― Metamorphose ―

rennka55.exblog.jp

泡沫恋歌のブログと作品倉庫     

ブログトップ

カテゴリ:夢想家のショートストーリー集( 110 )

a0216818_13184561.png

   第110話 ガチャ★ガチャ

昨日、アタシ15歳になった。
誕生日プレゼントに自分専用のスマホを買ってもらった。
うちの教育方針で15歳になるまでスマホ厳禁だった。そのせいでラインもできないし、友だちとも長電話できない。
クラスでスマホ持ってないのはアタシだけ……可哀想な子あつかいだったよ。
昨夜はスマホデビューが嬉しくて、ライン登録送ったり、無料電話したり、あれこれやってたら朝になっちゃった。
ふぁ〜と大きなあくびがひとつ、ああ~暑さで頭がくらくらする。もぉ~蝉がうるさい!
夏休みの登校日、スマホを見ながら、のろのろと学校へ向かって歩く。

「あれぇ〜なんだろう?」
スマホの画面に知らないアイコンが入っている。
【ガチャ★ガチャ】と書いてる、こんなのインストールした覚えがない。
もしかしてスマホの初期特典かもしれないので、さっそく開いてみたら――。

■無料【ガチャ★ガチャ】この特典は世界中の15歳の男女からランダムに選びました。
あなたはこのサービスを受けられますか?

   はい   いいえ

「無料サービスってなぁに?」
とりあえず、なにか貰えそうなので『はい』を選択した。

■サービスを希望された方はガチャを回すことができます。
あなたはハッピーガチャを回しますか?

「 ハッピーとか、良いことありそう!」
アタシは迷うことなく『はい』をタッチした。

すると画面にガチャの絵が出現して、タッチすると赤いカプセルが出てきた。
『あなたの願いを1つだけ叶えます』と書いてある。

「これって? 占いアプリだったの」
スマホ初心者のアタシは、謎のアプリに好奇心いっぱい!

■コメント欄にあなたの願いを書いてください。
但し、他人の死や不幸を願うもの、もしくは歴史や経済に変動をきたす願い事はお受けできません。
どうぞ具体的に書いてください。

願い事ときいて、アタシの頭ン中に浮かんだのは片想いあの人。

〔同じ中学の3年2組のサッカー部のエース、内山裕翔くんと両想いになりたい〕

と、コメント欄に書いたら、
しばらくして『承認しました』の文字が出た。

「まさか、本当に両想いになれるのかしら?」
アタシは半信半疑だった、でもチョッピリ期待もしちゃう。
また新しいガチャが出てきた。

■『願いを1つだけ叶えます』をゲットしたあなたは、ラッキーガチャを回す権利を手に入れました。
あなたはラッキーガチャを回しますか?

「もちろん、ここまできたら回しますとも!」
ラッキーガチャが画面に出たので、さっそくタッチする。
「 よっしゃ〜! いけぇ――!!」

パッパラーパーンというファンファーレと共に黄金に輝くカプセルが飛び出した。

■『大当り! 強運のあなたは100歳まで生きられます。どうぞ幸せな人生を送ってください』

「はぁ? なにこれ? 100歳まで生きろって冗談のつもり?」
昨日、15歳になったばっかりのアタシに、そんな先のことなんか分からないし……。
ラインスタンプとか、コンビニで使えるポイントとか貰えるのかと思ったら、なんか意味の分からない特典ばかりでがっかりしたよ。

■アプリの『あとがき』を読みますか?

   はい   いいえ

ちょっと憤慨してるので『はい』をタッチ!

その時、目の前の建築中のビルから突然鉄骨が落下してきた。
もの凄い轟音に驚いたアタシはスマホを放り投げ、尻もちをついたまま動けなくなった。
あと10歩前を歩いていたら、あの鉄骨の下敷きになってペッチャンコ!
15歳の誕生日の次の日に死んじゃうなんて最悪だよ~。

「 君、大丈夫?」

背後に人の気配が、その声に振り向くと、
「う、内山くん!? だ、大丈夫れす~」
憧れの人が立っていたので、アタシはドキドキして顔が赤くなる。内山君が落ちていたスマホを拾ってくれた。
「危なかったね。スマホは壊れてないみたい」
買って貰ったばかりのスマホが無事で良かった、良かった!
傷はないかスマホの画面を確かめながら、あれ? ここにアイコンがあったような気が……てか、さっきなに見てたんだっけ? 思い出せない。

「もう行かないと遅刻するよ」

その声に促されるようにして立ち上がった。内山君と目があった瞬間、私の口から意外な言葉が、
「あのぅ〜ライン教えてください 」
九死に一生を得たアタシは驚くべき勇気を発揮した。
「いいよ」
オーケーしてくれたので、私のスマホに内山君のラインが登録された。
「困ったことがあったら、いつでもラインしろよ」
内山君の笑顔が眩し過ぎる!
もしかして恋に発展する予感が……根拠はないけど、アタシにはそんな気がする。
「さあ、行こう」
真夏の登校日も大好きな内山君となら、超ハッピー!!

 
■ページを開いたまま閉じられた『あとがき』を特別にお見せしましょう。

ガチャ★ガチャのアイコンは、本日死亡予定の15歳に与えられたスマホ限定特典です。
ハッピーガチャを回して、願い事アイテムをゲットしたら、さらにラッキーガチャで死亡を回避できます。
この『あとがき』まで読める確率10億分の1、ご利用ありがとうございました。

   提供:あの世とつながる ∞ 死神コーポレーション


     ※ 3分後、アイコンごとあなたの記憶も消去されます。



a0216818_13573216.jpg



創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-07-18 14:13 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第109話 逃げろ

 誰かが耳元で囁いた“逃げろ”と、おそらくその声は俺の中に潜む野性の勘ってやつだ。
 俺はその声に従い走りだす。
 やはり俺の勘は当たっていた、校舎から飛びだした俺の姿を、三階の教室の窓からアイツが見ていた。
 ヤバイ! 早く逃げないと捕まってしまう。
 昔から逃げ足が早いといわれた、この俺よりもアイツの方が駿足なのだ。
 とにかく学校から逃げだし、駅まで逃げ延びて電車に乗ったら俺の勝ち、今日こそアイツに捕まらず、無事に帰宅したい。
 だってぇ〜俺は帰宅部なんだぜぇ!
 そんなことを考えていたら、背後から足音が聴こえてきた。しかも全力疾走の足音だ! 俺は追跡者から逃れるため、さらに必死で走った。
 学校の通用門を抜けて、四角を曲って細い路地に入ったら、ゴミ箱の裏に身を潜める。このままアイツが通り過ぎてくれることを、神さまに祈りながら……アーメン。

「ナオト見っけ!」

 あっけなく見つかってしまった。小癪にもアイツが得意そうに笑ってやがる。
 一ノ瀬香奈、十六歳。高校の同級生にして、ご近所で幼馴染み。俺はこの世に生まれてから十六年間、ずーっとこの女にストーカーされている。
 俺のいくところには当然のように香奈が居る。周囲からもカップルみたいに思われているが、断じて違う! 香奈は彼女ではないし、俺も彼氏じゃない。――てか、無人島に二人で流されたとしても……こいつの彼氏だけは願い下げだっつーの!!
 どこが嫌いかというと、いつも俺につきまとって、オカンみたいでウザイところ。おまけに成績もスポーツも俺より上だし、容姿だって悪くないくせに、この俺にめっちゃ執着してやがるから、キモチワル。
 こいつがいるせいで、学校の女子が誰も寄ってこない。まあ、アマゾネス(香奈)と戦ってまで、俺を彼氏にしようとする勇者はうちの学校にはいないだろう。
 香奈がいる限り俺の青春は真っ暗だ! だれか助けて!!
「なんで隠れてても見つかるんだ?」
「絶対に逃げられないわよ。ナオトにはGPSが……」
「えっ!?」
「なんでもなぁ〜い」
 香奈は慌てて口を押さえて誤魔化したけど、いつも監視されてるような気がする。
「もう俺につきまとうなっ! ストーカー女めぇー!!」
「なんで?  香奈とナオトは“運命のカップル”でしょう」
「ちげぇーよ!」
 こいつとは同じ日に同じ産院で生まれた。乳児室のベッドが隣同士だったせいで母親同士が友達になって、今では家族ぐるみのお付き合いだ。
 毎年、俺らの誕生日にはお互いの家で二回お祝いして貰っている。バースデーケーキのろうそくをいつも二人で吹き消してきた。それが両家では当たり前の行事みたいになってしまっている。
 香奈は一人っ子で、俺には五歳下に弟がいるが物心ついてから「お姉ちゃん」と香奈のことを呼び、兄貴の俺よりも懐いている。うちの母親も香奈が気に入っていて、週末には二人でご飯を作ったりして、嫁姑ごっこをして楽しそう。
 将来、俺たち二人が結婚して家族になることに、なんの疑問も持っていないようで……怖い。てか、大人になったら嫁くらい自分で探すから、勝手に話を進めるなっ!
 アニメじゃあるまいし、幼馴染だから最後は結ばれるなんてフラグを勝手に立てられたら、こっちが迷惑なんだ。
「運命とか関係ない」
 俺はそんなの認めないからっ!
「ねぇ、知ってる? 自分の意思では変えられないから運命っていうんだよ」
 まるで信仰のように“運命のカップル”だと信じてやがる。これ以上の議論は不毛だ!
「あっ、香奈の頭に毛虫がついてる」
「嘘っ? ヤダ、取って、取ってぇーっ!」
「よっしゃ〜」
 毛虫を取ると見せかけて、デコピンをお見舞いしてやった。
 香奈が驚いて尻餅をついた隙に、ふたたび逃走する。わき目も振らず全力疾走だぜ。
 いつの間にか、周りが創りだした、俺らの“未来のビジョン”に全力で抵抗してやる。そのために俺は今日も香奈から逃げて、逃げて、逃げ続ける。
 俺が逃げると香奈が追いかける。香奈が追いかけるから俺は逃げる。無限ループでそれを繰り返す日々なのだ――。

「はぁはぁ……やっと逃げ切った……」
 俺は息を切らし、駅の改札を抜け、階段を下りてホームへ向かう。やれやれ、これで逃げ切ったと安心していたら――。
「ナオト遅いよぉ~」
 アイツがホームで手を振っている。
「嘘だろう? 俺の方が先に駅に着いてるはずなんだ」
「アタシ、近道しってるもーん」
「チートかよ!」
「へなちょこ」
「もうぉ~イヤだぁ――!!」
 俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「ナオトって、昔から鬼ごっこ好きだよね? また明日もやろう!」
 嬉しそうな顔で香奈がいう。
 俺の逃走劇って、香奈からしたら鬼ごっこだったわけ? ありえねぇーっ!!
 つーか、俺と香奈の鬼ごっこは、このまま一生死ぬまで続くかもしれない。もしも、香奈の方が俺から逃げようとしたら、今度は俺が鬼になって全力で追いかけてやるっつーの! 逃げろ! 逃げろ!!



a0216818_13570566.jpg



創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-07-17 13:43 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第108話 ゴミの再利用

人からクズと呼ばれるのと、ゴミと呼ばれるのと、どっちがマシか考えたことありますか?
クズとは人の役に立たない低レベルな人間のこと。
ゴミとは不要な人間のことだけど、周りを巻き込んで禍を招く、確実に迷惑な存在である。しかも汚い、不衛生、悪臭など自己主張までする。
そして世の中にはゴミみたいな人間が一定数存在している。

わたしは毎日、父が死ぬことを願っていた。
物ごころついてから、父がまともに働いているのを見たことがない。怠け者、無気力、不潔と三拍子そろった人間、それがわたしの父である。
我が家は母が朝から深夜までフルタイムで働いて家計を支えていた。その間、父は何をしてるかといえば、毎日家の中でごろごろしている。
鬱病とか身体が弱いとかいうわけではなく、ただ働くのが嫌いなだけだ。そして家に一日中いても家事も炊事もいっさいやらない。
父の身体からはすえたゴミの臭いがして、いつも死んだ魚の目で天井を見つめているだけだった。

わたしが中三の時に、母が過労で亡くなった。
働かない夫のために身を粉にして働いた、その結果が過労死ってやつ。
これでやっと父も働き出すかと思ったら、「かあさんが死んだから、これからはおまえが働いてくれ」中三の娘にそんなことをいう、ろ・く・で・な・し!
中学の卒業式の日、わたしは家出した。
あんなゴミみたいな父と暮らすのは真っ平だ。とりあえず風俗でも、援交でも、何でもして生き延びるつもりだった。

未成年だったけど、小さなカラオケスナックで雇ってもらえた。
歌は好きだったし、お客さんも近所のおじさんやおばさんたちでアットホームなお店だった。
みんなには父親がDVで母親はそのせいで早死にして、わたしにも暴力をふるうので怖くて家から逃げてきたと話した。
小さいころ自転車でこけて、二の腕に傷痕が残っている。「この傷は父にビール瓶で殴られてガラスの破片が刺さったものです」みんなに傷痕を見せて、まことしやかに説明した。
たしかに父はゴミだったけれど、暴力をふるうほどの活発さはなかった。
わたしの身の上話をみんなが信じ、同情して親切にしてくれた。

時々、お店にくる三十代半ばの男性客がいた。
病院のレントゲン技師をしてるとかきいた。真面目で大人しい感じ、どうやらわたしに興味を持ったようだ。
薄幸の少女というシチュエーションは男心をそそるものらしい。「この子を苦境から救ってやりたい!」そういうお人好しは利用させてもらおう。
持ち家があるから一緒に暮らさないかと誘われた。収入も良さそうだし悪くない話だと思って男についていった。
わたしも父と同じで働くのは大嫌いだ。養ってもらえるなら、その方が助かる。こういう善意な人間こそがゴミの喰い物にされる。
男なんて、夜の相手さえしてやればチョロイもんさ。

三食昼寝とおやつ付き、小遣いもくれる。
男が仕事でいない間、ごろごろして一日中部屋で過ごす。掃除も洗濯も食事も作らない怠惰な生活、またたく間にゴミが溜まり、足の踏み場もなくなった。
ついゴミの本性がでてしまった。なにしろゴミの娘なのだから――。
それでも男はひと言も文句を言わず、ダメなわたしを憐れんでくれる。
ゴミはゴミの中では育たない、善良な環境でこそ悪臭を放つのだ。
久しぶりに、ゴミ父はどうしているかと様子を見に行ってみたら、母の保険金のお陰で働かないで暮らしていけてるようだった。
なんて悪運の強いゴミだとつくづく感心させられた。
わたしが物ごころついてから、ずっと住んでいる古いアパートの部屋は、天井近くまでゴミ袋が堆積して、ひどい悪臭を放っていた。
その中で父は万年布団に包まって、かろうじて息をしている。
「とうちゃんがゴミか、ゴミがとうちゃんか、見分けがつかないよ」とわたしがいうと、父は「ゴミと同化して生きている」と、むしろゴミである自分を誇っていた。

その数ヶ月後、父の住むアパートの管理人から「お父さんが倒れた」と連絡があった。病院にいったら、すでに父は亡くなっていた。崩れてきたゴミ袋に埋もれて死んだらしい。
父は完全にゴミになった。「ゴミになっても、人間は捨てられないよ」父の遺体なんか引き取りたくない。
すると男が「医学の進歩にも貢献できるし、病理組織検体として病院に寄付したら」とアドバイスをくれた。
おおっ!『ゴミの再利用』その手があったのか。
生前、ゴミだった父がホルマリン槽でぷかぷか浮いてる姿を想像しただけで笑える。
病理組織検体として『ゴミの再利用』だ。死んでから、やっと父は人様の役に立てた。
解剖の後、人体骨格見本として使ってもいいよ。どうせ、こいつは生きてるとき、ゴミ野郎だったし――。
肉親に対して、冷淡な感情しか持てない、このわたしもしょせんゴミ虫ですから――。
ゴミは溜まる生活を脅かす怖い存在になります。



a0216818_20424785.jpg



創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-04-23 20:44 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第107話 幻想痛

真夜中に足の痛みで目が覚めた。
左足の膝から下にえぐるような痛みを覚え、泣きながら今夜も目覚める。
その痛みは私を責め続けているのだ。
あの日からずっと――。

深夜の高速道路、ハンドルを握る私、永遠に続く暗い道、一瞬の睡魔、ふっと意識が飛んだ。
気づいた時、中央分離帯のブロックが目前に迫っていた。
慌ててハンドルを切ったが間に合わない。
全身に激しい衝撃を受けた。後のことは何も覚えていない。
何日経ったか分からないまま、病院のベッドで意識を取り戻した私に医者が告げた。
一命は取り留めたが、左足が車体に挟まれて圧し潰されていたため、膝から下を切断したと――。
そして同乗者は死んだと聞かされた。

同乗者、それは私の婚約者だった人。
あの日、地方にある彼の実家に婚約の挨拶に行くために二人で出掛けていった。
新幹線で行けば良かったものを、彼の車で遠距離ドライブのつもりだった。
ドライブインで食事をした後、彼が眠いと言い出したので、私が運転を替ることになった。
助手席で気持ち良さそうに眠る彼を見ているとこっちまで眠くなってくる。
話し相手もいないし、ラジオを聴いたり、眠気覚ましのガムを噛んだりしたが、やはり睡魔が襲ってくる。
――そして、あの事故を起こした。

あの時、無理をせずにどこかで仮眠すれが良かったと悔やまれてならない。
だが、今さら後悔したって始まらない。
何もかも砕け飛んでしまった。
幸せな結婚も、二人の未来も、婚約者の命も――。
おそらく寝ている間に即死だったろう。
彼のライフは電源プラグを引き抜かれたように突然ゲームオーバー。
春には結婚して、海外勤務が決まっていたというのに……なんの前置きもなく終了してしまった。
それも全部私のせいだ。
あの一瞬の睡魔が、私から全てを奪い去っていった。

婚約者がきれいだと言った、左足の膝から下が今はもう無い。
赤いペディキュアも塗れないなんて……。
今、実感できるのはこの左足の痛みだけ。自責の念がこの痛みそのものなのだ。
悲劇とは幸福の絶頂のとき、突然襲ってくる悪夢のようなもの。
現実を受け入れられないまま、奈落の底へ落ちていく――。

ああ、ずっと眠っていたい。
目覚めることのない、永遠の夜があればいい。
なのに、誰かが私の名前を呼ぶ。

お願い、呼びかけないで!



「紗代! 紗代! 紗代!」

ベッドに横たわる女に、必死で呼びかける男がいる。
「事故から二年も経つのに、どうして君は目覚めてくれないんだ」
眠る女を先端医療で生かし続けている。
「患者は意識が戻らなくても、眼球を左右に動いているし、時々手足をビクッと動かしたりしています」
傍らの医師がそう説明する。
「僕は左足を無くしても義足をつけて、ちゃんと社会復帰できた。なのに彼女は目覚めないまま……生と死の間を今も彷徨っています」
「脳死状態ではないのに、なぜ意識が戻らないの不思議です」
医療機器と白いベッド、その部屋で医師は首を捻る。
「彼女を諦めない。何年でも目覚めるのを待ち続けます」
男はただ祈り続けている。
「おそらく長い夢をみているのでしょうか?」
スリーピングビューティ、身体に外傷はなく、ただ眠り続ける婚約者。

「紗代! 紗代! 紗代!」


お願い、呼びかけないで!

彼のいない世界では目覚めたくない……。
ずっと、ずっと、ずーっと永遠に、私は眠っていたい。
 

a0216818_14194203.jpg



創作小説・詩

by utakatarennka | 2018-01-02 14:10 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第106話 メシマズ嫁のお弁当

 僕にとって昼休みに、妻が作った弁当のフタを開けるときほど恐怖なことはない。
 ビックリ箱より驚かされる手作り弁当は、まさに料理の暴力、味覚の破壊者だった。常に僕の想像の斜め上をいく妻の発想は……食べ物であるという感覚すら無視するものだった。
 まず、一昨日の弁当から説明しよう。
 白いご飯の上には大きな板チョコが一枚乗っていた。おかずにマシュマロと酢こんぶ……これが弁当なのか? なぜご飯の上にチョコレート? 妻に訊くと「海苔弁じゃなくて、チョコ弁だよぁ~」と無邪気な顔で答えた。
 白米とチョコレートのコラボ? チョコ弁なんか食べられるかっ!?
 そして、昨日は……イチゴの炊き込みご飯の中に、イチゴジャムが挟んであったし、おかずはイカの塩辛とキムチだった。イチゴの炊き込みご飯とそれらが混ざり合って、超ゲロゲロな喰いものになっている。弁当のフタを即閉じて、社員食堂へ逃げだした。
 今、弁当のフタを開けるための勇気を振り絞っている。もちろん、妻のことは大好きだし、メシマズ以外に欠点などない。
 メシマズ弁当の中身のイチゴだって、チョコだって、イカの塩辛だって……僕が好きだといった食材ばかりが入っているのだ。僕を喜ばそうと考えた結果、妻は僕の好きなものだけで、食べ合わせも考えずにお弁当を作っているようだ。
 きちんと妻に注意すればいいのだけれど……新婚ホヤホヤ、惚れた弱み、可愛い妻を落胆させたくなくて、食べたフリしてカラの弁当箱をいつも持って帰っていた。
 中学高校と部活に頑張っていた妻は家で料理など作ったことがない。大学は全寮制で食堂のご飯を食べていた、社会人になってからも実家で母親が作る食事を毎日食べてきた。妻は炊事のスキルが全くないまま結婚したものだから……毎日、僕は超絶メシマズ生活を強いられている。
 ――しかし、こんな生活いつまで続くのやら……。

 そんなある日、僕ら夫婦の家に妻の姉が三歳の甥っ子を連れてやってきた。
 妻の姉は遠方に嫁いでいたが、第二子出産のために実家に里帰りしている。新婚家庭の妹の様子を見るために訪問したようだ。我が家では共稼ぎなので夕食は外食か、惣菜を買ってくる。妻が作った料理が超マズイので僕が作ることも多い。
 どうやら妻は自分がメシマズ嫁だという自覚がまったくないようだ。てか、僕の愛でそのことには触れないようにしてきた――。
 ああ、それなのに……妻は姉の前で主婦らしいところをみせようと、僕が止めるのもきかずに……腕を振るって夕食を作り始めたのだ。
 なにを作るのかと訊いたら、カレーだというので、それならカレールウもあるし、無難だと思って妻に任せた。
 待つこと二時間……キッキンから異臭が漂い始めた。カレーを作っているはずなのに、まったくカレーの匂いがしてこない。少し不安に思いながらも、妻の姉と甥っ子の相手をしていた。
「お待ちかねぇ~」楽しそうな声が飛んできた。
 食事ができたと妻がいうので僕らはキッチンのテーブルに着いた。だが、そこの並べられたものは、ご飯の上にかかったゲロそのものだった。おまけにヒドイ悪臭までしている。
「これは何なの?」
 主婦歴五年目の姉が怪訝な面持ちで妹に訊ねた。
「カレーだよ」と満面の笑みでこたえる妹。
「ひどい臭いとゲロみたいな色。いったい何を入れたの」
「え~と、じゃがいも、玉ねぎ、人参、牛肉……」
 そこまでは普通のカレーのレシピだったが、その後に――。
「にんにく、ニラ、らっきょ、セロリ、茄子、納豆、キムチ、塩辛、イクラ、こんにゃく、はんぺん、竹輪、ラーメン、煮干し、鰹だし、ケチャップ、マヨネーズ、チリソース、イチゴジャム、それからカレーのルウだよ」
 さも得意気に妻が言った。
「あんた、これ味見したの?」
「ううん。ダーリンはいつも美味しいって言うもん」
「あなたねぇ~」妻の姉が僕の方を睨んだ。
 お腹を空かせていた甥っ子が、果敢にもカレーをひと口食べた。
 その瞬間、イスからひっくり返って大泣きをした。想像を絶するマズさに三歳児はメンタルをやられてしまった。カレーがトラウマにならなきゃいいんだけれど……。
 その後、メシマズ嫁は実家へと強制送還された。まともなご飯が作れるまでは僕の元へ帰って来れないらしい。

 それから毎日、僕のスマホに今日作った料理の写真が送られてくるようになった。
 実家では母親と姉が付きっきりで料理の特訓をさせられているようだ。送ってくる料理の写真も段々と美味しそうに見えてきた。メシマズ嫁を卒業するために頑張ってくれている。だけど僕は、妻がいない家に帰ってくるのが堪らなく寂しい……。
 やっと二週間後に妻が戻ってきた、実家で作ったというハンバーグを持って――。妻が作ったと信じられないほど美味しいハンバーグだった。
 そして会社の昼休み、復帰後はじめての妻の手作り弁当を味わうことに、ドキドキしながらフタを開けたら、玉子焼きと唐揚げとウィンナーとレタスとプチトマトが入っていた。
 目新しくもない普通のお弁当だったが、玉子焼きをひと口食べたら、やたら美味しくて涙ぐむ。あのメシマズ嫁から想像できないマトモなお弁当だった。
 実家での料理特訓を僕のために頑張ってくれた最愛の妻、その気持ちが何よりも尊いと思う。
 もうメシマズ嫁なんて言わせない! 僕の妻が作るお弁当は宇宙一美味いからだ!



a0216818_12325325.png



創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-12-21 12:16 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第105話 吸血鬼カフェ

 木製の大きな扉は自動ドアになっていて、軽く触れるだけで開いた。だが、ギィギィーギギィ―――と不気味な音がする。どうやら音響効果としてそんな音をつけているらしい。
  同時に来客を告げる呼鈴にもなっていた。
「いらっしゃいませー」
 全身黒ずくめの若い男が出てきた。
 店内は薄暗く、電燈のかわりに蝋燭の炎が揺れている。煉瓦の壁には不気味な肖像画が飾ってあり、木のテーブルが三つ、各テーブルには髑髏が置いてある。そしてステージと思われる丸い台座の上には黒い棺が据えられていた。
 異様な店内に目を奪われて私は茫然とした。
「当店には初めてのご来店ですか?」
「あ、はい。ネットのブログに珍しいカフェがあると書いていたので……」
「そうですか。あのブログを書いたのはこの僕です。他にもTwitterやFacebook、最近はインスタも始めました」
「そ、そうなんですか」
 クラッシックな店の雰囲気からして、ネットをやりそうなタイプには見えなかったが、想像以上に商売熱心なようだ。
「申し遅れましたが、吸血鬼カフェの支配人です。といっても従業員は僕だけ、只今バイト募集中でございます」
 バス停から歩いて四十五分、こんな人里離れた所でアルバイトとする者は絶対いないだろう。
「本日はお一人様でご来店ですか?」
「はい。私は高校の新聞部なんですけど、珍しいお店の特集記事を書いています。今日は部員三人で取材に来るつもりでしたが……一人は怖いのが苦手で、もう一人は急用で来れないと(敵前逃亡)……、私一人で来ました」
「おおっ! なんと勇気のあるお嬢さんだ」
 正直、逃げ出したい気分だった。
「あのう。新聞部の取材で写真撮ってもかまいませんか?」
「どうぞ、どうぞ。ネットに記事あげて宣伝してくださいませー」
 私はデジカメで店内を撮って回った。カメラを支配人に向けるとピースをしながら「イエーイ」とアホなリアクションをされた。チャラい男だと苦笑する。
「では、お客さまに当店のサービスについてご説明いたしましょう。まず、ご注文いただくと、あそこから本物の吸血鬼が出てきます」
 支配人は黒い棺を指差してそう言った。本物の吸血鬼って……!?
「うちは吸血鬼と触れ合えるカフェなのです」なにそれ? 猫カフェですか。

「メニューはどんなものがあるんですか?」
 髑髏を持ち上げて、裏返すとメニューが書いてあった。
 スプラッタージュース、ゾンビライス、超スペシャルメニュー、たった三種類しかない。
「スプラッタージュースってどんなのですか?」
「トマトジュースにすっぽんの生血が入って滋養強壮に効果があります」
 ゲッ! 気持ちワルーイ、あんまり飲みたくないジュース。
「じゃあ、ゾンビライスって?」
「ケチャップのかわりに青汁で色をつけたライスにイカゲソと鳥皮、レバー、ホルモンなどを入れた炒飯、トッピングに豚足」
「……それって美味しいの?」
「超マズイ!!」
 マズイもん売るなっ! と突っ込みを忘れるほど堂々と返答された。
「この超スペシャルメニューって、なぁに?」
「こ、こ、これをご注文されますか!?」
「いいえ、中身を訊きたいだけ」
「このメニューは、世の中に絶望しているが、死にたくないという人間にお勧めしています」
「はぁ~?」意味が分からない。
「このメニューを僕は十年前に注文しました。当時、大学受験に失敗し、彼女にフラれて、おまけに白血病におかされていました。もう死ぬしかない絶望的状況ですが、それでも死にたくない。そんなとき吸血鬼に出会ったのです」
 急に支配人がシリアスな表情になった。
「吸血鬼に血を吸われて眷属(けんぞく)になりました。眷属というのは使い魔みたいなもので吸血鬼の下僕なのです。不老不死だから死ぬまで働かされるブラック企業だったりして……」
「後悔してるんですか?」
「いいえ、ただ二度と陽の光を拝めないのが悲しい」
 作り話にしては真に迫っていると思ったが、とても信じられない。

「ご注文はどれにします?」
 もう取材終わったし、さっさっと帰りたいが……なにか注文するまで帰して貰えそうもない。
「じゃあ、スプラッタージュースを……」
「スプラッタージュース、オーダー入りました」
 すると、ステージの上の棺が開いて男が起き上がった。それは古い映画に出てくるようなドラキュラ男爵だった。
「スプラッタージュースお待ち!」
 お盆にのせてドラキュラ男爵が持ってきた。そして白い牙を見せてニッと笑った。あまりの怖ろしさに、私は悲鳴を上げながら吸血鬼カフェから飛び出した。
「もぉ~、怖い顔で接客するから、お客が逃げちゃったじゃないですか」
「愛想笑いしたのにダメだったか?」吸血鬼に笑顔は似合わない。

 吸血鬼カフェから逃げ帰った私は、新聞部でカフェで撮った写真をプリントした。すると、支配人の姿がどこにも映っていない。
 もしかして、奴らは本物の吸血鬼だったの? 今でも信じられない私です。




a0216818_14234290.png



創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-12-06 14:25 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第104話 悩める乙女

 悩める乙女の相談にのってください!
 とっても迷ってるんです。実は同時に二人の男子から告白されちゃったの。まるで嘘みたい……自分で認めるのも悔しいけど、アタシってば、美人じゃないし、まあ十人並みかな? 成績だって中くらいだし、スポーツはやや苦手、ごくごくフツーの高校二年の女子なんです。
 それが急にモテ期到来! ありえない!?

 告ってきた男子、一人は野球部のエース遊佐くん、超かっこいい、女子にモテモテなのに、なんでアタシに?
 放課後、ぼんやりグランド見ていたら、遊佐くんの方から寄ってきて、いきなり「おまえ、誰かと付き合ってる?」って訊いてきたから、「いいえ」と答えた。「だったら、俺の彼女になれよ」と言われて、ビックリして目をまん丸にしてたら、「明後日、試合あるから絶対に観にこいよ!」一方的に宣言して行っちゃった。

 告ってきた、もう一人の男子は文芸部の部長の諏訪くん。学年トップの成績、眼鏡男子でイケメンだよ。
 図書室に本の返却にいったとき「君に薦めたい本があるんだ。ついてきて……」と諏訪くんに言われて、本棚の奥に入っていったら、「僕は君と付き合いたいんだ。ねえ返事を聞かせてくれる?」と言われた。突然の告白に頭がパニックって「考えさせてください」と返事しておいた。

「――で、アタシどっちと付き合えばいい?」
「しるか! 普通、男子にそんなこと相談するか?」
「だってぇ~、こんなこと相談できるのは、幼馴染のタッくんしかいないよ」
 達央くんとアタシは幼稚園からの付き合い、ドジな女の子としっかり者の幼馴染の男の子は、アニメではテンプレだから――。今、放課後の教室で恋の相談にのって貰っているのです。
「恋バナなら、女子に相談した方がいいんじゃない」
「ダメ! ダメ! 女子は口が軽いから、すぐ噂が広まっちゃう」
「おまえはどっちといると楽しい?」
「二人ともマトモに喋ったこともないし……ピンとこない」
「お試しでデートしてから決めたらいいんじゃないか」
「ええっ! デートしてもいいの?」
「勝手にしろよっ!」
 それだけいうとタッくんはプイと怒った顔で帰っちゃった。
 いくら幼馴染でもリア充の話なんか聞きたくなかったのかな? タッくんには彼女いなさそうだし……。ゴメンちゃい。

 アタシはお試しデートをすることにした。
 まず野球部のエース遊佐くんの試合を観に行くことに、するといっぱい女子が応援にきていた。何だか癪だから……。
「遊佐くんの彼女ですけど」って言ったら、他の女子も「私も彼女だよ」「わたしらみんな遊佐くんの彼女だもんね」と言い出した。「それどういうこと?」と質問したら、遊佐くんは自分のサポーター女子のことを「彼女」と呼ぶんだって、アタシは彼女に選ばれたんじゃなくて、遊佐くんのファンクラブに勧誘されただけ? 勘違いしていた自分が恥かしい! そのまま走って帰ってきたアタシ――。

 日曜日に諏訪くんとデートすることになった。今度こそ本物の男女交際だよ。
 待ち合わせ場所に行くと諏訪くんが待っていた。「今日の僕の服装どう? カジュアルな方がいい? それともビシッと決めてるのがいい?」いきなり質問された。
 諏訪くんはチェック柄のシャツに黒のダウンジャケット、濃紺のジーンズだった。いつもの制服姿しか知らないアタシにはとっても新鮮だった。「似合ってます」って言ったら、今度は「今から映画に行く、水族館に行く、ゲーセンに行く」どれにするかの質問だ。
 さっきからアタシに質問しながら、メモを取ってるのが気になる。「なぜメモってるんですか?」と訊いたら、「これは小説を書くための資料だよ。テキトーな女の子とデートして恋愛シュミレーションしているのさ」だって。
 はぁ~? テキトーな女の子って、アタシのこと? ふざけないでよ! そのまま怒って帰ってきちゃった。

「――ってことで。アタシからかわれただけだった」
 お試しデートのことをタッくんに話ながら、悔し涙で顔がクシャクシャになった。
「そっか、ひどい奴らだな。泣くなよ。俺がいるじゃん」
「ありがとう。みっともないアタシを見せられるのはタッくんだけだよ」
「みっともなくない。おまえは可愛いから」
「えっ?」
「おまえが告られたって聞いて……俺、スゲー落ち込んだんだぞ」
「どうして?」
「幼稚園からずっと好きだったから」
「マジで? からかってるんじゃなくて……」
「ちげーよ! いつか、ちゃんと気持ちを伝えたいと思っていたんだ」
 「アタシなんかで本当にいいの?」
「俺は昔から迷ったことなんかない。おまえ一択だったから」
「その言葉を信じてもいいの?」
「正直な気持ちだ!」
 アタシはタッくんの気持ちを言葉で伝えて欲しかった。
「タッくんの気持嬉しい。でもちゃんと告白してよ」
「彼女になってください! 返事は?」
「は~い」
「今度、男子に告られたら、彼氏いますって断わるんだぞ!」
「了解!」
 なぁ~んだ。アタシの本命はこんな近くにいたのね。もう迷わない、アタシもタッくん一択でいきます。二人は彼氏と彼女になりました。
 悩める乙女から、アタシ幸せな乙女にヘンシーン!!



a0216818_14223410.jpg



創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-12-04 14:08 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第103話 Q :ネトゲに出会いを求めるのは間違っているのか?

週末になると僕のスマホにLINEが送られてくる。

ロキ:『お腹すいたー!
    ご飯おごって~!!』

僕のことをお財布携帯だと思ってる奴がいるのだ。

ヒミコ:『給料もらったばかりだから
     焼肉食べ放題くわせてやる』
ロキ:『やった―――!!
    焼き肉イェーイ!!』

そして待ち合わせて、焼肉店へ行くのだ。
「マトモなご飯食べるの久しぶりだよん」
僕にばかり肉を焼かせて、口いっぱいに肉を頬張り、あいつは食べるのに必死だった。
「じゃあ、一週間ぶりのたんぱく質か?」
「うんうん」
先週も僕の奢りで回転ずしを食べた。どういうわけか、週末の飯は僕の奢りと決まってしまっている。
金がない時、あいつはポップコーンの大袋を買って、それを三日に分けて食べるという、悲惨な食生活を送っている。
「なあ、ちったーマトモな食事もしろよ。おまえだって働いてるんだろう?」
「今週はガチャを回し過ぎてお金がない」
「そういえば、新しいアイテムガチャ出たもんなあー。課金もほどほどにしとけ」
あいつは重課金者だ。ネトゲの餌食にされてることに、いい加減気づいて欲しいと僕は思っているのだが……。
「働いた金をリアルで使う気ないもん」
本人はネト充生活を捨てる気などさらさらない。
リアルを捨てて、バーチャルに生きる、あいつのことが危なっかしくて、放って置けない僕がいる。

Q :ネトゲに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
 
あいつと知り合ったのは、とあるSNSのソーシャルゲームだった。
ネトゲ初心者の僕はダンジョンで敵にボコボコにやられていた。そこを何度も助けてくれたのが勇者ロキだった。
高いレベルとハイスペックの装備、ネトゲではまさに憧れの勇者だった。あいつのギルドに入れてもらい、僕はヒーラーとして後方支援にあたっていた。
その内、ネトゲの世界で親しくなった僕らは結婚した! といっても、ネトゲの夫婦でいわゆる“ネトゲの嫁”に、この僕がなったわけだが――。
実は僕のHNはヒミコ、女性アバターのネカマなのだ。あいつは勇者ロキという男性アバターだったので、リアルのオフ会までお互いの性別を勘違いしていた。
なんと、勇者ロキは女性だった! 男女逆転は当たり前? これがネットの怖ろしいところだ。
ネットでは夫婦だが、リアルでは違う。僕らは恋人同士でもないし……ただのお財布携帯な、この僕だ。
週末に待ち合わせて飯を食って、ネカフェで行って、ネトゲするのがお決まりのコースだった。
こういうパターンにも、なんだか飽きてきた。
「なあ、たまにはデートらしいことしない?」
「えっ?」
網に貼り付いた肉をはがしながら、あいつが驚いたようにこっちを見た。
「デ、デートとかしたことないし……」
急に頬を赤らめて答える。ネットの人にはリアルでの耐性がないのだろう。
「ふたりでさ、待ち合わせて、映画を観て、食事をして……その後はホテルでラブラブな時間を過ごすとか……」
「却下!!」
僕の提案をあいつに却下された。
「なんでだよ?」
「だって、ヒミコとはネトゲのダンジョンでいつもデートしてるもん」
「……といっても、リアルでもカップルらしくしたい」

Q :ネトゲに出会いを求めるのは間違っているのか? 

オフ会で初めてロキを見たとき、可愛いいと思った。化粧っ気もないし、服装も地味だったけど、ちゃんとすればそれなりにイケルと思ったんだ。それでLINEのアドレスを訊いて、週末だけだけど、こうやって会うこともできた。
僕としてはネトゲの世界だけでは物足りない、リアルでも一歩先に進みたいのだ。
しかしリアルで会うようになってから半年、まったく進展がなく、あいつのことを何もしらない。知ってることといえば、LINEアドレスとフリーターをしながら、独り暮らしをしていること、年齢は僕より三つ上ということくらい、リアルでもHNで呼び合う仲なのだ。
「おまえは僕のことが嫌い?」
「ううん。そんなことない!」
「ネトゲの方が大事なくせに……。僕が残業でインできない時もおまえ一人でボス部屋で戦ってるじゃないか?」
「勇者ロキはネトゲの嫁ヒミコを守るために強くならなければならないのだ。そのためのミッションなのだ!」
「ネトゲの嫁っていっても、リアルの僕は男だよ」
「ヒミコは一番大事な勇者ロキの嫁だもん!」
あいつの頭ん中は100%ネット脳だった。
「そ、それより、ガチャでレアなエフェクト取れたからプレゼントするね」
「僕のためにいっぱいガチャ回したのか?」
「だって、ヒミコとロキでお揃いのアバターにしたかったんだもん」
働いた金でウエブマネーを買い、惜し気もなくガチャを回すあいつ……毎月、何万円使っているのやら? ウエブマネーだって元は現金なんだ、週末に食事を奢るのぐらい、こっちの方がずっと安いくらいだ。
あいつはネトゲやってる時が一番幸せだといってたなあー。
高校時代にイジメられて、就活にも失敗した、あいつの心の拠りどころはネトゲだけ、たぶん、現実を受け入れたくないのだろう。
僕だって、残業の多い、男ばかりの職場で出会いなんてない。もちろん週末にデートする相手もいなかった。
若者たちにとって、リアルの社会では、低賃金、長時間の労働、雇用は安定せず、結婚しても妻子を養っていける自信が持てない。
金もない、時間もない、将来への希望もない。ネトゲがなかったら、僕らの逃げ場なんて何処にもなかった。
僕らはバーチャルで出会い、お互いを求め合った、もうそれだけで十分なんだ。
――ここまで話して分かったことだが、これが僕らの愛の形だということ。

Q :ネトゲに出会いを求めるのは間違っているのか? 

A :いや、別にいいんじゃないの。
ダンジョンだって、ふたりで行けばデートなんだし――。
それであいつが幸せならば、もう少し、こんな関係を続けていってもいいなあと思った。
ネト充からリア充になるための、これが僕のミッションなのだ。



a0216818_15492736.jpg



創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-11-07 15:54 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第102話 貧乏神にもらった財布

 当時、高校一年生だった私は部活帰りでお腹が空いていた。
 家に帰るまで、この空腹に耐えられそうもないので、コンビニでパンと飲み物を買うことにした。
「325円になります」
 コンビニの店員が金額を告げた。
 お金を払おうと財布の中身を見たら、なんと5円玉が足りなかった。ポイントカードも忘れてきたし、仕方なく買ったものを返そうかと思っていたら……。
「ほい。5円玉」
 後ろから、誰かが5円払ってくれた。
「あ、すみません」
 振り向いて見たら、痩せて貧相なおじいさんが立っていた。
「あのう、5円いいんですか?」
「いいの、いいの」
 こんな貧乏くさいおじさんに、たった5円でも出してもらうのは気の毒に思えるが、本人が「いいの、いいの」というので、お言葉に甘えることにした。

 コンビニから出てきたら、さっきのおじさんが店の前に立っていた。
「さっきはありがとうございました」
 お礼を言って帰ろうとしたら、「お嬢ちゃん、ちょっと待ちなさい」と呼び止められた。
「5円は、明日ここでお返ししますから」
 ぼろぼろの服を着たおじいさんから、お金をもらうのはやっぱり気が引ける。
「いやいや、5円はお嬢ちゃんにあげる。それより小遣いに困ってるんじゃないかい?」
「そ、そうですが……?」
 いつも金欠だってこと、なんで知ってるんだろう?
 私の場合は部活やってるのでバイトができないし、親がケチだし、毎月お小遣いが足りなくて、いつもお金に困っていたのだ。
「お嬢ちゃんにいいものをあげよう」
 おじいさんはポケットから、何かを取り出して私に手渡した。
 それは薄汚れた灰色の財布だった。真ん中に『貧』という文字が書いてあり、冗談かと思うくらい趣味の悪いがま口である。
「けっこうです!」
 私はおじいさんに財布を返して、その場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待たれよ。この財布はただの財布ではない! 毎日お金を生みだす魔法の財布なのじゃ」
「はぁ? 嘘くさい」
「嘘は言わんよ。わしは神様だから、お金に困っている者を助けたいだけじゃ」
 神様って? こんな貧乏くさい神様なんかいるものか。もしかして妄想癖のあるおじいさんなのかしら。
「じゃあ、どんな神様なんですか?」
 私が質問すると、おじいさんはニヤリと笑った。
「貧乏神じゃよ」
「えっ!?」
「この財布には一日千円の小銭を貯める」
「こんな汚い財布なのに?」
「ふむ、貧乏神の財布には神通力があるのじゃ」
 その財布を私の手に握らせると、おじいさんは目の前から、まるで煙のように消えてしまった。
 
  まさか、貧乏神が財布をくれるなんて信じられない。
 だが、その財布には使っても使っても毎日千円分の小銭が入っていた。一日千円でも月にすれば3万円のお金が湧いてくるのだから有難い。ただ、難点といえば百円玉以下の硬貨ばかりという点である。
 小銭ばかりだとかさ張って重いし、高価な買い物ができない。そこで私は考えた、まず銀行に小銭を持って行き「貯金します」と言って通帳に入金させると、その後、ATMで紙幣に替えてから使うことにしたのだ。
 貧乏神の財布のお陰で、私はリッチな学生生活を三年間送ることができた。ところがある日、財布の中に一枚の紙が入っていた、そこにはこう書かれてあった。

『貧乏神の財布をご利用ありがとうございます。
 限度額を超えましたので、これにてサービスを終了します。
 返済方法は、あなたの出世払いとさせていただきます。

                         - 貧乏神 - 』

 その日から、貧乏神の財布には一円の小銭も貯まらなくなった。いつの間にか、その財布すら消えてなくなっていた。

  貧乏神の財布が消えてなくなった時には、あてにしてたお金が入らなくなり、かなり貧窮したが、いつまでも良いこと続かないものだと諦めて、大学に入ってから真面目にバイトもした。
 そして大学を卒業すると、会社に勤めて自分でお金を稼ぐようになった。
 すると……どうだろう? 私の財布から毎日小銭が消えていく――。
 千円札を崩すと、百円以下の硬貨が、いつの間にか財布からなくなってしまっている。財布を替えても、貯金箱に入れても、どうやっても小銭がなくなるのだ。どんどん小銭が消えていけば、当然、私は貧乏になってしまう。
 働いても、働いても……私の財布にはお金が貯まらない。
 まるで貧乏神に魅入られたような、とういか貧乏神に祟られているのだ。あの時、コンビニで貧乏神から五円貰ったせいで、ご縁、いやくされ縁ができてしまったのかもしれない。
 出世払いというのは、自分でお金を稼ぎ出したら返済させるという意味だったのか。初めに甘い汁を吸わせて、後からじっくり搾りとる――ああ、なんと狡猾な方法なのだ。
 貧乏神の財布、あれが罠だったのだと気づいたが、もう手遅れだった。



a0216818_21415120.jpg



創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-10-23 21:45 | 夢想家のショートストーリー集
a0216818_13184561.png

   第101話 消えた少女

 山間の小さな村で十二歳の少女が失踪した。
 人口千人に満たないこの村では、ある宗教団体が全ての権限を握っていた。代々この地で生まれた美しい少女を姫巫女様(ひめみこさま)と呼び大事に育てる風習がある。姫巫女に選ばれた少女は、一生結婚することも村からでることもできない。ただ神様の審神者(さにわ)として神事を司るためだけに、一生を捧げなくてはならないのだ。
 失踪したのは、次の姫巫女に選ばれた神代亜矢(かみしろ あや)という小学校六年生の女の子だった。村の分校に生徒は五十人ほどしかいなくて、亜矢は特別扱いなので授業もたまにしか受けていない。
 義務教育だから仕方なく学校には通っているが、俗世界からは隔離された神殿の中で、現姫巫女とお付きの者たちとでひっそりと暮らしていた。
 久しぶりに登校した亜矢は下校時、学校に忘れ物をしたと言い出した。「取ってきましょうか?」お付きの者が言ったが、自分で取りにいくからとすぐさま学校に戻って行った。そのままいくら待っても出てこない。学校中を捜し回ったが亜矢の姿はなく、翌日には村中で山狩りまでしたが見つからなかった。
 二日目の山狩りの時、沢近くに亜矢のランドセルが落ちていて、下流では履いていた靴が見つかった。
 失踪、誘拐、事故の線で捜査するため、県警から刑事や警察犬がやってきた。

 そして僕は、この村の駐在所に勤務する二十七歳の警察官であります。
 今まで事件とは無縁だった、この村では「駐在さん」と呼ばれる本官が一人で業務をおこない、独身者なので駐在所の二階に住んでいる。
 とにかく、この事件は姫巫女様という信仰の対象で中心的存在だったから、村では大騒ぎになった。村人たちは姫巫女の「ご神託」しか聞かない、そこには警察力も届かないのだ。現姫巫女は七十歳過ぎの老婆で、自分の後釜として五年前に亜矢を養女にした。
 村の因習とはいえ、一生村から出ることも、結婚することも叶わない、みんなに奉られる神の使い姫巫女に成ることが、果たして本人の意思だったのか? わずか十二歳で人生を決められた亜矢は、どんな気持ちだったのだろうかと本官は真剣に考えてみる。
 村祭りで神楽を踊る姫巫女は、凛として神々しいほどの美しさだった。あの少女はどこへいってしまったのだろう?

 神代亜矢が失踪してひと月が過ぎた。
 なにひとつ手掛かりもなく、事件は迷宮入りしそうな様相だった。
 神殿では新しい姫巫女候補を養女にむかえたという噂が広まった。そうなると村人たちの亜矢への関心は一気に冷めてしまった。ご神託で、姫巫女不適合者として神に召されてしまったということらしい。

 そして本官も人事異動のため、この村を去ることになった。
 新しい駐在先はここよりずっと遠くの都会の町なのだ。そこでは住居を借りて暮らすつもりだが、ただ心配なことは最近買った大きな洋服ダンスが、その部屋に入るかどうかである。
 警察犬が駐在所の建物の前にくると、いつも激しく吠えるのには困った。何しろ、ここには神代亜矢に関する遺留品などが多く置かれているせいではないかと……そう説明すると県警の刑事たちもあっさり納得してくれる。
 二階の本官の住居に刑事が上がってくることはほとんどないが、中央にどんと据えられた大きな洋服ダンスを見て、「ずいぶん衣装持ちなんだね」と冗談をいう。そう、そこには僕の大事なモノをしまってあるのだから――。
 タンスは特別製で扉に付けられた鏡はマジックミラー、中から外がよく見える。しかも内側から施錠できるし、人ひとり隠れるには丁度いい大きさなのだ。

 本官が神代亜矢と会ったのは一年ほど前だった。
 バイクで夜の巡回をしていると、神殿の外に人影が見えた。近づいてみると、少女が暗がりに一人で泣いていた。本官が事情を訊ねてみると、姫巫女なんかに成りたくない、この村を出て自由に生きたいというのだ。
 神事の修行は厳しく、亜矢には殴られた痣が巫女服の下にたくさんあった。その後も悩みを聞いてやるため、二人は時どき隠れて会うことになった。
 今の状況を考えてみれば、姫巫女様と祀られてはいるものの、血の繋がらない母とお付きの大人たちに監視された囚われの身なのだ。
 どうかこの村から連れ出してくださいと亜矢に泣いて懇願された。本官もこの閉塞した村から救い出してやりたいと思った。この美しい少女に、本官は心を奪われてしまったのだ。

 そして本官の異動が決まったひと月前、ついに作戦を決行する。
 学校に戻ったと見せかけて亜矢は山に入った、沢でランドセルと靴を捨ててから森の中に身を潜めている。日が暮れてからパトカーで亜矢を迎えにいき、そのまま駐在所の二階に身を隠した。誰かきたら、すぐに姿を隠せるように洋服ダンスを置いた。
 灯台もと暗し、まさか失踪中の少女が駐在所の二階にいるなんて、誰も想像できないはずだ。
 本官の引っ越しの日に、洋服ダンスに入った亜矢と一緒にこの村から出ていく、新しい町でふたりの新生活が始めるのだ。
 十二歳の少女の失踪事件が、実は二十七歳の警察官とのかけおちだったと、この村の誰がしるだろう。



a0216818_21413704.png



創作小説・詩

by utakatarennka | 2017-10-22 21:27 | 夢想家のショートストーリー集