?」
「うるせいっ! この人殺し変態オカマ教師!!」
「大西君、今の教師に対する言動は内申書に響くから……」
 チクショウ! ここから早く逃げ出したいが、足元にそんな危険なトラップが仕掛けられているとなると、動くに動けない。――どうすりゃあいいんだ!


   Pert.17 戦え! 我ら探偵部

「ちょっとでも、そこから動いたら電流のスイッチを入れるぞ!」
 手に持ったスイッチを見せて、俺たちを威嚇する。
「おまえたちはここからは出られない」
「コラ―――ッ! 逃げるなっ!」
「バカな探偵ごっこをした反省会でもやってろ。あははっ」
 笑いながら根岸先生は梯子段を上がっていく。もし、あの梯子を外されたら、俺たちはここから出られなくなってしまう。
 その時、壁に立て掛けてあった赤い自転車を草太が片手で持ち上げた。梯子段を登り切ろうとしていた根岸先生に、その自転車を投げつけたのだ。すごい怪力だ!
 ガンガラガチャ―――ンと、けたたましい騒音と共に根岸先生が落ちてきた。俺たちは、ソレ―――と、ばかりに根岸先生に飛びつき、逃げないように縛り上げた。
 その上、教師面して俺たちに説教たれないよう猿轡も噛ませて置いた。
「高校生を舐めんなよ。警察に通報してやる!」
 あれ? 携帯が圏外だ。 そうか四方をコンクリートで囲われているんもんなあ。これじゃあ、電波が届かないや。――待てよ。だったら葛西先輩へのメールを千夏さんはどこから送信したんだろう?
 草太は気を失っている先輩を担いでベッドに寝かせると、
「僕が外へ出て、警察と救急車を呼ぶよ」
 そう言って、梯子段を上がって行った。

 犯人と、死人と、気を失っている人と、真美と、俺が地下室に残された。
 草太のライトがないのでとても暗い。とにかく真美の元へ行った。
「真美、大丈夫か? ケガないか? 変態教師に何もされなかったか?」
 オロオロしながら、俺は矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「絶対に死ぬなよ! おまえだけは失いたくないんだ。いなくなったら……なあ、俺はどうしたらいいんだ?」
「――大丈夫よ。ヒロシこそ血迷ってる感じじゃない」
「そ、そ、そんなことない!」
 たしかに血迷ってるけど、こんな状況だし、誰だって血迷うだろうが……。
「スタンガンで気絶させられて朦朧としている時に、誰かの声が聴こえた『アシモトニ、ワナヲ、シカケテルカラ、ウゴカナイデ……』そう言って教えてくれたのよ」
「へぇ? 声がしたって……」
「うん。まだ若い女の声だったよ」
「いったい誰だろう?」
「ぼんやり影が映ったけど、ツインテールみたい」
「ツ、ツ、ツインテール!?」
 葛西先輩が千夏さんのヘヤースタイルはツインテールだったと言ったよなー。草太が見た女子高生もツインテールだった。まさか、本当に出るのか、ここには幽霊が……。
 その時、白い影がコンクリートの壁に映った。
 倒れている葛西先輩に寄り添うように、ツインテールのセーラー服の女生徒がそこに居たのだ。――茫然と俺も真美もそれを見ていた。
『タクミ……』
 葛西拓巳――タクミって、先輩の名前か。
『ジケンニアッタノハ、タクミノセイジャナイト、ツタエテホシイ……』
 ツインテールの女生徒はそう告げると、スーッと姿がぼやけて消えいった。
「もしかして彼女が千夏さんか?」
「亡くなっていても……葛西先輩を心配して出てきたのね」
「罠を教えてくれた」
「守ろうとしてた」
「美しい愛の力だ!」
 俺と真美は手を握り合って感動していた――ら。

 凄い勢いで誰かが梯子段を駆け下りてきた。警察にはちょっと早過ぎるような……。それは保健室の奈津子先生だった。
 いきなり床に転がされていた根岸先生の髪の毛を掴んで、
「あんた! あたしと田村教頭のアレをネット配信したでしょう?」
「ウグ、ウググ……」
 猿轡されているので喋れない。
「生徒の父兄にバレて大変なことになったのよ。教師クビになったら、どうしてくれるの!?」
 凄い剣幕で奈津子先生が怒っている。てか、身から出た錆だと思うんだが……。
「絶対にAVにしない約束だったのに騙したのね? 何とか言いなさいよ! このオカマ教師がっ!!」
 そう言って、往復ビンタで顔をバシバシ叩いていた。
 殴られて、猿轡が外れた根岸先生が反論する。
「やめろ! この糞ビッチが!! 女教師物はAVでは需要が高いからな。だから盗撮してやったんだ」
 こんな屑に教育されて大人になっていく俺らが……可哀相すぎるぜぇー。
 ああ、そう言えば……体育準備室の窓から見えた、赤い光はビデオカメラを回していたからなんだ。謎がひとつ解けた!
「それより、早くわたしの縛めをほどくんだ」
「えっ?」
 興奮し過ぎて、状況が把握できてない奈津子先生は美人だけど、かなり天然女だ。
「このスイッチなぁ~に?」
 側に落ちていた電流スイッチを拾って、キョトンとしている。
「それを押すな―――!!」
 根岸先生が叫んだ瞬間! バリバリと落雷のような音がして、閃光が二人の教師を包んだ。――俺と真美はなす術もなく、その有様を見ていた。《不謹慎だが、俺は笑いを堪えていた……》これが自業自得ってことなんだと、しっかり学習させていただきました。


   Pert.18 スリーサイズ探偵部+プラス

 
  電撃ショックシーンの直後、けたたましいパトカーと救急車のサイレンが轟いて、草太に案内された警察官たちが地下室に踏み込んできた。
 俺と真美、葛西先輩は無事に警察に保護された。先輩はあの後すぐに気が付いたので大したことはなかったようだ。
 地下室で死んでいる田村教頭を発見して、警察官たちは色めき立った。
 その後、鑑識班が到着した頃には、俺たちは警察で事情聴取されていた。こうなった経緯など詳しく聴かれたが、千夏さんの声については信じて貰えなかった。最後に、危険な事件に高校生が首を突っ込んだことで、お叱りを受けちゃった。体育倉庫で撮った写真も証拠写真として没収されたし。トホホ……。  
 そして、あの破廉恥教師二人はどうなったかというと、重体だが命には別条なく、病院に運ばれ、その後、警察に身柄を引き渡されたようだ。
 ちなみに、根岸先生の家からは学校の女子トイレや更衣室を盗撮したディスクが大量に出て来たらしい! 地獄に堕ちろ、人殺し変態オカマ教師めぇ!!
 根岸先生の供述通りに地下室のコンクリートの床下から、白骨化した西野千夏の遺体が発見された。やっと、千夏さんはみんなの元に還ることができたんだ。
 事件が明るみに出て、千夏さんの失踪事件も解決したので……残念な結果だったけど、やっと葛西先輩も踏ん切りが付いたようだ。登校拒否を止めて、今は登校するようになった。――そして新聞部にも時々顔を出してくれる。

「あん時のヒロシの血迷いっぷりはハンパじゃあなかったよね?」
 俺たち新聞部の部室で、イタズラっぽい目をして、ふいに真美が言い出した。
「そりゃあ、真美は俺のツレだし、生まれた時から一緒だったんだから心配くらいするさ」
「あんなに取り乱すくらい、わたしのことが好きなんだと分かって嬉しかったよん」
「ちゃうわい!」
 口では否定したが、真っ赤になった俺の顔がそれを認めていた。
「おまえに弱みを握られてるし、ホントはどっかへ消えて欲しいくらいだぜぇー」
「弱みって?」
 キョトンとした顔で真美が訊き返した。
「……ほら、そのう、五年生の時に俺がオネショした件だよ」
 俺は声を潜めて言う。ここは新聞部の部室だから――。
「オネショ!?」
 なのに、真美が大声を出した。
「シィィィ―――!」
「ああ、あれね。……思い出したわ。寝ぼけたマー君がトイレと間違えて、ヒロシの布団におしっこしちゃった件ね」
「ぬあにぃぃ―――!?」
「その後、目を覚ましたヒロシの慌てようったら笑える――。ずっと勘違いしてたんだ。急にあたしに対して卑屈な態度を取るようになったのはそのせいだったの? うふふっ」
「俺のトラウマだったんだぞぉー!」
 あれは弟のマサシがやったことか? 今まで弟に罪の意識を抱いていた俺はバカだった! 家に帰ったら、マサシを一発殴ろうと俺は決めた。

「お二人さん、なんの話?」
 草太がこっちを見て、笑いながら訊ねた。
「聞いてくれ! 俺は今まで真美と弟に騙されていたんだぜぇー」
「あらっ! 騙したなんて、人聴きの悪い! ヒロシが勝手に思い込んでいただけでしょう」
「俺の青春を返せ―――!」
「ヒロシのバーカ!」
「真美! おまえもマサシも許さねぇ―――!」
「お二人さん、ケンカはダメです!」
 時々大魔神に変身する、平和主義者の草太に言われた。
『ケンカ、デキルノハ、ウラヤマシーイ』
 新入部員のツインテールにも言われた。
 俺たちスリーサイズには西野千夏さんの姿が見えるんだけど、葛西先輩には気の毒なことに千夏さんが見えないんだ。
 幽霊の千夏さんはタクミが心配なので、まだ成仏したくないらしい。
 そいうことで、我が新聞部に席を置くことになった。新しい部員(幽霊部員)を迎えて、さらに変幻自在にパワーアップしたのだ。

 スリーサイズ探偵部+プラスの活躍に、乞うご期待だぜぇ!


― おわり ―




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   創作小説・詩 
by utakatarennka | 2013-09-25 13:26 | ミステリー小説

スリーサイズ探偵部 ⑤

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 Pert.13 失踪した女子高生

「本人から連絡があったので、千夏の失踪は警察では家出人扱いになった。あれから一年経ったが、あれっきり連絡もないし、家にも帰って来ないんだ」
「千夏さんの失踪を葛西先輩は家出ではないと思ってるわけ?」
「――そうだ。千夏が乗っていた自転車も無くなっていたけど、僕は見つけたんだ千秋の自転車のキーを。何か手掛かりはないかと図書館で調べていたら、あの日、千夏が読んでいた参考書のページの間に自転車の鍵が挟まっていた」
「じゃあ、千夏さんは自分の自転車でどこかへ行ったんじゃないってこと?」
「千夏の自転車は買ってひと月にもならない新車で、お気に入りのカーマインレッドだった。それを置いて徒歩で消えるなんて……僕には腑に落ちない。なのに自転車置き場から自転車が消えている。鍵を壊して、誰かが移動させたんだ」
「なんか事件に巻き込まれたって感じがしますね」
 その問い掛けに葛西先輩は黙って頷いていた。
 真美のことも気になるが、思わずこの事件に俺は聴き入っていた。
「――車で連れ去られたのかも知れない。もしかしたら……この学校のどこかに千夏は居るんじゃないだろうか」
「ま、まさか!?」
「僕は半年前から2ちゃんの掲示板に『俺たちの学校のうわさ話』というスレを立てた。何か情報が拾えるかも知れないと思ってね。そしたら、この学校にもチャネラーが多いとみえて、匿名だから気軽に書き込んでいく奴らが結構いたんだよ。その中で気になったことを、新聞部に取材をして貰った。三つのうわさ話の真実を確かめるために」
「まあ、最初の二つは分かりましたけど……最後のは調査中だ」
「みんなで急に走り出したのは何か見たのかい?」
「ああ、俺は見てないけど……草太が何か見たんだよ」
 俺がそう言うと、葛西先輩は草太の方を向いて訊ねた。
「小西君、何を見たのか詳しく聞かせてくれないか」
「僕が見たのは渡り廊下を歩いて行く、セーラー服の女子高生の姿でした」
 その言葉に葛西先輩は目を輝かせた。
「どんな格好? 体型とか? ヘヤースタイルは?」
 矢継ぎ早に草太へ質問した。
「えっと……わりと細身で、髪型はツインテールだったような……」
「ツインテール!?」
 そう訊き返して、葛西先輩の顔色が変わった。――その後、しばらく茫然としていた。そして、やおら口を開くと、
「千夏かも知れない……」
「えっ? ええ―――!?」
 俺と草太は同時に大声を出した。
「彼女の姿をどこまで追いかけたんだ?」
「本館の理科室の辺りで見失った。その奥は図書館だ」
「もう一度、そこまで行ってみよう。そこに中西さんも居るかも知れない」
 そうだ! 真美だ。そっちの方が俺にとっては重大な問題だ。こんな所で話し合っている場合ではないのだ。


 Pert.14 俺たち探偵部

 俺たちは誰もいない真っ暗な図書室へと入っていった。古い紙のカビ臭いと印刷インクの匂いが漂っていた。図書室ってなんか湿っぽい空気が流れている。
「窓のカーテンを全部閉め切ってくれ!」
 葛西先輩の指示で俺と草太は手分けしてカーテンを下ろして周った。図書館のカーテンはスライド観賞用に遮光のある、かなり厚めの生地が使われている。
「よし! 電気を付けよう」
 ずっと暗闇に居たせいで、スイッチを入れた瞬間、眩しいほどの明るさだった。
「ここで何か探す気ですか?」
「そうだ。以前、僕は測ったことがあるんだ。外から紐で測った広さと、中で測った図書館の広さが約2mほど誤差があるんだ。奥の書庫の更に奥に……もしかしたら隠し部屋があるかも知れないんだ」
 葛西先輩の意見に俺も草太も驚いて声も出なかった。ゴクリと思わず生唾を飲んだ。
「……というのもね。僕が新聞部で活動していた頃に、一度、図書室の床の工事とやらがあったんだよ。その時に棚や本を移動させたんだが……なんか、書庫が前より狭く感じたんだ。まあ、レイアウトが変ったせいだと、その時は気にしてなかったけど……最近、ふとそのことが気になって測ってみたら、案の定、そういうことだった」
「二年前くらいですか? 俺が新聞部に入れられる前だ。真美に初めて新聞部の部室に連れて来られた時は今と同じだった。部室の奥に根岸先生のカメラの機材とかゴチャゴチャ置かれいて、狭い部室だなあーって感想だったから」
「書庫の奥が怪しいんだ。根岸先生の機材を置いてある、大きな棚の奥に何かありそうだ」
 そして俺たちは部室のある書庫へと入っていった。ここは元々窓のない行燈部屋なのだ。
 部室の電気のスイッチを入れようとしたら、
「ストーップ!」
 いきなり葛西先輩が静止した。
「はぁ~?」
「見てみろ。奥の棚から微かに灯りが漏れてる」
「……本当だ」
「やっぱり、この棚の奥には何かあるぞ」
 俺たちは棚の前で押したり引いたりしたが、ビクとも動かない。仕方なく灯りを付けて調べてみることにした。
「あっ! あったこれだ」
 草太が何か見つけたようだ。
「葛西先輩、これ! スイッチがある」
 機材で隠された棚の内側にレバーみたいなものがあった。たぶんこれを引くと――。
 ビンゴ! 電動式で大きな棚が自動ドアのように開いて入口を作った。
 勇み足で俺たちは中に飛び込んだが、そこは壁と本棚の間の空間といった感じで特に何もなかった。――だが、それでは終わらない。
「見ろ! 床の隙間からも灯りが漏れてる。もしかして地下室か?」
「羽目板みたいだ」
 俺と草太で床を探っていると、取っ手のような物に手が触れて持ち上げたら、地下室の入口がポッカリ開いて、そこから梯子段が見えた。
「降りてみよう」
 一番体重の重い草太から下りいった。
 俺が入口の所で下を覗き込みビビっていたら……草太が「僕が先に行くよ」とアンパンマンのような笑顔でさっさっと下りていった。こういう時の草太って……元、イジメられっ子とは思えないほど肝が据わっている。
 草太はライト付きのヘルメットを被っているので街灯のように明るい。無事、草太が下りたのを確認してから、俺、葛西先輩の順番に下りて行く。まさか校舎の下に、こんな謎の地下室があるなんて誰が想像しただろう。


 Pert.15 謎の地下室

「真美ちゃん!」
 草太の声がした。その声に、梯子段の最後の五段目くらいから俺は飛び降りた。
「真美―――!!」
 地下室の広さは十畳くらいだろうか。だだっ広い感じがする。部屋の隅っこにパイプ製のベッドが置かれていた。その上に手足を縛られ、猿轡(さるぐつわ)を噛まされた真美が横たわっていた。
 俺は急いで真美の元に駆けつけると猿轡を外して、大声で呼び掛けた。
「真美! 真美! おーい! 大丈夫か?」
 息はある。どうやら気を失っているだけらしい。ケガはなさそうだ。
 蒼白い顔で横たわる真美がこんなに小さな女の子だったなんて……その時、俺は初めて気づいたんだ。真美……こいつだけは絶対に失いたくない! こんな無抵抗な真美を見て、俺は泣きそうになっていた――。

「うわぁ―――!!」
 突然、草太が大声を上げた。
「ど、どうしたんだ!?」
「ヒロシ君、あそこに人が……」
 震える手で指差す方向には、身体を捻じるような不自然な姿勢で人が倒れていた。スーツを着た男のようだ。
 地下室は草太のライトと裸電球がひとつだけ天井からぶら下がってるだけだ。。かなり薄暗く視界が悪い、どこかに換気口があるのかファンが回る音がする。天井までの高さは3mくらいか? 床も壁も天井も全てコンクリートで固められた、殺風景な、まるで牢獄か地下シェルターのような部屋だ。
 葛西先輩が近づいて行って、確かめようと懐中電灯で照らして見ている。
「田村教頭だ……死んでる」
 えっええ―――!? さっきまで、体育準備室で奈津子先生と***をしていた田村のスケベおやじが死んでるって?
 俺の頭はショックでパニックになりそうだ。この学校の中に殺人者が居るってことなのか? 今さらながら恐怖で顔が引きつった。
 ヤ、ヤ、ヤバイ……真美を連れて、ここから早く逃げ出さないと――マジでヤバイ!
「ああ……あぁ……」
 今度は葛西先輩がヘンな声を発した。
「……これは千夏の自転車だ」
 部屋の片隅に赤い自転車が置かれていた。これが千夏さんの自転車だとしたら……彼女はこの部屋に居たってことなのか?
「千夏、どこだ? どこへ行ったんだ――!?」 
 コンクリートの壁を拳で叩きながら葛西先輩が大声で叫んだ。







   創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-09-14 07:10 | ミステリー小説

スリーサイズ探偵部 ④

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 Pert.10 真美が消えた!

 渡り廊下から繋がっているのは、生徒たちの下駄箱と本館の校舎である。取り合えず、謎のセーラー服の少女が向ったと思われる方向へ俺たちは追いかけていった。
 まず、懐中電灯を照らして下駄箱の周辺を探してみたが何も見当たらない。自転車置き場の方にも行ってみたが真っ暗で何も見えない。仕方なく古い本館の校舎に入っていった。ここは三階建てで、一階に図書館や理科室、家庭科室、保健室などがある。
「どこにも見当たらない」
「うん。渡り廊下から下駄箱の方へ向っていると思ったけど……」
「やっぱ、お化けだからドロンと消えたんだよーん」
 つまらないジョークを言って、実はビビっている自分を誤魔化そうとしていた。こんな気味の悪い取材なんかもう嫌だ。新聞部なんか絶対に辞めてやる。神に誓って辞めてやるんだ!
「あれ? 真美ちゃんがいない」
 ふいに草太が声を上げた。
「さっきまで、真美も一緒にいたのに……まだ外にいるのかなあ」
 真美を探しに、もう一度、下駄箱と自転車置き場に俺たちは戻った。

「おーい、真美ー!」
「真美ちゃーん、真美ちゃーん」
 名前を呼んだが返事がない。
 身長150㎝の小さな真美を漆黒の闇の中で見つけられるだろうか? 懐中電灯の灯りだけでは遠くまで見まわせない。その時、草太がリュックの中から何か取り出した。
「これだ! 真美ちゃんから暗い時には、これを被ってと言われてたんだ」
 それはトンネル工事現場などで作業員が被っている、ライト付きにヘルメットだった。カメラマンの真美のお父さんが、廃屋の写真を撮りに行く時に被っているというヘルメットで、今日のために借りてきたようだ。
 なるほど、長身187㎝の草太が被るとサーチライトのように明るい。まるで灯台のように遠くまで照らしてくれる。《草太、君は太陽だ》なんて冗談言っている場合ではなぁーい。真美を探さなくっちゃー!

 ライト付きヘルメットのお陰で周辺が明るくなった。もう一度、自転車置き場の方へ探しに行ってみると、植え込みの奥に倒れている誰かの足が見えた。俺と草太は血相変えて駆け寄ったが……それは真美ではなく、見知らぬ男だった。
 横向いて、蹲るように倒れている若い男だった。辺りに血は流れてないし、外傷はなさそうで、単に気を失っているだけかも知れない。
 恐る恐る……俺は近づいて行くと、そいつを足で軽く蹴ってみた。
「おいっ、大丈夫か?」
 男はうーん……と、呻いた。どうやら生きているようだ。草太が近くにあった水道場からハンカチを濡らして、男のおでこに当ててみた。すると、しばらくして眼を覚ました。男は起き上がってキョロキョロと周りを窺い、そして俺たちの方を見た。
「君たちは……」
「おまえは誰だ?」
 一番知りたいことをダイレクトに質問した。
「ああ……僕か、僕は葛西拓巳(かさい たくみ)だ」
「なにっ! 葛西先輩!?」
 俺と草太は同時に大声で訊き返した。


 Pert.11 葛西先輩と俺

 俄かに信じ難く、俺は葛西先輩と名乗る男の顔を凝視していた。
 見た感じ俺たちより少し年上に見える。葛西先輩は家でヒッキーしていると聞いていたので、オタクで根暗っぽい人物だろうと勝手に想像していたが、身長は175㎝の俺より少し高い、学年トップの成績だったというだけあって秀才っぽい顔つきで、まあイケメンの部類には入ると思う。
 さっきからキョロキョロしていたのは眼鏡を探しているらしい。植え込みの中に落ちていたのを草太が拾って渡すと、「ありがとう」と言って眼鏡を掛けた。
「新聞部の部長の葛西さんですか?」
 草太が驚いた様子で訊き返していたが、俺はそう簡単には信じないぜぇ。
「あんたが本物の葛西先輩だという証拠はない」
「確かに、君たちとは面識がないからね。だけど、僕は君たちのことを知っている。それは中西真美さんを通じて聞いたこともあるし、実際、君たちが取材している所をこっそり見に行ったこともあるんだよ」
「えっ、見に来てたんですか?」
「前回の新聞で牛丼屋の取材をしただろう? あの時、客に混じって見てた。小西草太君の見事な牛丼の食べっぷりには感服したよ」
 その言葉に草太は面映ゆい表情だった。あれで草太は「大食い」の自分を恥じているのだから――。
「いや、本当に感服しているのは小西くんの絵師としての才能だけどね」
 なんか、調子のいい奴だなあ。
 さっき俺が「帰りたい」って言ったら、真美が葛西先輩に叱られると言ったのは、こういうことだったのか。――影から俺たちを操っているつもりかよ。
「こそこそ俺らを見張ってないで堂々と出てきたらいいじゃないか」
「――うん、そうだけど、別に君たちを見張っている訳じゃなくて……ある人物と接点を持ちたくないだけなんだ」
 何だか歯切れの悪い言い方だなあ、それは会いたくない人物がいるってことか? いったい誰のことだろう。そんなことより、真美はどうなったんだ!?

「葛西先輩はなぜ倒れていたんですか? それから真美ちゃんのこと知りませんか?」
 草太が俺の代わりに質問してくれた。
「――実は君たちが急に走り出したので、僕も追いかけたんだ。自転車置き場で様子を見ていたら、中西真美さんがこっちにきたので、様子を訊こうとここで立ち話をしていたら、いきなり身体に電気ショックを受けて気を失った。あれは改造したスタンガンかも知れない……」
 電気ショック!? 葛西先輩の話に驚いたが、俺は真美のことが凄く心配になってきた。
「それで真美はどうなったんですか?」
「……どうなったか分からない。気が付いた時には彼女はいなかった」
「なんて無責任な奴だ! こんな危険な取材を俺たちにやらせておいて、女の子が一人消えたのに知らないだと――」
「すまない。みんな僕の責任だ」
「ちくしょう! あんたのせいで真美は危険な目に合っているんだぞ!」
 激昂した俺は、葛西先輩の胸ぐらを掴んで拳を振り上げた。

 
 Pert.12 葛西先輩のカミングアウト

「ヒロシ君、やめなよ!」
 草太が俺の腕をガシッと掴んだ。
「な、なにするんだ? 草太」
 長身187㎝の草太に腕を掴まれたら、どう足掻いても動けない。
「頼むから、冷静になってくれよ。葛西先輩を殴るよりも、今は真美ちゃんを探す方が先決だよね」
 ――そう言われて、俺は我に返った。恥かしいくらい興奮していたようだ。忽然と消えた真美のことが心配で 我を忘れてしまった。あいつは俺が生まれた時からのツレなんだ、絶対に失う訳にはいかない。
「なあ、草太。深夜の警備員さんの所に行って警察を呼んで貰おうか? 真美を探すのにどうしたらいいんだよう!?」
「ヒロシ君、落ち着いて……葛西先輩にもう少し話を訊いてみよう」
 なるほど、こいつは何かを知っていて隠している様子だった。

「先輩は僕たちに何をやらせようとしている訳ですか? 真美ちゃんを助けるためにも全て話してください」
 いつも大人しい草太にしては珍しく、相手に毅然とした態度で向き合い、曖昧さや誤魔化しは許さない。そういう気構えで草太は葛西先輩と対峙していた。
「分かった。大西君の中西さんへの気持ちがヒシヒシと伝わってきたよ。彼に取って中西さんがどんだけ大事な存在だったということも――」
「そんなことは関係でしょう!」
 その言い方にムッとして、俺は言い返した。
「いいや、僕も大事な人を失ってから、ずーっと探しているんだ。――今の君と同じ気持ちでね」
「……どういうことですか?」
 今の、この俺の気持ちが分かって言ってるのか?

「少し長くなるが聴いてくれるかい。僕には幼なじみの彼女がいたんだ。名前は西野千夏(にしの ちなつ)小中学校と同じだったが、高校だけは親の意向で女子校に入学したので、僕らは離れ離れになった。それで大学は同じ所に入学しようと、一緒の塾に入って受験勉強をしていたんだ」
 先輩の話の中に、真美を探す糸口がないかと俺たちは聴き入った。
「あれは去年の夏休みの終わりの頃だった――。僕らはこの学校の図書室で受験勉強をしていた。彼女は他校の生徒だけど、図書室の管理をしている根岸先生は何も言わなかった。根岸先生は変わった人物だから、自分に迷惑さえ掛けなければ、案外寛大というか……知らん顔だったから……」
 あのキモヲタ教師は義務感みたいな顔して、俺らに授業で勉強教えたら、後はいっさいノータッチというスタンスだからなぁー。新聞部の顧問のくせに全くと言っていいほど、何もしないし、俺たちにも無関心なのだ。
「たぶん六時を少しまわっていたと思う、遅くなって図書室を出た。自転車置き場まで来た時、自転車のキーを図書室の机に忘れてきたと千夏が言い出した。「取りに戻るから、先に塾に行っててね」そう言うと校舎の方へ走って行った。しばらく待っていたが戻ってこなかった。その日は塾の模擬試験があったので、遅くなって慌てていたこともあったけど……そのまま千夏を置いて、僕は先に塾に行ったんだ」
「置き去りにしたの?」
「……僕は死ぬまで、そのことを後悔し続けるんだ」
 葛西先輩の苦悩に満ちた表情に……意地の悪い訊き返しだったと俺は恥じた。
「結局、千夏は塾に来なかった……メールしたが返信がない、電話もかけたけど出なかった。――心配になって、家に帰ってからも連絡を入れ続けたら、翌朝、メールが返ってきた『心配しないで』たったそれだけだった。なんか、いつもと違って無愛想なメールだと思ったが、それでも僕は少し安心した。千夏の家の方には、電話があったとか『遠くにいる。しばらく家には帰れない』と、一方的に喋ってから切られたらしい」
 そこまで喋って、葛西先輩はフーと長い溜息を吐いた。
 この話を聴かせることは、あの出来事を思い出して、かなり辛いことなのだと……俺にだって、それくらい分かるさ。






   創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-08-30 07:42 | ミステリー小説

スリーサイズ探偵部 ③

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 Pert.7 学校食堂の怪談

 最初の取材は『施錠された食堂から消える食材』と言うことで、俺たちは学校食堂の厨房へと向かった。
 まず草太は取材の前にコンビニで買ってきた食糧を食べるつもりらしい。レジ袋二つに入ったものを食堂のテーブルの上に並べた。おにぎり十個とパスタ二つ、唐揚げ三つ、コロッケ、サラダ、プリン、シュークリーム、ポテチ、数種類の飲みもの……いったい、どんだけ食べる気だぁー!?
 俺と真美はおにぎり一個づつとパスタと唐揚げを食べたが、後は、草太がほとんど全部食べた。やっぱり身体がデカイと胃袋も大きいんだなあと感心した。

 お食事タイムが終わったら、我が新聞部も気合を入れて取材に取りかかる。真美が食堂のおばさんに借りて来たという、鍵で厨房の中に入った。
 思ったより広い厨房には大きな鍋や調理器具が置いてある。電気製品から発する僅かな灯りと非常灯で室内を照らしている。深夜の厨房というのは、静まりかえって不気味なものだと思った。――深夜に食材を盗りに来るという謎の生物が現れるのを厨房の片隅に待つことにした。

 息を殺して調理台の下に隠れていたが、かれこれ小一時間経っただろうか? お腹も満腹だし睡魔が襲ってきた。謎の生物はいつ現れるのか、このままでは本気で寝てしまいそうだった……その時である。
 天井の換気口辺りから、微かな音が聴こえて来た。停止しているファンの羽をスルリと抜けて何かが入ってきた。音もなく床に着地すると、大きな棚に置かれていた段ボールの箱をガサガサと漁っている様子だ。
「よし! 今だ」
 俺たちはそいつを懐中電灯で照らすと、驚いた眼が赤く光っていた! 
 そこに居たのは真っ黒な猫だった。口にはソーセージを咥えて、こちらに向かって威嚇するようにシャーと吠えた。よっしゃー! 窃盗現行犯の猫の写真を撮った。
 人間に驚いた猫は調理台の隙間に入り込んで隠れた。
「この猫を捕まえて、食堂のおばさんに引き渡す?」 
「毎晩、こんな悪さをするようなら捕まえた方がいいかも知れん」

 ここは密室だし、猫はどこにも逃げられない。俺は追いかけ回して、ジリジリと猫を追い詰めた。そして持っていたザルを奴に被せて捕獲したのだ。
「やったー! いたずら猫を捕まえたったぁー」
 ここまで何もしないで見ていた草太がいきなり声を上げた。
「ヒロシ君、その猫を許してあげて!」
「えっ?」
「仔猫の鳴き声が聴こえるんだ。ほら、耳を澄ませてみて!」
 そう言えば、ミャーミャーと微かに仔猫の声が聴こえた。
「その猫はお母さん猫なんだ。もし捕まったら……仔猫がお乳を貰えなくて死んでしまう」
 よく見ると、猫のオッパイが膨らんでいる。子育て中の母猫のようだ。
 草太は残っていた、おかかのおにぎりと唐揚げを猫に食べさせた。しょうがない、今日は見逃してやろう。おまえ仔猫が居るんだから、もう捕まるんじゃないぞ!

 黒猫を厨房から外へ放してやった。
 
 
 Pert.8 体育準備室の声

 結局、『施錠された食堂から消える食材』の犯人は猫だった。
 まあ、そんなことだろうと妙に納得もした。――が、次の『深夜の体育倉庫から女の呻き声』は……なんか、やらしい感じがするなあ。これは俺がひとりで取材しよう。女子の真美や、天使のような心の草太には見せられない案件かも知れない。
 三人は校舎を出て、体育館の裏にある体育倉庫に向かう。やっぱり深夜の学校ってなんか不気味な感じだ。昼間は生徒たちの活気であんなに賑やかなのに、夜になると、この森閑さはどうだ? マジで幽霊の一匹や二匹は居てもおかしくないとさえ思える。
 うちの学校は歴史が古く、戦時中には空襲で多くの生徒たちが校庭で亡くなったとか……そういう話を思い出すと、ブルッと冬でもないのに寒気が走った。

 どうして、こんな気味の悪い取材を俺たちにさせるのか、葛西先輩の真意が分からない。ノリで決めた企画かも知れないけど、深夜に『学校の怪談』なんて……マジで勘弁して貰いたい。――この取材が終わったら、俺は絶対に新聞部を辞めてやろうと心に固く誓った。
「体育倉庫には俺一人で入るから、真美と草太はここで待っててくれ」
「えっ? どうして、私たちも一緒に取材するわ」
「何かあったら大声で呼ぶから、俺一人で大丈夫」
「ヒロシくん、僕も行くよ」
「草太はいいよ。デカイし目立つからさ」
 心配そうな草太の気持ちをわざと無視して、真美から預かった鍵を使い体育倉庫を開けて中に入っていった。

 倉庫の中は二部屋に分かれていて、手前の部屋にはハードルや平均台、ボール類などが置いてある。奥の部屋はマットと飛び箱があるようだ。
 何しろ真っ暗なので、這うようにして、俺は奥の部屋に向かった。ドアの隙間から微かに灯りが漏れている。そこから覗いたら……男女がマットの上でプロレス、違う、いきなり18禁の情景だった! 女の喘ぎ声が漏れ聴こえてくる。
 段々と暗闇に目が慣れて、窓から差す月明かりと倉庫に置かれたランタンでそこに居る男女の顔がぼんやりと見えてきた。あの禿げ頭は教頭の田村ではないか!? そして女はバツ1だが清楚で美人と男子生徒に人気のある保健室の奈津子先生だった。まさか、この二人がこんな関係だったとは……少なからずショックだった。
「ああ、こんなところで……する……のって、興奮するわ」
「奈津子先生も……スケベ……だなあ……」
「いやん……教頭先生の……エッチ……」
 途切れ々に男女の会話が聴こえた。
 バカ野郎! そんなにスリルを味わいたいのか? 
 こんな破廉恥なことを俺らの学校でやるんじゃない、ラブホでやれよ。――こいつら教師としての精神が腐ってる!
 俺は怒りを込めて、赤外線スコープを使って恥知らずの教師の恥かしい写真を撮ってやった。これは、いつか役に立つかも知れないと……そんな予感がした。
 ん!? その時だった、反対側の窓の向うに赤い光がチラッと見えたような気がする。
 あれ、なんだろう?

 ――これ以上は嫌悪感で見ていられなかった。
 体育倉庫から出てきた俺は、外で待っている二人には何もなかったと答えた。しかし真美は感が鋭いので、俺が何か隠していることを察知しているようだった。あんな醜悪な教師のことなんか、口にすることさえ気持ちが悪かった。


 Pert.9 徘徊するセーラー服の少女

 こんなネタばかりのクダラナイ真相では、学校新聞の記事には到底できそうもない。俺は完全に嫌気が差していた。
「なあ、こんな取材は止めてもう帰ろうぜ」
「ダメよ、ヒロシ。ちゃんと取材しないと葛西先輩に叱られるわ」
「……けどさ、どうして先輩も一緒に取材しないんだよ。俺たちにばっかりにさせて、葛西先輩はズルイと思う!」
 俺は葛西先輩とは会ったことがない。一応、新聞部部長だが学校には来ないし、部活の指示や活動資金などについては、全て真美とメールで遣り取りしているのだ。――自分は何もしないで、高みの見物を決め込んでいる葛西先輩に対する不満が沸々と、俺の中で沸点に近づいていた。
 しかも、さっき見た醜悪な教師たちの姿が脳裏に浮かんで俺は吐きそうな気分だった。正直、早く帰りたかった――。
「葛西先輩は付き合っていた彼女が、行方不明になってから登校拒否になったのよ」
「えっ、行方不明? それは初耳だ」
「詳しいことは知らないけど、他校の女生徒だったらしいの。一年前、デートの帰りにこの辺りで別れた後、忽然と消えたんだって……」
「マジ? それこそ怪談じゃん」
 その話は俺の興味を惹いた。
「先輩は今でも、彼女のことを探しているらしいよ」
「――そうか、忽然と消えたとか、何があったんだろう?」
 深夜の学校に秘密が隠されているような気がする。

「うわっ!」
 突然、草太が大声を出した。
「ど、どうした!?」
「今、渡り廊下を誰かが通った!」
 体育館から校舎に繋がる廊下を、こんな時間に誰かが通ったと言う。
「まさか? 深夜の管理人さんじゃないのか」
「違う。セーラー服を着た女の子だった……」
「マジ?」
 草太は渡り廊下を指差し、力強く頷いた。
 それって、今回の取材のテーマ『真夜中の学校を徘徊するセーラー服の少女』のことじゃないのか。まさか、実在する話だったとは……。
「よっしゃあ! そいつを捕まえよう!」
 俺たちは懐中電灯を手に持って、謎のセーラー服の少女を追いかけた。






   創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-08-25 06:59 | ミステリー小説

スリーサイズ探偵部 ②

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 Pert.4 俺と親友の草太

 俺と小西草太は中学からの親友なのだ。
 草太は小西と小さな西だが、実は身長187㎝体重100k以上という巨漢なのである。家は手作りパンのお店で、まん丸でにこやかな顔のせいで、みんなに「アンパンマン」と呼ばれている。大きな身体の草太だがとても繊細で気が優しい。花や動物が大好きな奴である。
 中学生の頃、図体はデカイが気が優しくて、人に逆らわないので、いじめっ子グループの標的になった。カバンや荷物を持たされたり、パシリに使われたり、家からパンを持ってこさせたりと草太は利用されていた。
 同じクラスだった俺は、見兼ねて、いじめっ子グループの奴らに草太の代わりに文句を言ってやったが、当の草太が虐められている自覚が全くなくて……何を言われてもニコニコしている。
 ――そんな草太がどんだけ歯がゆかったことか!
 いじめられっ子の草太だが、実はアンパンマンのように正義感が強い男なのだ。

 あれは中三の時だった。俺と草太は同じ塾に通っていて、夜、自転車で塾帰りに公園の前を通りかかったら、犬の鳴き声が聴こえた。
 それはキャンキャンと泣き叫ぶような悲痛な声だった。薄暗がりの公園の中を目を凝らしてよく見たら、一匹の仔犬が首にヒモを巻かれ引きずり回されて、まるでサッカーボールみたい蹴飛ばして遊んでいる奴らがいるではないか。仔犬をオモチャにしていたのは高校生くらいの男たち三人組だった。

 ――それを見た瞬間、草太の顔色が変わった。
 いきなり自転車を乗り捨てると、その三人に向かって突進したのだ。あっという間に三人組をブン殴り蹴りを入れ、投げ飛ばしていた。俺は呆気に取られて、その場面を茫然と見ていたが……あの気の優しい草太にあんな暴力的な部分があったのかと、ただただ驚いた。
 まるで、素朴な顔のご神体ハニワが、怖ろしい大魔神に変身したようだった。
 あんな怖い顔の草太は初めて見た。《お静まりください。草太さま……》急に現れた巨漢の人物《まさか、相手は中学生だとは思っていない》に、ボコボコにされて、ほうぼうのていで奴らは逃げて行った。
「こ、この野郎、覚えてろよぉー」
 最後に、お決まりの捨て台詞も虚しいだけだった。

 その後、ぐったりした仔犬を胸に抱きしめて、草太は涙を流していた。
 傷だらけの仔犬を獣医に連れていきケガが完治するまで、ずっと仔犬の世話を草太が看ていた。ビラを配って飼い主を探したが、誰も名乗り出なかったので――結局、草太が家で飼うことになった。
 チーズと名付けられた雑種の仔犬は、今ではパン屋の看板犬になっている。

 草太の隠された能力はそれだけではない。
 実はイラストレーター志望なのである。草太の描く女の子は色使いが美しく、繊細で緻密でプロ顔負けに上手いのだ。ネットの絵師専用SNSでも草太の人気は高く、頼まれて同人誌の表紙画を描いたら、コミケでその本は飛ぶように売れていた。取材をしていた俺は、その様子を目の当たりに見て《もしかして、草太って天才絵師かもー?》と思ったくらいである。
 新聞部では俺が記事を書き、真美は写真を撮る。草太は新聞のレイアウトとイラスト担当、それぞれ役割分担が決まっている。
 だけど、俺たちの作った学校新聞は教室で配っても人気がなく誰も読んでくれない……女子なんか草太のイラストだけ切り抜いて、後はゴミ箱へポイである。
 だから、こんな虚しい『新聞部』を辞めたくて仕方ないが、真美と草太がやる気満々で許してくれないのだ。おまけに俺は副部長という任まで背負わされている。

 ああーあ、もうどうにでもなれって気分の大西洋です。


 Pert.5 葛西先輩の課題

 毎回、学校新聞のテーマを葛西先輩から出される。取材のための費用も貰える。いつも真美のパソコンにメールで送って来るらしい。
 そして今回のテーマだが、『学校の怪談』なのだ。なにそれ? ベタなテーマだなぁー。
前回は『徹底検証! 牛丼食べ比べ』だった。新聞部のメンバーで吉野家、すき家、松屋など牛丼チェーンを食べ歩いた。
 この企画を一番喜んだのは草太だった、全店で牛丼二杯づつ完食していったので、牛丼食べ比べの記事を草太に頼んだら……、「どの店も比べられないくらい美味しい!」ときたもんだ。それじゃあ、ただの食いしん坊の感想じゃないか。これじゃあ、取材する意味ないじゃん!
 まあ、そんなダメっぽ新聞部の次の取材テーマが『学校の怪談』なんて、滑りそうで怖い。だけど、スポンサーである葛西先輩の意見は絶対なので逆らえない。
『学校の怪談』で取材するのは、校内で話題になっているのは三つの噂だ。
 一つ目が『施錠された食堂から消える食材』なんじゃそりゃあ? 深夜に誰か摘み喰いか?
 二つ目は『深夜の体育倉庫から女の呻き声』ちょっと怖そうだ。
 三つ目の最後が『真夜中の学校を徘徊するセーラー服の少女』うちの高校はブレザーだから、他校の女生徒の侵入か? ちょっと捕まえてみたいような……。可愛い幽霊だったら、welcomeだぁー。などと俺が妄想していると、
「ヒロシ、あんた聴いてるの?」
 いきなり俺の妄想を遮断して、現実の真美が怖い顔で睨んでいた。
「はい、はい。聴いてますよぉー」
「もう! ヤル気ないんだから」
「そんなことない! いつも俺はクールなだけさ」
 突っ込むのもアホらしいという顔で、真美は話を続けた。
「――で、今週の日曜日に取材をします。午後十時に学校の通用門の前に集合ね!」
「そんな時間からだと腹が減っちゃう」
 大食漢の草太は一日五回の食事が必要なのだ。
「じゃあ、コンビニで何か買っていこうか」
 葛西先輩から取材費が出ているので、我が新聞部は財政的にはリッチなのだ。
「はーい、質問! おやつは500円までですか?」
「……ヒロシ、いつまでも子供染みたギャグを言ってんじゃないわよ」
 冷ややかな真美の一瞥に、俺は一瞬でシュンとなった。
 よくよく考えると――物心ついてから、ずっと俺は目下扱いだった。いい加減、真美とは縁を切りたい。新聞部なんか潰れちまえっ! てか、なんで葛西先輩は自分でやらないで俺たちにやらせているんだろう?


 Pert.6 侵入! 真夜中の学校

 日曜日、午後十時キッカリに俺は集合場所の通用門の前で待っていた。
 いつも通学には電車を使っているのだが、深夜なので終電がなくなるかも知れないと思って、自宅から一時間掛けて自転車でやってきた。
 それなのに後の二人がまだ来ていない。
 待つこと十五分、やっと二人がきた。それも草太の家の自動車で送って貰ってだ。
「遅い!」
 開口一番、ムッとした顔で俺は言った。
「ごめん、ごめん……。草太君ん家でご飯食べさせて貰って、二人でゲームやって、コンビニで買い物してたら遅くなっちゃった」
 珍しく真美が俺に素直に謝った……が、なんかムカつく。
「おまいら仲がいいんだなぁー」
「あっれぇー、ヒロシったら仲間外れにされて拗ねてる?」
「そんなんじゃない。おまいらが時間を守らないから……」
「もしかして……焼き餅なの?」
「断じて違う!」
 全力で否定する。
「僕と真美ちゃんは仲良しの友だちだよ。ヒロシ君とは大親友だもん」
 草太の微妙なフォローに納得できるような、納得できないような……。まっ、いっかぁー。
 さて、気を取り直して、
「よーし! 今から深夜の学校に潜入するぞぉー」
 勢いよく、通用門の門扉に手を掛けた俺だが、当然、施錠されている。
「おい……。どうやって入るの?」
 その言葉に二人して笑い転げやがった。クソッ!
「あははっ、ちょっと待ってね」
 真美がインターフォンを押した。すると、常駐している警備会社の深夜の管理人が出た。
『こちら管理人室ですが……』
『スミマセン。新聞部の者ですが、今夜、校内で取材しますから中に入れてください』
『はい、話は聴いていますから。どうぞ』
 そう言うと、門扉が自動で開いて俺たち『新聞部』は校内に入っていった。《話は聴いてますから……》って、いつ、そんな話を学校や深夜の管理人に通していたんだ? 俺の知らない所で、この新聞部は活動してるんだなぁー。やっぱり俺なんか居なくてもイイじゃんか。ちょっとイジケちゃった俺です。






創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-08-15 06:30 | ミステリー小説

スリーサイズ探偵部 ①

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 Pert.1 アイツと俺

 俺は注意深く周りを見回した。
 授業が終わった放課後の教室には生徒たちがまだ残っていて、あっちこっちで雑談をしている。その中にアイツの姿は見当たらない。
 よし、今だ! 今こそチャンス。
 俺はゆっくりと椅子から立ち上がると人目につかないように、気配を殺して、そっと教室のドアを後ろ手で閉めた。教室から抜け出した俺は廊下に出ると早足で歩き、教室のある三階から一階までは階段を一気に駆け降りた。
 急げ! アイツがいない間に逃げるしかない。
 校舎から出ると正門ではなく、裏の通用門に向かって俺は全力疾走する。五時間目の授業が終わった休憩時間に、通用門の近くの植え込みの中に逃走用にカバンを隠して置いたのだ。
 校内から出たら、このまま駅に向かい電車に乗ってしまえば、こっちのものだ。これで家に帰れるぞ! ニヤリと思わず笑みが零れる。

 だが、しかし……植え込みに隠して置いたカバンを見た瞬間、俺はギョッとした。
 カバンには紙が貼ってあり、赤マジックでこう書いてあった。
『残念でした!』
 ゲゲッ! 嫌な予感がする。その時、背後から声がした。
「ヒロシ! あんた逃げようとしてたでしょう?」
 ヤ、ヤバい見つかったか!?
 振り向くと、身長150㎝の小さな身体とは思えない威圧感で、アイツは俺の前に立ちはだかった。
「部活サボって帰る気だったのね」
「いや……そのう、今日は腹の調子が悪くてさ……」
「嘘おっしゃい! さっき凄い勢いで走って来たくせに、部活が嫌で逃げようとしてたことはお見通しよ。五時間目の休み時間に通用門近くの植え込みに、ヒロシが何かをコソコソ隠そうとしているのを三階の窓から見ていたんだから」
 しまった! アイツには俺の行動パターンをすっかり把握されている。
「あはは……今日は近所のスーパーの特売日だからって、母さんに早く帰ってこいって言われてたんだ。――いや、ホントに……」
「ぐだぐだ……言ってないで、ヒロシ行くわよ!」
 苦し紛れの姑息な嘘は一瞬にして見破られた。アイツは憐れむような目で俺の腕を掴んだ。そして有無を言わせず、部室へと連行されていく。あぁー、なんてこったぃ!

 ――どうして新聞部なんかに入ったんだろう。
 てか、入ったというより俺は無理やりに入部させられたのだ。なぜ、こうなったのかを説明する前に俺の背負わされた運命とでもいうべき事柄について話したい。
 まずは自己紹介から、俺は都立高校二年生の大西洋。大西洋(たいせいよう)と書いて、オオニシ ヒロシと読む。これは両親のお茶目心から付けられた名前に違いない。同様の理由で、世の中には大平洋(おおひら ひろし)という人物が存在するであろうことは容易に想像がつく。
 まあ、名前はいいとしても、アイツとの腐れ縁だけは何とかしたい。
今、俺の制服の袖を引っ張って、無理やり部室に連行しようとする女子。名前は中西真美(なかにし まみ)真実と書いてマミ。その名前のせいか、曲がったことが大嫌い。スジの通らないことは許せないという熱血娘だ。彼女の両親は父が報道カメラマン、母がルポライターというマスコミ一家で、真美自身も将来ジャーナリストを目指しているのだ。
 そのために真美は新聞部に入部して、帰宅部だった俺まで誘われて? いいや、脅されて入部させられてしまったのだ。


 Pert.2 俺のカミングアウト

 あることが原因で俺は真美にいっさい頭が上がらない。この上下関係はヘタすると一生続きそうで怖ろしい。そのあることとは……。
 実は俺と真美は誕生日が同じなのだ。俺らの母親は同じ産婦人科で同じ日に赤ん坊を生んだ、それが俺と真美――。母親同士が初産で年も近いし家も近所だと知って、ママ友になった。お互いに育児の相談なんかしながら俺らを育ててきんだ。子育てを終えた今でもふたりはとても仲が良い。
 ちなみに真美はひとりっ子だが、うちは俺の下に三つ違いの弟がいる。
 俺たちは誕生日が一緒だということで小さい時から両方の家で誕生日のお祝いをして貰ってきた。真美ん家と俺ん家で二回お誕生日会あるのだ。それが当たり前だと思うくらい、物心ついてからずっと慣例だったのだ。そして今年もやはりその慣例は実行されて真美は楽しそうだったが、毎年々、アイツと一緒にバースディケーキのろうそくを吹き消さないといけないんだぜぇー。もういい加減にしてくれと俺は叫びたい!
 
 ああ、また脱線してしまったが……。
 ズバリ言っちゃうと真美に弱みを握られていて逆らえないのだ。
 その弱みと言うのは……俺が小学五年生の時だった。母親同士が仲良しなので、俺たちは小さい時からお互いの家で泊り合いをしていた。真美の母親が取材で出張する時には、二、三日うちに泊りに来るのは当たり前だった。女の子がいないので真美が来るとうちの母親は大喜びで一緒に料理を作ったり、手芸したりして、弟マサシがひがむほど仲良し母娘ぶりを発揮するのだ。
 真美は家族同然なので俺たちは小学校の高学年になっても一緒に寝たりしていた。その日は寝る前に、みんなで大きなスイカを食べたのだった。真夜中に目を覚ますと何だかパジャマのズボンが濡れている。ゲゲーッ! 俺、オネショしちゃった!?
 まさか、五年生にもなってオネショするとは思わなかった。どうしよう? 俺の右隣には真美が眠っている。左隣には弟のマサシが居る。あれれ、いつの間に弟まで俺の布団にいるんだ。とにかく、濡れたズボンを脱いで何んとかしなくては……。
 俺が焦ってモゾモゾしていたら、その気配で真美が目を覚ました。
「ヒロシ……」
「な、何でもないから寝てろよ」
 俺は小声で真美を寝かせようとしたが……。
「あれぇー? 濡れてる?」
 しまった! オネショがバレた。
「た、た、頼むから、このことはナイショにしてくれ」
 俺は泣きそうな声で真美に懇願した。もし五年にもなってオネショしたなんてクラスの奴らに知られたら……それこそ一生笑い者にされて、イジメられるに違いない。
 気持ち悪いのでパジャマと下着は即着替えたが、この布団をどうしよう? ぐっしょりと濡れている。
「ヒロシ、その濡れたズボンはマー君に穿かせなよ」
「えっ?」
 マー君とは、俺の弟のマサシのことで、まだ小学二年生で寝ぼけてオネショする癖がある。何んという悪知恵! この場合、マサシが犯人なら誰も疑わない。酷いこととは知りつつ、濡れたズボンを穿かせ、オネショ布団の上に弟を寝かせた。その後、母親にマサシがオネショしたと伝えに行った。
 母親は「あら? マー君がヒロシのパジャマをなぜ着てるの?」と、ちょっと不思議そうな顔をされたが、まさか五年にもなった長男がオネショする筈ないと、マサシを起こして着替えさせていた。そして濡れた布団はベランダに干した。
 弟はオネショしたかどうか眠っていて自覚がないので、その罪をすんなりと受け入れていた。たったひとりの弟に罪を被せた、俺は最低の兄貴だった――。
 さすがにマサシに悪いと思った俺は、ゲームボーイアドバンスのレアなポケモンを通信でマサシのDSにいっぱい贈ってやった。兄からのビックなプレゼントに弟は目を丸くして喜んでいた。これがせめてもの罪の償いだとも知らずに……。
 そして、真実(しんじつ)を知っている真美に口止めを頼んだ俺は弱みを握られて、もう一生逆らえなくなってしまったのだ――。
 まあ、これが俺と真美の過去のカミングアウトである。


 Pert.3 俺たちスリーサイズ

 観念した俺は真美に引っ張られて『新聞部』の部室に連れて来られた。
 新聞部の部室は図書室の奥の書庫の片隅である。ここならコピー機やパソコンがいつでも使えるという利点からだったが、こんな窓もない、埃臭い部室は居るだけで気が滅入る。何しろ新聞部は俺を含めて、たった三人の部員しかいない超弱小クラブである。
 顧問は図書室の管理を任されている、英語の根岸先生だが、これが眼鏡で髭を生やした神経質で陰気な人物なのだ。全然、俺たちの世話を焼いてくれないし、それどころか新聞部の部室がここにあること自体、とても迷惑そうなのである。
 書庫の中には、根岸先生の趣味と思われるカメラや画像編集するための機械が置いてあって、触ろうものなら、すごい剣幕で怒鳴られた――。顧問のくせにそれはないだろうと言いたいけれど、四十二歳、独身、女っ気なし、いわゆる、そいつはキモヲタ教師なのだ。

 それでも『新聞部』が存続できているのは、部長の葛西先輩のお陰だろう。
 葛西先輩は三年生だが去年から不登校が続いて、ついに留年してしまった。彼は本来、もの凄く頭が良く、ずっと学年トップの成績だったが、一昨年の暮れから、急に不登校になってしまったのだ。――それで、家で何をしているかというと、ネットで起業してアフィリエイトやオークションで月に二十、三十万は稼いでいるという噂である。何しろネットはパソコンさえ扱えれば高校生だろうが、ニートだろうがお金を稼ぐことができる世界なのだ。
 そして葛西先輩は新聞部のスポンサーとなって部費や活動資金などカンパしてくれている。現在、活動しているメンバーは俺たち三人だけだが、廃部されないように帰宅部の奴らに、お金をバラ蒔いて幽霊部員になって貰っているのだ。
 なぜ、そこまでして葛西先輩が新聞部に執着しているのか知らないけど――俺的にはこんなクラブは無くなってくれた方が助かるのだが……。

「あっ、ヒロシ君おヒサ!」
 俺の姿を見つけて、新聞部の三人目の部員である小西草太(こにし そうた)が嬉しそうに手を振った。

 ここまで読んだら、もう分かってくれたかなぁー? 
 俺は大西、真美は中西、草太が小西。三人揃って大・中・小の西なのだ。三つのサイズの西、西はウエスト(腰回り)、だからスリーサイズである。その後に付く「探偵部」は、俺たちスリーサイズの活躍次第だから、お楽しみなのだ。






   創作小説・詩
                                  
by utakatarennka | 2013-07-05 05:47 | ミステリー小説
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  ― Adauti ― [後編]

 あの夜、留置所の独房に俺は居た。
 深夜に人の足音と鍵を開ける音で目が覚めた。闖入者は三人、スーツを着た三十代の男と、警察関係と思われる屈強な男と、白衣の中年女だった。
 突然の訪問者に驚いた俺に、スーツの男が、
「放火殺人で無期懲役が確定している者だね」
 ひどく冷静な声で訊ねてくる。その後、俺の名前を言い返答を求めた。そして弁護士の緒方彬だと自己紹介をした。
「君に被害者の家族から『仇討制度』要請の書類が申請されて、『Adauti』支援の会で受諾された」
「仇討?」
「そう。君に家族を殺された人たちが仇を討って欲しいと署名を集めたんだ」
「……だったら、俺を死刑にすればいいだろう」
「死刑制度は廃止された。だが、被害者の家族は君に仇討をする権利ができたのだ」
 死刑制度が廃止になったがため、加害者を厳罰に処すことができなくなり、被害者の家族や世論の不満の声が大きくなった。そこで新しく導入された『仇討制度』では、1万人以上の署名と仇討資金(約五千万円)が揃えば、死刑の代わりに選任の仇討人が加害者と闘って仇を取ってくれるというものである。
 だが、加害者が三日間逃げ切ったら、すべての罪を帳消しにして、自由と身の安全を保証してくれるルールになっている。――と、緒方彬と名のる弁護士の説明を、黙って俺は聴いていた。

「本当に罪が帳消しになるんだな?」
「ああ、君が逃げ切ったら別の人物になって、海外で暮らす資金が与えられる」
「実際に逃げ切った奴はいるのか?」
「いる。……だが、それが誰かは口外できない」
 ――俺は考えた。
 これから一生刑務所で暮らすぐらいだったら、一か八かで脱出ゲームに参加してもいいかもしれない。もう一度、社会に戻って一旗揚げたいという野心を俺は未だ捨てきれないのだ。
 このまま刑務所で朽ち果てるくらいなら……わずかなチャンスでも喰らいついてやろう。
「どうする? 君次第だ。嫌なら刑務所で一生暮らすだけのことだ」
 緒方弁護士の冷ややかな言い方が、俺の癪に障った。
「やる。やってやる!」
「そうか。だったらこの書類に著名と拇印を押してくれ」
 そう言うと、『仇討制度取り決め書』と書かれた書類を手渡した。俺は時間を掛けて細部まで読み取ってからサインをした。
「これで契約が成立した。今から君は『仇討制度』実行の準備に入る」
 言った途端、いきなり屈強な男が背後から俺を羽交い締めにした。
「うわっ! なにをする?」
 叫んだら、ガムテープを口に貼られた。白衣を着た中年女が俺の腕に注射をした。
 すると俺は忽ち意識を失ってしまった――。



 次に気が付いたら、どこか森のような所にいた。
 どのくらい意識を失っていたのか分からないが、またあの三人が俺を囲うように立っていた。緒方弁護士がこっちを見て、
「やあ、気が付いたかい?」
「ああ……ここはどこだ」
「樹海の中だ」
「樹海?」
「そう。この緑のコロシアムと呼ばれる樹海の中で、君は仇討人と闘うのだ」
「……そうか」
 俺の左手首には大型の時計が嵌められていた。タイムウォッチみたいに時間がカウントダウンしていっている。
「この時計はなんだ?」
「Gショックだ。72時間逃げ回ってゲームオーバーになれば、君は自由になれる」
「これには、何か仕掛けがあるんじゃないのか?」
 俺は時計を外そうとしたが、まるで手錠のように頑丈で外すことができない。
「無理に外そうとすると爆発するよ。これは君の位置を見張るためのものだ」
 このGショックにはGPSが搭載されているのか? 俺が逃げ出さないように――。
「こんなもん着けられて……俺は不利じゃないか!」
 その抗議の声に、緒方弁護士はフンと鼻を鳴らした。
「今まさに、仇討人もこの樹海のどこかに潜んでいる。この時点から君の命は狙われているのだ」
「ゲームがスタートしてるのか?」
「そうだ。君のGショックはカウントダウンを始めた、もう後戻りはできない」
「……分かった」
 もう覚悟を決めるしかない。
「ここに君の必要な物が入っている。では、健闘を祈るよ」
 それだけ言うと三人は、俺たちを運んできたと思われるヘリコプターに乗って上空に舞い上がっていった。
 俺はそのヘリコプターの騒音を聴きながら、まだ意識を取り戻したばかりのぼんやりした頭で、これから何をなすべきか考えていた。
 袋の中には水と食糧、そしてサバイバルナイフが入っていた。――俺に与えられた武器はこれだけか。敵の装備はどうなんだろう? もし銃だったら俺には勝ち目がない。
 鬱蒼とした森の中で見通しが悪いし、俺と戦う相手のデータ―は皆無だし、これでは作戦の立てようもない。
この緑のコロシアムに立って、俺は少し後悔し始めていた。

 その時、パキッと小枝が折れる音がした。
 振り向くと戦国武者のような鎧甲冑を着けた人物が見えた。《こいつが俺の敵、仇討人か!?》真っ黒な鎧甲冑で顔は見えない。手に一振りの日本刀を持っている。
 敵は俺を探しているようだから、見つかる前に俺は匍匐前進しながら逃げた。

 墨を流したような漆黒の闇だ。
 天上に月と星が輝いているが、それ以外の光は何もない。
 敵に見つかるので火を起こすこともできない。手元も見えない真っ暗闇の中で俺は食糧を漁る。軍用レーションか、まるで戦争だな。
 いや、これは俺に取って生き延びるための戦争なんだ。
 黒い甲冑を見てから、10時間は経っている。さすがに、この暗闇では敵も行動できまい。今夜はここで眠るとしよう。
 俺は木の株にもたれてウトウトし始めた――。
 ふいに気配で目が覚めた。
 俺の目の前に黒い戦国武者が立っている。闇の中で目が赤く光っていた。
 どうやら赤外線ビームで暗闇でも敵には俺が見えるようだ――空気を切り裂く音がした。俺に向かって日本刀が振り下ろされる。
「うわっ!」
 転がるように飛び退いて、俺は暗闇の樹海を無茶苦茶に走り続けた。何度も木にぶつかり転んだが、それでも必死で逃げた。
 黒い甲冑は……たぶん甲冑が重くて早く走れないようだ。
 いきなり俺の身体が宙を浮いた?
「あっ!」と叫んだ、瞬間、奈落の底へと落ちていった――。

 ……気が付いたら、俺は沢のような所に倒れていた。
 どうやら、逃げてる途中で崖から沢に滑り落ちたようだ。何とか敵の追跡は逃れたが……身体中が痛いし、切り傷だらけだ。あっちこっち痛いが骨折はしてないようだから、立って歩けた。
 あれ、ナイフは? 俺の唯一の武器サバイバルナイフはどこだ? 
 たしかに、持って逃げたはずなのに……数メートル離れた場所にナイフが落ちていた。良かった、これでもないと、あんな甲冑野郎とはとても闘えない。
 こんな目につく場所に居てはいけないと、俺はとぼとぼと歩き始めた。
 食糧は昨夜の場所に置いてきてしまった、これから二日間生き延びなければいけないというのに……いったいどこへ逃げればいいんだ。
 サバイバルナイフを握りしめて、重い絶望感に打ちひしがれた。


 二日目の夜、俺は木のほこらを見つけた。
 大人が膝を抱えてやっと入れた広さだが、四方を木に囲まれているので、何だか少し安心できる。周りは茂みになっているので敵に見つかりにくい。
 食糧は失ったが、ポケットに入れていたチョコレートを舐めながら休むことにする。――真夜中、カシャカシャと鎧甲冑の音を立てながら、黒い戦国武者が歩き回っている。
 俺を探しているようだが、茂みに隠れて、このほこらを見つけられないのだろう。
 小雨が降り出したようだし、敵は諦めて帰っていった。

 夜が明けたら、俺はまた移動を始めた。
 昨夜のほこらの中は安全だったが、同じ場所に居たのではいずれ見つかってしまう。とにかく歩く、ただ歩き続ける。――だが、空腹が苦しい。後、もう一日、持ち堪えられるか?
 沢におりて水を飲んでいるところを敵に見つかった。
 黒い戦国武者は日本刀を振り回して追いかけてきたので、俺は慌てて逃げ出した。高校の時、陸上部でインターハイにも出場したこともある俺は逃げ足だけは自信があった。案の定、重い鎧甲冑の敵は追いつけず、とうとう見失ったようだ。
 俺の武器はこの脚だけなのか。こうなったら、逃げて逃げて……最後まで逃げ切ってやるさ!


 三日目の夜がきた。
 漆黒の闇の中で月と星が輝いている。なんて静かなんだ――時おり梟の鳴き声が聴こえるが、夜の闇は深く、静寂が重たい。
 あの事件から初めて、俺が命を奪った被害者たちのことを考えていた。
 妻――結婚して半年だった。行きつけのカフェバーで働いていた彼女を見染めて、一方的に好きになった俺は、押しの一手で結婚にまでこじつけた。
 きれいな女だった。
 いつも俺の気持ちばかりを押しつけて……一度だって、妻の気持ちを訊いてやったことがあっただろうか? 自己中な俺に妻は幻滅していたのかもしれない。 
 アイツ――大学の先輩で俺のよき理解者だった。
 大学卒業して俺が起業したら、働いていた一流企業を退職して、俺のパートナーになってくれた。
 いい奴だった……すぐに暴走する俺を諫めてくれていた。だから、妻もアイツを信頼して、俺のことでいろいろ相談していたようだ。
 俺たち夫婦はお互いの価値観の違いから口げんかが絶えなかった。激昂した俺は妻に暴力も振るっていたし、息抜きだといって風俗でも遊んでいた。
 それでも俺は妻のことを愛していたし、アイツのことも好きだった。信頼する二人の裏切られて俺は逆上して、完全に自分を失っていたんだ。
 怒りにまかせて復讐したが……今となっては、大事な者をうしなった喪失感しかない。あんな凶行を起こす前に、冷静になって話し合うべきだったと悔やまれる。

 ――あの二人を責める資格が、この俺にあったのだろうか? 

 アパートに放火して罪のない住人まで、巻き添えに殺してしまった。
 その中には女子大生や単身赴任のサラリーマンもいたという。彼らには家族や友人や恋人もいただろうし……その人たちから、俺は大事な者を奪ってしまった。
 関係ない人たちが、他人の痴話げんかの果てに焼き殺された。それが彼らの運命だったとしても、あまりにも理不尽だろう。
 なんて、俺は罪深い人間なのだ――。
 すまない許してくれ、みんな俺が悪いんだ。
 この手で命を奪った妻とアイツに無性に会いたかった。
 あの世に逝ったら、二人に赦しを乞いたい、胸を掻き毟るような後悔で俺は泣いた。――その夜、俺はスピリチュアルな気持ちになっていた。


 最後の夜が明けた。
 昨夜は自分の犯した罪に涙したが、陽が昇れば、やはり生きたい気持ちが強くなる。
 あと、6時間だ。今日の正午になれば、俺は無罪放免になれるのだ。
 とにかく、敵に見つからないように移動しよう。だが、ほとんど二日間食事を摂っていない俺の体力は限界にきていた。
 もう少しの我慢だ! あと、6時間でこのゲームから解放される。
 敵に見つかりにくいように、鬱蒼と木の茂る深い森を歩いていく。たとえ俺の居場所をGPSで把握していたとしても、ここは視界が悪く、隠れられる場所も多いから、この森を逃げ回っていたら時間が経過そうだ。
 あと、3時間か。よし!

 ――そう思って歩いていたら。
 いきなり、俺の行く手に黒い戦国武者が現れた! 
 あの野郎……、《クソ! 待ち伏せしてやがった!》木々を挟んで俺たちは対峙した。その距離約15メートルか。その時、奴が手に持っている物が見えた。
 手榴弾!?
 ヤバい! 俺は慌てて踵を返して逃げ出した。
 敵はゆっくりと安全ピンを外して、手榴弾を俺に向かって放り投げてきた。
 全力疾走で逃げる。まさか、手榴弾を持っているなんて想定外だった!
 背後で爆音がした、爆風で物が飛んでくる、小枝や倒れた木が襲ってくる。大きな切り株の陰に身を潜めた。
 まさか、手榴弾を使うなんて……俺は恐怖でブルブル震えていた。
 今、敵は俺の遺体を探しているのだろうか? ここに居ては見つかってしまう。次の手榴弾を投げ込まれる前に逃げなければ、森の中は視界が悪い。どうせ隠れるなら、草原の方が敵の動きも分かりやすい。
 手榴弾を使うなんて……敵も時間が無くなってきて焦っているようだ。
 しかし、だが――待てよ。
 冷静に考えて手榴弾で俺を殺すのはマズイだろう。身体がバラバラになって、身元不明の死体になってしまったら、『仇討制度』に申請した家族が俺の死体だと確認できなくなる。それじゃあ、仇討が成功したかどうか分からないじゃないか。
 もしかしたら、さっきの手榴弾は脅しだったかもしれない。逃げ足の速い俺に、飛び道具をみせて動きを封じる計画なのか?
 ひとまず、森を抜けるべく俺は歩き続ける。
 陽が高くなってきた、正午は近いぞ!

 野生のあけびの木を見つけた。
 子どもの頃に田舎の祖父の家で食べたことがある。10センチほどの大きさで薄紫色の果実、口が開いているのが完熟で食べられる。
 俺はしゃにむに木によじ登って手を延ばして、三つほどもいだ。
 あけびにむしゃぶりついた、ほんのり甘くて美味しい、種を口から吐き出す。
 食べ物が胃に入ったら、少し元気が出てきた。切り株にもたれて空を見上げる、いい天気だ。なんて空が青いんだ。
 ――どうして俺は、こんな場所で逃げ回っているのだろうか? 
 子どもの頃は普通の子だった、両親にも愛されていたし、友人もいっぱいいた。将来への夢もあったし、結婚して幸せな家庭を築こうとしていた。
 それなのに……それなのに、俺は……どこで道を誤って、こんな地獄に堕ちてしまったんだ。
青空が眩しくて、涙が頬に零れた。

 黒い戦国武者も俺を探しているんだろうなあ、奴もあんな大層な鎧甲冑を着けて歩き回るのは大変だろう。
 ふと、思った。――なぜ、奴はこんな仕事をやっているのだろう? 金のためか? 正義のためか? 
 緒方弁護士は俺たちを残して、さっさっと引き揚げてしまっている。どうして、俺を殺すためだけに、こんな大掛かりなセッティングが必要なんだろう。
 なんとも釈然としない疑問が頭をもたげてきた――。いいや、そんなことを考えるより、今は逃げ切ることが先決だ。
 Gショックは残り1時間を切っていた。


 森を抜けて、草原を歩く。
 心地よい風が吹いてくる。こんな命を賭けたゲームをやっているなんて嘘みたいだ。
《絶対に逃げ切ってやるぞ! もう一度、俺は娑婆へ戻りたい!》
 心の中で強く願う。
 Gショックは残り15分を切っていた。72時間逃げ延びたら新しい戸籍と整形手術で別の人間になれる。一生外国で暮らす資金もくれるという条件だった。
 俺と緒方弁護士は書面で契約を取り交わしたんだから――。

 ガサガサと草が揺れている、追跡者の気配に俺は慌てて窪地に身を潜めた――。

 距離を空けると手榴弾を投げ込まれる可能性がある。近づくと日本刀で斬られる。こうなったら奇襲戦しかないか? 一か八かで敵の動きを封じる方法を考えていた。

 鎌倉時代、甲冑の重量がたしか25~30キロはあったと聴いたことがある。日本刀も10キロ前後あるとか、中の奴は相当重いだろうに……。
 俺には身軽な身体と脚がある。後、12分……か。
 黒い戦国武者の足音が近づいてきた、兜と被っているお面のせいで奴の視界はかなり悪そうだし、意外と足元は見えていないかも知れないぞ。
 一歩、二歩、三歩……黒い戦国武者が近づいてくる――。
 GPSでは俺の居場所がここだと指示しているのに見つからないので、奴は焦っているのはずだ。この窪地は草で覆われて外からは発見されにくいだろう。
 ガサッ、奴の足が見えた!

「うりゃ―――!」

 サバイバルナイフを奴の足に突き刺したら、大きな音を立てて仰向けに倒れた。すぐに日本刀を持った手をナイフで斬りつけた。
 あまりの至近距離に奴は成す術もなく、重い甲冑のせいで起き上がれない。
 俺は奴の上に馬乗りになって、兜をずらすと喉にサバイバルナイフを突き立てた。絶叫の後、しばらくピクンピクンと全身を痙攣させていたが、やがて黒い戦国武者は動かなくなり、息絶えたようだ。
 やったー! ざまぁみろ! 俺の完全勝利だ――!!

 ピッ、ピッ、ピッ、ピィ―――! 
 Gショックが点滅してアラームが鳴りだした。
『ゲームセット!』
 Gショックから緒方弁護士の声が聴こえてきた。
「おいっ! 俺の勝利だ。奴は殺した」
『おめでとう! 今、そっちへ向かうよ』
 そういう声と同時に空中を旋回しているヘリコブターが見えた。騒音を立てながら空から降りてくる。そこから、また例の三人が出てきた。
 緒方弁護士は俺の足元に横たわる、黒い戦国武者を見て、
「ほぉ、殺ったんですか?」
「こいつは手榴弾を持っていたんだ。殺らなければ、こっちが殺される。仇討なら返り討ちっていうのがあるだろう」
「それじゃあ、今度は君に仇討人をバトンタッチして貰いましょうか」
「はぁ? 何のことだ。俺の罪は帳消しにして自由になれる約束だろう?」
「君は極悪人のくせに、僕の言うことを信用したんですか?」
 その言葉に唖然となった。
「……何だって? ちゃんと契約書を取り交わしただろうが……」
「まあ、君が生きている人間なら、その契約は有効ですが――もう戸籍を抹消されて、君は死んだ人間になっているんです」
「ど、どういうことだ!?」
 緒方弁護士の言葉に俺は耳を疑った。《俺が死んでる? そんなバカなっ!》これは奴らの罠だったのか。
「君を仮死状態にして、被害者の家族たちに死体だと偽って見せ、『仇討制度』で成敗されたと言った。死んだことになっている君を『Adauti』施設内の火葬場で焼却して、遺骨まで見せたら納得して仇討の報酬を払ってくれた。もちろん焼かれた死体は別の人物のものだ。だから、もう君はこの世に存在していないんだ」
 フフンと鼻を鳴らして笑った。
「今の俺は幽霊ってことか……?」
「そう。だから、こんな契約書は何の意味もない! ただの紙切れ」
 そう言うと緒方弁護士は、俺の目の前で契約書を破り捨てた。
 チクショー!《俺は緒方に騙された!》怒りで頭に血がのぼった。黒い戦国武者の日本刀を拾うと、俺は緒方弁護士に向かって斬り掛かっていった。
「ぶっ殺してやる―――!」
 日本刀を振り上げた瞬間、俺の身体に強烈な電気が流れた。
「うぎゃあっ!」
「そのGショックはいろいろ使い道があるんだ。孫悟空の頭についてる金箍児(きんこじ)のように、君が暴れたら電気を流すよ。今のは一番弱い電流だ。そいつが腕に巻かれている限り、君は逃げられないし、我々の命令にも逆らえないんだ!」
 あはははっ、緒方弁護士の笑い声が森に木霊する。後ろで屈強な男がピストルの銃口を俺に向けていた。
「ちくしょう! ヒドイ奴らだ!」
「ヒドイ奴ら……だって。人殺しの凶悪犯の君がそんなセリフを言えるのか?」
 いきなり、緒方弁護士は怒りに燃える眼で俺を睨みつけた。
「僕も、後ろにいる二人も大事な家族を君のような凶悪犯に殺されたんだ。僕は中学生の時、強盗犯に両親と妹を殺された。丁度、修学旅行で家にいなかったので僕だけ助かった。元警部だった関本さんは出所してきた犯人に逆恨みで奥さんと二人の子どもを殺された。医師の澤田さんはひとり娘をレイプ犯に惨殺された――」
 ひと息、呼吸を入れて、再び喋りだす。
「我々は、お前たち凶悪犯が心底憎い! こんな奴らを死刑にしない司法には幻滅した。だから、『Adauti』という組織を作ったんだ。政界や警察、法曹界にも『仇討制度』の賛同者が多くいるのだ」
 勝ち誇った顔で緒方弁護士がいう。
「……で、俺はどうなるんだ?」
「君は新しい仇討人となって組織で働いて貰う。さあ、黒い戦国武士の兜を取ってみたまえ!」
 死体の兜と面を取ってみたら男の顔が現れた。見た瞬間、俺は驚愕した。
「こ、こいつは!?」
「有名な道頓堀通り魔殺人事件の犯人の喜多川繁だよ。テレビで顔は知っているだろう?」
 当時は、テレビで連日『道頓堀通り魔殺人事件』が報道されていた。犯人の喜多川繁の顔は画面で何度も見たことがある。
「こいつは殺されたんじゃなかったのか? 生首が晒されたとニュースで流れていたぞ」
「喜多川繁は死んではいない。すべて、世間を欺くトリックだよ。死体は替え玉さ。警察内部に組織の仲間が多く入り込んでいる」
 仇討支援の会『Adauti』とは、何んと得体のしれない、怖ろしい組織なんだ。
「この男は愚かだ。手榴弾を君に投げつけたんだって? あの手榴弾は我々の唯一の優しさだったのに……自殺用にひとつ与えておいた」
 緒方弁護士は死んだ男の方を見て冷笑していた。

「さあ、準備はいいかい? 今度は君が仇討人となって凶悪犯を狩る番だよ」

 その言葉を耳に残したまま、Gショックから流れた電気で俺は気を失った――。



「ここはどこだ?」

 再び、俺は緑のコロシアムで倒れていた。

 黒い戦国武者の格好をして、『Adauti』の手先である仇討人になっていた。
 起き上がろうとするが身体がやたらと重い。この鎧甲冑は犯した罪の重さか? 日本刀は振り上げるだけで力がいる。
 手に写真が握られていた、こいつが俺と闘う敵なのか? 
 裏に、連続幼女誘拐殺人犯と書いてある。四歳から六歳の三人の女の子に性的イタズラをして殺害した犯人だ。凶悪犯の俺からみても反吐がでるような糞野郎だった。 
 今から敵を探して、この深い森を72時間彷徨わなくてはいけない。凶悪犯と凶悪犯が闘って殺し合うために……。Gショックを手に巻かれて、逃げることも、逆らうこともできない。
 俺たち、凶悪犯を『Adauti』の奴らが簡単には死なせてはくれまい――。死の恐怖を存分に味わってからでしか、楽にはなれないのだ。

 ――最後の優しさ、この手榴弾は自分のために取っておこう。

         
― 完 ―



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   創作小説・詩
by utakatarennka | 2013-03-31 08:20 | ミステリー小説
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           クールでオシャレなデスクトップ壁紙画像集♪http://matome.naver.jp/odai/2127640037409604501   

           ― はじめに ―

     この物語は、『死刑制度廃止』に関する私的な意見で書きました。

     『死刑制度廃止』に対しては、いろいろな見解もあることでしょうし、
     反対意見や批判もあるかと思いますが……
     そういう議論をふっかけられても、お応えできません。

     「仇 ― Adauti ―」という、フィクションな読み物として楽しんで貰えたなら
     作者として一番有難く存じます。

     半角英数字と漢数字が混じっていて、読み難いかも知れませんが
     意図的にやっていることです

     よろしくお願い致します O┓ペコリ

                                 2017年1月23日 改稿


          **************************************************

  ― Adauti ― [前編]

「もう少し……もう少し……逃げ切れる」
 腕に巻いたGショックの時計は残り30分を切っていた。
 逃げ切ったらゲームセット! 俺は自由になれるんだ。
 三日間、敵の追跡をかわして深い森の中を必死で逃げ回っていた。
 この場所に連れて来られた時に、手渡された物は72時間からカウントダウンしていくGショックと三日分の食糧とサバイバルナイフだけ、ここは樹海の中『緑のコロシアム』だった。

 たぶん、このGショックにはGPSが搭載されていて、それを確認しながら探し回っているみたい、だから敵には俺の居場所がすぐにバレてしまう。
 これを腕から外したいが手錠のように頑丈で外せない、無理やり外そうとするとGショックが爆発すると、あの人物から聞かされていた。

 ガサガサと草が揺れている、追跡者の気配に俺は慌てて窪地に身を潜めた――。

 大学を卒業してから、俺は起業家として会社を立ち上げた。
 IT関連の会社でコンピューターのスキルは高い方だった。仕事のパートナーのアイツは俺より三歳上でIT企業に勤めていたが、会社を辞めて一緒に会社を立ち上げるのを手伝ってくれた。アイツは営業に強く、いろんな会社を回って次々と仕事を取って来てくれていた。
 最初から上々の業績で若い起業家だった俺たちは自信を持っていた。
 そして俺は結婚して家庭を持った。――ここまでは順風満帆だった。
 この先も上手くやっていけると高をくくっていた。だが、落とし穴はあった! 慢心した俺たちは事業を拡大し過ぎて大損をしたのだ。
 借金と仕事のことでアイツと喧嘩することが多くなった。会社の営業方針にもあれこれ口を挟んできて、このままだとコンビ解消かと思いはじめていたら、遂には会社の金と妻を持ち逃げされた。
 いつの間にか俺の妻とアイツはデキていたんだ。
 会社の借金の名義は全部俺になっている。結局、自己破産して会社も財産も家庭もすべて失ってしまった。

 俺はアイツと妻を必死で捜した。
 こんなヒドイ目に合ったのはアイツらのせいだ! なにもかも失った俺には怖れるものはない、この二人は絶対に許せない復讐してやると誓った。
 二人の住むアパートを、ついに見つけだし襲撃した。
 まず、用意していた包丁で妻の胸を突き刺し、逃げようとするアイツを背後から刺すと、馬乗りになってめった刺しにした。証拠隠滅のために、部屋にあった灯油をまいてアパートにも火を付けた。
 結果、無関係なアパートの住人が巻き添えになり四人焼け死んだ。

 火元の部屋から逃げ去るところを、アパートの住人に顔を見られていて、モンタージュ写真で、すぐに俺が犯人だとバレてしまった。
 警察に逮捕され、裁判では『無期懲役』を言い渡された。六人もの人を殺しておいて、無期懲役までしかならない。
 それが俺のような凶悪犯を裁くための最高刑なのだから……。



 20XX年、日本国では死刑制度が廃止された。

 どんな凶悪犯も無期懲役以上の刑に処されることはなくなった。
 結果、死刑制度の廃止によって犯罪抑止力がなくなった。世間では凶悪事件が増加し続けた。一人殺しても、二人殺しても、三人殺したって罪は同じ、だったら犯罪がバレないように、より多くの目撃者や憎いと思う人物の親族や友人まで、殺戮をおこなうようになったのだ。
 極めて残酷で非道な犯罪が横行していった。
 死刑廃止によって、日本の社会はどう変化していくのか?


   事件ファイル №1(練馬一家惨殺事件)

 会社員の佐野裕之(35)は、出張中に家族を皆殺しにされた。
 深夜、勝手口のドアをバールのような物でこじ開けて、カギを壊して犯人が室内に侵入、一階で寝ていた裕之さんの両親が犯人によって殺害された。まず、父昌之さん(65)がナイフで心臓を一突きされて死亡した。隣室で寝ていた母芳恵さん(59)が気配に気づいて起きてきた所を犯人に腹や胸など数カ所を刺されて失血死。
 その後、犯人は二階に上がり、子ども部屋で寝ていた長女里奈ちゃん(6)の首を刺して死亡させた。隣室で子どもと添い寝をしていた妻の沙織さん(32)の肩やわき腹、大腿部など数カ所を刺して動けなくした。隣で寝ていた長男絢人ちゃん(3)が目を覚まし激しく泣き出したため首を絞めて殺害する。
 そして瀕死の重傷で苦しんでいる沙織さんを強姦した後、電気コードで首を絞めて殺害した。
 事件後、犯人はシャワーを浴び、佐野さんの服に着替えた。
 台所で冷蔵庫を物色して腹ごしらえをすると、室内にあった現金、貴金属、カード類を持ち出し、亡くなる前に沙織さんから聞き出していた暗証番号で、銀行のATMから一回で下ろせる限度額五十万円をおろしていた。

 翌日、出張から帰った裕之さんが事件を発見、警察に通報した。
 銀行のATMに設置されたカメラによって、犯人の人相が分かると該当者がすぐに割り出された。
窃盗など前科三犯の西田武司(38)である。
 捕まるまでの一週間の間に、盗んだ金で西田は派手に遊びまわっていた。競馬、競輪、パチンコなどギャンブルや風俗やギャバクラなどで散財をした。西田は風俗嬢とラブホテルで連泊しているところを、手配書を見たホテル従業員によって通報された。
 逮捕時、西田の所持金はわずか二千円ほどであった。

 犯人の西田は警察の供述で「一人殺したら、後は何人殺したって無期懲役までしかないんだから、バレないように皆殺しにしたまでさ」と取り調べ室でうそぶいていたという。
 一夜にして、家族全員を惨殺された佐野裕之――全てを喪った悲しみと怒りと憎悪、この絶望は想像するに余りある。

 しかし、死刑制度が廃止された現在、西田を無期懲役までの罪でしか裁けない。
 無期懲役といっても、服役中の態度が良かったり、恩赦などがあれば、二十年ほどで刑務所から出て来られるかもしれない。
 五人もの尊い命を奪い、子どもたちの未来を奪って、たった二十年の懲役……これでは死んだ者が浮かばれない。
 何よりも被害者の遺族、佐野裕之の憎しみが収まらない。

 裁判の日、家族の遺影を手に佐野裕之は傍聴席の前列にいた。
 案の定、判決では『無期懲役』言い渡された。犯人の西田はそれを聴いた瞬間、傍聴席の佐野裕之に向かってニヤリと不敵な笑いを浮かべてVサインをした。
 突然、法廷内に銃声が鳴り響いた。
 被告席に向かって数発の銃弾が撃ち込まれた。頭部に命中した西田はもんどりうって倒れた。止めを刺すようにさらに撃ち込まれる銃弾は憎しみの深さを物語る。
 何事が起ったのか分からず、法廷内は悲鳴や怒号で騒然としていた。

「これは仇討だ――――!」

 佐野裕之はそう叫ぶと、自らのこめかみに銃口を当て発砲した。

 前代未聞の大事件、法廷内で被告が被害者の家族に殺された。
 犯人の佐野裕之は、遺影の裏に隠し持っていた銃での西田を撃ったのだ。しかし、どうやって凶器の銃を法廷内に持ち込んだのかは謎のままに、被疑者の自殺によって幕を閉じた。
 ただ、事件後に西田武司の弁護に当たっていた、緒方彬(おがた あきら)という三十代前半の若い国選弁護士がその姿を消していた。


   事件ファイル №2 (大和ストーカー殺人事件)

「あの女を殺したことなんか、ちっとも後悔してない!」
 取調室で刑事に「被害者に対する反省の気持ちはないのか?」と問われた、殺人犯の黒田啓一(22)は、大声でハッキリとそう答えた。

 インターネットの若者向けのゲームサイトで知り合った、藤川美奈子(25)と黒田啓一は一緒にゲームをしたり、ゲーム中にチャットをするくらいの間柄で、お互い面識はなかった。
 美奈子に対して一方的な恋愛感情を抱いていた黒田啓一は、SNSのブログや写真などを詳細に調べ上げて美奈子の個人を特定した。神奈川県大和市に住む美奈子のマンションと黒田の自宅は20キロくらいの距離で近かった。
 美奈子に会いたいと黒田は思っていたが、自分の容姿に激しくコンプレックスを抱いていたのでできなかった。黒田は身長が低く、猫背で肥っており、顔も醜男である。

 高校を卒業してから、ずっと無職だった黒田は時間を持て余していたので、美奈子の住むマンション周辺をうろつくようになった。
 その頃から、帰り道を何者かにつけられたり、いきなり携帯カメラで写真を撮られたりして、美奈子は気味が悪かった。マンションのメールボックスを探ったり、親族を装って、管理人に美奈子の部屋を開けさせようとさえした。
 黒田の行動は、段々ストーカー行為へと発展していく。
 ひとり暮らしの美奈子は身の危険を感じて、婚約者の吉岡哲也(27)に相談して、週末には泊りに来て貰うようになった。
 黒田啓一は、藤川美奈子のマンションに男が泊りにくるようになって激怒した。
 妄想で美奈子を自分の恋人だと勝手に思い込み、自分を裏切ったと激しく彼女を憎むようになった。

 そして、陰湿な嫌がらせが始まった。
 パソコンのメールボックスに卑猥な写真を送信したり、ネットの出会い系サイトで美奈子になりすまし登録すると、写真や電話番号などの個人情報を晒したりした。そのため、美奈子の携帯には連日、ヘンなメールが送信されてくるようになった。
 婚約者が泊りにくると、彼の車にキズをつけたり、汚物を塗ったりした。
 ある日、美奈子は夜道でバッグをひったくられた。その中には、携帯や財布、それから部屋の鍵が入っていた。近くの交番へ被害届を出した際に、何者かにストーカーされていると相談したが、ストーカー犯が誰か分からないために事件として扱われなかった。
 翌日に近所の公園のゴミ箱からバッグは発見され、財布や携帯は入っていたが、鍵だけが見つからなかった。
 心配になった美奈子は管理人に鍵を付け替える相談していた。

 それから、二日後のことである。
 美奈子が出勤した後で、黒田啓一は鍵を開けて部屋に侵入してきた。バッグをひったくり鍵を盗んだのは彼だった。美奈子の部屋に入り込んだ黒田は、彼女が帰るまでクローゼットに隠れて待っていた。
 七時半過ぎ、仕事を終えて帰宅した美奈子がシャワーを浴びていたら、突然、浴室に見知らぬ男が入ってきて美奈子に激しい暴行を加えた。壁や床に何度も頭を打ちつけられて気を失った。
 浴室の中で約八時間、殺されるまでの間、美奈子対し執拗、冷酷、残虐極まりない暴行、凌辱の限りを尽くした上に、浴槽に沈められて溺死させた。
 しかも、美奈子の乳房を切除して持ち帰るという猟奇殺人だった。

 美奈子の遺体は、婚約者の吉岡哲也によって発見された。
 急に美奈子と連絡が付かなくなったので心配した吉岡が、渡されていたマンションの合い鍵を使って室内に入った。
 出しっぱなしのシャワーの音に、ドア越しに呼びかけたが返事がなく、開けると、血の海と化した浴槽内に美奈子の遺体が浮かんでいた。
 あまりに凄惨な姿に吉岡は絶叫して倒れた。――その後、警察に通報した。
 検死結果、死因は溺死。
 全身に数十箇所の打撲痕、頭蓋骨にひび、目窟底骨折、鼻骨骨折、右腕骨折、右膝脱臼、他、肩や腕などに噛み傷があった。女性性器には異物が挿入、強姦された形跡がある。

 死ぬまでに――どれほどの苦痛を与えられたのかは想像を絶する。

 黒田逮捕までに、さほど時間がかからなかった。
 最近、マンション内に不審な男が出入りしていたのを管理人はじめ、住人たちも目撃していた。このマンションはオートロックだが、ここの住人の後ろにくっついて行けば容易に侵入できる。何人かの住人がヘンな男(容姿に特徴がある)がついてきて、一緒にマンション内に入ってこられて不快に思っていた。
 管理人は一度、黒田に「姉の部屋に忘れ物したのでカギを開けてくれ」と頼まれて、断った経緯があったので黒田のことはよく覚えていた。
 美奈子が殺害の日、マンションに黒田が侵入していたことはエレベーター内の監視カメラや通路のカメラなどで確認された。
 そのような証拠を元に、警察が自宅に踏み込み黒田啓一を逮捕した。
 切除された美奈子の乳房はビニール袋に入れられ、自分の部屋の冷蔵庫に隠していた。
 黒田の家庭は小さな印刷会社を営む両親と兄弟がいる。両親は日中は仕事でおらず、大学生の弟と高校生の妹は、風変わりな兄を気持ち悪がって口も利かない。
 家族は啓一の存在を無視して、その行動も気にしていなかったので、今回の犯罪は誰も気がつかなかった。

 警察での取り調べ中に、
「あの女はビッチだ! だから俺が罰を与えた!」
 などと時々、意味不明なことを黒田は叫ぶ。
 精神鑑定の結果はパラノイア傾向ではあるが、犯罪の計画性からも十分に責任能力があると判定された。
 そして裁判では強姦殺人、死体損壊などの罪で『無期懲役』が黒田啓一に言い渡された。どんな凶悪な犯罪でも、上限は『無期懲役』なのだから仕方ない。
 その判決を聴いた、被害者の婚約者である吉岡哲也は拳を握り、肩を震わせむせび泣いていたという。
 
 刑が確定した黒田はいよいよ刑務所に移送されることになった。
 留置所で過ごす最後の夜、肥っている黒田は留置所の食事ではいつも足りず、空腹を訴えていた。独房に居る黒田に、こっそり弁当を差し入れした者がいる。
 翌朝、血を吐いて倒れている黒田を刑務官が発見した。
 食べ散らかされた弁当の中から致死量の青酸カリが検出された。いったい誰がこの弁当を独房に差し入れたか謎のままであった。
 前代未聞の留置所内の毒殺事件は、物的証拠が何も見つからず、迷宮入りしそうな様相だった。

 事件から数日後、吉岡哲也が自宅の部屋で首つり自殺を図っていた。
 警察に宛てた遺書には、

〔犯人を法で裁けない! 美奈子の無念をはらすために黒田を殺しました。だけど、これは犯罪ではない。美奈子を守ってやれなかった悔しさから、黒田に仇を討ったのです。これは日本人の正義、仇討である。〕

 と書かれてあった。
 死亡した本人が殺人を告白しているが、いったいどのような方法で留置所にいる黒田に毒入り弁当を食べさせたのか、その経緯はまったく不明、何もかも謎のまま事件は終局を迎えた。


   事件ファイル №3 (道頓堀通り魔殺人事件)

 大阪道頓堀で起こった無差別殺人事件は通行中の男女七人が殺害された。その中には、母親と一歳半の幼児、身体の不自由な老人なども含まれていた。
 歩行者天国を猛スピードで突っ込んで来た乗用車が次々と通行人を轢いていった。その後、電信柱にぶつかって車は停まるが、中から日本刀を持った男が出てきて、奇声を発しながら通行人に襲いかかってきた。――逃げ遅れた数人が刀の犠牲者となった。
 出動した機動隊によって取り押えられて捕まったが、逮捕時、男は『誰かを殺せ!』と声が聴こえたと供述した。それが精神病疾患なのか、覚せい剤による幻聴なのかは判明していない。
 考えられるのは社会に対する不満や怨嗟から、このような凶行に走ったと思われる。
 犯人は喜多川繁という元暴力団員である。覚せい剤中毒で、刑務所から出所してきて、わずか一週間目の犯行であった。

 この衝撃的な事件は世間を震撼させて、連日、マスコミでも大きく取り上げられた。 
 その中には、悲しみに暮れる家族へのインタビューで、『現在の心境は?』とか『犯人に何を言いたいですか?』などと無神経な質問をするテレビ局があった。――そこに同じ人間としての温かな血が通っているとは到底思えない。
 煩いほど犯人の人権は尊重するが、被害者の家族の人権には配慮しなくてもよいのか? これではどっちが加害者か分からないではないか?

 司法はお決まりの『無期懲役』を言い渡した。
 奪った人命と世間に及ぼした衝撃に比べて、加害者の喜多川繁の罪は軽い。これには遺族の家族も世間も不服を申し立てたが、最高刑が『無期懲役』なのだから仕方ない。
 虫けらのように殺された人々に比べて、何んと凶悪犯の命は尊いのだろうか。
 こんな残虐な犯罪を起こした人間が刑務所に入ったからといって、罪を悔い改めて善人になれるものなのか? もしも、本当に犯した罪を悔い改めたのなら、罪深い自分に耐えられず自殺するはずだ。そうでもしなければ心の底から反省したとは思えない。
 凶悪犯は死ぬまで反省はしないだろう。
 むしろ、悪いことをしたという自覚がないからこそ、ここまで残虐な行為ができるのだ――彼らはサイコパスに他ならない。

 喜多川繁が裁判所から移送される途中、護送車から忽然と消えた。
 この大失態に警察は大騒ぎになった。警護に当たっていた警察官も厳しく調べられたが、いつ脱走されたのか、まったく分からないという。
 護送車に乗せたはずの犯人が、到着したら影も形もなかったのである。まるでイリュージョンだと皆が首を傾げた。
 だが、必死の捜査にも関わらず喜多川の足取りがまったく掴めない。焦る警察関係者たちであった。
 三日後、喜多川は変わり果てた姿で発見された。
 裁判所の門柱の上に、喜多川の生首が晒されていたのだ。
 倒れないようにベニヤ板に裏から太い釘を打ち貫いて、その釘に生首を突き立ててあった。そして、その首には『極悪人』と書いたプラカードが掛けてあり、実に惨たらしい死体だった。
 その二日後には、喜多川の胴体が淀川の河川敷で発見されたが、そこが殺害現場ではなく、死体遺棄されただけと思われる。
 発見時、首なし死体は両手足を荒縄で縛られて地面に座っていた。検死の結果、頭部を鋭利な刃物によって切断されて死亡したと思われる。居合の心得のある者によって一刀で首を落とされたとみられ、首斬り役人による処刑のようであった。
 まるで警察や司法に対する挑戦のような事件――。警察は沽券に賭けて、犯人逮捕のために大捜査網を敷いたが目撃者もなく、手掛かりも見つからず捜査は難航していた。
 世間では極悪人をちゃんと法で裁けないので、喜多川繁に天誅が下ったのだという者たちもあった。――その件に関して『道頓堀通り魔殺人事件』被害者の家族たちは、黙して語らなかった。

 事件から一ヶ月、摂津峡の渓谷に停まっていたワゴン車の中で男女三人が練炭火鉢による集団自殺を図っていた。
 いずれも、『道頓堀通り魔殺人事件』の被害者の近親者たちであった。三人が連名で書いた、日本法曹界へ宛てた遺書は、

〔これは仇討である。(中略)無残にも罪のない家族を殺された私たちは法で裁けないなら、非合法な方法であっても憎い犯人に死をもって罪の報いさせたいと思った。(中略)目には目を、歯には歯を、死には死を。これは日本の武士道の教え仇討なのである。しかし、人命を奪い、世間を騒がせた私たちも自らの命をもって、この罪を償う所存である。〕

 日本法曹界への抗議を込めた遺書が残されてあった。
 そうして、通り魔殺人の犯人喜多川繁の殺害に関与したと思われる者たちは、事件の全貌を語らぬままで、死によって闇に葬ってしまったのだ。
 しかし、あれだけ大胆な犯行を、素人だけで組織できたとは到底考えられない。

 これら一連の仇討と称する、加害者殺害事件には謎の組織が関与していた。
 アンチ『死刑廃止』論者による組織、『Adauti』が、水面下で活動していたのだ。会員数約1000人、そのメンバーは政治家、実業家、弁護士、医者、学者、警察官関係者、マスコミ関連、一般市民などである。
その中には多くの犯罪被害者の家族や近親者たちがいた。
 非合法の仇討支援の会『Adauti』は、犯罪被害者の家族や近親者の要望で活動している。成功報酬のみ謝礼として現金を受け取る。だが、仇討を頼んだ者には永久の秘守義務が課せられる。
「あなたは犯人に仇討できたら死んでもよいか?」という問いかけに「はい」と答えられた依頼者のみとなる。
 いっさい口外ができぬように、死を持って封印するためであった。

 なぜ『仇討制度』などという、古い日本の武士道のシキタリが復活したのであろうか。

 それには、これら一連の事件による世論の流れがあったから――。
 日本法曹の生温い刑罰に対する不満からである。犯した罪に見合う償いを加害者がしていないと世間はそう思っているのだ。
 犯罪被害者の仇を討つ、仇討支援の会『Adauti』は、死んだ依頼者たちが残した資産や財産によって、大きな組織力を持ち始めた。
 有力な政治家たちに賄賂を渡して、『仇討制度』なる法令を国会に通した。司法の了解を得れぬまま、この闇の制度は『Adauti』の会員たちによって実行されているのだ。
 裁判所は極悪人に『無期懲役』を言い渡した後は、仇討されても我関せずの姿勢を通していた。
 そして、被害者の家族の訴えと加害者が『仇討制度』のステージに立つことを承認したら、このゲームは成立するのだ。
            
     

「絶対に逃げ切ってやるんだ! もう一度、俺は娑婆へ戻りたい!」
 Gショックは残り15分を切っていた。72時間逃げ延びたら新しい戸籍と整形で別の人間になれる。一生外国で暮らす資金もくれるという条件だった。
 そう、あの人物が俺に約束してくれたんだ。




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   創作小説・詩         
by utakatarennka | 2013-03-31 07:44 | ミステリー小説
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          (表紙はフリー画像素材 Free Images 2.0 jinterwas 様よりお借りしました。http://free-photo.gatag.net/)

 とりかえっこ [後編]

 有馬家に着いて僕が駐車場にBMWを停めていると、先に降りていた兄が五百坪はある屋敷の敷地をぐるりと眺めて「これは全部、おまえ一人で相続したのか?」と訊いて来た。「そうだ」と答えると、「おまえは運がいいよなあー」と恨みがましい言い方をされた。
 二十年前、あの時〔とりかえっこ〕を止めよう言った僕に「これは遊びじゃない」と突っぱねたのは兄の方だったくせに、そのことを忘れて自分だけ貧乏くじを引いたみたいな顔をされたら堪ったもんじゃない。――内心、僕はムッとしていた。
 屋敷の玄関を開けて中に入る。
「なあ、和久。住む所に困っているんだ。こんな広い屋敷だし俺もここで暮らしてもいいか?」
「兄さん、僕は明日から旅行だから無理だよ。通いの家政婦さんとお手伝いさんにも暇を出したくらいだから……」
「――そうか、長い旅行なのか?」
「たぶん、三ヶ月くらいかなあ……」
 屋敷の中の長い廊下を通って、兄を部屋に案内した。
広々としたリビングには黒い革張りの応接セットとホームバーのカウンターがある。生前、お酒が好きだった父親が世界中から集めた銘酒の瓶が棚に飾られている。
「おおー、すげえ! 高そうな酒ばっかり置いてる」
「僕はあまり飲まないから好きな酒を飲んでもいいよ」
「そうか、それは有難い」
 物欲しそうな顔で兄は棚の酒類を見ていたが、
「あっ! あれは?」
 ひとつの瓶を指差した。
「ドン・ペリニヨンだよ。特別の日に飲むシャンパンで、ヴィンテージもの」
「飲んでみたい!」
「これはドンペリの中でも最高級品エノテーク・プラチナだよ」
「飲みたい、飲みたい!」
 子どもみたいにはしゃぐ兄だった。
「――じゃあ、二十年振りの兄弟再会を祝してドンペリを開けるとしようか」
 ポンッと威勢のよい音を立ててコルクが天上に飛んだ。
 バカラのシャンパングラスにドンペリを注いで「乾杯」とグラスをカチッと当ててから僕らは一気にグラスを煽った。

「プハーッ、うまい!」
 高級なシャンパンも品のない兄が飲むとチューハイにしか見えない。
 しかも、いつの間にか兄は僕の手からドンペリの瓶を奪い口に咥えてラッパ飲みをしていた。こんな下劣な人間が飲むには勿体なさ過ぎるお酒だが、――そんなことは構わない。
「なあ、和久。俺とおまえは双子なのに、おまえだけ贅沢な生活をして不公平じゃあないか。同じ父親なのにおまえはセレブで俺はどん底の生活なんて……」
 酔いが回ってきたせいか、兄がぐちぐちと文句を言い出した。
「俺はガキの頃、お袋の男に殴れたり蹴られたりして散々な目に合ってきたんだぜぇー」
「……兄さん、百万円取ってくるからここで待っててよ」
 そんなことは僕の知ったことじゃない。リビングに兄を一人残して僕は部屋から出て行った。
 二十年振りに邂逅した兄は零落した敗北者だった。もしかして〔とりかえっこ〕をしなかったら、今の兄の姿が自分だったかも知れない――。同じ双子でも育った環境によって大きく変わるものだと、兄を見ていて僕はそう確信した。
                                  *

「兄さん……」
 部屋に戻ると、あっちこっちの引出しを開けて物色中だった。僕が声をかけると背中をビクッとさせて、決まり悪そうな顔で振り向いた。
「そんなところに金目のものは置いてないよ」
「いやー、ちょっと、親父の写真が見たいなあ……と思ってさ」
 苦しい言い訳でしかない。
 持ってきた百万円の札束を見ると、僕から引っ手繰るようにして、お札を数えはじめた。そんな兄を見ていると――まるで、ビデオテープで再生されている自分自身を観ているようで、言いようのない嫌悪感だった。
「これっぽっちじゃあ、足りない。もっと金はないのか」
 百万円をジャンバーのポケットに捻じ込みながら兄がいう。
「いいや、兄さん。今日はこれだけにしてくれよ」
「この家なら、かなりの現金があるだろう?」
「――もう帰ってくれないか」
「うるせい! 早く金をよこせっ!」
「断わる!」
「なんだと、この野郎! ぶっ殺すぞっ!」
 いきなり兄が殴りかかってきた。ミゾオチに膝蹴りを入れられて、うっと呻きながら僕は前屈みに倒れて気を失った。

「起きろよ! 和久」
 汚いブーツが僕の頭を蹴った。
 気が付いたら、ベルトで後ろ手に縛られて床に転がされていた。
「金庫の場所と鍵と番号を教えろ!」
 とうとう兄の本性が出たようだ。
「兄さん、何をする気だ?」
「和久、よく聴け! 今日から俺が有馬和紀になって、この家の財産は全部いただくぜ。おまえは俺の代わりに土の中にでも埋まってろ! あははっ」
「なに言ってるんだ!? 正気なの兄さん……」
「ああ、正気だぜ。こんな貧乏くじみたいな人生とはおさらばだ。ガキの頃、おまえと名前を〔とりかえっこ〕しただろう? もう一回〔とりかえっこ〕して俺の和紀を還して貰うだけだ。すぐには殺さない、おまえにはいろいろ教えて貰うことがあるからさ」
「兄さんがこんな恐ろしい人間だと知っていたら家になんか入れなかったのに……」
「おまえは昔から甘ちゃんだったからなあ。高二の時にお袋を殺したのは俺だ。酔っ払って夜中に帰ってきて絡みやがったから、アパートの階段から蹴り落としてやったんだ!」
 この凶暴な人間が僕の片割れともいうべき双子の兄弟なのだ。――なんと、おぞましいことだ!
「おいっ! 早く金庫の在り処を教えろ。鍵は、鍵はどこだ?」
 ポケットからサバイバルナイフを取り出して、僕の喉元に押しつけた。こんな物騒なものを持ち歩いている兄は完全に犯罪者だ――。
「ポケットにある。上着の右側のポケットに入れてあるんだ。奥の方まで手を突っ込んでみて……」
「ああ、こっちのポケットだな。――よおし!」

「うぎゃあ!」
 僕のポケットを探っていた兄が悲鳴と共に手を引っ込めた。その手には何本かの注射針が刺さっている。
「イテテッ! 何をしやがる!?」
「その注射針には毒が塗ってある。ヒオスチンというアルカロイド系の毒薬だよ。麻酔にも使われていて、ゆっくりと眠るように死ねるんだ」
「和久、お、おまえ……。嘘だろう!?」
「嘘なもんか。もうすぐ眠くなってくるよ。そして二度と目覚めない」
「な、なんでこんなもんを……最初から俺を殺す気だったのか?」
 手に突き刺さった注射針を抜きながら、兄は狼狽していた。
「――そうでもない。兄さんがこんなことさえしなければ、三ヶ月後には遺産として有馬家の全財産を相続できたんだ。遺言状を作成して弁護士にそうするように頼んで置いたのに……残念なことだよ」
「この家の遺産をこの俺が……?」
「僕は余命三ヶ月と医者に宣告されている。脳の奥に悪質な腫瘍があって手術もできないんだ。おまけに進行も早くて……。実は明日からホスピス・緩和ケア病棟に入院して抗がん治療は受けないで、ゆっくりと死を待つ運命だったんだ。だが、兄さんと会って考えが変った。――僕は死ぬ前に〔とりかえっこ〕した、本当の名前に戻りたいと思った」
「今日、おまえと会ったことは偶然じゃないのか?」
「そうさ。兄さんのことはね、興信所に頼んで調査済み。恐喝と詐欺で二回服役しているね。結婚歴は三回いずれも離婚、子どもはいない。サラ金やヤミ金から約二千万円の借金を抱えている。ね、そうでしょう?」
 さっきまでの悪ぶった兄は鳴りを潜め、今は恐怖で顔が引きつっている。
「あの喫茶店に現れることは知っていた。――だから、僕は賭けたんだ。もしも、ホスピスに入院する前に兄さんと出会えたら〔とりかえっこ〕した、僕の本当の名前を還して貰おうと……。兄さんにはお金を渡して外国にでも行って貰い、その間、僕は和久に戻って生きてみたかった、死ぬ前に……。最初から殺す気なんてなかったさ。――だけど酷い人間なんで双子の僕としては、兄さんを残して逝けないと判断したからだ」
「お、おい、げ、解毒剤をくれ……」
「――ないよ。それは病気が酷くなった時に僕が自殺するためのものだから」
「ゲ、ゲームオーバーだ。こんな遊びは止めよう」
「兄さん、これは遊びじゃないんだ」

                               *

 意識が朦朧としてきたのか、やたらと首を振って睡魔と闘っている。兄さん、そんなことをしても無駄さ。致死量のヒオスチンが体内に摂取されているんだから……。やがて、崩れるように倒れて永遠の眠りに着いた。
 死体の手から落ちたサバイバルナイフを拾って、後ろ手の縛めを外した。ああ、心も身体も自由になった。どうせ、死ぬのなら最後に曽我和久(そが かずひさ)に戻って、残された生命を燃やし尽くしてから死んでやる。ホスピス・緩和ケア病棟に行くのはもう止めた――。
「兄さん、僕らの遊び〔とりかえっこ〕やっと終わったよ」

 不様な姿で床に転がっている、もう一人の自分。――さよなら、和紀。僕の双子の兄さん。

 
― おわり ―

                                      


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       (画像は注射のイラスト素材画像集【注射器】 様からお借りしました。ttp://matome.naver.jp/odai/2128331082985293901)

   創作小説・詩   
by utakatarennka | 2012-12-24 06:49 | ミステリー小説